レポート - マネースクウェア・ジャパン

2016 年 6 月 8 日(水)発行
市場調査部 シナリオレポート vol.3
英国の国民投票と FRB、日銀
【重大な結果をもたらす英国民投票】
6 月 23 日に EU 離脱の是非を問う国民投票が実施されます。ブックメーカー(賭け屋)のオッズ(倍率)
からみれば、「残留」が「離脱」に比べてかなり優勢なようです。しかし、頻繁に発表される世論調査では両
者が拮抗しており、離脱派が残留派を上回るケースも散見されます。
BOE(英中銀)の分析では、昨年 11 月以降のポンド実効レートの下落分の約半分が国民投票に関わる
不確実性で説明できるとのことです。国民投票で EU 残留が決定すれば、ポンドの反発が予想されます。一
方で、EU 離脱となれば、「恐らくかなり大幅に(BOE 分析)」ポンドが下落しそうです。
ポンド/円の 1 か月物インプライド・ボラティリティ(予想変動率)は 5 月下旬から大幅に上昇しており、国
民投票の情勢次第で、ポンド/円が大幅に変動すると市場で予想されています。多くのロンドン在の金融機
関は、当日に為替トレーダーを 24 時間体制で待機させるとのことです。
結果判明は日本時間 24 日の午後?
投票は現地 23 日午後 10 時(日本時間 24 日午前 6 時)に締め切られます。直後から、382 の投票所
で開票がなされ、それぞれに結果が発表されます。それらが 12 の地区センターに集められて、集計結果が
発表されます。そして、マンチェスター・タウンホールで最終結果が正式に公表されます。最終結果の判明
は現地 24 日朝(同 24 日午後?)となる模様です。
【2 つのシナリオ】
投票結果は、「残留」か「離脱」かの二つに一つです。曖昧な結果はないはずなので、いずれの場合でも
為替相場が大きく反応する可能性があります。反応の大きさは、結果判明までに金融市場がどう予想して
いたかに依存するでしょう。直前の世論調査や 2 つの討論会(6/21BBC 主催、6/22Channel4主宰)が重
要な役割を果たすかもしれません。
シナリオ1:EU 残留⇒ポンド高、ユーロ高、ドル安?円安?
EU 残留が決定すれば、離脱に関わる不確実性が払しょくされるので、ポンドは大きく反発するかもしれま
せん。ポンド/円は昨年 11 月の 190 円近辺から、今年 4 月に 150 円近くまで下落しました。その半分が国
民投票に起因したものだとすると、不確実性の払しょくにより、170 円近辺まで上昇するとみることが可能か
もしれません。ポンドは対ユーロでも昨年 11 月以降の下落が目立ったので、EU 残留のケースでは反発しそ
うです。
一方、ユーロ圏は英国が EU に残留する方が経済的メリットは大きいとみられるので、ユーロは対ドルで反
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発するかもしれません。また、「国際金融市場を神経質にする要因(米 FOMC 議事録)」が除去されるので、
市場でリスクオンのムードが高まる可能性があり、その場合は「円安」になりそうです。
シナリオ 2:EU 離脱⇒ポンド安、ユーロ安、ドル高?円高?
上述したように、EU 離脱が決まれば、BOE の分析ではポンドは「恐らく大幅に」下落する可能性があります。
ブックメーカーのオッズに基づけば「サプライズ」の結果であり、金融市場の反応は大きくなるかもしれません。
ポンドが下落し、ユーロも英国離脱のデメリットが意識されて、ポンドに連れて下落、反対側でドルが上昇する
シナリオが考えられます。EU 離脱の決定を受けて英国など世界の株価が大きく下落するならば、市場のム
ードがリスクオフに傾くことで、円が対欧州通貨を中心に大幅に上昇し、対ドルでも上昇する可能性がありそ
うです。
もっとも、EU 残留と EU 離脱のケースとでは、金融市場の反応は完全な「シンメトリー(対称)」ではなさそう
です。とりわけ、時間軸に大きな差がでそうです。EU 残留は従来の日常への回帰なので、反応は「一瞬」で
しょう。一方で、EU 離脱の場合は、離脱の手続きに関する英国と EU との長い交渉の始まりを意味します。
交渉期間は最低でも 2 年とされていますが(=早ければ 2018 年夏に実際の離脱)、EU が望めば延長も可
能とのことです。
交渉の過程で、離脱後も英国が EU と近密な、従来に近い関係を構築できるのか、それとも全く新しい関
係が模索されるのか、金融市場は固唾を飲んで見守ることになりそうです。また、EU 残留を推進してきたキ
ャメロン政権の弱体化を含め、国内政治の安定性が懸念される状況となるかもしれません。いずれも、変動
が比較的大きくなるなかで、ジワジワとポンド安が進行するイメージでしょうか。
【日米金融当局の対応】
23 日の英国民投票より前、14-15 日に米 FOMC、15-16 日に日銀の金融政策決定会合が開催されま
す。英国民投票の結果に対する金融市場の反応が不透明であることは、金融政策の変更に慎重になりうる
要因です。
米国では 5 月の雇用統計が弱かったことで、市場が織り込む 6 月利上げの確率はほぼゼロ(6/6 時点で
2%)まで低下しました。7 月 26-27 日利上げの確率も大きく低下しましたが(同 21.6%)、6 月の雇用統計
を含めて経済指標の改善が確認されれば、その確率は上昇してきそうです。上記シナリオ 1 が実現して、世
界の株価が上昇、ドルが対欧州通貨で下落するようであれば、7 月利上げがより現実味を帯びるかもしれま
せん。シナリオ2が実現した場合は、金融市場の動揺が落ち着くまで、利上げは仕切り直しとなりそうです。
他方、日銀の場合は、シナリオ 1 が実現しても、7 月 28-29 日の会合後に公表される「経済と物価情勢
の展望(展望レポート)」で経済・物価見通しを下方修正するようであれば、追加緩和の可能性はあるでしょ
う。また、シナリオ 2 が実現した場合は、リスクオフの円高から経済・物価に下押し圧力が加わるため、日銀
の追加緩和の可能性は一段と高まりそうです。
<チーフエコノミスト 西田明弘>
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【シナリオ別通貨選択/戦略について】
上記シナリオをベースとした、今後のトレード戦略アイデアについて、テクニカル分析を中心に見ていきた
いと思います。
シナリオ1:EU 残留ケースについて
かつて英国では、同じように欧州からの離脱を問う国民投票が行われ、1975 年に当時の EEC(欧州経
済共同体。EU の前身。)残留を 67%の賛成多数で決定したという歴史があります。
今も昔も英国に共通するのは“大陸(=独仏)嫌い”と言えそうですが、今回 EU に残留したところですぐに英
国経済が落ち着き、ポンドが買われ続けるというような単純な構図にはならないのかも知れません。
ただし、「残留」決定直後は「ポンド買い」フローが短期的に発生する可能性は高く、昨年 6 月を高値とし
てそこから下げ始めたポンド/円が“一息つく”可能性は大いにあると考えます。目先の下値メドと、「残留」決
定後の戻りメドについて、ポンド/円・月足チャートで確認してみたいと思います。
まずは、ポンド/円・月足チャート・20 ヶ月移動平均線+フィボナッチリトレースメントについてご確認くださ
い。
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上記チャートを見てみると、現在のポンド/円は 2011 年 9 月に付けた安値 116.80 円と 2015 年(昨年)6
月に付けた高値を結んだフィボナッチリトレースメント 50%押し(=半値押し)水準(≒156.32 円)付近を非常
に意識する状態で推移していることがお分かりになるかと思います。
仮に「残留」決定後に買いフローとなった場合は、同 38.2%押し水準である 165.65 円付近までの<戻り
>の可能性があるかも知れません。
ただし、<戻り>の表現にある通り、その上昇は今のところ一過性のものとなる可能性が高いと考えます。
その根拠は、現在のポンド/円ではローソク足が 20 ヶ月移動平均線を下回っているためで、グランビルの法
則では「下落サイクル」継続中と考えるのが一般的です。
よって、仮に「残留」、つまり<シナリオ 1>が現実となった場合であったとしても、ポンド/円のロング(=買
い)は限定的なものと考えた方が無難なのかも知れません。
一方で、英国の「残留」でホッと一息つくことができるのがユーロ。特に、“欧州の屋台骨”であるドイツ経済
にとっては大いに安心材料となり得ます。以下、ユーロ/ドル・月足チャート・20 ヶ月移動平均線+フィボナッ
チリトレースメントをご覧ください。
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上記チャートを見てみると、現在のユーロ/ドルは 20 ヶ月移動平均線(≒1.1195 ドル)を上抜けており、終
値レベルで当該線を上回った場合は、グランビルの法則では「重要な買いサイン」となる可能性もあります。
仮に英国の EU「残留」が決定した場合は、2014 年 5 月に付けた高値 1.3992 ドルと 2015 年 3 月に付け
た安値 1.0457 ドルを結んだフィボナッチリトレースメント 38.2%戻し水準である 1.1807 ドル付近まで上昇す
る可能性もあります。
その場合は、グランビルの法則とともに、チャート形状における底打ち確認シグナルと言われる「ダブル・ボ
トム」形成も考えられます。
総合すると、<シナリオ 1>が現実となったケースでは、ユーロ/ドルの買いがワークすると想定します。
シナリオ 2:EU 離脱ケースについて
仮に、英国が EU を離脱(Brexit)した場合の英国の経済損失は 2020 年までに 1000 億ポンド(約 16 兆円)
に上り、約 100 万人の雇用損失が現実のものになると試算されています。この損失は英国の GDP(国内総
生産)の 5%に相当し、当然欧州経済のみならず世界経済にとっても大きな打撃となることは明らかです。
この場合、ポンドが主要通貨に対して全面売りとなることも予想され、同時にリスク回避の円買いフローが
発生する可能性もありそうです。
以下、ポンド/円・月足チャート・20 ヶ月移動平均線+フィボナッチリトレースメントについてご確認ください。
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現時点のポンド/円・月足チャートがグランビルの法則下では「下降トレンド」となっている中、仮に<シナリ
オ 2>が現実のものとなった場合は、ポンド/円は直近高安を結んだフィボナッチリトレースメント 61.8%押し
水準である 147.00 円付近まで下落する可能性も考慮に入れる必要があります。
また、英国の EU「離脱」により欧州経済が大打撃を受けることは先に述べた通りで、ユーロにとっても売り材
料となることも想定できます。
以下、ユーロ/ドル・月足チャート・20 ヶ月移動平均線+フィボナッチリトレースメントをご覧ください。
<シナリオ 2>が現実となった場合は、ユーロ/ドルが直近安値である 1.0457 ドル付近まで下落する可能
性も考慮に入れる必要がありますが、この場合はユーロにとって、またはその“屋台骨”であるドイツにとって
嫌な方向、つまりユーロ高となる可能性もあるため、画一的・短絡的な動きには必ずしもならない可能性も
視野に入れる必要があります。
世界経済への打撃となれば、やはりリスク回避で嗜好されるのは日本円というのが不文律となっている昨
今、<シナリオ 2>への備えと言う意味では、円買いポジション(=外貨売り・円買い)を取るのが得策なのか
も知れません。
上記はあくまでシナリオに応じた仮説であることを理解された上で、今後のトレード戦略のご参考としていた
だければ幸いです。いずれにしても、今後はボラティリティの高い相場展開も予想されるため、リスクマネージ
メントを第一に取り組んでいただくようお願いします。
<チーフアナリスト 津田隆光>
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