弾性波探査ガイドブックの紹介

地熱探鉱・開発における
弾性波探査ガイドブック
株式会社地球科学総合研究所
研究開発部 物性解析グループ長
青木直史
地熱探鉱・開発における弾性波探査ガイドブック 【構成】
基礎編
1.
地熱貯留層探査における弾性波
探査の役割
1.
2.
3.
4.
5.
2.
地熱貯留層探査技術開発の目的
弾性波探査とは
反射法地震探査による断裂系把握
地熱開発における地質モデルとその
役割
地熱地域への弾性波探査の適用
弾性波探査の基礎的事項
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
反射法の基本原理と地下構造推定
の手順
弾性波探査の主要機材
反射法測線計画
データ取得作業の概要
基本データ処理とその品質管理
特殊データ解析および高精度イメー
ジング
反射法地震探査データ解釈
3次元反射法データに基づく断裂系
評価手法
応用編
3.
実証サイトでの弾性波探査データ
取得
事前準備
許認可(届出)
4.
実証試験における弾性波探査地質
モデル構築
5.
実証試験データに基づく構造・断裂
構造評価
6.
実証試験データに基づく地質モデル
構築
7.
実証試験データを用いた各種デー
タ取得配置比較
(フェーズ2)
異方性解析
異種物理探査データとの統合
*本日の話題
本講演のアウトライン
1. 地熱貯留層探査における弾性波探査の役割
2. 弾性波探査の許認可(届出)
1. 地熱貯留層探査における
弾性波探査の役割
弾性波探査とは
• 弾性波を用いて地下の構造や物性を推定する物理探査。
• 国内地熱地域では1959年の松川地域での調査より、これまでに30数件の2次元調査
が行われている。
• 近年は3次元調査が一般的となり、データ解析法にも大きな進展が見られる。
• 平成27年度にはJOGMECにより、3次元弾性波探査の実証試験が山川地熱地域におい
て実施され、地熱地域の地質的特長の抽出に有効であることが示された。
観測車
(ディジタル記録システム)
受振器(地震計)
起振車
反射波
屈折波
地層境界
データ取得作業模式図
H27実証試験(山川地熱地域)の調査測線図
反射法地震探査データ処理の原理
発振点と受振点を共通とする観測記録(トレースと呼ばれる)を集め、
反射波走時を揃える補正を行い加算(重合と呼ばれる)することで地質境界を描き出す。
トレース
共通反射点(CMP)重合法のデータ取得基本概念図
CMP重合法におけるデータ処理の基本概念図
ノイズレベルには地域差があり必要とされる重合数は一般化できないた
め、調査計画では既往調査の情報やフィールドテストが重要となる。
反射法地震探査の種類と特徴
種類
主な目的
調査法
特徴
2次元地震
探査
概査:地熱貯留層
の広がりの把握
直線状の測線において直
下の反射記録を取得
浅部から深部までの断裂構造や
岩相変化を大局的に把握。
3次元地震
探査
精査:構造、断裂
系・異方性、岩相・
岩質の詳細把握
面的な測線により地下3次
元空間の反射記録を取得
数十mからの高い空間分解能。貯
留層評価・管理に役立つ詳細地質
評価が可能。
2次元地震探査記録の例
大霧(H8)の再解析結果(H25JOGMEC現況調査)
3次元地震探査記録の例
山川(H25)の坑井沿い反射記録
屈折トモグラフィー解析
種類
主な目的
調査法
特徴
屈折トモ
グラ
フィー
弾性波速度構造把
握
屈折初動走時を用い
たインバージョン解析
展開長に対し1/5~1/10程度の探査深
度を持ち、大局的な弾性波速度構造の
把握に優れる。
2次元屈折トモグラフィー例
葛根田(H6)への適用結果(H25JOGMEC現況調査)
3次元屈折トモグラフィーの例
山川地熱地域の陥没地形を埋める堆積層の速度分布。
白黒 :陥没構造(南薩層群上部層上面サーフェイス)、
カラー:標高-40~-1360mの深度スライス。それぞれコヒー
レンス解析に基づく推定断裂位置が重ねられている。
地熱開発における弾性波探査への期待
• 地熱貯留層を形成する断裂構造の可視化
• 地質モデルの高精度化による地質リスク低減
地熱貯留層の概念図
3次元反射法記録より推定された断裂分布
IL180
Depth slice:
-1,000m
コヒーレンス解析(センブランス記録)のインライ
ンと深度スライス記録を鳥瞰図表示した図面。
断裂など地質の不連続が黒で表現されている。
地熱開発における地質モデルとその役割
• 地質モデルとは
 物理探査、検層、地質調査等により判明した堆積物や岩体の分布状況を、
コンピュータ上で表現した地下空間のモデル
• 役割
 統合地下情報の3次元的可視化
 迅速かつ適切な問題解決・意思決定
山川地熱地域の地質モデルの例
地質モデルに基づく問題解決の例
坑跡沿いの断裂帯通過位置予測
• ターゲットの選択とジオハザードの予測
• 効率的かつ効果的な坑跡の設定
坑跡比較
南薩薩摩層群
上部層上面構造
Track B
Track A
計画坑跡沿いに
抽出された
Semblance
断裂帯
B
A
地層境界
石英安山岩
上面構造
Semblance
石英安山岩
上面深度
地熱貯留層
(ターゲット)
石英安山岩
上面構造
坑井掘削計画の最適化に有効
地質モデルを中心とした
弾性波探査データの評価サイクル
期待される効果
①
②
③
坑井掘削の成功率向上
地質モデルの高精度化と
地熱システムの理解促進
適切な坑井配置と生産管理
弾性波探査データに基づく評価作業モデルケース
地熱フィールド開発
調査・解析項目
概査
備考
2次元調査・データ処理
測線数:1~数本
各測線長:6~10 km
2次元構造解釈
多種物理探査統合解釈
検層
(密度、音波、孔隙率)
VSP
(またはチェックショット)
ポストウェルスタディー
坑井-震探対比、
岩質・岩相解析
多重反射波の同定、
深度変換
坑井データを用いたモデル見直し
精査
3次元(または準3次元)調
査・データ処理
調査エリア:
>4 km x 4 km
構造評価
アトリビュート解析、
多種物理探査統合解釈
特殊解析・高精度イメー
ジング(オプション)
速度モデル構築、重合前深度イメー
ジング等
断裂系・異方性評価
断層面自動抽出、高透水性ゾーンモ
デル構築
岩質・岩相評価
岩相・物性の推定
ポストウェルスタディー
坑井データを用いたモデル見直し
→流体流動シミュレーションのモデルに反映
3次元弾性波探査データを用いた地質評価
評価項目
目的
作業内容
坑井との
対比に必
要なデー
タ
構造評価
•
地質モデル
のフレーム
ワーク構築
•
•
•
T-Dカーブに基づく深度変換
ホライゾン解釈を実施し構造形態を把握
コヒーレンス解析を適用して不連続構造を
可視化
T-Dカーブ
(VSPデー
タより作
成)
断裂系・異
方性評価
•
流体流動に
対する断層
の寄与を推
定
•
コヒーレンス記録等を用いた断裂の定量
的解析
断裂型貯留相モデル構築のためのパラ
メータを推定
FMI他
•
備考
玉川他(2010)
岩質・岩相
評価
•
岩相・岩石
物性の推
定
•
•
坑井データ(密度、音波検層、孔隙率等)と
反射法記録の関係式を構築
擬似坑井を作成しモデルを構築
坑井3本
以上の検
層データ
高橋・柏原(2008)
更に追加坑井が掘削された際は上記の再評価を実施し地質モデルを更新する。
3次元弾性波探査データを用いた構造評価
• 作業内容
 T-Dカーブに基づく深度変換
 ホライゾン解釈を実施し構造形態を把握
 コヒーレンス解析を適用して不連続構造を可視化
実証試験の例
構造評価[1] T-Dカーブに基づく深度変換
• 反射法記録はTime-Depth(T-D)カーブを通じて坑井との対比が可
能となる。
• T-DカーブはVertical Seismic Profiling (VSP)により得られるほか、音
波検層から推定される。
反射法時間断面
反射法深度断面
坑井データ
実証試験の例
構造評価[2] ホライゾン・断層解釈
• 地質マーカーや断層位置の情報を統合しながらホライゾンおよび断層の
解釈を行う。
実証試験の例
構造評価[3] コヒーレンス解析
• コヒーレンス解析を実施し、不連続構造を可視化する。
• 推定不連続構造と逸水の位置の対応を調べ、断裂の存在を確認する。
2. 弾性波探査の許認可(届出)
弾性波探査データ取得準備作業
弾性波探査の事前準備手順は概ね以下の流れで行われて
いる。
(1) 調査実施計画(概略案)作成
(2) 現地踏査
(3) 地元交渉・周知
(4) 調査実施計画
(5) 許認可(届出)
許認可申請および届出
• 調査実施に際して、関係各機関に各種許認可申請や届出
を実施する。
• 公道を利用する弾性波探査では、管轄する機関への道路
占用許可および警察署への道路使用許可の申請が必要
となる。
• また、道路に埋設されたインフラの管理者や測線近隣の関
係者とも調整が必要となる。
• 平成24年度1月21日付けで施行された鉱業法の一部を改
正する等の法律(平成23年法律第84号)により、国内陸域
における弾性波探査には、所定の申請を行い経済産業大
臣又は経済産業局長の許可を受けることとなった(鉱業法
第100条の2)。
主な許認可申請および届出
(1) 探査許可申請
(2) 道路占用許可申請
(3) 道路使用許可申請
(4) 河川占用許可申請
(5) 埋蔵文化財保護
(6) 国立公園内での調査の許可申請
(7) 保安林における調査の許可申請
Appendix 「許認可申請および届出ガイド」参照
探査許可申請
様式第35(第44条の3第1項関係)
探査許可申請書
年 月
• 探査計画者が様式第35号(右)に従い、必
要事項を記入して管轄通産局の窓口に申
請する。
• また、探査申請図を様式第36号(左下)に従
い作成し、添付が必要である。
• 探査申請書に記載する必要事項
• 探査方法、探査機器
• 関係機関に問合せ又は面談結果
 鉱業権者(管轄通産局にて確認可能)
 遺跡(地域の教育委員会)
 公園(環境省、都道府県)など
日
経済産業大臣又は経済産業局長 殿
住所(郵便番号)
ふ
申請者
り が
な
氏名又は名称 印
(電話番号)
下記のとおり、鉱業法第 100 条の 2 第 1 項の規定により、探査の許可を受けたいので、探査を行おう
とする区域を表示する図面及び法第 100 条の 3 第 2 号に該当しないことを誓約する書面を添えて、申請
します。
記
1 申請区域の所在地
2 探査の期間
3 当該探査の実施計画
(1) 計画名
(2) 実施法人又は実施者の国籍
(3) 目的とする鉱物の名称
(4) 政府機関との委託関係がある場合、政府機関の名称及び住所
(5) 計画の目標
(6) 当該探査を実施しようとする区域の危険防止のために必要な措置に関する事項
(7) 当該探査の実施体制(請負に関する事項を含む。)
(8) 当該探査と関連する過去又は将来の探査計画
4 探査の方法
(1) 海域において行う探査にあつては船舶の詳細(計画に使用しているその他の船舶を含む)
① 船舶の名称、種類、船籍、船舶番号及び信号符号
② 船舶の所有者の氏名、住所及び電話番号
③ 船舶の責任者の氏名、経歴、住所及び電話番号
④ 全長、最大喫水、総重量及び航行最大速度
⑤ 船舶への通信手段
⑥ 船員数
⑦ 船舶全体を確認できる写真
(2) 装置及び機器の詳細
① 地震探鉱法又は第 44 条の 2 各号に掲げる方法のうち該当するもの
② その他に使用する主要な装置及び機器
③ ①②で使用する装置の仕様及び個数等
(3) その他、当該探査の方法を把握するために必要な事項
5 寄港予定地及び日付
6 公共の用に供する施設若しくはこれに準ずる施設、文化財、公園又は温泉資源の保護に関する事項
7 農業、林業、漁業又はその他の産業との調整に関する事項
8 申請に係る探査が他人の鉱区で行われるものの場合は、当該鉱区の鉱業権者との調整に関する事項
9 探査結果の取扱いに関する事項
備考
様式第 2 の備考 6 及び様式第 13 の 1 の備考 3 に準ずる。
実証試験における許認可(届出)スケジュール
内容
申請先
H27
.3
4
5
★★
探査許可申請書
九州経済産業
局
特 別 地 域 内 工 作物 鹿児島県
の新築許可申請書
自然保護課
道 路 占 用 許 可 申 請 鹿児島県
書
土木建設課
特 別 地 域 内 工 作物 指宿市環境政
の新築許可申請書
策課
道 路 占 用 許 可 申 請 指宿市
書
建設部土木課
8
測量
9
10
関連法
申請
鉱業法
提出不要
と判断さ
れる
自然公園
法
霧島錦江
湾国立公
園
道路法
国道・県
道
申請 着手届 完了届
申請
申請
完了届
着手届
備考
LVL調査:
浅層屈折
法調査
反射法調査
打合せ
自然公園
法
完了届
申請
申請
申請
道路法
変更届
完了届
申請
資材置場
借用
申請
行 政 財 産 使 用 許 可 指宿市農政課
申請書
道 路 使 用 許 可 申 請 警察署
書
南薩土地改良
区
7
測量 LVL調査
行 政 財 産 使 用 許 可 指宿市産業振
申請書
興部観光課
埋設管図面の購入
6
申請
購入
申請
申請
観測車置
場借用
道路交通
法
1ヶ月ごと
に提出
弾性波探査の経済的価値
地熱フィールド開発費
弾性波探査記録の経済的価値
弾性波探査の
経済的価値
• 弾性波探査記録に基づくターゲットの選定
と地質リスクの回避による成功確率の向上
より、抑えられる開発費が弾性波探査の経
済的価値となる。
• 特に高品質の3次元記録は、地熱開発の
全期間に亘り有益な情報を齎す資産となり
うる。
弾性波探査調査費
Hardage, 2000に一部加筆
26
謝辞
本調査の計画・実施に際しては、多数の方々から多大なご協力を
頂いております。ここに記して感謝の意を表します。
協力:
指宿市 市長公室・土木課・水道課・環境政策課・観光課・山川支所地域振興課
山川地区区長会
鹿児島県自然保護課
南薩地域振興局指宿市庁舎建設部土木建築課
南薩土地改良区
九州電力株式会社・山川地熱発電所
石油資源開発株式会社 環境・新技術事業本部 岡田浩明氏
27
Appendix
許認可申請および届出ガイド[1]
(1) 探査許可申請
探査計画者が様式第35号に従い、必要事項を記入して管轄通産局の窓口
に申請する。また、探査申請図を様式第36号に従い作成し、添付が必要で
ある。探査申請書に記載する必要事項には、探査方法、探査機器のほかに、
鉱業権者(管轄通産局にて確認可能)、遺跡(地域の教育委員会)、公園(環
境省、都道府県)などの関係機関に問合せ又は面談にて得られた結果が必
要である。
許認可申請および届出ガイド[2]
(2) 道路占用許可申請
道路占用許可は国道、県道、市町村道、農道、林道、有料道路などにおけ
る工事等に対し、管理者が許可証を発行するものである。弾性波探査では
測量杭や機器の設置について許可が必要であり、面積に応じて使用料を支
払う。書類は申請書のほか完了届けが必要となる。
(3) 道路使用許可申請
道路使用許可は国道、県道、市町村道、農道、林道、有料道路などにおけ
る作業・イベント等に対し、管轄警察署が許可証を発行するものである。道
路使用許可申請は、様式に従って記入し管轄警察署の交通課に提出する。
申請可能期間は最長1ヶ月間であることから、1月以上の調査では複数回の
提出が必要である。
許認可申請および届出ガイド[3]
(4) 河川占用許可申請
河川および河川地域の区域において、受振器の設置や発振点を設ける場
合は河川占用許可申請が必要である。一級河川(国)、二級河川(県又は市
町村)が管理し、地籍図や縦横断面図、求積図を含む提出図面のほか安全
対策(洪水等)や内水面漁協の承諾を必要とする。河川占用申請の場合も
他の申請書と同様、担当者と面談し作業説明後に申請の指導を受け、申請
書の提出、受理となる。
(5) 埋蔵文化財保護
探査申請書の記入事項でもあるが、市町村の教育委員会または国、県によ
り指定管理されている。調査エリア内に埋蔵文化財がある場合、市町村の
管理部署又は教育委員会にて作業説明後に必要な手続きを行う。場合によ
り区域の利用制限がある。この場合は調査測線の変更が必要である。
許認可申請および届出ガイド[4]
(6) 国立公園内での調査について
国立公園などは、各都道府県のホームページで国公立公園を含む公園の
名前や等級を知ることができる。国、県市町村の管理の違いにより、申請受
理から許可までの期間に幅があり、国公立公園で約3ヶ月、県立公園で1~
2ヶ月、市町村公園で2週間~1ヶ月である。公園内で禁止される行為として
指定された場合は、申請許可の対象外となる。この場合、調査区域の変更
が必要である。
(7) 保安林における調査について
多くの場合、林道の路肩を利用する。管理する林務管理局、都道府県、市
町村の管理事務所への作業説明後に、申請の指導を受け提出となる。
弾性波探査に関する参考文献
最新の物理探査適用事例集
物理探査ハンドブック
増補改訂版出版