ソ連崩壊後4半世紀を経て

国際ビジネス情報誌
平成 28 年 7 月15日発行
(毎月 15 日発行)
第 66 巻 第 788号
新たなビジネスのヒントを!
7
アフリカ
南 米
中 国
特集
2016
July
リスクに備える~TICADを前に
浸透する中国インフラ
売れない時代にどう売るか
ロシア・CIS
ソ連崩壊後4半世紀を経て
香港“スーパーコネクター”活用術
表紙 / クレムリン内の巨大な鐘 ツァーリ・コロコル
CONTENTS
2016 JULY
特集
特別リポート
ロシア・CIS
スーパーコネクターの活用術
香港
ソ連崩壊後 4 半世紀を経て
02
ソ連“後”はいまだ固まらず 04
ロシア
構造転換需要をつかめ 10
ロシア
消費者は倹約・貯蓄へ 12
ロシア
通関手続きで認識にズレ 14
ウズベキスタン
将来を見据えたビジネス提案を 16
37
トップインタビュー 新華集団 38
伝統的価値を基盤に強み創造 40
日本企業の香港活用ケーススタディー① YKK 44
欧米・中国企業にとってのプラットフォーム 46
アジア地域統括拠点 ~香港かシンガポールか~ 49
コラム シンガポールから見た香港 53
グローバルな“ビジネスコネクター”として
日本企業の香港活用ケーススタディー② ミキモト 54
香港との「共生」を目指す広東自貿区 カザフスタン
産業構造転換は外資に期待 7
56
18
CIS
域内統合にほころびも 20
CIS
「一帯一路」に各国の思惑が交錯 21
ウクライナ・モルドバ・ジョージア
EU と連合協定締結 23
投資コスト比較 26
香港「100 万ドルの夜景」
(p.37 ~特別リポート)
A R E A R E P O RT S
世界のビジネス潮流を 読 む
エリアリポートの読みどころ 紹介 【世 界】 中国消費市場の魅力なお
59
60
【中 国】 売れない時代にどう売るか 【南 米】 浸透する中国インフラ
68
62
【ドイツ】 中堅・中小企業をパートナーに 70
72
【バングラデシュ】 見本市アンケートに映る消費の姿
64
【ロシア】 危機を商機に、そして勝機に 【米 国】 中国を“市場経済国”と認めるのか
66
【アフリカ】 リスクに備える~ TICADを前に
74
連載
寄稿
トランプ旋風後の貿易政策
反 FTA 姿勢は軌道修正されるか 物価ウオッチング
中国・韓国編 北京/ソウル 30
国柄・土地柄・暮らしぶり
77
挑戦!国際ビジネス
京都府 京都鰹節株式会社
顧客ニーズにベストを 老舗「だし」メーカーの挑戦 82
シンガポール
押し寄せる高齢化と移民の波 33
話題の間奏曲
陸上国境 36
表紙画像:Vladimir Pcholkin/Getty Images
特集
ロシア・CIS
宮殿広場(ロシア・サンクトペテルブルク)
ソ連崩壊後4半世紀を経て
ソ連が解体されてから25 年。ロシアにとっては“外国”となった近隣
諸国との政治的・経済的関係をいかに維持するかに腐心した期間だった。
一方、ロシア以外の国々にとっては、
ソ連の継承国家たる旧宗主国の「く
びき」からいかに脱するかが、程度の差こそあれ大きなテーマだった。こ
の 4 半世紀は、そのせめぎ合いの歴史だったと言っても過言ではない。
この地域を包括的に見れば、ロシアを中心とするユーラシア経済連合
首相府(ウクライナ・キエフ)
の創設、ウクライナなどの欧州への急接近など、今もロシアを中心に求
心力と遠心力が相互に作用している。
旧ソ連の国々が今後どのような方向に進むのか、さらに日本企業にとっ
てどのような市場となり得るのか…それらを浮き彫りにするのが本特集
の狙いである。 (ジェトロ海外調査部欧州ロシアC I S課)
モスクワシティ(ロシア・モスクワ)
▼ CIS 諸国概況
ロシア
ベラルーシ
207,600k㎡
ウクライナ
603,500k㎡
モルドバ
33,846k㎡
ウズベキスタン
面 積
17,098,200k㎡
447,400k㎡
人 口
1億4,650万人
949万人
4,293万人
356万人
3,103万人
首 都
モスクワ(1,220万人)
ミンスク(194万人)
キエフ
(285万人)
キシニョフ(68万人)
タシケント(235万人)
主要産業
鉱業
(石油、
天然ガス、
石炭など)
、
鉄鋼、
機械、
化学、
繊維
農業、金属加工機械、
トラクター、
トラック、
土工機械、
オートバイ
農業、石炭、
電力、
鉄・非鉄金属、機械・
輸送用機器、化学品
農業、砂糖、食用油、
食品加工、農業機械、
鋳造機械、家電
繊維、
食品加工、
機械設備、
金属加工、
探鉱、
化学
2,121ドル
1人当たりGDP(2015年)
9,055ドル
5,749ドル
2,005ドル
1,805ドル
消費者物価上昇率(2015年前年比)
15.5%
13.5%
48.7%
9.6%
8.5%
日系企業数(2014年10月1日現在)
466
7
42
1
17
WTO加盟状況
2012月8月 加盟
オブザーバー参加
2008年5月 加盟
2001年7月 加盟
オブザーバー参加
▼ビジネス環境指標の比較
事業の立上げ
建設許可取得
輸出
手続
(数)
日数
手続
(数)
日数
ベラルーシ
ウクライナ
モルドバ
4.4
3
4
4
ウズベキスタン
5
10.5
3
7
4
6.5
19
16
10
27
23
263.5
115
67
276
176
書類手続き(時間)
42.5
4
96
48
174
税関手続き(時間)
96
5
26
3
112
51
44
83
52
87
ビジネス環境総合順位(189ヵ国・地域中)
02 2016年7月号 ロシア
特集
ロシア・CIS ソ連崩壊後4半世紀を経て
ソ連“後”はいまだ固まらず
ジェトロ海外調査部主幹 梅津 哲也
ソ連時代には、連邦を構成する共和国ごとに独自の
業体制、言い換えれば経済的な連関が断ち切られたこ
産業立地があり、共和国間では原料採掘・栽培、加工
とや、各国が貿易・経済分野でうまく連携を図れなか
あるいは最終製品の生産という分業体制が存在した。
ったことが大きな理由だ。国有資産の私有化が進めら
しかし、ソ連が解体されると、その関係は大きく変化
れる中、その再配分が必ずしも適正に行われなかった
した。
「ソ連」という“くびき”から解き放たれた12
という指摘もある。紛争による混乱もこれに拍車をか
の CIS 諸国
注1
は、相互の結びつきを維持しつつも、
けた。内戦が継続したタジキスタンやジョージア、モ
その枠組みにとどまることなく域外諸国との新たな関
ルドバ、また民族対立が国家間の紛争となったアゼル
係を構築していった。社会主義から資本主義へという
バイジャンとアルメニアなどでは特に落ち込みがひど
体制移行を余儀なくされた CIS 諸国は、必然的に国
く、1992 年の実質 GDP 成長率は軒並み前年度比 20
際経済の枠内に組み込まれることになり、それぞれの
~40%台のマイナスとなった。それ以外の国々でも経
経済やビジネス環境も大きく変貌するに至る。
済的な落ち込みは避けられず、経済規模は独立前と比
べて極端に縮小した。
その後、国によってばらつきはあるものの、徐々に
ロシアの存在感依然大きく
経済の落ち込みは下げ止まり、落ち着きを見せていっ
ソ連崩壊後、連邦構成各国の経済関係がどのように
た。比較的経済規模の小さい国々、中でも 94 年にア
変遷したか――。図 1 から分かるように、独立直後の
ゼルバイジャンと停戦合意したアルメニアや、シェワ
各国経済は一時大きく落ち込んだ。ソ連時代の国内分
ルナゼ元ソ連外相の最高会議議長就任により混乱が収
束し安定へと向かったジョージアでは、いち早く経済
図1 CIS 諸国の GDP の推移(1991年=100)
300
図2 CIS 諸国の GDP 比較(ドル建て)
(1992年、2000年、2015年)
ウズベキスタン
カザフスタン
アゼルバイジャン
200
アルメニア
タジキスタン
ロシア
ベラルーシ
キルギス
100
2000年
2015年
ウクライナ
モルドバ
0
1991
1992年
ジョージア
ロシア
カザフスタン
ウクライナ
ベラルーシ
アゼルバイジャン
ウズベキスタン
トルクメニスタン
93
95
97
99
2001
03
05
07
09
11
注:トルクメニスタンを除く。2015年の同国 GDP は481.7(1992年=100)となった
資料:CIS 統計委員会、IMF, World Economic Outlook Database, April 2016を基に作成
04 2016年7月号 13
15(年)
その他
注:2015年は推計。1992年はジョージアを除く
資料:IMF, World Economic Outlook Database, April 2016を基に
作成
寄稿 トランプ旋風後の貿易政策
反 FTA 姿勢は軌道修正されるか
米州住友商事ワシントン事務所 シニアアナリスト 渡辺 亮司
労働者階級が怒りをあらわにした選挙――2016年
米国全体の雇用者数は過去 15 年間で約 3,200 万人増加
米大統領選は歴史にかく刻まれるであろう。労働者の経
したが、製造業雇用者数に限れば 500 万人の減となって
済的不安に呼応する形で、有力候補が経済ナショナリズ
いる(図)
。これは、技術革新による生産性の向上、グ
ムの立場を取り、議論を反自由貿易(反 FTA)にシフ
ローバリゼーションによる競争激化など、経済政策を超
トさせた。環太平洋パートナーシップ(TPP)の先行
えたいわば時代の趨勢に起因したものともいえる。
すうせい
きには不透明感が漂う。とはいえ、次期政権が共和党・
トランプと、民主党予備選に参戦したバーニー・サ
民主党のいずれになろうとも、発足後には選挙戦で大幅
ンダースの両候補は、どちらもこうした問題の本質に迫
にシフトした貿易政策を、オバマ政権が敷いた路線に多
る議論を避けているようにも見える。ともに製造業雇用
少なりとも軌道修正するだろうと予想される。
の縮小の一要素にすぎない FTA を批判し、製造業など
に従事する労働者階級の「怒り」を代弁することで支持
を集めているのだ。米ピュー・リサーチ・センター注 1
貿易政策がクローズアップ
の世論調査(16 年 3 月実施)によると、トランプ氏支
2016 年 11 月の大統領選の本選挙は、民主党のヒラリ
持者の 67%が FTA は米国にとって「悪い」と回答。支
ー・クリントン候補と共和党のドナルド・トランプ候補
持基盤の多くが反 FTA だ。
「有権者は技術革新やグロ
の対決となることがほぼ確実視(6 月 2 日時点)され、
ーバル化については投票で意思表示することはできない
経済、中でも特に貿易政策が争点となる可能性が濃厚だ。
が、貿易についてならできる」。16 年 4 月、ワシントン
ギャラップ世論調査(16 年 1 月実施)によると、16
市内の会合で米通商代表部(USTR)マイケル・フロマ
年の大統領選の最重要課題として、共民両党の支持者が
ン代表もそう語った。
いずれも上位に挙げたのは「経済」であった。共和党支
16 年の大統領選における貿易政策論争では、「FTA
持者は「経済」を 1 位、
「雇用」を 3 位に、民主党支持
推進の共和党」vs「反 FTA の民主党」という伝統的構
者は「経済」を 3 位、
「雇用」を 1 位に挙げた。08 年の
図が崩壊した。そして経済ナショナリズムの高まりとと
リーマン・ショック以降、米国経済は緩やかな回復基調
もに、
「ワシントン政治を牛耳り FTA を推進してきた
にある。とはいえ、実質世帯年収(中位数)は 1999 年以
主流派」vs「労働者階級が支持する反 FTA の反主流派」
降下落傾向にあり、米国民の多くは経済回復を実感でき
という対決の構図が生じ始めたのだ。選挙戦を通じ、そ
ていないようだ。米労働省労働統計局(BLS)によると、
うした双方の声を代弁する二つのグループが、党派を超
えて形成されたとみることができる。情報通信技術や人
図 米国の労働市場
(100万人)
(100万人)
28
160
140
23
120
100
18
80
13
8
60
1990
93
96
99
2002
05
左軸:製造業雇用者数
資料:米労働者労働統計局(BLS)の資料を基に作成
30 2016年7月号 08
11
40
14(年)
右軸:全雇用者数
(農業除く)
工知能といった新たな技術が生んだ第四次産業革命の時
代を迎え、省人化が進む米国製造業だが、政府による労
働者向けのスキル取得支援やセーフティーネットの整備
が追いついていないのが現状だ。時流に取り残された労
働者がこのまま増え続ければ、米国における反 FTA 的
機運が衰えるどころか増長していく可能性が高い。
大統領選では保護主義的主張が……
ピュー・リサーチ・センターの調査(16 年 3 月実施)
国柄・土地柄・暮らしぶり
シンガポール
押し寄せる高齢化と移民の波
シンガポール
ジェトロ シンガポール事務所 本田 智津絵
Singapore
クアラルンプール
シンガポールでは、広範な経済活動において外国人
国の家族への送金所、宗教施設もあり、生活に必要な
労働者の存在は欠かせない。外国人の増加で新たなコ
物は何でもそろってしまう。インドやバングラデシュ
ミュニティーが生まれ、もともと移民社会であるシン
などから仕事で当地に滞在している人にとって、ここ
ガポールに新たな彩りを添えている。一方、国民の高
は日々の労働を忘れ、ホッとできる場所でもある。
齢化は急速に進行。スーパーやファストフード店など
シンガポールの人口は 554 万人で、北海道とほぼ同
で高齢者が働く姿も増えた。ただ、サービスの現場で
規模だ。その約 4 割を外国人が占めている。就労外国
は人材不足が深刻化しており、省力化に向けてあの手
人は経営者、技術者、医師、建設労働者、メイドとい
この手の工夫で対応している。
ったあらゆる職種で活躍しており、国内の経済活動に
多彩な外国人コミュニティー
観光ガイドブックでおなじみのカジノ付設型総合リ
ゾート「マリーナ・ベイ・サンズ」
。その対岸には高
はもはや欠かせない存在だ。外国人労働者の出身国別
の統計は公表されていないが、インドからの労働者は
40 万人以上、バングラデシュからは 13 万人以上、フ
ィリピンからは 17 万人以上いると推定されている。
層ビルが立ち並ぶ。モダンな街シンガポールから車を
むろん外国人コミュニティーはインド人街だけでは
走らせることたった 10 分で街の風景は一変する。も
ない。同様のスポットは街のあちらこちらに存在する。
ともとはインド系住民が集まる「リトル・インディ
繁華街オーチャードのショッピングモール「ラッキー
ア」
。しかし日曜日には、インドやバングラデシュか
プラザ」には「リトル・マニ
らの労働者が通りを埋め尽くす。にぎやかなボリウッ
ラ」がある。モールにあるの
注
ド の音楽が流れる中、インド料理に必須のギーと呼
は、フィリピンでマクドナル
ばれる油やスパイスの
香りが漂う。一瞬イン
ドにいるような錯覚に
陥るくらいだ。ここで
は故国の味が楽しめ、
使い慣れた日用品が買
える。母国で待つ家族
への電話に欠かせない
プリペイドカードや故
リトル・インディア
リトル・インディア内にある市場『テッカ・
センター』は、都心のスーパーよりも豊富
な品ぞろえで地元の人々に人気です
33
2016年7月号 特別
リポート
香港
スーパーコネクターの活用術
香港が中国に返還されて間もなく20 年を迎える。この間、中国は世界第 2 位の
経済規模へと躍進、ASEAN など周辺アジア諸国の経済も大きな発展を遂げた。
同期 間に、香港経済の規模は相対的には縮小したものの、
「自由で透明性の高い
ビジネス環境」は維持されている。
「一 帯 一 路」戦略など、新たな経済の枠組み形
成に向けた動きが活発化する中、グローバルビジネスの円滑な展開に向けて、香
港は中国と世界をつなぐ「スーパーコネクター」として自らを位置付け、世界中の
企業に香港の活用を積極的に呼び掛けている。ビジネスのさらなるグローバル化
に向けて、香港の果たし得る役割・機能を再発見・再活用してはいかがだろうか。
(ジェトロ香港事務所)
37
37
2016年7月号 2016年7月号 伝統的価値を基盤に強み創造
ジェトロ香港事務所次長 中井 邦尚
香 港 は1997年 に 英 国 か ら 中
香港の位置付けはどう変化したの
香港を「目標」に、中国の対外開
国に返還され、間もなく20年を
か。15年における香港の1人当
放の窓口として発展を遂げてき
迎える。返還後も「一国二制度」
た り GDP は、4 万 2,300 ド ル
た。15年 に お け る 深 圳 の 経 済
の枠組みに基づき、中国国内とは
に達し、既に成熟した「先進経済
規 模 は 2,809 億 ド ル と、 香 港
異なる諸制度が維持されてきた。
地域」となっている。一方で、そ
(3,093億ドル)を激しく追い上
だが、ビジネスの拠点として香
の成長率は中国を下回る傾向が続
港を捉えた場合、その位置付けは
いており、香港の経済規模は中国
低下したと見る向きもある。日本
との比較では相対的に縮小傾向に
企業の今後のグローバル展開にお
ある。
いて、香港はどのような役割を果
たし得るのか――。
80 年 以 降 の 中 国 と 香 港 の
げている注。
対中事業での香港の
プレゼンス低下
中国は、WTO 加盟(01年12
GDP を 比 較 す る と、92年 に お
月)時の譲許事項を履行するため、
ける鄧小平氏の南巡講話を受けて、
国内市場の開放を進めた。それに
中国の改革開放政策が本格化して
よ り2000年 代 以 降、 日 本 企 業
いた94年には、香港経済の規模
の中でも中国国内販売を強化する
中国への返還後、香港を取り巻
は、中国の約4分の1にまで高ま
流れが強まった。中国におけるビ
く最大の環境変化は、中国経済の
った(図)
。しかしその後は低下
ジネス基盤の強化に向けて、多く
勃興だ。返還時の1997年には、
傾向をたどり、15年には中国経
の日本企業が中国最大の商業都市
中国は世界第7位の経済規模を有
済の3%にも満たない規模となっ
である上海、あるいは中央政府が
す る に す ぎ な か っ た が、2010
ている。
所在する北京に統括拠点を設置す
中国経済の勃興を前に
年には日本を抜いて、第2位に躍
進した。
では、中国との比較において、
隣接する広東省深圳市との比較
るなどして、中国国内で中国ビジ
でもその状況が表れている。80
ネスを「グリップ」する傾向が鮮
年に経済特区に指定された深圳は、
明となっている。
ある日系企業は語る。「華南地
域を除いては、香港から中国を統
図 中国と香港との名目 GDP 規模の比較推移
括するイメージはない。国際金融
(%)
30
センターとしての機能を活用すべ
24.1
25
く、財務機能を香港に設置する意
20
義は引き続きあるものの、中国で
15
の事業展開においては、やはり拠
10
点を中国国内に設置する必要があ
る」と。
5
0
1980
2.8
85
90
95
2000
05
10
15(年)
注1:中国の名目 GDP を100とした場合の香港の GDP の割合
注2:2015年は中国国家統計局ならびに香港政府統計処発表の名目 GDP(中国は人民元建て、香港は香港ドル建て)を
IMF が発表している対ドル平均レートにて米ドル建て換算し作成
資料:IMF「World Economic Outlook Database, April, 2016」を基に作成
40 2016年7月号 中国ビジネスを中国国内で直接
行う傾向は、貨物の動きにも表れ
ている。従来、中国の輸出入にお
いては、香港を経由地として活用
世界の
を
ス潮流
ビジネ
読む
AREA
REP RTS
エリアリポート
読みどころ
紹介
世界 ◎ p60
南米 ◎ p68
中国消費市場の魅力なお
浸透する中国インフラ
中国の輸入停滞が顕著。その二大要因は、需要の低
迷と現地調達の進展。特に資源は前年比大幅減だった。
一方、化粧品や食料品などの消費財の輸入は堅調に伸
びている。中国ビジネスについての日本企業の見方は
業種によってさまざまだ。消費市場参入のキーワード
は、品質・機能性などにおける他社との“差別化”だ。
エネルギー、資源、農業、運輸など、特にインフラ
分野で中国のプレゼンスが拡大中。参入パターンは大
きく分けて三つ。①外資企業の撤退案件を引き継ぐ、
②外交関係をベースにする、③バリューチェーンに食
い込む。外貨繰りに苦しむ左派政権の国々を中心に、
中 国 企 業 の 活 動 が 目 立 つ。 対 南 米 投 融 資 の 状 況 は。
中国 ◎ p62
ドイツ ◎ p70
売れない時代にどう売るか
中堅・中小企業をパートナーに
中国の消費市場に変化が起きている。端的に言えば、
嗜好の多様化と消費スタイルの二極化。実際に小売業
関係者からは「買うものを選別する顧客が増えた」と
の声もある。ではどう売るか。他では「買えない」
「経
験できない」を武器に、中国人のニーズに合った商品
をいかにそろえ、いかに提供するかが成否を分ける。
ドイツ産業の強みは、高度な技術力とニッチ分野で
の競争力を有する中堅・中小企業が多い点だ。日本企
業のパートナーとしてはどうか。それを探るべく、対日
事業拡大中のドイツ企業2社の事例を紹介。世界市場
で競争力を発揮するこれら企業の技術や製品を取り入
れることで、海外進出が容易になるという利点はある。
バングラデシュ ◎ p64
ロシア ◎ p72
見本市アンケートに映る消費の姿
危機を商機に、そして勝機に
国内最大の国際見本市で、ジェトロは来場者を対象
に消費に関するアンケート調査を実施した。商品の購
入場所や情報源など、最新の消費スタイルの実情が浮
き彫りに。日本製品が生活に浸透していないことも分
かった。日本製品を知る機会づくりから始める必要が
ありそうだ。インターネットは最有力広報手段の一つ。
経済低迷下のロシアでは、事業見直しを迫られる外
国企業が多い。だが厳しい事業環境下にあって、逆に
事業拡大に取り組む企業もある。ルーブル安や賃料の
低下を追い風と捉え、将来的なチャンスにつなげよう
と動き始めているのだ。中には、自動車など低迷する
分野から別の産業分野に開発の重点を移す日系企業も。
米国 ◎ p66
アフリカ ◎ p74
中国を“市場経済国”と認めるのか
リスクに備える~TICAD を前に
対中貿易の長期的赤字を記録する米国が、中国を市
場経済国と認めるか否かの選択を迫られるのが2016
年。これは今後のアンチダンピング措置の実効性を左
右する。公聴会は「認めない」との見解で一致。非市場経
済国と認定された場合、中国による通商上の報復の恐
れがある。
「認める」場合、国内産業への打撃は不可避。
アフリカ地域でビジネスを行う上で経済・治安面で
のリスク対策は避けて通れない。だが、必要な対策さ
え採ればビジネスを進めることはできる。ジェトロ主
催の「アフリカ安全対策セミナー」の内容を踏まえつ
つ、企業が講じ得るリスク対策の具体例にも可能な限
り触れる。組織横断的な危機管理の手法が有効となる。
し こう
59
2016年7月号 挑戦!国際ビジネス 京都鰹節株式会社
顧客ニーズにベストを
老舗
「だし」
メーカーの挑戦
かつお
「伝統を超える革新性」。それが老舗鰹節メーカー・
京都鰹節のスローガンだ。常に危機感を持ちながら新
商品を開発し、海外にも挑戦する。和食の枠を超える
「だし」で国内外の外食産業発展に貢献する。
「Food Expo 2015」
(香港)の様子
伝統を超えろ
和食の要である「だし」
。本社倉庫の前には出荷待
ちの鰹節や昆布がずらりと並ぶ。鰹節の良い香りが充
満する工場に一歩足を踏み入れれば、ふわふわの削り
なっている動物系と魚介系を合わせたダブルスープを
どこよりも早く提案したのは当社だ」と志村会長は語
る。
中華だしパックと調味料との“相乗効果”に加えて、
節でやさしく包まれているような気分になる。京都鰹
ラーメンが“国民食”としてブームになったことも追
節の創業は明治 10(1877)年。いにしえの都・京都
い風となり、ラーメン部門の販売は好調。「先代は鰹
にて「京のだし」に必須の削り節、昆布を中心に飲食
節とうま味調味料が外食産業でうまく共存できること
店向けの卸販売を行ってきた。「伝統を超える革新性」
を見事に予見していた。先代を踏襲し、時代の先を読
を旗印に、時代と共に変化する食文化に対応すべく商
むことを私も心掛けている」と同会長は述べる。中華
材を拡充してきた。
だしパックは今では、ラーメン・中華業界のベストセ
1949 年には「味の素」の販売代理権を取得。常に
ラーといわれるまでになった。商材も増え、削り節や
危機感を持ち、新しい事業に挑戦する社風は、志村雅
昆布のみならずだしパック、そばつゆ、味付けにしん
之代表取締役会長の父である 2 代目社長志村政雄氏の
なども含めた商品群を和食、うどん、そば、ラーメン、
ころからすでに存在していた。
中華料理の各店に卸しており、直接取引を行う飲食店
天然のだし原料を製造・販売する会社がうま味調味
は全国に約 5,000 店を数えるに至った。
料の販売を始めたことは、同業他社からは強い批判を
受けた。しかし、味の素の販売代理店業務を通じて飲
食店への販売ルートは確実に広がった。
71 年に削り節をブレンドした「中華だしパック」
を独自開発。これにより、ラーメン店との取引が一気
多種多様な
削り節
に拡大した。
「当時のラーメン業界は、鶏ガラや豚骨
などの動物系スープが中心だった。それに対して、魚
介系スープを積極的に売り込んだ。今では当たり前に
同社商品
だしの海外展開
海外に目を向けたのは志村会長だ。同会長は学生時
代表取締役会長:志村 雅之
創業:1877年(法人改組:1949年)
資本金:2,500万円
所在地:京都府京都市南区吉祥院石原堂ノ後西町7
従業員数:85人
事業内容:削 り鰹の製造卸売り、出し昆布、和
食・ラーメン食材卸
URL:http://www.kyoto-katsuo.co.jp/
82 2016年7月号 代に米国に留学。その時にインターンとして企業研修
を経験している。大学卒業後、いったん大手流通会社
に就職。その後、70 年に同社に入社した。米国での
インターン経験から、自社商品の海外での可能性は既
に感じていたという。2000 年代に入り、輸出に向け
た取り組みを本格的に始め、シンガポールや香港の展