可視光によって有機物分解、除菌などを目指した 色素ナノ粒子からなる一重項酸素発生膜 長岡技術科学大学 技学研究院 物質材料工学専攻 准教授 高橋 由紀子 Nagaoka University of Technology 1 従来技術とその問題点 • 既に、光触媒として実用化されている酸化チタン(TiO2)は、 ヒドロキシルラジカル(OH・)やスーパーオキサイド(O2・—)な どの強力な酸化剤を生み出し、有機物を分解しますが、励 起に強い紫外光が必要です。 • 色素を用いる光増感酸化反応は、一重項酸素(1O2)が生産 されますが、可視光(400〜700 nm)かつ弱い光でも機能し ます。 • 色素の光増感酸化反応を用いた、消臭・除菌への試みは あったが、水に溶解したものは色素による汚染が否めず、 また含浸・塗布等による固定化は色素の光による退色が著 しく、実用に至りませんでした。 Nagaoka University of Technology 2 新技術の特徴・従来技術との比較 本「一重項酸素を発生する膜および方法」は・・・ • 紫外光を利用する従来の光触媒TiO2から、LEDなどの可視光 かつ弱い光での分解を可能とします。 • これまでの色素を用いた1O2発生方法は、耐光性がネックとな り、実用化されませんでした。本膜は耐光性が高く、長時間使 用が可能です。 • 1O 2は弱い酸化剤ですが、photodynamic therapy (光線力学 的ガン治療)として実用化され、細胞や有機物分解に有用で、 かつ安全性も高く、不飽和結合や窒素・硫黄原子と選択的に 反応し、有機物の分解や除菌に繋がります。 • 大気中の酸素のみを利用し、かつ固定化されているので水 や空気を汚染することなく環境浄化に利用できます。 Nagaoka University of Technology 3 新技術の説明 光増感酸化反応 一重項酸素(1O2) 分子軌道 求電子力 (2電子酸化) ・長寿命 約 60 ms (大気下、湿度50 %) ・可視光で高効率 に1O2が発生 ◎ 除菌、有機物分解など、応用が可 能 Nagaoka University of Technology 4 有機光増感剤色素の例 水溶性色素 Br HO I Br O OH HO N I Br S+ (H3C)2N N(CH3)2 メチレンブルー Br O エオシンY O I O I Cl O Cl Cl OH O Cl ローズベンガル 疎水性色素 CH3 CH=CH2 CH2CH2CO2H H3C NH NH C60 N N N N HN HN CH2CH2CO2H H2C=HC CH3 CH3 プロトポルフィリンIX (PpIX) テトラフェニルポルフィリン (TPP) ルブレン Nagaoka University of Technology 5 色素ナノ粒子薄膜の作製方法 目の細かな メンブレンフィルター 疎水性色素 再沈法 有機溶媒(アセトン,メタノール等) に溶解した有機試薬溶液 水 激しく攪拌 水溶性色素 ナノ粒子分散液 粒子表面電荷の低下 →凝集 水溶性色素 吸引濾過 >100 nm 混合 イオン交換能を持つ 無機・有機ナノ担体 (〜100 nm程度) 汎用性が高い 均一かつ剥がれない ナノコンポジット分散液 色素ナノ粒子薄膜 Nagaoka University of Technology 6 色素ナノ粒子薄膜の特徴 NH N N HN テトラフェニルポル フィリン (TPP) 薄膜構造: 数百nm〜 2μm 1 m 色素ナノ粒子/ ナノコンポジット 薄膜状 → 高効率な光の利 用 担体による一重項 酸素の失活を抑制 1O 1O 1O 1 1 2 2 2 O2 O2 色素ナノ粒子薄膜 メンブレンフィルター 光 110 μm Nagaoka University of Technology 7 耐光性 60 min 420 min ナノ粒子膜 CH3 CH=CH2 CH2CH2CO2H H3C NH PpIX エタノール溶液 N N HN CH2CH2CO2H H2C=HC 0 min CH3 CH3 PpIX 10 min PpIX含浸膜 ・他の色素でも同様 光源 :500W タングステンランプ ◎ナノ粒子膜 = 耐光性が向 上 Nagaoka University of Technology 8 ナノ粒子・膜化によるスペクトル変化 CH3 CH=CH2 CH2CH2CO2H H3C NH N N HN CH2CH2CO2H H2C=HC CH3 CH3 PpIX ソーレー帯:短波長シフト Q帯:長波長シフト ・他の色素でも 同様なスペクト ル変化を観察 ◎ 色素同士の相互作用 → 耐光性? Nagaoka University of Technology 9 一重項酸素の確認(近赤外発光測定) NH N N HN TPPナノ粒子膜 テトラフェニルポルフィリン (TPP) TPP含浸膜 大気下 ・水中でも同様 に観測 ◎ 大気下、および水中での一重項酸素の発生を確認 Nagaoka University of Technology 10 これまで光分解を試した対象 • 塩化フェノール(2-クロロフェノール、4-クロロフェノール、 テトラクロロフェノール) 水中エアレーション、〇 • 界面活性剤(LAS、ポリオキシエチレンフェニルエーテル) 水中エアレーション、〇 • 農薬(アトラジン、アメトリン) 水中 • 黄色ブドウ球菌 大気下、〇 • 大腸菌 大気下、〇 • その他色素 ベーシックレッド 大気下、〇 Nagaoka University of Technology 11 想定される用途 • 水中の有機汚れ分解 例えば・・・ –観賞魚の白点病等の薬浴では、水草や水槽中に負荷が 高いが、本膜では負荷の無い治療を行うことが可能と予想 される。他、水槽内のコケ対策にも。 • 大気中での光除菌スプレー –光増感酸化作用による光ガン治療、インフルエンザの除菌 等が報告されており、医療用品や衛生用品の用途に展開可 能である。 • 悪臭の光臭消スプレー –スカトール、イソ吉草酸等の有機物質分解。 Nagaoka University of Technology 12 実用化に向けた課題 • 光源の違いによる詳細な評価。 – 波長、照度等、一重項酸素発生のための必要条件を確 定したい。 • 耐光性の詳細な評価および原因究明。 – 規格化するための波長、照度等による評価。ナノ粒子化 と薄膜化の区別、耐光性が生ずる機構について研究する。 • さらなる実施例の追加 例えば・・・ – 大気中でのエアレーション(スプレー)での分解の確立 – 水中での光除菌 – 悪臭物質、排泄物由来の抗生物質・薬物、農薬等の分解 Nagaoka University of Technology 13 企業への期待 • 現在、色素ナノ粒子の製造技術および薄膜作製技術 についても同時に進めており、安定で繰り返し精度が 高く、可能な一重項酸素発生膜を作製可能である。 • 空気中及び水中の、ウィルスや菌の光除菌、水中有 機物の光分解、光消臭に、ライセンス契約を希望。 • 膜へのLED照射とエアレーション技術を複合化できる 企業との共同研究を希望。 Nagaoka University of Technology 14 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 : 一重項酸素を発生する方法 • 出願番号 : 特願2010-244464 • 特許番号 : 特許第5649407号 • 出願人 : 国立大学法人 長岡技術科学大学 • 発明者 : 高橋由紀子、伊藤大起 Nagaoka University of Technology 15 産学連携の経歴 • 2008年-2012年 JST若手研究者の自立的研究環 境整備進事業産学融合トップランナー・テニュア教 員に採択 • 2010年-2012年 3社と共同研究実施 Nagaoka University of Technology 16 お問い合わせ先 長岡技術科学大学 産学・地域連携課 知的財産係 数藤、吉川、山本 TEL 0258-47 - 9279 FAX 0258-47 - 9040 e-mail patent@jcom.nagaokaut.ac.jp Nagaoka University of Technology 17
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