1 第 11 章 機械エネルギーと熱エネルギーの変換 Mechano-Thermal Energy Exchange 1 1 ・1 は じ め に (introduction) 機械エネルギーとは,力学的エネルギーといってもよいが,物体が運動する とき有するエネルギーであり,たとえば車が回転したり,ホイストで物を持 ち上げたりする際に必要な仕事や流体が流れるときに持つエネルギーが含ま れる.力学的エネルギー保存則では運動エネルギーとポテンシャルエネルギ ーの和が一定である.熱力学第 1 法則では,熱量と仕事という概念を導入し, どちらもエネルギーであってたがいに変換可能でありその総和は保存される ことを示した.ただし,熱力学第 2 法則により,熱を仕事に変換する際,そ のすべてを変換することは不可能であり,低熱源にある熱量を捨てなければ ならないことが示されている. 第 3 章で述べたが,熱を仕事に変換する装置を熱機関,逆に仕事によって 熱量を移動する装置を冷凍機あるいはヒートポンプといい,互いに逆サイク ルを行う機関である.熱効率ηとは,供給される熱量 Q 1 に対する外部に対し てする仕事 W の比を表す無次元数 η≡ Q W = 1− 2 Q1 Q1 (11.1) と定義され,第2法則より必ず 1 より小さい.さらに,カルノーの定理より 温度 T 1 の高温源から熱量をもらい,T 2 の低温源へ熱量を放出する可逆カルノ ーサイクルの熱効率は ηC = 1 − T2 T1 (11.2) となり,これがあらゆる熱機関の熱効率の最大値を与える.つまり η = 1− Q2 T ≤ 1− 2 Q1 T1 (11.3) ということになる.逆に冷凍機やヒートポンプの場合,エネルギー変換効率 は εR ≡ Q2 Q2 Q Q1 = , εH ≡ 1 = W Q1 − Q2 W Q1 − Q2 (11.4) と定義され,それぞれ冷凍機,ヒートポンプの成績係数(COP)と呼ぶ.ま た,これらも可逆カルノー機関によるものが最大であるので εR = Q2 T2 Q1 T1 < , εH = < Q1 − Q2 T1 − T2 Q1 − Q2 T1 − T2 (11.5) となる.これらについては 3・3 節を参照のこと. この章では,これら,熱機関,冷凍機,ヒートポンプについて具体的な例 を挙げて説明する.ただし,この稿では,それぞれの機関の構造的詳細につ いて述べる紙面はなく,機関の基本的構成,エネルギー変換原理についての 2 第 11 章 機械エネルギーと熱エネルギーの変換 み記述する 1 1 ・2 熱 機 関 (heat engine) 11・2・1 熱機関の分類(various types of heat engine) 熱機関とは,熱エネルギーを機械的エネルギーに変換する装置の総称である. 簡単に言えば「エンジン」である.熱機関にはいくつかのタイプがある.ま ず,内燃機関(internal combustion engine),外燃機関(external combustion engine) という分け方は,熱供給の方法による分類であり,前者は,作動物質そのも のの燃焼により,熱供給を行い,後者は,作動物質に対して外部から熱を供 給するタイプである.したがって,外燃機関は「燃」という文字が入ってい るが,燃焼による熱供給とは限らず,原子炉や太陽エネルギーであっても良 い. 内燃機関には,ガソリンエンジン,ディーゼルエンジン,ロータリーエン ジン,ガスタービン,ロケットエンジンがあり,全て,燃料の燃焼によって 熱を供給し,その燃焼ガスが作動物質となり仕事をする. 一方,外燃機関には,蒸気機関,蒸気タービン,スターリングエンジンが あり,熱源としては,燃焼だけでなく原子炉,太陽エネルギーなど何でも使 用できる.燃焼排出物が環境上問題であれば,燃焼を使わない外燃機関が好 ましいし,たとえ燃焼を使うとしても作動物質として使用しないので制御が 容易であるので望ましいと考えられる. 駆動方式により分類すると (a) 往復運動機関(reciprocating engine) (b) 回転運動機関(Wankel engine) (c) 連続流動型機関(continuous flow engine) に分けられる.(a)は,シリンダ内のピストンの往復運動を,クランク軸で回 転運動に変換して取り出すタイプ,(b)は,特殊な形状をしたシリンダとロー ターを使い,その間に形成される3か所の隙間を燃焼室として体積変化によ 図 11.1 エンジンの透視図(上;ガ ソリンエンジン,下;ジェットエ ンジン) る仕事を回転運動に変換して取り出すもの,(c)は,作動物質を連続的に流し ながら状態変化させ,タービンによる回転仕事あるいはノズルによる運動エ ネルギーへの変換によって仕事を行うものである.具体的に,(a)にはガソリ ンエンジン,ディーゼルエンジン,蒸気機関,スターリングエンジン,(b) はロータリーエンジン(回転運動機関,バンケルエンジン),(c)にはガスタ ービン,ジェットエンジン,蒸気タービン,ロケットエンジンがある. 作動物質で分けると (a) ガスエンジン (b) 蒸気(二相)エンジン があり,前者は,燃焼ガスが作動流体で,理想気体と仮定して状態変化を計 算するもの,後者はそのサイクル中に相変化があり,理想気体としての計算 はできず蒸気表(steam table)を利用しなければならない. 本章では,これら全てのエンジンの仕組みや要素について詳述するわけに は行かないので,それらは専門書にゆずり,代表的ないくつかのエンジンの 構成と基本サイクルについて概説する.図 11.1 に典型的なエンジンとしてガ ソリンエンジン,ガスタービンの透視図を示す. 3 11・2 熱機関 11・2・2 往復運動機関の基本動作 往復運動機関(reciprocating engine)は,シリンダ内をピストンが往復しバルブ b などを通して作動流体を吸入し,加熱,膨張して外部に仕事をする.外燃機 関の場合は,外部から作動流体を加熱する.たとえば蒸気機関では作動流体 は水蒸気であり,ボイラーで加熱された水蒸気をシリンダに吸入させピスト ンを移動させ仕事をする.内燃機関では,シリンダ内部に可燃物を導入し, TDC y 燃焼により発熱させ膨張させる.現在では,外燃機関としての往復運動機関 の利用は少ないので以下は内燃機関について記述する. 往 復 運 動 機 関 で は ク ラ ン ク 軸 に よ り 往 復 運 動 を 回 転 運 動 に 変 換 す る . 図 11.2 はもっとも単純なクランク角(crank angle, CA) θ とシリンダ容積(cylinder BDC volume) V の幾何学的関係を表したものであり,それらの関係は次式で表現 l される. π ⎧ ⎡ V (θ ) = VC + b2 ⎨l + r − ⎢ l 2 − r 2 sin 2 θ 4 ⎩ ⎣ ( ) 1/2 ⎤⎫ + r cos θ ⎥ ⎬ ⎦⎭ (11.6) こ こ で , VC は 隙 間 容 積 (clearance), b は , シ リ ン ダ 直 径 (boa), l は 連 接 棒 F (connecting rod)長さ, r はクランク半径(crank radius)である.この式では θ = 0 で V = VC r (11.7) で最小となり, θ = π で V = VC + π 2 b2r (11.8) で最大となる.最小値を与える位置を上死点(top dead center, TDC),最大値を 与える位置を下死点(bottom dead center, BDC)とよぶ.ピストンが移動する距 離はクランク半径の 2 倍であり,その容積は Vs = π 2 2 b r 関係 (11.9) となる.これを行程容積(stroke volume)と呼ぶ.また,最大容積と最小容積の 比 ε= V s + VC VC (11.10) を圧縮比(compression ratio)とよぶ.外部になす仕事は,シリンダ内の圧力が ピストンを動かすことによって得られるので,1 サイクルにわたってシリン ダ内の作動流体が外部にする絶対仕事で表現できる.すなわち, Wcycle = dV ∫ pdV = ∫ p dθ dθ cycle cycle (11.11) である.ここで dV π 2 ⎡ 2 2 2 = b r ⎢ l − r sin θ dθ 4 ⎣ ( を用いればシリンダ内圧力 ジンでこれを測定し ) −1/2 ⎤ r cos θ + 1⎥ sin θ ⎦ 図 11.2 往復運動機関の幾何学的 (11.12) p(θ ) を測定すれば仕事が計算できる.実際のエン p(V ) の形で図示したものを指圧線図(indicator diagram) と呼ぶ.この指圧線図から積分して得られた仕事を図示仕事(indicated work) という.実際,動力計で測定される仕事は,この図示仕事に機械効率 (mechanical efficiency)をかけて得られるものでこれを正味仕事(brake work)と 4 第 11 章 機械エネルギーと熱エネルギーの変換 呼ぶ.往復運動内燃機関では 2 ストロークサイクル機関と 4 ストロークサイ クル機関があり,前者は機関が1回転して 1 サイクルを構成するのに対し後 者は 2 回転で 1 サイクルを行う.4 ストローク機関は吸気バルブと排気バル ブがあり,吸気行程と排気行程が他の行程と独立して行われるのに対し2ス トローク機関では,クランクケースを利用するなどして吸気,排気(掃気) を圧縮,膨張行程などと同時に行うことによって,1 回転で 1 サイクルを行 う.したがって,2 ストロークサイクル機関では積分を θ = 0 から 2π ,4 ス トロークサイクル機関では θ = 0 から 4π まですればよい. クランク軸の回転数を機関回転数と云い,通常 1 分あたりの回転数(rpm) という単位で示す.回転数を n とすると,このエンジンの出力は P= nWcycle 60 j [W] (11.13) と書ける.ただし,2 ストロークエンジンでは j = 1 ,4 ストロークエンジン では j = 2 である.また,エンジンのトルク(torque) T というのは回転力 F と 回転半径の積で定義される.摩擦など機械的損失がなければ,往復運動の仕 事はすべて回転仕事になるので T = Fr = Wcycle 2πj = 30 P [Nm] nπ (11.14) となる.機械損失があれば,仕事は熱に変換され,外部に取り出せる仕事は 減少する.エンジンに供給される熱量は,化石燃料を燃料として使用する場 合,その燃料の発熱量 H u (単位質量の燃料を空気中で燃焼させた時発生す る熱量),回転数 n[rpm] 1 時間当たりに消費する燃料の質量 m[kg/h]によって Qcycle = H u mj 60n (11.15) と書くことができるから,熱効率は η= 60nWcycle H u mj = 3600P Hu m (11.16) となる.単位出力あたり,単位時間に消費する燃料の質量を燃料消費率 (specific fuel consumption)と呼ぶことがあり,ここでは m/3600P[kg/Wh]と なり,熱効率の逆数に比例する. 11・2・3 往復運動機関の理想サイクル(ideal cycle of reciprocating engine) 往復運動エンジンは燃料によって,ガソリンエンジン,ディーゼルエンジン, ガスエンジンなどと呼ばれるが,燃料の性状により燃焼形態が異なり,必要 な機構も異なる.まずガソリンエンジンは,いわゆるガソリンを吸気ポート 内に噴射し,吸入空気と混合させ,燃焼室に導き,火花点火する.ガソリン は沸点が 30℃から 200℃程度の炭化水素の混合物であり,揮発性が高く,燃 焼室内で素早く気化し,空気と混合し可燃性気体を形成すると考えられる. これをスパーク火花で点火すると予混合気中を火炎が伝ぱする.火炎は燃焼 室内の乱れによって乱流予混合火炎となり容器内を伝ぱする.ガソリンは, 発火温度が高く,必ずスパークプラグで点火する必要があるため火花点火機 関(spark ignition engine, SIE)と呼ばれる.天然ガスやプロパンガスを燃料とす るいわゆるガスエンジンもほぼ同様の燃焼形態をとる.一方,ディーゼルエ 5 11・2 熱機関 ンジンは,沸点が 220 から 300℃程度の軽油を燃料とし,燃料を燃焼室内に 噴射し,ピストンによる圧縮によって自発火させるため,圧縮着火機関 (compression ignition engine, CIE)とも呼ばれる.ガソリンに比べて揮発性が小 さいので,予混合状態で燃焼するというよりは,空気中を燃料が拡散・混合 しながら燃焼するので乱流拡散火炎のような燃焼形態をとる. このような実際の機関の燃焼室内の熱流体力学的挙動は大変複雑で,非定 常 3 次元の流体力学的保存方程式を用いて数値的流体力学(CFD)解析する ことで諸パラメータによる出力の変化などが計算可能である.しかし,現象 の単純化により本質を見極め,基本的設計の指針にする意味で理想サイクル なるものが古くから提案されており,代表的理想サイクルとして,オットー サ イ ク ル (Otto cycle), デ ィ ー ゼ ル サ イ ク ル (Diesel cycle), サ バ テ サ イ ク ル (Sabathe cycle)がある.オットーサイクルは,燃焼過程が定容的に行われると 仮定するサイクルでガソリンエンジンを模擬するものあり,定容サイクルと も言われる.ディーゼルサイクルは燃焼過程を定圧的と仮定し,低速ディー ゼル機関を模擬するもので定圧サイクルとも呼ばれる.サバテサイクルはそ の中間的なのもで,燃焼過程を定容と定圧に分けたもので,定容定圧サイク ルともいい,高速ディーゼル機関に適用できると言われている.このサイク ルでは (1) 断熱圧縮;密閉したシリンダ内をピストンが下死点から上死点 まで移動し,体積が減少し圧力温度が上昇する.この過程の前後の 体積比を圧縮比と呼ぶ.熱損失はなく断熱的な変化であると仮定す る. (2) 定容燃焼;上死点で燃焼が開始し,まず,体積一定,つまり瞬 間的に熱量が供給され,圧力がある値まで上昇する.この過程の前 後の圧力の比を圧力比(pressure ratio) r と呼ぶ.理想気体なので これは温度の比でもある. (3) 定圧燃焼;ピストンが動き始め膨張が始まっても燃料が噴 射し続けられ,噴射が終了するまで燃焼する.燃焼過程は定圧 的と仮定する.噴射が終了する体積と上死点の体積の比を締切 比(cut-off ratio, σ)と呼ぶ.この言葉の意味はディーゼルエンジ 3 3’ 2 正の仕事 膨張 圧縮 4 1 0 放熱 吸気 断熱膨張;燃焼が終了し,圧力が減少,体積が膨張する. 熱損失を無視し,断熱的と仮定する.膨張は下死点まで続く. (5) 燃焼 排気 ンの燃料噴射弁を締め切ると言う意味である. (4) 圧力 体積 上死点 行程容積 下死点 定容放熱;下死点で瞬間的に放熱し,はじめの圧力に戻る. という5過程からなるとする.これらの過程の,pV 線図を図 11.3 に示す. これらのサイクルのなす仕事や効率は比熱一定の理想気体の状態変化とし て簡単に計算できるもので熱力学の演習問題である.たとえば,エンジン性 能を表す重要な無次元量である熱効率ηは,作動気体の性質をあらわす比熱 比κ,サイクルの設計変数である圧縮比ε,締切比σ,圧力比 r という4個 の無次元量によって η = 1− rσ κ − 1 ε κ −1 {(r − 1) + κr (σ − 1)} (11.17) 図 11.3 サバテサイクルの pV 線図 第 11 章 機械エネルギーと熱エネルギーの変換 1" 0.8" η 6 0.6" 0.4" 0.2" 0" 0" 5" 10" 15" 20" 25" 30" ε 図 11.4 熱効率と圧縮比の関係 のように表わされる.ここで,σ=1 とすれば,定圧過程がなくなり定容サイ クル(オットーサイクル)になり,熱効率は η =1− 1 ε (11.18) κ −1 となる.また, r = 1 とすれば,定容過程のない定圧サイクル(ディーゼルサ イクル)となり η =1− σ κ −1 ε κ −1κ (σ − 1) (11.19) という公式が導かれる.横軸に圧縮比をとり,各サイクルの熱効率を図示す る.これらの公式から圧縮比,圧力比を増加させ,締切比を減少させると熱 効率は増加する.したがって,圧縮比を固定するとオットーサイクルの方が ディーゼルサイクルより効率がよく,サバテサイクルは両者の中間である. 比熱比もパラメータであり,比熱比が大きいほど熱効率が増加する.つまり, 作動気体として内部自由度の小さな分子,つまり単原子分子を用いた方が効 率が良い. エンジン出力はシリンダ体積などエンジンの大きさにも依存するので,1 サイクルの仕事を行程容積で除した平均有効圧(mean effective pressure, MEP) が大きさによらない指標として用いられ, pm ≡ Wcycle (11.20) Vs サバテサイクルの場合, pm = [ ] p1ε 1 − rσ κ + ε κ −1 {r − 1 + κr (σ − 1)} (κ − 1)(ε − 1) (11.21) オットーサイクルの場合 p m = p1 (r − 1)(ε κ −1 − 1)ε (ε − 1)(κ − 1) ディーゼルサイクルの場合 (11.22) 7 11・2 熱機関 pm = [ p1ε 1 − σ κ + ε κ −1κ (σ − 1) (κ − 1)(ε − 1) ] (11.23) となる. 前述のように圧縮比を高めると効率が良くなるが,ガソリンエンジンやガ スエンジンの場合,火炎が伝ぱするにつれ内部の圧力が上昇するので正常な 火炎前方の未燃ガスが自発火して,いわゆる異常燃焼を起こす.これをノッ キング(knocking)といい,大きな圧力振動を伴うため使用不能になる.これを 避けるためには,燃料中にアンチノック剤を入れて化学的に抑えることがで きるがそれでも圧縮比は通常 10 程度が限界である.燃料のアンチノック性を 示す指標をオクタン価(octane value)という.一方ディーゼルエンジンの場合 は自発火を利用するためガソリンエンジンのようなノッキングは起きない. 11・2・4 サイクル解析(cycle analysis) 往復運動機関で燃焼室内の燃焼については,ガソリンエンジン,ディーゼル エンジンでは大きく異なる.第 10 章に燃焼過程に関する説明があるので参照 願いたいが,ガソリンエンジンでは予混合伝ぱ火炎,ディーゼルエンジンで は噴霧燃焼が起きているものと考えられる.前節で述べたようにはオットー サイクルは,燃焼過程が瞬時に起きたと考えるものであり,ディーゼルサイ クルは定圧条件で締切比で与えられる時間まで燃焼が継続すると考えたもの である.理論的に燃焼過程を扱うのは三次元非定常の保存方程式を基礎にコ ンピューターを駆使して行わなければならないが,ここでそれを説明する余 裕がない.そこで,エネルギー保存則,つまり熱力学第1法則を用いた解析 について述べる.シリンダ内の燃焼質量割合(mass fraction burnt) xb をクラン ク角 θ の関数として ⎧ ⎛ θ − θ ⎞n ⎫ ⎪ ⎪ s xb = 1 − exp ⎨−a ⎜ ⎟ ⎬ θ ⎩⎪ ⎝ d ⎠ ⎪⎭ (11.24) と与えられると仮定する.ここで, a, n, θ s , θ d は,与えられるパラメータで特 に θ s , θ d はそれぞれ燃焼開始時間,燃焼継続時間に対応するクランク角を意 味する.作動気体は比熱比κ,気体定数 R の理想気体とし,燃焼による供給 熱量を Q,内部エネルギーを U ,シリンダ内圧力を p ,シリンダ体積を V と すると,熱損失を無視すれば,熱力学第1法則により, δQ = dU + pdV 理想気体を考えると,第 3 章より dU = Mcv dT = 1 MRdT , pV = MRT κ −1 ただし,ここで,M は燃焼室内の作動気体の質量である.これを第1法則の 式に代入すると δQ = 1 1 1 κ MRdT + pdV = d ( pV ) + pdV = Vdp + pdV κ −1 κ −1 κ −1 κ −1 瞬間的な供給熱量は質量燃焼割合の変化と全供給熱量に比例するので 8 第 11 章 機械エネルギーと熱エネルギーの変換 δQ = Qdxb したがって,独立変数をクランク角 θ とすれば Q dxb 1 dp κ dV = V + p dθ κ − 1 dθ κ − 1 dθ (11.25) 体積は式(11.6)から V (θ ) = VC + ( ) 1/ 2 π 2⎧ ⎡ ⎤⎫ b ⎨l + r − ⎢ l 2 − r 2 sin 2 θ + r cosθ ⎥ ⎬ 4 ⎩ ⎣ ⎦⎭ その微分は ( ) dV π 2 ⎡ 2 2 2 −1 / 2 ⎤ = b r ⎢ l − r sin θ r cosθ + 1⎥ sin θ dθ 4 ⎣ ⎦ となるので,圧力に対する微分方程式が求められる.すなわち dp dθ (κ − 1)Q = na ⎛ θ − θ s ⎜ θ d ⎜⎝ θ d ⎞ ⎟ ⎟ ⎠ n ⎧ ⎛ θ − θ s ⎞ ⎫⎪ π ⎪ ⎟ ⎬ − κp b 2 r ⎡ l 2 − r 2 sin 2 θ exp⎨− a⎜⎜ ⎢⎣ ⎟ 4 ⎪⎩ ⎝ θ d ⎠ ⎪⎭ 1/ 2 π ⎧ ⎡ ⎤⎫ VC + b 2 ⎨l + r − ⎢ l 2 − r 2 sin 2 θ + r cosθ ⎥ ⎬ 4 ⎩ ⎣ ⎦⎭ n −1 ( ( ) −1 / 2 ⎤ r cosθ + 1⎥ sin θ ⎦ ) (11.26) となる.初期条件は,圧縮開始時 θ = −π で p = p1 としてこの常微分方程式を 数値的に解けば,pV 線図が描け,サイクルのなす仕事も π Wcycle = ∫ p −π dV dθ dθ より計算することができる.図 11.5 の計算結果は, Q = 3.97kJ/cycle p0 = 100kPa, T0 = 300K, Air, ε =8, σ =3, a = 5, n = 3, θ s = −10deg, θ d = 20deg としたもので,結果として Wcycle = 2.67kJ/cycle ,熱効率 η = 0.672 となる. 図 11.5 サイクル解析による pV 線図 9 11・2 熱機関 11・2・5 ガスタービン(gas turbine) (1 ) ガスタービン,ジェットエンジン,蒸気タービンのように作動流体を定常に 流すことによって仕事をする機関を連続流動機関と呼ぶ.まず気体を作動流 体とするガスタービンについて述べる.往復運動機関と同様にまず,作動流 体を圧縮し,加熱し,膨張させて仕事をする.連続流動機関では圧縮にピス ト ン で は な く , 軸 流 圧 縮 機 (axial compressor)や 遠 心 圧 縮 機 (centrifugal com- ① ② B C ③ pressor)のような羽根車を回転させて気体を圧縮する装置を利用して圧縮す る.内燃機関では,空気を圧縮し,そのあと燃焼器で燃料を混合させ燃焼さ せて加熱する.その結果得られる高温高圧の燃焼ガスをタービンで膨張させ, タービンの回転仕事として出力をえる.図 11.6 にガスタービンの概略図を示 C;Compressor B;Burner ④ T;Turbine G;Generator す.このような装置を単純ガスタービンとよびその理想サイクルをブレイト ンサイクルと呼ぶ.ブレイトンサイクルでは,圧縮,膨張過程は断熱とし, 燃焼過程は定圧としている.実際の機関では燃焼室内に液体噴霧状の燃料を 噴射し,流動する空気と混合させながら燃焼させるので定容というよりは定 圧と考えるべきである.ブレイトンサイクルの放熱過程は,往復運動機関と は異なり定圧とすべきである.というのは往復運動機関では最大容積が決ま っているのでその容積まで膨張し瞬時に放熱するというモデルが最も大きな 仕事が得られると考えて理想としたが,ガスタービンでは作動気体を外部に 放出する.外部は吸入する空気と同じ圧力のはずなので放熱過程は定圧と考 える.ブレイトンサイクルの状態変化をまとめると (1) 断 熱圧縮;軸流または遠心圧縮機によって気体を圧縮する.この過 程の前後の圧力比 (pressure ratio)を r とする.熱損失はなく断熱的 な変化であると仮定する. (2) 定 圧加熱;燃料を定常的に燃焼させるなどして定圧的に加熱する. (3) 断 熱膨張;タービンで気体を膨張させ仕事をする.熱損失を無視し, 断熱的と仮定する.膨張は吸入時の圧力まで行われる. (4) 定 圧放熱;定圧的に放熱し,はじめの状態に戻る. 理想気体を仮定した熱力学計算によりこのサイクルの熱効率は κ −1 l ⎛1⎞ κ η = = 1− ⎜ ⎟ q ⎝r⎠ (11.27) のように求められる.サイクルの仕事 l はタービン入口出口のエンタルピー 差から求める断熱タービン仕事 1 ⎫ ⎧ lT = h3 − h4 = c p (T3 − T4 ) = c pT3 ⎨1 − (κ −1)/κ ⎬ r ⎩ ⎭ とコンプレッサを駆動する断熱仕事 { } lC = h2 − h1 = c p (T2 − T1 ) = c pT1 r (κ −1)/κ − 1 からコンプレッサを作動させる仕事をひいて求め,単位質量流量あたりの仕 事は { l = lT − lC = c pT1 τ − r ( κ −1)/κ }{1− r ( ) } − κ −1 /κ (11.28) G T 図 11.6 ガスタービンの概略図 10 第 11 章 機械エネルギーと熱エネルギーの変換 図 11.7 ブレイトンサイクルの熱効率と無次元仕事 となる.ここで,温度比(temperature ratio) τ≡ T3 T1 (11.29) はタービン入り口温度と吸入気体温度の比である.一方,供給熱量は定圧過 程で得られるので { q = h3 − h2 = c p (T3 − T2 ) = c pT1 τ − r ( κ −1)/κ } (11.30), であるので,式(11.24)が導かれる.図 11.7 に熱効率と無次元出力を圧力 比に対して示す.圧力比を増加させると熱効率は単調に増加するが,出力は 最大値を持つ.熱効率は圧力比のみの関数であるが出力はタービン入り口温 度に依存することは設計上重要な結果である.つまり,タービンの出力向上 のためには,タービン入り口温度を上昇させる必要があり,そのためにはタ ービンの材質の選定及びその冷却方法が重要となる. 11 11・2 熱機関 ここではコンプレッサおよびタービンは断熱過程と考えているが,実際は損 失 が あ り 断 熱 で は な い . 実 用 的 に 処 理 す る た め に 断 熱 効 率 (adiabatic efficiency )を以下のように定義する. ηC ≡ ηT ≡ l C ,S lC lT = = lT ,S h2 ,S − h1 h2 − h1 h3 − h4 h3 − h4 ,s (11.31) つまり,コンプレッサでは,実際になされた仕事 l C に対する同じ圧力比に対 する断熱変化と考えた時の仕事 lC , S の比,タービンについては,断熱変化と して計算される仕事に対する実際の仕事の比である.この二つの断熱効率を 考慮すれば,比熱一定のとき T2 = T1 + T2 s − T1 ηC , T4 = T3 − η T (T4 s − T3 ) となるので仕事は { l = c pT1 r ( κ −1) /κ } 1 ⎪⎫ ⎪⎧ − κ −1 /κ − 1 ⎨ηT τ r ( ) − ⎬ ηC ⎪⎭ ⎪⎩ (11.32) 熱効率は η= ηC ηT τ r −(κ −1)/κ − 1 ηC (τ − 1) r( κ −1) /κ −1 (11.33) − 1 のように求めることができる.図 11.8 はこれらの式に基づいて横軸に比出力 l /(c p T1 ) ,縦軸に熱効率をとり,タービン入り口温度と圧力比をパラメータ として描いた図で,ガスタービンの性能を示すものである.タービン入り口 温度を固定すると,比出力を最大にする圧力比が存在し,それは熱効率を最 大とするものとは異なる.圧力比を 100 近くすることは難しいのでタービン 入り口温度をあげて比出力を上げながら熱効率を上げることが現実的である. 熱 効 率 向 上 の た め に は , 排 気 ガ ス の 熱 量 を 回 収 す る 再 生 サ イ ク ル (regenerative cycle)や中間冷却再熱サイクル(reheat cycle)が多段で使用される がここでは紙面の都合で省く. 図 11.8 断熱効率を考慮したガスタービンの性能 12 第 11 章 機械エネルギーと熱エネルギーの変換 11・2・6 ターボジェットエンジン (2) (turbo jet engine) ジェットエンジンは,ガスタービンを構成するコンプレッサ,燃焼器,ター ビンとノズルから構成される.タービンの回転仕事をすべてコンプレッサで 使用し,残りのエネルギーをノズルで運動エネルギーに変換する.ガスター ビンでも同様であるが連続流動機関では作動流体は無視できない速度で運動 しながら状態変化をする.3・6 節で述べたように運動する流体は静止した場 合の熱エネルギーに加えて運動エネルギーを有している.マッハ数が十分1 より小さい場合はそれを無視することができるが 1 付近,あるいは 1 以上の 音速を超えた流れにおいては熱エネルギーと同等またはそれ以上の運動エネ ルギーを持つことになる.つまり,マッハ数を M として ⎛ κ −1 2 ⎞ T0 = T ⎜1 + M ⎟ 2 ⎝ ⎠ κ κ ⎛ T ⎞ κ −1 ⎛ κ − 1 2 ⎞ κ −1 , p0 = p⎜ 0 ⎟ = p⎜1 + M ⎟ 2 ⎝T ⎠ ⎝ ⎠ で定義される全温度と全圧を使用すべきである.そうするとまずコンプレッ サの入口状態を添え字 1,出口を 2 とすると rC = p 02 , p 01 ⎧⎪ r (κ a −1) / κ a − 1 ⎫⎪ T02 = ⎨1 + C ⎬T01 ηC ⎪⎩ ⎪⎭ (11.34) コンプレッサを動かす仕事は r (κ a −1) / κ a − 1 L C = m a c pa ( T02 − T01 ) = m a c pa T01 C ηC (11.35) となる.燃焼器では燃料が噴射され,定圧燃焼するので燃焼で供給される熱 量は ( ) ( f LHV = m a + m f c pb T03 − T02 Q in = ηb m ) (11.36) であるから T03 = T02 + η b m f LHV (11.37) (m a + m f )c pb タービンの膨張比を r T とするとタービン出口温度は rT = p 03 p 04 をタービン膨張比として ⎧⎪ ⎛ 1 T04 = ⎨1 − η T ⎜1 − (κ −1) / κ ⎜ b b ⎪⎩ ⎝ rT なので,タービン仕事は ⎞⎫⎪ ⎟⎬T ⎟⎪ 03 ⎠⎭ (11.38) 13 11・2 熱機関 ⎧ 1 ⎪ LT = m a + m f c pb T03 − T04 = m a + m f ηT c pbT03 ⎨1− κ b −1)/κ b ( ⎪⎩ rT ( ) ( ) ( ) ⎫ ⎪ ⎬ ⎪⎭ (11.39) となる.ターボジェットエンジンではタービンはコンプレッサ駆動のために 使われるので,機械損失を考えて L C = η m LT ∴ m a c pa T01 rC (κ a −1) / κ a − 1 ηC ⎧⎪ 1 = (m a + m f )η mη T c pb T03 ⎨1 − (κ −1) / κ b b ⎪⎩ rT ⎫⎪ ⎬ ⎪⎭ (11.40) ゆえに rT = 1 κ b / (κ b −1) ⎧⎪ m a c paT01 rC (κ a −1) / κ a − 1 ⎫⎪ ⎨1 − ⎬ ηC ⎪⎩ ( m a + m f )η mηT c pbT03 ⎪⎭ (11.41) のようにタービン膨張比が計算され,タービン出口の全温度が決まる.ちな みにすべての効率を 1 とし,燃焼ガスと空気の比熱が等しく,燃料質量を無 視できるとき rT = 1 (11.42) κ / (κ −1) ⎧⎪ r (κ −1) / κ − 1 ⎫⎪ C ⎨1 − ⎬ τ ⎪⎩ ⎪⎭ ⎛ 1 T04 = ⎜ (κ −1) / κ ⎜r ⎝ T (κ −1) / κ − 1 ⎫ ⎧ ⎞ ⎪ ⎟T03 = ⎪⎨1 − rC ⎬T03 = T03 − T02 + T01 ⎟ τ ⎪⎩ ⎪⎭ ⎠ (11.43) であり,タービン仕事がコンプレッサ仕事に等しいことを表している.ター ビンを出た燃焼ガスはまだ十分エネルギーを有しておりノズルでさらに膨張 して熱エネルギーを運動エネルギーに変換し T04 = T5 + 1 w52 2c pb (11.44) となる.ノズル出口は大気圧として,ノズル膨張比を rN = p 04 p p p p r = 02 04 = 02 04 = C p 00 p 00 p 02 p 00 p 03 rT (11.45) のように定義すればノズル断熱効率を考慮して ⎧⎪ ⎛ 1 T5 = ⎨1 − η N ⎜1 − (κ −1) / κ ⎜ b b ⎪⎩ ⎝ rN ⎞⎫⎪ ⎟⎬T ⎟⎪ 04 ⎠⎭ (11.46) ゆえに ⎧⎪ ⎛ 1 w5 = 2c pbT04 ⎨1 − η N ⎜1 − κ ( ⎜ r b −1)/κb N ⎝ ⎩⎪ エンジンの中を流れる気体の質量流量を (thrust force)は ⎞ ⎫⎪ ⎟⎬ ⎟⎪ ⎠⎭ (11.47) m とすれば,このエンジンの推力 14 第 11 章 機械エネルギーと熱エネルギーの変換 F = m ( w5 − w1 ) (11.48) と書くことができる.ただし,厳密にはエンジン入り口の空気の質量流量 m a f とするノズル出口では と出口のそれは燃料の質量 m m = m a + m f f / m a は 0.01 程度 となるが,一般にジェット燃料の燃空比(fuel air ratio) f = m と小さいので無視している.気体の速度は w1 なので,この推力がなす仕事は, 単位時間当たり WP = Fw1 = m ( w5 − w1 ) w1 (11.49) となる.この仕事はエンジンがなした有効な仕事である.ただこの仕事は地 上静止運転をするときにはゼロになってしまうことに注意する.単位推力あ たりの使用燃料質量を燃料消費率(specific fuel consumption rate)とよび SFC = m f m ( w5 − w1 ) ≈ f w5 − w1 (11.50) とする.エンジンの全効率(overall efficiency)は,供給熱量に対する仕事と定 義すると W P m ( w5 − w1 )w1 ( w5 − w1 )w1 w1 = ≈ = Qin m f LHV fLHV SFC ⋅ LHV ηO = (11.51) ただし,LHV は燃料の低位発熱量(lower heating value)である.地上運転では 全効率はゼロである.一方,供給熱量に対してエンジンによる運動エネルギ ー増加割合を内部効率あるいは熱効率と定義すると ( 2 2 m ⎛ 1 2 1 2 ⎞ m w5 − w1 ηth = w − w = Qin ⎜⎝ 2 5 2 1 ⎟⎠ 2 m f LHV ≈ ( )( w5 − w1 w5 + w1 2 fLHV )= ) (11.52) w5 + w1 2SFC ⋅ LHV となる.これは,地上運転でもゼロではないので通常の熱機関の熱効率に相 当するものと考えられる.この運動エネルギー増加に対する推力仕事の比を 外部効率または推進効率と定義し ηp = WP 1 ⎛1 ⎞ m ⎜ w52 − w12 ⎟ 2 2 ⎝ ⎠ = m ( w5 − w1 )w1 1 ⎛1 ⎞ m ⎜ w52 − w12 ⎟ 2 2 ⎝ ⎠ = 2w1 w1 + w5 (11.53) となる.明らかに η O = η thη p (11.54) である.また,エンジンの性能を表す指標として,比推力(specific impulse) I sp = F = w5 − w1 m (11.55) を用いることが多い. g を重力加速度として重力単位で書くと I sp = w − w1 F f = 5 ≈ mg g g SFC (11.55)' となり,これは秒の単位を持つ.比推力が大きいほど同じ燃料で長い時間推 力を保つことができ,また,燃料消費率 SFC が小さくなる. ターボジェットエンジンの推力は式(11.48)のように排出ガス速度が流入速 度(機体速度)より大きい方が大きい.しかし,推進効率は式(11.53)から明 11・2 熱機関 らかなようにそうならない.そのため推進効率を下げずに推力を増やすため には質量流量を増やすしかない.そのためにはエンジンの外部を流れる空気 の流量を増やす必要がある.ターボプロップエンジンは,推力を排気ガスの 速度ではなくタービンの回転力によって作動するプロペラで空気を動かすこ とにより推力を得る.また,ターボファンエンジンは,コンプレッサの前に 口径の大きなファンを置き,タービン回転力で回転させ,エンジン内を通過 しない空気流を作ることで推力を増加させる.プロペラと異なるのはファン によって流れる空気流をエンジンの外側を覆ったダクト内に生じさせること である. 機体速度を増加するためには排出ガス速度を大きくし比推力を増加させれ ばいいが,比推力は機体速度が大きいと小さくなる.また,コンプレッサ, タービン,ファンは回転機械であり,回転数を増加させることにより流量や 流速が増加することになり,機体速度を増加させるためには高回転数が必要 になる.回転機械は不可避的に軸受けなどの損失が回転数の増加とともに増 加するので限界が存在する.一般に,機体マッハ数 4 付近まではターボジェ ットエンジンの作動が可能であるが,マッハ数約 5 以上(極超音速 (hypersonic))になると回転機械は使用できない.第 3 章で述べたように超音 速流では断面積収縮ノズルで圧縮され,拡大ノズルで膨張することを用いて, コンプレッサの代わりに超音速ディフューザー(diffuser),タービンの代わり に超音速エフューザー(effuse)またはノズル(nozzle)という単なる断面積変化 のある流路をおいて燃焼による化学的エネルギーを気体の運動エネルギーに 変換することができる.これがラムジェットエンジンと呼ばれるものである. 当然ながら初めから極超音速で運転することはできないので,ターボジェッ トなどによって,所定の機体速度に達させてから作動させる.ラムジェット (ram jet)は燃焼器では流れ速度が亜音速状態であり,亜音速流中で燃焼が起 きる.ただし,高速になればなるほど淀み点温度が増加するため燃焼器に流 入する空気が高温になるため燃焼効率が低下する.つまり,高温で空気中の 酸素が熱解離し,水素と反応する以前に酸素原子になることで反応前後で変 換されるべきエネルギーが減少し十分なエネルギーを気体に与えられない. そこで,燃焼器中の流速を亜音速でなく比較的低い超音速,すなわち,マッ ハ数が 2 から 3 程度にして温度上昇を抑え,燃焼に用いるのがスクラムジェ ットエンジン(scramjet engine)である.スクラムジェットエンジンは将来の宇 宙往還機(aerospace plane)用エンジンとして開発が進められているが,超音速 気流中での燃焼技術の発展が必要である. 11・2・7 ロケットエンジン(rocket engine) ロケットには,化学ロケット,電気ロケット,原子力ロケットがあるが,こ の章では化学的エネルギーを熱エネルギーに変換し,最終的に運動エネルギ ーに変換する化学ロケットについて簡単に述べる. 化学ロケットは内燃機関のひとつであり,燃料と酸化剤の燃焼によって作 動気体に熱エネルギーを与え,ノズルで膨張させることによって推力を発生 する.熱力学的サイクルとしては,燃焼過程(定圧)と膨張過程(断熱)か らなる.燃焼過程については燃料(推進剤(propellant))による差異がある. 15 16 第 11 章 機械エネルギーと熱エネルギーの変換 ロケットの場合,真空中でも作動する必要があるため,酸化剤として大気中 の酸素を利用することは考えず,推進剤中に酸素を有するか,酸素も燃料と して保有しなければならない.推進剤の状態で固体ロケット(solid rocket),液 体ロケット(liquid rocket),ハイブリッドロケット(hybrid rocket)の種類がある. 固体ロケットでは,固体推進剤としてコンポジット推薬(composite propellant)と呼ばれる固体の燃料と酸化剤を混合し高分子のバインダー(燃料粘結 剤)で固めたものを用いる.燃料はアルミニウムの粉末約 70%,酸化剤は過 塩素酸アンモニウム(ammonium perchlorate, AP)約 20%,バインダー10%程度 で構成され,モータケースでグレインに固められて挿入される.このような 燃料が一次元的に燃焼する際の固体面の退行速度すなわち線燃焼速度(linear burning velocity)は r = ap n (11.56) のように燃焼室内圧力のべき乗に比例する.この指数 n を圧力指数と呼び, 前述のコンポジット推薬では,0.2 から 0.4 の値をとる.固体面に平行な燃焼 ガスの流れ場がある場合は,その影響で退行速度が増加する侵食燃焼(erosive 図 11.9 LE-7A エンジン burning)となる. 液体ロケットでは,液体酸化剤と液体燃料を燃焼室に送り込んで混合,燃 焼させる.一液推進薬(monopropellant)と二液推進薬(bipropellant)があり,前 者にはヒドラジンのものと過酸化水素のものがある.これらは通常は安定な 液体で加熱や加圧によって容易に高温ガスを発生する.二液推進薬では酸化 剤としては液体酸素,四酸化二窒素(N 2O 4),液体フッ素,過酸化水素,燃料 は液体水素,ケロシン,メタン,ヒドラジンなどで,V2 エンジンではエタノ ール水溶液が用いられた.スペースシャトルや HII ロケットのエンジンは液 体酸素(LO2)と液体水素(LH2)を推進剤とするエンジンである.一般に,液体 ロケットエンジンの燃料供給方式にはガス押し式とターボポンプ式があるが, 大型のエンジンはほとんどターボポンプ式である.ガス押し式とは 2MPa 程 度の圧縮ガスによって液体燃料を押し出して燃焼器に噴出させるもので小型 のエンジン(日本の LE-3 など)で用いられる.ターボポンプ式では,液体 酸素と燃料をターボポンプで昇圧して燃焼室に送る.ターボポンプの駆動方 式にいくつかあり,大きく分けて,(1)液体酸素,液体燃料をそれぞれノズル や燃焼器の熱で膨張させ,高温のガスを作ってタービンを駆動するもの(エ キスパンダーサイクル(expander cycle))と,(2)ガス発生器,あるいはプリバ ーナーと呼ばれる小型の燃焼器で燃料と酸化剤を一部燃焼させ,その燃焼ガ スでタービンを駆動するものがある.また,その駆動ガスをそのまま廃棄す るか燃焼器で燃焼させるかでオープンサイクルとクローズドサイクルに分か れる.クローズドサイクルでプリバーナーを用いるものを二段燃焼サイクル (two-stage combustion cycle)と呼び,スペースシャトルの SSME,ロシアのエ ネルギアの RD-0120,日本の LE-7A はこれに当たる.このようなエンジンの 主燃焼室では,高圧の酸素(沸点 90.2K)と水素(沸点 20.3K)が液体と気体 の形で混合し燃焼し,10 から 20MPa の燃焼ガスを発生する.このような極 17 11・2 熱機関 限状態の燃焼については未解明な点も多い. ハイブリッドエンジンとは,固体燃料と液体酸化剤による燃焼で推力を得 るエンジンである.燃料としては PMMA(ポリメタルアクリレート,いわゆ るアクリル樹脂)やポリエチレンなど高分子化合物,酸化剤としては液体酸 素が用いられる.液体酸素をバルブで膨張させ,噴霧あるいは気体にして固 体燃料の表面を流すことによりいわゆる境界層型の拡散燃焼をさせる.燃焼 速度は気流の速度,推進薬先端からの距離などで決まる.固体ロケットや液 体ロケットに比べ比較的安全で安価にできることから燃焼形態を工夫して大 学などで教育目的も合わせて実験が行われている. 以上のようにまず燃料を燃焼させて高温高圧の燃焼ガスを燃焼室に形成し, それをノズルで膨張させるのがロケットエンジンとしてのサイクルである. 第 3 章で述べたようにノズル内を定常流れとし,比熱比 κ 一定の断熱変化を 仮定すると式(3.103)よりノズル入口(流速ゼロ,温度 T0 ,圧力 p 0 ),のど部 (流速が音速,温度 Tth ,圧力 pth )から出口(速度 we ,温度 Te ,圧力 p e ) までの膨張過程における温度,圧力は出口マッハ数を ⎛ κ −1 ⎞ ⎛ κ −1 ⎞ T0 = Tth ⎜1 + M e2 ⎟ ⎟ = Te ⎜1 + 2 2 ⎝ ⎠ ⎝ ⎠ κ ロケットエンジン M e として (11.57) κ ⎛ κ − 1 ⎞ κ −1 ⎛ κ − 1 2 ⎞ κ −1 p0 = pth ⎜1 + = pe ⎜1 + Me ⎟ ⎟ 2 2 ⎝ ⎠ ⎝ ⎠ (11.58) のような関係がある.ゆえに 2 T0 Me = κ − 1 Te κ −1 ⎫ ⎧ ⎪ ⎛ pe ⎞ κ ⎪ ⎟ ⎨1 − ⎜⎜ ⎬ ⎟ ⎪ ⎝ p0 ⎠ ⎪ ⎩ ⎭ (11.59) ゆえに we = κ −1 ⎫ ⎧ 2κRT0 ⎪ ⎛ p e ⎞ κ ⎪ ⎟ ⎨1 − ⎜ ⎬ κ − 1 ⎪ ⎜⎝ p 0 ⎟⎠ ⎪ ⎩ ⎭ (11.60) ,スロート部の密度を ノズル内の質量流量を m ρ th ,断面積を Ath ,音速(= 流速)を a th ,出口の密度を ρ e ,断面積を Ae とすれば,質量流束はどの位置 でも変化しないから,のど部で見積もると m = Ath − κ +1 p0 κ ⎛ κ + 1 ⎞ 2(κ −1) ⎜ ⎟ RT0 ⎝ 2 ⎠ (11.61) したがって,運動量による推力は ⎛ κ +1⎞ Fm = m we = Ath p0κ ⎜ ⎟ ⎝ 2 ⎠ − κ +1 2(κ −1) κ −1 ⎫ ⎧ 2 ⎪ ⎛ pe ⎞ κ ⎪ ⎜ ⎟ ⎨1 − ⎬ κ − 1 ⎪ ⎜⎝ p0 ⎟⎠ ⎪ ⎩ ⎭ 図 11.10 カムイ型ハイブリッド (11.62) 18 第 11 章 機械エネルギーと熱エネルギーの変換 厳密には,外気圧を pa とすると圧力差による推力 Fp = Ae ( pe − pa ) (11.63) も加え, ⎛ κ +1⎞ F = Fm + Fp = Ath p0κ ⎜ ⎟ ⎝ 2 ⎠ − κ +1 2(κ −1) κ −1 ⎫ ⎧ 2 ⎪ ⎛ pe ⎞ κ ⎪ ⎟ ⎨1 − ⎜ ⎬ + Ae ( pe − pa ) (11.64) κ − 1 ⎪ ⎜⎝ p0 ⎟⎠ ⎪ ⎩ ⎭ となり比推力は I sp κ −1 ⎫ κ +1 ⎧ 1 2κ RT0 ⎪ ⎛ pe ⎞ κ ⎪ Ae ( pe − pa ) ⎛ κ + 1 ⎞ 2(κ −1) = RT0 ⎜ ⎨1 − ⎜ ⎟ ⎬ + ⎟ g κ − 1 ⎪ ⎝ p0 ⎠ ⎪ Ath p0 κ g ⎝ 2 ⎠ ⎩ ⎭ (11.65) となる.ノズルの開口比は,3.6 節で求めたように κ +1 κ +1 Ae 1 ⎛ 2 ⎞ 2( κ −1 ) ⎛ κ − 1 2 ⎞ 2( κ −1 ) = Me ⎟ ⎜ ⎟ ⎜1 + Ath M e ⎝ κ + 1 ⎠ 2 ⎝ ⎠ (11.66) である.これらの関係式により外気圧と必要な推力を与えれば,燃焼室の圧 力 p 0 ,ノズルのど部の面積 Ath を決めることができる.たとえば,スペース シャトルメインエンジン(SSME)では,液体酸素,液体水素を用いる液体ロケ ットエンジンでノズル開口比 77.5,比推力 450s(真空中),燃焼圧 20.4MPa である. 図 11.11 ランキンサイクルの系統図 11・2・8 蒸気タービン(steam turbine) 火力発電所や原子力発電所では最終的に蒸気タービンで発電する場合が多い. これは作動流体を水及び水蒸気とする二相サイクルの熱機関で外燃機関に分 類される.図 11.11 に単純な蒸気サイクルの系統図を示す.このようなサイ クルをランキンサイクル(Rankine cycle)と呼ぶ.このサイクルの状態変化は (1) 断 熱圧縮;ポンプ(pump)により飽和水を圧縮し,圧縮水とする. (2) 定 圧加熱;圧縮水をボイラー(boiler)で加熱し飽和水,気液二相状態, 乾き飽和蒸気を経て,過熱蒸気とする. (3) 断 熱膨張;タービンで過熱蒸気を断熱的に膨張させ仕事をし,気液 二相状態まで冷却する. (4) 定 圧放熱;コンデンサーまたは凝縮器(condenser)で定圧的に放熱し, 飽和水の状態に戻る. 図 11.12 ランキンサイクルの Ts 線図 と記述される.作動流体が蒸気のためガスサイクルのような理想気体による 計算はできない.第 3 章で説明した蒸気表で温度,圧力からその状態の比エ ンタルピー,比エントロピー,比体積を求めて,その状態変化における加熱 量や仕事を求め,サイクルの熱効率や仕事を求める.このサイクルの Ts 線図 を図 11.12 に示す. ボイラーにより供給される熱量は, q 234 = h4 − h2 (11.67) タービンによりなされる工業仕事は l 45 = h5 − h4 (11.68) 19 11・3 冷凍機及びヒートポンプ ポンプを動かす工業仕事は l12 = h2 − h1 (11.69) したがって,このサイクルの熱効率は η= l 45 − l12 h5 − h4 − h2 + h1 = q 234 h4 − h2 (11.70) 蒸気表を使う計算で比エンタルピーを求める.たとえばタービンでは断熱膨 張とすると, s 4 = s 5 と膨張後の圧力 p 5 = p1 から状態 5 の諸量を求めて式 (11.68)から仕事が求められる.状態線図からも推定できるように,タービン 入口圧力が高く,出口圧力が低いほど効率は高い. 熱 効 率 向 上 の た め 廃 熱 を 再 生 し て 利 用 す る 再 生 サ イ ク ル (regenerative cycle)や再熱サイクル(reheat cycle)が用いられることが多い.また,ガスタービ ンの廃熱をボイラーの熱源に利用する複合サイクル(compound cycle)なども 実際の火力発電所では使われている. 1 1 ・3 冷 凍 機 及 び ヒ ー ト ポ ン プ (refrigerator and heat pump) 11・3・1 冷凍サイクルの種類(various types of refrigerator cycle) (3 ) 冷凍機及びヒートポンプは熱機関の逆サイクルを行う機関で原理的には機械 的エネルギーを熱エネルギーに変換する装置である.冷凍機とヒートポンプ は,冷熱を得るか,温熱を得るか目的が異なるだけでサイクルは共通であり, いわゆる冷凍サイクル(refrigerator cycle)を行っている.冷凍サイクルには大 きく分けて蒸気圧縮式(vapor compression type)と吸収式(absorption type)に分 類される.前者はアンモニア,二酸化炭素,フロン類などの冷媒を機械的エ ネルギーにより圧縮し,過熱蒸気の状態とし,その圧力で凝縮させて液体に 戻すことで放熱し,膨張させて元の圧力に戻してから熱を吸収するサイクル である.後者は,冷媒を圧縮するのではなく吸収剤(absorbent)に吸収させて 加熱することで高圧の蒸気を得るものである.したがって,吸収式は機械的 エネルギーを用いていないので厳密には機械的エネルギーを熱エネルギーに 変換する装置とは言えない.冷媒・吸収剤の組み合わせとしてはアンモニア・ 水,水・臭化リチウムなどがある. 蒸気圧縮式は通常のエアコンや冷蔵庫に使われ,吸収式は工業用や大規模 な空調に使われている.このほかにも航空機用の空調には空気を作動流体と する逆ブレイトンサイクルもある. 11・3・2 蒸気圧縮式冷凍サイクル(vapor compression refrigerator cycle) 図 11.13 にこのサイクルの系統図を示す.ランキンサイクルの逆サイクルで あり, (1) 断 熱圧縮;圧縮機で乾き飽和蒸気を圧縮し,過熱蒸気とする.(1−2) (2) 定 圧放熱;過熱蒸気を凝縮器に通し,周囲に放熱する.(2-3) (3) 等 エンタルピー膨張;膨張弁(expansion valve)で飽和液を膨張させ, 気液二相状態まで冷却する.(3-4) (4) 定 圧吸熱;蒸発器で蒸発させ,定圧的に吸熱し,乾き飽和蒸気の状 態に戻る.(4-1) のようになる.膨張弁とは,単なる縮流部であり,熱や仕事の交換はしない のでエンタルピーが保存する.図 11.14 は Ts 線図である. 図 11.13 蒸気圧縮サイクルの系統図 20 第 11 章 機械エネルギーと熱エネルギーの変換 凝縮器での放熱量は, q 23 = h2 − h3 (11.38) 膨張弁では h3 = h4 (11.39) 蒸発器での吸収熱量 q14 = h1 − h4 (11.40) 圧縮機の仕事は l12 = h2 − h1 (11.41) したがって,このサイクルの冷凍機としての成績係数は εR = q14 h1 − h4 = l12 h2 − h1 (11.42) ヒートポンプで使用する場合は εH = 冷媒の蒸気表ならびに p-h 線図によって求められる. condenser heater (11.43) とあらわされる.用いられるエンタルピーとその状態の圧力との関係はその Heat out Expansion valve q 23 h2 − h3 = l12 h2 − h1 regenerator 11・3・3 吸収式冷凍サイクル(absorption refrigerator cycle) heat exchanger absorber 蒸発器から吸入される冷媒(乾き飽和蒸気)を圧縮のかわりに吸収器で液体吸 evaporator 収剤に吸収させ,加熱することで過熱蒸気の冷媒を発生器で再生し,凝縮器 に吐き出すものである.冷媒として水(したがって,0℃以下では使えない), 吸収剤として臭化リチウムを用いる.液体である臭化リチウムは液ループで Heat in 図 11.15 単効用吸収冷凍サイクルの 模式図 循環させられる.発生器の加熱源としては,灯油や都市ガスによる直火(じ かび)や太陽熱,廃熱が利用されている.したがって,成績係数の分母は圧 縮機仕事ではなく加熱量となる.エンタルピーの計算には吸収剤の濃度を圧 力,温度の関数として与える必要がある. 成績係数を良くするため発生器を高温と低温にわけるものを二重効用吸収 冷凍サイクルといい,一つだけのものを単効用吸収冷凍サイクルと呼ぶ. 第 11 章 の 文 献 (1) 日本機械学会;機械工学便覧,応用システムγ4 内燃機関(2006) (2) 谷田・長島;ガスタービンエンジン,朝倉書店(2000) (3) 日本機械学会;機械工学便覧,応用システムγ3 熱機器(2005)
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