ビジネスエコシステムにおけるサイバーリスクへの対応 ~企業

PwC’s
View
特集 :
Vol.
サイバーリスクへの対応
3
July 2016
www.pwc.com/jp
特集:サイバーリスクへの対応
ビジネスエコシステムにおける
サイバーリスクへの対応
~企業単独のサイバーリスクへの対応からの脱却~
PwC あらた監査法人
システム・アンド・プロセス・アシュアランス部
ディレクター 綾部
泰二
はじめに
1
サイバーリスクへの対応の必要性が求められるなか、企
業単独での対応については進んでいる状況がうかがえると
ビジネスエコシステムにおける
ビジネスの環境
ビジネスエコシステムというキーワードが活用されるよう
ころ、いわゆるビジネスエコシステムを意識したサイバーリ
スクへの対応の必要性を本稿では解説したいと思います。
になっていることにみられるように、現在の企業活動の環境
なお、文中の意見に係る部分は筆者の私見であり、PwCあ
は、複数の企業が商品開発や事業活動などでパートナー
らた監査法人または所属部門の正式見解でないことをあら
シップを組み、各企業の強みを生かしながら、消費者等を
かじめお断りします。
巻き込み、業界の垣根や国を超えて広く共存共栄を図って
いる状況です。
このようなビジネスエコシステムにおいては、自社におけ
るサイバーリスクへの対応だけでなく、ビジネスパートナー
におけるサイバーリスクへの対応も考慮しなければならな
い時代を意味しています。
ビジネスエコシステムのイメージ
グローバル・ビジネス・エコシ
ステムとは、
「複雑に連携する
企業や組織の体系」
顧客
子会社
グループ
会社
従業員
ビジネス展開の地理的な範
囲 が 広 が れ ば 、そ の 分 、グ
ローバルエコシステムも複雑
になる
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PwC’s View — Vol. 03. July 2016
グローバルにビジネスを展開
するためには、一組織だけで
は勝負できない
監督官庁
本社
共同
研究機関
サプライヤー
委託先
競合他社
今や競合他社でさえ、
( 部分
的には)パートナーとして協業
することが珍しくなくなった
特集:サイバーリスクへの対応
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では個社として、どのようにサイバーリスクと向き合うべき
企業規模に見るサイバーリスクの
顕在化傾向
でしょうか。サイバーリスクへの対応は、主として次の2 点が
必要です。
以下表 1 における PwC が実施しているグローバル のセ
キュリティ調 査( T h e G l o b a l S t a t e o f I n f o r m a t i o n
①組織的な体制の確立
Security® Survey 2016)によると、大企業では 2014 年に
②技術的な対応
増加した被害額が、2015 年には減少傾向になっているの
に対して、中規模、小規模の企業では横ばい、または増加
①については、一度体制を整えればその後は定期的な見
傾向にあります。特に小規模では、過去 3 年において最高の
直しにより、より実効性を高めていくというプロセスになりま
被害額が認識されています。
すので、生みの苦しみとして未整備である企業においては、
この結果は、上述したビジネスエコシステムを前提とする
まず①の整備、運用が求められます。
と、大企業が直接の被害を受けなくとも、取引先、協業先が
②については、日々攻撃手法が進化するサイバーリスク
被害を受けることで、自社のビジネスへの影響が発生する
に対して、日々の技術的な対応が必要であり、最新の情報
可能性があることを意味しています。よって、サイバーリス
の入手、専門家による対応、IT分野における対応等々が必
クへの検討をする場合には、自社の対応状況のみ検討する
要となります。特に②の対応については、専門家不足、また
だけでなく、取引先や協業先におけるサイバーリスクへの対
設備投資等のコストもかかるため、企業のタイムリーなサイ
応を認識することが必要となります。
バーリスクへの対応を阻害している要因の一つになってい
るといえます。
3
特に私たちの国においてはサイバーリスクへの対応可能
サイバーリスク対応への課題
な人材育成が急務であるとの状況において、全ての企業が
専門家を雇用できる状況ではないのが現実です。
ビジネスエコシステムから、個社でのサイバーリスクでの
また、専門家の育成には時間がかかることを鑑みると、①
対応では不十分であると上述しましたが、やはりその前提と
の体制が未整備な企業もさることながら、そもそもの専門家
して、企業規模にかかわらず個社での対応が必要となるの
不足という点が、サイバーリスク対応において多くの企業の
も事実です。
根本課題として存在しているところではないでしょうか。
表1:企業規模ごとの年間平均インシデント被害額
■2013 ■2014 ■2015
$5.9
million
$4.9
million
$3.9
million
$0.65
million
$0.94
$0.41
million
million
小企業
(年商$100million未満)
$1.0
$1.3
million
$1.3
million
million
中企業
(年商$100million~$1billion)
大企業
(年商$1billion超)
(USドルベース)
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特集:サイバーリスクへの対応
基盤のメンテナンス /保守費用の削減などが検討理由として
サイバーリスクに対する
クラウド活用の意義
4
挙げられますが、サイバーリスクへの対応についての解決
策の一つとして検討してみることも一案です。
では、各企業において「専門家不足をどのように解消して
この点、上述した「PwC が実施しているグローバル のセ
いくか」がサイバーリスクへの対応として一つのキーポイン
キュリティ調 査( T h e G l o b a l S t a t e o f I n f o r m a t i o n
トになるところですが、解消手段としては主に次の 3 点が想
Security® Survey 2016)」によると、調査対象となった
定されます。
69%の企業がクラウド型サイバー・セキュリティ・サービス
①自社で専門家を育てる。または外部から専門家を採用す
ローバルでみると、機密データの保護やプライバシーの強
を使用しているとの結果となっています。調査結果からグ
る
化に対してクラウドサービスを積極的に活用している状況が
この方法では、そもそも専門家が不足している状況下に
うかがえます。
おいて、実現性という意味で短所があります。また、人材を
またそのうち、クラウド型のサイバー・セキュリティ・サー
育成する場合には、比較的長期間になることが想定されま
ビスを利用している内容としては表 2のとおりです。よってク
す。
ラウドベンダーを選定する際に、該当するサービスを提供し
ているか否かを選定する際の考慮ポイントとしてみることも
一案です。
②プロフェッショナルサービスの活用
この方法では、①に比べて実現性は確保されますが、①と
合わせて実施しない場合、社内にノウハウが蓄積されず、
自社におけるサイバーリスクへの対応要員の確保を目指す
場合には、併せて社内にノウハウを蓄積する計画を立てて
5
ビジネスエコシステムにおける
サイバーリスクへの対応体制の構築
サイバーリスクへの対応に際して、個社のみの対応では
おくことが求められます。
不十分であることは前述したとおりです。
③サイバーリスクへの対応に万全な体制を有しているクラ
では、どのように対応すべきでしょうか。この点についてま
ウドサービスなどの活用
ず実施を検討していただきたいのが他社とのサイバーリス
全てのクラウドベンダーに当てはまる内容ではないと想定
クへの対応状況における情報共有です。
されますが、大手のクラウドベンダーなどでは、サイバーリス
この点も、詳 細は T h e G l o b a l S t a t e o f I n f o r m a t i o n
クに対して適切に対応しているベンダーも存在しています。
Security® Survey 2016を参照していただければと思いま
一般的にクラウドなどを活用する場合、ビジネスの変化に
すが、日本企業においてはサイバーリスクへの対応につい
対応するためのシステム開発スピードの向上や、システム
ての情報共有を他社と積極的に行っているとは言い難い調
表2:クラウド型サイバー・セキュリティ・サービスの採用
56%
リアルタイム監視と分析
55%
高度認証
48%
IDおよびアクセス管理
47%
スレットインテリジェンス
44%
エンドポイント保護
0%
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10%
20%
30%
40%
50%
60%
特集:サイバーリスクへの対応
査結果となっています。
その理由としては、情報共有の枠組みの整備ができてい
ないなどが挙げられていますが、情報共有による自社へのメ
リットも当該サーベイ結果では「同業他社から実用的な情報
提供を得られた」などの結果が出ている点を鑑みると、積極
的に他社と情報共有していくべきと想定されます。
では、他社といった場合にどのような範囲を想定すればよ
いでしょうか。
まずは、次の 2 つの他社に対して情報共有プロセスを構
築していただければと思います。
①ビジネスパートナー
自社のサービス提供に不可欠なビジネスパートナーにお
いては、サイバーリスクの顕在化によるサービス提供不可と
いう状況を回避するためにも、サイバーリスクへの対応状況
を共有しておくことは非常に重要なことだと想定されます。
よって未実施な場合には、まずはビジネスパートナーとの
情報共有の実施を行うべきであるといえます。
②同業他社
同業他社においては、業界としての攻撃傾向などもあるの
で、情報共有を行うことは有益であると考えられます。例え
ば金融機関などでは業界団体を通じてサイバーリスクへの
対応が共有されているところではありますが、業界団体とし
て整備されていない業界もあるかと想定されます。
そのようなケースでは、やはり同じクラウドサービスを活
用するユーザー会などの活用も有益です。また他社との情
報共有においては、現場レベルの草の根的な活動というよ
りは、いわゆるマネジメント層による働きかけがある方が、
実務担当者も動きやすいのも事実です。
よって、同業他社との情報共有プロセスが未整備な場合
には、マネジメント間における情報共有のコミュニケーショ
ンを担保していただくことが、重要であると考えられます。
6
おわりに
以上、サイバーリスクへの対応としてクラウドサービスの
活用、ビジネスパートナーや同業他社との情報共有など、自
社にあるノウハウだけでなく、ビジネスエコシステムでのリ
スク対応の必要性について述べてきました。
貴社におけるサイバーリスク対応体制の構築においては、
企業単独による体制構築のみならず、ビジネスエコシステ
ムにおけるサイバーリスク対応という協力体制の構築に本
稿が一助になれば幸いです。
綾部 泰二 (あやべ たいじ)
PwCあらた監査法人
システム・アンド・プロセス・アシュアランス部 ディレクター
2006年公認情報システム監査人(CISA)登録。主にITガバナンス、システ
ムリスク管理、情報セキュリティ関連の業務に従事している。業種を問わ
ず ITガバナンス、システムリスク管理、情報セキュリティ関連業務の現場
責任者として多数のクライアントにサービスを提供している。情報セキュリ
ティ分野において、特にインシデントが発生した場合の再発防止策検討や
有効性評価の実績を多数有する。
メールアドレス:[email protected]
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