Page 1 論 説 フランス会社法と契約の自由 はじめに四 簡易株式制会社

論 説
フランス会社法と契約の自由
はじめに
おわりに
井 上 治
簡易株式制会社の創設
五四
行
フランス会社法と契約の自由︵井上︶ 二三一
意工夫に富む会社実務家による契約の自由の再発見によっても実現される。
を対象とする会社法の規制緩和および簡易化された会社形態の創設によって得られるが、現行法の枠組みの中で創
フランス会社法は社員の契約自由の領域をしだいに拡げている。会社における契約の自由の拡大は、既存の会社
一 はじめに
実務における契約の自由への指向
会社法の簡易化
三 二 一
早法七五巻三号︵二〇〇〇︶ 二三こ
︵1︶
契約の自由は会社法の規制の強化をともなって達成されることがある。たとえば、最近の例によく見られるが、
複合有価証券︵<巴窪お日o匡酵88B℃o鍬Φω︶の創設など資金調達手段の自由化が、一定の基準値を超えて上場会
社の株式を取得しようとする者に発行会社および証券取引所理事会へその旨を通知する義務や株式公開買付を行う
義務を課す規制を必要とし︵三五六条、三五六−一条ないし三五六i四条、三五七条︵条文はとくに明記しないかぎり、
商事会社に関する︸九六六年七月二四日の法律第六六ー五三七号を指す︶。一九八八年一月二二日の法律六条の二︶、EC
法の掲げる開業の自由︵・ーマ条約五二条、五八条︶がフランス会社法の欠陥を照射して契約の自由の支配する新た
な会社形態を生み出す反面、EC会社法のもつ厳格性がフランス会社法を一層厳格化する。
このように、契約の自由を拡大する会社法の改正が逆に他の局面では従前の自由を制限する結果を招くことがあ
るが、本稿では、契約の自由がもたらす反作用を考慮することなく、契約の自由をすくなくとも局所的に拡大する
立法について概観し、次いで、現行法の枠組みの下で契約の自由を指向する企業行動について触れ、最後に、一九
九四年一月に制定され一九九九年七月に改正された簡易株式制会社法を介して、フランス会社法の契約化の動向を
探りたい。
−ゆωR賃Φ一導自び巽菰8昌貸8蜜①=①9ωOo欲叡ρ国ωω篶α、Ω器昏ひo鼠①身︽甘ω一Φヨ一剛一窪︾窪響○詳αΦωωoo一簿ひρ因↓U8ヨ。藁8①もワ
︵1︶ イ○ξoP↓轟鼠号ω8簿蚕貫ωOo蜂貫いOUンおミもモ。本稿は、Oξ9教授の上記の著書および切R讐巴教授の論文︵い
昭α9巴に負うところが大きい。なお、一九九九年一一月二〇日、早稲田大学比較法研究所において開催された﹁フランス会社
法の最近の展開﹂と題する○ξ8教授の講演会︵通訳・鳥山恭一教授︶で有益な示唆をうけたことを付記しておきたい。この講
近の展開﹂商事法務一五四六号︵一九九九年︶四頁以下︶。
演会の記録は、詳細な脚注を付して、鳥山教授によって公表されている︵イブ・ギュイヨン著、鳥山恭一訳﹁フランス会社法の最
二 会社法の簡易化
1 資金調達方法の多様化
契約の自由を拡大する会社法の改正の端緒は、m段霞①一教授によると、一九八○年頃から、国際的な競争にさら
︵2︶
されるにいたったフランス企業の資金調達を容易にするために有価証券制度を自由化する会社法の改正に求めら
れる。これに関する重要な改正として、︵1︶一九七八年七月二二日の法律による議決権のない優先配当株式の創
設︵二六九条二項の追加︶、︵2︶一九八三年一月三日の法律による株式財産権証券︵8岳浮鉾ωα、ぎ話豊ω器ヨ窪け︶、
参加証券︵蜂お冨益鼠冨段︶、新株引受権証券付き社債︵oげ凝蝕○霧髪9びo霧号ω・霧R凶旨8q、碧ぎ霧︶の創設︵二
八三−一条ないし二八三ー五条、二八三!六条、二八三−七条、一九四−一条ないし一九四−一一条︶、︵3︶一九八五年
一二月一四日の法律による新株または株式財産権証券の引受権証券︵ぎ房号ωo霧R嘗δ霧き88ヨ亀などの資本
に対する持分を表彰する証券を引受ける権利を与える有価証券の創設︵三三九−一条ないし三一二九ー七条︶などがあ
る。
2 会社の管理運営機構の簡易化
会社の管理運営について法の干渉を排除して、社員の契約の自由を拡大することを主たる目的とする。第一は、
︵3︶
一九八八年一月五日の法律第八八ー一五号による簡易化である。すなわち、︵1︶民事会社を含むすべての一人会
フランス会社法と契約の自由︵井上︶ 二三三
早法七五巻三号︵二〇〇〇︶ 二三四
社の解散について財産の混同による解散を認めて会社の解散に伴う清算手続の免除︵民法典一八四四−五条三項の追
加︶、︵2︶有限会社につき、法人社員に対する金銭貸付・保証の禁止の撤廃︵五一条一項の改正︶、利益または準備
金の組入れによる資本増加を決議する総会の決議要件の緩和︵六〇条三項の追加︶、︵3︶株式会社につき、業務執
行役会構成員︵ヨΦeぼΦ身島お90冨︶の四年の固定任期制を廃止し、二年から六年の範囲で定款をもって定める選
択的任期制の採用︵二三条の改正︶、株式の法定最低券面額の廃止・定款への委任︵二六八条の改正、施行令二〇六
条の廃止。以下、商事会社に関する一九六七年三月壬二日の命令第六七−二三六号を施行令と略記する︶、現物出資株につ
第二は一九九四年二月一一日の法律第九四ー一二六号にもとづく。それによると、︵1︶有限会社につき、有限
いて︼定期間の譲渡禁止の措置の廃止︵二七八条ないし二八○条の廃止︶がある。
︵4︶
会社から株式会社への組織変更につき有限会社の設立後二年の期間を課す組織変更の要件の廃止︵六九条二項の改
正︶、同一の自然人が二社以上の一人有限会社︵国d園い︶の単独社員を兼ねることを禁止する規定の廃止︵三六−二
条一項の改正︶、︵2︶株式会社につき、従業員が取締役になる場合にその会社の従業員として二年以上の就業を条
件とする規定の廃止︵九三条一項の改正︶、他の会社から株式会社に組織変更する際に組織変更検査役の選任が社員
全員の同意によってなされた場合に裁判所による組織変更検査役の選任手続を免れる旨の規定の新設︵七二−一条
一項の改正︶などである。
第三は一九九四年八月八日の法律第九四−六七九号による。︵1︶株式会社につき、株式会社の特別総会の成立
︵5︶
を容易にするため、特別総会の第一回招集の定足数を議決権のある株式の二分の一から三分の一への引き下げ︵一
五三条の改正︶、株式会社の増資手続を簡易化するため、従来、増資の実施権限を取締役会に授権する特別総会の決
議は発行される有価証券の種類ごとに必要とされていたが、これを改め有価証券の種類を特定することなく増資額
の上限のみを定めて行う取締役会への増資権限の授権︵一八O条mの追加︶。︵2︶上場会社につき、増資の実行権
限を社長に授権する取締役会決議の認容︵一八O条V項の追加︶、さらに、資金の運用を柔軟化するため、上場会社
が市場の正常化の目的で取得した自己株式を処分する方法に限度を設けず、資本を減少して消却することの認容
︵二一七−二条三項の改正︶、上場会社が株式公開交換︵o辱Φ冨菖2①α、曾ざ廊ρ○℃国︶のために新株を発行する場合
における出資検査役の選任の免除︵一九三ー一条の追加︶などの措置がとられた。
しかし、逆に、契約の自由に逆行して法の規制を強化する傾向も無視できない。その一つに継続株主への割増配
当に対する法の干渉がある。一九九三年、上場会社四社︵一、>冒霊eこρω国切UΦ9Φ鼠。Fω一冨お図︶は、株主の動
向を把握するとともに安定株主工作のために、今後二年以上記名株式を有する株主に一〇パーセントのプレミアム
のついた割増配当をする旨の定款変更を行った。継続株主への割増配当は従前から優先株式に関する二六九条にも
とづいて定款に規定することを条件に認められてきたが、この報道を契機に濫用の危険を理由として立法化の必要
が唱えられ、一九九四年七月一二日の法律で会社法に三四七ー二条が追加された。同条によると、継続株主への割
増配当が認められるのは、二年以上記名登録をしている株主に一〇パーセントを限度とする割増配当を行う旨の定
款規定があり、特別総会で割増配当率が決定された場合である。株式の無償交付についても同様である。なお、上
場会社では、割増配当が認められる株式は同一の株主について資本の○・五パーセントを超えることができない。
このように、一九九四年七月一二日の法律は、従来、定款の自治にゆだねられていた割増配当の実務を法の規制の
︵6︶
下に置くものであって、定款の自由を制限するものと解されている。
フランス会社法と契約の自由︵井上︶ 二三五
早法七五巻三号︵二〇〇〇︶ 二三六
︵7︶
さらに将来の不確定な要素であるが、コーポレート・ガバナンスの観念をフランスに導入する提案および一九九
三年八月に改訂された株式会社の構造に関するEC会社法第五指令案を視野に入れると、これらの提案が採用され
れば、前者の提案は上場会社に新たな拘束を設け、後者は定款の自由にきわめて厳しい制限を課すものであって、
会社法の一層の規制強化が行われることになる。
︵2︶ 資金調達の多様化を図るフランスの有価証券制度の改革は、一九五三年の転換社債︵一九五三年二月二五日の法律︶、一九六
六年の交換社債︵二〇〇条以下︶の創設などの歴史をもつ︵浮昌お一る仁冥餌88一もワ$。。9ψ︶。
︵3︶ ︾≦き島9切聡設ヨ①の3身98霧8弊謝8ヨヨR9巴88勺ふ阜国戸一田8もワ8簿9一九八八年一月五日の法律の
詳細については、宮島司﹁企業の拡張と譲渡に関する一九八八年一月五日法律第八八−一五号﹂日仏法学一六号︵一九八九年︶一
︵4︶ コピ①Oき壼鴇い曽一〇一霞餌α①一ぎ含=欲≦一R一〇濾98費o詳08ω09簿ひρω巳一9ぎ冒ぎお漣博℃℃﹄鴇9ω。一九九四年二月
一四頁以下。
一一日の法律の詳細については、鈴木千佳子﹁会社法の簡略化ーイニシアチブと個人企業に関する一九九四年二月二日の法律第
九四iコ一六号﹂日仏法学一九号︵一九九五年︶二六頁以下。
。8⇔二。漣
伽88邑2ΦΦ諏ぎきo幽①吋℃響︿。ωoρ﹂。漣もp①謡①け碧>6・貫gΦこ、じ冒①2の︶一①の良ω℃oω露8ωα①一20一身。
︵5︶ω。ω巴旨o畦①βい①ωみ剛o旨①ω身饗o濤αΦのω○。一騨ひω短二9。一〇一身。
。8律一。謹oO﹃$旨島<Rω窃象聲○ω三〇pω儀、○巳お
唇辞きけUUO国閃一旨曾8ωき二〇身○詳8ω80陣鍔ω邑Φ叶ぎ冒ヨ一。界署ら8卑ψ一九九四年八月八日の法律の詳細については、
鳥山恭一﹁DDOEFI経済・金融上の各種の規定を定める一九九四年八月八日の法律第九四ー六七九号﹂日仏法学二〇号︵一九
︵6︶︾。≦曽且凶R①こ㍉いOきωω巴P8勺ふα●図一8弁一る。Nも﹂①刈“OξoPの∈轟8什①一も●。。旧℃●ζR一ρ90淳8ヨ導①a巴
九七年︶二二〇 頁 以 下 。
の8陣ひの。§幕貝。芭①ωb帥=。畏。。。。も。ω5冨■o。N雪g︾く醇旨59。一けα①ωの8一ひ憂密葺。霧導①p一§もpω一NΦ蕊一ω●
る継続保有の褒賞金の支払いを認める一九九四年七月一二日の法律第九四−五七八号﹂日仏法学一九号︵一九九五年︶一︸九頁以
一九九四年七月一二日の法律の詳細については、鳥山恭一﹁継続保有株主への利益配当の増額−商事会社の一部の記名株式に対す
下。
︵7︶い評一ぎωω$F冨馨αΦ﹃岳呂8含繕。一&。ωω・。一霰ω8ヨ幕&巴①ρ§。§98旨83島。津鮎Φωω8陣黙ω8ヨ幕雫
緯霞おω一耳Φ旨呂8巴Φρ昌.。。︸一89署●。ω。
。雪碧勺。匡畳づP9ヨaR巳ω9。け一8含α村○詳αΦωω8聾①9冨血8⊆B①旨蝕8
。巨Φのヒ﹂。。9薯﹄。。刈①けω。ろZ℃司\︾司国℃”いΦ8昌ωΦ一こ、&B菖ω寝&8α。ωの8一騨ひω8菰Φω﹂亀圃①二。。伊留<=ΦαΦ身o津α①ω
ヰきO巴のρお3も﹂Pフランスにおけるコーポレート・ガバナンス論については、鳥山恭一﹁株式会社の業務執行機構と監督機構
ーフランスにおけるその展開1﹂民商法雑誌一一七巻四・五号︵一九九八年︶五六九頁以下、同﹁フランス会社法とコーポレー
頁以下参照。
ト・ガヴァナンス論ー①蓉8餓8ヰき狩陣紹りー﹂﹃比較会社法研究︵奥島孝康教授還暦記念第一巻︶﹄成文堂︵一九九九年︶四七九
三 実務における契約の自由への指向
上述したように、会社法の簡易化はたしかに進んだが、株式会社についてみるといまだ狭い領域にとどまり、デ
ィリジスムの強い影響をうけ、ヨーロッパでもっとも拘束的な立法の一つであるフランス株式会社法の厳格性を解
消するに足るものでなく、それどころか逆に法の規制が強化されこれを促す要因もある。このように正反対の二つ
の方向軸をもつ会社法の改正運動を前にして、さらに会社法の抜本的な改革の展望も得られない状況の中で、フラ
ンスの会社実務家は、一方では、強行法規に包囲された株式会社を忌避して、柔軟な会社構造を備え契約の自由の
領域の広い株式合資会社、合名会社、民事会社などを利用するとともに、他方では、会社法によって社員に許容さ
れた自由の領域をあらためて発見することに努め、これを定款に記載して会社の機構を社員の要求に適合させよう
フランス会社法と契約の自由︵井上︶ 二三七
早法七五巻三号︵二〇〇〇︶ 二三八
と試みた。しかし、この方法は定款によるものであるから第三者に対して効力を有し効果的であるが、会社法の妨
害をうけることが多くそれだけに限度がある。そこで、社員は契約のテクニックを用いて法規制を回避しようと努
︵8︶
めた。これがいわゆる社員間契約︵株主間契約︶の横行という現象である。
1 株式合資会社の利用
株式合資会社︵の8犀ひ窪8Bヨき簿Φ冨同8ぎ琶は、商人資格を有し会社債務につき連帯無限の責任を負う一
人以上の無限責任社員と株主資格をもち出資額を限度として責任を負う三人以上の有限責任社員から構成される会
社である︵二五一条ないし二六二条︶。株式合資会社は、このように、無限責任社員を含む二元的な社員構成をとる
会社であってその点で従来から忌避されてきたが、近年になってこの会社のもつ魅力が注目されている。
株式合資会社の魅力は、株式会社と同様に、非公募の方法だけでなく公募の方法で株式を発行することができる
から証券市場で広く資本を集めることが可能であり︵二五一条二項による七三条ないし八八条の準用︶、株式会社と異
なって、可変資本条項を設けることができるだけでなく、契約の自由の働く余地が広く、定款をもって、業務執行
者︵磯曾きけ︶の地位を解任の危険にさらすことなく安泰に保つことができる点にある︵二五二条三項︶。
とくに、業務執行者の地位の安全性が注目されている。株式合資会社の業務執行者は定款に定める条件にしたが
って解任されるが︵二五二条三項︶、定款で無限責任社員の同意を要する旨を定め、この場合に、無限責任社員を業
︵9︶
務執行者にしておけば、業務執行者が解任される危険はないといってよい。それでも、正当な理由があるときは総
社貝または会社の請求にもとづいて商事裁判所が業務執行者を解任することができ、解任請求権を封じる定款の条
項は効力がないとされているから︵二五二条四項︶、裁判所によって解任される危険がないわけではない。しかし、
この場合でも、ωR霞巴教授によると、定款をもって、無限責任社員の中から後任の業務執行者を選任する旨を定
︵10︶
めておけば、業務執行者たる地位を解任された無限責任社員のほかに無限責任社員がいないときは、その無限責任
社員が後任者を指名する権利をもち、解任による打撃を最小限に押さえることができる。このように、株式合資会
社の無限責任社員は業務執行権を独占して、支配権を失うことなく外部資本を導入することができる。
巽二Φ魯○一&8鉱霞おω8富○富ヨぼΦ88ヨ日R。①Φ&、日3ω巳Φ留評冨る菊国U︾︶の啓蒙活動も与って、自己資金
この株式合資会社の利点は、この会社形態を推奨するパリ商工会議所企業法研究センタi︵O窪霞Φ号お9R畠Φ
︵11︶
の強化・外部資本の導入の必要が唱えられた一九八○年代ににわかに脚光を浴び、ほとんど利用されることなく忘
とくに、株式合資会社は株式公開買付の難攻不落の砦であるといってよく、イブ・サンローラン・グループ
︵12︶
却のかなたにあった株式合資会社に新たな生命を与えた。
︵13︶
︵イ<Φω巴葺−一き8暮︶、MMB社︵マトラ・アシェット・グループの持ち株会社︶、エルメス社︵缶RB雰︶などが続々
と株式合資会社を設立しまたはこの会社に組織変更した。しかし、その後、濫用の危険が指摘され、一九八九年に
証券取引所評議会︵Oo霧亀8ωぎ畦ω窃号く餌一Φ畦ωるω<︶の規則の改正が行われ、上場株式会社の議決権の三分の
二以上を有する者がその会社を株式合資会社に組織変更する場合には、少数派株主に対して株式の買取りを提案す
る株式公開買戻︵○穿Φ℃昏言器留お霞聾”○憎肉︶を行うことが義務づけられ︵CBV規則五−五−四条︶、さらに最
近の敵対的株式公開買付の減少とあいまって、株式公開買付の防衛策としての株式合資会社フィーバーはほぼ終息
したようである。それでも、株式合資会社が株式公開買付の防衛策としてきわめて効果的であることに変わりがな
フランス会社法と契約の自由︵井上︶ 二三九
い。
早法七五巻三号︵二〇〇〇︶
なお、株式合資会社は上場・非上場の持ち株会社としても利用されている。
2 株主間契約の現象
二四〇
定款は会社のもっとも基本的な憲章であるが、会社的関係を決定する唯一の源泉ではない。株式会社は、全部ま
たは一部の株主によって締結される株主間契約︵冨9窃α.8叶δ暮巴おω︶という定款外の契約によっても間接的に規
︵M︶
律される。○ξ9教授によると、会社は、会社・社員・指揮者の相互的関係、社員間および指揮者間の関係なら
びに第三者との関係の交差するネットワークのセンターであって、これらの関係を定める株主間契約はそれぞれ別
個独立の契約にすぎないが、恒星の引力にひきつけられる惑星状星雲のように会社の存在から強い影響をうけ、同
一の経済的法的行為の実現に寄与するという点で一つのまとまりを構成するという。
株主間契約は実際上の必要に応じて自由な契約によって生まれたものであるからきわめて多岐にわたるが、大別
すると、各種の議決権契約に代表される会社の管理運営にかかわる契約と株式の譲渡制限条項などの株主間の資本
的関係をコントロールする契約に分かれる。とくに、後者の株主間契約が一九八○年代以降に頻発した株式公開買
︵15︶
付︵o串①讐げ言器α.曽魯舞○勺︾︶の防衛策として多用され、ここに株式会社の契約化の端緒を求める学者もある。
これらの株主間契約には、株式の売買の予約、先買権契約、議決権契約、期間を限定した株式の譲渡禁止の契約、
株式の強制売却などの契約がある。とくに、最近では、国有企業の私企業化︵冥ぞ蝕ω慧8︶に際して、堅い核の
株主集団を結成する手段として、メンバーの保有する株式について、期間を限定した株式の譲渡禁止の特約・先買
権契約などの株主間契約が利用されている。
しかし、株主間契約のうち上場会社の株主問で締結された株式の譲渡および取得に関する契約については一九八
九年の会社法の改正によって公示の対象とされるにいたったが︵三五六−一ー四条︶、株主間契約を一般的に規律す
︵16︶
る特別な立法はなく、学説判例の努力によって、契約の自由と会社法の公序原則のせめぎあいの中で不安定な効力
が認められているにすぎない。
第一に、株主間契約の成立に関する。この契約の有効性は、○昌9教授によると、契約の自由に依拠するだけ
では足らず、少数株主の保護・株主平等原則・会社債権者の保護など会社法上の公序原則を基準として判断すべき
しかも狭い領域にかかわるものであって、ほとんどの定款外契約の有効性が論議の対象になる﹂。第二に、株主間
ものとされている。しかし、公序の境界線は明瞭でなく、﹁判例に頼らざるをえない。しかし、その判例も変化し、
︵17︶
契約の効力に関する。この契約は民法典一一六五条に定める契約の相対的効力の原則によって契約当事者にのみ効
力を有し、株主以外の者だけでなく契約に参加しなかった株主に対抗できない。しかも、株主間契約は、多くの場
合、為す債務または為さない債務を含み、﹁為す債務または為さない債務は債務者の側の不履行の場合には損害賠
償に変わる﹂’︵民法典コ四二条︶から、強制執行の対象とすることができない。
このように、株主間契約はその成立および効力の両面において不安定な状況にあるといえる。しかし、株主間契
約の利点も多い。この契約は、定款による場合と異なって、契約当事者全員の合意があればそれのみによって成立
し、定款変更の厳格な手続を必要としないから新たな事態に機動的に対処することができ、原則として公示に服さ
ないから秘密を保持できる利点がある。さらに、契約の内容および効力の及ぶ範囲を自由に決定することができる
から、特定の株主を当事者とする株主間契約や第三者を当事者に含める契約も可能である。これらの定款外契約は
フランス会社法と契約の自由︵井上︶ 二四一
早法七五巻三号︵二〇〇〇︶ 二四二
この契約の不安定さにかかわらず広く利用され、とくに、会社グループの構成会社の定款は法定最低限の記載事項
を集めたほとんど無意味に近い書面に化し、会社の重要な事項は株主聞契約を中核とする定款外契約︵グループ憲
章︵魯巽毎号ひq8巷Φ︶︶にゆだねられていることが多い。
㊤9Φωα、8二〇づ⇒巴おω﹂oξ似良什凶○霧口89℃﹂︶。
︵8︶ ある学者は株主間契約の盛行という現象の到達点が簡易株式制会社であると指摘している︵ヤ旨U鉱瞬①卑竃φ白仁2鼻
︵13︶ 株式合資会社の無限責任社員が業務執行者であるときは、その業務執行権を剥奪されるおそれはまずないといってよい。しか
一W①昌噌9ω8一ひ鼠①昌8Bヨ蝉鼠凶5冨﹃霧誠8ω﹂。−Ωこωo息①叡ρ貯ω蝕象︼Φ蜜直。鳳o噌ヨ三巴﹃ρ5.。。る﹂。︶。
社にすぎず、この会社が大会社を中心として株式公開買付の防衛策など局所的な利用にとどまっていることを示している︵いも。
年には約一五社にのぼっている。このように株式合資会社の数は一九八○年代から急増したが、その総数は一九九九年現在四二二
上場株式合資会社について著しく、一九八○年代初期には、毎年、三・四社の増加にとどまったが、一九入八年に七社、一九九三
︵12︶ 株式合資会社の総数は一九六七年に﹃九四社であったが、︸九九四年には二七七社と約四〇パーセント増加した。その増加は
記の書籍を発行した。O園閃U>”い帥8ヨヨ9
。且評Φ①暮88昌冨ω鼠9ω9零窪F口一①Pおo 。ω・
︵11︶ パリ商工会議所企業法研究センター︵O勾国∪≧は、田巨同ρ霞①ユρ留吾讐氏の協力を得て、株式合資会社を広めるため下
︵10︶ 切段賃Φ一︸ω唇轟pO一Φどマ①O“●
員の専権にゆだねる定款規定も有効である︵OoN凶き9≦き&9ω唇墨旨09①も﹂。。 。︶。
。もる&︶。なお、業務執行者の解任を無限責任社
霞①琴呂巴簿即冒巳戸ωOo一簿欝8ヨヨR9巴Φρ閃&鉱O霧零睾9ωい駄Φび≦ρ一8。
以上、この規定の適用があり会社法一八条は準用されないとして反駁されている︵ωRq9の巷轟ぎ8ど唱戸。80一8合中
の説は、株式合資会社の業務執行者の解任につき無限責任社員全員の同意を要する旨を定める明文の規定︵二五二条三項︶がある
株式合資会社に準用されるとする学説もみられる︵UR釜幕︸幻伽マ8ΩU巴一〇Nる。①ρく,Ooヨヨき象$℃費零けご霧︶。しかし、こ
について、解任の対象となる業務執行者である社員を除外して他の社員の全員一致によるべきことを定める会社法一八条の規定が
︵9︶ 株式合資会社の業務執行者の地位の安定性については、本文で述べたように異論がない。ただ、合名会社の業務執行者の解任
℃
し、株式合資会社に対する株式公開買付が会社支配権の取得に意味をもたないわけではない。なぜなら、有限責任社員も自らの総
会を組織して計算書類を承認する権利をもち︵二五一条二項による一五七条の準用︶、この総会の多数派が計算書類の承認を拒否
して業務執行社員の報酬を剥奪し、さらに資本の増加を拒否して会社の発展を阻害することができるからである。なお、業務執行
れる総会の決議を不当に拒否すると、裁判所から正当理由による解任︵二五二条四項︶を言い渡される事態も考えられないわけで
者である無限責任社員と有限責任社員との対立が激化してデッドロックの状態が長く続き、業務執行者が有限責任社員から構成さ
ない︵OoN一き魯 ≦ 睾 象 o ぴ ω 二 冥 餌 8 叶 Φ 9 P 痒 一 ︶ 。
︵14︶ OξoPω后声8冨ど℃﹄醤しかし、○ξ8教授は、株主間契約はこれらの契約間に相互依存の関係がないから契約の連鎖
︵讐o唇8号8導轟邑ではないとして、いずれの学説にも与していない︵O昌Op一び置︶。
︵o訂ぎ霧88暮蚕邑ではなく、さらに、会社自体を主契約、株主間契約を従たる契約と解することができないから集合的契約
︵15︶ ︾冒旨ヰ卑Φこ・窯霧貸ρ∪8律8ヨき段9舞いOU一︶お鐸薯﹂蜜曾嶺Sフランスにおける株式公開買付は一九七五年から一
。8b’99ゆR貸魯ω后轟8けoど掌①8︶。なお、株式公開買付の防衛策として、
く讐ぎ9い8鼠8拐8習け一−O勺>園Φ<●ω09這c
九八四年までは全部で四二件にとどまったが、一九八O年代中期以降急増した。しかし、最近では、下降線をたどっている︵牢
定款の中に、各株主が総会で行使する議決権の数を制限する議決権数上限条項︵一七七条︶を設ける方法もある。これについて
年︶一七五頁以下。
は、江口眞樹子﹁フランスにおける株式公開買付の展開﹂﹃現代企業法の諸問題︵小室金之助・教授還暦記念︶﹄成文堂︵一九九六
︵16︶ ﹁その株式が規制をうける市場に上場された会社の株主間で締結された株式の譲渡または取得に関する優先的条件を定めるす
二四三
べての合意は金融市場評議会に届け出で、金融市場評議会はこれを公示しなければならない﹂︵三五六−一i四条︶。この公示によ
って、第三者は会社資本の将来の動向を知ることができる。ただし、本条の制裁規定はない。
。G。・
︵17︶ ○仁苫Pω唇轟8什Φど薯﹄o。NgNo
フランス会社法と契約の自由︵井上︶
早法七五巻三号︵二〇〇〇︶
四 簡易株式制会社の創設
1 簡易株式制会社法の制定
二四四
フランス会社法の最近の傾向は、伝統的な会社形態と別に、契約の自由を指導理念とする新たな企業形態を創設
したことにある。その端緒は経営管理機構の設計について構成員に大幅な裁量権を認めた一九六七年の経済利益団
体︵鷺oεΦ日Φ導α、鐸騨蝉90ま旨2ρO田︶の創設にある︵一九六七年九月二一二日のオルドナンス第六七−八二一号︶。
しかし、この団体は営利を目的とするものでなく、さらに団体の活動について構成員に無限責任が課せられている
︵18︶
から、会社︵ωo象邑と非営利社団︵霧ωOq幾9︶の中間的な形態であっていわば準会社に属し、その成功が同様
に共同企業体である簡易株式制会社の成立を促す要因の一つとなったが、時代的な制約の中で会社法全体に波及力
をもつものではなかった。
その四半世紀後の一九九四年一月三日の法律は、会社法を改正して、法の干渉を最大限排除して、契約の自由を
︵19V
基本理念とする新しい会社形態を創設した︵二六二−一条ないし二六二−二〇条︶。この簡易株式制会社︵ω8弊ひ℃霞
o︶は、本来、大企業に合弁事業用の会社を提供することを目的とするものであって、その社
8ぎ拐ω言葛獄ρω︾o
員は一五〇万フラン以上の全額払込済みの資本を有する会社、商工業を営み公会計の原則に服さない国の公施設法
人および会社形態によらないで設立された私法上の金融機関に限定され︵旧二六二i一条一項︶、これらの二社以上
の社員に定款をもってする大幅な契約の自由が認められた。
その思想は簡易株式制会社は練達した法律実務家を擁する大企業を社員とするから、社員に与えられるべき法的
後見は不要であって、社員間の自由な意思を尊重すべきだとするところにある。すなわち、社長の任命の強制︵二
六二−七条︶、一定の重要事項につき社員による集団的決定に付す旨の規定︵二六二ー一〇条二項︶などわずかな特
別規定を除き、会社の管理運営機構の設計を法の干渉を絶対的に排除して定款の自治にゆだね︵二六二ー一条二
項︶、さらに、社員間の資本的関係を株式の譲渡承認条項、譲渡禁止条項などによって定款のコントロールの下に
置くなど社員の有する決定権はきわめて広く︵二六二−一四条ないし二六二−二〇条︶、この会社はいわば社員の手
によるセルフメイドの会社形態であるといってよい。
簡易株式制会社法は、強行法規に包囲された株式会社に対する会社実務家の怨嵯の声を背景として、すくなくと
も、合弁会社については株式会社法の厳格な規定は有害無益であるとする実務家の抗議の促されて制定されたもの
であって、簡易株式制会社のもつ契約自由の理念が拡大する要素をもっていたといえる。たしかに、簡易株式制会
︵20︶
社は大企業の利用に供される合弁事業用の会社として創設された。しかし、それは立法化のための口実にすぎず、
法規定の上でも、社員である会社について一五〇万フラン以上の資本を要求するのみであって︵旧二六二ー一条一
項︶、簡易株式制会社の利用を合弁事業に限定する規定は存在せず、他の目的に利用されるのを妨げるものはなに
もなかった。事実、この会社はその柔軟な法構造を利用するため便宜上の会社として利用され、とくに会社グルー
プの事実上の完全子会社として多用された。この点に着目して、会社法の改正を主張する一九九六年の竃巽鼠報
︵21︶
告書は会社グループの完全子会社について二社以上の社員を要求するのは無用な擬制であるとして、一人簡易株式
制会社を創設すべきことを提案した。
フランス会社法と契約の自由︵井上︶ 二四五
早法七五巻三号︵二〇〇〇︶
2 簡易株式制会社法の改正
二四六
技術革新および研究に関する法案審議の最中にこの法案の中に議会の発議で簡易株式制会社法を改正する提案が
挿入され、同法案はたいした論議を経ることなく、一九九七年七月一二日の法律第九九ー五八七号として成立し
︵22︶
た。これによって、簡易株式制会社はその理念および構造を根底から覆す修正をうけた。
第一に、この会社の社員の法定最低数を二人から一人に減じて一人簡易株式制会社︵ω8聾ひ℃貰8ぎ霧ω巨−
嘗瀬Φ§一℃Rの○毒亀ρω>ωO︶を容認した︵二六二i一条の改正︶。この提案は冨巽一巳報告書や法務省の会社法準備
上の全額払込済みの資本を求める規定を廃止した。これも勺毘一諾器窪教授が主張し、法務省も検討の対象として
法案も従前から用意して.いたので当然の帰結であるといえる。第二に、社員である会社について一五〇万フラン以
︵23︶
きたからある程度予想されていたといえる。予想外であったのは、第三に、社員である会社について資本に関する
要件を撤廃しただけでなく、社員資格になんらの制限を課さず、すべての法人および自然人にこの会社の社員資格
を認めたことである︵上記のすべての改正につき、二六二−一条・二六二−四条・二六二−五条の改正、二六二ー二条の
廃止︶。
この結果、二社以上の社員の存在を必須の条件とする合弁事業のための会社形態としての簡易株式制会社の理念
は消滅し、さらに会社︵および国の一定の公施設法人など︶のみを社員とする会社の会社︵ω8鰹ひ8の8聾旦とし
ての簡易株式制会社像も姿を消し、簡易株式制会社はすべての自然人および法人に開放された、しかも唯一人で利
用可能な一般的な会社形態となった。これによって、会社グループはワラ人形を用いることなくグループの完全子
会社として、中小企業も事業の共同化のために、個人もベンチャー企業を起こす手段としてこの会社形態を利用す
ることが可能となった。
しかし、一方、会社の管理運営機構の設計を定款をもってする社員の意思にゆだねるこの会社で、企業情報に疎
い社員の不利益において定款が作成されないかどうか危惧されている。そこで、学説において、定款の作成者に特
︵24︶
︵25﹀
別な責任を課すべきことが主張され、さらに、定款の適法性の審査を任務とする特別の制度を設けるべきことが提
案されている。かくして、契約の自由を標榜して誕生したこの会社もまた、会社法の歴史が示すように、徐々に法
規制の数を増やしていくだろう。
︵18︶一≦9ρω唇量8けΦ。も.。置るξ・pω唇壁8け①一も●堕
︵19︶ 簡易株式制会社に関する日本語の文献のリストについては、井上治行﹁会社の組織変更による簡易株式制会社の成立ーフラン
︵20︶ 井上治行﹁フランスにおける簡易株式制会社法の成立と展開﹂早稲田法学七三巻一号︵一九九七年︶五〇頁以下。
ス簡易株式制会社法の研究﹂早稲田法学七四巻三号︵一九九九年︶二四二頁以下参照。
︵21︶ 竃貰一賞雲頁鋤888P鐸寓震巨報告書とは、時の首相の要請をうけて、一九九六年、口冒巽該元老院議員によって作
成・提出された会 社 法 改 正 の 提 案 書 で あ る 。
︵22︶ 簡易株式制会社に関する会社法を改正する提案は、公的研究機関の研究成果を企業に移転することを目的とする﹁技術革新お
轟鼠9巴Φ︶の第一読会の文教委員会によって採択され、修正案第四六号として、同年六月六日、国民議会第一読会に提出された。
よび研究に関する法案﹂が一九九九年二月一八日元老院︵ω魯象︶の第一読会によって可決された後、国民議会︵︾ωω①ヨげ一留
国民議会の第一読会はこの修正案を含む前記の法案を可決し、元老院の第二読会に回付した。元老院の第二読会は、修正案につい
可決した。かくして、修正案を含む同法案はたいした論議もなく六月三〇日に可決された。この修正案は議会に提出された当初の
て第一読会の審議を経ていないことを理由に法案を否決することもできたが、元老院の文教委員会の進言にしたがってこの法案を
法案を修正するものでなく、その内実は会社法の改正という新たな提案であって、議会の審議手続の上できわめて異例に属する。
フランス会社法と契約の自由︵井上︶ 二四七
早法七五巻三号︵二〇〇〇︶ 二四八
なお、この法案の成立はシリコンバレーのフランス人の起業家団体である﹁○豆9ま8呂﹂の議会および政府部内への働きかけに
よるところが大きいという︵ω’霞窪く窪F菊像9ヨ①8一鋤ω●>。ω●“d冨ぎ二く色Φ馨毎9霞Φεξ一霧℃﹂≦蝉Φ二8℃Rω09窃
9惨昼奉ω㌔①蜂8織︷一魯鐸謡88ぼ①お8も●ま︶。簡易株式制会社に関する会社法の改正とECの会社法第五指令案との関係に
ついては、井上治行﹁フランス簡易株式制会社における株式の譲渡に関する定款条項︵一︶﹂富士論叢︵富士短大︶四四巻二号
︵一九九九年︶四〇頁。
ωoo猷鼠ρOいZ︸○ξ0象戯o昌ω︺一〇〇8℃P曽簿謡9
︵23︶ 一℃巴=仁ωω$F国嘗ぎ仁旨ωβけ葺冒ユ良2①ヨoαΦ毎Φ9鋤α巷けひ℃○貫一①ω℃竃国[国≦コ﹂昌い鋤菖&①3一ω的賦8αo融o律αoω
︵24︶ U.幻鋤且〇二〆d冨8﹃ヨ①ωOo一巴①○こぎ巴話一い簿のOo猷叡B吋8甑o⇒ωω一ヨ巳崖ひΦ︵ω︾ω︶﹂O℃”盆9/一〇〇〇︶℃一まo
。︶る邑Φ旨匂。ぎ一。。。も●。。㎝N●
︵25︶℃。い①9巨F鍔の>ω℃。貫8霧︵いき.。。−㎝。。8旨冒崖①二。。。届目什●。
五 おわりに
八五年七月一一日の同一の法律による一人有限会社︵国d勾い︶および一人有限責任農業経営体︵国︾国いd︶、一九九
︵26V
① 設立行為および会社観念の変容 一人簡易株式制会社の容認にかかわる。設立時からの一人会社は、一九
はわずかに八力条にすぎないが、理論および実際の両面で会社法に与えるインパクトはきわめて大きい。
約化﹂を敷延するとともに、さらに﹁自由化︵ま騨艶ω呂自︶﹂の領域に歩を進めるものであって、改正されたの
化︵8日声。ε呂ω毘8︶﹂として把握してきたが、簡易株式制会社に関する一九九九年七月の会社法の改正は﹁契
て、規制の緩和・契約の自由を拡大する途を進んでいる。フランス会社法のこの近年の傾向を学者は会社の﹁契約
フランス会社法は、上述したように、現行法の枠組みの中で契約の自由を求める会社実務家の自助努力も加わっ
。
九年六月二三日の法律による一人有限責任自由職会社︵ω国一>沁いq︶の創設によってしだいに市民権を獲得してき
た。そして、今回の一人簡易株式制会社を認める会社法の改正︵二六二−一条︶によって一人会社は会社の例外的
現象ではなく1法務省の会社法改正の準備法案の中には一人株式会社を許容する規定はなく、一人会社の︸般化は
︵27︶
︵28︶
達成されていないという異論もあるがi、会社概念を得るために法理論上不可欠な要素であると解されるにいた
った。
︼人会社の一般化は、第一に、設立行為の観念に影響する。従来、会社の設立は民法の規定にしたがって︵民法
典一八三二条︶契約による設立と例外的に単独行為による設立に分解して理解されてきたが、閃輿嘗①一教授は合同
行為論ともいうべき集団的単独行為論︵8竃仁巨讐曾巴8一一8無︶という民法理論を導入して、二人以上の者による
会社の設立はまさにこの行為に該当し、一人による設立は単純に単独行為︵8器§ぎ織邑︶と解すれば足りると
︵29︶
して︵民法典一八三二条︶、設立行為を統一的に把握すべきことを提唱している。この学説は会社制度説または会社
を﹁企業を法的に組織化する技術﹂と解する説に場所を空けるためのものであり、ゆRqΦ一教授にとっては、後者
の説をとる前提となる。
第二に、会社の法的観念に関する論争を再燃させた。この論争は一九八五年に一人有限会社が創設された当時も
みられたが、個人企業者の責任制限の方策に関する論争を背景として、充当財産の理論を排して有限会社について
︵30︶
例外的に一人会社を認めるものであった。しかし、今回の論争は一人会社の一般化を前提とするから、時代的な枠
組みの中で、二世紀にわたる論争に決定的な影響を与えることになるかもしれない。
会社を契約と解するか制度とみるかは、きわめて概括的にいうと、設立時に要求される社員の数ならびに管理運
フランス会社法と契約の自由︵井上︶ 二四九
早法七五巻三号︵二〇〇〇︶ 二五〇
︵31︶
営機構および社員の権利義務が強行法規をもって定められているかどうかを一つの典型的な指標としているが、一
人簡易株式制会社には複数の社員がいないから単独社員に認められた自由を契約の自由と解することができず、そ
れゆえ会社を契約と解することができない。事実、一九九四年に複数社員制の簡易株式制会社が誕生した当時、学
説において、会社契約説の復活を告げるものであると強調されたが、この説は単独社員を認める一九九九年の簡易
株式制会社が登場するとただちに撤回された。しかし、そうかといって、一人簡易株式制会社を制度︵ぎ亀ε−
︵32︶
け一象︶と解することも、この会社では社員が自らの意思で会社の管理運営機構を設計し社員の権利義務を決定する
ことができるから抵抗がある。そこで、一人会社を社員個人とこれと取引する第三者との間に介在する装置である
と解する第三の説が注目される。かくして、一人会社の一般化は、﹁企業を法的に組織化する技術﹂または﹁企業
︵33︶
の受入れ機構﹂として会社を機能的にとらえる学説の勝利に寄与することになるだろう。
③ 契約の自由の拡大−株主保護の理念の後退 簡易株式制会社の一般化にかかわる。簡易株式制会社の社員
は、定款をもって、社員間の資本的関係をコントロールできるだけでなく、会社の管理運営機構を構築する自由を
もつ。社員のもつこの自由は、会社に関する民法の規定︵民法典一八三二条以下︶、商事会社の一般原則および社長
の任命の強制︵二六二ー七条︶など簡易株式制会社に関する若干の特別規定の枠組みの下に置かれているが、株式
会社の管理運営機構に関する会社法の規定が簡易株式制会社に適用されないから︵二六二−一条二項による八九条な
いし一七七⋮一条の適用除外︶きわめて大きい。逆にいうと、契約自由の名の下に、定款の規定をもって、本来有す
︵3
4︶
べき社員の株式譲渡に関する権利などを剥奪し、さらに資本多数決の原則︵一七四条︶だけでなく、学説によ
ると、株主平等の原則の適用もないからこれらの原則にもとづく社員の権利を奪うことができる。作られる会社機
関についても、会社機関の相互の関係を規律する一般的観念である会社機関の階序制の原則の適用がない。
このように、簡易株式制会社の社員は、株式会社の株主であれば当然に認められる法的保護をうけることができ
ず、契約の自由のいう荒野に立たされているといってよい。この契約の自由は、従前の簡易株式制会社法の下では
大企業を社員とすることを条件にこれらの社員にかぎって認められたが、この条件は一九九九年法によって撤廃さ
れ、すべての自然人および法人に及ぼされることとなった。これについては批判も強い。なぜなら、簡易株式制会
社の社員となるのはかならずしも法改正の原動力となった意識の高いベンチャービジネスの起業家であるとはかぎ
らず︵注︵22︶を参照︶、企業情報に疎く世間知らずの投資者であることも多く、契約の自由はこれらの投資者の不
︵ 3 5 ︶
利に働く危険があるからである。
この批判に対して、公募会社の株主であれば別だが、簡易株式制会社という非公募会社の社員を自衛能力のない
者と解すべきでなく、公募会社と非公募の簡易株式制会社の間には株主保護の要請に差異があり、投資者保護の要
︵36︶
請は新しい簡易株式制会社に反対するに足る根拠を構成しないという反論が加えられている。改正法は結果として
この立場に立っており、立法者は、資本会社の一つである簡易株式制会社の社員について、いわば保護主義を捨て
自由放任主義をとったといえる。この立法者の態度は公募会社を除く他の資本会社に波及する可能性をもってお
り、この点でまさに画期的であるといえる。
㈹ 会社形態の勢力地図の変容 それでも、簡易株式制会社のもつ魅力は中小企業にとって大きい。中小企業
は柔軟な管理運営機構を備えた有限会社を利用してきたが、この会社では、持分の過半数を有する業務執行者が従
来税法および社会保障の面で不利益な待遇をうけ、さらに持分証券の発行が禁止されている。そこで、近年、とく
フランス会社法と契約の自由︵井上︶ 二五一
早法七五巻三号︵二〇〇〇︶ 二五二
に後者の理由で株式会社形態を採用する企業が増えているが、株式会社は強行法規に囲まれ重い負担が課せられ
7︶
る。この有限会社や株式会社のもつ不都合さは簡易株式制会社によって克服されるものであって、これらの中小企
︵3
業が有限会社や株式会社の衣を捨て簡易株式制会社に走ることが考えられる。この結果、七七万五千社を数える有
限会社、一六万五千社の株式会社、約二七〇〇社の簡易株式制会社の勢力地図に著しい変動が生じ、とくに有限会
︵38︶
社と非公募の株式会社がその打撃をうけると予測されている。学者の中には、将来、有限会社が激減して廃止され
る可能性を指摘する者もある。
︵39︶
上記の学説に反対する見解も強い。O昌自教授によると、簡易株式制会社は、この会社に許容された株式の譲
渡に関する定款条項などを設けるために主に会社グループで利用されるだけで、有限会社や株式会社を侵食するこ
とは実際にはほとんどありえないという。敷延すると、強行法規の存在は会社の設立に際して有限会社や株式会社
形態を選択するときにかならずしもマイナスの要因とならず、さらに簡易株式制会社への組織変更につき社員全員
の同意を要する旨の規定︵二六二ー四条︶は、多くの会社で、簡易株式制会社への組織変更を事実上不可能とする
として、簡易株式制会社の利用に限度があることを強調し、一人簡易株式制会社についても、一人有限会社
︵国d勾一︶と比較して、株式︵持分︶の譲渡税の点で有利であるが、会計監査役の選任の強制の点で不利であるとし
て、一人簡易株式制会社の普及に疑問を提起している。さらに他の学者も、有限会社について、五万フランという
きわめて少額の最低資本金額︵三五条︶、会計監査役の任意機関性︵六四条︶、一定の親族のみを社員とする場合に
︵40︶
人的会社の税制の選択など小企業に有利な装置を備えているから十分存続に耐えるとして、有限会社消滅論に異議
を唱えている。ただ、いずれの学説にも共通しているのは、会社法は公募会社用の厳格な株式会社法と非公募会社
用の契約の自由を理念とする会社法に分かれていくという指摘である。
かくして、フランス会社法の拘束を脱して契約の自由を求める運動は、会社法の全面改正を目前にして、会社法
の数次にわたる改正および創設された簡易株式制会社を介して会社法の全域に広がろうとしている。簡易株式制会
︵41︶
社に関する会社法を改正した一九九九年の立法者は、フランスの学者の表現によると、契約の自由という大波を防
ぐ防波堤の最後の水門を開けたといってよい。その意味で、今次の改正はフランス会社法にとって画期的な改革で
あって、フランスの学者はこれを会社法の﹁ビッグバン﹂、﹁革命﹂と呼んでいる。
︵42︶ ︵43︶
︵26︶ フランスの一人有限会社︵国d因一︶について、鳥山恭一コ人会社の法規整ーフランスにおけるその展開﹂早稲田法学六五巻
三号︵一九九〇年︶一頁以下。有限責任農業経営体については同論文四六頁、一人有限会社の成立にともなう会社の観念の変容に
︵27︶ 雫串OO墨PO仁Φδ奉ω議噛一Φ蝕8ωω貫琶餌くき什−冥o言け号一〇一R8昌§oωoo竃芯冨﹃鋤9一〇房臨ヨ嘗団欲①§督Φ富o暮亀Φ
ついては八一頁以下参照。
︵ω︾のd︶b三一Φ瓜5匂oぎ一〇8も。①一〇。●
︵29︶ω①昌邑堕ω唇轟8け①ど署。臼一9ψ
︵28︶ 勾餌p血〇二〆ω巷嵩8$謹”℃﹂困o 。り
︵30︶ 鳥山・前掲注︵26︶二八頁以下。
︵31︶=鋤ヨ9鍔ひq貰留しき津Φぴ90辞8ヨ窮Φ鼠異ンご。。。も℃■一刈①鼠もO蔓opの穏遷89一も算嵩99
︵
3︶ Oo轟Pω后惹8け①曽も。〇一〇
2
。旧即餌鼠8〆ω二冥㊤8冨謹も﹂90 。’
。●
︵33︶い評一一募ω$F98仁<Φ=①ω8陣ひ冨﹃㊤&8ωのぎ℃農ひΦ。い①び凶ひq−びm凝α信警○︷&①ωの09α叡ωど園①霊①匿9一一〇巳8。も。。。b。噛
。卑旨O●ただ、簡易株式制会社につい
︵
3︶ ζ﹂8葺旦r$器ω8欲の号σω8猷菰づ巽8瓜自ωω巨嘗︷猷ρ肉Φ<あoρレ8倉薯。認。
4
℃マω赴簿2肉四コαo二〆ω仁℃鍔8けΦN倉℃﹂困o
て株主平等の原則が適用されないとするこの学説は一九九四年の簡易株式制会社法の下で唱えられたものである。
フランス会社法と契約の自由︵井上︶ 二五三
早法七五巻三号︵二〇〇〇︶
二五四
。轟需9翠仁教授は、会社法改正の目的であるベンチャー起業家の育成およびこれをバックア
︵35︶ ぱO曽9F鍔冥鋤8鼠謡も’。
なお、定款の沈黙の問題は従前の簡易株式制会社法の下でも懸念されていたが、簡易株式制会社の一般化によって一層現実味を帯
ップする契約の自由が簡易株式制会社の一般化によって生ずるあらゆる危険を隠蔽するとして批判している︵90弩壼﹂獣e。
びると思われる。
社に反対する立場を批判しているのであって、一般投資者の利益を閑却すべきことを主張しているのではない。事実、定款作成者
︵36︶ 幻き3藁も唇量89鐸℃﹂ま。.ただし、菊き3長教授は一般投資者の保護に欠けることを理由として新しい簡易株式制会
︵園きα〇二図﹂葛α’︶。
である会社設立者の責任を強化し、簡易株式制会社の社員の有する権利を再検討してこれを法定化すべきことを提言している
命馴評一ぎωω8Fω后﹃鋤88ωωも℃●ωωも。Φけω・
。菩①9きFω唇寅8一巴㎝も●
︵37︶一。−いU巴鴨ρ評葺−=び簿葛一凶ωR一gω8杢①冨惹。貯一・霧ω巨℃猛ひ。り﹂亀w舞国も.NG。も。鶏。
機関の階序制の原則など資本会社の聖域を定款をもって否定する精神が法律によって認知されたことにある。そうであるとすれ
理念が一般的に認められたこと、すなわち、この会社において、株式譲渡自由の原則、資本多数決の原則、株主平等の原則、会社
って、重要視すべきは、簡易株式制会社の実際の利用の多寡ではなく、資本会社の一つである簡易株式制会社において契約自由の
由の原則をすべての者に及ぼすことを意味し、かならずしも、この会社形態が広く一般的に利用されることを意味しない。したが
員資格に関する条件を撤廃して、その社員資格をすべての法人および自然人に開放することによって、この会社に内在する契約自
しかし、簡易株式制会社の一般化︵富轟房蝕8︶とは、たしかに教授のいう意味でも用いられ一義的でないが、この会社の社
の指摘は十分に 首 肯 す る こ と が で き る 。
げ、有限会社や非公募の株式会社にとって代わる事態は今のところ考えられない。その意味で、この会社の一般化を否定する教授
この会社が与える他の会社形態への影響を過小に評価する。たしかに、教授の指摘するように、簡易株式制会社形態が急成長を遂
教授は簡易株式制会社形態の利用が広まることを簡易株式制会社の一般化と解したうえで、簡易株式制会社の一般化を否定して、
署ひミ鋤8。。ただ、O昌8教授は、本文で述べたことを簡易株式制会杜の一般化の否定という形式で説明している。すなわち、
︵39︶イOξ9”い、欝藍のωΦヨ①旨魯α・日巴旨①留ωの8聾ひωB惹9凶o霧のぎ℃臣ひ8︵一。三丘N甘=一①二。。。る拝。。︶扇雲ω02一8。℃
。凶ワ零o 。●
︵38︶ U鉱αQ戦ρω后墨8梓Φo
・。
︵40︶園帥&8図︶盤虞9D8け①N“も。嵩8。
ば、上記の意味における簡易株式制会社の一般化は他の資本会社にとってきわめて重要な革新的な事実であると思われる。
︵41︶︸、一切R賃99ω>ω”匡きΦけづR8Φo賦<oρ90濤①け評鼠ヨoぎΦも。翼ω8冨BぼΦ一。O。も■藤①。
︵42︶ 勺毘一島ω$Fω昌蜜8什Φωo。︸薯﹄瞳簿ω。
︵43︶男−︸㌔こ頷<o一&80三づ8︿畳8窪箏聾酵①α①ω。。陣ひ冨惹&8ωω目づ匡ひΦレ鷺80ωα巴巴・こ巳ど巨一①二。。。堕の器9
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フランス会社法と契約の自由︵井上︶