側鎖結晶性ブロック共重合体の 無電解Niめっき前処理への利用

側鎖結晶性ブロック共重合体の
無電解Niめっき前処理への利用
福岡大学
工学部 化学システム工学科
助教 中野 涼子
教授 八尾 滋
1
従来技術とその問題点
無電解Niめっき
非導電性のプラスチック等に対する金属メッキとして利用
基材表面上に金属触媒を一様に分布させることが重要
無電解Niめっきの行程
:基材表面の汚れを除去
脱脂
↓
エッチング :基板表面に凹凸を作成
↓
キャタリスト :無電解めっきの核である金属触媒を吸着
↓
アクセレーター :金属触媒の酸化還元反応により金属を生成
↓
無電解Niめっき
↓
電気めっき
( http://www.fm-007.com/faq/detail.php?no=MTE4 より引用)
( http://broscct.sakura.ne.jp/chrome.htm より引用)
2
従来技術とその問題点
金属触媒の吸着前処理法(エッチング):
薬品で腐食させる or プラズマ等を照射する
基材
基材
基材
基材
基材
基材
❐ 薬品処理後に廃液が発生
❐ 複雑な構造体では十分な表面処理が不可
3
❐ 薬品処理後に廃液が発生
❐ 複雑な構造体では十分な表面処理が不可
基材
基材
(エッチング)
基材
エッチング液(強酸)
繰り返し使用可
→いずれは廃棄処分
リンス液
エッチング液(強酸)を含む
特に、ABS基材の場合…
エッチング液に六価クロムを含む
(リンス)
基材
環境負荷大
環境施策に抵触する場合も…
(例:RoHS)
4
❐ 薬品処理後に廃液が発生
❐ 複雑な構造体では十分な表面処理が不可
プラズマ照射
電子線は直進
電子線の入射角には限界がある
構造表面の改質は可能
構造によっては改質できない箇所も
均一なめっきを作ることが困難
5
既往の研究による知見
結晶化超分子間力による結晶性高分子(PE)の表面改質
側鎖結晶性ブロック共重合体で見いだされた機能
⇒長鎖アルカン鎖部位を持つ高分子が、ポリエチレン表面と、非常に強い相互作用力を示す
O
O
n-BA
STA
Functional Unit
O
O
n
m
Side chain
crystalline Unit
PE Surface
側鎖結晶性ブロック共重合体(Side Chain Crystalline Block Co-polymer: SCCBC) の典型例
および模式図
6
側鎖結晶性ブロック共重合体
(Side Chain Crystalline Block Co-polymer: SCCBC)
→側鎖結晶部位と機能性部位からなるブロック共重合体
monomer
Chemical Structure
Melting temperature
Mw
stearyl acrylate (STA)
H2 C=CHCO2(CH2)17CH3
32-34°C
5,000
n-butyl acrylate
(n-BA)
H2 C=CHCO2(CH2)3CH3
-64°C
6,000
※Tm, SCCBC≒55°C
STA由来の結晶を確認
偏光顕微鏡写真(スケール:100µm)
7
例-1:SCCBC添加前後のPE粒子表面の変化
(a)
(b)
10nm
10nm
SCCBC添加前のPE粒子
PE粒子表面が
SCCBCで覆われている
SCCBC添加後のPE粒子
O
O
O
O
PE
n-BA
STA
m
n
8
<Results>
t= 0
t= 150ps
t= 50ps
t= 100ps
t= 200ps
t= 1ns
9
(side view)
(top view)
be adsorbed on the surface of PE
by the van der Waals
10
結晶化超分子間力による結晶性高分子(PE)の表面改質
側鎖結晶性ブロック共重合体で見いだされた機能
⇒長鎖アルカン鎖部位を持つ高分子が、ポリエチレン表面と、非常に強い相互作用力を示す
Functional Unit
ファンデルワールス(van der Waals)力が
面で作用する Side chain
⇒非常に強力な接着相互作用力を発揮
crystalline Unit
O
O
O
O
n-BA
STA
n
m
PE Surface
側鎖結晶性ブロック共重合体(Side Chain Crystalline Block Co-polymer: SCCBC) の典型例
および模式図
11
例-2:PEフィルム表面の改質
低濃度(~1wt%程度)のSCCBC酢酸ブチル溶液を調製
a) 溶液に浸漬させる方法
b) アプリケータで膜引きする方法
(a)
PE film or
porous membrane
Dipped in SCCBC solution
Modified film or
porous membrane
(b)
PE film or
porous membrane
Coated with SCCBC solution
Modified film or
porous membrane
12
SCCBC改質PEフィルムの水接触角測定結果
Crystalline
monomer
O
O
O
O
O
Functional monomer
O
V
O
V
SCCBC-1
O
O
SCCBC-2
O
O
n
SCCBC-1
Tm
Mw: 3,000
PEGMA
Mw:
62,000
2.79
53°C
Mw: 2,400
DEAEMA
Mw:
25,600
1.18
60°C
BHA
O
Mw/Mn
m
SCCBC-2
PE
PE + butyl
acetate
PE + SCCBC
(1wt%)
SCCBC-1
Av. 90°
Av. 91°
Av. 45°
SCCBC-2
Av. 91°
Av. 89°
Av. 70°
浸漬処理のみで接触角が低下
→親水化が可能
PE
13
SCCBC/PE吸着界面のTEM観察結果
SCCBC
PE
100nm
@東ソー分析センター
・SCCBC層でラメラ形成の一方、PE界面付近は形成が乱れている
・特に界面での剥離はない+界面におけるアモルファス層の染色域が
確認できない
SCCBCはPEの構造と同調し、非常によく接着している
14
SCCBC改質PE多孔膜の改質効果
O
O
O
O
O
O
m
DEEA
STA
(a)
n
(b)
(a):非改質膜
(b):改質膜 (Dipping)
多孔質の細孔内表面の親水化が可能
15
SCCBC改質PE多孔膜の改質効果
-改質多孔膜を用いた水中金属イオンの吸着実験-
O
O
O
膜外観の変化
O
N
DEAEMA
BHA
インク透過前
インク透過後
m
n
・非改質膜はBBインク水を透過しない
・BBインク水透過後の改質膜に着色を確認
⇒撥水性のPE表面が親水性へ変化
16
FT-IR分析による比較
・還流操作により改質膜からSCCBCを溶媒中へ脱離後、濃縮
→FT-IR測定
・鉄イオンの吸収ピークは700cm-1および800cm-1付近
(Journal of Molecular Structure 834-836 (2007) 445-453)
SCCBC
800
750
cm-1
%T
SCCBC + BB ink
850
700
650
・SCCBC + BB ink
鉄イオンによる吸収ピークを確認
⇒改質膜による鉄イオン吸着の可能性を示唆
17
側鎖結晶性ブロック共重合体によるPEの表面改質
Functional Unit
Side chain
crystalline Unit
PE
PE Surface
PE
形状を問わず、親水性または金属イオン吸着性の効果を確認
PEについての新たな表面改質効果
18
問題解決への糸口
❐ 薬品処理後に廃液が発生
❐ 複雑な構造体では十分なプラズマ処理が不可
基材表面に金属触媒を吸着可能な物質で改質する
インク透過前
インク透過後
O
O
O
O
N
DEAEMA
m
含アミン置換基
BHA
n
19
新技術の検討
サンプル作成
脱脂したHDPEフィルム
(20×10×1 [mm])
触媒化HDPEフィルム
SCCBC溶液に浸漬(室温5秒) 改質HDPEフィルム
→乾燥
活性化:塩酸(35℃)
→水洗
Pd生成HDPEフィルム
触媒化:Pd-Snコロイド溶液
(35℃、5秒)
→水洗
無電解Niめっき
→水洗
無電解NiメッキHDPEフィルム
20
表面改質に用いたSCCBC
SCCBC①
SCCBC②
O
O
O
O
N
m
n
Monomer Unit
BHA
TBAEMA
BHA
DEAEA
Mw
5,900
1,700
8,107
1,321
BHA: Behenyl Acrylate
TBAEMA: 2-(tert-Butylamino)ethyl methacrylate
DEAEA: 2-(Diethylamino)ethyl Acrylate
21
実験結果
Un-treated
Pd-catalyzed
After non-electrolytic
nickel plating
SCCBC①
SCCBC②
・HDPEフィルム上に一様なPdの生成を確認
・Ni被膜を確認(被膜応力由来)
→強固なHDPE-SCCBC吸着の検討が必要
22
新技術の特徴・従来技術との比較
• 従来技術の問題点であった、薬液エッチング
での強酸もしくは含六価クロム等の環境負荷
の大きな廃液の発生がない。
• 従来は、耐薬品性の高いプラスチック基板に
対して、プラズマ等による物理的なエッチング
を行っており、複雑構造の基材への均一な改
質は困難であったが、耐薬品性の高いPEも、
改質用液に浸漬する行程のため、細部への
改質が可能となる。
23
想定される用途
• 製造におけるエッチング工程へ適用すること
でエッチングの簡略化および廃液による環境
負荷の低減のメリットが大きいと考えられる。
• 多孔膜細孔表面を改質することで、水質高次
浄化における金属イオンの吸着へ効果が得ら
れることも期待される。
• また、PEの表面改質に着目すると、金属-プラ
スチック等の異素材接着やPE上への印字・プ
リント等の分野や用途に展開することも可能と
思われる。
24
実用化に向けた課題
• 現在、SCCBCを用いたHDPE基板上へ無電
解Niめっき用金属触媒の生成が可能。しかし、
Niめっき膜による被膜抵抗への耐久性の点
が未解決である。
• 今後、HDPE-SCCBC吸着条件について実験
データを取得し、適用していく場合の条件設
定を行う。
• さらに、触媒化HDPE表面上におけるPd分布
測定が必要
25
企業への期待
• 未解決のNi膜生成時に生じる被膜抵抗への
耐性については、SCCBC吸着条件もしくは置
換基の選択により克服できると考えている。
• また、高結晶性プラスチックの表面改質技術
を開発中の企業、異素材接着分野等への展
開を考えている企業には、本技術の導入が有
効と思われる。
26
お問い合わせ先
福岡大学 研究推進部 産学官連携センタ―
担当コーディネーター 川上 由基人
TEL092-871-6631(内線:2806)
FAX092-866-2308
e-mail:sanchi@adm.fukuoka-u.ac.jp
27