例会 抄録集(PDF形式 3362キロバイト)

ご
挨
拶
この度、第58回日本消化器病学会甲信越支部例会および第10回専門医セミナー、第35回日本消化
器病学会甲信越支部教育講演会を開催させていただく栄誉をうけ、大変光栄に存じます。
今回、皆様のご協力のおかげで44の演題のご応募をいただきました。心から御礼申し上げます。
応募演題のうち、研修医が筆頭演者であるものが12題、専修医であるものが13題と若手医師からの
応募が目立ちました。本例会は、学会発表を通じて消化器病学を目指す若手医師の研鑽の場となるこ
とを一つの伝統としてきたことを考えますと大変嬉しく思います。
本会は、数多くの貴重な症例報告を中心に成り立っております。近年、ややもすると一例報告は軽
視される傾向にありますが、その一症例にはその一症例のエビデンスがあってそのような病態を呈し
ているのであり、多数例の解析は、その一症例のエビデンスが現時点では解明困難であるため、平均
的な要素を多数例から抽出しているとも考えられます。このような観点からも、一例一例の症例検討
は決して軽視されるべきものではないと考えます。新しい疾患の発見や治療法の開発も、1例の貴重
な症例の詳細な観察と報告からはじまったことは歴史が証明しております。若手医師だけでなくベテ
ラン医師も、日々の臨床や症例報告を通じ、一生患者とともに学び続ける姿勢が大切だと思います。
専門医セミナーでは大阪市立大学学長の荒川哲男先生に「胃食道逆流症の病態、診断と治療」と題し
て御講演いただきます。近年、胃食道逆流症は増加傾向にあり、マスコミにも広く取り上げられ、患
者さんからの要望も多様になっております。本講演により、胃食道逆流症の知識の整理と最新の知見
を習得して頂きたいと思います。
教育講演会は消化管疾患、門脈圧亢進症、肝臓の3分野での講演を企画しました。島根大学第2内
科教授の木下芳一先生、日本医科大学多摩永山病院院長の吉田寛先生、大阪市立大学肝胆膵外科教授
の久保正二先生にそれぞれの分野での最新の知見をお話しいただきます。いずれの先生も各分野での
第一人者であり、素晴らしいご講演になるものと思います。一人でも多くの方にご参加いただきたい
と思います。
ランチョンセミナーでは、昭和大学豊洲病院腫瘍内科の嶋田顕先生に、実地における大腸癌の化学
療法についてご講演いただきます。近年進歩の著しい大腸癌化学療法の最先端のお話が拝聴できるも
のと思います。
甲府盆地を取り巻く山々も清々しい新緑の季節を迎えております。会員の皆様にとって本例会が有
意義なものとなりますよう祈念しております。
平成28年5月吉日
第58回 日本消化器病学会甲信越支部例会
第10回 日本消化器病学会甲信越支部専門医セミナー
第35回 日本消化器病学会甲信越支部教育講演会
会長 松田政徳
(山梨大学医学部外科学講座第1教室)
交 通 ア ク セ ス
アピオ甲府
409-3897 山梨県昭和町西条3600
TEL 055-220-6111
会 場 案 内 図
参加受付は4Fで行います。
クロークはタワー館2Fロビーをご利用ください。
W W C
M W C
4階 吉光 (きっこう)
4階 祥華 (しょうか)
E V
E V
E V
E V
会員ならびに演者の先生方へのご案内
会員の先生方へのお願い
1. 当日、会場整理費として1000円を徴収させていただきます。また、教育講演会にご出席の方は別に
1,000円を徴収させて頂きます。
2. 参加者には、日本消化器病学会甲信越支部例会・教育講演会の参加証をお渡しいたします。また、「日
本消化器病学会専門医更新単位登録票」に関しては、必要事項をご記入の上受付にご提出いただき、確
認印を押印した登録控えをお受け取り下さい。
3. 参加証は、所属・氏名をご記入の上、会場名では必ずご着用下さい。
演者の先生方へのお願い
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演題の発表時間は5分、討論時間は3分です。
発表時間厳守でお願いいたします。
コンピューターによるプレゼンテーション(1面)に限ります。
発表の30分前までに、コンピューターまたはメディア(CD-RあるいはUSB)をPC受付に持参し、動作
を確認してください。
用意しておりますコンピューターのOSとアプリケーションは以下のとおりです。
OS: Windows XP, Vista, 2007, 2010
アプリケーション:Microsoft PowerPoint 2003/2007/2010/2013
文字化けを防ぐために、下記のOS標準フォントをお使いください。
日本語:MSゴシック、MSPゴシック、MS明朝、MSP明朝
英語:Arial, Arial Black, Century, Century Gothic, Times New Roman
動画ファイルなどスライドにリンクするファイルは、1つのフォルダに入れて下さい。
動画ファイルは、Windows Media Playerで再生可能なものに限ります。
発表には演題に関する利益相反状態の自己申告ならびに開示が必要です。発表の際、COI開示スライド
を表題の次の二枚目にご提示下さい。
演者は、前の演者が口演を開始後、次演者席にお着き下さい。
最新のウイルス駆除ソフトを用いて、事前のチェックをお願いいたします。
ご自身のPCを持参される場合には、電源アダプターを持参され、予め省電力設定は解除しておいてくだ
さい。外部出力端子はMini D-sub 15ピンとなります。これに適合するアダプターをご持参下さい。
座長の先生方へのお願い
•
•
全体の進行に支障をきたさないよう時間厳守でお願いいたします。
演題名などは省略して、実質的な討論に時間を使えるようご配慮をお願いいたします。
討論・発言される先生方へのお願い
•
時間の有効利用のため、予めマイクの前でお待ち下さい。
評議員の先生方へのお願い
•
研修医支部奨励賞は評議員会で選出いたします。投票用紙にご自分の施設以外から研修医1演題、専修医
1演題を選んでご投票ください。後日各県の上位3演題に対して、支部事務局より支部奨励賞が授与され
ます。
合同懇親会のご案内
日時 6月18日(土)午後7時30分から
場所 アピオ甲府タワー階6階 ザ・サボイ
参加費 評議員 5,000円、一般会員 2,000円
懇親会会場受付でお支払い下さい。
評議員に限らず、広く会員のご参加をお待ちしています。
*学会参加時にはこの抄録集をご持参ください。
-3-
タイムスケジュール
第一会場
( アピオ甲府メインタワー4F 祥華 )
開始時間 セッション 演題番号
8:55
座長
第二会場
( アピオ甲府メインタワー4F 吉光 )
開始時間 セッション 演題番号
座長
会長挨拶
9:00 食道・胃・
十二指腸
1─4
9:40 胃・
十二指腸
5─8
10:20 小腸
河口賀彦
9:00 肝1
24─28
(山梨大学第一外科)
大高雅彦
9:50 肝2
29─32
(山梨県厚生連健康管理
センター)
9─12
管 智明
13─16
山口達也
雨宮秀武
(山梨大学第一外科)
10:30
胆1
33─35
比佐岳史
(佐久医療センター
消化器内科)
(信州大学第二内科)
11:00 大腸
坂本 穣
(山梨大学第一内科)
11:00 胆2
36─38
(山梨大学第一内科)
進藤浩子
(山梨大学第一内科)
11:40
11:30
12:00
12:00 ランチョンセミナー
【実地における大腸癌の化学療法につ
いて】
評議員会(12:00─13:00)
講演者:嶋田 顕先生
(昭和大学江東豊洲病院腫瘍内科准教授)
座長:飯野 弥先生(山梨大学第一外科講師)
13:00
13:10 第10回専門医セミナー
【胃・食道逆流症の病態、診断と治療】
講演者:荒川哲男先生(大阪市立大学学長)
座長:藤井秀樹先生(山梨大学附属病院院長)
13:00
14:10
14:20 小腸・大腸 17─20
須藤 誠
14:20 膵1
39─41
(山梨大学第一外科)
15:00 その他
21─23
川原聖佳子
(長岡中央綜合病院外科)
15:30
15:50
閉会の挨拶
教育講演会
講演1【好酸球性消化管疾患の研究と
診療の現状】
講演者:木下芳一先生(島根大学第二内科教授)
座長:榎本信幸先生(山梨大学第一内科教授)
16:50 講演2【門脈圧亢進症の病態と診断、
治療】
講演者:吉田 寛先生(日本医科大学多摩永山
病院院長)
座長:佐藤 公先生(山梨大学第一内科准教授)
17:50 講演3【肝内胆管癌の病態と診断、
治療】
講演者:久保正二先生(大阪市立大学肝胆膵外科
教授)
座長:松田政徳先生(山梨大学第一外科准教授)
※ 合同評議員懇親会は19時30分より アピオ甲府メイン
タワー6F 「サボイ」にて行います。
有賀諭生
(新潟県立中央病院
消化器内科)
14:50 膵2
42─44
川井田博充
(山梨大学第一外科)
15:20
プ ロ グ ラ ム
第一会場
食道・胃・十二指腸
座長:河口
9:00~9:40
1
賀彦(山梨大学第一外科)
食道壁内転移をきたした食道胃接合部癌の1例
山梨大学 医学部 第1外科
土屋
雅人
2
胃癌ESD後の出血に対しN-butyl-2-cyanoacrylateおよびlipiodol混合液散布にて止
血し得た3例
新潟県立十日町病院 外科
中尾 圭介
3
進行胃癌に対する化学療法としてthird lineのラムシルマブ+パクリタキセル併用療法
が奏功した1例
信州上田医療センター
(専)久保田 大輔
4
高齢者の急性十二指腸粘膜病変の1例
新潟市民病院 消化器内科
胃・十二指腸
6
拓海
9:40~10:20
座長:大高
5
(研)安藤
雅彦(山梨県厚生連健康管理センター)
イレウス管による減圧が奏功した、急性膵炎合併輸入脚症候群の1例
新潟県立中央病院 消化器内科
(研)長谷川
素
H.pylori 二次除菌治療後に発症した出血性腸炎とC.difficile腸炎の2例
長野市民病院
消化器内科
(専)鈴木
宏
7
当院および長野県内関連施設におけるヘリコバクター・ピロリ(H. pylori ) 除菌の現状
長野赤十字病院 消化器内科
(専)佐藤 幸一
8
自施設でのHelicobacter pylori 感染除菌の治療成績
山梨県厚生連健康管理センター
小腸
三浦 美香
10:20~11:00
座長:菅
智明(信州大学第二内科)
9 胃潰瘍と大腸潰瘍を伴った非特異性小腸潰瘍の1例
信州大学医学部附属病院 消化器内科
10 ダブルバル-ン小腸内視鏡が有用であった小腸出血の1例
社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院 消化器病センター
11 終末回腸炎を呈した成人IgA血管炎の一例
新潟市民病院 消化器内科
12 Peutz-Jeghers症候群に合併した小腸癌の1例
佐久医療センター 消化器内科
日原 優
(専)雄山 澄華
(研)林 秀樹
(専)工藤
彰治
大腸
11:00~11:40
座長:山口
達也(山梨大学第一内科)
13 便潜血検査を契機に発見され内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を施行した大腸海綿状血管
腫の一例
新潟大学 大学院 医歯学総合研究科 消化器内科学分野
(専)中野 応央樹
14 内視鏡所見には乏しいが、生検病理所見から好酸球性大腸炎と診断し得た1例
新潟市民病院
米山 靖
15 潰瘍性大腸炎寛解導入時における成分栄養剤経口摂取法の有用性
昭和伊南総合病院 消化器病センター
堀内 朗
16 難治性潰瘍性大腸炎に対してSクリニックの漢方薬が著しい治療効果を示した3例
下越病院 消化器内科
(研)森田 真一
第10回専門医セミナー
座長:藤井
13:10~14:10
秀樹先生(山梨大学附属病院院長)
【胃・食道逆流症の病態、診断と治療】
講演者:荒川 哲男先生(大阪市立大学学長)
小腸・大腸
14:20~15:00
座長:須藤
誠(山梨大学第一外科)
17 当科で経験した腸間膜膿瘍9例の検討
新潟県立十日町病院 外科
18 画像により診断した内ヘルニア4例の検討
新潟県立十日町病院 外科
(専)青木 真
(専)山本 雄大
19 中毒性巨大結腸症術後に人工肛門周囲の壊疽性膿皮症をきたした潰瘍性大腸炎の一例
済生会新潟第二病院 消化器内科
(研)野々村 絹子
20 腹腔鏡下に切除した横行結腸原発平滑筋肉腫の1例
山梨大学 医学部 外科学講座第1教室
原 倫生
その他
15:00~15:30
座長:川原
聖佳子(長岡中央綜合病院外科)
21 EUS-FNAが診断に有用であったseratiaによる腹腔内膿瘍の一例
新潟県厚生連 長岡中央綜合病院 消化器内科
22 当院における腹腔内線維腫症の2例
JA長野厚生連 篠ノ井総合病院 外科
(専)有吉 佑
23 呼吸器症状で発症し胸水細胞診が診断に有用であった腹膜癌の1例
済生会新潟第二病院 消化器内科
教育講演会
講演1
(専)吉田 智彰
(研)木谷 洋平
15:50~18:50
座長:榎本
信幸先生(山梨大学第一内科教授)
【好酸球性消化管疾患の研究と診療の現状】
講演者:木下 芳一先生(島根大学第二内科教授)
講演2
座長:佐藤
公先生(山梨大学第一内科准教授)
【門脈圧亢進症の病態と診断、治療】
講演者:吉田 寛先生(日本医科大学多摩永山病院院長)
講演3
座長:松田
政徳先生(山梨大学第一外科准教授)
【肝内胆管癌の病態と診断、治療】
講演者:久保 正二先生(大阪市立大学肝胆膵外科教授)
第二会場
肝1
9:00~9:50
座長:坂本
穣(山梨大学第一内科)
24 自然治癒が期待される散発性急性C型肝炎の一例
独立行政法人地域医療機能推進機構山梨病院 消化器病センター
長谷川 浩之
25 当院におけるC型慢性肝疾患に対する抗ウイルス療法の現状
佐久総合病院 佐久医療センター 消化器内科
福島 秀樹
26 C型肝炎に対するダクラタスビル・アスナプレビル治療中に肝不全を来した一例
信州大学 消化器内科
杉浦 亜弓
27 C型代償性肝硬変に対しアスナプレビル+ダクラタスビル投与しHBVが活性化した1例
山梨大学 第一内科
(研)高橋 いくみ
28 心疾患併存症例に対するオムビタスビル、パリタプレビル、リトナビル配合剤の治療成績
山梨大学 第一内科
(研)澤泉 早紀
肝2
9:50~10:30
座長:雨宮
秀武(山梨大学第一外科)
29 球状塞栓物質、Sorafenibを用いた集学的治療が奏功したStageIV-B巨大肝細胞癌の
一例
新潟市民病院 消化器内科
(研)弥久保 俊太
30 ソラフェニブ投与により多発肝癌が著明に減少・縮小した高齢患者の1例
信州上田医療センター 消化器内科
(研)品川 裕伯
31 巨大肝嚢胞に対し腹腔鏡下開窓術を行った2例
市立甲府病院 消化器内科
(専)石田 剛士
32 難治性腹水に対する腹腔-静脈シャント(Peritoneovenous shunt)造設術後の時期別
合併症と死亡原因の検討
千曲中央病院 内科
宮林 千春
胆1
10:30~11:00
座長:比佐
岳史(佐久医療センター消化器内科)
33 貧血を契機に発見された十二指腸乳頭部血管腫の1例
山梨大学 第一内科
(専)大島 俊夫
34 外科・消化器内科合同手術を行い、rendezvous cannulationにより結石除去を施行し
た総胆管結石の1例
長野県立木曽病院 外科
小山 佳紀
35 経カテーテル的動脈塞栓術にて止血を得た内視鏡的乳頭切開術後出血の1例
長野中央病院 消化器科
田代
興一
胆2
11:00~11:30
座長:進藤
浩子(山梨大学第一内科)
36 粘液産生胆嚢癌の1例
佐久総合病院 佐久医療センター
消化器内科
37 胆管原発神経内分泌腫瘍の1例
信州大学 医学部附属病院 消化器内科
古川
龍太郎
中村 晃
38 閉塞性黄疸により脂質代謝異常が誘発されたと考えられた肝門部胆管癌の1例
新潟県 厚生連 糸魚川総合病院 内科
(専)小林 才人
ランチョンセミナー
座長:飯野
12:00~13:00
弥先生(山梨大学第一外科)
【実地における大腸癌の化学療法について】
講演者:嶋田 顕先生(昭和大学江東豊洲病院腫瘍内科准教授)
膵1
14:20~14:50
座長:有賀
諭生(新潟県立中央病院消化器内科)
39 著名な嚢胞変性を伴う膵腺房細胞癌の1剖検例
新潟県立新発田病院 内科
(研)岩澤 貴宏
40 嚢胞変性をきたした膵神経内分泌腫瘍の1例
飯田市立病院 初期研修医
(研)小山 勇介
41 画像診断と病理診断が乖離し減黄に難渋した自己免疫性膵炎の一例
松本協立病院 外科
膵2
小松 健一
14:50~15:20
座長:川井田
博充(山梨大学第一外科)
42 当科におけるmFOLFIRINOX療法による膵癌治療成績
新潟県立がんセンター新潟病院 内科
塩路 和彦
43 膵癌化学療法中に敗血症性ショックで死亡し、感染源として膵膿瘍が疑われた1例
JA長野厚生連 篠ノ井総合病院 消化器内科
三枝 久能
44 剖検で膵癌の心臓転移を認めた、膵癌と食道癌の異時性重複癌の1例
新潟県立中央病院 消化器内科
有賀 諭生
一般演題
食道・胃・十二指腸
9:00~9:40
座長
河口賀彦(山梨大学
第一外科)
1 食道壁内転移をきたした食道胃接合部癌の1例
1山梨大学
土屋
医学部
雅人1、河口
第1外科
賀彦1、赤池
英憲1、平山
和義1、高橋
和徳1、藤井
秀樹1
症例は52歳、男性。心窩部痛を主訴に近医を受診、食道胃接合部癌と診断され、前医で化学療法を1コー
ス施行ののち、手術目的に当科に紹介となった。上部消化管内視鏡検査では食道胃接合部に不整な隆起性
病変を認め、病変の広がりは食道側優位であった。超音波内視鏡では腫瘍エコーが第4層まで及んでおり、
筋層への浸潤が示唆された。また主病変のすぐ口側から4cmまで及ぶ隆起性病変を非連続性に複数個認め、
壁内転移と思われた。生検により主病変から高分化型管状腺癌、最も口側の非連続病変から低分化腺癌が
検出された。造影CT検査ではNo.1、2、110リンパ節の腫大を認めた。明らかな遠隔転移は認めなかった。
以上より食道胃接合部癌、EG、1型、T2(MP)、N+(No.1、2、110)、M0と診断し、主病変が食道優
位でありその口側に広範に非連続病変を認めたため、右開胸開腹食道亜全摘術、2領域リンパ節郭清、後縦
隔経路、高位胸腔内吻合、胃管再建を施行した。切除検体の病理診断では主病変は部分的に低分化腺癌を
伴う中分化型管状腺癌で、深達度T3(AD/SS)であった。脈管浸潤は高度であり、No.1、2、108、110
リンパ節に転移を認めた。食道胃接合部にバレット上皮を認めたが、主病変との連続性がなく、バレット
腺癌は否定的であった。病変口側には多数の壁内転移を認めた。食道胃接合部癌の食道壁内転移症例の検
討では、高度の脈管侵襲を伴う例が多く、食道壁内のリンパ流を介して壁内転移をきたすとする報告があ
る。本症例でも病理学的に主病変の脈管侵襲が高度であったことから、転移経路はリンパ行性が考えられ
た。術後経過は良好であった。今回我々は比較的まれな壁内転移を伴う食道胃接合部癌を経験したので、
若干の文献的考察を加えて報告する。
2 胃癌ESD後の出血に対しN-butyl-2-cyanoacrylateおよびlipiodol混合液散布にて
止血し得た3例
1新潟県立十日町病院
中尾
圭介1、福成
外科、2新潟大学 臨床病理学分野
博幸1、青木 真1、山本 雄大1、設楽
兼司1、林
哲二1、味岡
洋一2
【症例1】59歳男性.胃体中部後壁の早期胃癌(Adenocarcinoma,tub1)に対しESDを施行した.翌日EGDで
観察すると切除部からの出血なく,8日目に退院.退院2日後に吐血し緊急EGDを施行.ESD部より拍動性出血
を認め,クリップ,HSEでも止血不十分にてN-butyl-2-cyanoacrylate(以下NBCA)+lipiodol(以下lip)1:2混
合液を散布し止血した.
【症例2】76歳男性.胃体上部前壁の早期胃癌(Adenocarcinoma,tub2)に対しESDを施行.翌朝のEGDで切
除部より拍動性出血を認めたためクリップで止血した.同夕,吐血したため緊急EGDを施行.詳細な出血点が
不明瞭であったため,NBCA+lip1:2混合液を散布し止血した.
【症例3】61歳男性.胃体下部小弯側の早期胃癌(Adenocarcinoma,tub1)に対しESDを施行.翌日EGDで切
除部よりoozingを認め,バイポーラ焼灼とNBCA+lip1:2混合液の散布にて止血した.
【考察】消化管出血は時に致死的であり緊急止血を要する.上部消化管出血に対しては内視鏡的止血術が第
一選択となるが,視野不良や出血部位の同定が困難な場合など,治療に難渋することも多い. 胃ESD後出血は
報告により差があるが,概ね0~5%程度に認めるとされる.今回我々は,胃癌ESD後の出血に対しNBCA散布
により止血し得た3例を経験したので若干の文献的考察を踏まえて報告する.
3(専) 進行胃癌に対する化学療法としてthird lineのラムシルマブ+パクリタキセル
併用療法が奏功した1例
1信州上田医療センター、2長野赤十字病院
久保田 大輔1,2、丸山 雅史2、佐藤 幸一2、宮島
森 宏光2、松田 至晃2、和田 秀一2
正行2、徳竹
康二郎2、木村
岳史2、藤沢
亨 2、
【症例】40歳代男性【主訴】眩暈、頭痛、嘔気【現病歴】201X年1月眩暈を主訴に近医を受診し鉄欠乏性
貧血を指摘され内服処方された。その後頭痛、嘔気症状が出現、頭部MRI検査にて多発する脳腫瘤を認め
た。上部消化管内視鏡検査では胃噴門部小弯に 3型腫瘍を認め生検結果はadenocarcinoma(tub1~
por1,HER2陰性)であっ た 。CT検査では肝に多発腫瘤を併発しており進行胃癌 、脳転移、肝転移、
T3N0M1stageIVbと診断した。初診時の腫瘍マーカーはCEA:58.7 ng/ml,CA19-9:447 U/mlであった。
多発脳転移巣に対し他院でγ-knife治療を施行、201X年3月5日よりfirst lineとしてCDDP+TS-1を開始
し、胃原発巣、肝転移巣の縮小を得た。201X+1年8月までに12コース行い右恥骨転移巣の増大と腫瘍
マ ー カ ー の 上 昇 (CEA:7.9→9.9 ng/ml,CA19-9:124→168 U/ml) を 認 め た た め second line と し て
201X+1年10月よりCPT-11単独療法を施行した。骨転移巣には放射線照射を行った。201X年+2年5月
ま で 7 コ ー ス 継 続 し た と こ ろ で 肝 右 葉 の 転 移 巣 が 増 大 傾 向 を 認 め 、 CEA:6.6→12.1 ng/ml,CA199:208→286 U/mlに上昇を認めた。Third lineとして201X+2年7月よりラムシルマブ(以下RAM)と
パクリタキセル(以下PTX)の併用療法を開始した。11月にCEA:1.8 ng/ml,CA19-9:25 U/mlと腫瘍
マーカーの最低値を認めた。201X+3年1月の頭部MRIでは脳転移巣の縮小を、2月のCTでは肝転移巣の
縮小が得られ、胃原発巣は増大なく経過していた。4月の時点においてRAM+PTX療法を10コース継続中
である。【考察】RAMは進行胃癌に対し2015年に保険適応となったヒト型抗VEGFR-2モノクローナル抗
体である。本薬剤は臨床採用されてから日が浅く臨床実績も少ない。本例はthird lineでの導入後から腫瘍
マーカーの著明な低下と肝転移巣、脳転移巣の縮小が得られ治療が奏功した興味深い症例と考える。ヒト
型抗VEGFR-2モノクローナル抗体の転移性脳腫瘍に対する効果も含め、文献的考察を加え報告する。
4(研) 高齢者の急性十二指腸粘膜病変の1例
1新潟市民病院
安藤
相場
消化器内科
拓海1、五十嵐 健太郎1、米山 靖1、佐藤
恒男1、和栗 暢生1、古川 浩一1
宗広1、木村
淳史1、小川
雅裕1、大崎
暁彦1、
胃に病変がなく十二指腸にのみ発生する急性十二指腸粘膜病変は,比較的まれである.今回我々は,高齢
男性に同病変の症例を経験したので報告する.【症例】87歳男性【主訴】下痢,嘔吐.【現病歴】入院7
日前より軟便気味となった.入院2日前より1日5-6回の水様便と,嘔吐が出現し,近医受診止痢剤を処方
された.吐気が持続し食事摂取不能であるため,当院救急外来を救急車にて受診した.【既往歴】大腸癌
にて手術(詳細不明).糖尿病と前立腺肥大にて内服治療中【入院後経過】入院時の腹部CTにて十二指
腸球部から水平部に浮腫状肥厚を認めた.原因不明であったが,全身状態は安定していたため補液のみで
経過観察した.入院時下痢は認めなかった.入院後心窩部に焼けるような痛みが出現し,翌日上部消化管
内視鏡を施行した.十二指腸球部から水平部に,のり佃煮様の凝血を付着する浅い潰瘍が多発しており,
ファーター乳頭部付近が最も高度であった.活動性出血は認めなかった.胃には同様所見は認められず慢
性胃炎の所見のみであった.生検にてピロリ菌検査を施行したが陰性であった.プロトンポンプ阻害剤の
投与を開始したが,タール便が出現し輸血を要した.第8病日内視鏡を再検査した所,乳頭部付近より
oozing様出血を認めた.中心静脈栄養とし制酸剤投与を継続したところ第17病日の観察にて止血を確認し
た.食事を開始したが,以後出血なく経過し第23病日に退院した.【考察】十二指腸の内視鏡所見はいわ
ゆる急性粘膜病変と考えた,NSAIDsの使用,ストレス,ピロリ菌の感染などは本症例には該当しなかった.
高齢,糖尿病の合併,下痢による脱水,大腸手術の既往なども考慮すると,腸管虚血が原因と考えた.C
Tで疑われる十二指腸病変の鑑別に挙げるべき疾患と考え報告した.
胃・十二指腸
9:40~10:20
座長
大高雅彦(山梨県厚生連健康管理センター)
5(研) イレウス管による減圧が奏功した、急性膵炎合併輸入脚症候群の1例
1新潟県立中央病院
長谷川
素1、有賀
消化器内科
諭生1、熊木
大輔1、横尾
健1、山川
雅史1、平野
正明1、船越
和博1
【症例】50歳代 男性 【主訴】腹痛 【既往歴】約25年前 胃潰瘍(幽門側胃切除、Billroth-II法再建)約
20年前 腸閉塞術後 【現病歴】X年1月、腹痛を自覚、近医受診しイレウスが疑われ同日当院救急外来を紹
介受診、CTにて胃空腸吻合部よりもやや十二指腸側の輸入脚の狭窄と十二指腸側腸管の拡張を認め、さら
に急性膵炎の所見も伴っていた。輸入脚症候群に伴う急性膵炎と診断され、同日入院、減圧目的に緊急上
部内視鏡を施行された。scopeは狭窄部を通過、輸入脚内の腸液を可及的に吸引、減圧された。第2病日に
自覚症状は若干改善したがCTでは輸入脚の緊満は残存していた。緊急手術も検討されたが、症状改善傾向
のためまずは保存的治療として拡張した十二指腸の減圧目的に内視鏡下にイレウス管を挿入した。輸入脚
にscopeを挿入するとTreitz ligamentから10cm程度胃空調吻合部側の空腸に狭窄あり、この時scopeは
狭窄部を通過しなかった。ガイドワイヤーを十二指腸盲端まで挿入、scopeを抜去しENBDの要領でワイ
ヤーを鼻腔内に通し、これに沿わせてイレウス管の先端を十二指腸盲端に留置した。ドレナージは良好で
あり、輸入管拡張は徐々に改善認められた。膵炎に対しては輸液、ウリナスタチン、ナファモスタットメ
シル酸塩による保存的治療を行い、改善が認められた。第10病日にイレウス管造影を施行、造影時には狭
窄部の造影剤通過はほとんどなく、数時間後の撮影で通過が確認できる程度であった。第17病日の造影で
は、造影当初より狭窄部を越えて胃空腸吻合部方向への良好な造影剤排出が認められた。輸入脚の通過障
害は改善と判断、同日イレウス管が抜去された。症状増悪なく、第19病日より食事が開始された。その後
も経過良好であり、第28病日に退院となった。【考察】輸入脚症候群の内視鏡治療として、狭窄部のバ
ルーン拡張やERBDチューブ留置等が報告されている。本例はより口径の太いイレウス管を用いることによ
り、良好な治療成績を得た。低侵襲治療として有用な手法であると考えられる。
6(専) H.pylori二次除菌治療後に発症した出血性腸炎とC.difficile腸炎の2例
1長野市民病院
鈴木
宏1、金井
消化器内科
圭太1、櫻井
晋介1、小林
聡1、関
亜矢子1、越知
泰英1、原
悦雄1、長谷部
修1
【症例1】 60歳代男性. 主訴腹痛、血便. 既往歴 特記事項なし. 経過 当院人間ドックEGDでHp陽性の慢性
活動性胃炎と診断. ラベプラゾール、アモキシシリン、クラリスロマイシンにて一次除菌治療施行したが
2ヶ月後の尿素呼気試験が陽性で除菌不成功と判断. ラベプラゾール、アモキシシリン、メトロニダゾール
で二次除菌開始したところ内服開始3日後から腹痛、4行/日の水様下痢、血便を認め当科入院. 下部消化管
内視鏡検査にて上行結腸~横行結腸にかけて連続性の発赤、浮腫、粗造粘膜、易出血性粘膜の所見を認め
た. 便培養では有意な菌は検出されず、抗生剤起因性急性出血性腸炎と診断した. 除菌薬の中止、保存的治
療にて症状は改善し第5病日退院した.【症例2】60歳代女性. 主訴 腹痛、粘液便. 既往歴 過去に犬に咬ま
れセフェム系抗生剤内服後、偽膜性腸炎の診断で他院入院加療あり. 経過 当院人間ドックEGDでHp陽性の
慢性活動性胃炎と診断. ラベプラゾール、アモキシシリン、クラリスロマイシンにて一次除菌施行したが、
2か月後の尿素呼気試験が陽性で除菌不成功と判断. ボノプラザン、アモキシシリン、メトロニダゾールで
二次除菌施行. 除菌薬内服終了後2週間頃から腹痛、20行/日のゼリー状の粘液便が見られるようになった.
便中CDトキシン陽性にて下部消化管内視鏡検査を施行. 直腸~S状結腸にかけて多発する偽膜を認め生検
培養でC.difficile陽性であり、C.difficile感染に伴う偽膜性腸炎と診断した. メトロニダゾール内服1週間に
て症状は改善し、その後、便中CDトキシン陰性を確認した. 以後、症状の再燃はみられていない.【まと
め】今回H.pyloriの二次除菌後に発症した薬剤性出血性腸炎とC.difficile感染に伴う偽膜性腸炎の2例を経
験した. 2例とも一次除菌の際には発症せず二次除菌薬が原因と推察された. 薬剤性出血性、偽膜性腸炎と
もに二次除菌での発症は稀であるが、今後もHpの除菌の需要は高まることが予測され、注意喚起の意味も
含め報告する.
7(専) 当院および長野県内関連施設におけるヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)
除菌の現状
1長野赤十字病院
佐藤
消化器内科、2長野県立須坂病院 消化器内科
泰次2、下平 和久2、野沢 祐一2、植原 啓之2
幸一1,2、赤松
ボノプラザンフマル酸塩は、昨年2月に発売されるとともにH. pyloriを除菌する際に使用する酸分泌抑制
薬としても使用可能になった薬剤である。ボノプラザンフマル酸塩はその強力な酸分泌抑制効果により胃
内のpHを速やかに上昇させる。その上、酸性下でも化学的に安定しているため、酸分泌抑制効果の持続時
間も長い。そのため、H. pylori除菌において必要なpH5を素早く実現し長期に維持させることができ、従
来のPPIを用いた除菌療法と比較し成功率が高いことが知られている。当院ではボノプラザンフマル酸塩発
売以降、ボノプラザンフマル酸塩を用いたレジメンによるH. pylori除菌を積極的に行ってきた。当院にて
昨年1年間に施行された従来のPPIを用いて行った除菌療法と、ボノプラザンフマル酸塩を用いて行った除
菌療法の成績を比較した。また、長野県内関連施設にアンケート形式でH. pylori除菌の現状を調査し、除
菌成功率や、使用薬剤、除菌判定方法をまとめ、比較検討した。
8 自施設でのHelicobacter pylori感染除菌の治療成績
1山梨県厚生連健康管理センター
三浦
美香1、大高
雅彦1、花輪
充彦1、北橋
敦子1、廣瀬
雄一1、高相
和彦1、依田
芳起1
【背景】Helicobacter pylori(Hp)感染胃炎への除菌治療が保険適応となり自施設で はHpの診断・加療を
積極的に行っており、2015年3月からは治療効果が高いvonopraza n(VPZ)を使用した除菌を導入した。
自施設でのHp除菌治療成績を報告する。【対象・方法】対象は自施設でHp陽性と診断され、除菌治療を
行った症例を対象とした。除菌 治療前には、全例で上部消化管内視鏡検査を実施し、除菌前判定はUBT・
抗体・RUTで行い、生検(検鏡)・抗体≦15は解析対象から除外した。効果判定はUBTで行い内服 後3か
月以上の判定とした。対象期間はPPI(lansoplazole(LPZ) or rabeprazole(RPZ) )併用は2012年から
2015年3月まで、VPZ併用は2015年3月から12月までとした。【結果 】効果判定受診者/対象症例は一
次除菌ではLPZ2029/2440例(83.2%)、RPZ388/447例(8 6.8%)、VPZ809/993例(82.5%)であり、
二次除菌ではLPZ304/358例(84.9%)、RPZ例135/ 144(93.4%)、VPZ140/163例(85.9%) であった。
治 療 成 績 は 一 次 除 菌 率 LPZ/RPZ/VPZ で 各 々 78.9/76.0/91.8 % 、 二 次 除 菌 率 LPZ/RPZ/VPZ で 各 々
95.4/94.1/95.4%であった。 一次除菌率においてはPPI群とVPZ群で有意差(p<0.01)を認めたが、2次
除菌群では3群で有意差は認めなかった。VPZ群に限ってみると、40~60歳台で90%を超す高い除菌 率
であったが、40歳以下では84.3%と低下していた。また、除菌成功後の経過観察中に3年間で5例の胃癌
が発見された。【結語】Hp除菌はVPZ併用除菌で高い成功率が期 待できる。
小腸 10:20~11:00
座長
菅
智明(信州大学第二内科)
9 胃潰瘍と大腸潰瘍を伴った非特異性小腸潰瘍の1例
1信州大学医学部附属病院
日原
北畠
鈴木
消化器内科、2信州大学医学部附属病院 消化器外科
博美1、横田 有紀子1、伊東 哲宏1、中村 麗那1、平山 敦大1、
1
1
央之 、田中 景子 、丸山 康弘1、岡村 卓磨1、岩谷 勇吾1、今井 紳一郎2、杉山 聡2、
彰2、菅 智明1、田中 榮司1
優1、小林
惇一1、齊藤
症例は60歳台の女性。20歳台から胃潰瘍を指摘され内服薬で加療を受けていた。40歳台に体動時の息切
れ、全身倦怠感、動悸を認め、Hb 7.0 g/dlの貧血を指摘された。鉄剤と制酸剤の投与により症状は改善し
たが、その後検診で便潜血陽性を指摘された。上部消化管内視鏡検査にてH.pylori陽性胃潰瘍、小腸造影
検査にて小腸潰瘍を認め、貧血の持続、低栄養状態も認めるようになった。クローン病、腸結核、虚血性
病変などが疑われたが確定診断には至らず、非特異性多発性小腸潰瘍症の疑いとして成分栄養剤を中心と
した保存的加療が継続されたが、貧血に対しては鉄剤の定期的な経静脈投与が必要となった。60歳台にな
ると、血清アルブミン値は常に3.0 g/dlを下回る状態になり、全身の浮腫に対してアルブミン製剤の投与
が繰り返されていた。再発性胃潰瘍による幽門狭窄に対しては内視鏡的バルーン拡張術を行い、H.pylori
除菌療法を行った。また、回腸の狭小化を伴う潰瘍が出血源と思われる顕血便が目立つようになり、貧血
に対しては輸血も必要となった。これ以上の保存的加療は不可能と判断し、約4ヶ月の絶食、IVH管理にて
全身状態を改善させた後に小腸潰瘍と結腸狭窄を含む回盲部切除術を行った。回腸と結腸には輪状~斜走
傾向の浅い潰瘍を中心に、一部縦走潰瘍も認めたが、病理組織学的にはクローン病等を疑う特異的な組織
像を認めなかった。近年非特異性多発性小腸潰瘍症の原因となる遺伝子異常が同定され、細胞内PG低下に
関連した疾病である可能性が示唆されており、文献的考察を踏まえ報告する。
10(専)
ダブルバル-ン小腸内視鏡が有用であった小腸出血の1例
1社会医療法人財団
慈泉会 相澤病院 消化器病センター
雄山 澄華1、山本 智清1、稲場 淳1、西条 勇哉1、杉井 絹子1、細川
横澤 秀一1、五十嵐 亨1、新倉 則和1、薄田 誠一1、清澤 研道1
洋1、藤元
瞳1、手島
憲一1、
【はじめに】全消化管出血のうち、小腸出血は稀な疾患で、その多くは原因不明の消化管出血(OGIB)とし
て診断に苦慮することが多い.【症例】66歳女性.抗血栓薬を内服されており、黒色便を主訴に当院紹介
受診した.貧血はなく、外来にて上下部消化管内視鏡検査をしたが異常は指摘できなかった.黒色便も自
然軽快したため経過観察したところ、3ヶ月後に血便、ふらつきを主訴に再受診した.高度の鉄欠乏性貧血
を認め、再度上下部内視鏡検査を施行するも出血源は指摘できず、第5病日に経肛門ダブルバルーン小腸内
視鏡検査を施行した.回腸に径20mmの有茎性ポリープを認め、出血源と判断し、緊急に内視鏡的切除術
を施行した.その後は貧血やの進行や下血の再燃はなく経過したが、病理検査の結果、Peutz-Jeghers型
ポリープであったため、カプセル内視鏡を施行し、ポリポーシスではないことを確認したうえで当科退院
した.【考察】OGIBのうち小腸病変によるものは58-81%とされており、なかでも小腸腫瘍は全消化管腫
瘍の数%と稀な疾患で、診断に苦慮することが多い.本症例でも腫瘍は腹部造影CTでは指摘困難であった.
ほとんどが無症状で経過 するが、本症例のように 出血源となり高度貧血を来す例や 、孤立性PeutzJeghers型ポリープの癌化例も報告されており、ダブルバルーン小腸内視鏡は診断、治療に有用であると考
えられた.
11(研)
終末回腸炎を呈した成人IgA血管炎の一例
1新潟市民病院
消化器内科、2新潟市民病院 皮膚科、3新潟市民病院 病理診断科
暁彦1、木村 淳史1、小川 雅裕1、佐藤 宗広1、相場 恒男1、米山
1
浩一 、五十嵐 健太郎1、鈴木 丈雄2、富山 勝博2、三尾 圭司3、橋立 英樹3
秀樹1、大崎
林
古川
靖1、和栗
暢生1、
【症例】63歳男性、既往歴なし。2週間前にタイ観光に行き、旅行中に胸痛出現、チェンマイ市内の総合
病院に搬送された。緊急冠動脈造影にて急性心筋梗塞と診断され、薬剤溶出性ステントを留置した。抗血
小板薬2剤服用し、6日後に退院となったが、退院数日前から両下腿に皮疹が出現した。帰国後、近医より
当院皮膚科紹介となり、入院となった。第1病日に皮膚生検を行い、Leukocytoclastic vasculitis、蛍光
抗体法にてIgAの血管壁沈着を認め、IgA血管炎と診断された。第6病日に腹痛出現、腹部骨盤造影CTにて
終末回腸の浮腫状壁肥厚を認めた。第7病日よりPrednisolone(PSL)40mg内服開始、第8病日に下部消
化管内視鏡検査(TCS)施行、終末回腸に区域性全周性の発赤、びらん、浮腫を認め、地図状潰瘍が散在
していた。腹痛は速やかに消失、第15病日のCT再検では終末回腸の壁肥厚は改善した。上部消化管内視鏡
検査、カプセル内視鏡検査では、追加所見は認められなかった。第16病日にPSLは35mgに減量、第19病
日に腹痛再出現、CTにて終末回腸の浮腫状壁肥厚が再増悪した。同日よりPSL 45mgに増量、腹痛は速や
かに消失した。以後2週間に5mgのペースでPSL漸減、第35病日、TCS再検査、終末回腸の潰瘍は瘢痕化
していた。経過中、関節症状、腎障害の出現はなく、紫斑も消失し、第39病日退院した。
【考察】IgA血管炎は、免疫学的な全身性の細小血管炎により、多彩な症状を呈する病態である。下腿の紫
斑に代表される皮膚症状と関節症状、腹部症状、腎障害が主徴とされている。本症例は、皮膚生検にてIgA
血管炎と診断が成されていたため、速やかにPSLを投与することが可能であった。ステロイドの適応につい
ては、軽症例では必要なく、消化器症状、関節症状などが強い場合には適応があると考えられている。腹
部症状は腹痛のみであったが、心筋梗塞発症後早期のため抗血小板薬中止が極めて困難であること、消化
管出血時には止血困難になることが予測され、早期のステロイド導入が推奨されると考えた。PSL投与後、
一度再増悪、PSL増量を要しており、減量のタイミングについては慎重な検討が必要と考える。
12(専)
Peutz-Jeghers症候群に合併した小腸癌の1例
1佐久医療センター
消化器内科
工藤 彰治1、篠原 知明1、山城
秀樹1、古武 昌幸1
彩乃1、山田
崇裕1、桃井
環1、比佐
岳史1、友利
彰寿1、福島
【症例】40歳代男性【主訴】腹部膨満【既往歴】Peutz-Jeghers症候群(PJS)【内服】なし【家族歴】
父(49歳時に肺癌で死亡)、兄弟3人(特記事項なし)、長男(PJS)【現病歴】幼少期に口唇色素沈着を
主訴に近医皮膚科を受診しPJSと診断されたが、定期受診なく過ごしていた。上下部内視鏡検査は7年前が
最終となっており、小腸検査は受けたことがなかった。増悪傾向の腹痛、食欲低下、体重増加を主訴に近
医受診した。イレウス疑いにて保存的加療を受けたが改善なく、精査加療目的に当院紹介入院となった。
【造影CT】腹水および大網の不整な軟部腫瘤を認めた。小腸に早期濃染される腫瘤影を認めた。複数の腸
間膜リンパ節の腫大を認めた。肝S3に造影効果に乏しい10mm径の腫瘤を認め、肝転移と診断した。【ダ
ブルバルーン内視鏡(DBE)】回盲弁から40-50cmの回腸に周堤を伴う1/2周性潰瘍性病変を認めた。周
堤部分には大型乳頭状の粘膜模様を認めPeutz-Jeghers型ポリープと考えられる粘膜内病変を伴っていた。
PJSに合併した2型進行小腸癌と診断した。【生検病理】潰瘍周堤からの生検で粘液腺癌と診断した。【受
診後経過】腹膜播種および肝転移を伴った進行小腸癌cT4N2M1 Stage IVと診断し化学療法を行った。
FOLFOX4クールおよびwPTX1クール施行したがPDと判定された。その後全身状態が悪化し、症状自覚
および受診から5ヶ月の経過で死亡した。【考察】PJSは口唇色素沈着、消化管ポリポーシスを特徴とする
常染色体優性疾患である。本疾患では胃、大腸など消化管をはじめ種々の悪性腫瘍の発生率が高いため、
定期的なサーベイランスが必要である。本症例のようなPJSに合併する癌死亡を回避するためには、医療従
事者および患者に対する本症の啓蒙が重要であると思われた。
大腸 11:00~11:40
座長
山口達也(山梨大学第一内科)
13(専) 便潜血検査を契機に発見され内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を施行した大腸
海綿状血管腫の一例
1新潟大学
大学院 医歯学総合研究科 消化器内科学分野、2新潟大学 医歯学総合病院 消化器内科、
大学院 医歯学総合研究科 分子・診断病理学
中野 応央樹1,2、高橋 一也2、五十嵐 聡2、林 和直2、水野 研一2、本田 穣2、橋本 哲2、横山 純
二2、佐藤 祐一2、渡辺 玄3、寺井 崇二2
3新潟大学
症例は43歳男性。既往歴として乳児期に胸部手術(詳細不明),下肢熱傷後手術,鎖骨手術歴を認めたが消化管
出血等の既往はなかった。ドックにて便潜血陽性を指摘され,近医にて下部消化管内視鏡検査を施行した。S
状結腸に12mm大の粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めたため,精査加療目的に当科に紹介された。身体所見,
血液検査所見では特に異常はなかった。当科での下部内視鏡検査にて,S状結腸中部に12mm大の亜有茎性
病変を認めた。表面は多結節性だが腫瘍性の変化はなく粘膜下に暗赤~青色調の結節が透見された。超音
波内視鏡検査(EUS)では,内部はlow echoの充実性腫瘤で,acoustic shadowを伴うhigh echoが散見され
た。内部にわずかな血流を認めるものの腸管壁を貫通する明らかな血管はなく筋層は保たれ,粘膜下層内の
病変と考えた。腹部CTでは明らかな異常は認めなかった。以上より大腸海綿状血管腫と診断した。血便の
既往はなかったが,診断確定や今後の出血予防,並びに術中出血への対処を考慮し,ESDでの一括切除を行っ
た。術中,粘膜下層に太い血管を認めずトラブルなく終了した。病理所見はCavernous Hemangiomaであ
り,悪性所見は認めなかった。 本症例では下部内視鏡検査並びにEUSにて特徴的な所見が観察された。大
腸Cavernous Hemangiomaは比較的珍しい良性疾患であり本症例も臨床的な取扱いに苦慮した。その約
80%が血便を経験し,若年時に発見されることが多い。病変が本症例のように局所に限局して発育するもの
から,びまん浸潤型発育するものまであり,出血リスクから生検は極力避けることが推奨される。病変の広が
りや局所の詳細な血管、腫瘤の評価にCT,EUSが有効とされており,本症例でもそれら所見から内視鏡的切
除可能と判断した。また病変が粘膜内局所に留まる場合は内視鏡的切除術が推奨されるが,これまで大腸
Cavernous Hemangiomaを内視鏡的ポリープ切除術ないし粘膜切除術で切除したという報告は数件しか
なく,ESDで切除したという報告はない。本疾患の臨床並びに病理学的特徴やその取扱いについて若干の文
献的考察と併せて報告する。
14 内視鏡所見には乏しいが、生検病理所見から好酸球性大腸炎と診断し得た1例
1新潟市民病院
米山
靖1、橋立
英樹1
症例は10代後半の女性。1年ほど前から朝食後の腹痛と下痢に悩まされ近医受診し、過敏性腸症候群を疑
われ、整腸剤や腸管運動改善薬などを処方されるも症状の改善が無いため、炎症性腸疾患の可能性も疑わ
れ当科に紹介となった。血液検査でCRPや白血球数および分画に異常なく、便培養検査では腸内正常細菌
叢、便中寄生虫卵陰性であった。大腸内視鏡検査を施行したが、回腸末端、全大腸および直腸の粘膜に異
常所見は認めず、前医と同じく過敏性腸症候群を疑ったが、複数箇所から採取した粘膜生検の病理標本に
おいてことごとく好酸球を主体とした慢性炎症細胞浸潤を認めたことから、好酸球性腸炎を疑うに至った。
現在同疾患として治療中である。好酸球性胃腸炎は近年増加傾向にあると言われており、免疫反応の異常
により消化管で炎症が起きることが原因であるとされるが、この免疫学的異常についての詳細は未だ解明
されていない。消化管において好酸球の著明な浸潤が見られることが特徴であり、本例のように内視鏡観
察所見に変化が乏しくとも、その疾患の可能性を疑い積極的に粘膜生検を採取して病理組織学的診断を行
うことが肝要であると考えられる。示唆に富む症例を経験したので、若干の文献的考察を交えて報告した
い。
15 潰瘍性大腸炎寛解導入時における成分栄養剤経口摂取法の有用性
1昭和伊南総合病院
堀内
朗1、玉置
消化器病センター
道生1、梶山 雅史1、一瀬
泰之1、加藤
尚之1、黒河内
明子1
[目的] 潰瘍性大腸炎寛解導入時に入院・外来治療にかかわらず、末梢輸液のかわりに成分栄養剤を利用し
て経口摂取を維持することを試みてきた。これまでの経験では腹痛、下痢などの消化器症状が増悪せずに
寛解導入し、通常食にスムーズに移行することができた。そこで潰瘍性大腸炎寛解導入時における成分栄
養剤経口併用群と末梢点滴群を比較検討したので報告する。[方法]研究1:対象は、当院にて2011年1月
から2015年3月までの期間に潰瘍性大腸炎の寛解導入を行った症例。研究デザインはcase-control study。
成分栄養剤併用群と末梢点滴群について 、各種寛解導入療前および2週間後における排便回数 、UC
Endoscopic Mayo Score(Mayo Score)、UC Simple Clinical Colitis Activity Index Score(UC
Activity Index)、ヘモグロビン値、血清アルブミン値、CRPを比較検討した。 [結果]登録された症例は4
2例で、成分栄養剤併用群29例、末梢点滴群13例。両群の臨床的特徴に有意差を認めなかった。寛解
導入成功例は、成分栄養剤併用群24例(83%)、末梢点滴群10例(77%)であった。成分栄養剤
併用群の入院期間および点滴期間は、末梢点滴群にくらべて有意に短かった(中央値0(0-7) vs. 16(1420) days, P<0.0001; 1(1-4) vs. 7(7-14) days, P<0.0001)。成分栄養剤併用群の排便回数、UC
Activity Index、血清アルブミン値は、末梢点滴群にくらべて2週間後に有意に改善した[排便回数中央値
3(2-4) vs. 4(3-5.5), P=0.023, UC Activity Index 1 (0-2) vs. 2 (1-5), P=0.045, 血清アルブミン値3.8
(3.3-4.2) vs. 3.2 (3-3.4), P=0.0013]。[結論] 潰瘍性大腸炎寛解導入時における成分栄養剤経口摂取群は、
末梢点滴単独群にくらべて有意に入院期間が短く、臨床効果および血清アルブミン値が改善した。
16(研)
た3例
1下越病院
森田
難治性潰瘍性大腸炎に対してSクリニックの漢方薬が著しい治療効果を示し
消化器内科、2新潟大学医歯学総合病院
良一1、原田 学1、河内 邦裕1、入月
真一1,2、山川
聡1、岩田
真弥1
【目的】Sクリニックで処方されている漢方薬が難治性潰瘍性大腸炎に対して有用であった3症例を報告す
る。【症例1】28歳男性。左側結腸炎型。2004年に発症、プレドニゾロン、メサラジン、ステロイド注腸
療法、LCAP療法にて緩解した。2008年に再燃しアザチオプリンにて寛解、プレドニゾロンを漸減し中止
していた。2012年に再燃しSクリニック受診を自ら希望されて、漢方薬1包/日が開始となった。6週で寛
解し他の治療を中止した。その後緩解を維持している。【症例2】38歳女性。全大腸炎型。2000年に発症、
メサラジン、ステロイド注腸療法にて寛解した。2005年に再燃し、プレドニゾロン、LCAP療法にて寛解
したため、その後プレドニゾロンを漸減し中止していた。2007年に再燃したためプレドニゾロン投与し寛
解した。2012年に再燃しインフリキシマブを開始するも寛解せず、翌年Sクリニックを受診した。漢方薬
1包/日を開始すると1ヶ月で緩解し、他の治療を中止した。その後も漢方薬のみで緩解を維持している。
【症例3】57歳女性。右側大腸炎型。2012年に発症、プレドニゾロン、メサラジンにて寛解したが、プレ
ドニゾロン漸減で再燃した。LCAP療法を追加したが寛解せず、プレドニゾロン再開となった。肺非定形型
抗酸菌症があり免疫抑制剤、生物学的製剤の使用は控えた。2014年にSクリニックの漢方薬2包/日を開始
し、1ヶ月で症状は改善した。5ヶ月後に一時的に下痢が出現したが、漢方薬を3包/日に増量後は緩解を維
持している。【考察】Sクリニック処方の漢方薬は”錫類散 Xilei-San”であると報告されている。錫類散
の成分の一つである”青黛”が潰瘍性大腸炎に対して治療効果があると考えられており、現在青黛につい
て研究や治験が進められている。今後、潰瘍性大腸炎治療の選択肢が増える可能性があり、更なる研究が
望まれる。
小腸・大腸
14:20~15:00
座長
17(専)
須藤 誠(山梨大学第一外科)
当科で経験した腸間膜膿瘍9例の検討
1新潟県立十日町病院
青木
真1、林
外科
哲二1、山本
雄大1、中尾
圭介1、設楽
兼司1、福成
博幸1
腸間膜膿瘍は比較的稀な疾患であり、多くは急性腹症として開腹手術となるが術前診断は困難である。当
科では、これまで虫垂炎や魚骨などの異物が原因であるものを除いて9例の小腸間膜膿瘍を経験した。9例
の内訳は腸間膜リンパ節膿瘍3例、小腸憩室穿孔5例、特発性腸間膜膿瘍1例で、リンパ節膿瘍3例の原因は
結核性、Yersinia enterocolitica(Y.ent)感染、壊死性リンパ節炎が1例ずつであった。9例ともに腹部
には強い圧痛、筋性防御を認め、血液検査でもWBC、CRPが著明に上昇し、腹部造影CT検査にて腸間膜
膿瘍と診断された。リンパ節膿瘍が疑われた3例のうち1例は腸管切除を施行したが、2例は腹腔鏡下の穿
刺吸引ドレナージあるいは壊死リンパ節摘出術を施行し、保存的に軽快した。小腸憩室穿孔が疑われた6例
は小腸切除術が施行され、5例には穿孔した憩室を認めたが、1例は小腸粘膜には異常を認めず特発性腸間
膜膿瘍の診断となった。腸間膜膿瘍の原因としては魚骨などの異物による穿孔の他、憩室炎、急性虫垂炎、
結核やY.ent感染等による腸間膜リンパ節膿瘍、炎症性腸疾患、血管炎、脂肪織炎、腸管重複症、Meckel
憩室等が報告されているが、鑑別診断は困難なことが多い。当科での症例を比較検討し、若干の文献的考
察を加えて報告する。
18(専)
画像により診断した内ヘルニア4例の検討
1新潟県立十日町病院
山本
雄大1、設楽
外科
兼司1、青木
真1、中尾
圭介1、林
哲二1、福成
博幸1
内ヘルニアは腹腔内の陥凹部、嚢状部、裂孔部に腸管が陥入しイレウス症状を呈する疾患である。臨床症
状は腹痛・嘔気・嘔吐など非特異的なものが多く、さらにその症状は寛解・増悪をくり返すこともあるた
め、内ヘルニアの確定診断がつかず経過観察となることも多い。画像所見の特徴としてはclosed loopの形
成、陥入した腸管の拡張所見、腸間膜の脂肪層や血管群の集束や伸展所見などが挙げられる 。近年は
MDCTの普及に伴い、病変部を多方向から観察することによって画像診断が可能であった内ヘルニアの症
例報告も散見されるようになってきているが、有症状時に速やかに腹部レントゲンとCTを施行しない限り
特徴的な画像所見が得られず確定診断に至らない症例があることが問題となる。今回我々は画像所見から
内ヘルニアと診断し手術を施行した3例、内ヘルニアを疑ったが典型的な画像所見が得られず症状が消失し
確定診断に至らず経過観察としている1例を経験した。症例1は17歳女性。くり返す嘔吐と腹痛で入院。有
症状時の腹部CTにて左上腹部に限局的に拡張し嚢状な腸管群を認め、その背側を下腸間膜静脈(IMV)が走
行していたことから横行結腸間膜内ヘルニアと診断し腹腔鏡下大網充填術を施行した。症例2は63歳女性。
くり返す腹痛で入院。有症状時の腹部CTにて左上腹部に限局的に拡張し嚢状な腸管群を認めその背側を
IMVが走行していたため横行結腸間膜内ヘルニアと診断しヘルニア門縫縮術を施行した。症例3は48歳女
性。くり返す左側腹部痛で入院。有症状時の腹部CTにて左上腹部に限局的に拡張し嚢状な腸管群を認めそ
の腹側をIMVが走行していたため、左傍十二指腸ヘルニアと診断し腹腔鏡下ヘルニア修復術を施行した。
症例4は27歳男性。くり返す腹痛で入院。腹部CTを施行し横行結腸間膜内ヘルニアを疑う所見が得られた
が典型的な所見に乏しく症状も消失したため現在経過観察中である。内ヘルニアは症状の寛解・増悪をく
り返す症例があるため、その診断には有症状時の迅速な画像検査が不可欠であると考えられた。
19(研)
腸炎の一例
中毒性巨大結腸症術後に人工肛門周囲の壊疽性膿皮症をきたした潰瘍性大
1済生会新潟第二病院
消化器内科、2済生会新潟第二病院 外科、3済生会新潟第二病院 皮膚科、4済生会
新潟第二病院 病理診断科、5済生会新潟第二病院 放射線科
野々村 絹子1、岩永 明人1、本間 照1、高 昌良1、渡辺 貴之1、野澤 優次郎1、佐野 知江1、阿部
聡司1、関 慶一1、石川 達1、吉田 俊明1、酒井 靖夫2、高橋 元子2、田辺 匡2、武者 信行2、橋本
剛3、石原 法子4、西倉 健4、武田 敬子5、根本 健夫5
症例は20歳代男性。X年8月上旬から頻回の下痢、血便が出現した。前医で下部消化管内視鏡検査にて潰瘍
性大腸炎と診断され、5ASA 、PSL内服を開始した。しかし軽快なく、腹痛も加わり9月中旬、当院を受診
し入院した。入院後、白血球除去療法やステロイドの強力静注、タクロリムス内服を試みるも、難治で
あった。オピオイドを要する高度な腹痛、頻回の血便をきたし、また画像上結腸の拡張も出現した。中毒
性巨大結腸症と診断し、入院14日目、緊急で大腸亜全摘、回腸人工肛門、直腸粘液瘻造設術を施行した。
術後24日目、腹腔内膿瘍にて洗浄ドレナージ術を施行した。術後45日目、ストーマ直下回腸の炎症性狭窄
による腸閉塞にて、小腸部分切除術と回腸人工肛門造設術を施行した。さらに、術後2ヶ月半に、ストーマ
周辺に潰瘍形成を伴う皮膚病変が出現した。潰瘍性大腸炎に伴う壊疽性膿皮症の診断で、インフリキシマ
ブを投与した。徐々に治癒傾向を示し、6週目のインフリキシマブ投与時にはほぼ上皮化が得られた。上記
経過に文献的考察を加え報告する。
20 腹腔鏡下に切除した横行結腸原発平滑筋肉腫の1例
1山梨大学
医学部 外科学講座第1教室、2山梨大学 医学部 内科学講座第1教室
原 倫生1、飯野 弥1、仲山 孝1、望月 理玄1、柴 修吾1、須藤 誠1、藤井 秀樹1、山口
榎本 信幸2
達也2、
症例は30歳代の男性。交通事故を契機に撮影された腹部単純X線写真にて腹部の石灰化陰影を指摘されて
近医を受診。腹部CTで腹腔内に著明な石灰化を伴った53mm大の腫瘍を指摘され、精査加療目的で当院消
化器内科へ紹介となった。上下部消化管内視鏡検査や注腸造影検査、小腸造影検査では有意な所見を認め
ず、また6カ月間の経過でも増大傾向は認めなかったが、診断目的も含めて手術の方針となり当科紹介と
なった。手術は腹腔鏡下に施行し、腫瘍は灰白色調の腫瘤で大網と横行結腸との癒着を伴っていた。大網
の剥離を進めると最終的に横行結腸と連続性を認める部位が確認されたため、腫瘍とともに横行結腸を一
部合併切除して腫瘍を摘出した。病理組織学的所見では紡錘形核の細胞が膠原線維間質の増生を伴い不規
則に増殖し、硝子化・石灰化が散見された。免疫組織染色ではdesmin(+), MIC2(+), AE1/AE3(-), c-kit(-),
CD34(-), S-100(-), Bcl-2(-), STST6(-), WT-1(+, focal), β-catenin(-)であった。錯綜性配列を示す部分の
細胞密度が高いこと、線維性あるいは硝子化気質内での微細石灰化やpsamoma-typeの石灰化など通常の
平滑筋腫内石灰化とは異なる像を認めることなどから、高分化型平滑筋肉腫と診断された。現在、術後8カ
月を経過したが明らかな再発所見は認めていない。比較的稀な症例を経験したので、若干の文献的考察を
加えて報告する。
その他 15:00~15:30
座長
21(専)
川原聖佳子(長岡中央綜合病院外科)
EUS-FNAが診断に有用であったseratiaによる腹腔内膿瘍の一例
1新潟県厚生連
吉田 智彰1、岡
隆1、吉川 明1
長岡中央綜合病院 消化器内科
宏充1、堂森 浩二1、佐藤 明人1、福原
康夫1、渡辺
庄治1、佐藤
知巳1、富所
【症例】84歳男性【既往歴】H16年右腎癌(右腎摘出術)【現病歴】H27年8月中旬から体調不良を自覚し
ていた。9月14日に悪寒、嘔気、発熱で当院救急搬送された。血液検査で軽度肝機能障害とCRP 7.19
mg/dlと炎症反応の上昇を認めた。腹部造影CTで肝門部背側の門脈と下大静脈の間に2cm大の腫瘤を認め、
門脈左枝にも低濃度腫瘤を伴っていた。膿瘍もしくは腎癌術後再発の疑いで同日精査加療目的に当科入院
した。翌日の血液検査で肝機能の悪化、CRP 18.6 mg/dl, WBC 12370 /μl, PCT 176.4 ng/mlと炎症
反応の高値を認め、細菌感染症が疑われたが、肝門部腫瘤の質的診断目的に9月16日EUS-FNAを施行した。
肝門部腫瘤および周囲の腫大リンパ節から穿刺し、ともに病理学的に悪性所見は認めなかった。肝門部腫
瘤から採取した検体には好中球主体の炎症細胞浸潤を高度に認め、穿刺液培養でseratia marcescensが検
出された。また入院時の血液培養でも同菌が同定された。以上より肝門部腫瘤は同菌による膿瘍と診断し
た。また門脈左枝の低濃度腫瘤は膿瘍に伴う門脈血栓と判断した。MEPN 1g/day投与にて臨床所見は速
やかに改善し、肝機能障害、炎症所見も改善した。9月22日からCTRX 1g/dayにde-escalationし、その
後の症状の増悪なく10月7日退院した。2016年3月16日のCTで肝門部腫瘤の消失を確認し、現在無症状
で外来経過観察中である。【考察】EUS-FNAが診断に有用であったseratiaによる腹腔内膿瘍の一例を経
験した。seratiaは口腔内常任菌の一つで通常感染症として起炎菌となることはまれである。本症例のよう
にseratiaの腹腔内膿瘍に対してEUS-FNAで診断を得た報告は見当たらず、貴重な一例と思われたため、
文献的考察を踏まえて報告する。
22(専)
当院における腹腔内線維腫症の2例
1JA長野厚生連
篠ノ井総合病院 外科、2JA長野厚生連 篠ノ井総合病院 病理科
龍雄1、北濱 卓実1、岡田 一郎1、秋田 倫之1、斉藤 拓康1、五明
2
睦月 、川口 研二2
佑1、池野
有吉
英雄1、牧野
良仁1、宮本
線維腫症は境界悪性の線維性増殖であり,周囲組織に浸潤性に発育するものの,転移をすることはなく,
良悪性の境界病変とされている.その発生部位の多くは体表であり,腹腔内での発生は比較的稀である.
また,組織修復に関与する遺伝子異常が存在し,これにさらなる刺激要因が加わることが発生要因である
と推測されている.今回われわれは,手術や外傷歴,Gardner症候群の家族歴を有さない孤発例と,十二
指腸潰瘍穿孔後に発症した例を経験した.線維腫症は手術による完全な切除が望まれるが,再発の可能性
があり,厳重な経過観察が必要であると思われる.【症例1】55歳,女性,BMI35.6.38℃台の発熱と腹
痛を主訴に当院救急搬送となった.CRP 12.30と著明高値であり,CT施行すると左上腹部に嚢胞性腫瘤を
認めた.消化管穿孔および膿瘍形成を考え,抗生剤投与を行った.改めてMRI施行したところ,小腸腫瘍
およびその自壊による膿瘍形成と思われたため,空腸部分切除術を施行した.病理診断にて腸間膜線維腫
であった.現在術後1ヶ月で再発は認めていない.【症例2】31歳,男性,BMI32.9.腹痛のため救急受
診,CTにて十二指腸穿孔の診断となった.腹腔内に形成された膿瘍に対しドレナージおよび抗生剤にて加
療を行い改善した.その1年9か月後に撮影したCTにて腫瘤形成が認められた.短期経過観察で増大傾向も
あり,手術施行した.病理診断にて腹腔内(原発不明)線維腫であった.現在術後5年で再発は認めていな
い.
23(研)
呼吸器症状で発症し胸水細胞診が診断に有用であった腹膜癌の1例
1済生会新潟第二病院
消化器内科、2済生会新潟第二病院 外科、3済生会新潟第二病院 病理診断科
木谷 洋平1、本間 照1、小川 洋2、関 慶一1、岩永 明人1、佐野 知江1、野沢 優次郎1、石川 達1、
西倉 健3、石原 法子3、吉田 俊明1
70歳代、女性。咳嗽、喀痰で発症。肺炎として内服加療2週間後、胸部単純CTで間質性肺炎、右胸水を認
め、胸水細胞診でclassV、cell blockの病理免疫組織で卵巣あるいは卵管の漿液性腺癌の転移の可能性が
指摘された。造影CTで、胸水貯留、右肺底部胸膜に連続した大きさ36mmの腫瘤、虫垂先端に壁側腹膜と
連続した大きさ25mmの腫瘤を認めた。腹水貯留なく、卵巣卵管に異常所見を認めなかった。以上の所見
から原発巣は虫垂近接部位に発生した腹膜癌が疑われた。診断確定のため腹腔鏡下虫垂切除術が行われた。
術中所見では、虫垂先端部に腫瘤を認め、腹壁に食い込むように固着していた。病理組織は漿液性腺癌で
あった。卵巣癌に準じてTC療法を行った。2コース終了後、胸水は消失し胸膜腫瘤も縮小した。しかし間
質性肺炎が増悪しており、化学療法の継続は困難と判断した。緩和ケアへ移行し2カ月後永眠された。原発
性腹膜癌は初発症状として消化器症状を呈することが多く、腹水は70~80%、胸水は約40%にみられると
報告されている。本例では胸水、胸膜腫瘤によると思われる呼吸器症状で発症し、胸水細胞診、免疫組織
化学が診断に有用であった。CT上腫瘤の形態が、胸膜に接した部分を底辺とする台形の形状を呈し、通常
肺癌とは異なる印象であったことも、腹部を含めた原発巣検索に繋がった。腹膜癌は稀な腫瘍と考えられ
てきたが、近年増加傾向が指摘されている。原因不明の胸水症例では、その鑑別診断に腹膜癌の可能性も
念頭に置き積極的に細胞診を行うことも重要と考えられた。
肝1 9:00~9:50
座長
坂本 穣(山梨大学第一内科)
24 自然治癒が期待される散発性急性C型肝炎の一例
1独立行政法人地域医療機能推進機構山梨病院
長谷川
俊総1
浩之1、進藤
邦明1、末木
消化器病センター
良太1、志村 和政1、曽田 均1、安村
友敬1、矢川
彰治1、小澤
【症例】65歳女性。【主訴】全身倦怠感、尿の黄染。【既往歴】14歳 虫垂切除術、25歳 右卵巣嚢腫手
術。輸血歴、覚醒剤使用歴、鍼治療歴、刺青、ピアス、針刺し事故の既往なし。2015年健診でHCV抗体
価陰性が確認されている。【現病歴】2015年8月上旬より全身倦怠感と尿の黄染が出現したため8月18日
当科受診。【身体所見】意識は清明。眼球結膜に黄染あり。右季肋下に弾性軟、表面平滑な肝臓を3横指触
知する。羽ばたき振戦はなし。【血液検査】T.Bil 5.3mg/dL、Alb 3.8g/dL、AST 2051IU/L、ALT
2137IU/L、ALP 1222IU/L、γ-GTP 600IU/L、NH3 43μg/dL、PT% 90.0%、HCV抗体(±)、HBs
抗原(-)、IgM-HA抗体(-)、CMV-IgG(+)、CMV-IgM(-)、EB-EBNA(+)、EB-VCA-IgG(+)、抗核抗体(-)、抗
ミトコンドリア抗体(-)。【画像所見】CTでは肝腫大と門脈周囲低吸収域がやや目立ち、胆嚢周囲浮腫が認
められる。胆管に閉塞機転は認めない。腹水はなし。【経過】急性肝炎として同日より入院、安静治療を
開始した。8月25日にはT.Bil 12.9mg/dL、AST 2674IU/L、PT% 66.9%まで肝障害が増悪したため、
急性期AIHの可能性を考えPSL投与を開始した。しかし同日夕にHCV-RNA 7.0LogIU/mLが判明し、
PSLは漸減終了とした。その後HCV抗体価の上昇を確認し、急性C型肝炎の診断となった。安静、補液の
み で 肝 障 害 は 次 第 に 改 善 傾 向 を 示 し 、 9 月 16 日 退 院 時 に は T.Bil 4.4mg/dL 、 AST 260IU/L 、 ALT
441IU/Lまで回復した。発症4カ月経過後にHCV-RNA未検出となり、6カ月経過後にはT.Bil 0.8mg/dL、
AST 26IU/L、ALT 19IU/Lと肝障害が消失し、HCV-RNA陰性も持続している。【考察】急性C型肝炎の
臨床症状はごく軽度か無症状の場合もあり、肝障害についても他のウイルス性肝炎に比べ軽度とされてい
る。今回我々は高度肝障害を呈した急性C型肝炎を経験した。幸いにも自然治癒が望めるが、急性C型肝炎
は一般的には60-70%で慢性化するとされており、慢性化予防目的にIFN治療を選択する報告もある。一方
で現在では高い抗ウイルス効果を持つDAAsもあり、本症例を振り返りながら、今後の急性C型肝炎に対す
る治療方針について考察したい。
25 当院におけるC型慢性肝疾患に対する抗ウイルス療法の現状
1佐久総合病院
福島
山田
佐久医療センター 消化器内科、2佐久総合病院 内科
昌幸1、高松 正人2、工藤 彰治1、赤木 康司1、山城
1
崇裕 、桃井 環1、篠原 知明1、友利 彰寿1、比佐 岳史1
秀樹1、古武
彩乃1、古川
龍太郎1、
【目的】近年、C型慢性肝炎に対する治療はDAA製剤の登場により著しく進歩している。今回、我々は当
院でのDAA製剤の使用の現状と効果を後ろ向きに検討した。【方法】対象は2012年3月~2016年3月に
DAA製剤を用いて治療したC型慢性肝疾患患者132例 である。男女比は69:63、平均年齢は65歳で、
TVR使用群13例、SMV使用群21例、DCV/ASV群24例、SOF/LDV群48例(SMV再燃及び中止例5例を
含む)、OBV/PTV/r群1例、SOF/RBV群30例であった。このうち、TVR群とSMV群をP群、DCV/ASV
群、SOF/LDV群、OBV/PTV/r群の3群をF群として患者背景を比較検討した。さらにRVR率、治療前後
でのAFP値、Alb値、血小板数を比較検討した。【結果】平均年齢はP群で61歳、F群で67歳で有意にF群
で高値であった。前治療歴はP群で無:再燃:無効:中止=18:9:5:2、F群で44:14:12:3であった。
HCC治療歴 は P 群 で2 例 (6 % )、 F 群 で12例 ( 16% ) であ っ た 。 入院 治療 を要 し たの は P 群31 例
(91%)、F群0例(0%)であった。RVR率は両群とも7割程度であったが、P群が4週までに2例が中止
になったのに対し、F群では中止例はなかった。治療開始前のAFP値が10ng/ml以上あり、治療を終了し
た11例の患者の内10例ではAFP値の低下を認めた。F群の内、血小板数が15万/μl以下の患者ならびに
Alb値が4g/dl未満の患者では治療終了時それぞれ有意な改善をみた。【考察】当院においてDAA製剤によ
る治療は外来にて安全に施行できていることが確認できた。また、DAA製剤での治療はAFP値を低下させ、
血小板数やAlb値を改善し、病態を改善させうる可能性が示唆された。【結語】当院でのDAA製剤の効果
については概ね良好であるが、さらなる追跡調査が必要である。
26 C型肝炎に対するダクラタスビル・アスナプレビル治療中に肝不全を来した一例
1信州大学
消化器内科
杉浦 亜弓1、柴田 壮一郎1、藤森
晶博1、梅村 武司1、田中 榮司1
尚之1、山崎
智生1、市川
雪1、城下
智1、小松
通治1、松本
【序説】1型C型肝炎に対する最初のIFNフリー治療として2014年7月にダクラタスビル(DCV)・アスナプ
レビル(ASV)併用療法が認可された。同治療はウイルス排除率が高く副作用が少ないことから多数例で用い
られたが、特有な副作用があり、重篤なものも希ながら報告されている。今回、治療中に肝不全を来した
一例を経験したので報告する。
【症例】57歳、女性。Child-Pugh A(6点)の肝硬変であり肝不全の既往はない。DCV 60mg/day、ASV
200mg/dayによる治療開始後11日目に39℃台の発熱を認め近医を受診し、セフカペンピボキシル、テプ
レノン、ロキソプロフェンを処方された。DCV/ASVは同日嘔吐し、以降は内服しなかった。その後も発熱
は持続し、14日目に近医を再受診した際にはインフルエンザA陽性であった。黄疸を認めたため同日緊急
入院となった。血液検査では、ALT値は114 U/Lと上昇し、T.Bil 13.1 mg/dl、PT 36%と黄疸、肝合成
能の低下を認めた。また好酸球分画は19.8%まで上昇し、血中IgE 892 IU/mlも上昇していた。薬物性肝
障害を契機に肝不全に至ったと考えられ、被疑薬として、DCV、ASVに加えセフカペンピボキシル、テプ
レノン、ロキソプロフェンを全て中止した。肝庇護療法を行いながら凝固因子補充のためFFP投与を行っ
た。16日目に発熱は落ち着いたが、ビリルビン高値は遷延し25日目にT.Bil 19.32mg/dlまで上昇し、そ
の後低下傾向を示した。HCV-RNAは治療開始後3週で未検出となり、その後SVRとなった。
【考察】本症例の肝障害の急性増悪については、好酸球分画の増加やIgEの上昇を認めたことから、アレル
ギー性機序の関与が疑われた。また被疑薬に対してDLSTを施行したところ、DCV、ASVともに陽性であ
り、JDDW 薬物性肝障害ワークショップのスコアリングでは8点で薬物性肝障害の可能性が高いとされ、
DCV、ASVによる肝障害と考えた。
【結語】IFNフリー治療は副作用が少ないとされているが、薬物性肝障害をきたし肝不全となる危険性もあ
るため、治療中は慎重な経過観察が必要である。
27(研) C型代償性肝硬変に対しアスナプレビル+ダクラタスビル投与しHBVが活
性化した1例
1山梨大学
高橋
中山
第一内科
いくみ1、佐藤 光明1、中岫 奈津子1、早川 宏1、松田 秀哉1、村岡
康弘1、井上 泰輔1、前川 伸哉1、坂本 穣1、榎本 信幸1
優1、鈴木
雄一朗1、
症例は78歳男性、C型代償性肝硬変genotype:1b型、高ウイルス量(Real time PCR:5.5Log/IU/ml)の患
者。2004年頃検診でHCV陽性を指摘されたため近医受診しUDCAを内服中であった。これまでインター
フェロン(IFN)治療歴はない。そこで当科紹介されプロテアーゼ阻害薬のアスナプレビル(ASV)+ NS5A阻
害薬のダクラタスビル(DCV)併用療法を2015年9月から開始した。開始前の肝機能はAlb:3.7g/dl, Tbil:0.7mg/dl, AST:62U/l, ALT:40U/l, PT活性:86.6%, AFP:7.1, 腹水なし, 肝性脳症なしのChild-Pugh
A(5点), FibroScan:14.4kPa、CAP:119dB/mであった。遺伝子学的検査ではIL-28B:TT, ISDR変異:0,
コア70/91:wild/wild, NS3・NS5A領域の薬剤耐性変異は認められなかった。HBsAg精密:106.76IU/ml,
HBsAb:1.4mIU/ml, HBcAb:11.52COI, HBV-DNA検出感度未満, genotype:Dであった。治療開始前の
腹部エコー検査では肝細胞癌を認めず軽度脾腫を認めた。治療開始後1週目でトランスアミナーゼは正常化
し、HCV-RNAも陰性化した。治療開始4週後にAST:34U/lと軽度上昇したがHCV-RNAは陰性を維持し
ていたが、6週目にHBV-DNAを測定したところ4.7logIU/mlと上昇していた。HBV再活性化と考えエン
テカビル(ETV)の内服を開始したところ、開始2週でHBV-DNAは陰性化し、ASTも正常化した。HCVRNAは持続陰性化を保ちASV+DCVは24週で投与終了。終了後8週まで陰性を維持している。HBV-DNA
もETV継続し陰性を維持している。本症例はHCV dominantのHCV、HBV重複感染の症例であった。
HCV、HBV重複感染ではウイルス間の干渉作用によりHCVがHBVの増殖を抑制し,HCV dominantの肝
炎が多いとされる。IFN治療は双方に有効性があるものの HCV の消失に伴うHBVの活動性上昇のリスク
も指摘されている。現在C型肝炎の治療はIFNフリーの直接作用型抗ウイルス薬(DAA: Direct Acting
Antivirals)の時代となったが、DAAによるHBVキャリアや既感染例でのHCVの抑制後のHBVの活動性上
昇、核酸アナログ使用の報告はほとんどなく、本症例は示唆に富む症例と考えられ、文献的考察を含めて
報告する。
28(研) 心疾患併存症例に対するオムビタスビル、パリタプレビル、リトナビル配
合剤の治療成績
1山梨大学
第一内科
澤泉 早紀1、村岡 優1、中岫 奈津子1、早川
泰輔1、前川 伸哉1、坂本 穣1、榎本 信幸1
宏1、鈴木
雄一朗1、佐藤
光明1、中山
康弘1、井上
【目的】C型肝炎に対するDirect Acting Antiviral agent(DAA)による抗ウイルス治療のうち、ソフォス
ブビル、レディパスビル配合剤は心毒性が指摘されている。そこで、当科では心疾患のある症例にオムビ
タスビル、パリタプレビル、リトナビル配合剤を用いている。心疾患併用症例に対するオムビタスビル、
パリタプレビル、リトナビル配合剤の当科における使用成績を検討した。【方法】2015年12月より当科
でオムビタスビル、パリタプレビル、リトナビル配合剤を使用したgenotype1bのC型肝炎6例の臨床背景、
治療効果を検討した。【結果】背景は男性/女性:4/2、平均62.7歳、慢性肝炎/肝硬変:5/1、HCC治療
歴なし/あり:5/1、NS5A領域Y93H変異なし/あり:5/1、全例で除脈、心房細動、先天性心疾患などの
循環器合併症があった。ウイルス量は治療前5.9±0.69logIU/mlであり、12週間内服終了まで経過を追え
る5例では全例が4週以内にウイルス陰性化が得られ、end of treatment responseを達成、全例でトラン
スアミナーゼ値が正常化し肝炎の沈静化が得られていた。また、副作用中止例はみられなかった。【結
論】循環器合併症を有するgenotype1bのC型肝炎例ではオムビタスビル、パリタプレビル、リトナビル配
合剤は効果が高く安全に治療継続が可能であった。
肝2 9:50~10:30
座長
雨宮秀武(山梨大学第一外科)
29(研) 球状塞栓物質、Sorafenibを用いた集学的治療が奏功したStageIV-B巨大
肝細胞癌の一例
1新潟市民病院
消化器内科
弥久保 俊太1、大崎 暁彦1、木村 淳史1、小川
暢生1、古川 浩一1、五十嵐 健太郎1
雅裕1、佐藤
宗広1、相場
恒男1、米山
靖1、和栗
【症例】71歳、男性。高血圧、糖尿病で近医通院していた。腹部膨満を契機に当科を紹介受診し、B型肝
炎キャリア、多発肝細胞癌(HCC)が指摘された。肝外側区域に13cm大のHCC、肝右葉に多発HCCを
認め、動脈塞栓療法(TAE)を主体とした集学的治療を行う方針となった 。巨大HCCに対しては 、
Embosphere(ES)を用いたbland-TAEを選択、2ヶ月前後の間隔でTAEを繰り返した。胃大網動脈から
の栄養血管も有していたため、同血管にはLipiodol、2mm多孔性ゼラチン球を用いてTAEを行った。4回
のTAEの結果、同病変の標的結節治療効果度は、TE4(壊死効果100%)となった。肝右葉の多発HCCに
は 、 ES に よ る bland-TAE に 加 え 、 ア イ エ ー コ ー ル 動 注 も 行 っ て い た が 、 増 大 傾 向 を 示 し た め 、
HepaSpherを用いたDEB(drug eluting beads)-TACE(5-FU含浸)を行った。3回のDEB-TACEを
行った結果、肝右葉の病変は全てTE4となった。治療開始5ヶ月後から多発肺転移出現し、Sorafenib 投
与も開始した。肺病変は緩徐に縮小、投与開始5ヶ月後に軽度増大したが、投与継続したところ、9ヶ月後
に消失した。本症例は、当科初診時より27ヶ月経過しており、Sorafenib投与中ではあるが、肝外側区域
の巨大HCCは最終TAEから18ヶ月再発なく、肝右葉の多発HCCは最終DEB-TACEから15ヶ月再発なく、
多発肺転移は11ヶ月再発なく経過している。現在viableなHCCは、治療開始14ヶ月後に出現した25mm
大の左副腎転移部のみであり、左副腎動脈よりLipiodol-TACEを行ったが、効果判定はTE2であった。今
後、切除も含め治療方針検討中である。
【考察】13cm大の巨大病変、肺転移を有する多発HCCに対して集学的治療を行い、良好な経過を得た一
例を経験した。多発HCC症例では、治療効果が個々の結節で異なる症例にしばしば遭遇する。個々の結節
に対して様々な治療を併用することで、単独治療では得難い良好な治療成績を得ることもある。治療標的
外病変の増大や肝外病変の出現は、前治療の不応判定に直結するものではなく、個々の症例及び結節に応
じた治療計画が重要であると考えられた。
30(研)
ソラフェニブ投与により多発肝癌が著明に減少・縮小した高齢患者の1例
1信州上田医療センター
品川
裕伯1、森田
消化器内科
進1、久保田 大輔1、福澤
慎哉1、藤森
一也1、滋野
俊1、吉澤
要1
【症例】80歳台前半の男性。3年前、近医からC型慢性肝炎として紹介された。腹部エコー、腹部造影CT
から、計5個の小肝癌を指摘され、肝動脈塞栓術(TACE)を行い、十分なリピオドール沈着がえられた。
しかし、6か月後、S6に再発を認め、2回目のTACEを行った。その後、門脈腫瘍栓が出現したため、年齢
も考慮し、2年1ヶ月前からユーエフティの内服を開始した。1年3ヵ月間投与するも、腫瘍は徐々に増大し、
肝内に多数の結節を認め、AFP, PIVKA2も高値となった。このため、患者の同意のもと10か月前からソ
ラフェニブ400 mgと高齢のため通常の半量の投与を開始した。制御可能な下痢以外、手足症候群などの副
作用は認めなかった。投与前、AFP 4,247 ng/mlであり、2か月後には35,036 ng/mlまで上昇するも、
その後低下し、300-400 ng/mlで推移し、PIVKA2も1,240 mAU/mlあったものが、60 mAU/ml台ま
で低下、現在100-200 mAU/mlである。CTでは、最大径40 mmの主腫瘍がほとんど壊死となり、多数
の小腫瘤もほとんど壊死となり、数個の腫瘍の残存を認めるのみとなっている。門脈腫瘍栓は変化がない。
現在もソラフェニブ400 mg継続している。【考察】ソラフェニブは、進行肝癌に対するランダム化比較試
験において生命予後延長を示した分子標的薬である(SHARP trial)。しかし、腫瘍の縮小は数%で、腫瘍増
大抑制が主な治療効果である。実際には、数か月の生存期間の延長効果を認めるのみであるが、本例のよ
うに著明な効果を示すことはまれである。しかし、このように著効を示す例もあることから、高齢者で
あっても、副作用に注意し、減量しながらでも使用することは検討に値すると考え報告する。【結論】高
齢多発肝癌患者にソラフェニブの減量投与は有効な手段となりうる。
31(専)
巨大肝嚢胞に対し腹腔鏡下開窓術を行った2例
1市立甲府病院
消化器内科、2市立甲府病院 外科
石田 剛士1、辰巳 明久1、今川 直人1、島村 成樹1、久野
雨宮 史武1
徹1、門倉
信1、千須和
寿直2、巾
芳昭2、
【症例1】73歳女性。以前より検診で13cm程度の肝嚢胞を指摘されていた。2015年7月にうけた人間
ドックで肝嚢胞が増大傾向になり、また右季肋部痛も出現してきたため当科に紹介入院となった。腹部造
影CT検査では肝右葉に最大18cmをはじめとする多数の嚢胞性病変を肝内に認めた。最大嚢胞の内部に充
実性成分や壁肥厚は認めず、膵臓・腎臓には嚢胞は認めなかった。まず経皮的ドレナージを行うと嚢胞内
容液は淡黄色透明で、T.Bil 0mg/dl、細胞診ではclass1であった。ドレナージチューブからの造影でも胆
管との交通は認めず、単純性肝嚢胞と診断し腹腔鏡下肝嚢胞開窓術の方針で外科転科となった。術後嚢胞
径は18cmから7.5cmに縮小し、腹痛は消失した。入院期間は内科7日間外科15日間で、合併症は認めな
かった。【症例2】92歳女性。70歳代ごろから腹部の膨満感を自覚することがあったが医療機関は受診し
ていなかった。2015年11月より心窩部痛が出現し近医で巨大な肝嚢胞を指摘され当科に紹介入院となっ
た。腹部造影CTでは肝左葉内側区に18cmの嚢胞性病変を認めたが内部の壁肥厚や充実性成分は存在しな
かった。経皮的ドレナージを行ったところ嚢胞内容液は灰褐色で、T.Bil 0mg/dl、細胞診ではClass1で
あった。嚢胞造影でも胆管との交通は認めず単純性嚢胞と診断し、耐術能にも問題なかったため腹腔鏡下
肝嚢胞開窓術の方針とした。術後嚢胞径は18cmから5.5cmに縮小し、腹痛は消失した。入院期間は内科7
日間外科8日間で、合併症は認めなかった。【考察】内科的単純性肝嚢胞の治療はエタノールやミノマイシ
ンを嚢胞内に注入する治療法が以前から行われていたが多量の薬液が必要になり発熱や腹痛がおこる、複
数回の治療が必要になり入院が長期化するなどの問題点があった。当科でも過去1例、径16cmの単純性肝
嚢胞症例をエタノール注入で治療した経験があるが入院期間は25日、治療中に留置チューブが肝外へ逸脱
する合併症を認めた。今回の2例はいずれも術後経過良好で入院期間も短く、患者の耐術能が良好で外科の
協力が得られれば腹腔鏡下肝嚢胞開窓術は有用・有効な治療法であると考える。
32 難治性腹水に対する腹腔-静脈シャント(Peritoneovenous shunt)造設術後の
時期別合併症と死亡原因の検討
1千曲中央病院
内科、2千曲中央病院 検査科、3佐久総合病院・佐久医療センター
上田医療センター 肝臓内科
宮林 千春1、根石 政男2、福島 秀樹3、吉澤 要4
消化器内科、4信州
【目的】当科では、トルバプタンを含めた利尿剤にも難治で腹腔穿刺および腹水濾過濃縮再静注法を行っ
ても制御困難な症例に腹腔-静脈シャント(Peritoneovenous shunt:以下PVS)造設術を行っている。今回
PVS術後合併症および死因について検討した。【方法】対象は2008年1月から2015年10月にPVSを造設
した8例で、シャント開存期間、造設後生存期間、時期別合併症および死亡原因について検討した。【成
績】平均年齢は69.5歳で男女比6:2、成因はHCV 2、アルコール 4、AIH 1、NASH 1例であった。PVS
造設後観察期間は16~980日、全平均生存期間は355±315日で、生存3例では394±156日、死亡5例で
は330±400日であった。6ヶ月生存率は75%(6/8例)、1 年生存率 50(4/8)、2年生存率 12.5(1/8)で
あった。シャント開存期間は355±315日であった。術中合併症として鎖骨下動脈動カテーテル誤留置 1
例、術後早期(術後~3ヶ月まで)にDIC 全例(うち1例は死亡)、チャンバー閉塞4例(50%)を経験した。
術後後期(3ヶ月以降)にチャンバー閉塞1例、カテーテル逸脱・屈曲閉塞1例、フィブリンシースによる
胸腔側カテーテル閉塞1例、腸管による腹腔側カテーテル側孔閉塞1例、腹部異物感1例であった。死亡原
因はDICが1例、静脈瘤破裂3例(食道2例、直腸1例)、直腸癌術後急性心不全1例であった。3ヶ月以内での
死亡2例はDIC症例と退院後飲酒を継続し食道静脈瘤破裂をきたした症例であった。【考案】PSVは腹水を
直接静脈に戻す治療のためDICは必発である。3例(37.5%)が門脈圧亢進症に由来する静脈瘤破裂で死亡
していた。今回の検討では術後平均生存期間は12.7ヶ月で、肝硬変診療ガイドライン2015に示される
16.1ヶ月より短期間であった。【結論】PVSは症状改善には極めて有用であるが、重篤な合併症が高頻度
に発生するため術前に慎重な評価と厳重なインフォームドコンセントが必要である。
胆1 10:30~11:00
座長
33(専)
1山梨大学
比佐岳史(佐久医療センター消化器内科)
貧血を契機に発見された十二指腸乳頭部血管腫の1例
第一内科、2山梨大学 第一外科
英1、川上 智1、深澤 佳満1、広瀬 純穂1、進藤 浩子1、高野
1
公 、榎本 信幸1、川井田 博充2、河野 寛2、藤井 秀樹2
俊夫1、高橋
大島
晴1、佐藤
伸一1、深澤
光
症例は75歳、女性。貧血を主訴に前医受診。上部消化管内視鏡検査で十二指腸主乳頭は易出血性で拡張し
た血管様の発赤所見を認めた。表面は比較的平滑であり、白苔付着やびらんは認めなかった。同部位は腹
部造影CT動脈相で濃染、遅延相でも造影効果の残る8mm大結節像として描出された。その他の検査で出
血源は認めなかった。生検を行うも診断に至らなかったが、内視鏡像とCT所見から貧血の原因は、十二指
腸乳頭部血管腫と診断された。その後のCTで腫瘤の大きさや造影効果は著変なかったが、経過で貧血の進
行を認めたため、前医で血管造影検査が施行された。前上膵十二指腸動脈分枝からの造影で十二指腸乳頭
部に一致して淡い染まりを認めたが、pooling像やnidusは明らかではなかった。治療として同部位に対し
てマイクロコイルによる塞栓術が施行された。治療後のCTで濃染像は縮小、また内視鏡像でも乳頭部発赤
は目立たなくなり、貧血も改善を認めた。しかしIVR 10か月後に再度貧血を認め、CTで乳頭部濃染像、
内視鏡像でも乳頭部発赤の再発を認めたため加療目的にて当科紹介となった。乳頭部の内視鏡像は前医と
同様に拡張した血管様の発赤所見を認め、EUSでは8mm大境界明瞭な低エコー腫瘤像を呈し、カラードッ
プラーで明らかな血流は検出されなかったが、ソナゾイド造影では早期に染まりを認めた。十二指腸固有
筋層を越えて連続する血管像も描出された。出血リスクを考え生検は行わなかった。十二指腸乳頭部血管
腫再発と診断し、治療として内視鏡的乳頭切除術は出血や穿孔のリスクが高いと考え外科的乳頭切除術の
方針とした。病理組織所見は血管の高度増生を認め、最終診断は十二指腸乳頭部血管腫であった。術後は
貧血進行なく経過している。十二指腸乳頭部に発生する血管腫はまれであり、その診断、治療法につき文
献考察を加えて報告する。
34 外科・消化器内科合同手術を行い、rendezvous cannulationにより結石除去を
施行した総胆管結石の1例
1長野県立木曽病院
小山
佳紀1、小出
外科、2長野県立木曽病院 消化器内科
直彦1、丸山 真弘2、加賀谷 丈紘1、河西
秀1、飯嶌
章博2、久米田
茂喜1
胆嚢結石を合併した総胆管結石症に対しては、先ず総胆管結石に対し内視鏡的経十二指腸乳頭的結石除去
術を施行の上、二期的に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行する対応が広く行われている。しかし、十二指腸乳頭
の形態を含めた解剖学的条件、傍乳頭憩室の存在、総胆管結石の乳頭近傍での嵌頓などにより、カニュ
レーションが困難な症例が一部に存在する。我々は、ERCカニュレーションが困難であった、胆嚢結石を
合併した総胆管結石の症例に対し、腹腔鏡下胆嚢摘出術の際に、胆嚢管から十二指腸にガイドワイヤーを
誘導して、rendezvous cannulationによって術中ERC・ESTによる総胆管結石除去が可能となり、総胆
管結石と胆嚢結石に対する治療を、外科・消化器内科合同で一期的に施行し得た症例を報告する。症例は
83歳男性。褐色尿を主訴に受診した。肝胆道系酵素の上昇、T-bil 2.2mg/dlと上昇を認め、CTにて総胆
管結石と胆嚢結石を認めた。緊急ERCPを施行したが、傍乳頭憩室が存在、かつ、下部胆管に結石が嵌頓し
ていたため、深部カニュレーションが困難であり処置を断念した。幸い保存的に対応が可能であり、初回
ERCより9日後に再度ERCを施行したが、初回と同様、深部カニュレーションが困難であり処置を断念し
た。初回ERCより15日目に腹腔鏡下胆嚢摘出術と同時に、術中にERC・ESTによる総胆管結石除去術を施
行した。胆嚢管から十二指腸にガイドワイヤーを誘導する操作中に、下部胆管に嵌頓していた結石が浮動
したことと、ガイドワイヤーによって胆管軸の歪みが矯正されたことが、十二指腸乳頭側からのカニュ
レーションを可能にしたものと思われた。ERCのカニュレーションが困難な症例に関しては、胆嚢結石と
一期的に治療が可能な点と、術中に内視鏡医との連携により総胆管切開の煩雑な外科的手技を要さない点
で、本法は有用な一つの治療法と考える。
35 経カテーテル的動脈塞栓術にて止血を得た内視鏡的乳頭切開術後出血の1例
1長野中央病院
田代
消化器科
興一1、小島 英吾1、松村
真生子1、平野
拓己1、永村
良二1
症例は60歳代男性.2011年に胆嚢結石発作を発症し手術を勧められたが受けなかった.他の既往は,高
血圧症のみである. 2015年12月下旬から茶色尿を自覚し,2016年1月上旬に近医を受診して黄疸を指摘
され,当科紹介受診となった.総胆管結石による閉塞性黄疸と診断され治療目的で入院となった.入院時
検査所見では,総ビリルビン16.8 mg/dLで,凝固能は正常であった.腹部CT検査では,肝内胆管および
総胆管の拡張と,下部胆管に12mmの石灰化結石,及び胆嚢にも石灰化結石を認めた.入院第1日目に減
黄目的でERCPを行い,ERCにて結石を確認し,11時方向にEST中切開を行って,EBSを留置した.第3日
に結石除去目的でERCPを予定したが,EST切開部の肛門側の後壁側から湧出性の出血を認めたため,HSE
及び高周波止血装置にて止血を行い終了した.以降,内視鏡検査をする度に出血が見られた.一時止血は
容易に得られ,貧血も輸血を要するほどではなかったが,第10日までに合計5回の内視鏡的止血処置が行
われた.第8日には,止血術後,結石除去しEBSを抜去している.第11日に血圧の低下と貧血の進行を認
めた.これ以上の内視鏡的止血は不能と判断され,経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)を行った.後下膵十二
指腸動脈から分枝する乳頭枝を選択的にコイル塞栓して止血を得た.第14日にもHbの低下を認め,今回は
ジェルパートによるTAEを行った.以降は出血を認めなかった.本症例の出血部位はEST後出血で多いと
される後壁側であった.ESTに対する後出血の頻度は,0.23%と報告されているが,内視鏡的止血術が難
渋することや,TAEでも複数回要することがあり,確実な止血術の確立が望まれる.
胆2 11:00~11:30
座長
進藤浩子(山梨大学第一内科)
36 粘液産生胆嚢癌の1例
1佐久総合病院
佐久医療センター 消化器内科
古川 龍太郎1、比佐 岳史1、工藤 彰治1、山城
秀樹1、古武 昌幸1、友利 彰寿1
綾乃1、山田
崇裕1、桃井
環1、篠原
知明1、福島
患者は70歳台、男性。右季肋部痛にて近医を受診し、血液検査で肝胆道系酵素の上昇、単純CTで胆嚢結石
および胆嚢腫大を認めたため、当センター消化器外科に紹介となった。USでは、腫大した胆嚢内の結石お
よび胆泥、複数のコレステロールポリープ、および肝外胆管拡張を指摘された。胆嚢に圧痛なく、腹痛の
原因は転倒後の肋骨骨折と判断された。3ヶ月後のUSでは、前回胆泥と認識された病変は底部に存在し、
体位変換で移動を認めなかった。同病変は表面乳頭状高エコー腫瘤およびその表面の網状エコーから成っ
ており、胆嚢腫瘍と考えられた。造影CTでは、胆嚢底部を中心に淡い造影効果を有する丈の低い隆起が散
在していた。胆嚢内隆起は、MRI・T2強調像にて丈の低い低信号として描出された。EUSでは胆嚢底部に
乳頭状高エコー隆起を認め、揺動する淡い低エコーに覆われていた。それ以外に複数の無茎性高エコー隆
起が存在していた。隆起と外側高エコー層との境界が一部で不整であった。ERCPでは肝外胆管拡張を認め
たが粘液を疑う透亮像はなく、IDUSでは胆管および胆嚢管に腫瘍進展を疑う壁肥厚を認めなかった。胆汁
細胞診はclassIVであった。以上より、粘液産生胆嚢癌、深達度SSと診断し、初診から6ヶ月後に肝床部切
除術を施行した。胆嚢切開時にゼリー状粘液および脱落した乳頭状腫瘤が流出した。固定切除標本では、
胆嚢底部を主体に結節状隆起が多発していた。組織学的には隆起表面は乳頭・管状腺癌から成り、深部で
は低分化腺癌となり漿膜下層まで浸潤していた。隆起周囲には上皮内癌、異型上皮を広範囲に認めた。切
除断端陰性、リンパ節転移陰性であったが、軽度の静脈およびリンパ管侵襲を認めた。本症例の超音波画
像において、腫瘤表面に付着した揺動する低エコーが粘液を反映しており、超音波は粘液の存在診断に有
用であった。
37 胆管原発神経内分泌腫瘍の1例
1信州大学
中村
英吾2
医学部附属病院 消化器内科、2長野中央病院 消化器内科
真希子1、浅野 純平1、渡邉 貴之1、伊藤 哲也1、田中
晃1、北野
榮司1、田代
興一2、小島
症例は30歳代の男性。2015年4月の健診で肝機能障害を指摘され,近医の腹部超音波検査で総胆管拡張を
認め、前医消化器内科へ紹介となった。腹部造影CTで中部胆管に多血性腫瘤を認め、7月に精査加療目的
で当科紹介となった。多相造影CTでは、中部胆管内腔を占拠するような径13mmの境界明瞭な類円形の腫
瘤を認め、造影早期相から非常に強い濃染を呈した。MRIでは、同腫瘤はT1強調像で低信号、T2強調像で
高信号、拡散強調像で高信号、ADC mapで低信号を呈した。超音波内視鏡検査では、総胆管壁に境界明瞭
な類円形の低エコー腫瘤として描出され、内部エコーはやや不均一で、豊富な血流シグナルを認めた。ま
た、病変の辺縁は胆管の外側高エコー層と内側低エコー層に包まれるように立ち上がっており、粘膜下腫
瘍様の病変と考えられた。これら画像所見から、神経内分泌腫瘍、悪性リンパ腫、パラガングリオーマを
鑑別として挙げたが、ERCP時の生検では組織学的な診断には至らなかった。胸腹部CTで転移を疑う所見
は見られず、FDG-PETでは、胆管腫瘤部にSUV MAX 5.24の集積を認めたが、それ以外に有意な集積は
見られなかった。また、前医のMRCPと比較して、3ヶ月の経過で増大傾向は認めなかった。これら画像所
見、臨床経過から、神経内分泌腫瘍を鑑別の上位に挙げ、当院消化器外科で肝外胆管切除術、胆嚢摘出術、
リンパ節郭清が施行された。病理組織学的所見では、Chromogranin A陽性、Synaptophysin陽性、核分
裂像1個/10HPF未満、Ki 67index 3%より、Neuroendcrine tumor、G2と診断、静脈浸潤と胆管壁外
への進展を認め、Stage1Bであった。 胆管原発神経内分泌腫瘍は、胆管腫瘍の0.2-2%、消化器発生神経
内分泌腫瘍の0.1-0.2%とされており、稀な疾患である。腫瘍は粘膜下に主座を置き、術前に確定診断を得
ることは困難であるが、消化管・膵NETと同様に境界明瞭な類円形の腫瘤で、早期濃染するという特徴は
共通しており、診断の一助になると考えられた。
38(専)閉塞性黄疸により脂質代謝異常が誘発されたと考えられた肝門部胆管癌の1例
1新潟県
小林
厚生連 糸魚川総合病院 内科
才人1、島田 清太郎1、金山 雅美1、野々目
和信1、月城
孝志1、康山
俊学1、樋口
清博1
閉塞性黄疸などの胆汁うっ滞の際に高コレステロール血症を生じることが知られている。今回、肝門部胆
管癌による閉塞性黄疸を発症し、血中LDL-C値が著高を呈したが、ドレナージによる減黄後に正常化した
症例を経験した。患者は82歳男性で、高血圧や不眠症等で近医を通院中であった。入院1週間前より腹痛、
尿の黄染症状を自覚し、近医による腹部エコー検査で肝内胆管の拡張を認め、閉塞性黄疸の診断で当院外
来を紹介受診した。T-bil 17.1mg/dl、D-bil 13.2mg/dl、AST 202IU/l、ALT 250 IU/l、Al-p 2861
IU/l、γ-GTP 1099 IU/lなどの異常に加えてT-CHO 455mg/dl、HDL-C 7mg/dl、LDL-C 436mg/dl
と著明な脂質代謝異常を認めた。翌日の再検査でも同様の結果であり再現性が得られた。入院同日にERCP
を施行し、肝門部胆管の狭窄所見を認め、ENBDチューブを留置して減黄を行った。胆汁細胞診にてclass
IVの所見を得て、総合的に肝門部胆管癌と診断した。第14病日の血液検査ではT-bil 4.0mg/dl、D-bil
3.5mg/dl 、 AST 54IU/l 、 ALT 91 IU/l 、 Al-p 1111IU/l 、 γ-GTP 224 IU/l と 改 善 し 、 T-CHO
180mg/dl、HDL-C 23mg/dl、LDL-C 109mg/dlなどの脂質異常も改善していた。この間、脂質代謝異
常 に 対 す る 治 療 は 行 っ て い な い 。 本 症 例 の 入 院 6 年 前 の 血 液 検 査 で は HDL-C 43mg/dl 、 LDL-C
124mg/dlであり、今回の高LDL-C値は閉塞性黄疸によって2次的に生じたものと思われた。本症例の血中
LDL-C値の高値は当院での過去5年の閉塞性黄疸症例の中でも最高値であった。文献的考察を交えて、この
メカニズムについて報告する。
膵1 14:20~14:50
座長
39(研)
有賀諭生(新潟県立中央病院消化器内科)
著名な嚢胞変性を伴う膵腺房細胞癌の1剖検例
1新潟県立新発田病院
内科
岩澤 貴宏1、佐藤 聡史1、高木 将之1、丹羽
純1、夏井 正明1、渡邉 雅史1、塚田 芳久1
佑輔1、坪井
清孝1、影向
一美1、津端
俊介1、松澤
今回我々は著明な嚢胞変性を伴う膵腺房細胞癌の1剖検例を経験したので報告する。症例は70歳代、男
性。腹部膨満感、食欲不振を主訴に前医を受診し、上腹部に腫瘤を触知され、精査目的に当院へ紹介と
なった。血液検査ではCEA、CA19-9、DUPAN-2は基準値内であったが、Elastase
-1の上昇を認めた。腹部超音波検査、EUSでは膵体部に多房性嚢胞性腫瘤を認め、最も大きな嚢胞内
には片側性の結節が存在した。CTでは膵体部に軽度造影効果のある充実成分を有する13cm大の多房
性嚢胞性腫瘤を認め、膵~胃周囲、腸間膜、骨盤腔内にも同様の形態を有する大小様々な腫瘤を認めた。
ERPでは軽度拡張した膵頭体主膵管内に変形する透亮像を認め、さらに圧をかけ造影すると体部の嚢胞
が造影され、その内部には不整な透亮像を認めた。骨盤腔内腫瘤の増大に伴う直腸の圧排狭窄により腸閉
塞を来したため、人工肛門造設術及び確定診断目的に小腸間膜播種巣切除を施行した。さらに術中所見で
回盲弁直上に5cm大の播種結節を認めたため腸閉塞予防に回盲部切除を追加した。しかし手術2日後に
突然の心肺停止を来たし永眠された。死後CTで肺動脈血栓塞栓症が疑われ、ご家族の同意を得て剖検が
施行された。膵体部の腫瘍は線維性被膜を伴う膨張性発育を示す充実性腫瘍で、内部には出血壊死を伴う
著明な嚢胞変性を認めた。HE染色では好酸性の胞体を有する比較的均一な腫瘍細胞が腺房様に増殖し、
腫瘍細胞はアンチトリプシン、アンチキモトリプシンともに強陽性であったため膵腺房細胞癌と診断した。
小腸間膜、直腸、S状結腸漿膜下、ダグラス窩の大小様々な播種結節も同様の所見だった。なお肺動脈に
血栓、塞栓はなく、他にも直接死因となりうる所見を認めなかった。膵腺房細胞癌は稀な膵腫瘍で、その
頻度は膵癌全体の約1%程度と言われている。若干の文献的考察を加え報告する。
40(研)
1飯田市立病院
小山
嚢胞変性をきたした膵神経内分泌腫瘍の1例
初期研修医、2飯田市立病院 消化器内科
俊晴2、大工原 誠一2、菅沼 孝紀2、岡庭
勇介1、高橋
信司2、中村
喜行2
【症例】71歳女性【主訴】膵腫瘍の精査目的【既往歴】2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症、慢性甲状腺
炎、股関節症【現病歴】2015年4月の肺癌検診のCTで肝多発腫瘤を指摘され、当院を受診した。8月の腹
部造影CTでは、膵尾部に径40mmの石灰化を伴う腫瘤を認め、辺縁部で造影効果が強く、内部には不整形
の嚢胞成分を伴っていた。肝腫瘍も内部に不整形の嚢胞成分を伴う腫瘤が多発しており、被膜様の強い造
影効果も認めた。膵尾部腫瘍と多発肝転移と考え、8月にEUS-FNA目的に入院となった。【経過】EUSで
は、膵尾部に境界不整で一部に被膜様構造を伴う低エコーの腫瘤を認めた。内部に石灰化と嚢胞変性を伴
い、ドプラで充実成分に血流豊富なシグナルを伴う腫瘤であった。病理の免疫染色でクロモグラニンA、シ
ナプトフィジン、CD56がいずれも陽性となり、膵神経内分泌腫瘍(pNET)と診断した。本症例は、肝転
移巣の外科的切除は困難と判断し、9月よりスニチニブ内服で治療を開始し継続中である。治療後6ヶ月の
CT検査で原発巣の縮小を認めている。【考察】近年、非機能性のpNETの割合が増えており、その理由は
画像診断の向上によるところが大きいと推察されている。pNETでは、境界明瞭、輪郭整、類円形で血流豊
富な充実性腫瘍が典型像とされている。ただし、5~22%では腫瘍内部に嚢胞変性を認める。嚢胞変性し
たpNETの一般的な特徴は、単房性または多房性、壁は厚く不均一、内面は不整で隔壁や突出した充実成分
を伴うことである。近年、pNETの嚢胞変性例に対するEUS-FNAの有用性が報告されており、本症例でも
FNAにより正診可能であった。【結語】膵嚢胞性疾患の診断の際には、充実性腫瘍の嚢胞変性も念頭にお
きながら鑑別診断を行うべきである。
41 画像診断と病理診断が乖離し減黄に難渋した自己免疫性膵炎の一例
1松本協立病院
小松
外科、2松本協立病院 消化器内科、3健和会病院 病理科
友葵2、玉城 温子2、富田 明彦2、林 誠一3
健一1、石田
症例は60歳代男性。来院1週間ほど前からの黄疸、白色便、体重減少、全身の掻痒感を主訴に前医を受診
した。肝胆道系酵素の上昇、肝内胆管拡張、膵腫大を指摘され精査加療目的に当院紹介となった。腹部造
影CTではびまん性膵腫大、ERCPでは主膵管の不整狭細像と下部胆管の狭搾を認めた。しかし血清IgG4値
は101mg/dlとcut off値以下であり、肝外胆管生検からはIgG4関連硬化性胆管炎に特徴的とされる形質
細胞の著しい浸潤や閉塞性静脈炎、花筵状線維化などの所見には乏しかった。下部胆管狭搾による閉塞性
黄疸に対して胆道ドレナージを 留置したが減黄はすすまず。肝生検も施行したが肝内胆管でもリンパ球主
体の炎症細胞浸潤で形質細胞の浸潤は極少数であった。一部にPSC時にみられるような同心円状の線維化
所見を認めた。自己免疫性膵炎臨牀診断基準(2011)ではAIP疑診ではあったが悪性腫瘍を除外し慎重に
PSL40mg/日で加療を開始した。本症例では画像所見で典型的なAIP所見を呈していたが、組織学的には
AIPに特徴的とされる所見は乏しかった。またステロイド加療開始後も黄疸が遷延し減黄に難渋した。本症
例の経過につき若干の文献的考察を加え報告する。
膵2 14:50~15:20
座長
川井田博充(山梨大学第一外科)
42 当科におけるmFOLFIRINOX療法による膵癌治療成績
新潟県立がんセンター新潟病院 内科
塩路 和彦、安住 基、青柳 智也、栗田
聡、佐々木
俊哉、加藤
俊幸、成澤
林太郎
【背景】近年切除不能膵癌に対する新しい化学療法として、2013年12月にFOLFIRINOX療法が、2014
年12月にゲムシタビン+nab-パクリタキセル療法が保険適応となった。 FOLFIRINOX療法は高い奏効率
が期待できるが、血液毒性や消化器毒性を中心とした副作用が強く、治療に際し適格な患者選択と専門施
設での施行が望ましいとされている。一方、副作用の低減を目的としたmodified FOLFIRINOX療法も広
く行われており、現在前向き試験の解析が行われている。 当科ではオリジナルのFOLFIRINOX療法から
CPT-11の投与量を減量し、5FUの急速静注を中止したmFOLFIRINOX療法を積極的に使用している。
【目的】当科におけるmFOLFIRINOX療法の治療成績をレトロスペクティブに解析し、その有用性と安全
性につき考察する。【対象】2014年4月1日から2016年3月31日まで切除不能膵癌に対し一次治療として
mFOLFIRINOX療法を行った23例。男性 13例、女性 10例。年齢は43歳から69歳。ステージはIVaが3
例、IVbが20例。PS 0が12例、PS 1が11例であった。初回治療前に閉塞性黄疸に対し胆管ステントを留
置した症例が4例あった。全例治療前にUGT1A1遺伝子変異を確認し、ホモもしくはダブルヘテロの症例
ではCPT-11の投与量減量を行った。【結果】CR 0例、PR 10例、SD 9例、PD 4例で、奏効率は43%、
病勢制御率は83%であった。平均観察期間は244日、生存期間中央値は367日、1年生存率は53.9%と過
去の報告と比較しても良好な成績であった。有害事象としてはG3以上の食欲不振を5例、好中球減少を5例、
末梢神経障害を3例、貧血を2例、薬剤性肺障害を2例認めた。ほとんどが休薬や減量、保存的治療により
継続治療が可能であったが、薬剤性肺障害の1例は集学的治療に反応せず、治療関連死となった。【結語】
mFOLFIRINOX療法は症例を選択すれば安全性も高く有用な治療法であり、今後も切除不能膵癌に対する
治療の中心となっていくと思われる。
43 膵癌化学療法中に敗血症性ショックで死亡し、感染源として膵膿瘍が疑われた1例
1JA長野厚生連
三枝
篠ノ井総合病院 消化器内科、2西和田林クリニック
亮1、牛丸 博泰1、林 賢2
久能1、児玉
症例は50歳台男性。8年前に左精巣腫瘍摘出後放射線治療を行われ、当院泌尿器科で経過観察されていた。
黄疸と体重減少のため、当科で精査したところ、Stage IVaの膵頭部癌と診断された。脈管侵襲のため手術
非適応であり、腹部への放射線治療歴もあったため、gemcitabine(以下GEM)とnab-paclitaxel(以下
nab-PTX)の併用化学療法を開始した。3投1休で4サイクル目を投与中に、食欲不振と全身倦怠感が強く
なり、入院加療を必要としたため、以後GEM単独隔週投与に変更した。
GEM単独初回投与後12日目に動けなくなり救急搬送された。血圧が低下し、炎症反応上昇と腎機能障害を
認め、敗血症性ショックと診断した。腹部単純CTでは膵頭部に低吸収域を認め、膵膿瘍が疑われた。全身
状態が悪く、侵襲的な治療は行い得ず、入院5日目に永眠された。剖検の同意は得られなかった。
nab-PTXの重大な副作用として、0.8%に好中球減少の有無にかかわらず、敗血症等の感染症による死亡例
があると報告されている。今後の膵癌に対する治療戦略において、重要な症例と考え報告する。
44 剖検で膵癌の心臓転移を認めた、膵癌と食道癌の異時性重複癌の1例
1新潟県立中央病院
有賀
諭生1、熊木
消化器内科、2新潟県立中央病院 病理診断科
大輔1、横尾 健1、山川 雅史1、平野 正明1、船越
和博1、酒井
剛2
【症例】80歳代男性。【主訴】黄疸、全身倦怠感。【既往歴】X-2年:食道癌(扁平上皮癌;臨床的に
CR)【現病歴】X年4月、食道癌経過観察のCTで膵頭部腫瘍を認め当科紹介となった。EUS-FNAで腺癌
(浸潤性膵管癌)と確定した。高齢であり本人の希望も考慮して放射線照射単独治療の方針とし、5/8より
放 射 線 治 療 を 開 始 し た ( 50Gy/25Fr ) 。 6/27 の CT で 多 発 肝 転 移 を 確 認 、 6/28 よ り TS-1 内 服
(100mg/day;4週投与、2週休薬)による化学療法を開始した。8/5のCTでPR判定であったが、経口摂
取不良、倦怠感が顕著となり抗癌剤治療は中止した。9/17、T-Bil:10.3の黄疸を認め、CTで膵癌増大に
よる胆管狭窄と胸水、心嚢水貯留を認め入院した。循環器内科にコンサルトし検討した結果、心タンポ
ナーデには至っていないと判断し胆管ドレナージを先行する方針とした。9/18にERCP施行、胆管金属ス
テントを留置した。9/19朝から呼吸状態の増悪を認め、循環器内科にて緊急心嚢ドレナージを施行したが、
状態改善せず急速に増悪し同日永眠した。剖検では肉眼で右心室ならびに心室中隔に1cm大の転移巣と食
道壁の肥厚を認め、組織ではいずれも腺癌であり膵癌の転移と考えられた。【考察】心臓転移を来す癌と
しては、乳癌、肺癌、腎癌などの頻度がやや高く、大腸癌、胆道癌、胃癌、食道癌などは頻度が低いとさ
れている。今回検索した限りでは膵腺癌(浸潤性膵管癌)の心臓転移は報告がなく極めて稀と考えられた。
第58回 日本消化器病学会甲信越支部例会
ランチョンセミナー
日時:平成28年6月18日(土) 12:00─13:00
会場:アピオ甲府メインタワー4F 吉光
第58回 日本消化器病学会甲信越支部例会
ランチョンセミナー
座長
飯野
弥 先生(山梨大学第一外科講師)
【実地における大腸癌の化学療法について】
~ファーストラインからサルベージラインまで~
講演要旨
(昭和大学江東豊洲病院腫瘍内科准教授)
嶋田 顕 先生
切除不能・進行再発大腸癌に対する化学療法は、5FU系抗がん剤とoxaliplatinやirinotecanの
併 用 レ ジ メ ン を ベ ー ス に 、 血 管 新 生 阻 害 薬 の bevacizumab 、 抗 EGFR 抗 体 の cetuximab 、
panitumumabの分子標的薬を上乗せした治療法がファーストライン、セカンドラインとして広く
使用されている。また、近年、サルベージラインにおける新規薬剤のregorafenibとTAS-102(ト
リフルリジン・チピラシル塩酸塩)が登場したことにより、ファーストラインからサルベージライ
ンまで多岐にわたる治療法が存在している。本邦の大腸癌診療ガイドラインでは、ファーストライ
ンからサルベージラインまで推奨レジメンが記載されているが、実地における治療法は、各施設の
状況、RAS遺伝子、年齢、合併症などの患者背景によって薬剤の組み合わせ、投与順序を変更して
いる。
5FU系抗がん剤とoxaliplatinやirinotecanの併用についても、各施設の状況により注射ベース
のFOLFOX、FOLFIRI療法とS-1に代表される経口5FUベースの治療法が使い分けられている。
S-1は、本邦で実施されたファーストラインを対象としたSOFT試験、セカンドラインを対象とし
たFIRIS試験により、従来の注射ベースの治療法と同等の効果が認められており、更にポンプフ
リー、外来化療の拘束時間の短縮などのメリットがあげられている。一方、アドヒアランスの向上
のために、下痢、食欲不振などの消化器毒性のコントロールが重要となっている。
TAS-102(トリフルリジン・チピラシル塩酸塩)は、標準治療に不応/不耐となった切除不能・
進行再発大腸癌症例を対象に実施されたRECOURSE試験において、プラセボと比較して全生存期
間の延長および優れた忍容性が示されている。実地におけるサルベージラインの患者に対しては、
全身状態、および前治療薬剤の毒性プロファイルを考慮して、TAS-102 とregorafenibのいずれ
かの薬剤が選択されている。現在、TAS-102においては、分子標的薬との併用が検討、報告され
ており、今後の治療成績の向上に期待がかかる。
以上、本講演ではEvidence based Medicineに基づいた治療成績を交えながら、実地における
大腸癌の化学療法の現状について当教室の症例、治療成績を踏まえながら報告する。
ご略歴
嶋田
顕(しまだ
けん)先生
学歴・職歴
平成 4年
平成 4年
平成 8年
平成 8年
平成 9年
平成 10年
平成 13年
平成 14年
平成 15年
昭和大学医学部卒業
昭和大学大学院医学研究科病理系薬理学入学
昭和大学大学院医学研究科病理系薬理学修了(肝薬物代謝酵素:P450研究)
昭和大学附属豊洲病院消化器科 (員外)助手
テキサス大学MDアンダーソンがんセンター消化器腫瘍学教室留学
昭和大学附属豊洲病院消化器科 (員外)助手
医療法人財団桜会 桜会病院 内科
医療法人財団桜会 あだち共生病院 内科
昭和大学横浜市北部病院 内科 助手
平成 18年 昭和大学横浜市北部病院
内科
講師
平成 24年 埼玉医科大学国際医療センター 腫瘍内科 准教授
平成 25年 昭和大学横浜市北部病院 内科 准教授
平成 26年 昭和大学江東豊洲病院 内科系診療センター 腫瘍内科
准教授
所属学会:
国内:日本内科学会、日本癌治療学会(評議員)、日本臨床腫瘍学会(評議員)
日本消化器病学会、日本胃癌学会(評議員)、日本消化器内視鏡学会、
日本臨床薬理学会
資格:
日本内科学会内科認定医、日本消化病学会専門医、日本内視鏡学会専門医、
日本がん治療認定医、日本臨床腫瘍学会暫定指導医、
日本臨床薬理学会専門医、指導医
日本医師会 産業医
海外:米国臨床腫瘍学会(Active member)、米国癌学会(Active member)
欧州臨床腫瘍学会(Active member)
memo
第10回 日本消化器病学会甲信越支部
専門医セミナー
日時:平成28年6月18日(土) 13:10─14:10
会場:アピオ甲府メインタワー4F 祥華
第10回 日本消化器病学会甲信越支部
専門医セミナー
座長
藤井秀樹 先生(山梨大学附属病院院長)
【胃食道逆流症の病態、診断と治療】
大阪市立大学理事長兼学長
荒川 哲男 先生
講演要旨
胃食道逆流症は、従来の逆流性食道炎と同義語ではない。胃食道逆流症の定義は、2006年のモ
ントリオールでの会議で「胃内容物の逆流によって不快な症状や合併症を起こした状態」とされた。
不快な症状とは「むねやけ」「呑酸」で合併症とは食道粘膜傷害や食道外病変である。食道粘膜傷
害がある場合のみ、従来から逆流性食道炎と診断されていたが、粘膜傷害が無い場合でもQOLを
大幅に低下させることから、胃食道逆流症と一括定義し、前者をびらん性胃食道逆流症、後者を非
びらん性胃食道逆流症として扱うことにしたのである。
本邦では、近年頻度が急速に増加し、欧米並み(10数%)になってきた。睡眠障害を伴うこと
が多く、労働生産性が低下するため、社会問題化している。びらん性胃食道逆流症では、出血、狭
窄、癌化のリスクが増加するため、適切な治療が必要である。非びらん性胃食道逆流症では内科治
療に抵抗するケースが多い。治療抵抗性の胃食道逆流症については、その病態を把握するために
24時間pHインピーダンス・モニタリング法が有用である。食道外病変として、慢性咳嗽や喘息症
候群、咽頭炎、歯牙酸触症候群などがあり、胃食道逆流症に関連するものか否かの鑑別診断が重要
になる。また、胸痛が非典型的な症状として生じることがあり、非心臓性胸痛と呼ばれているが、
心原性の胸痛との鑑別が必要となる。
生活習慣が関係するので、まず、喫煙、飲酒、肥満、遅い夕食などのリスクファクターをチェッ
クし、改善を促す。治療はプロトンポンプ阻害薬(PPI)が第一選択となる。軽度の場合は、H2受
容体拮抗薬のon demand治療でも対処可能である。PPI抵抗性胃食道逆流症に対しては、PPIの倍
量・分割投与や六君子湯の併用が有効とする報告がある。
ご略歴
公立大学法人大阪市立大学理事長兼学長
荒川 哲男(あらかわ てつお)先生
学歴・職歴
1975年 3月
1981年 6月
1987年10月
1990年 2月
1993年 1月
2000年10月
2004年 4月~
2006年3月
2008年 4月~
2012年3月
2012年 4月
2014年 5月~
2014年12月~
2016年 4月
大阪市立大学医学部卒業
医学博士取得
内科学第三教室 講師
米国カリフォルニア大学アーバイン校内科学 客員教授
内科学第三教室 助教授
内科学第三教室 教授 大阪市立大学医学部附属病院消化器内科および
内視鏡センター 部長を兼任
大阪市立大学医学部附属病院副院長
大阪市立大学医学部附属病院副院長
大阪市立大学大学院医学研究科長兼医学部長
一般社団法人 全国医学部長病院長会議 会長
大連大学 客員教授
公立大学法人大阪市立大学理事長兼学長
一般財団法人ものづくり医療コンソーシアム理事、日本消化管学会理事、日本消化器病学会
財団評議員・指導医、日本消化器内視鏡学会評議員・指導医、米国消化器病学会および米国
大学消化器病学会評議員。
第35回 日本消化器病学会甲信越支部
教育講演会
日時:平成28年6月18日(土) 15:50─16:50
会場:アピオ甲府メインタワー4F 祥華
第35回 日本消化器病学会甲信越支部
教育講演会
講演1
座長
榎本
信幸 先生(山梨大学第一内科教授)
「好酸球性消化管疾患の研究と診療の現状」
講演要旨
島根大学第二内科教授
木下 芳一 先生
はじめに
成人の好酸球性消化管疾患は好酸球の病的浸潤部位のちがいによって好酸球性食道炎と好酸球性
胃腸炎に分類されている。好酸球性食道炎は食道粘膜上皮層に多数の好酸球の浸潤を認め、その結
果食道の機能障害を起こす疾患を示し、他の消化管には病変は存在しない。一方、好酸球性胃腸炎
は食道病変の有無にかかわらず胃や腸管に多数の好酸球の浸潤を中心とした炎症が起こり消化管の
機能障害を起こす疾患である。本教育講演では好酸球性食道炎を中心に好酸球性消化管疾患の研究
と診療の現状について解説する。
好酸球性食道炎
好酸球性食道炎は1990年代に入ってから欧米を中心にその増加が注目され始めた。最近の欧米
からの報告では人口10万人当たりの年間発症率は10人程度で、有病率は50人程度であると報告さ
れている。アジアでは報告が少なかったが最近報告例が増加している。男性に多く70-80%の患者
は男性である。半数が何らかのアレルギー疾患を有しており、喘息やアレルギー性鼻炎の合併が多
い。年齢は30-50歳ぐらいに発症ピークがある。
病因は小麦、ミルク、卵、大豆、ナッツ、海産物などの食物や空中の抗原を原因とするとする慢
性のアレルギー反応であろうと考えられている。双子を対象とした調査結果では遺伝的な要因が
20%程度、環境要因が80%程度発症に関係していると報告されている。すなわち、最近の本疾患
の 増 加 は 環 境 因 子 の 変 化 が 重 要 で あ る と 言 え る 。 遺 伝 的 な 素 因 に 関 し て は genome-wide
association study (GWAS) が 行 わ れ thymic stromal lymphopoietin (TSLP) や calpain 14
(CAPN14)の関与が考えられている。TSLPは樹状細胞にTh2系の免疫反応を起こしやすくする働
きがある。CAPN14は食道で高発現するシステインプロテアーゼで炎症を抑制する作用があるこ
とが知られている。さらにTSLPR、eotaxin3、filaggrin、TGFβのSNPが発症に関係していると
する報告もある。環境因子に関しては不明な部分が多く、発症しやすい気象条件や環境に関して
様々な報告が行われているがコンセンサスがない。ただ、ヘリコバクタ―・ピロリの感染に関して
は非感染者に発症が多いとする報告が多い。
成人では胸のつまり感、嚥下障害、胸焼けなどの症状で発症しやすいが、症状が軽く内視鏡検査
で初めて指摘される例も少なくない。血液検査では好酸球の増加は30%程度の例にしか見られず、
程度も軽い。内視鏡検査では食道の中部から下部を中心に縦走溝、多発輪状収縮輪、白斑、狭窄な
どを認める。生検は食道の下部の方が好酸球が多いことが多く、診断感度を高めるためには白斑や
縦走溝上の生検を行うのがよい。400倍の高倍率視野で15個以上の上皮内好酸球が見つかれば好
酸球性食道炎の可能性が高くなる。
好酸球性食道炎であろうと判定されればPPIの標準量以上の投薬を2か月以上行う。その後、症
状、内視鏡像、組織所見の改善が見られればPPI反応性食道好酸球増加(PPI-REE)と呼ばれ好酸球
性食道炎と区別して扱われるが、好酸球性食道炎とPPI-REEとの間には臨床像、内視鏡像、組織像、
食道粘膜での遺伝子発現に差がないとする報告があり、区別できないとする論文も多い。PPIが有
効でなければ局所作用ステロイドを口腔内に散布し唾液とともに嚥下させ、食道粘膜に直接に接触
させる治療を行う。ステロイドの使用期間は報告によりまちまちであるが12週間程度で中止して
その後の経過を見ている報告が多い。
欧米では無治療では15年程度で半数の例に食道狭窄が出現するとする報告がある。また、治療
を中断すると高率に再発することが報告されており、長期にわたる治療を必要とすることが多いと
されている。日本での長期予後に関する成績は報告されていない。
講演要旨
好酸球性胃腸炎
日本では好酸球性食道炎よりも患者数がはるかに多いとされてきた。ところが最近の集計では発
症数は好酸球性食道炎の4分の1程度であり、好酸球性食道炎よりも少ない。ただ、小腸に病変が
存在することが多いためか症状が強く入院治療を必要とする頻度は高い。男女は同数で広い年齢層
に発症する。
好酸球性胃腸炎の病態の十分な解析は行われていない。好酸球性食道炎の食道でのmRNA発現と
好酸球性胃炎例の胃でのmRNAを比較した検討では2疾患に強い類似性が認められており病態が類
似していると考えられている。ヘリコバクター・ピロリの感染者も好酸球性食道炎同様健常者と比
べて有意に低い。
症状は腹痛と下痢で発症することがおおい。血液検査では好酸球増加を認める例が80%を占め、
白血球増加やCRPが陽性となるものも少なくない。CT検査で半数以上の例に腹水を認め、腹水中
には好酸球が多い。腸管壁の限局性の肥厚を認めることも多い。内視鏡検査では発赤、浮腫、びら
ん、潰瘍などを認めるが非特異的で生検組織診断が必要となる。健常者の消化管の粘膜固有層内の
好酸球数は部位によって異なっており、健常者でも回腸や右側結腸ではかなり多くの好酸球を認め
るので病理組織診断上注意が必要である。
ステロイドが用いられるが3分の2の例ではステロイド治療に抵抗したり、減量にともなって再
発を繰り返し治療が困難となる。その他の治療法に関しては十分なエビデンスはない。
終わりに
好酸球性消化管疾患は他のアレルギー疾患とともに先進国において増加しつつある疾患で日本に
おいても増加していると考えられる。今後、多数例での臨床データの集積が必要である。
ご略歴
木下
芳一(きのした
よしかず)先生
学歴・職歴
学
歴:
昭和 49年 3月 兵庫県立加古川東高等学校卒業
49年 4月 神戸大学医学部入学
55年 3月 同上卒業
55年 5月 医師国家試験合格
55年 6月 医師免許証下付
58年 4月 神戸大学医学部大学院入学
62年 3月 同上修了
職歴及び研究歴:
昭和55年
7月 神戸大学医学部附属病院内科研修医
56年 7月 宇和島市立病院内科医員
62年 6月 米国ミネソタ州メイヨクリニック生理学にResearch Fellowとして留学
平成元年 8月 三木市民病院消化器科医長
4年 7月 神戸大学医学部老年科助手
6年 9月 神戸大学医学部老年科講師
9年 9月 島根医科大学医学部内科学講座第二教授
14年 2月 島根医科大学医学部附属病院光学医療診療部部長(兼任 ~18年4月)
14年 4月 島根医科大学卒後臨床研修センター・センター長(兼任 ~17年3月)
15年 10月 島根大学医学部消化器・肝臓内科学講座教授(大学合併により変更)
16年 11月 島根大学医学部副学部長(兼任、~19年9月)
17年 4月 島根大学評議員(兼任、~18年3月)
18年 4月 島根大学医学部内科学講座第二 教授(講座の名称変更)
19年 10月 島根大学医学部長(兼任、~21年9月)
24年 4月 島根大学医学部附属病院副院長(兼任、~ )
所属学会等:日本内科学会(評議員、中国支部副代表) 日本消化器病学会(副理事長)
日本消化器内視鏡学会(評議員) 日本超音波医学会
日本肝臓学会
日本消化管学会(理事)
日本癌学会
日本老年病学会
日本高齢消化器病学会(常任理事 胃病態機能研究会(幹事) 壁細胞研究会(幹事)
日本食道学会(評議員)
日本神経消化器病学会(理事)
松江地方裁判所専門委員
American College of Gastroenterology. fellow
American Gastroenterological Association, member
Digestion, associate editor
Esophagus, editorial board member
医学と薬学編集顧問
分子消化器病編集幹事
Frontiers in Gastroenterology編集協力者
Journal Reviewer:Journal of Gastroenterology and Hepatology, Oncology,
Cancer Research, Alimentary Pharmacology and Therapeutics
Oncogene, Am J Gastroenterology
認定医:日本内科学会 指導医 日本消化器病学会 指導医
日本消化器内視鏡学会 指導医 日本超音波医学会 指導医
日本消化管学会 指導医
賞 罰:平成5年度日本医師会医学研究助成費(平成5年)
第9回日本消化器病学会奨励賞(平成8年)
第10回日本消化器病学会総会会長賞(平成9年)
平成11年度上原記念生命科学財団研究助成(平成11年)
島根大学優良教育実践表彰(平成24年)
業 績:著書・論文 1590編(欧文545、和文1045)
memo
講演2
座長
佐藤
公 先生(山梨大学第一内科准教授)
「門脈圧亢進症の病態と診断、治療」
講演要旨
日本医科大学多摩永山病院院長
吉田 寛 先生
食道胃静脈瘤に対する治療法は、以前は直達手術やシャント手術などの手術療法が唯一の治療法
であり、門脈圧亢進症は外科医主導で治療されていた。直達手術は、食道離断術、Hassab手術、
胃上部切除術などが開発され本邦で普及した。シャント手術は、当初は門脈大循環シャント術に代
表される門脈圧減圧手術が中心であったが、肝不全、高アンモニア血症などが問題となり、門脈圧
を維持しながら静脈瘤だけ減圧する選択的シャント術が開発された。各種術式は工夫・改良されて
いったが、緊急例、肝機能不良例に対する治療成績は惨憺たるものであった。1980年頃よりIVR
が導入され治療成績は向上した。門脈圧亢進症に対するIVRには門脈側副血行路塞栓術(PTO,TIO)、
部分的脾動脈塞栓術(PSE)、経皮的肝内門脈静脈シャント術(TIPS)などがある。バルーン下逆行性
経静脈的塞栓術(B-RTO)は本邦で開発され普及した。また内視鏡的治療として内視鏡的硬化療法
(EIS)、内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)が開発され、食道胃静脈瘤治療は内視鏡的治療が中心となり、
門脈圧亢進症の治療に携わる外科医が減少していった。しかし今日では肝移植など門脈圧亢進症の
原疾患に対する治療が行われるようになり治療成績は更に改善し、再び外科医が治療に携わるよう
になってきた。
各治療法にはその時代に中心的治療法となった理由があり、他の治療法には無い特徴がある。
IVRは内視鏡的治療の普及にて一旦影を潜めたが、B-RTOは今日でも胃静脈瘤に対する中心的な治
療法であり、またPSEはウイルス性肝疾患に対するインターフェロン療法の際の血小板増加目的に
再び注目され、更に肝機能改善効果も報告されるようになり、今日では活発に施行されるように
なってきた。内視鏡的治療では、EVLは導入当初は簡便であることから急激に普及したが、再発率
の高さが原因で見直された。EISとEVLの様々なcombined therapyも開発されたが、最近はEVL
の施行間隔を工夫して治療成績が向上し再び注目されている。また内視鏡的治療およびIVRによる
治療困難例には、手術療法も行われている。
門脈圧亢進症治療において、病態の理解と血行動態の把握は重要である。近年、手術療法は保存
療法の難治例つまり複雑な血行動態に陥った症例に対する最終手段として位置づけられることが多
くなったが、手術療法は外科医が長年にわたる門脈血行動態研究に基づいて開発し工夫改良された
治療法で、手術療法を理解することは門脈血行動態を理解する近道と言える。
今回は、食道胃静脈瘤に対する治療戦略の変遷を示すとともに、門脈圧亢進症に対する集学的治療
について解説する。
ご略歴
吉田
寛(よしだ
ひろし)先生
学歴・職歴
1986年 3月
1986年 6月
1992年 3月
2003年 10月
2005年 4月
2010年 1月
2011年 4月
2011年 10月
2014年 10月
2016年 4月
日本医科大学卒業
日本医科大学第1外科(現 消化器外科)入局(研修医)
日本医科大学大学院(第1外科学)修了
日本医科大学外科 講師
日本医科大学外科 准教授
日本医科大学多摩永山病院外科 准教授
日本医科大学多摩永山病院外科 部長
日本医科大学多摩永山病院外科 病院教授
日本医科大学多摩永山病院 副院長
日本医科大学多摩永山病院 院長
現在に至る
【専門】 肝胆膵脾門脈外科、肝移殖、IVR、超音波を中心とする画像診断学
所属学会
日本外科学会
日本消化器外科学会
日本消化器病学会
日本消化器内視鏡学会
日本肝臓学会
日本超音波医学会
日本肝胆膵外科学会
日本移植学会
日本臨床腫瘍学会
日本内視鏡外科学会
日本胆道学会
日本腹部救急医学会
日本門脈圧亢進症学会 日本癌治療学会
日本がん治療認定医機構暫定教育医
日本臨床外科学会、日本医科大学医学会、日本外科系連合学会、日本消化器癌発生学会
日本膵臓学会、日本化学療法学会
American College of Surgeons International Fellow
International Association of Surgeons & Gastroenterologists
International Society of Surgery (ISS)(万国外科学会) Active member
International Association of Pancreatology (IAP)
評議員・理事
日本門脈圧亢進症学会
日本肝臓学会
日本腹部救急医学会
日本消化器外科学会
日本臨床外科学会
日本超音波医学会
評議員、理事
評議員
評議員
評議員
評議員
代議員
日本肝胆膵外科学会
日本消化器内視鏡学会
日本消化器病学会
日本外科系連合学会
日本外科学会
日本内視鏡外科学会
Editorial Board
Editor-in-Chief
International Journal of Gastroenterology Disorders & Therapy
Editor
World Journal of Gastroenterology
Digestive Endoscopy (Reviewer)
World Journal of Hepatology
World Journal of Radiology
Digestive Disease and Science (Reviewer)
Journal of Gastroenterology and Hepatology Research
Dataset Papers in Medicine
Conference Papers in Medicine
Journal of Nippon Medical School
American Journal of Cancer Review
American Journal of Clinical Cancer Research
Journal of Radiology & Radiation Therapy
評議員
評議員
評議員
評議員
代議員
評議員
Palliative Medicine and Nurcing
Journal of Radiology Research and Practice
Austin Journal of Surgery
Frontiers in Visceral Surgery
Journal of Emergency Medicine and Surgical Care (EMSC)
Journal of Radiation Oncology & Research
Journal of Clinical Gastroenterology and Hepatology
Journal of Surgery and Transplantation Science
Hepatoma Research
Journal of Cardiovascular Disorders
Journal of Hypertension and Management
Asian Journal of Clinical Research
Portal hypertension
SRL Surgery
Clinical Journal of Gastroenterology
その他
東日本学生相撲連盟理事
国際相撲連盟医事委員
日本オリンピック委員会強化スタッフ(医•科学スタッフ:相撲)
日本医科大学相撲部部長
相撲4段
石川県人会理事
いしかわ観光特使
memo
講演3
座長
松田
政徳 先生(山梨大学第一外科准教授)
「肝内胆管癌の病態と診断、治療」
講演要旨
大阪市立大学肝胆膵外科教授
久保 正二 先生
肝内胆管癌は世界的に増加傾向にあるが、本邦においても増加傾向にあると報告されている。肝
内胆管癌を含む胆管癌の危険因子として、肝内結石症、膵・胆管合流異常(先天性胆道拡張症)、
原発性硬化性胆管炎、肝吸虫やニトロソアミンなどの化学物質が知られている。近年、B型肝炎や
C型肝炎に加えて糖尿病や肥満などが胆管癌の危険因子として注目され、2014年には印刷労働者
に多発した胆管癌をきっかけに1,2-ジクロロプロパンやジクロロメタンが危険因子であるとWHO
によって認定された。
肝内胆管癌の肉眼型は腫瘤形成型、胆管浸潤型および胆管内発育型に、また、発生部位によって
末梢型と肝門型に分類される。一般的にC型肝炎などに伴う肝内胆管癌では主として末梢型で、腫
瘤形成型が多く、肝内結石や肝吸虫に伴う肝内胆管癌では肝門型で、胆管浸潤型が多い。また、
Biliary intraepithelial neoplasiaやIntraductal papillary neoplasm of the bile ductが肝内胆
管癌の前癌病変として知られている。肝内胆管癌のなかで胆管内発育型は少数であるが、印刷労働
者にみられた塩素系有機溶剤が原因と考えられる肝内胆管癌では、胆管内発育型が比較的多くみら
れた。
肝内胆管癌に対しては外科治療が第1選択となり、肝切除が基本となるが、リンパ節廓清につい
て一定の見解はみられていない。すなわち、リンパ節転移を伴う肝内胆管癌は基本的に手術適応と
ならないとの報告から、リンパ節廓清を伴う積極的な外科治療が予後改善に有用であるとの報告ま
でみられる。このリンパ節転移やリンパ節廓清の意義を考慮しつつ、2015年、原発性肝癌取扱い
規約が改訂された。そのポイントにはS因子の削除、腫瘍径(2 cm)の継続、肝門部胆管への浸潤
(B3、B4)をMajor biliary invasionとして規定したことが含まれる。最も重要なポイントはリ
ンパ節転移陽性例に対する治療を考慮した進行度分類(Stage)の改訂である。すなわち、以前の
取扱い規約ではリンパ節転移陽性例はStage IVBに分類され、基本的に手術適応とならないとの考
え方であったが、リンパ節転移を伴うもののT4でない症例(特に、肝内転移を伴わない症例)で
は切除によって長期生存例がみられることから、T1-3、N1症例をStage IVAに分類し、外科的治
療の可能性を示したことである。なお、T4、N1症例は生存率が極めて低いことからStage IVBに
分類されている。
近年、肝内胆管癌に対する化学療法が急速に進歩し、治療成績全体が向上しつつある。今後、外
科治療や化学療法を含めた集学的治療によって肝内胆管癌の治療成績は向上するものと考えられる。
ご略歴
久保
正二(くぼ
しょうじ)先生
学歴・職歴
昭和56年 3月 大阪市立大学医学部卒業
昭和56年 6月 大阪市立大学医学部附属病院臨床研修医(第2外科)
昭和62年 3月 大阪市立大学大学院医学研究科修了
昭和63年 4月 英国ケンブリッジ大学外科(移植外科)留学
平成元年10月 大阪市立大学医学部第2外科助手
平成4年3月~9月 米国テキサス大学 MD Anderson Cancer Center外科留学
平成8年 10月 大阪市立大学医学部第2外科講師
平成17年 1月 大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵外科学助教授(准教授)
平成23年 4月 神戸大学客員教授
平成24年 4月 大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵外科学 病院教授
平成27年 2月 職業性胆管癌臨床・解析センター センター長
学会等
日本外科学会代議員、日本消化器外科学会評議員、日本肝臓学会評議員、日本消化器病学会財団評
議員、日本臨床外科学会評議員、日本肝胆膵外科学会評議員、日本移植学会評議員、日本化学療法
学会評議員、日本腹部救急医学会評議員、日本消化器癌発生学会評議員、日本外科感染症学会理事、
日本肝癌研究会幹事、日本肝移植研究会世話人、肝臓内視鏡外科研究会世話人、膵臓内視鏡外科研
究会世話人、Microwave Surgery研究会世話人
日本肝臓学会 肝癌診療ガイドライン改訂委員会委員、専門医試験問題作成委員
日本肝癌研究会「原発性肝癌取扱い規約」規約委員、肝癌治療効果判定基準作成委員会委員
日本消化器外科学会 学術委員会委員、評議員選出小委員会委員
日本外科感染症学会・外科周術期感染管理医認定制度委員会担当理事、医の質・安全委員会委員
日本肝胆膵外科学会 利益相反委員会委員
日本移植学会 臓器移植後の妊娠・出産に関するガイドライン作成委員会委員
日本化学療法学会 術後感染予防抗菌薬適正使用ガイドライン作成委員会委員
編集委員
日本外科感染症学会会誌編集委員会委員
日本外科系連合学会誌編集委員会委員
Journal of Clinical Gastroenterology Editorial Board
資格等
日本外科学会指導医、日本消化器外科学会指導医、日本消化器病学会指導医、日本肝臓学会指導医、
日本肝胆膵外科学会高度技能指導医、Infection Control Doctor、日本化学療法学会抗菌化学療法
認定医、日本胆道学会指導医、日本外科感染症学会外科周術期感染管理教育医、日本移植学会移植
認定医
受賞
1991年公益信託白羽記念医学研究者育成基金 白羽賞
1994年第39回 大阪市医学会市長賞
1997年第42回 大阪市医学会市長賞
2004年日本肝臓学会 Hepatology Research賞
2006年第51回 大阪市医学会市長賞
2012年第57回 大阪市医学会市長賞
2015年 日本肝胆膵外科学会賞 高田賞
2015年 日本消化器外科学会賞 Science of The Year
memo
謝
辞
本会を開催するにあたりまして、多くの企業より多大なるご協力ならびにご厚情を
賜りました。この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
EAファーマ株式会社
一般社団法人日本血液製剤機構
第一三共株式会社
大鵬薬品工業株式会社
中外製薬株式会社
バイエル薬品株式会社
豊前医科株式会社
ブリストルマイヤーズ
株式会社ツムラ
株式会社ヤクルト本社
株式会社陽進堂
協和医科器械株式会社
協和発酵キリン株式会社
武田薬品工業株式会社
帝人ファーマ株式会社
日本イーライリリー株式会社
日本化薬株式会社
マコト医科精機株式会社
MeijiSeikaファルマ株式会社
持田製薬株式会社
第58回日本消化器病学会甲信越支部例会
会長 松田 政徳