PDF版 - 東京都

別紙
諮問第961号
答
1
申
審査会の結論
「判決書」を一部開示とした決定は、妥当である。
2
審査請求の内容
(1)審査請求の趣旨
本件審査請求の趣旨は、東京都情報公開条例(平成 11 年東京都条例第5号。以下
「条例」という。)に基づき、審査請求人が行った平成 26 年○月○日付け東京地裁判
決書のうち「国家賠償請求訴訟、警視庁が証拠品のビデオテープを紛失した件。被告
東京都」の開示請求に対し、警視総監が平成 27 年4月 23 日付けで行った一部開示決
定について、その取消しを求めるというものである。
(2)審査請求の理由
審査請求書及び意見書における審査請求人の主張を要約すると、以下のとおりであ
る。
ア
審査請求書
(ア) 処分庁は、「判決書(東京地裁
損害賠償請求事件(○○暴動証拠品紛失のも
の))」(以下「本件対象公文書」という。)を一部開示したことにつき、条例7条
2号に該当すると述べる。
だが、条例7条2号ただし書イでは、
「法令等の規定により又は慣行として公に
され、又は公にすることが予定されている情報」、同号ただし書ハでは、「当該個
人が公務員等(国家公務員法(昭和 22 年法律第 120 号)第2条第1項に規定す
る国家公務員(略)及び職員、地方公務員法(昭和 25 年法律第 261 号)第2条
に規定する地方公務員(略))である場合において、当該情報がその職務の遂行に
係る情報であるときは、当該情報のうち、当該公務員等の職及び当該職務遂行の
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内容に係る部分」と規定している。
(イ)この上で、独立行政法人印刷局発行の「職員録」には、本件対象公文書を判決
した「○○裁判長」他が東京地方裁判所民事部で職務遂行を行っていることが掲
載されている。
また、本件対象公文書に係る警視庁の警部補以上の職員も同「職員録」に掲載
されている。
よって、いずれも条例7条2号ただし書イに該当し、非開示する理由がない。
審査請求人が以前別件で審査請求をなし、内閣府情報公開・個人情報保護審査
会で審議された事件では同様の判断がされている。
(ウ)本件対象公文書に関しては、○○暴動事件として「高等裁判所刑事判例集」に
登載され、また、インターネットの判例として、「東京地裁民事第○部
平成○
年(ワ)第○○号事件」として載っており、条例7条2号ただし書イ、ハに該当
することは明らか。もって、上記判例に基づき開示決定しても条例7条2号に該
当しない。
(エ)本件対象公文書は、国家賠償請求による「判決書」であり、同判決とは、憲法、
国家賠償法(昭和 22 年法律第 125 号)、民事訴訟法(平成8年法律第 109 号)等
により「公開の法廷で事件番号を付し公示して裁判されたもの」である。また、
同判決は、東京地方裁判所民事第○部の○○裁判長で判決されたことが多くの報
道機関によって報道されており、これからも条例7条2号ただし書イ、ハに該当
している。
(オ)一方、同訴訟を提訴した○○氏は、「無実の罪」であるとして、本件対象公文
書に関し、自身、家族、支援者、弁護人等が発行する「○○ニュース」や機関誌
「○○」及び○○氏自身の「絵画展」、
「カレンダー、CD 販売」、
「全証拠開示デモ
運動」、「100 万人署名運動」を広く公知の事実として展開しており、およそ条例
7条2号に該当するとは考え難い。
以上、他からも「本件対象公文書の一部開示決定以上に本件対象公文書の開示
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決定」がなされることは免れない。
イ
意見書
(ア)諮問庁の理由説明は「本件対象公文書は条例7条2号に該当し、一部開示決定
は妥当である」ということ。
これに対し、審査請求人の意見は、平成 26 年 12 月 15 日付け及び平成 27 年6
月 15 日付けで審査請求人が諮問庁へ提出した「異議申立書」及び「審査請求書」
内で各々述べていること。かつ、そこで述べた事実は、意見書同封の資料はむろ
ん、○○氏の刑事事件確定審である○○暴動事件も高等裁判所刑事判例集に登載
されている。
(イ)本件対象公文書は、調べてもらったところ、「○○」、「○○」、「○○」、「○○」
などの判例データベースに登載されており、それによると、民事第○部、○○裁
判長ら裁判官らの氏名が載り、平成○年(ワ)第○○号事件、国、東京都(各々
○万円、計○万円)の賠償判決」とも載っている。
(ウ)一方、○○氏が国家賠償提訴した本件対象公文書とは別の「判決書」について、
審査請求人は、行政機関の保有する情報公開に関する法律(平成 11 年法律第 42
号)により、開示請求を行った。これに対し、処分庁が本件対象公文書と同様の
一部開示決定を行ったため、審査請求人は、原処分の取消しを求めて審査請求を
申し立てた。諮問庁は、内閣府情報公開・個人情報保護審査会への諮問を申し立
て、補充理由説明書において、「原処分時に公開されていなかったが、現時点に
おいて最高裁のホームページ上等で公開されている部分は開示が相当」とした。
よって、これに基づき開示決定の答申がされるはずであるので、これを東京都情
報公開審査会も直視せねばならない。
(エ)以上からも、インターネット上やホームページ上で裁判例として登載又は公開
されている部分及び新聞等で報道等された部分は条例7条2号ただし書イ、ハに
該当するは明白。もって、前記を東京都情報公開審査会が確認した上で、これら
部分を開示決定するよう速やかに答申することを求める。
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3
審査請求書に対する実施機関の説明要旨
理由説明書及び口頭による説明における実施機関の主張を要約すると、以下のとおり
である。
(1)事件番号、年月日のうち非開示とした部分、裁判所の担当部、裁判官及び裁判所書
記官の氏名
個人に関する情報で、他の情報と照合することにより、特定の個人を識別すること
ができるものであるため、条例7条2号に該当する。
(2)個人の氏名(裁判官、裁判所書記官の氏名を除く)及び原告の住所
個人に関する情報で、特定の個人を識別することができるものであるため、条例7
条2号に該当する。
4
審査会の判断
(1)審議の経過
審査会は、本件審査請求について、以下のように審議した。
年
月
日
審
議
経
過
平成27年10月20日
諮問
平成27年11月27日
新規概要説明(第137回第三部会)
平成28年
1月18日
実施機関から理由説明書収受
平成28年
1月22日
実施機関から説明聴取(第139回第三部会)
平成28年
2月
審査請求人から意見書収受
平成28年
2月19日
8日
審議(第140回第三部会)
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平成28年
4月28日
審議(第141回第三部会)
(2)審査会の判断
審査会は、審査請求の対象となった公文書並びに実施機関及び審査請求人の主張を
具体的に検討した結果、以下のように判断する。
ア
本件対象公文書について
本件審査請求に係る開示請求は、平成 26 年○月○日付け東京地裁判決書のうち
「国家賠償請求訴訟、警視庁が証拠品のビデオテープを紛失した件。被告東京都」
の開示を求めるもの(以下「本件開示請求」という。)である。
実施機関は、本件開示請求に対して本件対象公文書を特定し、事件番号、年月日
の一部、裁判所の担当部、裁判官、裁判所書記官の氏名(以下「本件非開示情報1」
という。)及び裁判官、裁判所書記官の氏名を除く個人の氏名、原告の住所(以下
「本件非開示情報2」という。)を条例7条2号に該当するとして、当該部分を非
開示とする一部開示決定を行った。
イ
条例の定めについて
条例7条2号本文は、
「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情
報を除く。)で特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合すること
により、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の
個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害
するおそれがあるもの」を非開示情報として規定している。また、同号ただし書に
おいて、「イ 法令等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予
定されている情報」、「ロ 人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にす
ることが必要であると認められる情報」、「ハ 当該個人が公務員等…である場合に
おいて、当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは、当該情報のうち、当
該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」のいずれかに該当する情報に
ついては、同号本文に該当するものであっても開示しなければならない旨規定して
いる。
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ウ
本件非開示情報の非開示妥当性について
(ア)条例7条2号本文該当性
審査会が本件非開示情報1及び2について見分したところ、本件非開示情報1
を公にすることにより、本件対象公文書に係る訴訟(以下「本件訴訟」という。)
が特定され、民事訴訟法(平成8年法律第 109 号)91 条1項に基づき、受訴裁判
所にある訴訟記録を閲覧することが可能となり、その結果、本件訴訟の原告その
他関係者の氏名等といった個人情報が明らかになるものと解され、他の情報と照
合することにより、特定の個人を識別することができるものと認められる。
また、本件非開示情報2は、個人の氏名及び住所であり、個人に関する情報で
特定の個人を識別することができるものと認められる。
これらのことから、本件非開示情報1及び2は、いずれも条例7条2号本文に
該当する。
(イ)条例7条2号ただし書該当性
審査請求人は、審査請求書及び意見書において、各種資料を提示し、本件非開
示情報1及び2が条例7条2号ただし書に該当する旨主張するので、以下、審査
請求人の各主張と本件非開示情報 1 及び2の同号ただし書該当性について検討す
る。
第一に、審査請求人は、独立行政法人国立印刷局発行の「職員録」に裁判長他
の氏名が掲載されているので、本件非開示情報1のうち裁判官等の氏名が条例7
条2号ただし書イに該当する旨主張する。
審査会が確認したところ、
「職員録」には、東京地方裁判所の判事、判事補、書
記官等として各職員の氏名が記載されており、刊行物として一般に公にされてい
るものと認められる。しかし、本件非開示情報1を非開示とする目的は、訴訟記
録と照合することにより識別される本件訴訟に関係する特定の個人の権利利益の
保護であって、裁判官や裁判所書記官に係るものではないので、審査請求人の当
該主張は採用できない。
なお、審査請求人は、
「職員録」には警視庁の警部補以上の職員も掲載されてい
ると主張するが、本件非開示情報1及び2の中に警察職員の氏名は含まれていな
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いので、この審査請求人の主張は失当である。
第二に、審査請求人は、本件対象公文書に関係する判決が高等裁判所判例集に
掲載されているほか、本件対象公文書がインターネット上の複数の判例データベ
ースに掲載されているので、本件非開示情報1及び2が条例7条2号ただし書イ
及びハに該当する旨主張する。
審査会が確認したところ、高等裁判所判例集には、本件訴訟の原告に関連する
刑事事件についての東京高等裁判所の判決が掲載されているが、民事訴訟である
本件対象公文書とは内容が異なるものであり、これをもって本件非開示情報1及
び2が公にされているものとは認められない。
また、判例データベースに本件対象公文書が掲載されているという主張につい
ては、判例データベースに掲載される判決が、全国の裁判所に係る膨大な数の判
決の中から掲載者において適当と認めるものを選択し掲載しているにすぎないの
で、一部判例データベースに判決が掲載されていたとしても、これをもって判決
書一般が慣行として公にされ、又は公にすることが予定されているということは
できない。
なお、審査会が調査したところ、一部の会員制判例データベースにおいて、本
件訴訟に係る判決が掲載されていることが認められたが、そこで事件番号等が記
載されていたとしても、原告等の個人名は伏せて公表されるなど、データベース
掲載に当たっては、個人の権利利益が侵害されることがないように相当と認めら
れる措置が執られており、本件非開示情報1及び2についても公にされているも
のとは認められなかった。
第三に、審査請求人は、本件対象公文書は、公開の法廷で事件番号を付し、公
示して裁判されたものであるので、本件非開示情報1及び2は条例7条2号ただ
し書イ及びハに該当する旨主張する。
確かに、憲法 82 条1項に基づき裁判は公開が原則とされており、また、裁判
所では、開廷表等によりその日に審理される事件の法廷番号、事件番号、事件名、
当事者名等を確認することができる。しかし、これらは裁判の公正と司法権に対
する国民の信頼の確保といった趣旨に基づき、受訴裁判所の具体的判断の下に実
施されているものであり、その手続や目的の限度において訴訟関係者個人に関す
る情報が明らかにされることがあるとしても、条例に基づく公文書開示制度とは
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趣旨、目的を異にするものであるので、このことをもって、判決書に記載されて
いる個人に関する情報が、条例に基づく情報公開の手続においても公にされるべ
きものとは認められない。
第四に、審査請求人は、本件対象公文書について、多くの報道機関によって報
道されている旨主張する。
審査会が確認をしたところ、少なくとも新聞一紙が本件訴訟について報道して
いることが認められたが、実施機関の説明によると、実施機関が本件訴訟につい
ての広報をした事実は無いとのことであり、当該新聞社が、独自の取材という個
別的な事情に基づいて報道したにすぎないものと推認されることから、この事実
をもって、本件非開示情報1及び2が公にされているものとは認められない。
その他の審査請求人の主張は、審査会の判断を左右するものではない。
以上のことから、本件非開示情報1及び2は条例7条2号本文に該当し、法令
等の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情
報であるとは認められず、同号ただし書イに該当しない。また、その内容及び性
質から、同号ただし書ロ及びハにも該当せず、非開示が妥当である。
よって、「1
審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
久保内
卓亞、鴨木
房子、木村
光江、寺田
- 8 -
麻佑