2 4 7 〈要旨〉 大学における学生のボランティア活動支援に関する研究 一一大学ボランテイアセンターを中心に一一 井岡華絵 本研究の目的は、大学ボランティアセンター(以下、大学 V C ) の今後のありかたを、大学におけ るボランテイア活動支援のこれまでと東日本大震災における被災地支援活動の実態から明らかにする ことである。 阪神淡路大震災(19 9 5 ) の際に多くの大学生が災害ボランテイア活動に従事したことや、ボラン ティア活動の教育力に注目が高まり、そのうえ地域・社会貢献が大学の使命のーっとなった影響で、 昨今では正課外問わず多くの大学でボランテイア活動が促進されるようになった。そのような状況の vcも増加傾向にある。 そもそも大学 v cとは、学生の教育や地域貢献、また地域社会と大学の中間支援を目的として設 なかで、大学 立された組織であり、主にボランテイア情報の収集・提供といった支援をおこなっている。しかし、 その事業内容や運営体制、設立目的は大学によってさまざまであり、定義が定まっているわけではな い。また、サービスラーニングのような地域・社会貢献を目的とした活動が正課外問わず多く存在す るようになってきたなかで、大学 vcの大学内における位置づけが不明瞭になっている o vcのこれまでの活動を振り返り、その成立の経緯と課題を明らかにするとともに vcの実態調査から大学 vcの今後のあり方について検討する。 本研究は、はじめに(第 1章)、研究の整理(第 2章)、大学 v cの歴史的考察(第 3章)、東日本 そこで、大学 東日本大震災における大学 大震災における学生のボランテイア活動(第 4章)、おわりに(第 5章)、で構成されている。 第 1章では、研究の目的、研究方法、論文構成の説明をした。 第 2章では、大学 vcをとりまく概況を整理し、論点を明らかにした。第 1節では、ボランテイ ア活動の理念である、自発性、無償性、公共性についてそれぞれ論じた。自発性と無償性がボラン テイア活動の基本姿勢であり、他者からの自立ということが両者の共通した特性といえる。他者から 自立した行為であるがゆえに柔軟に考え、動くことができるのである。公共性はボランティア活動の 目的といえる。ボランテイア活動は、他者の問題を自己の問題として捉えなおすきっかけとなるため、 社会課題の発見が公共性の要点となる o しかし、必ずしもボランテイアの主体が社会課題の発見を意 図しているわけではない。また、ボランテイア活動をすることで公共性が身につくとは限らないこと は留意するべきである。 第 2節では全国の大学における取組の現状として、ボランティア科目、サービスラーニング、そし て大学 vcそれぞれの位置づけを整理した。いずれも、大学の社会貢献や学生の教育を目的として いるが、ボランティア科目や、サービスラーニングのような社会貢献活動と学習を結びつけた正課活 動に対して、大学 vcは学生の課外活動支援を目的としているという点で異なる。 vcについての先行研究から指摘されている課題をまとめた。これは、ボラン 第 3節では、大学 テイアコーデイネーションと学内外との位置づけや評価法などの運営面に大別される。学内外での位 置づけが峻昧な要因として、「ボランテイアという学生の自主的な行為 Jの「課外活動」をなぜ大学 が支援しなければなれないのかという疑問の解消に至っていないことが挙げられる。これは、課外活 動支援であるために学習効果を求めない大学 vc特有の課題であるといえる o 第 3章では、歴史的考察と題し、まず、わが国の青少年ボランティアのあゆみを、学校教育との関 わりと戦前期の帝国大学セツルメントの活動から考察した。次に整備期と推進期のそれぞれを政策と 大学 vcの事例から特徴を明らかにしたロ 9 7 7 年から実施されている「学童・生徒のボランテイア活動普及 教育とボランテイア活動の接点は 1 事業Jにまで遡ることができるが、学校教育にボランティア活動が本格的に導入されようとしたのは 1 9 9 0 年代に入ってからである。その背景として、高齢化社会を見据え、ボランティア人口を増やそう とする具体的な方針の発表があった。このように、社会的な要請によってボランテイア活動が教育の なかに取り込まれた。一方、大学生による組織的なボランテイア活動の始まりは更に遡って、関東大 2 4 8 震災(19 2 3 ) における救援活動から発展した帝国大学セツルメントまで遡ることができる o 災害を きっかけとした点で、阪神淡路大震災以降の大学 v c設立の要因と共通している o 第 2節では、阪神淡路大震災(19 9 5 ) 以後から GPプログラムが実施される前の 2 0 0 2年までを整備 期とした。この時期の大学 v cの特徴として、阪神淡路大震災を設立のきっかけとしているという ことが挙げられる。また、宗教系の大学が約半数にのぼることから建学の精神と結びついたという点 も特徴として挙げられる。政策においては、大学進学率の上昇に伴う、知識偏重の教育から社会の要 請に対応した人材育成の転換と大学の多様化・個性化への要求を背景にボランテイア活動が促進され 始めた時期である。そのために、大学におけるボランテイア活動の推進についての意義や枠組み、そ して具体的な推進策を整備した。この時期に、大学 v cやサービスラーニングという語が初めて登 場した。 第 3節は、 GPプログラムの開始 ( 23 ) から東日本大震災前 ( 2 0 1 0 ) までを推進期とした。この ∞ v cを設立してい v cの事例のみを取り上げたが、サービスラーニングなどの 時期は、 GPプログラムに採用されて設立したことや、国立大学が大学主体で大学 たことが特徴である。ここでは、大学 0 0 7 年1 2月施行の改正「学校教育法Jにおいて、大 正課授業も含めると多数採用されている。また、 2 学の社会貢献が強調された。 年から しかし、この時期に実施された調査 1)によると、ボランテイア活動に対応する部署が2 1 ∞ 2 0 0 4 年にかけて増加しているにもかかわらず、そこに携わる専任スタッフの割合は全体の 5%未満で あることが明らかになった。また GPプログラム等の競争的資金に頼っている大学においては、資金 提供終了後の予算確保を課題としており、組織としての不安定さがうかがえた o 整備期から推進期にかけて概観すると、阪神淡路大震災における学生ボランティアの活躍と、社会 の要請に対応した人材の育成や大学の社会貢献の協調といった大学改革を推し進めたい国の方針が一 致し、学生のボランテイア活動が整備され、推進されたと考えられる。大学 v cにおいては、当初 は学生の自発性に立脚した支援を行っていたが、推進期においては、もはや震災経験がボランテイア 活動の動機とは言い難くなった。そして GPプログラムの登場によってボランテイア活動支援は大学 主体の事業として推進されるようになった。大学 v cは、学生の課外活動支援を目的としているの にも関わらず、そこに教育的な効果を求められるという一種の矛盾が生じたのである。 第 4章において、「全国の大学における被災地支援活動実態調査(調査機関:特定非営利活動法人 ユースビジョン ) J をもとに大学 ンテイア活動の内容と大学 v cを設置している大学と設置していない大学の比較を行い、ボラ v cの運営体制の 2点から考察した o 活動内容について、活動場所、時期、支援活動の内容は同じような傾向を示した。大学 v cを設 置していない大学でも学生の災害ボランティアを支援しているという結果から、学生のボランティア 活動を大学として支援することはもはや特別な事ではないと考えられる。加えて、 Y o u t hf o r3 . 1 1や 、 日本財団学生ボランテイアセンターのように、大学生を対象としたボランティアプログラムも民間の 団体において実施されている。このことから大学として学生のボランティア活動を支援することは特 殊なことではないといえる。一方で特徴的だったのが、被災地外の大学が被災地にある大学と連携し ていることである。連携した大学として多く挙がったのが、東北学院大学、岩手県立大学(いわて GINGA-NET) であった。これらは、今後の災害ボランテイア活動においても大学関連携のモデルと なってくると考えられる。 運営体制について、事務担当者の設置や活動資金の分布から、大学 v cのある大学のほうが、そ の他の大学と比べて支援活動に割くコストが高いということがわかった。大学そのものの規模に影響 される項目ではあるが、ボランティア活動=大学 v cという認識が学内に浸透した結果、予算や人 員を配置できたといえる。 また、震災を機に認知度が上がったという回答が特徴的だ、ったが、逆に通常活動のみでは学内での 位置づけが暖昧なままであったとも考えられ、推進期で指摘した組織としての不安定さが継続してい たことが予想される。 このように、多くの大学が学生のボランテイア活動を支援したが、これは東日本大震災という特殊 な状況であったからともいえる。三谷2 )は 、 1 9 8 0年代から 2 0 1 0 年代にかけてボランテイア活動の参加 率にほとんとー変化なかったことから「震災ボランテイア活動は、マクロな規模のボランテイア人口の 拡大にほとんど寄与しない可能性がある Jと述べている。第 3章で考察したように、被災地支援を端 緒とした活動は、後に沈静化すると考えられる。被災地支援活動で増加したボランティア人口を平常 時でも維持していくのが今後の課題である。そのためには、課外活動支援を目的としているとはいえ、 大学における学生のボランテイア活動支援に関する研究 vcの教育的な効果の蓄積は重要であり、組織体制を安定させることが必要である。そうする ことで大学 v cの位置づけも明確にすることができると考えられる。 本研究の限界として「ボランテイアという学生の自主的な行為 Jの「課外活動」をなぜ大学が支援 大学 しなければなれないのかという疑問の解消に至っていないことが挙げられる。学生のボランテイア観 や大学 vcを利用前と利用後の変化といったような学生側の視点から考察することで明らかになる と考えられ、今後の課題としたい。 日 次 第 I章 は じ め に 第 1節 研 究 の 目 的 第 2節 研 究 方 法 第 3節 論 文 構 成 第 2章 研 究 の 整 理 第 1節 ボランテイアの理念 第 2節 全国の大学における取り組みの現状 第 3節 大学ボランテイアセンターをめぐる先 行研究 第 4節 小括ー論点の整理一 第 3章 大学ポランティアセンターの歴史的考察 第 1節 わが国における青少年ボランティアの 第 2節 整 備 期 ( 19 9 5 2 0 0 2 ) 第 3節 推 進 期 ( 2 0 0 3 2 0 1 0 ) 第 4節 小 括 第 4章 東日本大震災における学生のポランテイ ア活動 第 I節 民間の団体による取り組み 第 2節 大学ボランテイアセンターの被災地支 援活動の実態 第 3節 小 括 第 5章 お わ り に 第 I節 結 論 謝 辞 展開 r 1 ) 内外学生センター ( 2 0 01 ) 大学におけるボランテイア情報の収集・提供の体制等に関する調査」、日本学 2 4 ) 大学等におけるボランテイア活動の推進と環境に関する調査J . 生支援機構 ( 2 ) 三谷はるよ. ( 2 0 1 3 ) . ボランティア活動者の動向一一阪神・淡路大震災と東日本大震災の比較からJ. PO・ボランティア l ミネルヴァ書房. 著:桜井政成、『東日本大震災と N ∞r r 2 4 9
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