設計者のためのプラスチックガイド

掲載予定目次
「設計者のためのプラスチックガイドブック」プラスチック物性研究会編
(原著より以下を掲載予定。青字は既掲載分です。)
5章 成型時の問題点
5.1 成形条件が成型品の物性に及ぼす影響
5.1.1 スチレン系樹脂の成形条件
5.1.2 ポリエチレンの成形条件
5.1.3 ポリプロピレンの成形条件
5.1.4 ナイロン6の成形条件
5.1.5 ナイロン66の成形条件
5.1.7 アセチルセルロース(酢酸繊維素)樹脂の成形条件
5.1.8 ガラス繊維強化樹脂(FRTP)の成形条件
5.1.9 ポリアセタールの成形条件
5.1.10 ポリカーボネートの成形条件
5.1.11 変性ポリフェニレンエーテル(PPE;PPE−M)の成形条件
5.1.12 ポリエチレンテレフタレート(PET)の成形条件
5.1.13 ポリブチレンテレフタレート(PBT)の成形条件
5.1.14 ナイロン610(PA610)の成形条件
5.1.15 ナイロン611(PA611)の成形条件
5.1.16 ナイロン612(PA612)の成形条件
5.1.17 芳香族ナイロン(MXD6)の成形条件
5.1.18 ポリアリレート(PAR)の成形条件
5.1.19 ポリフェニレンサルファイド(PPS)の成形条件
5.1.20 液晶ポリマー(LCP)の成形条件
5.1.21 ポリアミドイミド(PAI)の成形条件
5.1.22 ポリエーテルイミド(PEI)の成形条件
5.1.23 ポリエーテルサルフォン(PES)の成形条件
5.1.24 ポリサルフォン(PSF)の成形条件
5.1.25 ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の成形条件
5.1.26 ポリチオエーテルサルファイド(PTES)の成形条件
5.2 成形材料の含有湿度が成型品物性に及ぼす影響
7章 プラスチック材料の選定
7.1 用途から見た適性材料の選定
7.2 設計べからず集
7.2.1 常識的な立場から
7.2.2 新製品開発の立場から
7.2.3 人間工学の立場から
7.2.4 設計の失敗事例
7.3 基本設計段階での材料のチェックリスト
7.4 材料選定のチェックポイント
7.4.1 チェックポイント例(1)プラスチック選定十戒
7.4.2 チェックポイント例(2)プラスチック選定べからず集
7.4.3 チェックポイント例(3)金属部品をプラスチック化する場合のチェックポ
イント
7.4.4 チェックポイント例(4)材料選定のチェックリスト
7.4.5 プラスチック材料トラブルへの10の間違い
7.5 カタログ数値の読み方
5、成形時の問題点
5.1 成形条件が成形品の物性に及ぼす影響
プラスチック成形晶の寸法精度は金型加工精度の向上、プラスチック材料の進歩改良、
成形機の性能向上などにより格段の進歩をとげている。
成形加工後の成形晶物性に、成形条件がどのように影響するかについては種々な報告が
されていて射出成形加工品の性能向上に寄与している。
プラスチック成形材料はその種類は100種を越し、これらの成形条件についてみても尼大
なものとなるので、ここでは代表的な種類のものについて一般的な成形条件の範囲を述べ、
これらの物性変化の検討も行うことにする。
5・1・1 スチレン系樹脂の成形条件(表5−130)参照)
スチレン系樹脂の流動性をスパイラルフロー値について克るとG P P S,H I P Sとも
に良好な値をしめしていて、ついでA S樹脂、A B S樹脂の順になる。(図5−130)参照)
A S樹脂、AB S樹脂はスチレンモノマーとアクリロニトリノレの共重合体であり、耐熱
性、機械的強度はP S樹脂よりも高いがアクリロニトリルを含有するために成形中に熱変
色を伴うことがあるので成形条件の設定にっいては慎重に行う必要がある。図5−231〕にそ
の色差の変化を図示した。
表5−1スチレン系樹脂の射出成形条件30〕
樹脂 種類
GP,HIスチレン
A S 樹脂
A B S
樹脂
シリンダー酸(℃) ノズル 前 部 中 部 後部
200’∼260200 ∼ 270i80 ∼ 250ヱ60 ∼ 240
190 ∼260190 ∼280180 ∼260160 ∼260
200 ∼200 ∼180 ∼160 ∼
260270250240
金型温度(℃)
30 ∼80
射出圧カ(ma)
40 ∼127
射出時聞(Sec)
2 ∼ 30
冷却時間(Sec)
8 ∼ 50
10 ∼ 50
10 ∼
50
40 ∼150
40 ∼ 100
40 ∼
100
スクリュー回蛾(rP皿)
背 圧(1Pa)
O ∼ユ4
30 ∼ 80
40 ∼
80
78 ∼ 147
78 ∼
147
5 ∼ 30
0 ∼ 14
一61一
5 ∼
0 ∼
30’
14
100
90
良華聰性GPPS
80
ス
1{
イ
ラ
一胆GPPS
70
一胆HlPS
60
耐煎H1PS
’レ
フ
ロ
50
一胆AS
{
40
一個A8S
さ
(㎝)
耐躰AS
30
耐熟ABS
20
超高口撃ABS
10
170 200
シ1」ンダー
250
温虞(。C)
図5−1スチレン系樹脂のスパイラルフロー長さ30)
シリンダー紬
4
260.C
口 ’
色
2
240℃
2
△E
0
220℃
200℃
50 100 150
成形サイクル{Soc)
図5−2ABS樹脂の成形条件と熱変色31)
一62一
5,1.2 ポリエチレンの成形条件(表5−230〕参照)
ポリエチレンは結晶性のプラスチックであり密度により分類されている。(4.6項参照)
ポリエチレンの成形に於いて成形晶の品質に影響を与える条件的なものは成形時の樹脂
流の配向、成形品各部における密度、各部における収縮率の差の変化によって生ずる成形
歪みが問題となる。また成形晶における結晶化度は成形時の冷却遠度の影響を受け、急冷
すると結晶化の進行は抑制され、また密度は小さく迎えられ且つ、収縮率の小さい成形品
が得られる。(図5−3,5−430〕31〕参照)従って徐冷の場合は当然その逆となる。
表5−2ポリエチレンの射出成形条件30〕
樹脂 温度
低密度ポリエチレン
高密度ポリエチレン
シリンター君度(℃)
200・∼
280
前 部
200 ∼
280
中 部
180 ∼
260
後 部
160 ∼
260
210 ∼ 280
210 ∼ 280
200 ∼ 260
180 ∼ 220
20 ∼ 80
ノズル
金型温度(℃)
20 ∼
80
射出圧力(HPa)
49 ∼
118
射出時間(Sec)
3 ∼
49 ∼ 147
30
5 ∼ 30
冷却時間(Sec)
12 ∼
50
1O ∼ 50
スクリr回轍(rP皿)
50 ∼
110
50 ∼ 110
背 圧 (凹Pa)
0 ∼
16
一63一
O ∼ 16
2.O
流れ方向
収
着
寧 1.5
反ゲート側流れと直角方向
(%)
1.O
ゲート側流れと直角方向
30 50 70
金型…忌慶 (oC〕
図5−3ポリエチレンに及ぼす金型温度と収縮率30〕
反ゲート便
O.950
竈
ゲート側
度
(σ㎝3)
0.945
30 50 70
金型温慶(℃)
図5−4 ポリエチレンの密度と金型温度の関係31)
一64一
5.1.3 ポリプロピレンの成形条件(表5−3参照)
表5−3はポリプロピレンの一般的成形条件の範囲を示したものである。ポリプロピレンは
ポリエチレンと同様にポリオレフィン系に属する材料であり、その成形条件的なことは
ポリエチレンと同様と考えてよいが、ポリプロピレンは成形温度を高めに設定すると流動
性は良好になるが280℃以上の高温では熱分解による分子量の低下が起こり物性の劣化の
原因ともなる。(図5−530〕参照)収縮率はポリエチレンより小さく1,O∼2.5%であり、成形
時の樹脂流れによる配向、収縮率、密度などの条件的な挙動はポリエチレンと同様である。
(図5−6,5−7参照)
なお、ポリプロピレンは特にヒンジ特性が優れており、1O万回以上の繰り返し折り曲げ
に耐えるとされている。図5−8はヒンジ疲労特性を表したものである。
表5−3ポリプロピレンの射出成形条件
シリンダー温度(℃)
ノズル
180
前部
中部
後部
200
190
170
∼260
∼270
∼260
∼250
金型温度(℃)
20∼100
射出圧力(岨a)
49∼147
射出時間(Sec)
冷却時間(Sec)
5∼30
15∼60
スクリュー回転数(rp皿)’
50∼120
背
圧.
(uPa)
O∼16
一65一
100
A:M13.O
B:M11.O
C:M1O.3
メ
ル
ト
イ
10
ン
デ
ツ
ク
ス
(σ1阯o)
8
2.16㎏
1.0
C
O.1
200 220 240 260 280 300
岱脂温度 (oC)
図5−5ポリプロピレンのWの温度依存性30〕
2.O
流れ方向
1.5
収
帽
草
2.O
(%〕
流れに直角方向
1.5
怖n,t
20 40 60 80
金型温塵(。C)
図5−6ポリプロピレンの成形条件が肉厚と収縮率に及ぼす影響
一66一
△
O.908
密
’紗.
O
△
●
度O.906
砂
(9/㎝3)
汐
O.904
20 40 60 80
金型温度(。C)
図5−7ポリプロピレン成形条件が成形品の密度に及ぼす影響
1R
↑
2m
100
O.2而m
↓
了
Rタイフ
引
張
強
50
ブ
さ
(”Pa)
90。
廿
2m
“ O.2㎜
了
△
θタイブ
10 102 103 104 105 106
概り返し曲げ回数
図5−8ヒンジ部耐疲労性
一67一
5.1.4 ナイロン6の成形条件(表5−430)参照)
ナイロンには6,66,610,11,12,46など多くの種類があり、結晶性の樹脂である。
現在大量に使用されているのはナイロン6、ナイロン66である。ナイロン樹脂は而÷摩耗性、
潤滑性、耐化学薬晶性、ガスバリヤ性なども良好であるが、吸湿、吸水性が大きくそのた
めに寸法変化も大きい。図5−932〕に見られるように65%RHに放置された場合、平衡水分
3%に達するまで約1年半かかる。図5−10は寸法変化が吸水率と関係があることを示して
いる。寸法安定性を問題にする成形晶に対しては酸化しない鉱油中で150∼200℃でアニー
リングを行っている。
表5−4ナイロン6の射出成形条件30〕
肉
厚
3m以下
3∼6㎜
シリンダー温度(℃)
ル
210
前
部
210
中
部
210
後
部
210
250
210
250
260
210
210
260
210
金型温度 (℃)
20∼ 90
20
射出圧力(HPa)
69∼ 157
69
ノ
ズ
∼
∼
∼
∼
5∼ 20
10
冷却時間(Sec)
15∼30
15
スクリュー回戯(叩m)
50∼ 120
O∼ 2
50
射出時間(Sec)
背
圧(ma)
一68一
O
∼
∼
∼
∼
∼
∼
250
260
260
260
90
157
∼㌔40
∼
∼
∼
30
120
2
10
100%RH
吸 8
水
6
率
% 4
65%Rト1
2
O
100 200 300 400 500 600
時聞 (目)
図5−9ナイロン6の吸水性32〕
8
7
吸
6
水
5
寧
4
%
3
2
1
0
1.0 2.0 3.O
長さの変化(%)
図5−10 吸水率と寸法変化
一69一
ナイロン樹脂はメーカーからの出荷に際しては乾燥密封されているので直ちに成形する
場合には間題ないが、成形終了後に材料倉庫などにしまって置く場合には吸湿し、2%前
後の水分率になることもあるので、一度開封したものを再度成形に使用する時は成形前に
80∼100℃で真空乾燥する必要がある。通常の熱風乾燥ではペレソトの表面が酸化着色し、
表面の分子量は低下し劣化の原因ともなる。また成形時のペレットめ含有水分率の多過は
加水分解の原因にもなるので必ず0.1%以下にするべきである。
ナイロンには明確な融点があり成形温度領域での溶融粘度が著しく低下し、軟化領域が
なく溶融領域で成形することになる。通常の材料の成形条件はノズル先端部が高く、ホッ
パー部に近付くに従い温度設定は低くとってあるが、ナイロンの場合は逆にノズル先端部
は低く設定しホッパー部に近付くに従い高く設定している。ただしホソパー部は水を通し
冷却して材料供給が滞留しないようにする。
したがって射出成形機の温度調節機は正確に動作することが重要でノズノレ部はバルブ付
シャットオフノズノレや逆テーパ付き特殊ノズノレが必要である。なお、ナイロン樹脂は融点
が高いので成形サイクル中の金型温度の冷却に使用する金型温度調節機は十分冷却能力の
あるものが必要である。ま牟ナイロン樹脂成形品は金型温度によってその収縮率が変化す
ることを図5−11に示した。
2.O
成
1.6
形
収
緒 1・2
寧
% O.8
O.4
0
0
20 40 60 80
金型温度(。C)
図5−11ナイロン6の成形収縮率と金型温度の関係
一70一
5.1.5 ナイロン66の成形条件(表5−530)参照)
ナイロン66はナイロン6と較べて融点が30℃程度高いために成形温度範囲が異なってく
る。なお、成形条件的なものはナイロン6と殆ど同様と見てよく、成形品の挙動も同様で
ある。ナイロン成形品を常湿状態で80℃以下で使用する場合には熱処理などの後処理は必
要でないが成形品の使用条件が80℃を越える場合や水分との接触が有る時には熱処理や調
湿処理を行って寸法変化を安定させることが重要である。
表5−5ナイロン66の射出成形条件30〕
肉
厚
3㎜ 以下
3∼6㎜
シリンター温度(℃) ノ ズ’ル 前 郁 中 部 後 部
230 ∼ 280240 ∼ 300240 ∼ 300240 ∼ 310
230240240240
280300300310
∼∼∼∼
金型温度 (℃)
20 ∼ 90
20
射出圧力(HPa)
59 ∼ 147
59
射出時間(Sec)
10 ∼ 20
15
冷却時間(Sec)
15 ∼ 30
15
スクリr回轍(rPm)背 圧(uPa)
50、∼ 1200 ∼ 30
500
∼
∼
∼
∼
90
147
40
30
12030
∼∼
5.1.6 アクリル樹脂の成形条件(表5−630〕参照)
アクリル樹脂はポリメチルメタアクリノレ酸メチル(PMMA)で、その最大の特長は光
学的性質である。透明度が良好でその光線透過率は90∼93%でガラスに勝り航空機などの
風防ガラスとして使用されている。無機ガラスに比べ耐衝撃性は数倍強いが弾性率が小さ
いために変形しやすく表面に傷が着きやすいなどの難点もある。着色が自由で、耐侯性、
耐水性、耐油性が良好である。図5−12はアクリル樹脂のスパイラルフp一値を示したもの
である。
一71一
表5−6アクリル樹脂の射出成形条件30)
良流動性
一般用
耐熱用
ノ ズル
前 部
中 部
後 部
190∼200
175∼工80
150∼160
200∼220
180∼200
170∼185
工50∼160
230∼245
220∼230
190∼200
150∼160
射出圧力(HPa)
100∼140
且OO∼140
100∼140
肉厚3m以下
35∼40
肉厚3∼6㎜
40・∼60
35∼40
40∼60
35∼40
40∼60
シリンダー温度(℃)
180∼190 ●
射出サイクル(S㏄)
肉厚6m以下
60以上
60以上
60以上
110
G Pスチロール ’
100
!
!
ス
!
パ g0
■
イ
!
’
ラ
ル 80
’
低粘度アクリル
フ
ロ
1 70
長
さ
60
(㎝)
高粘産アクリル
50
40
中粘麿アクリル
30
200 250
シリンダー温度(。C)
図5−12 アクリル樹脂のスパイラルフロー
一72一
300
5.1.7 アセチルセルローズ(酢酸繊維素)樹脂の成形条件(表5−7参照)
アセチノレセノレローズ(酢酸繊維素)樹脂はパノレプや綿の繊維素を氷酢酸によりエステル
化した繊維素誘導体でこれに可塑剤を添加したものである。耐衝撃性、耐油性に優れてい
て、光学的性質(光線透過率)は長時間目光に暴露されても低下は少なく、曇り価もセル
ロイド、P VCシートよりも優れていて、透明性も良好であり、着色も自由に行える。
成形材料としてのペレソトは吸湿(約3%程度)しているので事前に乾燥をしておく必
要がある。
表5−7 アセチル繊維素樹脂の射出成形条件
3mm以下
3
150 ∼ 240
160 ∼ 250
160 ∼ 250
160 ∼ 250
150
金型温度 (℃)
20 ∼ 80
20
射出圧力(肥a)
59 ∼ 137
59
射出時間(Sec)
5 ∼ 25
10
冷却時間(Sec)
5 ∼ 30
10
40 ∼ 100
40
条件
肉厚
6mm
∼
シリンダー温度(℃)
ノ ズ ル
部
前
中
部
後
部
スクリュー回転数 (rpm)
背
圧(mPa)
O ∼ 3
一73一
160
160
160
0
∼
∼
∼
∼
∼
∼
∼
∼
∼
∼
240
250
250
250
80
137
30
50
100
3
5 1.8 ガラス繊維強化樹脂(F R T P)の成形条件
ガラス繊維強化樹脂(F RT P)には次に示す種類がある。
1)G F P S 樹脂
2)G F A S 樹脂
3)G F AB S樹脂
4)G F P E 樹脂
5)G F P P 樹脂
6)G F P A6樹脂
7)G F P A66樹脂
8)G F P OM樹脂
9)G F P C 樹脂
10)G F P E T樹脂
11)G F P B T樹脂
12)G F P P E&P P E−M樹脂
各材料にはガラス繊維以外に用途によっては炭素繊維を添加した材料もある。これら
F RT P樹脂の射出成形条件は添加するガラス繊維の長さ、添加量によって成形時の流動
性が異なり一般に成形流動性は低下する。そのために流動性を補う意味から通常のナチュ
ラノレ材料の成形温度より約10℃程度高目に設定することが多い。
F R T Pはガラス繊維の添加によって無添加の材料による製品外観と比較して光沢の
ある外観は得られない。また成形晶内部に於けるガラス繊維の分散が成形条件によっては
部分的に偏ることもあるので射出速度の注意が必要となる。金型においてはピンゲートは
なるべく避けた方がよく、抜き勾配は収縮率の影響を受けるので比較的大きい方が良い。
使用スクリューやシリンダー、金型はガラス繊維によって摩耗を生ずることもあり、これ
は避けられないことなので酎摩耗性についての検討を行う必要がある。
5.1.9 ポリアセタールの成形条件(表5−8参照)
ポリアセターノレは吸湿性が比較的少ないが、空気中での吸湿率は0.2%位であるので成形
前に80℃の温度で2∼3時間乾燥する必要がある。
成形時においてはシリンダー温度の許容範囲が狭く熱安定性が悪いので注意が必要であ
る。(図5−1330)参照)
寸法安定性のよい成形品を得るためには金型温度を高目(約120℃)に設定し、成形時に
結晶化度を十分に上げ、且つ、充填量を十分にし、収縮率を2%程度に抑えることが重要
である。
一74一
表5−8ポリアセタールの射出成形条件
厚
肉
3
3m 以下
∼
6㎜
シリンダー温度(℃)
ノ
ズ
200
ル
前
部
中
部
後
部
200
170
170∼215
170∼215
170∼215
ユ70
170
金型温度
(℃)
70∼120
70
射山圧カ
(ma)
50∼120
50
射出時間
冷却時間
(Sec)
(Sec)
15
15∼40
スクリュー回融(叩皿)
5∼120
背 圧
0㍗3
(凹Pa)
5
5∼20
∼
∼
∼
∼
∼
∼
∼
240
熟分解む
胆 230
四
220
度
(℃)210
200
190
180
10 20 30 40 50
滞留時間(nin)
ポリアセタールの熱分解曲線30)
一75一
215
215
120
120
25
40
5 ∼120
O ㍗3
250
図5−13
215
5.1.10 ポリカーボネートの成形条件(表5−930〕参照)
ポリカーボネートの実用使用温度範囲は一40℃∼120℃と広範囲にわたっている。耐衝撃
性はエン!ラの中で抜群の値をもっており。また、無色透明で可視光線の透過率は80∼90%
でアクリルについで高い値を示している。
しかしながらポリカーボネートは必ずしも成形性が良いとはいえず軟化温度は高く溶融
粘度も他の熱可塑性プラスチックと比較して極めて高い。(図5−1433)参照)
ポリカーボネートの射出成形において材料ペレットを空気中に長時間放置した場合は空
気中の水分を約0.15%吸水し、そのまま成形を行うとシリンダー内の高温により加水分解
を起こし分子量の低下により物性の劣化を生ずる。(表5−10参照)
成形に際しては材料ペレットの吸水率を0,015%∼0.02%以下にすることが重要であり、
乾燥条件として温度110∼120℃、真空乾燥ならぱ5∼10時間、熱風乾燥ならば10∼20時聞
が必要である。(図5−15参照)
表5−9ポリカーボネートの射出成形条件30〕
肉
厚
3m 以下
3
∼
6m
シリンダー温度(℃)
ノ ズ ル
前
部
中
部
後
部
金型温度
250 ∼300
260 ∼310
260 ∼310
200 ∼310
(℃)
250
260
260
250
80 ∼130
80
∼310
78
∼196
射出圧カ
(1Pa)
78 ∼196
射出時間
冷却時間
(Sec)
5 ∼ 20
5
(Sec)
15 ∼ 40
15
スクリュー回転数(rpm)
30 ∼ 70
30
背
圧
(1Pa)
∼300
∼310
∼310
∼310
O ∼ 4.9
一76一
∼
∼
∼
O.∼
20
40
70
4.9
.105
8
6
べぷ
見4
o
一(*さ二そ“
掛
弗’
べ
“
一
さ
巻
’〈、イ
粘
㌣N
2
斗(〈
\イ
度
ボ104
公乙
1
ア 8
ズ
) 6
4
3
2
物〉 帖 ソ
x
ア◇、一
⑤
150
200 250 300
温 度(。C)
図5−14 ポリカーボネートおよび各種プラスチックの溶融粘度33〕
表5−10ポリカーボネートの乾燥後(l10℃,4hr)
空気中に放置して成形した成形品の物性劣化
放置時間(皿in)
落球テスト(r㎏)
15
5
5
O
30
60
90
工.65
O.05
破壊率(%)
0
33
62
82
a=120℃■空乾擾
b :120oC熟風乾燥
含
0.04
b
水
O.03
a
阜
O.02
%
1
O.01
t
▼
5 10 15
乾燥時間(hr)
図5−15ポリカーボネートのペレット乾燥曲線
一77一
5.1.11変成ポリフェニレンエーテル(PPE;PPE一”)の成形条件(表5−1134)参照)
変成ポリフェニレンエーテノレは吸湿性ではないが、良質な成形晶を得るためには予備乾
燥を温度110℃、4時間行うことが必要である。金型温度は80∼105℃が望ましい。
変成ポリフェニレンエーテノレは機械的加工性に優れていて、切削、セノレフタッピングが
比較的容易に加工出来る。ただし、オイル、グリース、薬晶等の環境剤の接触は避けた方
がよい。
表5−11変成ポリフェニレンエーテル(PPE;PPE一”)の射出成形条件苧4〕
流動性良
剛性大
270∼280
275∼280
265∼270
250∼260
270∼310
275∼280
265∼270
260∼265
金型温度(℃)
50∼90
射出圧力 (皿a)
49∼137
80∼120
69∼137
シリンダー温度(℃)
ノ ズ ル
前 部
中 部
後 部
背 圧 (lPa)
射出遠度
5∼15
中∼ 高
78
スクリr回転数(rpm)
5∼15
中∼高
78
5.1.12ポリエチレンテレフタレート(PET)の成形条件(表5−1232〕参照)
ポリエチレンテレフタレート(PET)は飽和ポリエステノレ樹脂で結晶性である。繊維、
フィノレム、ペットボトル用などとして相当量が使用され、プラスチック成形材料としては
そのほとんどがガラス繊維又は炭素繊維などによる強化材料として市場に提供されている。
P E Tは多くの熱可塑性エンプラと同様に吸湿しやすいので成形時には十分な乾燥が必
要であり、できれぱ除湿真空乾燥機が望ましい。通常のホッパードライヤーでは除湿装置
が付随していないので十分な乾燥が行えない。そのまま成形を行えぱ含有する水分により
シリンダー内で加水分解を起こし、それにより樹脂の流動粘度は下がり成形品はできるも
のの物性は図5−1636〕に見られるように含有水分量によって急激に低下する。
P E Tの乾燥条件
温度120∼135℃
乾燥時聞 バージン材 2∼3 時聞
再生材 3∼4時間
吸湿した材料 4∼6 時間
一78一
ポリエチレンテレフタレート(PET)の射出成形条件32〕
表5−12
GF 30%
GF 45%
GF 55%
260∼300
265∼295
260∼295
260∼290
277 ∼300
265 ∼295
260 ∼295
260 ∼288
265∼300
265∼295
265∼300
265∼290
シリンダー温度(℃)
ノズル 部
前 部
中 部
後 部
金型温度 (℃)
射出圧力 (■Pa)
スクリュー回転数(rp㎜)
背 圧(1Pa)
85∼120
123
85 ∼120
123
40∼100
O∼2
85 ∼120
123
40 ∼100
O ∼2
40 ∼100
0 ∼2
100
90
^
引弧強さ
大
80
○
伸ぴ
の
%
70
ノツチなし
アイゾットo■螢さ
50
O.01 0,02 0,03 0,04 0.05
水 分 (%)
図5−16
ポリエチレンテレフタレートの水分含有による物性劣化36〕
一79一
5.1.13 ポリブチレンテレフタレート(PBT)の成形条件(表5−1335〕参照)
P B T樹脂はP ET樹脂と同様に飽和ポリエステノレで結晶性の樹脂である。
この材料もペレットは吸湿しやすいので十分乾燥には留意しなけれぱならない。未乾燥の
まま使用すればP ETと同様に含有する水分により加水分解を起こし、物性の劣化は免れない。
P B T樹脂は非強化もあり、また、ガラス繊維、炭素繊維などによる強化樹脂も市販され
ている。
表5−13ポリブチレンテレフタレート(PBT)の射出成形条件35〕
非強化性
ガラス雌麟雌
強化
シ〃一温度(℃)
ノズル
部
前
部
中
部
250 ∼255
255 ∼260
250 ∼255
後
部
.240 ∼250
255∼260
260∼265
250∼260
240∼250
金型温度(℃)
40 ∼ 80
40∼120
射出圧力(一Pa)
59 ∼ 88
50∼120
スク引コー固融(叩皿)
40 ∼100
40∼100
背
圧(1Pa)
O ∼ 2
0∼2
5.1.14ナイロン610(P^610)の成形条件(表5−1436〕参照)
表5−14ナイロン610(P^610)の射出成形条件36)
非強化
シ〃一温度(℃)
ノ ズ ル
240∼260
250∼270
270∼280
270∼280
前 部
中 部
後 部
金型温度 (℃)
30∼ 90
射出圧力 (1Pa)
44∼ 78
スクリュー国融(叩m)
50∼120
背 圧(1Pa)
一80一
O∼30
5.1.15 ナイロン611(PA611)の成形条件(表5−1536)参照)
表5■5 ナイロン611(P^611)の射出成形条件36〕
非 強化
帆クラフ了イト,強化
シリンダー温度(℃)
ズ
ノ
200
ル
200∼210
220∼230
230∼250
200∼210
210∼230
240∼250
260∼280
金型温度 (℃)
30∼90
30∼90
射出圧力 (]Pa)
45
45
スクリr国轍(rPm)
50∼100
50∼100
0∼ 20
O∼ 20
前
中
部
後
部
部
背
圧(凹Pa)
5−1.16ナイロン612(P^612)の成形条件(表5−1636)参照)
さきに5.1.4及び5.1.5項でナイロン成形時の概略を説明してあるので、5.1.14∼5.1.16
項ではこれらを参考にして頂きたい。
表5−16ナイロン612(P^612)の射出成形条件36)
非 強 化
GF3銚 強化
シリンダー温度(℃)
ノ ズ
ル
190
前
部
2ユ0
中
部
220
後
部
230
∼210
∼220
∼240
∼250
265
270
270
280
∼270
∼280
∼285
∼290
金型温度(℃)
30 ∼ 90
100
射出圧力(1Pa)
44 ∼ 78
100∼137
スクリュー醐(rP皿)
30 ∼100
20
背 圧(一Pa)
O ∼ 25
一81一
∼90
0
5.1.17 芳香族ナイロン(㎜XD6)の成形条件(表5−1733〕参照)
芳香族ナイロンMXD6はナイロン6、ナイロン66と異なり、分子鎖中に芳香族環を持つ化
学構造となっている。PA6,PA66,MXD6の物性比較を表5−18に示した。
表5−17
芳香族ナイロン(”XD6)の射出成形条件33〕
非強化
GF強化
&
シリンダー温度(℃)
255
ノズル
前
部
260
中
部
270
後
部
275
∼265
∼270
∼275
∼280
金型温度(℃)
120∼140
射出圧カ(ma)
54
∼147
スクリュー国蛾 (rP皿)
20
∼100
背
表5−18
性 質
比 重
0
圧(ma)
∼
20
P^6,P^66とP^”XD6の物性の比較
PA6
条 件
20℃
1.14
PA66
PAMXD6
1,14
1.21
吸水率(%)
20℃水中飽和
11.5
9.9
5.8
吸水率(%)
65%RH平衡
6.5
5.7
3.1
荷重たわみ温度(℃)
1.82㎜Pa
57
60
96
融 点(℃)
結晶
225
268
243
ガラス転移点(℃)
粘弾性方
60
80
102
61.7
76.4
引張強さ(MPa)
引張弾性率(㎜a)
2548
3136
伸 び(%)
200
60
曲げ強さ(MPa)
122.5
2352
曲げ弾性率(MPa)
衝撃強さ(MPa)
1/4 ノッチ付Izod
一82一
58.9
127.4
2940
39.2
98.9
4704
2,3
156.8
4410
19.6
この表のように吸水率はPA6,PA66と比較して約1/2と低い値を示している。
成形に当たっては当然のことながら材料ペレットの予備乾燥は十分行われなけれぱなら
ない。また、他のナイロン樹脂同様結晶性の樹脂であり成形温度に関しては正確に設定す
る必要があり、かつ、樹脂温度は300℃を越えると熱分解しやすくなるので注意が必要であ
る。金型温度は120∼140℃が最適であり、シリンダー温度の設定は他のナイロンと同様に
逆勾配にする。
5.1.18ポリァリレート(P^R)の成形条件(表5−193フ〕参照)
ポリアリレート(PAR)は非晶性樹脂で透明であり、樹脂流動性は分子量によって異なり
良流動性から耐熱性まで広範囲にわたるグレードがある。耐薬晶性はアノレカリ、強酸には
耐えない。成形晶とした場合に、成形歪の問題があるのでアニーリングの検討が必要であ
る。
表5−19ポリアリレート(P^R)の射出成形条件37〕
良流動性
耐
熱
シリンター温度(℃)
ノズル
250 ∼260
250 ∼260
240 ∼250
200 ∼230
350∼360
340∼350
330∼340
300∼320
金型温度(℃)
50 ∼ 80
100∼130
射出圧力(服a)
108 ∼118
137
100
100
前
部
中・
部
後
部
スクリュー国箏蒙(叩m)
背
圧(1Pa)
O∼3
一83一
O∼3
性
5.1.19ポリフェニレンサルファイド(PPS)の成形条件(表5−2035〕参照)
ポリフェニレンサノレファイド(PPS)は高結晶性の熱可塑性樹脂であり、そのほとんどが
ガラス繊維などによる強化材料として市場に供給されている。
耐熱性が高く、連続耐熱220℃のU L認定材料である。耐薬品性については常温では侵さ
れる薬晶、油類は無い。また、機械的物性も優れている。
成形に際して注意すべきことは材料ペレットの乾燥温度と時聞であり、P P Sの吸水率
が0.02%と少ないがやはり乾燥は十分行う必要がある。
表5−20 ポリフェニレンサルファイド(PPS)の射出成形条件3亨〕
GF40%強化
非強化
280 ∼300
300 ∼320
320 ∼330
340 ∼350
280∼300
300∼310
310∼320
310∼320
120 ∼160
120∼150
シリンダ温度(℃)
ノ ズ ル
前
部
中
部
後
部
金型温度 (℃)
射出圧力 (凹Pa)
49 ∼147
29∼ 98
スクリュー回蛾 (rPm)
20 ∼100
20∼100
背
圧(ma)
0 ∼ 3
一84一
0∼3
5.1.20液晶ポリマー(LCP)の成形条件(表5−2138〕参照)
熱可塑性の液晶ポリマーは熱溶融型が用いられ、結晶性樹脂で優れた耐熱性があり熱変
形温度が350℃を越えるものもある。明確なガラス転移点を持たないので急激に特性が変化
する領域がない。射出成形された成形品はスキン・コア構造を形成し、高度に配向したス
キン層によって強度が保持される。薄肉の成形品ほどスキン層の比率が高くなり、単位面
積当たりの強度が上がるのを特長としている。
成形では、溶融粘度の温度依存性や勇断遠度依存性が一般の熱可塑性樹脂に比べて大き
いので成形条件が適切であれば、薄肉成形加工に有利である。
表5−21液晶ポリマー(LCP)の射出成形条件38)
GF40%強化
GF50%強化
シリンダ・離(℃)
ノズル
前
部
中
部
後
部’
400∼410
370∼380
350∼360
330∼340
360
360
350
330
∼370
∼365
∼360
∼340
傘型温度
(℃)
100∼160
70
∼160
射出圧力
(口Pa)
120∼160
80
∼160
スクリュー回轍
(rPm)
40∼100
40
∼100
背
圧(ma)
0∼6
一85一
O
∼
6
5.1.21ポリアミドイミド(PAl)の成形条件(表5−223フ)参照)
ポリアミドイミドは吸水率がO.3%もあるので成形に際しては、予備感想を行わねばなら
ない。乾燥条件は120℃、8∼24hrは必要である。
P A Iは耐熱温度の目安となる荷重たわみ温度は278∼282℃、引張り強さ191∼220MPa、
弾性率4,800∼14,700MPaで曲げ強さ240∼359MPa、弾性率5,027∼14,180MPaと剛性が極めて
高い。
表5−22ポリアミドイミド(P^1)の射出成形条件37〕
標準,
耐摩耗,
高強度
シリンダー酸(℃)
ノ ズ ル
345
前
部
345
中
部
340
後
部
320
金型温度(℃)
200
射出圧力(1Pa)
59
スクリr回蛾(rPm)
40
背圧(ma)
0
∼
∼
∼
∼
一86一
230
147
100
5