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赤門マネジメント・レビュー 15 巻 6 号 (2016 年 6 月)
オンライン ISSN 1347-4448
印刷版 ISSN 1348-5504
©2016 Global Business Research Center
〔研究ノート〕
海外グループ企業における初期流動管理の導入事例
―海外での日本的生産マネジメントの展開―
Introduction of Early Stage Control at Foreign Group Company:
Overseas Development of Japanese Production Management
高 梨 千 賀子a
Chikako Takanashi
要約:本稿は、アジア新興国で日本企業がマイナー出資をしている海外グループ企業 (自動車部品生産) において、初
期流動管理という日本的生産マネジメントを導入する事例を取り上げる。「初期流動管理」は新製品の設計から量産まで
のプロセスで QCD を徹底的に検証するための管理であり、日本企業の競争力の源泉と見做されている。新製品立ち上
げに際して必要となる同管理は、日本企業では柔軟に行うことができるが、海外拠点の既存組織においては、その実現
が難しい。本稿では、初期流動管理を実施するために海外企業が直面した課題を明らかにし、さらに、ARC 分析を用い
て初期流動管理導入前後の組織を比較分析することで、課題解決法としての組織設計の在り方を検討した。その結果、
マイナー出資の海外拠点で初期流動管理を有効に実施していくためには、1) 初期流動管理を組織構造上に明確に位
置づけること、2) 意思決定に必要な情報の流れを構築すること、3) 初期流動管理業務を評価と報酬に反映させること、
4) 複数の機能部署間にまたがる業務をコンカレントに全体最適できる経営者層のアーキテクト型リーダーシップ、の重
要性が明らかになった。
キーワード:生産マネジメント、初期流動管理、マイナー出資、戦略と組織の整合性
Abstract: This paper took up the case of Introduction of Early Stage Control (ESC) System, particular to Japanese
production management, into the foreign group company (auto parts maker) in Asia with minor investment ratio on
Japanese company side. ESC system is an essential tool to assure the high level of QCD of the new products during the
process from R&D development to production, which is considered as one source of the competitiveness of Japanese
makers. Implementation of ESC is quite difficult for foreign companies, though the Japanese counterparts flexibly handle
it. In this paper, we clarified what kind of problems the local company faced with and how they dealt with them to
implement ESC properly. The ARC framework was used to analyze the case from the perspective of organizational
design. We found out the importance of 1) positioning ESC tasks properly in the organizational structure, 2) making a
formal flow of information for decision making on ESC, 3) putting ESC tasks in the formal assessment and payment
system, and 4) the Architect-type leadership of top management to optimize the whole process of ESC across the various
related functional departments concurrently.
Keywords: production management, early stage control system, miner investment ratio, core rigidities, fitness between
strategy and organization
a
立 命 館 大 学 大 学 院 テ ク ノ ロ ジ ー ・ マ ネ ジ メ ン ト 研 究 科 (Graduate School of Technology
Management,
Ritsumeikan
University,
2-150
Iwakura-cho,
Ibaraki,
Osaka,
Japan),
[email protected]
1. 問題意識
本稿の目的は、日本企業のコントロールが効きにくい環境下で初期流動管理という日本的生産
マネジメントを導入する事例を詳述し、直面する問題とその解決法について考察することである。
査 読 つ き 研 究 ノ ー ト
2016 年 4 月 4 日受付
2016 年 5 月 10 日受理
309
高梨
対象となるのは、日本企業がマイナー出資をしている海外グループ企業である。
一般に、海外に生産拠点を設ける場合、100%自社で設立することもあれば、現地国企業と提携
することもある。後者の場合の主な理由は、進出先国の単独進出を認めないとする投資規制や、
合弁企業に対する税優遇策などを考慮したものだったり、その国 (あるいは海外) での実績がな
く、不足するノウハウを地元企業から補完したりする場合などがある。合弁であれ、単独進出で
あれ、業務提携であれ、資本を注入した企業をマネジメントする際、出資比率が高い方がコント
ロールは効きやすい。従来、海外拠点マネジメント論や技術移転論において多く議論されてきた
のは、それなりのコントロールが効く企業の事例であった。典型的なのは、日本の親企業と海外
子会社間の技術移転マネジメントである。また、その対象分野は、工場内の生産システムの導
入・展開や、調達における現地サプライヤーとのサプライヤーシステムの形成・管理、R&D 機能
における分業や協業など、個々の機能や通常管理であった。
日本的生産マネジメントの一番手っ取り早い導入方法は、日本の本社やサプライヤー企業から
経験のある人員をフル動員して一気に立ち上げるというものだが、それだとイニシャルコストが
膨大な額に達し、それを負担するマイナー提携先は良しとしない。通常、少ない人数のもとで同
システムを導入しなければならないのだ。マニュアル化すれば済むのではないかと考えられそう
だが、多機能部門を巻き込んでの初期流動管理は、それほど簡単なプロセスではない。そもそも、
マイナー出資の提携先に、このような面倒な技術移転をするくらいなら、それとは別に 100%独
資企業を立ち上げればいいのではないかとさえ思える。それができる国なら、それもひとつの有
力な手段である。しかし、それができないケースも多い。すでに提携関係にある現地企業を保護
するために、同じ事業分野への独自進出を基本的に認めないとする投資規制である。その一方で、
当該国の市場が急速に伸びている場合、その提携先の力をなんとか引き揚げ市場ニーズを捉えて
いく必要に迫られたりする。市場拡大の勢いが増すと、出資比率を高めようとしても、今度は提
携先が嫌がる。日本企業は意思決定が遅いので、往々にしてこのような状況に陥りやすい。
本稿で取り上げるのは、このように、今まで海外への日本的生産システムや技術の移転論では
あまり議論されてこなかったマイナー出資提携先における課題であり、これからの日本企業が直
面しやすいものである。このような提携先では、ほとんど日本人経験者がいない。現地企業の環
境の中で、日本企業が追求してきた生産マネジメントの「高品質・低コスト・短納期」を実現す
るには、どのような課題があり、どのようにそれをクリアしていくことが可能なのかを、組織設
計の視点から議論していく。そのために用いる分析枠組みは、ARC 分析 (Saloner, Shepard, &
Podolny, 2001) である。
次節では、まず、日本的生産システムが国際移転される場合の困難さについて、どのようなこ
とが既存研究で指摘されてきたかを整理しつつ、リサーチギャップを示し、本稿を位置付ける。4
節では、事例を分析する視点として、組織設計を考える際の重要な構成要素とポイントを Saloner
et al. (2001) から導入する。5 節では事例を記述する。まず、本稿が分析対象とする「初期流動管
理」とはなにか、生産マネジメントにおいてどのように位置づけられているかを示した後、当該
企業における導入のプロセスを示す。6 節では ARC 分析の枠組みに基づいて事例を分析し、最後
に考察を行う。
310
海外グループ企業における初期流動管理の導入事例
2. 既存研究のレビュー:日本的生産システムの海外移転の困難さ
1950 年代以降、日本の工場や経営についての研究が、先進国アメリカのそれとの比較において
なされた。Abegglen (1958) や Dore (1973) などがその例である。Abegglen はその研究の中で、
アメリカから日本への技術導入が困難になる理由として文化的な違いを指摘した。Dore は、イギ
リス・アメリカと日本の特徴を捉えて、前者をマーケット・インディビジュアリズム (個人主義)、
後者をウェルフェア・コーポプラティズム (集団主義) とし、日本的生産システムと社会や文化
との密接な関係が移転を困難にしているとした。Abegglen や Dore は、このような文化や制度の違
いは、乗り越えるのが困難であると主張している。
1980 年代に入ると、グローバリズムを背景に移転を前提とした議論がなされるようになる。
Linchon and Kalleberg (1985) は、Dore のウェルフェア・コーポプラティズムは文化的な要因では
なく、むしろ、企業へのコミットメントの強さや企業コミュニティ形成など経営慣行や組織構造
によるものであると指摘した。また、日本的生産システムを一般化しフォードシステム (大量生
産システム) に代わるものとみなす一連の研究がなされた (Womack, Jones, & Roos, 1990; Kenny &
Florida, 1988, 1993)。
「リーン生産方式」は Womack, Jones and Roos (1990) によって提唱されたが、
日本的生産マネジメントは、手作りによるコスト高と大量生産による柔軟性の欠如を解消し両者
のメリットを享受するシステムと見做された。彼らも、生産システムの移転は企業努力によって
なしうるものであるとしている。
一方で、海外移転に関する実証研究も盛んに行われた。技術にフォーカスしたものや広く日本
的経営を論じたものがあるが、どちらの研究領域においても共通なのは、移転は可能であっても、
部分的であるということである (Yoshino, 1976; White & Trevor, 1983 など)。移転の違いや成否に
影響を及ぼす要因としては、進出年度、所有形態、生産技術 (Cutcher-Gershenfeld et al., 1994)、派
遣社員数 (片野, 1976)、技術移転の速度、人間関係 (小川, 1976) などが指摘された。また、
Oliver and Wilkinson (1989) は、既存企業への日本的生産システムの導入は、新会社設立の場合よ
りも困難を伴うことを示した。これは日本的生産システムと既存組織との適合性を示唆している。
また、安保 (1988, 1994) や安保, 板垣, 上村, 河村, 公文 (1991) の研究では、日本的生産システ
ムの海外移転の度合いを測るために、適用 (現地にそのまま導入)・適応 (現地環境に応じて修
正) という観点から評価指標を作った。しかしながら、これらの研究の主眼は現状説明であり、
移転のプロセスを扱ったものではなかった。
1980 年代から 1990 年代においては、日本企業の海外進出の実態把握を目的に、日本的生産シ
ステムの品質管理を扱った導入事例研究やアンケート調査が多くみられる。その中心的なものは、
全社的品質管理を徹底させるための QC サークル活動やカイゼン活動に関するものである。これ
らの研究での指摘は、導入が進んでも必ずしもそれが結果に繋がっていない場合があるというも
ので、その原因としては、そもそもの導入方法、参加者の組織内での横展開の限界などが挙げら
れている。
山口 (1996) は、日本的生産システムの主要要素をジャストイン・タイムと自働化とした上で、
これらの現場および管理レベルのノウハウや知識は暗黙知であり、マザー工場はその暗黙知を共
311
高梨
1
有する場として機能している現状を示した。 一方、同研究では、マザー工場制をとっていない企
業においては、技術移転の方法として「人の派遣」「日本での教育訓練」「子会社管理」等が挙げ
られていた。いずれにしても、熟練技術の移転の困難さ、派遣や教育など人を介して移転の重要
性や、企業の現地への大きなコミットメントが必要になることがわかる。
以上、日本的生産システムの海外移転の困難さに関連して既存研究の大枠を整理してきたが、
既存研究の対象となったものは、日本の親企業と海外子会社間の技術移転マネジメントなど、コ
ントロールが効きやすい出資比率の高い企業の例が多かった。しかしながら、冒頭に述べたよう
に、これからの日本企業が直面しやすいのは、出資比率の低い、すなわち、日本企業がコント
ロールしにくい環境にある企業のマネジメントである。既存研究でも示されているように出資比
率の程度は技術移転に影響を与える。加えて、海外現地企業の既存組織への移転は難しいとされ
ている。
一方、既存研究の対象分野は、工場内の生産システムの導入・展開や、調達における現地サプ
ライヤーとのサプライヤーシステムの形成・管理、R&D 機能における分業や協業など個々の機能
であり、かつ、通常管理に関するものであった。しかし、近年、日本企業は研究開発拠点を海外
に設立する傾向にあり、現地での新製品立ち上げを多数の機能部署間にまたがって管理するシス
テム (初期流動管理) の構築は、通常管理よりも重要な課題のひとつとなってきている。
そこで本稿は、コントロールの効きにくいマイナー出資の現地グループ企業の既存組織におけ
る、初期流動管理の導入事例を取り上げる。このように困難な環境下で、日本企業が追求してき
た生産マネジメントの「高品質・低コスト・短納期」という戦略課題を、提携先の海外グループ
企業が自分たちの手で自立して実施していけるほどにするためには、どのような課題があり、ど
のようにそれをクリアしていくことが可能なのかを検討する。
3. 分析枠組み
3.1. 取り上げる具体的な事例
本稿が取り上げる事例は、具体的には、日本の自動車部品メーカーA 社がアジアの新興国イン
ドで生産活動を展開する際、資本提携を含む業務提携を締結した B 社における、初期流動管理導
入の事例である。A 社の B 社への出資はマイナー (10%強) で出向者をせいぜい 2、3 人短期間駐
在させる程度であったため、日本的生産システムの導入を試みてはいても、限界があった。初期
流動管理も導入されてはいたものの、B 社の既存組織においてはほとんど機能していなかった。
それが近年の競争激化に伴い取引企業から初期流動管理の徹底導入を迫られる。B 社は、初期流
動管理を有効に機能させるために、どのような組織的対応をしたのだろうか。これが事例におい
て明らかにされる。
なお、この事例研究においては、匿名記載であることを条件に、現地 (インド) と日本におい
て、2013 年より 2015 年の間に 4 回にわたり、対象企業 (B 社) での初期流動管理導入の中心人
1
山口 (1996) は、調査結果には、マザー工場のほかの機能として、「海外環境に主体的に適応するための
技術開発」がみられるとし、それは生産設備や技術を通して「暗黙知を形式知化するもの」と解釈した。
312
海外グループ企業における初期流動管理の導入事例
物 (X 氏) へ聞き取り調査を実施した。
3.2. 分析の視点
本稿が着目するのは、組織設計である。海外グループ企業の既存組織において初期流動管理の
導入徹底という新たな戦略を実行するために、どのような組織 (再) 設計が行われたのかを
Saloner et al. (2001) の ARC 分析を用いて分析していく。
Saloner et al. (2001) は、戦略的目標と組織の整合性を戦略の重要な概念と位置付けた上で (図
1)、戦略的な目標を達成するために必要な働きをするよう組織を設計できているかどうかを、A
(アーキテクチャ:組織構造)、R (ルーチン)、C (カルチャー) の視点から分析する ARC 分析を
提示している (図 2)。以下、Saloner et al. (2001) に基づき、分析の要点を述べる。
組織設計は、コーディネーション問題とインセンティブ問題の二つの問題 (およびその整合性)
に対し有効な解を提供するものであることが望ましい。コーディネーション問題とは、投入され
た資源 (インプット) を最終製品 (アウトプット) までの一連の組織活動を効率的に行うのに、
組織の有形・無形の資産を如何にコーディネートするかという問題である。ここには、大きく二
つの中心課題がある。ひとつは、「専門性と統合のバランス」であり、もうひとつは「意思決定プ
ロセスの設計」である。
組織活動の中には、ある部門で集中的に活動を行うほうが、効率性が高まる作業がある。その
一方で、それらの専門性の高い部署から出てきた情報を統合して一定の品質を備えたアウトプッ
トとしていく統合という作業が発生する。統合には、部門間で情報を交換し共同で意思決定する
など、複雑で組織内の作業員や部門が意識して協調することが求められる。「意思決定のプロセス」
は、組織というヒエラルキーの中で、各段階で存在する意思決定をコーディネートし、如何に最
終意思としてまとめ上げるかであり、そのための情報の流れを設計する必要がある。基本は、情
図1
組織と戦略の適合性
戦略
競争優位性
コーディネーション問題
インセンティブ問題
カルチャー
組織のマネジメント
ARC 分析
組織設計
アーキテクチャ
出所) Saloner et al. (2001), 邦訳, p. 118 より著者加工
313
高梨
図2
ARC 分析の分析項目
コーディネーション問題
① 情報は組織内をどのように流れるべき
か
② だれがどの判断をすべきか
③ どの活動をまとめるべきか
④ 部門間を結びつけるにはどうしたらよ
いか
⑤ どの活動をルーチン化すべきか
⑥ どのような習慣や意思決定ルールを継
続すべきか
⑦ どのような企業理念や企業環境が必要
か
インセンティブ問題
① 企業の業績にとって最も重要な活動は
なにか
② どのような業績尺度で測り、モニターす
べきか
③ どのような分野のインセンティブ報酬
が効果的か
④ どのようなカルチャーが生産性を高め
る行動を促すか
⑤ どのような採用やフィードバックのル
ーチンが適切か
•組織内の個々人のも
つ価値観や信念
•意思決定の基準
•通常、「当たり前」
として受け入れられ
ている仕事のやり方
カル
チャー
アーキテ
クチャ:
構造
ルーチン
アーキテ
クチャ:
報酬
•部門構成
•部門間関係
•意思決定権
•情報の流れ
•報酬システム
•評価基準
•給与制度
出所) Saloner et al. (2001), 邦訳, pp. 111, 121 を参考に著者作成
報を持っているものが意思決定をする、ということである。通常は、上級マネジャー同士がコ
ミュニケーションをとれば、各組織単位の活動はコーディネートされる。そのためには、各組織
の単位内で集められた情報が、ヒエラルキーの意思命令系統に沿って、上級マネジャーに伝えら
れ、その情報を上級マネジャーが評価し、それがヒエラルキーを通じて命令が伝えられ、資源が
活用されるというプロセスを経なければならない。この流れをどう作るかの問題が、「意思決定の
プロセス」である。
インセンティブ問題とは、企業と違う目標をもつ構成員にどう働きかけて、企業の目的に沿っ
た行動をさせるかという問題であり、企業として価値ある行動の同定、その行動を給与・報酬制
度に結び付けるための評価基準の設定、採用などが含まれる。同じ企業に属しながら、企業の目
的に沿った行動にならないのは、情報や行為すべてを全社全員で正確には共有できず、かならず、
隠された情報や隠された行動が存在するためである。インセンティブ問題では、これを前提にし
た上で、社員から適切な努力を引き出すための仕組みを考えることが重要となる。
こうした二つの問題に対処するような組織設計に有用なツールが ARC 分析である。ARC とは、
314
海外グループ企業における初期流動管理の導入事例
A (アーキテクチャ)、R (ルーチン)、C (カルチャー) を指す。アーキテクチャ (A) は、組織が
どのような部門に分かれ、各部門がどのような関係にあるのかといった組織構造、ヒエラルキー
とルール、および、組織構成員の報酬 (評価システム) をさす。ルーチン (R) とは、企業で
日々繰り返し行われる活動や意思決定、公式・非公式な手順など、「通常、受け入れられている仕
事のやり方」であり、習慣として組織に「当然のものとして」定着しているものを指す。カル
チャー (C) は、組織内の個人が持つ価値観や信念を指し、意思決定の判断基準となるものであ
る。この三つは相互作用するため、三つの要素が全体としてどう働くかによって、有効な組織が
設計されるかどうかが決まる。これらコーディネーション問題、インセンティブ問題、および
ARC などの組織マネジメントと戦略の関係を示したのが、図 1 である。また、図 2 は、分析のポ
イントを示している。
4. 事例
本稿が取り上げる事例は、日本の自動車部品メーカーA 社がアジアの新興国インドで生産活動
を展開する際、資本提携を含む業務提携を締結した B 社における、初期流動管理導入の事例であ
る。A 社の製品は自動車の主要部品のひとつであり、他のシステムとの相互依存関係が強い。そ
のため、車の全体最適を図る上で大きな影響を与える部品である。これは、完成品メーカーと同
部品メーカーの密接な協業を必要としていることを示している。加えて、車の「燃費」という極
めて重要な指標に大きな影響を与える部品であり、部品システム内のシステム構成も依存関係が
深く、一定の品質を確保するためには、よい設計、よい製造、よい品質が実現できなくてはなら
ない。
本節では、まず、初期流動管理の生産マネジメントにおける位置づけと定義を行う。次に、B
社が初期流動管理の本格導入に至った背景を述べる。これらを踏まえて、導入に際してどのよう
な課題に直面し、どのようにそれを乗り越えていったのかを記述する。
4.1. 初期流動管理の生産マネジメントにおける位置づけと定義
生産マネジメントとはなにか。労働力、材料、生産設備、生産情報からなる生産要素を投入し
てより高い価値の財に変換する行為 (活動) が「生産」であり、この生産活動の管理が狭義の生
産マネジメントである。しかしながら、山本・井上 (2007) によると、生産マネジメントは「生
産活動の管理」という狭い範囲にとどまらず、「顧客の満足する製品・サービスをタイムリーに供
給するために、生産要素を有効活用し、効率的な生産活動を企画・運営すること」と定義づけら
れ、日々の生産活動に加え、開発・生産・販売の接点へも活動を拡充して、経営資源の有効配分
と経営目標の達成をはかる経営次元での広範囲な活動を対象とするようになった。それを示した
のが、図 3 である。
初期流動管理とは、新製品開発の流れと日常の生産の流れという二つの柱のうち、新製品開発
ステップの管理に当たる。狙いは品質問題の未然防止である。「製品品質」は、一般に、「設計品
質」と「製造品質」から成る。「設計品質」は要求事項に対し、規定された事項を満たす設計がな
されている状態を指し、「製造品質」は設計図面通りに製造できた状態を指す。新製品の立ち上げ
315
高梨
図3
生産マネジメントの範囲
新製品開発の流れ
開発
初期流動管理
生産企画
生産準備
量産
受注
生産
計画
部品
手配
生産
物流
納品
出所) 山本・井上 (2007), p. 4 図序-3
においては、この二つの品質が必ずしも満たされないことが多い。新製品であるがゆえに予期し
ない問題が発生しがちである。そのため、製品開発から量産開始され安定量産ができるまでの期
間を特別な配慮が必要である期間として指定し、日々の生産プロセスの通常管理とは別に管理す
ることが必要となる。これが初期流動管理である。初期流動管理は、所謂「いいものを作る条件」
を整備するためのものであると言える。この条件をきちんと整備しておけば、初期流動管理から
通常管理 (日常の生産管理) へ移行した後は、この条件からの逸脱、つまり変化点管理をするこ
とに集中することができる。その意味で、生産マネジメントの大きな柱となるものなのである。
図 4 は、デンソーの初期流動管理のステップを示している (杉山, 2010)。初期流動管理の指定
から始まり、4 回にわたってデザインレビューと品質保証会議が行われ、それぞれの段階で意思
決定がなされる。ここで注目すべきなのは、量産工程の早期安定化、市場品質の早期把握を行う
初期流動管理は、実は量産開始からではなく、設計段階から前倒しして行われ、量産段階で作り
やすく不良品を出さないための手段が事前に講じられるという点である。量産に移行してから、
実はこの図面では作りにくいとか、品質が出にくいなどの問題が判明し、設計段階に出戻りして
いたのでは、時間とコストがかかりすぎてしまうためである。図 4 でもわかるように、工程設計
や設備仕様を決める生産準備業務は、量産試作移行決定前の設計段階からかかわってくるし、生
産業務は、量産開始決定前から生産ラインにおける標準作業の検討に入るのである。図 4 の「初
期流動」では、QCD の観点からチェックが厳しく頻度も高い特別管理が行われる。このチェック
をクリアして初めて通常管理下の「定常流動」に移行するのである。
日本の自動車産業の競争優位の源泉のひとつとして指摘されてきたリードタイムの短縮化や品
質の作りこみを可能にしているやり方として、延岡 (2006) は、設計、生産準備、製造などの各
部署が課題を前倒しして解決していくフロントローディングを指摘しているが、それはこのよう
な管理システムの上に成り立っているのである。しかしながら、初期流動管理システムは、生産
技術という部署が確立しているトヨタなどの日本の完成車メーカーや Tier 1 メーカーほどの技術
316
海外グループ企業における初期流動管理の導入事例
図4
初期流動管理の流れと業務
製品企画
新規性などの観点から初期流動管理を指定
設計・試作
0次 デザインレビュー/品保会議
基本構想の審議(製品企画の妥当性判断、
設計図面の出図)
設計
業務
作りやすい製造設計
1 次 デザインレビュー/品保会議
量産試作移行の判断(量産図面の出図)
生準
業務
生産準備/量産試作
2 次 デザインレビュー/品保会議
出荷可否の判断
工法開発、工程設計、設備手配等
生産
業務
初期流動
定常流動
3 次 デザインレビュー/品保会議
安定品質が確保されているかどうかの確認⇒初期流
動管理期間の解除
作業手順の標準化等
出所) 杉山 (2010) 他より著者作成
力・管理力のある企業が日本で実施するには可能であるが、一歩、日本の外に出ると、このよう
な初期流動管理は、100%独資であっても難しい。通常業務との違いは、因果関係が予測できない
不良が発生しがちであること、さらに、その対処として、通常業務の枠を超えた能力や組織間の
横の関係が重要になることである。一般に、日本メーカーはこの初期流動管理を専門に行う部署
を作ることなく、既存の組織の中で通常業務と並行して行っている。
4.2. 現地企業 B 社での日本的管理の限界、従来の初期流動管理の課題
B 社は、1980 年代に、日本の A 社とインド企業の合弁会社として当該部品の生産を目的に設立
された。主な取引先は、インド最大手完成車メーカーC 社 (日本の完成車メーカーD 社と現地資
本との合弁企業) である。A 社は B 社に対して技術援助契約に基づき製造技術を供与していると
同時に、マイナー出資をしている。
B 社はインドの小規模財閥グループ会社のひとつとして設立されたが、同財閥の事業展開はお
もにサービス業であり、製造業への進出はこれが初めてであった。そのため、同業務提携におい
ては、製造技術はすべて A 社が提供してきたが、それは C 社に出資している日本側完成車メー
カーD 社と取引関係にあったこと、さらに、提携を結んだ当時の新興国では、外資系企業が独資
で進出することはできないという投資規制があったためであった。
A 社の B 社への出資はマイナー (10%強) であったため、A 社は出向者を 2、3 人送り込むとい
う状態を長年続けてきた。品質管理、部品の現地化、製造管理など、基本的な生産マネジメント
においては、日本的な管理を可能な限り行ってきたが、わずかな出向者による日本的マネジメン
トには限界があった。初期流動管理もすでに導入されており、厳密に言えば、まったく新しいも
のではなかったが、後述するように、事実上ほとんど機能していなかった。
317
高梨
図5
B 社と A 社の関係
マジョリティ
出資
日本 D 社
OEM メーカー
印C社
OEM メーカー
取引関係
取引関係
印B社
部品メーカー
日本 A 社
部品メーカー
技術援助契約
マイナー出資
出所) インタビューに基づき著者作成
B 社の初期流動管理は、R&D 部門で行われていたが、B 社が行う初期流動管理の範囲は図 4 で
示されたものよりも狭い (4.1 の記述は基本的に日本本社で回す場合である)。現在では、100%独
資によって設計拠点も生産拠点も海外に設置し、現地で完成品の製品開発を行うケースも出てき
ており、その場合は、日本本社のシステムが完全に導入されることがある。一方、新興国でのモ
デル投入においては、日本で製品企画および基本設計・試作を行うことが多く、図 6 の 0 次デザ
インレビューおよび品質保証会議 (製品投入決定) が終わったあとの段階、即ち、量産試作を行
うなど量産移行の可否を決定する 1 次デザインレビューおよび品質保証会議にむけた準備段階
(図 6 のステージ 5 の手前) から、現地企業が関わり始めるのが一般的である。B 社も同様であっ
た。
加えて、B 社における初期流動管理は、形式上存在していたものの、ステージゲートの管理も
甘く、また、どのステージで何をするのかは不明瞭で、さらに、管轄する R&D 部門でも初期流
動管理において各部門でなすべきことと全体の流れを把握しているとは言えない状況であった。
初期流動管理のための会議は、B 社の R&D 部門を主幹として、関連部署 (生産技術部門、生産
部門、品質部門、調達部門) の担当者が参加して行われた。会議では、アドホック的に各部署か
ら出された技術的課題などが話し合われた。会議での意思決定は各部署での作業に反映された。
この会議には、B 社の社長も時折参加しており、社長の肝いりであったことは間違いない。B 社
において、社長の権限は非常に強く、社長指示の強制力は強かった。例えば、経営上層部による
会議体においても社長の主張を覆すような意思決定はなされなかった。しかしながら、社長で
あっても、初期流動管理の個々の作業や全体像を把握しているわけではなく、時折出席する会議
で場当たり的に意思決定に参加するにすぎなかった。
B 社の組織構造は非常に厳密で、部門の仕事は明白だが、あるひとつの部門の作業が終わると、
次の部門の作業に移るといった直線的作業フローが中心であった。情報共有も通常業務に必要な
最低限の範囲にとどまっていた。また、個々人の作業はジョブディスクリプションで規定されて
おり、個人評価もその範囲で行われていた。そのため、チーム作業は重きを置かれてなかった。
また、各部門の部門長になる人物は、必ずしも所謂たたき上げの上級マネジャーではない状況で
あった。
318
海外グループ企業における初期流動管理の導入事例
図6
1
製品化できるかどうかのチェック
2
初期流動管理に相当するレベルかどうかの
チェック
製品企画
初期流動管理指定
3
設計・試作
0次
4
5
生産準備
量産試作
B 社の初期流動管理の範囲
品質保証会議(基本構想の審議)
量産試作段階へ進むかどうかのチェック
1 次 品質保証会議(量産移行可否の決定:設計が
要求事項を満たしているかの確認⇒設計確定)
6
ライン仕様のチェック
7
量産試作品の工程決定
8
2次
9
3 次 品質保証会議(安定品質が確保されているか
どうかの確認)
品質保証会議(出荷可否の決定)
初期流動
定常流動
出所) 杉山 (2010) 他より著者作成
このような中での初期流動管理は、時間管理が十分でないうえに、量産の前に、未解決の課題
が山積していた。初期流動管理に関する知識は蓄積されておらず、初期流動管理の業務を統括す
る R&D 部門にも能力のある人材は皆無だった。そのため、日本の A 社から出張者を大勢呼び寄
せ、どうにか問題解決していたが、その場しのぎであり、A 社から知識を吸収することはなかっ
た。その結果、サンプル納入や量産納入の直前になって問題が発覚し解決に追われたり、納入日
程の調整が行われたりすることは、日常茶飯事であった。加えて、ひとつの初期流動対策として、
日本人出張者 4、5 人を 3 回 (1 回 2 週間) 程度呼び寄せていたため、トータルで約 1,500 万円の
コストが発生していた。
4.3. 初期流動管理の徹底導入
このような B 社の初期流動管理は、競争が激化するにつれ、ポジションによる競争優位性を損
ね始めた。B 社は完成車メーカーC 社 (日本の完成車メーカーD 社と現地との合弁会社) の長年
のサプライヤーであり、長期的安定的関係を構築していた。しかしながら、このような初期流動
管理を継続していけば、品質の保証もままならず、コストアップと納期遅延とも相まって信頼を
損なう可能性が高いことは明白であった。C 社に出資している日本完成車メーカーD 社は日本の
A 社に対し、現地 B 社での初期流動管理の徹底を求めた。B 社では、初期流動管理を抜本的に見
直す必要性に迫られたが、その組織能力がない。従来、日本 A 社は自社の従業員を出向・出張さ
せて改善に当たらせていたが、この程度の対策では到底解決できるような内容ではなかった。そ
こで、B 社の X 氏がこの任に当たることになった。
319
高梨
X 氏は、A 社のマネジャーとして 2 度の出向によって通算 10 年間、B 社に勤務していた。X 氏
は A 社を定年退職した後、B 社に生産技術、品質保証部、工機部を統括する副社長 (Vice
President、以下、VP と表記) として雇用された。X 氏が初めて初期流動管理に携わったのは、社
長として出向していた A 社の欧州拠点においてであった (2 度の B 社への出向と他のアジア拠点
出向終了後のこと)。その拠点においても、X 氏が初めて同システムを導入したのであり、社長の
権限において部門間調整を行い、業務を統括した。この欧州拠点は A 社の単独出資であったが、
X 氏は、現地マネジャーや作業者の多い同拠点と日本企業との違いをきちんと理解し、初期流動
管理を導入したのであった。この経験をベースに、B 社での初期流動管理を再構築することに
なった。X 氏の専門分野は生産技術で、B 社設立当時の生産ラインを組み立てたのも X 氏であっ
た。B 社においては、10 年という長きにわたり、生産ラインの設計から品質管理まで幅広い技術
部門を統括してきた実績があった。B 社に雇用されたのも、この実績と信頼があってのことだっ
た。
4.4. 新たな取り組み
上述のように、初期流動管理は R&D 部門の新製品開発セクションで行われていたが、十分に
は機能していなかった。そこで、X 氏は、同部門を自分の直轄下に置くことを考えたが、社長は
そこまでの組織変更に理解を示さなかった。
そこで、X 氏は、R&D 部門から初期流動管理機能を分離し ESC (Early Stage Control:初期流動
管理) セクションとして新組織を立ち上げ、自らその部門を統括することにした。ただし、これ
は B 社の全ての製品ではなく、B 社の大手ユーザである C 社の新製品開発セクションにおける
ESC 機能のみである。初期流動管理の徹底を強く求めていたのは、その当時、C 社に出資してい
る D 社だけだったからである。また、X 氏のもとにおかれた ESC セクションは 2 年間の期限付き
であった。
X 氏は 2 年間かけて ESC のスペシャリストを養成し、2 年後にはもとの R&D 組織に戻し、さ
らに、他メーカー向け新製品開発セクションでの ESC を指導できるように考えたのであった。
R&D 部門の C 社向け製品開発セクションはそのまま残したが、それは引継ぎの受け皿でもあり、
また、ESC セクションの活動を随時フィードバックすることを可能にするためである。ESC セク
ションのマネジャーは R&D 部門から引き抜いた。ESC マネジャーの評価は X 氏が行い、また人
事権も X 氏が握った。ESC セクションへ配属される 3 人の従業員は、X 氏が指名した。この 3 人
はそれぞれ担当するモデルが決められた。
ESC セクションの設立と期を一にして、社長も交代した。新社長は B 社の経営には長年かか
わっていたが、生産会社を統括した経験はなかった。同氏の手腕は、海外で取得した MBA であ
り、前社長よりデータを重んじていたが、意思決定の判断基準が必ずしも製造会社のそれではな
かった。その意味で、X 氏に対する期待は大きかった。新社長の下、Executive Committee が 5 人
の執行役員により構成され、ESC の権限が強められた。それぞれの管轄は、人事・経理・企画、
サプライチェーンマネジメント、生技・技術・品質保証・工機 (設計以外)、設計、製造の 5 部門
である。X 氏は生技・技術・品質保証・工機を管轄する執行役員として参加している。
320
海外グループ企業における初期流動管理の導入事例
図7
新組織の中の ESC の位置づけ
社長
Executive Committee
R&D 部門
日本 D 社
日本 A 社
設計
情報
X氏
生産部門
生産
ESC
C 社向け
新製品
開発
顧客 C 社
設計会社
エンジニアリング部門
生産情報
生産
技術
その他メ
ーカー向
け新製品
開発
品質
保証
工機
品質
保証
生産情報
出所) B 社資料
図 7 は、組織における ESC の位置づけと、コーディネーション (矢印) の在り方を示している。
上述のように、日本の完成車メーカー (D 社) と部品メーカー (A 社) の間で基本設計はなされ、
初期流動管理のステージ 4 までは管轄される。ステージ 5 に入る手前から B 社の初期流動管理は
始まるが、その際、ESC セクションは A 社より (量産試作にむけた) 生産情報を取得し、生産部
門と共有しつつ 1 次品質保証会議に備える。
ここで、4.2 に示した図 6 に沿って、B 社新組織下での初期流動管理の流れを説明しておく。
1 次品質保証会議 (ステージ 5) を通過すると、A 社では、量産生産のための図面とその部品表
を発行する。これが設計会社 (A 社と B 社の合弁会社) にわたり、B 社での生産に向けた製品部
品図面 (生産用製品部品図面) に置き換えられ、B 社 R&D 部門の C 社向け新製品開発セクショ
ンに移管される。この製品部品図面を基に、工程設計、設備計画、設備仕様の作成など、量産試
作の準備がなされる。エンジニアリグ部門・生産技術セクションがほかの関連部署とともに実行
し、そのチェックを ESC セクションが行う。
ステージ 6 は、設備、金型の仕様を決定する段階である。生産用製品部品図面をベースに作成
された (試作された) 工程、設備等が生産用製品部品図面どおりに生産可能かどうかチェックし、
合格すると設備、金型、治工具の製作にはいる。B 社は金型設計の能力を持っており、大型樹脂
部品の金型は B 社で生産する。小さな樹脂部品については、すべて外注発注する。その際、外注
先が金型を設計する。新規に必要な設備については、設備の仕様書を B 社で作成、見積もりを作
り、外注メーカーに発注する。工具は購買するが、治具は治工具設計部署で設計し、外注メー
カーで製作する。
321
高梨
ステージ 7 は、工程を決定する段階である。量産試作を行ってそれが十分な品質等を確保して
いるかどうかを審査する。具体的には、Mass Production Prototype (量産試作品) を使って工場で生
産してみる。この工程が長くかかる。生産用製品部品図面に対して同じようにできているかどう
かを検査するが、いろんな部分で図面通りになっていないことが多い。通常、金型の修正を 5、6
回しないといけないが、B 社には金型部門があるため、時間短縮になる。同様に、加工、組み付
け、検査などの設備においても、本当に生産用製品部品図面通りにできているかをチェックする。
設備は寸法および公差の範囲でものができていればよいと判断される。一般に、設備が生産用製
品部品図面の寸法、公差通りに作ることができる能力は工程能力と言われる。この工程能力を高
めていくステージがステージ 7 である。
ステージ 8 は二次品質保証会議であり、図面通りに生産し、それらが品質を確保でき、安定し
て生産ができるかどうかを審査する。この時には、徹底的なデータ検証が求められる。
このステージをクリアすると、量産が開始されるが、特別品質管理期間が設定される。通常の
品質管理よりも厳しく品質管理する期間で、通常 3–6 ヵ月かかる。
ステージ 9 は、量産データをまとめて量産工程においてどうだったかをチェックする 3 次品質
保証会議である。これをクリアすると、特別管理期間の終了が宣言され、定常流動へ移行する。
初期流動管理において、X 氏が B 社展開で特に注力したのは、次の四つある。ひとつ目は、①
時間管理の徹底である。B 社の国では特に仕事の時間管理が弱いという特徴があるためである。
次に、②業務の詳細記述である。X 氏は A 社から初期流動管理のマニュアルを入手したが、これ
は日本バージョンであり、日本人なら問題はないが、そもそも初期流動管理というものを知らな
い B 社の現地従業員が理解できるものではない。また、上述の通り、ジョブディスクリプション
が明確に定まっている B 社においては、記述されていないものを、日本人のように推察して実行
するという文化がない。日本では当たり前と言われているタスク、タスク遂行において入手すべ
き情報、その情報を管理している部署、等々、細部に至るまでの記載 (To-Do-List のようなもの)
が必要となった。ESC に関連した全部門がやるべきことをやって初めて初期流動管理は回る。そ
れぞれのステージで、各部署がやるべきことをやらないと仕事が完結しない。何をどこまでどの
ステージでいつまでにおこなうか、徹底して形式知にする必要があったのである。そして、その
ひとつひとつをフォローする体制を作った。各ステージの進捗情報を共有するため、③会議の頻
度を週 1 回にした。これは通常の日本の場合よりも、はるかに頻度が高い。
進捗が思わしくない場合は、ESC セクションではなく、④X 氏が各部門長へ改善要請を出す。
それでも改善がなされない場合は、社長を通してトップダウンで指示を徹底することにした。
本節を締めるあたり、上記のうち、②業務の詳細記述に関連した個別事例を以下に示す。
≪事例 1:To-Do-List の例≫
初期流動管理のステージ 5 において生産技術が行うべき業務について、日本では、
1. 工程 FMEA (Failure Mode Effect Analysis) の作成 (故障モードと影響解析)
2. 暫定工程管理明細票の作成
3. ラインレイアウトの作成……
322
海外グループ企業における初期流動管理の導入事例
のように項目が羅列されている。しかし、これだけでは B 社での展開は困難であった。そこで X
氏は以下のような責任部署及び関係部署を明確にした To-Do-List を作成した。下記のアラビア数
字は、上述のそれと同じであり、ひとつの項目においても具体的な詳細タスク及びそれを実行す
る責任部署並びに関係部署を明記していることがわかる。
1. 工程 FMEA (Failure Mode Effect Analysis) の作成-故障モードと影響解析-(責任部署;エン
ジニアリング部門・生産技術セクション)
□関係部署を集め、故障モードの抽出を実施する事。
責任部署;エンジニアリング部門・生産技術セクション
関係部署;R&D 部門・設計セクション、生産部門、エンジニアリング部門・品質保証セク
ション、マーケティング部門・営業技術セクション、サービス部門
□関係部署を集め、上記故障モードに対しての影響解析を実施する事。
責任部署;エンジニアリング部門・生産技術セクション
関係部署;R&D 部門・設計部、生産部門、エンジニアリング部門・品質保証セクション、
マーケティング部門・営業技術部、サービス部門
□上記の 2 点の結果に基づき、潜在化した故障モードを発生させない工程とする為の対策案を
立案する事。(責任部署;エンジニアリング部門・生産技術セクション)
2. 暫定工程管理明細票の作成 (責任部署;エンジニアリング部門・生産技術セクション)
□全工程系統図の作成 (責任部署;エンジニアリング部門・生産技術セクション)
□工程管理明細票の作成 (責任部署;エンジニアリング部門・生産技術セクション)
□工程 FMEA の中で抽出した工程対策案を工程管理明細表に反映させる事。(責任部署;エン
ジニアリング部門・生産技術セクション)
□上記の全工程系統図及び工程管理明細票を関係部署とレビューし、そこで出てきた不足・変
更点について同上の資料に反映させる事。
責任部署;エンジニアリング部門・生産技術セクション
関係部署;R&D 部門・設計部、生産部門、エンジニアリング部門・品質保証セクション
≪事例 2:日本の「当たり前」が「当たり前」でない品質検査の事例≫
日本では、熟練した検査員が部品の検査を図面に基づき検査を行うが、実は図面には検査の仕
方まで記載している訳ではない。検査は熟練した検査員が持っているノウハウやスキルで実施し
ているのが現状である。日本では (日本人出向者が多い大きな海外拠点でも往々にして)、それぞ
れが「餅は餅屋」の仕事をこなしている。品質検査においても、部品ごとに担当が決まっている
ケースも多い。このように、日本では検査員が検査の仕方を知っているのが「当たり前」になっ
ており、自分がわからなくても、適切な検査員に聞けば検査の仕方はわかる。
それに対し、B 社 (日本人出向者の少ない海外拠点においても同様) で検査を実施する場合、
内製部品であろうが外注部品であろうが、部品の合否を決めるための検査の時点で「検査の仕方
がわからない」といったケースが多発する。それを回避するために、検査を実施する必要が発生
するずっと以前に、図面に基づき検査に必要な「人、機械、材料、方法」は何かを検討し、不足
323
高梨
があればそれらを事前に準備しておく必要がある。
上記ステージ 5 においても、それらのことを事前に実施しておく必要があり、To-Do-List の 1
項目として、記述しなければならない。この点は日本と大きく異なるところである。
5. 事例分析
初期流動性管理は、単にそのシステムやマニュアルを導入するだけでは十分に機能しないこと
は明白だった。というのは、B 社の既存組織のコーディネーション問題の解決法では、初期流動
管理のコーディネーション問題を解決することはできなかったからである。初期流動管理は、部
署間の情報共有、問題解決のための協力、チームワークなどを前提として会社全体で資産のコー
ディネートが必要だったが、B 社の既存組織では、縦割りの組織で、全体最適のためのコーディ
ネートをするタスクを実行するものがいなかった。インセンティブ問題も、縦割り組織の中で与
えられたジョブをこなすことが報酬の基準であったため、部署間にまたがるような業務が評価さ
れることはなかった。
そこで、X 氏は、初期流動管理を導入するに当たっては、ほとんどが部署間の隙間業務であっ
た初期流動管理の業務を専門的に引き受け、全体をコーディネートする組織 (ESC セクション)
を設けた (組織構造の変更)。そして、自らが管轄し、初期流動管理の最高意思決定者になった。
VP レベルの上級経営者が責任と権限をもって関連部署に指揮命令し、それでも部署の抵抗にあう
ときは、Executive Committee や新社長を通してそれを徹底させた。さらに X 氏は、意思決定に必
要な情報の流れを作った。図 7 に示すように、ESC セクションが、A 社、R&D 部門 (C 社向け新
製品開発)、エンジニアリング部門内部 (生産技術、工機、品質保証セクション)、および、生産
部門から直接情報を集約し、X 氏が意思決定できるようにした。これらにより、初期流動管理に
必要なコーディネート問題の解決法を作り出したのである。さらに ESC セクションの人員のなす
べきことを明確に示し、その評価を自ら行うことで、一定の方向に組織行動を向けさせることに
成功した (インセンティブ問題の解決)。
初期流動管理のために各部署がやるべき業務を明記した詳細な To-Do-List を作成したことは、
時間管理の考えと日本では暗黙知化されていた業務への理解を進め、時間が経てばルーチン化す
ることを狙ったものだった。さらに、ESC セクションが頻繁に進捗状況をフォローする体制も、
ルーチン化を進めることになるだろう。「当然の習慣」になるには、時間を待たなければならない
が、100%独資やメジャー出資の海外拠点においても、To-Do-List まで徹底した企業は非常に珍し
い。
また、ESC セクションを少数精鋭のスペシャリスト集団として育成しようとしていることは、
やがて組織に成功者モデルを示すことにもなる。小さな集団ではあるが、それが組織において重
要な職務であるという位置づけがなされることで、成功者モデルは、インセンティブとして働き、
組織学習の方向性を変える力ともなり、行動基準としての文化形成につながることが期待できる。
B 社における初期流動管理は、まだ緒に就いたばかりであり、ルーチン化、文化として定着する
かどうかはわからない。しかし、2、3 年間の期間で交代するような出向者ではなく、B 社の X 氏
がその責任範囲において常時監督する ESC セクションは、定着する可能性を十分に秘めたもので
324
海外グループ企業における初期流動管理の導入事例
表1
組織設計の比較
Before (従来の組織)
コーディネーショ
ン問題
・部署ごとに作業の専門化が行われてお
り、ひとつの作業が完結した段階で次の
部署での作業が始まる (シリアル)
・資産の割り振り⇒部署の通常活動をベー
スに
・意思決定は各部署のボス
・情報は次の作業に必要な分だけを流す。
必ずしも情報の全体像をもつ人間はいな
い
・部署間にまたがる問題については、責任
の所在が明確でなく、たらいまわしにな
り、納期遅れに
インセンティブ
問題
通常業務における報酬制度
トップダウンによる命令に従うことを評価
(指示待ち人間)
アーキテクチャ
組織構造
縦割り
部門横断の業務が抜け落ちる
アーキテクチャ
報酬
各部署で決められた作業において、報酬
ジョブディスクリプションの範囲で業績評
価
カルチャー
決められた仕事がすべて
社長至上主義
ルーズな時間観念
ルーチン
通常業務のルーチンが存在
After (日本的初期流動管理システムの良い点
を現地に適合させた組織)
・複数の部署が同時に各自やるべき作業にか
かる (コンカレント)。
・これらの部署に共通のステージゲートが設
定される⇒一定の時間内にステージクリア
が至上命題。
・統括部門が情報収集、意思決定を行う。
・問題発生の時には、対処を各部門に指示
・VP (Vice President) の下で各部門の情報を収
集、進捗フォロー、指導する担当者を配
置。この担当者は VP に対する報連相を密に
取り、VP はその内容により、①担当者に業
務指示、②各部門担当者に直接指示、③各
部門長に直接改善依頼、④社長に報告し社
長より部門長に指示、の四つの対応のどれ
にするかを決めて実行する。
・担当 VP が業績評価
・完成度評価は、部署毎にそれぞれ実施すべ
き項目に対しての完成度を評価する。その
ため、各部署の完成度レベルが担当者の業
務達成度評価に使用できる。
・横断的組織 ESC 部門の設立
・初期流動管理システムを統括する VP を配
置。
・各部署の部長は統括 VP の命令を順守
・やるべき事がなされておらず、かつ各部門
長に直接依頼をしても動かない場合は、社
長に報告し社長より命令を下す
・各部署はそれぞれ新製品の立ち上げの KPI
(目標管理)、KRA (目標の達成方法) を年度
計画に設定
・各部署のやるべき事が明確になり、それを
完成度評価する事により、更に細かな業績
評価が可能となる。
業務の明確化、責任者の明確化、納期の明確
化のより個別最適レベルを向上させる。
気持ち→態度→行動→習慣→性格→カル
チャー
・日本人が当たり前と思っていたタスクにお
いても To-Do-List 化し、徹底させることで
ルーチン化を図る
・成功モデルを育成することで、学習へのイ
ンセンティブと方向性を示す
出所) 著者作成
あることがわかる。
表 1 は、初期流動管理の徹底導入の前後において、上記のポイントを比較したものである。
6. まとめと考察
本稿では、事業提携により海外で自動車部品の生産マネジメントを行う事例を取り上げ、導入
325
高梨
に際して行った組織変更の有効性を ARC 分析を用いて分析した。分析対象とした企業は、日本企
業がマイナー出資している現地の合弁企業であり、日本企業とは異なる組織や生産マネジメント
が存在する。
このような提携先企業が、外的環境の変化から「高品質・低コスト・短納期」という日本企業
が従来追求してきた生産マネジメントを徹底させる必要性に迫られた。初期流動管理が戦略とし
て選択されるが、既存の組織では、それを実行する能力がない。そこで組織を再設計することに
なった。
初期流動管理を実行するためには、既存組織では解決できないコーディネーション問題、イン
センティブ問題があり、それらを解決するために、現地に適合しつつも、組織構造、ルーチン、
そして文化の組織の各要素を変える取り組みが行われた。
この B 社の事例分析からいくつの重要な示唆を導出することができる。ひとつは経営上層部の
強く密接なコミットメントの必要性である。X 氏は実績を伴った信頼の厚い VP であり、部署間
のコーディネートをする新組織を統括することになった。出向者とは異なり社員として常駐し、
広い範囲の責任と権限を持つ。この新組織の設立に当たっては、Executive Committee で合意をと
りつけた。組織構造を抜本的に変更するためには上層部の決定が必要であり、その中に要の人材
がいることが非常に重要であろう。
そして、この要となる人材が、戦略的目標に対して全体像を知り、全体最適を図るアーキテク
ト型のリーダーシップをとることが、もうひとつの重要な点であろう。長年安定した組織では、
個々の人が自分の与えられた範囲で部分最適をする。それが効率化につながるからである。隣の
課や全体を知る必要はなく、決まった業務を当然のこととしてなしていれば、評価も決まる。こ
れがルーチンである。リーダーは、そこに新たなタスクを導入し、明確に定義しながら徹底させ、
各部署の部分最適 (業務の遂行) の足し算が全体最適になるような組織構造をアーキテクトする。
さらに、現地に適合させるために、日本では当たり前と思われていることを明確に形式知化し
ていく努力も重要である。日本企業の場合、ジョブロールがマニュアル化されていないことが多
く、一方で、チームワークが重視されるため、初期流動期の不測の事態に対処しやすい。一方、
海外は仕事の内容がジョブディスクリプションで記述、文書化されており、その範囲で業務をこ
なすことが求められる。しかしながら、不確実性が増大している期間のすべての業務を記述する
ことは極めて困難であり、記述から漏れる狭間業務が生じる。初期流動管理は、組織間や業務間
の協力を前提としている日本的生産マネジメントである。ここに、日本とは異なる前提をもつ海
外での日本的生産マネジメントの導入が困難な理由が存在する。
カルチャーは簡単には変わりにくい。まずは、組織構造を変え、ルーチンにすべき業務を明確
にすることで組織能力の構築の方向性を指し示すように設計していく。具体的な業績向上 (品質
向上や納期短縮) や成功者モデルの登場など、一定の成果が上がることで、新たなタスクや時間
管理に関する学習へのインセンティブも働くようになる。時間とともに、業務はルーチン化し、
狭間業務における協業や時間を重視する文化へとつながる。このように、ルーチンや文化まで変
えていくためには、日本企業のように一定期間存在するプロジェクト型の組織では十分ではない。
そのためには、組織を新設するなど、組織の中で位置づけ、評価・報酬システムと合わせて長期
学習の道筋をつけることが重要となると考えられる。
326
海外グループ企業における初期流動管理の導入事例
以上の考察は、転換した戦略に対して短期間でなにができるか、時間をかけて中長期的に取り
組むべき問題は何か明確にし、全体最適の布石を打っていくことが重要である点を示している。
組織設計を変える必要が生じたのは、これが海外グループ企業だったためと考えられる。そこ
には、Clark and Fujimoto (1991) や延岡 (2006) が取り上げた日本企業の事例において、日本企業
が当然のことと前提を置いている連帯意識、チームワーク、横のつながりなどは見られない。こ
の点で、現地企業が短期間で対処できるものは、「経営的システム」=組織構造、報酬であると指
摘できよう。そして、そのためには、権限をもつ経営者層が変化の担い手である必要があるので
ある。
本稿が取り上げた事例を日本的生産マネジメントの海外移転と捉えると、古くから議論された
ものとなるが、本事例が、従来あまり議論されてこなかったマイナー出資の合弁先企業という日
本企業のコントロールが効かない中での本格導入で事例を取り上げたこと、日本的生産システム
の特徴ともいうべき複数の機能部署にまたがるプロセスの移転に焦点を当てたこと、これらを組
織設計という視点から分析したことに、わずかながらでも貢献を見出すことはできよう。
最後に、本稿の議論を敷衍して現在日本企業が直面している問題について触れておきたい。IoT
などの新たな技術潮流に対しての日本企業の組織の在り方である。本稿は、日本企業がルーチン
化してきた高度なものづくりのための組織能力をインド企業へ移植するプロセスを論じ、成功の
為に必要なインド企業 B 社の組織の在り方を論じた。一方、欧米が先導する IoT 時代は、ICT 技
術が目まぐるしく進化し、クラウドとビッグデータの活用に基づく新たなビジネスモデルが登場
している。それをベースに製造業の強みを変えようとしている。この中で、従来のルーチン化し
たモノづくりにとらわれている日本企業は実に多い。急速に環境が変わる中で、戦略も組織も、
どの方向に進むべきか頭を悩ませているのである。さらに、IoT 時代においては、フルセット自
前主義の組織や系列関係から、分業が前提のエコシステム型へと転換することが指摘されている
(小川, 2015)。分業型エコシステムで効率を高めるためには、そこで問われるコーディネーション
問題やインセンティブ問題と既存組織のそれと比較し、組織の在り方を考える必要があろう。B
社の事例では、インドという企業組織のボトムアップで成功したのではなく、X 氏がトップダウ
ンで枠組を変え、これをトップが支持しないと、B 社で X 氏は動けなかった。ここから得られる
示唆はトップの重要性である。組織を環境に応じて機動性の高い組織に再編していくためには、
トップのリーダーシップが不可欠である。
また、本稿が取り上げた事例は、従来のモノづくりの事例ではあるが、ARC 分析は経営戦略の
基本事項として IoT 時代にも有効なツールであると考えられる。しかしながら、そこを改めて検
討することも、ひとつの重要な課題であると思われる。今後の課題としたい。
謝辞
本事例をまとめるにあたり、B 社 X 氏には大変お世話になりました。快くインタビューを引き受けて
くださった X 氏に心より感謝いたします。
また、匿名の査読者からは極めて適切なご意見をいただきました。大変参考になりました。心より御
礼申し上げます。
327
高梨
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赤門マネジメント・レビュー編集委員会
編集長
新宅純二郎
編集委員 阿部誠
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編集担当 八代麻希
赤門マネジメント・レビュー 15 巻 6 号 2016 年 6 月 25 日発行
編集 東京大学大学院経済学研究科 ABAS/AMR 編集委員会
発行 特定非営利活動法人グローバルビジネスリサーチセンター
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