上智大学・大学院教授 [18] 先日,編集部から『平成 28 年度版 TOTAL 清水 崇文 (4A),「 シ ョ ッ ピ ン グ 」(4B),「 道 案 内 」 ENGLISH』の見本が届いた。私がこのコラ (Talking Time)などであるが,Chapter 2 では の改訂である。その新しい TOTAL ENGLISH そして,こうした「場面」では,それぞれの てみたい。 為(言語の機能)のやりとりが行われる。 ムを担当してから,早いものでこれが 2 度目 から,今回は Book 2 の Chapter 2 を取り上げ 「英 語を使う必要性」が動機づけを 高める! これらの場面が満遍なく取り上げられている。 場面での目的を果たすために,様々な発話行 Chapter 2 のモデル会話でも,「質問」「助言」 「ほめ」「申し出」「感謝」「依頼」「許可求め」 「誘い」「提案」など,多様な発話行為が遂行 日本国内で英語を学習している生徒たちが されている。こうした発話行為を授業で導入 「英語を使う必要性」を感じる機会は少ない する際に注意するべき点を語用論の観点から ため,英語を学ぶ動機づけを維持することは 見ていこう。 難しい。「英語を使う必要性」を感じるため には「英語を使わざるを得ない状況」に身を 置く必要があるが,そのための最も手っ取り <質問> この Chapter では「Excuse me. + 質問」が 早い方法は(英語圏への)海外旅行であろう。 頻出する。これは話しかけられるとは思って そこで Chapter 2 である。この chapter では, いない相手に質問をしたいときに使われるパ 主人公 Hiro のロンドンへの一人旅がトピッ タ ー ン で,Excuse me. に は「 注 意 喚 起 」 と クになっている。Hiro の海外旅行を追体験 「邪魔をして申し訳ないという気持ち」(相手 することによって,生徒たちは「英語を使う への配慮)が込められているため,これを省 必要性」を認識し,コミュニケーションの必 いていきなり質問すると失礼になってしまう。 需品として英語を学習しようという動機づけ が高まる効果が期待できる。また,中学 2 年 Excuse me. Will we arrive at 3:50?(p.36) り,ショッピングをしたりできることに気付 Excuse me. What’s the lunch special for today? 生の英語力でも,海外でレストランに行った Excuse me. What do I write here?(p.38) き,自分も Hiro のように海外に行ってみた (p.46) である。 (p.56) いなと思うようになってくれたらしめたもの 「海 学ぶ場面の宝庫! 外旅行」は多様な発話行為を 海外旅行に行くと,誰もが同じように,英 語でのコミュニケーションが必要な「場面」 Excuse me. How can I get to the post office? 一方,話しかけられる(質問される)のが わかっている相手に対しては,次のように Excuse me. は不要である。こうした違いを生 徒に認識させることが大切である。 を経験することになる。それらは,「機内」 (3A ~ C),「入国審査」(3D),「レストラン」 What’s the purpose of your visit?(p.40) 16 教研英語126.indd 18 15/09/17 10:32 <助言>(質問への応答) 前述の質問のうち,入国カードへの記載内 (p.46) Could you help me, Dad?(p.55) 容や道順を尋ねる質問は,形式上は「質問」 であるが,実質的には「助言の依頼」として 返 答 は,『Target Sentence』(p.47) に あ る 機能している。それらに対する返答を見ると, よ う に, 肯 定 な ら Sure., 否 定 な ら Sorry, I 次のように命令形が使われている。 can’t. が基本である。否定とは相手の依頼を 引き受けないことなので,断られる相手の気 Just write your hotel address.(p.38) 持ちに配慮して “Sorry.” と一言謝罪する必要 corner.(p.56) 娘の Olivia の依頼に “No.” と答えているのは, Go along this street, and turn left at the first が あ る。『Reading』(p.55) の 会 話 で Dad が 宿題は自分でやるものなので謝る必要がない これらの「助言」は相手の利益になる行為 からだということを説明しておきたい。 を勧める内容なので,命令形のみ(please も 不要)でも失礼にならない。上の例はどちら <誘い><提案> も目上から目下への助言となっているが,た 「誘い」の表現 Let’s ~. は Book 1 で既習な とえ目下から目上への助言であっても,命令 ので,ここでは誘われたときの応答の仕方を 形だけで問題ないことを教えておきたい。 中心に学びたい。“Let’s ~.” と誘われて応じ るときには,文法的には “Yes, let’s.” が正し <申し出> 申し出をする際に使われる表現は,相手が その申し出を必要としているかどうかによっ い答えとなるが,これでは誘いに対してノリ ノ リ で あ る 感 じ が 出 な い。OK. や All right. や Sure. も同じである。誘いに応じたいとき て異なる。文脈から相手が申し出を受け入れ には,モデル会話のように積極的な表現を ることが明らかなときには直接的に「自分の 使って返答するように心がけさせたい。 意思を伝える」表現が,そうでないときには 間接的に「相手の意向を問う」表現が好まれ る。Chapter 2 には両方の例が出てくるので, 比較して違いを理解させるとよいであろう。 I’ll give my meal to you then.(p.36) Would you like a drink?(p.46) Let’s go to a football match this afternoon. Sounds great! I’m excited.(p.50) Let’s take the Eurostar. Sounds exciting!(p.52) 提案を受け入れるときの返答も同様で,日 Shall I bring it now or after the meal?(p.46) 本人には大げさに聞こえるぐらいで丁度よい。 <依頼> Shall we go to Paris, then? 依頼の表現としては,Could you ~, please? Great idea.(p.52) が出てくる。これは店員に職務範囲の行為を お願いしたり,家族にあまり負担にならない Chapter 2 を終えると,生徒たちが英語で ことを依頼する際に使うのであれば,十分に できることが一気に増える。生徒たちに自信 丁寧な言い方である。 を与え,学習の動機づけを高めるには格好の Could you explain Yorkshire pudding, please? chapter であろう。 教科研究 TOTAL ENGLISH No.126 教研英語126.indd 19 17 15/09/17 10:32
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