Page 1 名古屋芸術大学研究紀要第34巻 343~360頁 (2013) 音楽教育

名古屋芸術大学研究紀要第 34巻
343∼ 360頁
音楽教育 における PDCAサ イクル 活用 の視点 と可能性
一実践仮説 の具体化 を目指 して一
(2013)
(2/2)
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(音 楽学部)
◆ はじめに :本 稿の課題
『名古屋芸術大学研究紀要』第 33巻 (2012)所 収〕 では、PDCAサ イクル活用
前稿 〔
の意義 と視点 ・実践仮説を「音楽科の経営指針J「 教材分析 ・授業研究の方法」
「鑑賞指導
の新構想」「指導計画の改善」 の 4点 に焦点化 した。これを受けて本稿では,前 稿 の考察
による仮説発想 を基盤 として、我が国の音楽教育における PDCAサ イクル活用 の実践的
可能性をこの 4視 点か ら具体的に解明することを課題 とす る。
1.音 楽科経営の条件 と指針
:デ ミングの教育論 か らの示唆
(1)音 楽科経営 とはなにか
音楽科教育 の 中心部 に位置す る ものは「音楽科経営」 の働 きである。「経営 Jと い うこ
とばの本来 の意味が 「 目的や方針 を立てて組織 を運営す ることJ([大 辞林』)で あるとす
れば、「音楽科経営 とは,各 学校 の教育 目標 に沿 って教科活動 と孝
史科外活動 の両面 にわた
る音楽科 の指導方針 を立て、その実現 に向けて音楽指導 に必要 な条件 を整備 しなが ら、学
習指導 の継続的な改善 ・充実 を図ることである」 と定義す る ことがで きよう。
音楽科経営 の人的な条件整備 としては、児童生徒 ・教師 (小 学校 では特 に音楽専 科教員
と学級担任 との 関 わ り)。 学校管理者 ・保護者 をは じめ とす る学校 関係者が、互 い に信頼
関係 をもって音楽教 育 を実践 す ることので きる環境 を築 くことが中心 となるだろ う。物的
な条件整備 としては、楽器 をは じめ とす る教 材教具 の充実や、音楽 の諸活動 に伴 うさまざ
まな財政的要請へ の 的確 な姑応が含 まれる。 これ らの条件整備の向か う方向は、 ともすれ
ば学校 の名声 を高めた り,音 楽教 師の力量 を対外的に誇示 した りす ることに傾斜 しがちで
あるが、音楽科の存在理由はその よ うな低 レベ ルの価値 をはるかに越 えた ところにある D。
以上の ような音楽科経営 の概念 と位置付 け、音楽科 の存在理由 を踏 まえて、音楽科教育
の今 日的課題 に応 える PDCAサ イクル活用 の視点 を展望す るな らば、前稿 で取 り上 げた
デ ミングの PDSAサ イクル論 の深層部 に位置す る教育論 (教 育信条 )こ そ、 これか らの
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名古屋芸術大学研究紀要第 34巻 (2013)
音楽指導 を支 える音楽科の「経営指針の改善」の核心 部に位置付 け られるのではないか。
デ ミングの著作 (1994)T力 を並 夕 Eε ο%ο %ん sを 通読す る と、彼 が教 育 に対す る鋭 い課
題意識 と課題解決へ の鮮明なヴィジ ョンを もっていることが うかがえる。 と りわけ第 6章
「人び とのマネジメン トJで は、「競争原理」 を中心 に据えた学校教育 ・学校経営 の現状 に
対 して鋭 い批判 を投 げかけてお り、デ ミングの教育思想の根底 には、文面 として明確 に表
示 されてはい ないが、「共有原理 Jを 基盤 とした学校教育の変革 とい う課題意識が全書 に
づいてい ることは明 らかである。
脈 々と泊、
(2)競 争原理 の否定
1970∼ 80年 のアメリカでは、貿易不均衡 による米国経済 の危機 を克服 し,高 度技術革新
の時代 に対応す る新 たな教 育 の戦略 ・方略策定 の一環 として,全 米教育協会 は新孝
史育指針
を打 ち出 した。 ここには、それまでの学問中心 カ リキ ュ ラムか ら人間中心 カ リキ ュ ラムヘ
の移行 を促進 し、人間性 の 回復 ,将 来 の生 活 との 関連、全人教育 などを通 して米 国社会 の
経済的繁栄 に貢献す る人 間を育 てるとい うね らいが顕示 されてい る 〔
小林恵 (1999)p239〕 。
この点に関 して、デ ミングは「学校 の生徒、教師、教育委員会、評議委員会、保 護者 など
は、それぞれの 目的 を達成 す るために別 々に務め を呆たすのではな く、 これ らのグルー プ
はひ とつ のシステムとなるべ きである」 (原 書 p62)と 論 じて い る。
ここで デ ミングが用 い て い る「 システム」 とい う言葉 は、 品質管理 にお い て PDSAサ
イクルの全過程 にかかわる人 々の「経営 システム」 の機能 を学校教 育 に援用 した ものであ
る。では、 こ うしたシステムとしての学校 で学 ぶ子 どもた ちの姿 は一体 どうあるべ きなの
か。 この学校教育 の方法論 に関わるデ ミングの発想 には、我が 国の学習指導 の改善 にも通
じる柔軟性 と説得力が認め られ よう。
われわれの学校 では、だれ もが持 って生 まれた学びへ の憧れ を保護 し育成 しなければ
な らない。学びの よるこびは、学 ばされることよ りも自ら学 ぶ ことによって、はるか
に大 きな もの となる。 同様 に仕事の よろこびは、結果や製品 よ りも、 システムを活用
する上 でだれ もがな し得る貢献 によって もた らされるのである (原 書 p145)。
ここには、学習指導 における子 どもと教師 の 関わ りが鮮明に描かれてい る。教師 の一 方
的な「指導」 よ りも子 どもの主体的な「学習」 を重視 す る授業観、
「結果」 よ りも「過程」
を尊重する評価観、だれ もが分かち合 えるような「学 びの よろこび」 を追究 しようとす る
目標観― これ らは今 日われわれの音楽指導 に求め られてい る課題 に通 じる ものではない か。
グレー ド制に対す るデ ミングの反発 は強烈 である。 グ レー ド制 とは、アメリカで広 く行
われて きた相対評価 (パ ーセ ンテ ー ジによる A・ BoC・ Dの 学力 ・成績 の評定方式)と
それに基 づ く妃童 ・生徒 。学生のランク付 けを指 して い る。我が国では、平成元 年 の第 6
次学習指導要領の告示 に伴 って「新 しい学力観」が提唱 され、それを学習評価 に反映 させ
た平成 2年 の指導要録 の改訂 を機 に、教育行政の主導 による相対 評価か ら絶対評価 へ の移
行がかな リスムーズ に行 われた ところで あるが、時 をほぼ 同 じくして 1994年 の 時点 で、
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音楽教育における PDCAサ イクル活用の視点 と可能性
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デ ミングはグレー ド制について以下の よ うな的 を射 た指摘 を してい る。
グレー ド制は単 にだれか (す なわち教師)の 主観的尺度に よって生徒 の学力 を査 定 し
た ものに過 ぎない。 この評定尺度 にどんな意味があるとい うのか。 この尺度で学力が
高 い と判定 された として も、果た してその尺度で生徒が将来企 業 ・行政 ・教育 の分野
で、 あるいは教師 として成功する と予言 で きるのか。何 かほかの尺度 を使 ったほ うが
よ りよい予言が で きるか もしれない。指定 された尺度ではグレー ドの低 い生徒 であっ
て も,将 来 は、高 い グレー ドにい た生 徒 よ りもベ ター な仕事 を成 し遂げるか もしれな
いの だ (原 書 p.146)。
(中
略)グ レー ド付 け ・ ラ ンク付 けの効果 は一体何 か。その答
えは, トップ ・グレー ドや トップ・ ラ ンクに入れない人 々の恥辱 (humiliation)で あ
る。 そ して、 この 恥 辱 の 効 果 は、 そ う した 個 人 に も た ら さ れ る 意 気 喪 失 感
(demoralization)で ある。 この制度 の もとでは、 トップ・ グ レー ドや トップ ・ ラ ン
クを受けた人びとで さえ、そ うなって しまうのだ (原 書 p148)。
これは、生涯 を経営学 ・統計学分野 の「品質管理」 とい う領域 で第 1線 の活躍 を して き
たデ ミングの まさに面 目躍如たる論述であ り、け だ し、経済 ・行政 ・教育 にかかわる人び
とに対する経営 マ ネジメン トの本質 を突 い た明察 ・名言 である と言 えよう。
こうした
「競争原理」の否定 は、
音楽教育の分野で もすでに 1984年 の時点でテイ トとハ ッ
クの社会,と 、
理学的考察 によって明確 に表明されている 〔
Tait and Haack(1984)Chapユ 、
千成 ・竹内 ・山田訳
(1991)〕
。彼 らは、
第 1章 〕
「人間」「音楽J「 教育」 の 3営 為 を根源
にお い て相 互 に結 び付 けてい る ものは、
「感受」 (feeling)・ 「思考」 (thinking)。 「共有」
(sharing)と い う人間の 3行 為 であ り、 これらの層構造的連関の中で 8行 為 (感 受・思考・
共有)を バ ランスよ く追究することによって、音楽教育の人間的 ・音楽的 ・教育的価値が
実現される, とい う趣 旨を述べ ている。
以上のような教育 における「競争原理」か ら「共有原理」へ のパ ラダイム転換 は、まさ
に今 日の、そ して これか らの 日本の音楽教育に求め られている重要世
果題であ り、第 8大 学
。
・
・
・
・
習指導要領 音楽の理念 目標 内容 計画 方法 と学校現場における授業実践 とを結 び
付ける媒介的存在 として、音楽科の「経営指針」の中核 に位置づ けられるべ き発想である。
(3)共 有原理に立 った音楽科 の経営指針
以上の考察 を通 して、デ ミングの提唱 した PDSAサ イクルの コ ンセプ トは、われわれ
の音楽科経営 の改善指針 として生 きて働 く可能性 をもつ ことが 明 らか となった。そ こで、
日本の教育現場 における音 楽担当教師の授業実践 の指針 とす るために,デ ミングが著書
T力 ιttω
βじ
ο%ο %ん sの 第 6章 で提唱 した「 ヒューマ ン・マ ネジメ ン ト」の 14指 針 〔
Deming
を音楽科経営 の観点か ら取捨選択 し、援用的に解釈 した上で順序 を入
れ替えて、デ ミングに学ぶ音楽科経営 の条件 ・指針 として整理すれば、次頁の表 1に 示 し
(1994)pp 143-146〕
た 4条 件、H指 針にまとめ られよう。
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表1
共有原理 に立 った音楽科の経営指針
A音 楽教育の営みは,そ の 目的・目標 の達成に向けて協働的に機能 し,相 互に依存 し合 う構成要素 (子
前
ども,教 師, さまざまな学校関係者)の 結合組織 (ネ ッ トワー ク)と して成 り立ってお り, ひと
つの「 マネジメン ト・システム」 (管 理 ・経営の運用組織)と してとらえることがで きる。
提
B音 楽教育の実践を支える根本理念は,選 別と差別を基盤 とした「競争原理Jに 求めるのではな く
,
条
協力 と協働を基盤 とした「共有原理」に求めるべ きである。
件
C音 楽の学習指導 は,学 習内容に したがって,教 師の「指導」 を中心 とする活動 と子 どもたちの「学
習Jを 中心 とする活動 とをバ ランスよく織 り込んで展開 してい く必要がある。
D音 楽指導の設計 と改善は,計 画・実行 ・評価 ・改善の 4段 階の環状径路 をスパ イラルに統合 し積
み上げてい くPDCAサ イクルの柔軟な適用によって効果的に成 し遂げられる。
1
教師はシステ ム と しての音楽授業の意味 をよ く理解 し,そ れ を子 どもたちに伝 える。その上
で,授 業 の 目的 ・ 目標 を子 どもたちに知 らせ ,そ れに迫 ってい くためにグルー プの音楽活動
がいか に重要 であるか を理解 させ る。
授業 改善 に向 け て
2
教 師 は子 どもたちが「音楽 の授業 はぼ くらが先生 と協力 して,み んなでつ くり上 げてい くも
のだ」 とい う自覚 を持 つ よ うに し,学 習指導 の 内容 に応 じて教 師中心 の「音楽指導Jと 子 ど
もたち中心 の「音楽活動Jの バ ラ ンス を取 る とともに, これ までの「指導 ・学習Jと これか
らの「指導 ・学習Jと を絶 えず結 び付 ける よ うに して い かな くてはな らない。
3
教師は 自由 と革新 を奨励す る音楽 の学習環境 を作 り出す こ とによって,子 どもたちや 関係者
との信頼関係 を打 ち立てるようにす る必要があるが ,そ の際 は,完 璧 さを期待 した り,そ れ
4
教師は個人間, グループ間の「協力Jが もた らす利益 と「競 争」が もた らす不利益 を十分 に
理解 し,「 協力Jを 音楽授業 の展開に生かす よ うにす る。
5
教師 は子 どもたち一 人ひ と りがそれぞれ異 なる人間存在 であ ることを十分 に理 解す る。その
上で一人ひ と りの家庭環境 ,学 校外 で受 けている音 楽教育 ,特 別 な音楽技能 ,素 朴 な夢や希
の 指 針
子ども 理解 に向 け て
音 楽 科 経 営
に よって子 どもたちを評価 した りしてはな らない。
、リヒ
望 を踏 まえて,彼 らの好奇′
と
戦意慾や学 ぶ意欲 を掻 き立てるような学習指導 の工 夫 をす る。
6
教師は 自らが絶 えず音楽の研修 ・研究 を継続す ることに よって,子 どもたちに も自ら音楽 を
7
教 師 は音楽授業 のシステムか らはみ出 した子 ども,特 別 な手助 けや支援 を必 要 とす る子 ども
8
教 師 は少な くとも年 に 2∼ 3回 (学 期 ごとに 1回 )は こど もたち一人ひ と りと じっ くり, し
学 ぶ 楽 しさとよろこびを求め続 ける よ うに奨励す る。
の発 見 に努 める。
か もイ ンフ ォーマル な形で話 し合 う自然発生 的な機会 を もつ よ うにす る。それは評価 のため
ではな く,子 どもたち との信頼関係 を打 ち立て,そ こか ら彼 らの音 楽学習 の 目標 ・心配 ・つ
まず き,夢 や希望 な どについ ての理解 を深めるためである。
9
授 業力向 上
10
教師 は音楽 の コーチや カウンセ ラーであって,裁 判官ではない ことを子 どもたちに誓 う。
教師は組織上 の権 限を振 り回す ことな く,絶 えず知識 技能 。人格 を磨 き,機 転 を利 かせ た
説得力あ る音楽授業 の展 開能力やパ フォーマ ンス能力 を身に付 けるようにす る。
11
教師は授業 マ ネジャー としての 自分 の力量 を向上 させ るために,自 分 の音楽授業 の過程 と結
果 に関す る量的 ・客観的デー タと質的 ・主観的 デー タを引
又集 ・蓄積 し,そ れ らの総合 的な分
析 ・点検 ・評価 を行 うことによって授業 の改善に努 める。
以上 は、音楽科経営 の概念 を整理 した上で,デ ミングの教 育論 に学びなが ら、 これか ら
の音楽科経営 の前提条件 と指針 を試案 としてまとめた ものである。 これ らは,学 習指導要
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音楽教育 における PDCAサ イクル活用の視点 と可能性
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領 ・音楽 の 目標 ・内容 ・方法 と各学校 における音楽の授業実践 とを、意味深 く結 び付 ける
機能 と役害Jを 果 たす ものである。学校現場の先生方 は、この「音楽科経営の条件 。
指針 (試
案)」 を参考 に して、それぞれ独 自の経営指針 を作成 して いただ きたい と思 う。
2.授 業研究の新たな方法 :石 川の特性要因図に学ぶ
(1)特 性要因図の作成
デ ミングの PDSAサ イクルの深層部をなす教育論が、音楽科経営 の前提条件や経営指
針に大 きな示唆を与えて くれたように、デ ミングの発想 をわが国の実状 に合わせて継承 ・
発展 させた石川馨の PDCA品 質 ,管 理サ ー クル ((前 稿〉図 5・ 6)や TQC理 論 か も、
各学校 の教育計画や音楽科の授業研究の改善に新たな発想 と実践構想をもたらして くれる。
その具体例 として、
音楽科 の「授業研究」や「石
升究授業」における石川の「特性要因図」(〈 前
稿〉図 7)の 活用が挙げられよう。
(前 稿〉で紹介 したように,石 川は品質管理の具体的ツール として「QC
7つ 道具」 (品
質管理の具体的方法)を 開発 した 〔
。そ こで以下、石川の特
石川 (1981)262∼ 265頁 〕
性要因図の内容を「音楽指導の改善」に当てはめて、その作成手順 を具体的に検討 したい。
ここでは、考察対象例 として音楽教材「虫のこえ」を取 り上げてみよう。 この 曲は、平
成元年告示 の第 6次 小学校学習指導要領 ・音楽以来、今 日まで第 2学 年歌唱共通教材 とし
て子 どもたちに親 しまれている曲である。出典は明治 43(1910)年 文部省編纂 ・著作 『尋
常小学読本唱歌』 に収め られた曲で、
「 チ ンチロ チ ンチロ チ ンチ ロ リン」 といった虫の
擬声語の面白さが ことのほか子 どもたちの心をとらえ、 この百年間、 日本の小学校低 ・中
学年の子 どもたちの愛唱歌 となって きた。 この歌の教材性
(音 楽的・教育的価値)は 、今
日一般に「擬声語に よる表現の楽 しさJ「 リズム楽器に よる擬声語 の表現」
「手作 り楽器 に
よる合奏体験」な どに求められているが、この教材を取 り扱 う本質的な意義 は、それらを
をひそめて音 を聴 く」 とい う子 どもたちの聴覚的認識 の深化 ・鋭敏化にある
統合 した「′
自、
と考え られる。
そ こで「
、虫のこえ」 とい う音楽教材 を介在 とした子 どもたちの表現や鑑賞 の活動 の「特
性Jを 「 ひび きのこまやかさ」に求めるとして、この特性に迫る音楽指導 の「特性要因図」
「特性」(結 果)
(魚 モデル)の 作成手順を考えてみよう。図の作成は個人で行 って もよいが、
と「要因」 (原 因)の 関係をなるべ く客観的に解明す るために、で きるだけ指導者のグルー
プで行 うようにする。 このグループ活動 は
「ブレーンス トー ミングJ(集 団思考)の 形をとっ
て、各 自自由に意見を出し合 って解決法を考えるようにす る。こうした集団思考 をしなや
かに推進するためには、
「ブ レーンス トー ミングの 4原 則」 (批 判厳禁, 自由奔放,発 言量
歓迎、便乗発言歓迎)° に従 うとよいだろ う。大切なのは、こうした討論 の過程 で生 まれ
る指導者間の連帯感 と、新 しい授業ツールを生み出す楽 しさや喜びである。
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la:大 骨 ・ 特性 を示す
図
(太
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(魚 モデル a)
〕
(学 :そ
図
lbi要 因 。大骨
聖
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,
'中 骨 ・特性 を示す (魚 モデル b)
モ
要因)
要匿
〔
音 中大き さ
'
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ひ ぴ きの
苺
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(大 骨 )
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図 lc:要 因 。最大要因・大骨 ・中骨 。小骨・ 特性を示す (魚 モデル c)
者 の高 さ
ま オaもAじ
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昔 の大 き さ
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〔
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〔
金属音
ガチャガチ
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チ ャゴ チ
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膜 鳴音
音の長 さ
(要 田)
音
&
(要 因 〕
図 1 特性要因図 :「 ひびきのこまやかさ」を生み出す要因
上 に図 1と して掲げた 3つ の 図は、第 2学 年 の歌唱教材「虫の こえ」の歌詞 に含 まれて い
る擬声語 のイメー ジをリズム楽器 のひび きの イメー ジに発展 させ るときに用 い る特性要因
図 (魚 モ デル)° の作成手順 の概要 で ある。
① 問題 とする特性 と背骨を書 く (図
(直 結要因)と
348
、特性
(「
la)。
まだ準備段階の図で、要因を受け止める大骨
ひびきのこまやかさ」
)が 示されているだけである。
音楽教育 における PDCAサ イクル活用の視点 と可能性
② 特性 に影響 を与 える要因を挙げ、枠で囲んで大骨 を入れる
(2/2)
(図 lb)。 「 ひび きの こ
まやかさ」 とい う特性 の要因はさまざまであるが、まず は「音 の高 さJと 「音 の大
きさ」 とい う 2つ の要因が考えられる ことを矢印斜線
(\
)の 中骨 (1次 要因)で
示 している。
③ 要因 を分解 して、中骨 ・小骨 ・孫骨を入れる
(図 lc)。
ここでは特性 の要因を拡大 し
て、
「ひびきのこまやかさ」を生み出す要因が「音の高 さJ「 音 の大 きさ」に加えて「音
の長さ」
「音色」の 4つ からなっていることを示 している。「音色」に含 まれる「 リン
リンと鳴る音」「澄んだ音」「カサカサ した音Jと いった 2次 要因が小骨 で示 され、さ
らにこまかな「金属音」
「膜鳴音」 といった第 3次 要因が孫骨 で示 されている。
要因の重みを付けるために、影響が大 きいと思われる要因を九で囲む
(図 lc)。 「 こ
まやかなひびき」を生み出す 4つ の要因の中で一番大 きな要因が「音色」であること
を九E日 で示 している。
④ チ ェ ックポイン トにしたがって要因の確認をす る。 〔
特性要因図のチェックポイン ト〕
・特性 は原因追求型 ,姑 策検討型 のどちらかにはつ きり区別されているか。
・要因は大骨から孫骨まで系統立てて整理されているか。
・特性に関係 のない要因が入 っていないか。
こ うした手順 を踏んで「題材 の指導計画」に関連す る「特性要因図J((魚 モデル〉)を
作成す るためには、かなり念入 りな教材研究をしてお く必要がある。歌詞の意味内容、楽
山の成立背景、作詞者 。作曲者 の情報,構 成要素 ごとの音楽的な特徴、それらを総合 した
楽曲の教材性
(音 楽的・教育的価値)の 確定、 これ らに関連 した検証楽曲 (題 材 の導入 ・
中間・終末部分における鑑賞曲)の 設定な ど、 〈
魚 モデル〉 は題材 の学習指導全体 の見取
り図の役 目を果たす ことにもなるのである。図の作成に当たって
「 ブレーンス トー ミング」
が推奨される理 由も、 こうした教材研究の段階からのグルー プによる集団思考が,教 材に
対す る洞察を深め、 (魚 モデル)の 質を高め,音 楽科における授業研究のツール としての
精度を確かなものにするか らだ。
(2)(魚 モデル)を 用 いた研究授業例
次頁の図 2は 、筆者が作成 した
(魚 モデル)の 事例 である。 これは,東 京都渋谷区小学
校音楽教育研究会研修会において、上記手順に従 って授業者
(渋 谷区立加計塚小学校藤澤
幸子教諭)の 学習指導案をもとに、筆者が作成 した授業研究のための討議 資料 の一部であ
る。平成 22年 9月 15日 、同校で行われた第 2学 年の音楽授業 は、
「イメー ジにあった音
色を工夫 して表現 しようJと い う4時 間扱 いの題材 の第 4時 であ り、本時の流れは次のよ
うな 3部 構成 となっていた。
①宮城道雄作曲,争 曲「虫の歌」の導入的な鑑賞
② リズム楽器に よる虫の声 のグープ即興表現の推敲
③「モノ ドラマ歌唱」の形態による各 グループの演奏発表
349
名古屋芸術大学研究紀要第 34巻 (2013)
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音楽教育 における PDCAサ イクル活用の視点 と可能性
(2/2)
ここで用 い られた「 モノ ドラマ歌唱」 の形態 とは、筆者 の提唱 した「モ ノ ドラマ合唱」 に
ちなんで、ある歌唱教材 の情景や気持 ちを述べ た「ナ レー シ ョン」 に「 バ ックサ ウン ド」
を付 けて朗読 した後でその教材 を歌 う、 とい う表現 の形態 を指 して い る °。
この (魚 モ デル〉 は、教育実習 の終末期 に行 われる「研 究授業」や、各種 の研 究会 に
おける「授業研究」の方法 として、 活発 な議論 を呼び覚 ます きっか けになる もの と思 う。
また、子 どもたちの「音楽 づ くり」 の 活動設計 図 として、 ワー クシー トな どで 楽 しく活
用 で きるのではないか。
3.鑑 賞指導の新構想 :石 川の機能別管理概念図に学ぶ
(1)音 楽 カリキュラムの構築
どんな時代や社会、 どんな国や地域、そ してどんな種類の音楽であれ、その音楽には固
有の「それらしさ」が備わっている。例えば、「文部省唱歌 らしさ」「長唄 らしさ」が抜け
落ちた文部省唱歌や長唄を歌 ったと したら、そ こには音楽の生命 はない。 この「 らしさ」
は「 よさJと 言 い換えてもよいだろ う。 しか し、この「 よさ」 (様 式感)は 、その音楽を
聴 くわれわれ一人ひと りが全 身全霊 をもって感 じ取 るものであって、これを言葉に置 き換
えることはで きない。言葉に置 き換えられるのは、その音楽の要素 ・媒体 ・仕組みの特徴
やその音楽の成 り立ち・歴史的背景な どであって、その音楽のよさ (様 式感)を 言葉に置
き換えた とたんに、それは「音楽」ではな く「言葉Jに なって しまうのだ。
このことを音楽鑑賞指導に当てはめて考えてみると、われわれが指導 で きるのは、その
音楽のさまざまな特徴の理解、すなわち、構成要素 ・表現媒体 ・形成原理などの「音楽的
理解」、創造過程 ・成立背景 。関連知識な どの「知的理解」に とどまってお り、その音楽
のよさ・美 しさをつかみ取 るのは子 どもたち 自身ではないか。本来、教師 は音楽のよさ 。
美 しさを子 どもたちに教えることはで きないのだ。だか らこそ、われわれは子 どもたちが
「音楽の美的享受」に取 り組むことができるように、
「音楽の理解J(音 楽的理解 と知的理解)
を目指す きめ細かな指導を展 開 しな くてはならないのである °。
こうした指導を音楽授業 として展開するためには、児童生徒 の「音楽的発達過程Jの に
即 した学習内容 と音楽教材のマ トリックス
(ス
コープとシー クエ ンス)を 構築 しな くては
ならない。幸 いなことに我が国には学習指導要領 ・音楽があ り、 これに基づ くすばらしい
音楽教科書の数 々が準備 されている。 しか し、われわれの務めは、指導要領や教科書 を使
って音楽の「よさを教える」ことではな く、それらを使 って音楽の「よさを子 どもたちが
つかみとる」 ようにすることではなかったか。 したがってわれわれは、地域の特質や児童
生徒の実態に即 し、学校の特徴や教師の個性に応 じて、 自校 の音楽科経営指針 を生か した
独 自の音楽 カリキュラムを構築 しな くてはならない。ここに PDCA活 用 の第 2の 可能性
が開けて くるのである。
(2)(車 輪モデル〉の構想
351
名古屋芸術大学研究紀要第 34巻 (2013)
石川 の TQC理 論か らわれわれが学 ぶ もう一つの点は、「機能別管理概念図」 (〈 前稿〉
図 9)で 示 された機能別管理 と部門別管理 のマ トリックス図を応用 した PDCAサ イクル
の展 開の可能性である。一般に経営学用語の「 マ トリックス図」 とは、「要素間の関係 を
示す図解 のひとつで,2つ の異なる要素群を行 と列に当てはめて,要 素間の関係 を明 らか
にする図J(F日 経 ビジネス経済 。経営用語辞典』)を 意味 してい る。石川のマ トリックス
図では、製品の規格 ・設計 ・生産準備 ・部品購買 ・製造・販売 といった企業活動 の組織部
門か らの要素群 と、製造活動の機能面を担 う品質 ・原価 ・技術 ・生産 。人事 といった観点
か らの要素群の 2行 列が、横軸 と縦軸の碁盤 目模様状に組み合わされ、そ こか ら生み出さ
れた企画が PDCAサ イクルのスパ イラルな環状径路 を経 て販売にいたるとい う、極 めて
合理的な品質管理 と経営マ ネジメ ン トの展開が 目指されているのである。
こうした石川の発想は、経済 。経営分野のみならず、行政組織 の経営マネジメ ン ト、さ
らには学校教育や音楽教育 に射 しても、極 めて意味深 い示唆を与えている。 と りわけわれ
われの音楽鑑賞教育の領域では、鑑賞指導の「内容」 (そ の教材 の音楽的特徴 を規定する
音楽の構成要素、表現媒体、形成原理 といった観点からの要素群)と 、それにふさわ しい
音楽教材 の「様式」 (そ の音楽の様式的特質を規定する歴史的、民族的、機能的、経験的、
形態的 といった観点からの要素群)と をどのように結 び付けたらよいかについて、これま
で明確な理論的根拠に基づ くことな く、学習指導要領の措定内容 と音楽教科書教材 とをた
だ経験的に組み合わせて指導を展開しているのが実状ではなか ったか。 この状況を克服す
るために、内容 と教材 を峻別 した上で、子 どもの興味関心や発達過程を両者の有機的関連
の中にか らませなが ら、楽曲に対す る音楽的理解 と知的理解をほ どよ く調和 させて、子 ど
もたちの音楽享受を支援するような「音 楽理解」 をめざす鑑賞指導が求め られている。
次頁の図 3は 石川 の概念図に示唆を求めて、内容 と教材 のマ トリックスか ら子 どもたち
の「音楽理解」 を目指すね らい をもって作成 した、鑑賞指導 の概念図
(PDCAサ イクル
を括用 した く
山本 ・車輪モデル〉 の根拠 となっているのは
車輪 モデル〉)で ある。 この く
もちろん石川の「機能別管理概念図」であ り、子 どもたちの音楽理解を目指す鑑賞指導の
内容
(横 軸)と
、それにふ さわしい音楽教材 の様式
(縦 軸)と
のマ トリックスを示 した図
解である。 (車 輪 モデル)の 左狽1に 連なる図 3aは ,拙 者 (2010)『 戦後音楽鑑賞教育の流れ』
の第 4章 において く
演野 ・山本モデル a)° と名づ けた「音楽鑑賞指導 の体系図」である。
そ して く
車輪モデル)の 上部に連なる図 3bは ,拙 著 (2000)『 モノ ドラマ合唱のすすめ』
で示 した (風 車モデル〉°であ り、音楽指導 の「学習内容の体系図」 として、音楽鑑賞指
導における学習内容 のデー タベース的な機能を果た してい る図解 である。 さらに、く
車輪
モデル〉の右狽1に 連なる図 3cは 、 ピアジェの発達過程論 を根拠 としたスワニ ック/テ ィ
ルマンによる「音楽的発達の螺旋状過程」 の図解 であ り、児童 。生徒 の発達過程に応 じた
内容措定や教材選択の根拠が ここに求め られるのである。
戦後 60余 年の音楽科教育の歴史を見る と、児童 ・生徒 の音楽的能力の発達に関 しては、
352
図 3a 音楽鑑賞の しくみ
図 3b 音楽 の しくみ
(浜 野/山 本モデル a)
(山 本・ 風車モデ ル)
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鑑賞指導の PDCAサ イクル
(山 本・車輪 モデル
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ワニ ック/テ ィルマ ンの螺旋 モデル
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坪能由紀子訳 (1990)
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図 3c 音楽的発達 の過程
名古屋芸術大学研究紀要第 34巻 (2013)
発達心理学や音楽心理学の知見を参照 しなが ら、教育現場 における授業実践の観察や実態
調査に基づ き、学校段階・学年段階の大 まかな指導の重点化 を図るとい う形で「発達段階」
に即 した内容 ・教材 ・指導法の設定が定説 となって きた ように思われる。 しか しなが ら、
発達心理学研究や音楽心理学研究の進展に伴 い、
「発達」 とい う概念その ものの とらえ方
が 20世 紀後半になって大 きく変化 してきた。すなわち,行 動心理学的な「発達段階」 と
ヽ
い う概念か ら認知′
と
理学的な「発達過程」 とい う概念への変容 である。音楽教育の分野で
ピアジェ
(」
Pttet)や モー ク (H Moog)の 用 いた概念 を論拠 として、こうした音楽的発
達のプ ロセス を鮮明に打ち出 したものが図 3cに 掲げたスワニ ック/テ ィルマ ン (1986)
のスパ イラル・モ デルである。 このモデルは、1989-90年 に坪能由紀子氏に よって翻訳 。
紹介 され
(『
季刊音楽教育研究』No
61-63)、
1992年 に野波健彦ほか 4氏 の翻訳 。出版 『音
楽 とJ心 と教育』 (音 楽之友社)に よって、その全貌が明らかにされた。久項に掲げた表 2は 、
スワニ ック/テ ィルマ ンの原者論文
(1986)、
坪能氏に よる翻訳、野波氏ほか 4名 による
訳書を参Rξ しつつ、ス ワニ ック/テ イルマンの音楽的発達過程 の内容 を筆者 自身の解釈を
交えてで きるだけ簡潔にまとめたものである。
さて、 ここで再 び図 3に 戻 って、PDCAサ イクルと音楽鑑賞指導 のかかわ りを総括 して
お こう。図 3a'3b。 3cは すべて、図 3の 中央下部に示 した子 どもたちの「音楽理解」に
向けて収敷 され、学習者自身がそれぞれの音楽の「 よさ」 (「 様式感」
)を 見つ け出す支援の
役割 を果たすねらいを秘めている。子 どもたちの「音楽理解」をめざす (車 輪モデル〉 を中
央に据え,(演 野 ・山本鑑賞モデル a〉 を前部に、〈
風車モデル〉 を中央上部に、く
螺旋状発
達過程モデル)を 後部 にそれぞれ配置 して、 これら3者 を巧みにクロスさせながら、われわ
れは「PDCAサ イクル」 とい うホイール (車 輪)を もつ車 に子 どもたちを乗せて、音楽鑑
賞 とい うハ イウェイをさっそ うとドライブす るのだ。石川の概念図はこのような奥の深 い、
しかも、楽 しい音楽鑑賞指導の夢 を生 き生 きとわれわれに与えて くれているのである。なお、
図 3の 車体内に行 ・列 で示 されている個 々の用語の詳細な意味内容については、ぜひ拙著
(2000)『 モノ ドラマ合唱のすすめ』 の該当用語の説明 (126∼
127,179∼ 180頁 )を 参照
願いたい。
この「車輪 モデル」によって筆者が主張 したい点は以下の 4点 である。
① 音楽鑑賞教育 とは、学校内外において、教育的な意図をもってさまざまな音楽を対象
として行われる、音楽的理解 と知的理解 を伴った音楽享受 の過程である。
② 音楽鑑賞指導 の 目的は、子 どもたちが「音楽の理解」の仕方 を身に付けるようにする
ことであ り、その 目的は、指導内容 とそれにふさわ しい音楽教材 とを学習活動の 中で
うまく結 び付けることによつて達成 される。
③ 内容 と教材を結 び付けて子 どもたちが「音楽の理解Jの 仕方を身に付けるようにする
方法 としては、PDCAサ イクルを継続 して活用することが適切である。
「音楽的理解」 と「知的理解」を指導することはできても、
「音
④ 「音楽の理解」に関しては、
354
音楽教育 における PDCAサ イクル活用の視点 と可能性
表2
音楽的発達 に関するスワニ ック/テ ィルマンの螺旋過程モデル
半
習熟 期 Mastery(0‐ 4歳 )
素材 (MaterlJs)週 居 (旨 と厠わる)
模倣 期 Imlation(4-9歳 )
表現 (Expressbn)週 君 (要素と脚わる)
Personal mode】 歌では個人的な表現が先行 し、
【
器楽 では速度 ・強弱 の変化 に関心 を持 つ。 クラ
③個人的 モード
①感覚的 モード
Sensory mOde】 音 の 印象、特 に音色 に関心 を
【
持つ。音 の強 さに も強 い 関心 を持 ち、特 に極端
に強 い音や弱 い音 に興味 を示す。普通の楽器 だ
けでな く、 いろいろな ものか ら音 を出そ う とす
るが、拍 はあい まいで ある。それ らの表現要素
を有機的に組み合 わせた り、構造的な意味や表
Manipulative mode】
【
イマ ックスが作 られ、そ こではテ ンポが速 くなっ
た り、音が大 きくなった りす る。子 どもの 直接
的な感情経験か らの音楽表現が見 られ るが、 ま
だ熟考 した り、丁寧 に形 づ くった りした ものに
はなっていない。音楽の構造 に対 して もあ ま り
現的な意味 をもたせた りする ことはで きない。
心はない。
関′
ernacular
等拍 リズムを保持 しよう
た りす るな ど、子 どもは楽器や音素材 を操作す
る技術 を少 しずつ獲得 してい く。 グ リッサ ン ド、
特定音階 での フレーズ、特定音程 に よるフ レー
ムのパ ター ン
り、音楽表現 は既成 の音楽的慣用語 法 の 中 で
われる◎ フ レーズは 2・ 4・ 8小 節構造 で 4/
4拍 子が よ り頻繁 に現れ、 シ ンコペー シ ョン も
使われるが、旋律 のゼ クエ ンツはほ とん ど存在
ズ、 トリル、 トレモ ロな どを用 いて、比較 的長
い取 り留めのない作 品を作 るが、その性格 は楽
音具 の物理 的構造 によって規定 され ること
しない。子 どもたちは学校内外の音 楽体験 によっ
て音楽的語彙 を増 や し、 これ に大 きな興味 を示
が多 い。
す よ
想像遊 び 期 Imaginajve PIay(10-15歳
形式 (Form)週 溜 (構成 を正失する)
旋律 や リ
化 と反復が始 まる◎旋律 は前段階 よ りも短 くな
④慣戸脚 モード
②操作的 モード
とした り、特定の音の出 し方 を工夫 しようと し
器
(2/2)
になる。
メ タ認 知 期 Meta― cognition(15歳 ∼ )
価値観 (Vttue)過程 (自 分 らιさを求める)
)
Symbolic mode】 意外性が特定の音楽様式 の中
【
によって、パ ター ンの反復か らの逸脱が始 まる。
に有機 的に組 み込 まれ る。あ るパ ター ンが確立
意外性が導入 されるが、作 品 の様式 に有機的に
組み入れ られるまでには至 っていない。 自分 ら
しい音 を模索 しようとした時や パ ター ンか ら逸
脱 した部分 を導入 しようとした時には、拍の保
持や フ レーズ感 は幾分 あ い まい な もの となる。
モテ イーフや旋律 に対Л
Rや 変化 をつ け よ う とす
⑦象徴的 モード
⑤恋 行館詐四モード
Speculative model慣 用 的 な音 楽語 法 の把 握
【
され、そ こか らの逸脱が可能 になる と、 フ レー
ズの末尾や 曲の終末 は対照 的な ものになる。応
答的 フレーズや 変奏 を用 いた り、終止 的な音の
断片 を加 えるな ど、技術 的 ・表現 的 ・構造 的な
意味で コ ン トロールが行 き届 き、それが長時間
にわたって保持 される。 自分達が「大人 っぽいJ
るな ど、実験精神が旺盛 とな り、音楽 の構造的
と感 じる音楽様式や音楽語 法 に強 く傾倒す るよ
な可能性 を探求 しようとする意思が顕著 となる。
うになるが、 ここではポ ピュ ラー音楽の影響が
特 に強い。
[Idiomatic mode】
特定 の音 楽作 品や旋律
フ
ISystematic mode】
る。感情 に及ぼす音 楽 の力が大 きな意味 を持 つ
ようにな り、その経験 を表明 しようとす る。音
見は個別的な もの とな り、ユニー ク
楽的な価値密
で深 い意味 を持 つ と思われる音楽経験 を基 に し
て、音 楽 に参 与す るよ うになる。 自分 の経験 に
特定 のイデ イオム、あるい
はい くつかの イデ イオムの基本 となる音楽 の様
③誉 系胸 モード
①音を 誇彦的 モード
レーズ・和声進行 に個人的に傾倒す る よ うにな
式 的原理 を認識す るこ とが で きる よ うにな る。
音楽作 品 は、音楽 的素材 を意識的 に組織化 した
一般的な原則 (全 音音階・セ リー
電子音 な ど)
によって作 曲され ることが 多 い。作 由の プ ロセ
スについて、哲学 的な方法で記述 した り話 した
対 して熟考す る能力 を持 ち自分 の経験 を自己認
りした い とい う欲求 を持 っている。音 楽 に対 し
識や 自分の価値観 と関係付ける能力 を持 つ。
て明確 な価値観 を伴 った関 わ りが行 われる よ う
になる。
注 :斜 体の文章 と訳語は筆者の解釈によるもの。
355
名古屋芸術大学研究紀要第 34巻 (2013)
楽の美的享受Jを 指導す ることはで きない、とい う根本原理 を踏み外 さない ように したい。
4.指 導計画改善の方法 :今 井/ボ ークの問題解決過程 論 か らの示唆
(1)問 題解決の過程
前稿 で述べ た今井 /ボ ー クの問題解決過程論 は音楽科 にお いて どの よ うに生か されるの
であろ うか。音楽教育 にお い ては、歌唱 ・器楽な どの表現領域 で行 われる読譜 ・呼吸法 ・
発声法 ・逗指法 な どの技能習得 は、 まぎれ もない 問題解決過程の連続 で成 り立 ってお り、
それぞれの習得過程 に PDCAサ イクルが働 いてい ることは想像 に難 くない。同様 に、創
作指導 の領域 にお いて も、 スパ イラルな問題 解決的 ・内省的思考過程がた どられ,尽 きる
ことの ない推敲作業が繰 り返 されるのである。 ペ イ ン ター
(」
Ohn Paynter,1931∼
)が 提
唱 してわが 国 の音 楽教 育 に も大 きな影響 を与 えた「創 造 的音 楽学 習J(creative music
making)に おける 36の 「 プ ロ ジ ェ ク ト」活動 も、 こ う した内省 的思考や PDCAサ イク
ル に関わ りの深 い問題解決的な表現活動 で あると考え られる。
PDCAサ イクルを問題解決過程 としてとらえる もう一つの重要な視点は、音楽鑑賞教育の本
質 をなす「理解 を伴った音楽享受」の実現に向けて果たす環状径路の役割である。前掲の図 3a
は筆者が提起 した音楽鑑賞の仕組みに関す る概念マ ップであ り、音楽鑑賞の奥深 い営みを可祝
化 したものである。この (漬 野 ・山本 モデル a)は 、前稿の石川の概念図に関連 して開発 した
図 3の く
車輪モデル)と も深 く関わるものであ り、音楽鑑賞の仕組みとその指導内容 を体系的
に示 したものである。子 どもたちの「音楽享受」の前提 となるのは「音楽的理解」と「矢日
的理解 J
であ り、その両者があい まって子 どもたち自身による「音楽の美的享受」が実現するのである。
そうした「音楽の理解」
, と りわけ音楽の知的理解において重要な役割を呆たすのが PDCAサ
イクルに宿る問題解決過程 としての機能である。作品の知的理解を目指す「創造過程」「成立背
景」「音楽知識」の学習 は、作品の音楽的理解 を目指す「構成要素」「表現媒体J「 形成原理」の
学習 とあいまって、
子 どもたち自身による「音楽享受」を可能にするのである。 このようにして、
音楽の「理解」 と「享受」を継続的 ・螺旋的 に推進す る音楽鑑賞の営 みは、まさに今井/ボ ー
クの提起する問題解決過程やデューイの反省的思考 を内包するものであ り、それらは PDCAサ
イクルの もつ教育的可育
をl生 を鑑賞活動の狽J面 か らも立証 しているのではないだろ うか。
(2)指 導計画 の改善
「年間指導計画 Jや 「題材 の指導計画」 の改善 における PDCAサ イクル活用 については、
平成 23年 発表 の 国立教育政策研究所教育課程研究 セ ンター編「評価方法等 の工 夫改善 の
ための参考資料」 (小 ・中学校 )に お いて、音楽科 における新 しい評価規準の展開方 法が
題材 の 指導計画 の 4事 例 を添 えて示 されて い るので、 これ に沿 って PDCAの
,
`Check'
段階を中心 とした新 ・評価規準 の適用方法 を再確認す ることによ り、指導計画の改善 にお
け る PDCAサ イクル活用の明確 な展望が開かれる もの と思われる。
そ う した先行 研 究 のひ とつ として、 山下薫子 (2010)の 論考 101は 示唆 に富 んで い る。
356
音楽教育 における PDCAサ イクル活用の視点 と可能性
11)の
山下 は「学習デザ イ ン」
(2/2)
観点
か ら、図 4に 示 した鑑賞領域 にお
児 童 の実 態
目
標
ける「短期 の学習 デザイ ン」 (題 材
の指導計画 に相 当す る もの)を 提
起 して い る。 ここでは、 `Plan'の
挙習添勤
部分 に「児童の実態」 と「題材 の
Cl第 1友
otte友
C)第 2友
目標」 (学 習 を通 した変容後の姿 )
が並記 され、`Do'の 部分に実際の
「学習活動の流れJ(第 ○次,第 ○時
,
導入 ・展開など)が 示 されてい る。
また、`Check'の 部分に「評価規準」
(こ
こでは鑑賞領域 の 2観 点)が 配
登音楽年0関 jし
'意
ξ
饉貫の市力】
振 '憩 麦 ]
図4鑑 賞領域における短期の学習デザイン
l山
下薫子 像010よ り〕
置 され、 `Act'の 部分 で確 認 され
た改 善点
(目
標が実現 して い ない部分 )の 処置が行 われたのち、新 たな `Plan'の 部分 に
入 ってい く、 とい う形 で PDCAサ イクルの構造が示 されて い る。
これまでの題材 の指導計画に比べ ると、
PDCAサ イクルを活用 した山下図解では,「 目標J
「活動」
「評価」相互関係 と 3者 のバ ラ ンスが よ り分か りやす く可祝化 されて い るよ うに思
われる。評価規準 の設定 に関 しては、 この 図では鑑賞活動 に限定 した第 1観 点 と第 4観 点
のみが記 されて い るが、活動内容 に表現領域 (歌 唱,器 楽,音 楽作 り 。創作 )が含 まれて
い る場合 には、当然第 2観 点や第 3観 点が加 え られる ことになる ことは言 うまで もない。
◆ おわりに :音 楽教育 における PDCAサ イクル活用の可能性
以上、PDCAサ イクルの教育的可能性について音楽科教育 の立場か ら考察 して きたが、
本稿におけるデ ミングの教育論 の音楽科経営へ の適用,石 川による「特性要因図」の音楽
授業研究における展開、石川の「機能別管理概念図Jの 音楽鑑賞指導へ の導入、今井の問
題解決過程の援用のいずれも、筆者の個人的発想 の域を超えるものではない。それ らの発
想に汁 しては、これから理論 と実践の両面で徹底的な批判的吟味 を蓄積 しな くてはならな
いだろう。前稿 (2011)お よび本稿 の考察 を総括 して、以下の 5点 を結論 としたい。
□
戦後 日本 の経済発展 に多大 な貢献 を したデ ミングの PDSAサ イクルを中核 とした 品
質管理論 の根底 には、「共有原理」 を基盤 とした強固な教育理念が働 い てお り、そ こか
らは今 日のわが国の音楽科経営 における前提条件 と経営指針 を導 き出す可能性が認め ら
れる。
357
名古屋芸術大学研究紀要第 34巻 (2013)
デ ミングの 品質管理論 を 日本の実情 に適合 させ た石川馨の PDCA管 理サ ー クルに よ
ロ
る TQC(全 社的品質管理 )の 理論 は、
今 日のわが 国の音楽科教育 にお ける「指導 の改善」
に明確 な指針 を与 えて い る。
石川 の 開発 した「QC 7つ 道具」のひとつ で ある「特性要因図」(魚 骨 ダイアグラム)は 、
□
音楽科の授業研究や教材研究 のソー ル として活用す る可 能‖
生が十分 に認め られる。 また、
品質保証 に関する石川 の「機能別管理概念図」は、音 楽鑑賞指導 にお け る「内容 と教材
のマ トリックス 図」 として、子 どもた ちを「音楽理解」 に導 く意味深 い フレームを提供
して い る。
今井 の 4段 階 7工 程か らなる問題解決過程 の フレーム と,今井 に触発 されたボー クの
□
過程改善原理か らは、第 8次 学習指導要領 で新 たに示 された 〔
共通事項〕,音 楽 の言語化、
音楽批評 といつた言語活動 を音楽指導全般 にわたる「音楽理解」 に生かす ための問題解
決過程が示唆 されて い る。そ して、そ うした過程 を組み込んだ「指導計画作成へ の新 た
な視座」が提供 されて い る。
音楽教育の理論研究や実践研究にお い ては、 隣接諸学の新概念の安易 な導入 は厳 に慎
□
まな くてはな らな いが、PDCAサ イクルの活用 につい て も、その安易 な導入 に対 して
批判的吟味 を蓄積 しなが ら、活用 の可能性 に関す る厳 しい検証 を重 ねる必 要がある。
[注 ]
(1)久 納慶―
(1987)「 新たな音楽教育に向けて」『季刊音楽教育研究』30(3),No
程の改善」 (中 間まとめ)を 考える 音楽之友社 東京 所収 (7077頁
(2)石 川が提唱 した「全社的品質管理」 (Total
52特 集 2:「 教育課
)
Quality COntrol)の 目的・内容 ・方法を指す。品質管理
を企業の全部門 ・全員が参加 して総合的に実施 しようとする考え方 〔
石川馨 (1981)126-129参 照〕
(3)オ ズボーン (A S OsbOrn)が 考茶 した集団的思考法 〔日本教育社会学会編 (1986)『 新教育社会学辞典』
東京 765頁 参照)
(4)石
川 馨 が 創 案 し た「 特 性 要 因 図 Jは 英 語 で cause and erect diagram,Ishikawa diagram,
nshbonediagram. 日本語で「魚骨 ダイアグラム」など, さまざまな呼び名があるが,小 論 では 日本
の子 どもたちに親 しまれるよう「魚モデル」 と名付けることにする。
(5)拙 者
(2000)『 モノ ドラマ合唱のすすめ』音楽之友社 東京 15-20頁 参照◎
(6)「 音楽の理解Jに ついては拙著 (2010)第 4章 および終章 を参照されたい。
(7)近 年の音楽教育学研究では,
ピアジェの発達理論に基づ くス ヮニ ック/テ ィルマ ン (1986)の 「音
楽的発達の螺旋状過程J〔 Swanwた k(1988)の 訳書 109頁 〕が とりわけ注 目されている。 この図解や
訳語の意味 をよ り深 く理解するためには,Swallwick/Tllman(1986)の 坪能由紀子 による吾刀訳
(1980-90)を 併せ検討
(8)拙 著
解釈することをお勧め したい。
(2010)『 戦後音楽鑑賞教育の流れ』59頁 に示 した く
損野
山本モデル a)と 呼ぶ「音楽鑑賞指
導の体系図」
(9)拙 著
(2000)『 モノ ドラマ合唱のすすめ』177頁 に示 した音楽指導における「学習内容の体系図」
(10)山 下薫子 (2010)「 小学校における鑑賞の学習デザイ ンー 子 どもの経験 を軸 として指導計画 を考える」
『季干」
音楽鑑賞教育』No3音 楽之友社 東京
358
音楽教育 における PDCAサ イクル活用の視点 と可能性
(2/2)
(11)同 上の山下の概念規定によれば「学習デザ イ ンとは,学 習の主体 である子 どもの経験 を軸 として
,
学習の過程や教材の配列,身 に付けるべ き知識 ・技能などについて設計 し,構 造化することJで あ
るとい う。
参考文献
(前 稿で示 したものは省略)
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山本川
買彦 (1999)「 問題解決学習」『授業研究重要用語 300の 基礎知識』明治図書出版 東京
拙著 (2000)『 モノ ドラマ合唱のすすめ』音楽之友社 東京
拙者 (2010)『 戦後音楽鑑賞教育の流れ』 (財 )音 楽鑑賞教育振興会 東京
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ワンウイック
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俊―・山田i聞 次訳 (1991)『 音楽教育の原理 と方法』音楽之友社 東京〕
英 文要 旨
[Titlel The Viewpoints and POssibility to make the Best of PDCA Cycle toヽ
′
Iusic EducatiOn in Japani
(1)The historical prOcess of formation of the cycle and the practical hypotheses,(2)The guideines to
embody the hypotheses
[Abstract]The airn of this study is to clarify the points of view and possibility tO mal(e the best Of
PDCA Cycle, through the analysis of circular path by Shewhart, DeHling, Ishikawa, and lmai Bork
Findings Obtained from the comparison of them and cOnsideration to embOdy the hypotheses, are
summalized as fOnows
l)Shewhart― Deming wheel sustained by a deep educational creed,seems to be used as a model for
building teacher's gtlidelines for schOol rnusic education in Japan
2)Ishikawが s tashbone diagram' call be applied as a tool for improvement of music lessons f10m the
viewpoint Of stb,le allalysis of musical wOrks His ftinctional scheme of QC,alSo suggests the new
paradigm in teaching music listening which leads children into the essence of musical
understanding
3)Imai― Bork's7steps process for Problem SOl宙 ng will be evaluated as the educational tactics for
KAIZEN of planning music lessons throughOut one school year
359
名古屋芸術大学研究紀要第 34巻 (2013)
[Keywords]PDCA Cycle,PDSA Cycle,circular path,quality cOntrol,Shewhart,WA"Deming,WE,
Ishikawa Kaoru,Imai Masaaki,and BOrk,」
[Author]Visiting Professor Of Nagoya University Of Arts Fumishige YAMAMOTO
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