講演概要 (1)多くのアルジェリアの友人から、日本をアルジェリアの経済発展のモデルにしたい と言われており、日本経済の発展についてお話しする機会をいただき感謝する。戦後の日 本の経済発展は、敗戦からの高度成長期、経済大国としての安定成長期、バブル崩壊と経 済低迷期の3つの時期に分けられる。2012年末からのアベノミクスによってデフレか らの脱却、景気回復のプロセスが始まった。 (2)戦後の高度成長の前、日本は「明治維新」により、近代化を成し遂げた。 「和魂洋才」 のもと、伝統的な文化や価値観を維持しつつ、積極的に西洋技術を導入し、繊維、鉄鋼、 造船等の工業を振興した。戦後は、1960年代に10年間で国民所得を26兆円に倍増 する池田内閣の「所得倍増計画」により、年率10.9%の成長率を記録し、同計画を1 967年に実現した。一億総中流と言われる中間層の存在と、国際社会に復帰し、軍事費 を抑えつつ、経済復興に専心できたこと、自由貿易の恩恵を受けたことが大きい。 (3)明治維新の官営の富岡製糸工場や八幡製鉄所とその民営化、戦後の傾斜生産方式と いった、 「官民一体の産業政策」が果たした役割が大きいが、一番の中心は民間企業であり、 トヨタの「カイゼン」に代表されるように、日本企業は、「人材育成とイノベーション」に よって、新たに技術や製品開発を行い、競争力を高めてきた。また、中小企業が日本経済 の基盤を形成している。 (4)高度成長の時代、大気汚染や水質汚濁によって産業公害を生み出すというマイナス 面も存在した。1974年の石油ショックを契機として、日本は世界最高のエネルギー効 率を達成し、資源のリサイクル等にも取り組んだ。アルジェリアの経済発展においては、 日本のマイナスの経験も生かし、環境と両立する技術を活用してもらいたい。 (5)日本は安倍政権の経済政策であるアベノミクスにより新たな段階に入っている。大 胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略という3本の矢により、 緩やかな景気回復が続いているが、これを持続可能なものとするには、新たな成長戦略に より、構造改革を進め、産業の競争力を高める必要がある。IOTやロボット、バイオ・ テクノロジーなどの先端技術産業の振興、農業の国際競争力の育成、観光振興、女性が輝 く社会作りなどが重要な柱になっている。日本が経済の活力を維持し、競争力を強化する ために各国との経済連携に力を注いでおり、既に15のFTA/EPA協定を締結し、本 年TPPに署名した。EUやアジア諸国との経済連携も交渉中であり、2018年にFT Aカバー率を80%にすることを目標としている。 (6)日・アルジェリア関係については、あまり知られていないが、1958年にFLN 極東事務所が東京に開設されるなど、独立前からの友好の歴史が存在する。1970年代、 80年代には、日本企業が石油、ガス関連プラントの建設に携わるなど、アルジェリアの 国造りに貢献してきた。現在、日本のアルジェリアにおけるプレゼンスは低下しているが、 日本企業の高い技術力や人材育成の文化により、アルジェリアの経済多角化に貢献できる 分野は多い。また、日本の伝統文化のみならず、ポップ・カルチャーに対する関心が高く、 多種多様な文化イベントを実施し、交流を深めていきたい。 (7)本年は東日本大震災から5年が経過し、被災地の復興が順調に進んでいることを説 明しようと考えていたが、今般熊本地震により多くの被害が生じた。アルジェリアをはじ め世界各国から寄せられた暖かいお見舞いや支援に感謝する。日本は「Build back better」 の理念の下、強靱な社会の構築に努めている。昨年3月に仙台において国連世界防災会議 を開催し、昨年11月には日本の提案により11月5日が「世界津波の日」となったが、 地震国であるアルジェリアをはじめ、世界各国と日本の防災の知見及び技術を共有してい きたい。 (8)1964年体操のモハメド・ヤマニ氏がアルジェリアから初めて参加した東京オリ ンピックは日本の戦後復興の象徴であった。2020年に再び東京でオリンピックが開催 されるが、アルジェリアの若い学生の皆さんには是非日本を訪問してもらい、日本経済の 進化や昔から変わらない日本文化を味わってほしい。
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