授業実践例1

Pre-lesson と Let’
s Start を有効活用し,
効果的な授業のスタートを!
山下 喜世子
東京都八王子市立第五中学校 1.「世界の国からこんにちは」で授業開き
表紙を開けると目に飛び込んでくるのは,
が使われていることがわかります。また,色
分けされていないところでも,英語が通じる
様々な国の子どもたちの笑顔,そして世界地
人々がたくさんいることも話題にして欲しい
図です。平成 18 年度版の TOTAL ENGLISH
と思います。外国語の中で英語を学ぶ意味を
まではずっと続いていたページですが,平成
きちんと考えさせてから学習のスタートを切
24 年度版で一度姿を消しました。理由は,
ることは,これからの英語の時間を充実させ
小学校外国語活動のための英語ノートや Hi,
る大きな,大きな力となることと思います。
を避けようとしたためです。今回,平成 28
Pre-lesson と Let’s Start を経て,Chapter 1 か
friends! に類似のページがあることから重複
2.英語への扉,OPEN!
年度版の作成に当たりこのページを復活させ
ら始まる Lesson へとつなげていきます。小
たのは,教科としての「英語」と向き合うは
学校での外国語活動では,「聞く」「話す」を
じめの時間に生徒が英語の学習により興味を
重点的に行うことを意識しています。中学校
もち,「なぜ英語を学ぶのか」の答えをそれ
に入ったら急に「読む」「書く」に特化する
ぞれが引き出すのに役立つと考えたからです。
のではなく,引き続き「聞く」「話す」活動
「世界には,一体いくつの言語があるのだ
も大切にしていきましょう。Pre-lesson では,
ろうか。」「世界中にはどんな文字があるのか
文字指導に入る前に会話を聞いたり,自己紹
な。」などなど,生徒たちの頭の中に,疑問
介をしたりすることで,小学校の外国語活動
が次々にわいてくるはずです。言葉について
でコミュニケーション能力の素地がどの程度
考えることは,これから外国語を勉強するス
養われているかを,より観察しやすくなるよ
タートラインに立つ生徒たちにとって,とて
う工夫し,活動も Step by Step で行えるよう
も大切な時間となります。このページに紹介
にしました。さまざまな活動を通して,生徒
した挨拶は,きっと TV や映画で耳にしたこ
1 人ひとりの意欲や理解度などを先生方が授
とがある,と言う子もいるでしょう。先生方
業の中で観察し,実態をつかんでいくのがこ
も照れずにその気になって CD の音を真似し,
のページの大きなねらいです。出身小学校に
10 通りの「こんにちは」をマスターして,
よって取り組みの差は少なからずあるはずな
生徒たちの前で披露してください。そうする
ので,授業内観察をじっくり行いながら生徒
ことで,生徒たちにとって耳慣れない音でも,
たちとの関係も作っていける,大切な時間と
「真似して言ってみよう」という意欲にス
なるでしょう。
イッチが入るはずですから。また,このペー
Pre-lesson は,「小学校で学んだ英語表現を
ジの子どもたちの笑顔にも注目し,非言語に
思い出す」ことを目標にして構成されていま
よるコミュニケーションについても触れてお
す。文字を読むのではなく,「聞いて理解す
くとよいでしょう。
る」ページとして活用していただきたいと思
次に,色分けされた世界地図に注目します。
「主として英語を母語(あるいは共通語)と
している地域」をみると,多くの場所で英語
います。
3.Let’
s Start 〜文字との出会い〜
28 年 度 版 で は,Let’s Start で The Alphabet
教科研究 TOTAL ENGLISH No.125
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[特集]新しい TOTAL ENGLISH をこう使う
に続いて「つづりと発音」に注目した活動を
で徹底して何度も聞いたり,一緒に発音した
4 ページ新設しました。このはじめの段階で, りを繰り返し,定着することを目指します。
つづりと発音のルールすべてについて説明す
Step 3 ではここに挙げられた単語の発音が確
ることは生徒たちにも大きな負担となります
認できます。大きな声ではっきりと自信を
ので,本当に初歩の初歩,という部分だけで
もって言えるように仕向けていきます。1 人
すが,アルファベットと音の関係を学べるよ
ひとつ読んで次々にリレーしていく,グルー
う工夫してあります。
プや列ごとの早読み競争をする,などの工夫
ま ず The Alphabet の ペ ー ジ で, ア ル フ ァ
ベットには「名前」と「音」があることを知
で飽きずに活動することができます。Step 4,
5 で は, そ れ ぞ れ 単 語 の initial letter と final
らせます。そして「つづりと発音」のページ
letter を聞き取る活動が提示されています。
で,音の足し算で単語の発音が成り立つもの
イラストを見ると知っている単語ばかりなの
があることに気づかせます。文字の組み合わ
で答えをすぐに書きたがる生徒もいるかと思
せで発音が決まる,ということです。一方,
います。一方で何をしようとしているのか理
日本の文字(ひらがな / カタカナ)はひとつ
解できずに困っている生徒もいるかもしれま
の文字が発音そのものを表していて,文字の
せん。Step 1 を参照したり,もう一度確認し
組み合わせで音が変わるのではないことにも
たりすることを惜しまずに行えば,全員がき
触れるとよいでしょう。リスニングによるク
ちんと理解してこの活動についてくること間
イズ形式や,ワードサーチ,ビンゴゲームな
違いなしです。「音」に注目して,自分の耳
どにより,少しでも興味・関心を引くことが
をしっかりと働かせることを意識づけます。
できるようにと考えられています。
楽しい雰囲気でこのページを乗り切ることも
「音の足し算」の導入,「つづりと発音 A」
大切です。「飽きずに繰り返すということ」
の Step 1 は,英語の単語はアルファベットの
を授業の Key にしていくと,生徒たちの力
組み合わせにより発音が決まる,ということ
を伸ばす大きな力となるはずです。
を体験的に学ぶことができるページです。ア
「つづりと発音 B」は,音と文字の関係を
ルファベット単独の「音」を大げさなほど
書くことによって確認する活動です。単語を
はっきりと発音して聞かせながら,だんだん
聞いて抜けている文字を書く活動や,文字を
次の音との間隔を縮めて「パチッ!」と手を
並べ替えて単語を書く問題が提示されていま
たたきながらひとつの単語になった発音まで
す。Step 3 ではワードサーチ,Step 4 ではビ
持っていくとよいでしょう。
ンゴゲームと,「書く・読む・聞く」ことを
例)hat
総合的に体験できる活動が続きます。慣れて
きたら,白紙のビンゴシートを用意し,単語
お・も・て・な・し!のように 1 文字ずつ
を書いて(あるいは,実態によってはイラス
h...a...t h..a..t h.a.t
hat!
[h...2...t] [h..2..t] [h.2.t] [h2t]
トも可)新たなビンゴゲームを楽しむのもよ
いでしょう。
スタートの時点で少なくともここまで知っ
ていれば,あとはページがすすむにつれいろ
いろな単語と出会い,
「どう読むのだろう?」
Step 2 で Listening の 活 動 を し ま す が, 生
と興味をもつことができる土台はできあがっ
徒たちの音に対しての理解度をしっかりと図
たと言ってよいでしょう。Chapter 1 から始ま
ることができます。正答率が低いものはここ
る本課では,各本文ページの下(欄外)に
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「つづりと発音」を引き続き学べるように,単
が,「 お や す み な さ い 」 の 表 現 や,“Good
語が抜き出してあります。文字と音の関係を
morning.” が使われる時間の幅が日本とは感
意識できるように,是非注目させてください。
覚のずれがあることなどに気付かせるのもお
生徒たちが自分の力で英語を読もうとする力
もしろいかと思います。日本では,正午近く
がついて,
「読める!」と自信がもてるように
に「おはようございます」と言ったらちょっ
なれば,という願いを込めて作られている
と気恥ずかしいでしょうが,英語では午前中
コーナーで,Book 1 だけでなく,Book 3 まで
の範囲が morning なのだ,ということや,つ
ずっと続けて設けられています。はじめの段
いでに afternoon の意味も考えさせるチャン
階で紹介しておくと,
「つづりと発音」に少し
スとなります。「世界の国からこんにちは」
でも興味をもった生徒ならどんどん自力で英
で,笑顔がコミュニケーションの大切な要素
語を声に出して読み始め,積極的に「読んで
であることに触れた後ですので,イラストの
みよう」という気持ちになれると思います。
笑顔にも注目し,実際に自分たちも笑顔であ
4.「身の回りの英語」
いさつを交わしてみるとよいでしょう。教室
14 ページから 17 ページの「身の回りの英
の中では時間が一定ですが,たとえば黒板に
語」では,CD や教師の発音を聞いて,生徒
時刻を大きく書き,それに合わせてあいさつ
たちから「えーっ!」という声が出てくるこ
をする活動も生徒は結構楽しみます。今書い
ともあるかと思います。小学校で聞いてきた
てある時刻をさっと消して,違う時刻にした
ものも数多く含まれるかもしれませんが,日
ら,“It’s three in the afternoon.” などと英語で
本語で親しんでいるカタカナの言葉と英語と
アナウンスします。基本的な表現が自然と耳
の発音の違いにしっかり注目するよう仕向け
に馴染んでいきます。
るとおもしろい活動になるかと思います。文
字で示しているもの以外にも,生徒が興味を
もてば,英語で何と言うかどんどん教えても
よいでしょう。wall, blackboard, bench, glove,
cushion, CD player などなど,知りたがる要素
があちこちにちりばめられていますので,一
緒にイラストをじっくり見て小さなものも探
すぐとなりの右ページには Chapter 1 の扉
してみてください。より多くの英語に触れる
があり,あいさつのページに登場している
チャンスととらえていただければ,と思いま
Miku, Hiro, Ms. Allen が何か話している様子
す。教科書の中に文字として提示するのには,
が 見 え ま す。Lesson 1 〜 3 の Lesson Title が
どうしても限りがありますので,最低限示し
イラストの下にありますので,是非先生方が
てあると考えていただきたいです。生徒たち
声に出して読んでみてください。その英語を
の興味は無限です。
聞けば,今までに聞いた(使った)ことのあ
5.Let’
s Start
る表現だ,と気付く生徒も多いはずです。
最後のページ「あいさつをしよう」
時間で使い分けるあいさつや,いつでも使
えるものがあることを知り,ALT や英語担
Chapter 1 の扉までが,Let’s Start のページと
とらえてもいいくらいです。
1 人でも多くの生徒たちが,親しみをもっ
当教師とのあいさつに気軽に使えるようにし
て Chapter 1 の扉を開けて英語の世界へ笑顔
ましょう。これらは小学校での外国語活動で
で飛び込むことができますように,と心から
もすでに紹介されている表現がほとんどです
願ってやみません。
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