倫理教育と道徳教育 - 日本倫理道徳教育学会

倫理教育と道徳教育
桑原直己
筆者は「自分は倫理学者である」と認識しているが、道徳教育とも一定の関わりがあっ
た。最初に就職した三重大学教育学部では、
「社会科の中の哲学・倫理学」という位置づけ
のポストであったが、同時に「道徳教育の研究」の授業も担当した。そのためか、筑波大
学に赴任した後、日本倫理学会の「ワークショップ」で、倫理学者たちも道徳教育の内容
についてイデオロギー論争を離れて検討すべきではないかとの趣旨で提題した。
その結果、
当時北海道大学におられた坂井昭宏先生に誘われ、道徳教育について主題的に扱うワーク
ショップを共に企画するようになった。ある年のワークショップでは、提題者として尾田
幸雄先生をお招きした。尾田先生は道徳教育の世界での重鎮であるが、
「日本倫理学会で道
徳教育が取り上げられるようになったのか」と感慨深げに語っておられた。恥ずかしなが
ら、この時初めて筆者は日本倫理学会から日本道徳教育学会が分かれていった経緯を知っ
た次第である。
別稿「
「考える倫理」と「考える道徳」
」で詳述するとおり、かつて学会レベルで分かれ
てしまった倫理教育と道徳教育とは、現在「思考力の育成」という共通の課題のもとに新
しい段階を迎えつつある。そうした状況を踏まえ、このたび道徳教育の専門家である吉田
武男先生より、倫理教育と道徳教育とについて理論的に検討する共通の場としての新学会
を立ち上げることについてのご提案をいただいた。
現在、道徳教育をめぐっては、日本道徳教育学会の他、日本道徳基礎教育学会、日本道
徳教育方法学会などが存在する。他方、倫理教育をめぐっては、日本倫理学会の中に「倫
理教育部会」という新しい組織を立ち上げ、倫理教育の問題に対応する動きがあり、筆者
もこれに関与してゆくことが予想される。もとより、新学会はこれらすでに存在する学会
に対して屋上屋を重ねることを意図するものではない。まず、新学会が意図するのは倫理
教育と道徳教育とについて考える共通の場とすることである。また、実践面での実績の蓄
積を有する他学会とは異なった角度から問題に迫るという意味で、特に理論面での研究か
ら力を入れてゆきたい、とも考えている。
このような新学会であるが、関心・志ある多くの方々のご参加を歓迎し、また、念願す
る次第である。