原油市場他:米国での原油在庫減少及びナイジェリアに関する地政学的

更新日:2016/6/19
調査部:野神 隆之
原油市場他:米国での原油在庫減少及びナイジェリアに関する地政学的リスク要因に伴う原油供給低
下懸念等で WTI は 1 バレル当たり 50 ドルを突破、しかし英国の EU 離脱可能性に伴う不透明感から反
落する原油価格
(IEA、OPEC、米国 DOE/EIA 他)
① 米国では、製油所がメンテナンス作業を終了し稼働を引き上げつつあったものの、他方で装置の不
具合に伴う操業停止も発生、結果として原油精製処理量の増加が緩やかなものとなったことが石油
製品の生産活動に影響したと見られることから、ガソリン及び留出油在庫は減少傾向となったが、こ
の時期としては平年幅を超過する水準を維持している。他方、緩やかではあったが製油所での原油
精製処理量が増加したことに伴い原油在庫も減少したが、こちらも量としては平年幅を超過する状態
が続いている。
② 2016 年 5 月末の OECD 諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国で
減少となった他、欧州ではフランスで概ね 5 月下旬から 6 月中旬にかけ労働者のストライキが原油受
入ターミナルで発生したことが同国の原油輸入に影響したと見られ、原油在庫は若干ながらも減少と
なった。他方、日本では、夏場のガソリン需要期を視野に入れつつ原油在庫を積み増していると思
われる動きが見られたことから、5 月末の同国の原油在庫は前月末比で増加している。それでも米国
での原油在庫減少の影響が大きく、OECD 諸国全体として原油在庫は減少となったが、平年幅を大
きく超過した状態は継続している。他方、製品在庫については、米国では製油所がメンテナンス作
業を終了し稼働を上昇、石油生産活動を活発化させたこともあり、ガソリン等を除く石油製品の在庫
が増加したことにより石油製品全体としても在庫は増加した他、欧州においても当該在庫は微増とな
った。また、日本においては灯油を中心として石油製品在庫が増加した。このようなことから、OECD
諸国全体での製品在庫水準は上昇、この時期としては平年幅上限付近に位置する量となっている。
③ 2016 年5 月中旬から 6 月中旬にかけての原油市場においては、一部産油国での石油供給減少に加
え当初見込みよりも需要が増加していることにより 2016 年後半にかけ石油市場は供給不足になると
の金融機関の見解に加え、米国での原油在庫の減少、ナイジェリアでの武装勢力による石油生産関
連施設への攻撃に伴う市場での石油供給途絶懸念の増大等により、総じて原油価格は上昇傾向と
なり、6 月 7 日には終値ベースで WTI は 1 バレル当たり 50 ドルを超過したが、その後は利益確定の
動きが発生したことに加え、英国の欧州連合(EU)離脱か残留かを問う国民投票を前にして、離脱支
持率が残留支持率を上回っている旨の世論調査結果が複数明らかになったことで英国及び欧州等
の経済の先行きに関する不透明感が市場で強まったことから再び 40 ドル台後半へと下落している。
④ 今後は、ナイジェリア政府と武装勢力と事実上の停戦協議の動向、英国の EU加盟継続の是非を問う
国民投票に向けた動きが、原油相場を変動させると考えられる。加えて、夏場のガソリン需要期突入
に伴う石油需給の引き締まり感が当面継続することから、原油価格はなお上昇する余地はあるもの
の、余り上昇すると米国でのシェールオイル生産が回復するとの見方が市場で広がりうることから、
原油価格が 50 ドルを超過した段階では下方圧力が加わり始める可能性が高まると考えられる。
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
1.6 月 2 日開催の OPEC 総会で原油生産上限の再設定を見送り
OPEC 産油国は、6 月 2 日(木)にウィーン(オーストリア)の OPEC 事務局において総会(通常総会)を
開催した。今回の会合に際しては、サウジアラビアはこれ以上の供給で石油市場を溢れさせることはな
い旨発言。また、2015 年 12 月 4 日の前回総会時まで適用していた OPEC 加盟国全体での原油生産上
限(当時は 12 加盟国で日量 3,000 万バレル)を復活させる提案がなされた。
4 月 17 日にドーハ(カタール)で開催された OPEC 及び非 OPEC 産油国による原油生産凍結に関す
る会合では、日量 400 万バレルという制裁前の生産水準に回復した後で凍結協議に合流する方針であ
ることを表明し、この時点での協議には参加しなかったイランに対し、同国を含めた全 OPEC 産油国によ
る凍結参加を会合当日になってサウジアラビアが主張したため、合意に至らなかった(表 1 参照)。
表1 OPEC加盟国原油生産上限、生産量及び減産遵守率(日量千バレル)
2011年12月14日
OPEC総会
以降の生産上限
アルジェリア
アンゴラ
エクアドル
イラク
イラン
クウェート
リビア
ナイジェリア
カタール
サウジアラビア
UAE
ベネズエラ
OPEC12ヶ国合計
インドネシア
OPEC13ヶ国合計
30,000
-
2015年12月4日
OPEC総会
以降の生産上限①
2016年6月2日
OPEC総会
以降の生産上限①
-
2011年11月生産量
(IEA) ②
-
1,180
1,710
500
2,675
3,609
2,770
550
2,100
735
10,000
2,520
2,341
30,690
785
31,475
2016年5月生産量
(IEA) ③
1,090
1,750
540
4,270
3,640
2,850
270
1,370
660
10,250
2,890
2,290
31,870
740
32,610
生産上限超過量
(③-①)
持続可能な
原油生産能力
(IEA他から推定)
増産量
(②-①)
-
△ 90
40
40
-
31
80
△ 280
△ 730
△ 75
250
370
△ 51
1,180
△ 45
1,135
-
1,120
1,810
550
4,400
3,650
2,870
400
1,850
670
12,200
2,930
2,400
34,850
740
35,590
余剰生産能力
(2016年5月現在)
30
60
10
130
10
20
130
480
10
1,950
40
110
2,980
0
2,980
注:四捨五入の関係で個々の数字の総和が合計と一致しない場合がある。
出所:OPEC、IEAデータ等をもとに推定
しかしながら、今次 OPEC 総会では他の多くの加盟国に加えサウジアラビアも原油生産上限の再設定
に賛同するなど、その姿勢に変化が見られた。その背景としては、ドーハでの協議後発生した、OPEC
産油国間での不協和音と市場関係者が OPEC 産油国間の結束力を疑問視していることを含めた OPEC
への信頼感の低下に対し、サウジアラビアがOPEC産油国間の結束の再強化及びOPECへの信頼感の
回復を望んだことがあると見られる。
一方、サウジアラビアを含め、他の加盟国の多く(但しイランを除く)はこれまで増産を行ってきた結果、
現時点では高水準の原油生産を行っており、武装勢力の石油生産関連施設攻撃により原油生産量が低
下しているナイジェリア(後述)等一部加盟国を除き、この先さらなる増産の余地はそれほど存在しない。
このため、現在の原油生産量(2015 年 12 月に事実上再加盟したインドネシアを含めた 13 ヶ国で日量
3,250 万バレル程度と推定される)を上限としても、概ね現状の高水準の原油生産を追認するだけであり、
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
それらの産油国において今後の増産抑制等特段の痛みを伴う可能性は低い。
他方、イランについては、1 月の制裁解除後増産基調にあるが、総会時に明らかになっていた 4 月の
同国原油生産量は日量 345 万バレル(OPEC 月刊オイル・マーケット・レポートに基づく、なお IEA による
同国原油生産量は図1 参照)と制裁前の水準である日量400 万バレルには相当程度到達していない。こ
のようなことから、今後のイランの原油増産が OPEC 産油国全体の増産となって現れやすく、従ってイラ
ンに対し批判の矛先が向かう事態になりうることをイラン側は懸念したと考えられる。そのような中で、イラ
ンは各加盟国別に原油生産枠を設定することを主張するとともに、イランについては制裁前の同国の
OPEC 産油国シェア(14.5%)分の生産枠(現在の OPEC 産油国の生産量に基づくと日量460~470 万バ
レル程度に相当)を配分する(因みに同国は今後 5 年間で日量 480 万バレルの原油生産を行うことを目
標としている)ことが公平である、と同国のザンギャネ石油相は 6 月 2 日に明らかにしていた。
このような背景から、イランは OPEC 加盟国全体での生産上限の設定に反対、各加盟産油国に対する
個別生産枠の設定に固執したため、当該総会では原油生産調整方策に関し特段の合意に至らなかった。
同日発表された OPEC 事務局による声明でも、「事務局は緊密に今後数ヶ月間の動きを監視し続け、必
要であれば、加盟国に再度会合の開催を推奨し、市場の状況に従って更なる方策を提示すべきである。
また非 OPEC 諸国に対し石油市場均衡に向けた努力に合流する旨呼びかける。」旨記載するにとどめる
こととなった。今次総会では、前回対立していたサウジアラビアとイランにつき、サウジアラビアには歩み
寄りの姿勢が見られるものの、依然としてイランとの意見の相違は大きいことが示される格好となった。
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他方、今回の総会においては、バドリ事務局長代行(2012 年 12 月末で 2 期 6 年間の規定上の任期が
満了したが、後任の事務局長選出が難航した(後述)ことから、2015 年末まで事務局長の任期が延長さ
れたうえ、さらに 2016 年 7 月末まで事務局長代行を務めることになっていた)の後任として、8 月 1 日に
ナイジェリアのバーキンド(Mohammed Sanusi Barkindo)元ナイジェリア国営石油会社(NNPC)総裁(2006
年に OPEC 事務局長代行、2009~2010 年に NNPC 総裁を務めている)が就任することとなった。当該事
務局長人事を巡ってはサウジアラビアとイランとの間で候補者の調整がつかなかったため、バドリ氏が暫
定的に事務局長(もしくは事務局長代行)職にとどまったが、今般サウジアラビアでもイランでもない加盟
国から事務局長を輩出することにより、本件は決着がついた格好となった(なお、他の事務局長候補はイ
ンドネシアのシレガル(Sirgar)元財務副大臣、及びベネズエラのロドリゲス(Rodriguez)元エネルギー鉱
山相(2001~2 年に OPEC 事務局長を務めている)であった)。また、今次総会においてはガボン(原油
生産量日量 20 万バレル程度、1975 年に OPEC に加盟したものの、1995 年に脱退)の 7 月 1 日付での
再加盟が承認された。
次回 OPEC 総会(通常総会)は 11 月 30 日(水)にオーストリアのウィーンで開催される予定である。た
だ、OPEC 議長国を務めるカタールのアルサダ エネルギー工業相は 9 月にアルジェリアで開催が予定
されているエネルギーフォーラムに際して OPEC 産油国も会合を開催する旨 6 月 2 日に発表している。
今次 OPEC 総会で原油生産調整に関して合意に至らなかったことから、市場では OPEC 産油国間で
の結束力回復に対し失望感が広がり、6 月 2 日朝(現地時間)のニューヨーク商業取引所(NYMEX)原油
先物市場では WTI が一時 1 バレル当たり 47.97 ドルと 6 月 1 日の終値(同 49.01 ドル)から 1.04 ドル下
落する場面も見られた。しかしながら、米国での夏場のドライブシーズンに伴うガソリン需要期が既に到
来していることから季節的な需給の引き締まり感が市場で発生しており、また、原油価格下落に伴う石油
製品価格の低下による需要の増加に加え、OPEC 及び非 OPEC 主要産油国もイラン等一部を除き増産
余地が乏しいことから、2015 年には供給過剰感が強かった石油市場は 2016 年後半以降には需給が均
衡状態に接近していくとの認識が市場で根強かったこと、さらに、6 月2 日に米国エネルギー省エネルギ
ー情報局(EIA)から発表された同国石油統計で原油在庫が前週比で減少していたことから、その後下落
幅は縮小に向かい、6 月 2 日の WTI の終値は 1 バレル当たり 49.17 ドルと前日終値比で 0.16 ドルの上
昇となった。
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2.原油市場を巡るファンダメンタルズ等
2016 年 3 月の米国ガソリン需要(確定値)は前年同月比で 3.8%程度増加の日量 940 万バレルとなっ
た(図 2 参照)が、速報値(前年同月比で 3.4%増加の日量 936 万バレル)からは上方修正されている。2
月についてはガソリン需要が前年同月比で 6.4%の増加と大幅な伸びを示したが、これは 1 月の当該製
品需要の落ち込み(この月の後半に同国北東部で大雪があったことに加え、2015 年 12 月 29 日以降
2016 年 1 月にかけ発生したミシシッピ川の氾濫に伴う流域の洪水で自動車の運転が手控えられたことに
よると見る向きもある)の反動があった他、2 月は 1 月のような大雪はなかったこと、2 月のガソリン小売価
格は 1 ガロン当たり 1.872 ドルと 2009 年 1 月(この時は同 1.840 ドル)以来の安値となったことで、同国の
自動車運転距離数が伸びたこと(同月の米国の自動車運転距離数は前年同月比で 5.6%増加している)
によるものと考えられる。ただ、3 月については、そのような反動も落ち着いたと見られる他、ガソリン小売
価格も 1 ガロン当たり 2.071 ドルと 2 月に比べれば上昇していることから、ガソリン需要も伸びてはいるも
のの、2 月に比べると抑制された水準となっている。
2016 年 5 月の同国ガソリン需要(速報値)は日量 964 万バレル、前年同月比で 4.2%程度の増加とな
っており、前月の同3.8%の増加から若干ながら加速している。同月のガソリン小売価格は1ガロン当たり
2.371 ドルと上昇基調となってはいるものの、前年同月比ではなお 0.431 ドル安価になっていることに加
え、米国の個人所得が継続的に増加(2015 年4 月の同国個人所得は前値同月比で 4.4%増加)している
ことが、自動車運転距離数及びガソリン需要の増加に寄与していると考えられる。他方、製油所では春場
のメンテナンス作業シーズンを終え稼働を上昇させつつあったものの、複数の製油所で装置に不具合
が発生したことにより操業が停止した結果、原油精製処理量の増加度合いは緩やかなものとなっており
(図 3 参照)、これがガソリン生産に影響を与えたものと見られる(ガソリン最終製品生産は図 4 参照)。こ
のように需要が比較的堅調な中で生産に支障が発生したことから、5 月中旬から 6 月中旬にかけ同国の
ガソリン在庫は若干ではあるが減少傾向を示したものの、これまで当該在庫は大きく積み上がっていた
結果、現時点においても在庫は平年幅を超過する量となっている(図 5 参照)。
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2015 年 3 月の同国留出油需要(確定値)は前年同月比で 2.8%程度減少の日量 394 万バレルと速報
値の日量 368 万バレル(前年同月比 9.3%程度の減少)から上方修正されている(図 6 参照)ものの、依
然前年同月比で減少となっている。3 月の物流活動は前年同月比で 2.3%の低下となっており、これは
鉱工業生産活動が低下していることに起因しているとされるが、これにより軽油の需要が抑制されている
ものと考えられる。他方、2016 年 5 月の留出油需要(速報値)は日量 399 万バレルと、前年同月比で
5.1%程度の増加となっている。ただ、これは 2015 年5 月が前年同月比で大きな落ち込みとなった(前年
同月比で 4.0%減少したが、2015 年 5~6 月に米国で長期的に降雨が発生したことが穀物作付けのため
に利用される農機具向け軽油需要に影響した可能性がある)ことへの反動といった側面も強く、2 年前の
同月である 2014 年 5 月と比較すると、0.9%程度の増加と 2016 年 4 月の留出油需要(速報値)の 2014
年 4 月比での増加率(1.4%程度の増加)よりも伸び率は低い状態であることが判明する。2016 年 4 月の
米国鉱工業生産指数は 2 年前の同月に比べて 0.2%程度の減少、5 月は同1.0%程度の減少となってお
り、このような鉱工業生産活動の低迷が軽油を含めた留出油需要の足を引っ張ったと見られる。他方、製
油所での原油精製処理量は増加してきているものの、その度合いが緩やかだったことにより、製油所で
の留出油生産量も増加はしたものの、限定的な程度であった(図 7 参照)一方で、4~5 月は米国では穀
物の作付けシーズン到来で農機具向け軽油需要が旺盛であったと見られることから、在庫は減少傾向と
なったが、6 月中旬としては在庫は平年幅を超過する状態は維持されている(図 8 参照)。
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2016 年3 月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で 2.0%増加の日量1,962 万バレルとなった(図
9 参照)。留出油需要が前年割れとなったものの、ガソリン需要が前年比で伸びたことで相殺して余りあっ
たことで、全体としては増加となった。また、ガソリン及び留出油需要が速報値から確定値に移行する段
階で上方修正されたこともあり、石油需要は速報値の日量 1,953 万バレル(同 1.5%の増加)から上方修
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正されている。また、2016 年 5 月の米国石油需要(速報値)は、ガソリン、留出油及びその他の石油製品
の需要が前年同月比で伸びたこともあり、日量2,031 万バレルと前年同月比で 6.3%程度の増加となった。
但し、その他の石油製品の需要は最近速報値から確定値に移行する段階で下方修正される場合が多い
ため、当該需要も速報値から確定値に移行する段階で下方修正される可能性があろう。他方、米国では、
緩やかながらも製油所での原油精製処理量が増加傾向を示したことから、原油在庫は 5 月中旬から 6 月
中旬にかけ減少傾向となったが、それでも依然平年幅を大きく超過している状態は維持されている(図
10 参照)。なお、原油、ガソリン、及び留出油在庫がそれぞれ平年幅を超過していることから、原油とガソ
リンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅を超過する状
態となっている(図 11 及び 12 参照)。
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2016 年 5 月末の OECD 諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減は、原油については、米国で減
少となった他、欧州においては、フランスで概ね 5 月下旬から 6 月中旬にかけ労働法の改正に抗議した
労働者のストライキが原油受入ターミナルで発生したことにより、原油の輸入に支障が発生したと見られ
ることもあり、欧州全体では原油在庫は若干ながらも減少となった。他方、日本では製油所のメンテナン
ス作業が進みつつあったことから、原油在庫は 5 月下旬にかけ増減を繰り返しつつも減少傾向となった
ものの、その後は製油所での原油精製処理量減少に歯止めがかかり始めるとともに、夏場のドライブシ
ーズン突入によるガソリン需要期の到来に伴う製油所の稼働上昇と原油精製処理量の増加が視野に入
りつつあることもあり、原油在庫を積み増していると思われる動きが見られたことから、5 月末の同国の原
油在庫は前月末比で増加している。しかしながら、米国での原油在庫減少の影響が大きく、OECD 諸国
全体として原油在庫は減少となったが、平年幅を大きく超過した状態は継続している(図 13 参照)。他方、
製品在庫については、米国では、ガソリンや留出油の在庫は減少となったものの、製油所がメンテナン
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スを終了し稼働を上昇、石油生産活動を活発化させたこともあり、一部の石油製品の在庫が増加したこと
から、石油製品全体としては在庫水準は上昇した他、欧州においても微増となった。また、日本におい
ては、暖房用需要期が終了した灯油の在庫が増加したことが影響し、石油製品全体としても在庫が増加
した。このようなことから、OECD 諸国全体での製品在庫水準は増加、この時期としては平年幅上限付近
に位置する量となっている(図 14 参照)。なお、原油在庫が平年幅を超過、石油製品在庫が平年幅上限
付近に位置する量となっていることから、原油と石油製品を合計した在庫は平年幅を超過する状態とな
っている(図 15 参照)。他方、2016 年 5 月末時点での OECD 諸国推定石油在庫日数は 66.1 日と 4 月末
の推定在庫日数(66.6 日)から減少している。
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5 月 11 日には 1,400 万バレル台半ば程度の水準であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在
庫量は、5 月 18 日から 6 月 1 日にかけては 1,400 万バレル台後半~1,500 万バレル台前半と概して 5
月 11 日の水準からは上昇したが、6 月 8 日には 1,300 万バレル強へと減少、6 月15 日は若干増加した
ものの 1,300 万バレル台後半の量であった。それでも前年同期(2015 年 6 月 17 日の在庫量は 1,200 万
バレル台半ば)よりは多い状況となっている。また、これら統計数値として捕捉されている在庫とは別に、
沖合においてタンカーにより貯蔵されている在庫が存在しているとの指摘もある。このため、イスラム諸
国におけるラマダンシーズン(大部分の諸国では 6 月 6 日~7 月 4 日、その後ラマダン明けの祭りが 7
月 5~8 日)突入に伴う帰省等のための自動車での移動の活発化によるガソリン需要の発生に加え、米
国等でも夏場のドライブシーズンに向けたガソリン需要期を控えており、他方、アジア諸国では春場の製
油所メンテナンス作業実施シーズン突入で石油製品生産及び輸出等が低下しやすい状況であるにもか
かわらず、市場でのガソリン供給の過剰感を払拭するまでには至らなかった結果、ガソリンと原油との価
格差(この場合ガソリンの価格が原油のそれを上回っている)の水準は上下に変動しつつも比較的限ら
れた範囲内で推移した。他方、ナフサについては、5 月中旬から 6 月上旬にかけてのフランスでの製油
所のストライキに伴う操業停止により、欧州方面からアジア諸国に向けたナフサの供給量が低下するとの
観測が市場で発生したものの、5 月は石油化学工場においてナフサ分解装置のメンテナンス作業が実
施されたり装置に不具合が発生したりしていると伝えられたことから、これら分解装置での稼働が低下し
たことがナフサ需要に影響したと見られることに加え、石油化学部門向け原料で競合する LPG の価格が
手頃になってきたこともあり、より多くの LPG が石油化学部門で利用される分ナフサの需要が抑制される
との見方が市場で発生してきたことから、アジア市場でのナフサと原油の価格差(ナフサの価格が原油
のそれを上回っている)は 5 月中旬から 6 月中旬にかけては縮小傾向を示した。
5 月 11 日には 900 万バレル台後半の量であったシンガポールの中間留分在庫は、その後上下に変
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
動しながらも増加傾向を辿り、6 月 15 日には 1,200 万バレル台後半の量となり、前年同期(2015 年 6 月
17 日には 900 万バレル強)を 40%弱上回っている。このように、アジア地域での中間留分在庫は必ずし
も低水準ではないものの、アジア地域では製油所のメンテナンス作業シーズンに突入しつつあることか
ら、製油所での生産減少の代替として軽油等の中間留分調達が各国で活発化していると見られるうえ、
インドやベトナムでは、気温が上昇した一方で降水量が低いことから、水力発電所の稼働が低下したこと
に伴い空調用途を含め発電部門向けの軽油需要が増加したことに加え、特にインドでは水不足から一
部製油所の稼働が低下し製品の生産に影響を及ぼしたこと、パキスタンでも 4~5 月を中心として農産物
収穫のために稼働させる農機具向け軽油需要が発生したこと、そしてフランスでの製油所でのストライキ
による稼働停止に伴い中間留分需給に関する引き締まり感が市場で発生したこと等により、軽油と原油
の価格差(この場合軽油価格が原油のそれを上回っている)は、総じて上昇傾向を示している。
シンガポールの重質留分在庫は、5 月 11 日には 2,600 万バレル弱であったが、その後は増減を繰り
返しながらも増加傾向となり、5 月 18 日には 3,100 万バレル強の記録的な高水準に到達した後、6 月 1
日も 3,100 万バレル台前半と 5 月 18 日の量を超過するに至った。在庫量は 6 月 8 日には 2,800 万バレ
ル台半ばへと減少、6 月15 日には増加に転じ 2,900 万バレル台半ば程度の量となっているが、それでも
前年同期(2015 年 6 月 17 日には 2,600 万バレル台半ば)を 10%強超過している状態にある。このように
市場には供給過剰感があり、当該製品価格に下方圧力を加えているものの、在庫が記録的高水準に到
達したこともあり、欧州とアジアでの地域間重油価格差が縮小したことから、今後欧州方面からアジア地
域への重油の流入が低下するとの観測が市場で発生したことが重油価格を下支えしたことにより、原油
と重油の価格差(この場合重油価格が原油のそれを下回っている)は上下に変動しながらも概ね限られ
た範囲内で推移している。
2. 2016 年 5 月中旬から 6 月中旬にかけての原油市場等の状況
2016 年 5 月中旬から 6 月中旬にかけての原油市場においては、一部産油国での石油供給減少に加
え当初見込みよりも需要が増加していることから 2016 年後半にかけ石油市場は供給不足になるとの金
融機関の見解に加え、米国での原油在庫の減少、ナイジェリアでの武装勢力による石油生産関連施設
への攻撃頻発に伴う市場での同国からの石油供給途絶懸念の増大等により、総じて原油価格は上昇傾
向となり、6 月 7 日には終値ベースで WTI が 2015 年 7 月 21 日以来の 1 バレル当たり 50 ドル超過とな
ったが、その後は利益確定の動きが発生したことに加え、英国での欧州連合(EU)離脱か残留かを問う
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れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
国民投票を前にして、離脱支持率が残留支持率を上回っている旨の世論調査結果が複数明らかになり、
英国及び欧州等の経済情勢の先行きに関する不透明感が市場で強まったことから、再び 40 ドル台後半
へと下落している(図 16 参照)。
5月15日付の報告書で、米国大手金融機関ゴールドマン・サックスが、カナダやナイジェリアでの石油
供給途絶に加え、当初見込みよりも需要が伸びていることから、2016 年後半にかけ、石油市場は供給不
足となるであろうと旨明らかにしたことで、需給の引き締まり感が 5 月 16 日の市場で醸成されたことから、
この日の原油価格は前週末終値比で 1 バレル当たり 1.51 ドル上昇し、終値は 47.72 ドルとなった。また、
カナダの山火事が Enbridge の貯蔵タンク基地から 1km のところにまで迫ってきた旨 5 月 16 日に報じら
れた他、5 月 16 日夜には山火事が北へと向かい始めたことにより、住民が避難し、Suncor 等一部企業の
オイルサンド由来の原油生産に影響が出始めたことから、同国からの石油供給低下懸念が 5 月 17 日の
市場で増大したこと、5 月 18 日に EIA から発表される予定である同国石油統計(5 月 13 日の週分)で原
油在庫が減少しているとの観測が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は 1 バレル当たり
48.31ドルと前日終値比で0.59ドル上昇した。この結果原油価格は5月16~17日の2日間で併せて2.10
ドル上昇した。ただ、5 月 18 日には、この日米国連邦準備制度理事会(FRB)から発表された米国連邦公
開市場委員会(FOMC)議事録(4 月26~27 日開催分)で、今後発表される予定の経済指標類で、米国で
の 2016 年 4~6 月期の経済成長が加速、雇用状態がさらに改善、物価が 2%の目標に向け上昇し続け
ることが示唆されるのであれば、6 月 14~15 日に開催される予定である次回 FOMC で金利引き上げを
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決定することが可能である旨示されたこともあり、米ドルが上昇したことから、この日の原油価格は前日終
値比で 1 バレル当たり 0.12 ドル下落し、終値は 48.19 ドルとなった。5 月 19 日も、この日ニューヨーク連
邦準備銀行のダドリー総裁が、6~7 月に金利を引き上げる可能性がある旨示唆したこともあり、米ドルが
続伸したことが、原油価格に下方圧力を加えたものの、カナダで発生している山火事の影響で、5 月9 日
に不可抗力条項を適用し 5 月の原油出荷を 35%削減する旨明らかにした Syncrude が、5 月 19 日に 5
月中のさらなる出荷は実施しない旨表明したことで、カナダからの原油供給低下に対する懸念が市場で
増大したことに加え、5 月 19 日早朝にナイジェリアの Qua Iboe 原油ターミナル(原油出荷能力日量 32 万
バレル程度)に至る橋が何者かにより封鎖された旨明らかになった一方で、同日当該ターミナルの操業
が停止し労働者が避難したとの情報が流れた(但し操業者である ExxonMobil 側は操業は実施中と説明
している)ことで、ナイジェリアからの原油供給に関する懸念が市場で増大したことが、原油価格に上方
圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は 1 バレル当たり 48.16 ドルと前日終値比で 0.03 ドル
の下落にとどまった。5 月 20 日には、この日の NYMEX6 月渡し WTI 原油先物契約取引終了を控え持ち
高調整が市場で発生したことから、この日の原油価格は前日終値比で 1 バレル当たり 0.41 ドル下落し、
終値は 47.75 ドルとなった。(なお、NYMEX の 6 月渡し WTI 原油先物契約取引はこの日を以て終了した
が、7 月渡し契約のこの日の終値は 1 バレル当り 48.41 ドル(前日終値比 0.26 ドル下落)であった)。
5 月 23 日の原油価格の終値は 1 バレル当たり 48.08 ドルと前週末終値比で 0.33 ドル上昇したが、
NYMEX7 月渡し原油先物契約同士では前週末終値比で 0.33 ドルの下落であった。これは、気温低下等
もあり、山火事に伴いカナダのアルバータ州各所で発令されていた避難命令が 5 月 20 日夜以降解除さ
れたことで、同国でのオイルサンド由来の原油生産回復に対する市場の期待が増大したことに加え、イ
ランのジャバディ石油省次官がイランは原油生産や輸出を凍結する計画はない旨発言したと 5 月 22 日
に報じられたことによる。しかしながら、5 月 24 日には、5 月 25 日に EIA から発表される予定である同国
石油統計(5 月 20 日の週分)で原油在庫が減少している旨判明するとの観測が市場で発生したことに加
え、5月24日にイラクのアラムリ(Alamri)OPEC理事兼国営石油販売公社(SOMO)総裁が、施設メンテナ
ンス及び停電の影響で同国の原油生産量が日量450 万バレルと 1 月の史上最高水準である同478 万バ
レルから減少している旨明らかにしたこと、5 月 24 日に米国商務省から発表された 4 月の同国新築住宅
販売件数が年率 61.9 万戸と 3 月から 16.6%増加、2008 年 1 月(この時は同 62.7 万戸)以来の高水準と
なった他、市場の事前予想(同 52.3 万戸)を上回ったことから、米国株式相場が上昇したことにより、この
日の原油価格は前日終値比で 1 バレル当たり 0.54 ドル上昇し、終値は 48.62 ドルとなった。また、5 月
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25 日には、この日 EIA から発表された同国石油統計で原油在庫が前週比で 423 万バレルの減少と市場
の事前予想(同 200~330 万バレル程度の減少)を上回って減少している旨判明したことから、この日の
原油価格の終値は 1 バレル当たり 49.56 ドルと前日終値比で 0.94 ドル上昇した。この結果原油価格は 5
月 24~25 日の 2 日間で併せて 1 バレル当たり 1.48 ドル上昇した。5 月 26 日には、5 月 25 日に EIA か
ら発表された同国石油統計で原油在庫が市場の事前予想を上回って減少している旨判明した流れを引
き継ぎ、同日午前中に原油価格は 1 バレル当たり 50 ドル超の水準に到達したが、その後利益確定の動
きが市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は 1 バレル当たり 49.48 ドルと前日終値比で 0.08
ドル下落した。そして、5 月 27 日には、5 月 26 日に 1 バレル当たり 50 ドルに到達した後に発生した利益
確定による原油先物契約売却の流れが継続したうえ、Suncor がカナダのアルバータ州で発生した山火
事により操業を停止していたオイルサンド関連施設の操業を翌週再開する予定である旨 5 月 26 日午後
遅くに報じられたことに加え、5 月 27 日に行われた講演で、イエレン FRB 議長が、同国の経済成長と雇
用状況の改善が継続すれば、今後数ヶ月以内に金利を引き上げることが適切であろう旨発言したことか
ら、米ドルが上昇したことにより、この日の原油価格は前日終値比で 1 バレル当たり 0.15 ドル下落し、終
値は 49.33 ドルとなった。
5 月 30 日には、米国での戦没将兵追悼記念日(メモリアル・デー)の休日に伴い、この日の通常取引
は実施されなかったが、5 月31 日には、Suncor が部分的にオイルサンド関連施設の操業を再開した旨5
月 29 日に明らかにしたことで、カナダからの原油供給増加期待が市場で増大したことに加え、英国調査
会社 ICM が 5 月 31 日に公表した世論調査結果で、6 月 23 日に実施される予定である英国の EU 離脱
もしくは残留を問う国民投票を前にして、離脱支持割合が残留支持割合を上回っている旨明らかになっ
たことで、ポンド及びユーロが下落したことに加え、5月31日に米国商務省から発表された 4月の同国個
人消費支出(PCE: Personal Consumption Expenditures)が前月比で 1.0%の増加と 2009 年 8 月(この時
は同 1.3%の増加)以来の大幅な増加となっていたうえ市場の事前予想(同 0.7%の増加)を上回ったこと
により、米国金融当局による金利引き上げ観測が市場で増大したこともあり、米ドルが上昇したことから、
この日の原油価格は前週末終値比で 1 バレル当たり 0.23 ドル下落し、終値は 49.10 ドルとなった。 6 月
1 日には、Suncor が部分的にオイルサンド関連施設の操業を再開した旨 5 月29 日に明らかにしたことで
カナダからの原油供給増加期待が市場で増大した流れを引き継いだことが原油価格に下方圧力を加え
た反面、6 月 2 日に開催される予定である OPEC 通常総会で原油生産上限の設定が検討されている旨
関係筋が 6 月 1 日に明らかにしたことが原油価格に上方圧力を加えたことから、この日(6 月 1 日)の原
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油価格の終値は 1 バレル当たり 49.01 ドルと前日終値比で 0.09 ドルの下落にとどまった。6 月2 日には、
この日 EIA から発表された同国石油統計(5 月 27 日の週分)で原油在庫が前週比で 137 万バレルの減
少を示している旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で 1 バレル当たり 0.16 ドル上昇し、
終値は 49.17 ドルとなった。ただ、6 月 3 日には、この日米国労働省から発表された 5 月の同国非農業部
門雇用者数が前月比で 3.8 万人の増加と 2010 年 9 月(この時は同 5.2 万人の減少)以来の低水準の伸
びとなったことに加え、市場の事前予想(同 16.0~16.4 万人の増加)を下回ったことで、同国経済と石油
需要に対する懸念が市場で発生したことに加え、6 月 3 日に米国石油サービス企業 Baker Hughes から
発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で 325 基と前週比で 9 基増加(同国石油水平坑井
掘削装置稼働数は 284 基と前週比で 8 基増加)している旨判明したことから、この日の原油価格の終値
は 1 バレル当たり 48.62 ドルと前日終値比で 0.55 ドル下落した。
しかしながら、6 月2 日にナイジェリアの Nembe Creek 原油幹線パイプラインが攻撃されたことにより日
量 7.5 万バレルの原油生産が停止したとナイジェリア石油会社 Aiteo が 6 月 5 日に発表したうえ、Agip が
同国 Bayelsa 州で 6 月 3 日に Tebidaba 及び Clough Creek パイプラインが攻撃を受けたことにより日量
6.5 万バレル分の原油生産が停止した旨 6 月 6 日に報じられたことから、ナイジェリアに関連する地政学
的リスク要因に伴う石油供給途絶懸念が 6 月 6 日の市場で増大したことに加え、米国石油関連情報サー
ビス企業 Genscape が、6 月 3 日までの 1 週間で同国オクラホマ州クッシングでの原油在庫が 108 万バレ
ル減少した旨報告したと 6 月 6 日に報じられたことから、この日の原油価格は前週末終値比で 1 バレル
当たり 1.07 ドル上昇し、終値は 49.69 ドルとなった。また、6 月7 日も、ナイジェリアに関連する地政学的リ
スク要因に伴う市場での石油供給途絶懸念増大の流れを引き継いだことに加え、6 月 8 日に EIA から発
表される予定である同国石油統計(6 月 3 日の週分)で原油在庫が減少しているとの観測が市場で発生
したことから、この日の原油価格の終値も 1 バレル当たり 50.36 ドルと前日終値比で 0.67 ドル上昇、終値
ベースとしては 2015 年7 月21 日(この時は同50.36 ドル)以来の 50 ドル超となった。さらに、6 月8 日も、
この日ナイジェリアで石油関連施設を攻撃している武装勢力である「ニジェール・デルタ・アベンジャー
ズ」(NDA: Niger Delta Avengers)が石油施設への攻撃を終結させるためのナイジェリア政府との協議の
実施を拒否したうえ、Chevron が操業する油田関連施設を攻撃した旨明らかにしたことで、同国からの石
油供給途絶懸念が市場で増大したうえ、6 月 8 日に EIA から発表された同国石油統計で原油在庫が前
週比で 323 万バレルの減少と市場の一部事前予想(同 270~340 万バレルの減少)を上回って減少して
いる旨判明したことから、この日の原油価格の終値は 1 バレル当たり 51.23 ドルと前日終値比で 0.87 ド
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ル上昇した。この結果原油価格は 6 月 6~8 日の 3 日間で併せて 1 バレル当たり 2.61 ドル上昇した。た
だ、6 月9 日には、これまでの原油価格上昇に対する利益確定の動きが市場で発生したうえ、6 月9 日に
米国労働省から発表された新規失業保険申請件数(6 月 4 日の週分)が 26.4 万件と前週比で 0.4 万件減
少、市場の事前予想(27.0 万件)を下回ったこともあり、米ドルが上昇したことにより、この日の原油価格
は前日終値比で 1 バレル当たり 0.67 ドル下落し、終値は 50.56 ドルとなった。また、6 月 10 日も、この日
Baker Hughes から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で 328 基と前週比で 3 基増加
(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は 287 基と前週比で 3 基増加)している旨判明したことに加え、6 月
10 日に明らかになった英国インディペンデント紙による世論調査結果で、英国の EU 離脱支持割合が残
留支持割合を 10%上回っている旨判明したことで、ポンド及びユーロが下落した反面米ドルが上昇した
ことから、この日の原油価格の終値は 1 バレル当たり 49.07 ドルと前日終値比で 1.49 ドル下落した。この
結果原油価格は 6 月 9~10 日の 2 日間で併せて 1 バレル当たり 2.16 ドル下落した。
6 月 13 日も、6 月 10 日に Baker Hughes から発表された同国石油坑井掘削装置稼働数が増加してい
る旨判明した流れを引き継いだことに加え、6 月 13 日に中国国家統計局から発表された 2016 年 1~5
月の同国固定資産投資が前年同期比 9.6%の増加と 1~5 月としては 2000 年以降で初めて 10%を割り
込んだうえ市場の事前予想(同 10.5%の増加)を下回ったこと、6 月 13 日に発表された ICM による世論
調査で英国の EU 離脱支持割合が残留支持割合を上回っている旨判明したことで、リスク回避の動きが
市場で発生したことにより、米国株式相場が下落したことから、この日の原油価格は前週末比で 1 バレル
当たり 0.19 ドル下落し、終値は 48.88 ドルとなった。6 月 14 日も、この日英国調査会社 TNS から発表さ
れた世論調査で英国の EU 離脱支持割合が残留支持割合を上回った旨判明したことで、英国を含めた
欧州諸国の今後の経済活動に対する不透明感が市場で増大、米国株式相場が下落したうえ米ドルが上
昇したことから、この日の原油価格の終値は 1 バレル当たり 48.49 ドルと前日終値比で 0.39 ドル下落した。
6 月 15 日も、英国の EU 離脱の可能性と英国を含めた欧州の経済活動への不透明感に対する市場の懸
念の流れを引き継いだことにより、この日の原油価格は前日終値比で 1 バレル当たり 0.48 ドル下落し、
終値は 48.01 ドルとなった。また、6 月 16 日も、英国の EU 離脱の可能性と英国を含めた欧州の経済活
動への不透明感に対する市場の懸念の流れを引き継いだことにより、米ドルが上昇したことから、この日
の原油価格の終値は 46.21 ドルと前日終値比で 1.80 ドル下落した。この結果原油価格は 6 月 13~16 日
の 4 日間合計で 1 バレル当たり 2.86 ドル下落した。ただ、6 月 17 日には、これまでの価格下落の動きに
対して原油を買い戻す動きが市場で発生したうえ、6 月 16 日に英国で EU 残留支持派の国会議員が銃
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撃を受け死亡したことにより、6 月 23 日の英国の EU 残留か離脱かを問う国民投票を前にして不透明感
が増大、為替市場で持ち高調整が発生したことにより、ポンド及びユーロが上昇した反面米ドルが下落
したことから、この日の原油価格は前日終値比で 1 バレル当たり 1.77 ドル上昇し、終値は 47.98 ドルとな
っている。
3.今後の見通し等
イラクでは、イスラム国(IS)により支配されている中部のファルージャ(バグダッドの西 50km に位置)の
支配権をイスラム国から奪還すべく、イラク軍が作戦を開始する旨 5 月 22 日にアバディ首相が宣言、5
月 30 日にはファルージャへの侵攻を米軍による空爆支援の下で開始、そして 6 月 17 日にイラク政府は
ファルージャの大半を奪還した旨発表した。ただ、一方で、IS によるテロ行為が国内各地で散発的に発
生している他、5 月20 日には、4 月30 日に続き再びイラク政府に対し改革を求めるデモ隊が旧米軍管理
区域(グリーンゾーン)に突入し首相府を占拠(数時間で撤収)するなど、内政面での混乱も見られる。リ
ビアでは、統一政権の動きに反対する東部の暫定議会のイーサ議長に対し米国が資産凍結等の制裁を
課する一方、IS が勢力を伸ばすのではないかとの懸念から、5 月 16 日にはウィーンで欧米及びリビア周
辺国による会合が開催され、IS に対抗するために、現在国連による制裁で制限されているリビアへの武
器輸出の緩和を支持することで合意した。また、5 月16 日には、同国東部にあるハリガ石油ターミナルで
の操業再開で東西両国営石油会社(NOC)が合意、5 月 19 日には当該石油ターミナルで原油の船積み
作業が開始された旨報じられる。また、6 月 9 日には、IS が支配するシルトに対して暫定議会が奪還を目
指して進攻を開始、6 月 11 日までに港湾の支配権を回復したと伝えられる。シリアについては、5 月 17
日に和平協議(4 月 28 日以降中断中)の再開に向けた会合が欧米、ロシア、及び中東関係諸国間で開
催された。5 月 5 日午前 1 時(現地時間)に発効したとされる停戦を順守しない勢力を和平協議の場から
排除する他、停戦の遵守徹底で合意したものの、具体的な和平協議の再開日については決定せずじま
いとなっている。また、アサド政権軍や反体制派による攻撃と見られるものが散発的に発生しており、ア
サド政権との一時停戦合意が完全に崩壊状態にあると反体制派が 5 月22 日に声明を発表、5 月29 日に
は和平交渉に臨んでいた反体制派幹部が当該交渉は失敗したとして辞任するとともに、当該交渉の継
続を拒否する旨表明、6 月 9 日にはシリアでの和平協議を推進する立場であるデミストゥラ国連特使は和
平協議を再開させることは困難である旨明らかにしている。その他、イエメンでも IS による攻撃が発生し
ていると伝えられる。
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
ただ、これら諸国情勢に関しては、既に原油市場では織り込み済となっており、この面での原油相場
への影響は限定的である。むしろ現在、そして今後原油相場に影響を及ぼすと考えられるのは、ナイジ
ェリア情勢である。同国においては、NDA による石油生産及び出荷関連施設への攻撃が頻発しており、
攻撃を受け始めた 2016 年 2 月以降同国の原油生産は減少傾向となっており、5 月は日量 137 万バレル
と 1 月の同 185 万バレルから日量 48 万バレルの減少となっている(図 17 参照)。ただ、6 月 13 日には同
国のカチク石油相は NDA と和平交渉を開始したと伝えられ(6 月 7 日にカチク石油相は武装勢力に対し
協議への参加を呼びかけたものの、6 月 8 日には武装勢力は協議への参加を拒否、しかしながら、6 月
12 日には、かつてナイジェリアの産油地域で活発に石油関連施設を攻撃した MEND(Movement for the
Emancipation of the Niger Delta: ニジェール・デルタ解放運動)が NDA に対し協議への参加を呼びか
けた他、6 月13 日には NDA が協議に際し独立した国外の仲介者を関与させるように主張したとされる)。
当該協議を通じ、政府及び武装勢力が合意に到達し、武装勢力による石油関連施設攻撃が停止すれば、
同国での原油生産回復の観測から、原油相場に下方圧力を加える可能性が出てくると考えられる一方
で、交渉が決裂することにより、武装勢力が再び攻撃を強化する方向に向かうようだと、夏場のドライブシ
ーズンに伴うガソリン需要期において、ガソリン等軽質製品の生産比率が相対的に高い軽質低硫黄原油
の生産の多いナイジェリアからの原油生産量のさらなる減少、もしくは減少した状態の長期化に対する
懸念が市場で発生することにより、原油相場に上方圧力を加えるといった展開となることも想定される。
米国では 6 月 3 日に発表された 5 月の同国非農業部門雇用者数が前月比で 3.8 万人の増加と 2010
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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
年 9 月以来の低水準の増加幅となった他、市場の事前予想を大きく下回った。加えて、6 月 15 日に FRB
から発表された 5 月の鉱工業生産指数が前月比で 0.4%の減少と市場の事前予想(同 0.1~0.2%の減
少)を上回る減少幅となった他、前年の水準も割り込むなど、必ずしも良好な状態ではないことが示唆さ
れる。また、6 月 14~15 日に開催された FOMC では、2016 年につき 2 回金利を引き上げるとの方針は
堅持された格好となっているものの、金利引き上げは 1 回にとどまると予想する委員の数が 17 人中 6 人
と 4 月 26~27 日の FOMC 開催時(この時は 1 人)から増加するなどしていることから、同国金融当局に
よる金利引き上げのペースの減速観測が市場で発生しやすい状況となっている。このようなこともあり、
今後も米国経済が減速していることを示唆する指標類が発表されるようだと、同国の石油需要に対する
懸念が市場で発生することにより原油相場に下方圧力を加える一方で、米国金融当局による金利引き上
げペースが鈍化するとの観測により米ドルが下落することから、この面で原油相場に上方圧力が加わる
可能性もある。また、米国金融当局関係者による、同国の経済情勢や金利引き上げに関する見解や見
通し等も原油相場に影響を与えることが考えられる。さらに、7 月 11 日(米国株式市場での取引終了後)
夕方にはアルコアから 2016 年 4~6 月期の米国企業等の業績発表が開始されるので、それら企業の業
績によっても米国株式相場や米ドルが変動、原油相場に影響を及ぼす場面が見られることも予想される。
さらに、中国で今後発表される予定である経済指標類も、同国での石油需要に対する観測を市場で発
生させることを通じて、原油相場を変動させることもありうる。
しかしながら、ごく短期的に見れば、当面市場が注目するのは、6 月 23 日に実施される予定である、
英国の EU 残留もしくは離脱を問う国民投票である。これまで発表された世論調査では、離脱支持派が
残留支持派を数ポイント~10 ポイント程度上回っている旨明らかになっており、投票当日に向け、英国を
含む欧州、及び世界の経済に対する不透明感から、株式相場が下落するとともに、英ポンド及びユーロ
が下落、安全資産とみなされる米ドルの購入が進む結果、この面で原油相場の上昇を抑制するか、もし
くは場合によっては押し下げるといった展開も考えられる。また、国民投票で英国の EU 離脱が決定する
ようだと、さらなる懸念が市場関係者間で発生することにより、株式相場が一層下落するとともに米ドルが
上昇、その結果原油相場に下方圧力が加わることとなろう。他方、英国の EU 残留が決定すれば、懸念
が後退する結果、株式相場が上昇するともに、米ドルが下落することから、原油相場が持ち直す場面が
見られることもありうる。
米国では、夏場のドライブシーズン到来に伴うガソリン需要期に突入しており、今後当面は原油精製
処理量の増加に伴う製油所の原油購入活動活発化、もしくは原油購入活動活発化の観測とともに季節
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的な需給の引き締まり感が市場で発生しやすい状況である。このようなことから原油相場がさらに上昇す
る余地はある。しかしながら、足元市場では、原油価格が 1 バレル当たり 50 ドルを大幅に超過するようだ
と、米国でのシェールオイル事業につき、掘削は行ったものの未仕上げとなっている坑井が仕上げ作業
に入り始める、もしくはシェールオイル開発・生産のための水平坑井掘削装置の稼働数が増加し続ける
(既に 6 月 3 日、10 日及び 17 日においては、米国石油水平坑井掘削装置稼働数は前週比で増加して
いる)との観測から、将来に向けた石油需給の相対的な緩和感が市場で醸成されることにより、原油相場
の上昇を抑制する可能性がある。従って、ナイジェリアでの武装勢力による石油関連施設への攻撃が激
化することにより、同国の原油生産に支障が発生したり、現在は以前ほどカナダでのオイルサンド由来の
原油生産に影響を及ぼしていない山火事(5 月は平均で日量 80 万バレル、最も多い時で日量 100 万バ
レル超の生産が停止したとされるが、6 月の推定停止量は日量 40 万バレルになると EIA は 6 月 7 日に
推定している他、IEA は 7 月半ばまでには正常な操業に復帰する旨の見解を 6 月 14 日に示している)
が再び火勢が増す等により生産停止量が増加したりすることを含め、石油需給を一層引き締める要因が
加わらないと、原油価格が上昇し続けるという展開となる可能性はそれほど高くはないものと考えられ
る。
大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入した(暴風雨シーズンは例年 6 月 1 日~11 月 30
日である)。ハリケーン等の暴風雨は、進路や勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施設に
影響を与えたり、また、湾岸地域の石油受入施設や製油所の活動に支障を与えたり(実際に製油所が冠
水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網を破壊することにより、製油所への電力供
給が停止することを通じて操業が停止するといった事態が想定される)、さらには、メキシコの沖合油田
操業活動や原油輸出港の操業等が停止することにより米国の原油輸入に影響を与えたりする(米国メキ
シコ湾岸地域はメキシコから日量 60 万バレル超程度(2015 年)の原油を輸入している)。現時点で予測
機関から発表されている予測では、2016 年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは概ね平年並みか平年
よりもやや活発な暴風雨の発生が予想されている(表 2 参照)。最近では米国の原油生産に占める陸上
の割合が大きくなってきているものの、それでも米国メキシコ湾でもそれなりの量(2015 年は日量 154 万
バレル)生産されていることから、今後のハリケーン等の実際の発生状況やその進路、そしてその予報
等に留意すべきであろう。
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表2 2016年の大西洋圏でのハリケーン等発生個数予想
発表日
熱帯性低気圧(命名されるもの)
うち強い勢力 * のハリケーンとなるもの
うちハリケーンとなるもの
コロラド州立大学
4月14日
12
5
2
コロラド州立大学
6月1日
12
5
2
5月27日
10-16
4-8
1-4
12.0
6.5
2.0
米国海洋大気庁(NOAA)
平年(1981~2010年平均)
*:カテゴリー3(風速時速111マイル(時速178km))以上のハリケーン
出所:各種資料をもとに作成
全体としては、今後当面は、ナイジェリア政府と武装勢力との間での事実上の停戦協議の動向、また、
米国経済指標類等に加え、英国の EU 離脱もしくは残留を問う国民投票が、原油相場に影響を与えると
考えられる。ただ、他方、夏場のガソリン需要期突入に伴う季節的な石油需給の引き締まり感が当面継続
することから、原油価格はなお上昇する余地はあるものの、余り上昇すると米国シェールオイル生産が
回復するとの見方が市場で広がりうることから、他に原油価格を押し上げる要因がなければ、50 ドルを超
過した段階では下方圧力が加わり始める可能性が高まると考えられる。
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