「長寿安心年金」 の創設

01
特
集
「長寿安心年金」
の創設
―持続可能な社会保障制度の構築に向けて―
いつまでも安心して暮らせる社会を実現するため、
将来的に予想される公的年金の給付水準の低下を補う
私的年金制度「長寿安心年金」の創設を提言いたします。
ポイント
□ 公的年金を
「長寿安心年金」
で補う
□「終身性」
「安定性」
「普及可能性」
がカギに
既存の社会保障制度は転換点
□「公私二本柱の生活保障」
で安心社会へ
将来設計を立てることがより重要に
当協会は、公的保障と私的保障の適切な連携の一
可避な状況となっています。
こうした状況は、国民
方策として、
「 安心社会を実現するための社会保障
一人ひとりにとって、自身の将来や老後の生活など
制度の構築に向けて―公的年金を補完する『長寿
に対する漠然とした不安につながっています。将来
安心年金』の創設―」を提言いたします。日本の社
の国民負担の増加への対応や、漠然とした不安の
会保障制度は、少子高齢化の進展や、積み上がる
軽減に向けては、若い時から自らの将来設計を立
公的債務の存在などにより、持続可能性を高める
てて、必要な事前準備を行うことが、
より一層重要と
ための見直しを迫られており、国民負担の増加が不
なります。
平均寿命などの推移
100
(歳)
80
男性の平均寿命
76.5
76.6
77.5
100
65歳まで生存した方の
平均死亡年齢
81.2
79.5
75.9
73.3
82.5
(歳)
84.2 歳
77.7 80.5 歳
80
女性の平均寿命
78.9
85.0
82.6
81.9
78.7
87.4
89.1 歳
84.6 86.8 歳
74.6
70.1
69.3
65.3
60
80.3
79.1
65歳まで生存した方の
平均死亡年齢
60
61.5
58.0
平均寿命
(0歳の方の平均余命)
平均寿命
(0歳の方の平均余命)
40
S25
S35
S45
S55
H2
H12
H22
H26
40
S25
S35
S45
S55
H2
H12
H22
H26
特定の方が長生きしていた時代から、
より多くの方が長生きする時代へ
06
※出典:厚生労働省
「平成26年簡易生命表の概況」
より作成
公的年金の給付水準は低下を見込む
長生きへの備えは喫緊の課題
及び私的年金の「終身給付」機能は、特に重要にな
多くの要素を考慮する必要がありますが、
どのよう
ります。
しかしながら、社会保障制度を取り巻く環境
な場合であれ、自身の確実かつ安定的な老齢期の
などから、公的年金の給付水準は低下していく可能
所得確保(年金)は、重要な検討項目であり、必要と
性が高く、私的年金についても、平均寿命のさらな
なる年金額を積み立てるために要する期間を考慮
る伸長や歴史的な低金利の影響などにより、個人
すると、喫緊の課題でもあります。老齢期の所得確
年金、企業年金ともに、終身年金を提供することが
保を考える上で、
「長生き」への備えとなる公的年金
困難な環境になりつつあります。
「 長 寿 安 心 年 金 」の 創 設
生活設計の策定にあたっては、就業や結婚などの
「生活設計」の策定及び政策支援の重要性
これまで
手厚い
社会保障給付
家庭内の
支援が機能
・現役世代の増加
・高度成長
(大家族)
生活設計がなくても
なんとか暮らしていけた
公的負担の増加、消費の抑制などにより、
社会保障制度の持続可能性がさらに低下
今後
一定水準の
社会保障給付
・現役世代の減少
・公的債務の増加
家庭内での
支援が
限定的
(単身・夫婦のみ
世帯の増加)
政策支援などで
生活設計の
策定を促して、
悪循環を
断ち切ることが重要
生活設計がなければ
老後の生活で困窮する可能性
・健康状態が悪く保険に加入できない
・年金などの積み立てが間に合わない
公的年金補完のカギは
終身性、安定性、普及可能性
こうした状況は、社会全体の「長生き」への対応力
私的年金制度に求められる基本的な役割
が低下することを意味しており、今後、平均寿命が
終身性
ますます延びていく見込みであることなどを踏まえ
ると、近い将来に顕在化する大きな課題ではない
かと考えております。
このような課題から、公的年金
を補完する私的年金制度に求められる基本的な役
割は、
「 終身性」
「 安定性」
「 普及可能性」の3点であ
ると考えます。また、保険料支払時に定額の補助金
人は何歳まで生きるか
予測できないため
安定性
普及可能性
年金額が運用成績で大きく
減少しないこと
全国民を対象に
シンプルでわかりやすい
制度であること
を支給し、制度加入のメリットを国民一人ひとりに
わかりやすく伝えることによって、制度の普及を強
力に後押しするなど所得に応じた自助努力を政策
的に促すことも重要と考えます。
07
「公私二本柱の生活保障」で
真の安心社会の実現へ
当 協 会 は 、前 述 の 機 能を備えた 具 体 的 な 制 度イ
当協会は、
「 公私二本柱の生活保障」
という理念の
メージとして、
「長寿安心年金」の創設を提言いたし
もと、公的年金などの公的保障と、生命保険など自
ます。本制度を創設することにより、公的年金の給
助努力による私的保障が補完し合うことが、社会保
付水準の低下を補い、生涯にわたる年金受給額な
障制度の持続可能性を向上させ、一人ひとりが自
どの予見可能性を高め、国民一人ひとりの生活設
分らしく活き活きとした生活を送ることができる、
計や必要な自助努力を支えることが期待できます。
真の安心社会の実現につながっていくと考えます。
ライフステージ別の収入と
「長寿安心年金」の関係
収入
豊かな生 活を送るための資
産形成や、退職から公的年金
受給開始までのつなぎなど
有期年金など
公的年金と
組み合わせ、
一定の所得を
終身で確保
(個人年金、企業年金)
就業などに
よる収入
その他
資産形成制度
(個人型DC、NISAなど)
長寿安心年金
公的年金
ライフステージ
公的年金の受給開始
退職
死亡
担当者の声
ドイツのリースター年金を参考に
長寿安心年金を提言しました
ドイツでは社会保障財政が逼迫するなかで、2001年
の年金改革において、公的年金の給付水準の見直し
と併せてリースター年金が導入されました。
リース
ター年金は、保険料の拠出段階で補助金と所得控除
の政府支援を設けた自助努力年金です。低所得層を
含めて順調に普及し、2015年末の契約件数は1,640
万件を超えました。
この度、当協会が提言した「長寿
安心年金」は、
リースター年金を参考にしています。調
査部では諸外国の年金制度の経緯や意義を研究して
調査部調査研究グループ
た けうち
まさこ
竹内 正子
08
おり、
こうした調査成果をもって社会保障制度の提言
お お はま ひ ろ こ
大濱 宏子
に寄与していくことが重要だと考えています。