講演ダイジェスト 第336回 技術サロン 東京都における浸水対策の 取り組み 東京都下水道局計画調整部緊急重点雨水対策事業担当課長 中井 宏 第336回技術サロンでは,入庁以来,河川や下水道の浸水対策に最前線で取り組んできた東京都下水道局 の中井担当課長にこれまでの浸水対策の歴史から現状,さらに今後の浸水対策がどのように変わっていくか, その展開についてご講演いただきました。 東京都の浸水対策の歴史と現状 浸水対策に役立てることが必要になります。さらに, 住民の備えを支援する取り組みも必要とされています。 東京都の浸水対策は当初,計画降雨を31.7㍉/時と 一方で河川・下水道の連携が求められていますが, していましたが,大正2年には50㍉/時に変更され, 大切なことは河川・下水道のストックを有効に使い, 都市化に伴う雨水流出量の増大に対応して昭和57年に トータルで最適な施設増強を行うことではないかと考 は緊急雨水対策整備事業が計画されました。ここでは えています。さらにもうひとつの課題は水防法の改正 流出係数を0.8相当へと再設定しましたが,この計画 で,この法改正によって下水道管理者の責務が大きく の考え方は,現在の浸水対策においても引き継がれて 変わることが予想されます。雨水出水特別警戒水位を います。さらにその後,「できるところからできるだ 設定して,その水位に達した場合に地下街などの利用 けの対策を」をコンセプトとした,雨水整備クイック 者に知らせ,避難などへの備えに役立てようというも プラン(平成12年策定)を経て,25年には豪雨対策下 のですが,下水道管内水位というのは変化が早く,こ 水道緊急プランが策定され,一部の地域で限定ではあ のような水位の設定は,かなり難しいものになること りますが75㍉/時対応に踏み出しました。 が予想されます。 現在の浸水対策の状況ですが,浸水被害が発生する 東京下水道における超過降雨対策は,将来,区部全 危険のある箇所において重点的に事業を進めていま 域において時間75㍉を整備する可能性を考える必要が す。現在,時間50㍉の浸水解消率は67%となっていま あると考えています。下水道は河川とは違い面整備が す。しかし,最近頻発している時間100㍉を越える集 重要で,幹線の増強の他,枝線での対策が鍵を握りま 中豪雨に対応するにはハードだけでは限界がありま す。そのことから,枝線を含む能力評価と能力不足の す。東京アメッシュ(当局が提供する降雨情報に関す カ所の対策手法の考案が必須ですが,密集した市街地 るWebサービス)のリニューアルや浸水予想区域図 で枝線管渠を増強することは非常に難しいため,既存 の提供などソフト対策も同時に進めていかなければな の施設の能力を最大限活用して,増強しなければなら らないと考えています。 ない箇所を最小限にするような計画を立てる必要があ これからの浸水対策の課題 ります。これまでの浸水対策は,合理式を基本とした 面的な能力増強が主だったと思いますが,超過降雨対 国は新下水道ビジョンのなかで,雨水管理のスマー 策では効率的な整備が必要で,流出解析シミュレー ト化を打ち出しています。その中で,既存ストックの ションにより既存施設の弱点を把握し,「必要なとこ 能力を的確に評価し,活用することが提唱されていま ろに必要な整備を行う」という考えが必要になってく すが,そのためには,流出解析シミュレーションの実 ると思います。 施と管内水位の計測により既存施設の能力を把握し, 下水道機構情報 Vol.10 No.21 ̶̶ 7
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