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行政書士 全国公開完全模試【解説】
問題 8
行政法
行政立法
正解 3
【学習の指針】
行政立法については、法律による行政の原則との関係が問題となってくる。行政機関は統治
組織の一部であることから立法が可能であるが、行政による専断を防止するため「法律によ
る行政」の原則が働いている。本問に挙げられている内容はすべて基本かつ重要なものなの
で、理論構成をしっかり押さえておく必要がある。
1誤 り。法律が政令に委任しているにもかかわらず、当該政令がさらに一部の事項について
省令に再委任することは許されるかという問題がある。確かに政令と省令では、制
定する機関も制定方法も異なるので、安易に再委任を認めるべきではない。しかし、
法律が一切の再委任を禁じているのではなく、基本的事項については政令で定める
べきであるが、そうでない軽微な事項についての再委任を禁ずる趣旨ではないと解
されるときは、そのような軽微な事項についての再委任を違法とする必要はない。
したがって、本記述は誤っている。
2誤 り。国による法規命令は、政令(憲法 73 条 6 号、内閣法 11 条)、内閣府令(内閣府設
置法 7 条 3 項)、省令(国家行政組織法 12 条 1 項)、委員会及び庁の長官が定め
る外局規則(同法 13 条 1 項、内閣府設置法 58 条 4 項等)、会計検査院規則(会計
検査院法 38 条)、人事院規則(国家公務員法 16 条 1 項)の形式を採るのが通例で
あり、授権法律において、委任命令の形式についても指定することが多い。しかし、
特に法形式を指定していない場合もある。したがって、本記述は誤っている。
3正しい。最判平 2.2.1。本記述では、旧銃砲刀剣類登録規則(以下「旧規則」という。)4
条 2 項が、旧銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)の委任の趣旨に
反しないかが問題となる。この点、サーベルを有する者が、サーベルは例外的に所
持が許される刀剣であると主張して、旧銃刀法 14 条 2 項の登録を申請したところ、
申請拒否処分を受けたので、その取消訴訟を提起した事案において、判例は、旧規
則 4 条 2 項は旧銃刀法「14 条 1 項の趣旨に沿う合理性を有する鑑定基準を定めた
ものというべきであるから、これをもって法の委任の趣旨を逸脱する無効のものと
いうことはできない」としている。その理由として、判例は、旧銃刀法 14 条 1 項
による登録を受けた刀剣類が、旧銃刀法 3 条 1 項 6 号により、刀剣類の同条本文に
よる所持禁止の除外対象とされている趣旨は、「刀剣類には美術品として文化財的
価値を有するものがあるから、このような刀剣類について登録の途を開くことに
よって所持を許し、文化財として保存活用を図ることは、文化財保護の観点からみ
て有益であり、また、このような美術品として文化財的価値を有する刀剣類に限っ
て所持を許しても危害の予防上重大な支障が生ずるものではない」という点にあり、
この趣旨を勘案すると、「いかなる刀剣類が美術品として価値があり、その登録を
認めるべきかを決する場合にも、その刀剣類が我が国において有する文化財的価値
に対する考慮を欠かすことはできないものというべきであ」り、旧規則 4 条 2 項は、
旧銃刀法「14 条 1 項の趣旨に沿う合理性を有する鑑定基準を定めた」といえるこ
とを挙げている。したがって、本記述は正しい。
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行政書士 全国公開完全模試【解説】
■重要論点整理ノート
委任立法の限界が問題になった事案についてまとめたので,各自参考にして欲しい。
授権法律の合憲性 の問題
人事院規則への委任
(最判昭33.5.1)
酒税法違反被告事件
(最大判昭33.7.9)
争 点
国家公務員法102条1項が,公務員
に対し制限する政治的行為の具体的内
容をほとんど指示することなく,人事
院規則にその定めを委ねたことが白紙
委任ではないかが争点
当時の酒税法65条1号が規定してい
る処罰法規の実質的内容を税務署長の
指定に委ねた同法施行規則61条9号
は犯罪構成要件の再委任であって,罪
刑法定主義に反するのではないかが争
点
結 論
判決は特に理由を付さず,規則は法律
により委任された範囲を逸脱しないと
した。
酒税法65条が罰則規定であること,
同54条はその罪となるべき事実の前
提要件である帳簿の記載義務を規定し
ているとした上で,同54条は,その
義務の内容の一部たる記載事項の詳細
を命令の定めるところに一任するにす
ぎないのであって,憲法73条6号本
文及び但書の規定に反しないとした。
同法施行令16条4号は,旧所有者へ
の売払い農地の範囲を過度に限定して
おり,法の委任の範囲を超え無効であ
るとした。
委任立法の適法性 の問題
農地法施行令
当時の農地法80条は農林大臣が「自
(最大判昭46.1.20) 作農の創設又は土地の農業上の利用の
増進の目的に供しないことを相当と認
めたとき」には,国が買収した農地を
旧所有者等に売り払わなければならな
い旨を定めていた。同法施行令16条
4号が,売払いができる場合を「公用,
公共用又は国民生活の安定上必要な施
設の用に供する緊急の必要があり,且
つ,その用に供されることが確実な土
地等」に限定しているのは,委任の範
囲を超えないかが争点
銃砲刀剣類登録規則 当時の銃砲刀剣類所持等取締法14条 授権した法律が美術品としての価値判
(最判平2.2.1)
5項は「美術品として価値のある刀剣 断を専門家の判断に委ねる趣旨であっ
類」等の登録の方法や登録のための鑑 たとして,登録規則制定者の判断を尊
定の基準等は文部省令で定める旨を規 重し,行政機関の専門技術的裁量を理
定し,これを受けて制定された銃砲刀 由に規則を適法とした。
剣類登録規則4条2項は,鑑定の対象
から外国刀を除外していたが,このよ
うな限定は委任の趣旨を逸脱しないか
が争点
旧監獄法施行規則
14歳未満の者の在監者との接見を原 旧監獄法45条は,規則120条の趣
(最判平3.7.9)
則禁止した旧監獄法施行規則120条 旨が幼年者への心情の保護にあること
(及び124条)は,旧監獄法の容認 は肯定しながらも,被勾留者と外部の
する接見の自由を制限するものであり, 者との接見は原則的にこれを許すとの
接見の立会等の制限は命令で定めると 前提に立って,法50条は,面会の態
した旧監獄法50条の委任の範囲を超 様についてのみ必要な制限をすること
え,無効ではないかが争点
を委任しているのであり,規則120
条(及び124条)は,面会の態様に
関する規定ではなく,法50条の委任
の範囲を超え無効とした。
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委任立法の適法性 の問題
争 点
結 論
児童扶養手当法施行 当時の児童扶養手当法4条1項は同手 法4条1項5号の委任の趣旨の解釈に
令
当の支給対象児童を定め,その5号は, ついて,同号が父による現実の扶養を
(最判平14.1.31)
「その他前各号に準ずる状態にある児 期待できない児童について定めること
童で政令で定めるもの」としていた。 を政令に委任していると解し,父の認
この委任を受けた児童扶養手当法施行 知があるだけでは,なお父による現実
令1条の2は,第3号で,母が婚姻に の扶養を期待できない等として,括弧
よらず懐胎・出産した婚姻外懐胎児童 書は法の目的・趣旨・委任の趣旨に反
を対象児童と定め,ただし,父の認知 し,違法無効とした。
がある場合には対象児童から除外する
としていた(3号括弧書)ので,本件
括弧書が法4条1項5号の委任の範囲
を超え,無効ではないかが争点
地方自治法施行令
当時,地方自治法によれば,議員の解 地方自治法85条1項は,専ら「解職
(最大判平21.11.18) 職に関する直接請求の制度は,
「解職の の投票」に関する規定であり,これに
請求」と「解職の投票」とから構成さ 基づき政令で定めることができるのも
れるところ,地方自治法施行令108 その範囲に限られるものであって,
「解
条2項,109条,113条及び11 職の請求」についてまで政令で規定す
5条は,普通地方公共団体の議員の解 ることを許容するものということはで
職投票に公職選挙法の規定を読み替え きない。地方自治法施行令108条2
て準用し,原則として公務員は解職請 項,113条及び115条の規定は,
求代表者となることができないとされ 地方自治法85条1項に基づく政令の
ている。上記地方自治法施行令の規定 定めとして許される範囲を超えたもの
は,それが「解職の請求」手続に適用 であって,その資格制限が請求手続に
される限りで,地自法85条1項に基 まで及ぼされる限りで無効とした。
づく規定として許される範囲を超え,
その限りで違法無効となるのではない
かが争点
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