外航海運に係る独占禁止法適用除外制度に関する

平成 28 年 6 月 14 日
公益財団法人 日本海事センター
外航海運に係る独占禁止法適用除外制度に関する
海運経済問題委員会報告書(骨子)
1.我が国の外航海運に係る独占禁止法適用除外制度の概要
船社間協定の内容は、統一運賃の設定を行う海運同盟から、非拘束的な運賃ガイドライン設定等を
行う航路安定化協定、更にはスペースや配船の調整を行うコンソーシアムへと軸足がシフトしている。
2.米国及び EU における競争法適用除外制度の変遷
米国と EU は、統一運賃の適用という従来の同盟体制から船社・荷主間の個別かつ自由な運賃交
渉・締結を許容する体制へと規制緩和が進められたという点では共通の動きをしていたといえる。
3.欧州理事会規則 4056/86 廃止の影響
米国連邦海事委員会(FMC)による欧州理事会規則 4056/86 廃止の影響分析によれば、同規則廃
止後、EU 発着航路及び米国発着航路の運賃水準に大きな変化は生じていないとされる一方、EU 発着
航路では運賃変動が拡大したとされる。対象期間を拡げて同様の分析を行ったところ、同規則廃止が
運賃水準及び運賃変動に与えた影響について同様の結論が得られたため、EU 規則 4056/86 廃止に
より、運賃水準の低下等の効果は得られておらず、むしろ、運賃等の不安定化が生じたと考えられる。
4.諸外国の競争法適用除外制度の動向
2008 年の欧州理事会規則 4056/86 廃止の後も、EU の動きに追随する国は見られず、競争法適用
除外制度は今なお世界で広く維持されている。
5.船社間協定と独占禁止法適用除外制度に対する荷主及び船社の考え方
国内の荷主及び船社の双方とも、独占禁止法適用除外制度は、荷主利益や日本経済に負の影響を
及ぼすものではなく、むしろ、安定的かつ効率的な輸送サービスを維持する観点から、今後も同制度を
維持することが適切との考えに立っている。
6.結論
(1)船社間協定が外航海運に果たす機能
コンソーシアムは、配船やスペースの調整を通じ、輸送時間の短縮化や広範囲かつ高頻度な定期輸
送サービスの提供を可能にする。同盟タリフは、荷量が少ない航路での適用により、荷主利益を不当に
害さない適正な水準の運賃とサービス提供の維持を両立させる。運賃ガイドラインは、競争が行われる
中でサービス安定化が確保できる運賃水準を示すベンチマークとして機能し、運賃安定化に寄与する。
(2)独占禁止法適用除外制度の果たす役割
予め船社間協定が独占禁止法に抵触しないことを国土交通大臣への届出等により確保できる仕組
みとなっていることが、船社にとっては法的リスクを未然に排除した上でサービスを提供できる点、荷主
にとってはコンプライアンスを重視する船社から安定的かつ効率的なサービスを受けられる点で有用で
ある。
(3)米国及びEUを始めとする諸外国の動きからの考察
欧州理事会規則 4056/86 廃止後、競争促進による運賃下落は生じておらず、一方で、運賃等の不安
定化が生じた。さらに、諸外国においても、同規則廃止以降、競争法適用除外制度を廃止する等の動
きは出てきていない。国際的な法制度の整合性確保という観点からも、安定的な国際海上輸送サービ
スを維持する上で、我が国のみが先行して適用除外制度の見直しを行うことは適切とは考えられない。
(4)今後の船社間協定に対する独占禁止法適用除外制度のあり方について
これらを踏まえれば、現状においては、我が国における外航海運に係る独占禁止法適用除外制度は
今後も維持することが適切であると判断される。なお、今後、外航海運を取り巻く環境の変化により、諸
外国で制度を見直す動きが支配的となった際は、我が国も制度見直しの検討を行うことが必要となる。