2.情報・通信分野 滑らかなパタン形成の重要性は,PLC において導

2.情報・通信分野
滑らかなパタン形成の重要性は,PLC において導波路形成前のシリカ薄膜の損失値よりも,導波路形
成後の損失値が高いことからも明らかである。導波路形成時のリソグラフィとドライエッチングの加工
精度が,損失に影響を与えている。薄膜の損失のチャンピオンデータは 0.03dB/cm(Δ=1.8%),導波路
形成後の損失チャンピオンデータは 0.05 dB/cm(Δ=1.5%)である。図2−1に,これらチャンピオン
データをもとに,Δ値への依存性を考慮して損失値をプロットして示す。今後いっそうの集積化を目指
してΔ値を大きくする方向に進むので,滑らかな導波路形成のための加工技術はますます重要になる。
滑らかな形状加工に適した技術として,最近 LIGA 法で作成した鋳型を用いたナノインプリント技術が
注目されている。LIGA 法により作製した鋳型の精度はナノメータオーダーであり非常に滑らかなパタン
形成が可能である。また,量産の観点からもナノインプリント技術は期待できるので,今後の発展が非
常に注目されている。
図2−1 導波路加工による伝送損失の増加
3.半導体・電機分野
将来有望な光加工技術
(a) プローブカード狭ピッチ化:
半導体製造工程で、集積回路がウエハー上に完成すると、ウエハー
状態で回路機能が正常に動作していることを確認する工程がある。これが、プローブテスト工程であり、
集積回路検査装置(プローバー)と集積回路(IC チップ)の電気的接続を行うために必要な検査部品が
プローブカードである。IC チップの外側接触端子(ボンディングパット)に直接タングステン製のプロ
ーブ針をたてることによりテストを行う。図3−1に代表的なプローブカード(カンチレバー型)のポ
ンチ絵を示した。図のようにボンディングパッドへの接触端子(プローブ)、プローブを支持するセラ
ミックスリング、で構成されている。プローブの数は IC チップの外部接触端子の数だけ必要となり、
プローブのピッチはボンディングパッドのピッチと同様のピッチになる。
プローブカードに要求されているのは、①接触抵抗安定性、②高周波特性、③狭ピッチ化などがあ
る。この中でも③の狭ピッチ化は集積度の上昇、IC チップの微細化に伴い、特に早急かつ強い要望が来
ている。図3−2はボンディングパットピッチのロードマップである。LCD ドライバーは IC チップの中
でも最もパッドピッチが小さいデバイスであるため、プローブカードに要求される最小ピッチは LCD ド
ライバーのボンディングパットピッチとなる。現在、プローブカードは、熟練工の手作業によって作製
されているため、微細化は量産レベルで 40 ミクロン、試験レベルで 30 ミクロンが限界といわれている。
現在、最小寸法のものは液晶用に 45 ミクロンのものが用いられているが、次のターゲットは 30 ミクロ
ン以下である。
また、IC チップの外部接触端子の数はカスタム LSI で 200 本であり、1000 本程度のもので 500 万円
以上の高値となる。今後、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイの大画面化、高解像度化が求めら
れていくが、本観点からもプローブカード製造技術の革新なしには、ありえない。
図3−1に LIGA で作製可能となるプローブのポンチ絵を示した。LIGA を用いること利点は数多いが、
①手作業で一つ一つ作製していたプローブが1000本でも2000本でも一括生産可能、②形状が際
めて揃っている、③ドライエッチングプロセスでは達成し得ない形状が可能、④プロセスの簡略化の四
点が重要である。特に図3−1に示した液晶用のプローブは典型的である。今後、更なる狭ピッチ化、
薄型化が求められるが、LIGA の現行技術で十分クリアできる精度で、むしろ実装技術精度がネックとな
る。
②に関連しては、これまで手作業の場合、形状のばらつきがあったため、電極にプローブを強く押さ
えつけることが不可欠であった。姫路工業大学では LIGA により均一・同一形状化を可能にした。その
結果、接触抵抗が激減し、0.5 オーム程度なった。
(b) コイルロードマップ
現在、巻き線型コイルはコイル直径 18 ミクロン、サイズも 3.2mm*1.6mm が最小であり、情報端末に
は向かない、あるいは用途が限定されてしまう。チップコイルが半導体のフォトリソグラフィーとメッ
キにより作製されており、情報端末に用いられているが、高値でまた損失も大きいために、LSI で精度
の悪さをカバーしていくことが不可欠となっている。チップコイルは、現在、モバイル用で月産 20 億
個で、一個当たりの単価は 1 円程度である。
LIGA を用いて、マイクロコイルを作製する方法として、回転する円柱に露光を行い、メッキをかける
方法で達成可能である。ただ微細化は、高抵抗化、高損失化が起こってしまい、製品として意味をなさ
ない。そこで、高アスペクト比を有する線を巻線状にすることにより克服可能である。アスペクト比の
高い線の形成は、LIGA の最も得意とするところである。小型・低損失の立体コイルが量産できるように
なると、モバイル以外では血管中に入れて用いるセンサー、原子力配管のクラックの検出(Micro
Inspection Machine)、うず電流センサーなども可能となる。
図3−3 アクチュエーター重量に対する出力/重量
(c) アクチュエーター
アクチュエーターの小型化は、さまざまな分野のマイクロロボットとしての利用など幅広い分野からの
ニーズがある。図3−3はアクチュエーター重量(横軸)と重量あたりの出力(出力/重量;
の関係を表したものである。電磁方式のものは、微小化に伴い、出力/重量
W/kg)
が減少するのに対して、
静電方式や圧電方式は低下することなくむしろ増加する。従って、微細化に適したアクチュエーターと
いうことができる。圧電方式のものは、この図の上に表記されたパラメータで判断する限り、最も優れ
ていることになるが変位があまりとれないという欠点もある。静電方式のものは、例えば光通信用 MEMS
に利用されている。しかし、多くの加熱プロセスを経て形成されていくため、応力の問題の克服など課
題が多く、LSI の延長と考えるには困難が多い。また、強いパワーを出すことが難しいことがある。
以上、顕在化している欠点は LIGA 法により立体型にすることにより克服可能である。立体静電型櫛
歯型アクチュエーターは単純に100歯あれば出力は 100 倍になる。また、歯間の距離を短く、面積を
大きくすることによりハイパワー化が可能となる。このような構造の作製は、LIGA 以外は考えられない。
4.医療分野
(1)DNAシーケンシングの進展に伴う光加工ロードマップ
電気泳動は生命科学研究で最も頻繁に行われている手法である。この実験手法は最近、チップで行う
技術へと発展してきている。省力化できて、データーの精度も高い技術に関しても光加工技術が求めら
れている。
10 年前にヒトゲノムの解析研究が開始された当初に比べてシークエンシング終了期限は大幅に短縮
された。これは、キャピラリーアレイ電気泳動のDNAシークエンサーの出現によりゲノム解析が急進
したことによるといえる。ゲノムシークエンシング終了が目前に迫った今日、ポストゲノムシークエン
シングの課題として、ゲノム創薬、オーダーメイド医療、個人ゲノムが注目を集めている。特に、1塩
基多型解析(SNP)は欧米をはじめ日本でも、1999年以来5省庁横断国家プロジェクトとなっている。
図4−1はDNAシークエンシングロードマップである。20年で 6 桁多い塩基対のシークエンシング
の達成が望まれている。
解析手法には上記キャピラリーアレイ電気泳動の他、ゲル電気泳動、マイクロチップ電気泳動がある。
図4−2にこれらの長短所のイメージをまとめた。このうち最近最も注目されているのがマイクロチッ
プ電気泳動であり、基本原理は、以下のとおりである。まず、十文字に彫った数十ミクロンの幅の溝に
ゲルと緩衝液を充填して、電場をかける。次に直交する方向に溝に電場をかけることで、直交部分の微
小体積の試料を正確にかつ再現性よく切り取ることができる。この微小試料を溝内に充填されたゲル中
を電気泳動させることによって、サイズごとに分離することが可能となり、サイズごとに分かれたサン
プルのバンドを蛍光もしくは紫外光で検出するという方法である。
図4−2 各種電気泳動の長短所のイメージ
現在、溝はウエットエッチングまたはドライエッチングにより形成されたものが用いられているが、
前者は流路断面が楕円形に、後者は断面が極めて粗いことが、電気泳動の再現性や蛍光もしくは紫外光
で検出するときの精度に大きく影響してきている。また、1 枚あたり数万円であるため、ウイルス等を
扱うことを考えるとディスポーザブルが望ましい。さらに、半導体集積回路と同様、より多くの試料を
より早く分離・分析するには、溝の更なる微小化を進める必要があるが、この時、溝の深さが浅くなっ
てしまうことは、蛍光もしくは紫外光で検出するときの分析感度を下げてしまうので好ましくない。以
上をまとめると、流路の微細化、高アスペクト比化、流路の平滑性の向上、ディスポーザブル化が望ま
れていることがわかる。これら、全てを満足する製造技術として LIGA が注目されており、産総研など
一部で既に研究が始まっている。表面の平滑性はドライエッチング品に比較しても著しく向上している
ことは肉眼でもはっきりとわかるものができている。図4−3 に半導体の進歩とゲノム技術の進歩を対
比的に示した。
さらにゲルに換わるナノ分離担体を作製することが望まれている。現在ではメチルセルロースのよう
なポリマー溶液を用いてポリマー同士の絡み構造を作製し、孔を形成させる。DNAはポリマー溶液中
を泳動する間にゲルと同様の分子ふるい効果により分離が達成される。図4−4に解析可能なDNAサ
イズとポリマーメッシュサイズの関係を示した。従って、10∼80 ナノメートル程度のサイズの構造体
を作製できればゲルやポリマー溶液を用いなくとも簡便にそして高速でDNA解析をチップ上で行う
ことができる。高アスペクト比の流路に高アスペクト比のピラーアレイが形成できれば、高精度な塩基
対の分離が可能となる。既に LIGA を用いたマイクロ流路中のナノピラー形成の研究が行われている。
特に100ナノメートル程度のピッチを持つピラーアレイの形成によって 4 乗オーダーの塩基対の分離
が(網がけ部分)可能となるので、今後の発展が興味深い。
ゲルを充填した溝の端にサンプルを注入してプラス方向に泳動させ、もう一方のみぞにゲノム解析を
半導体の高集積化と比較すると図4−3に示すとおり、現在は IC レベルとであり、今後の更なる集積
化が必要となる。
謝辞 本稿作成にあたり新エネルギー・産業技術総合開発機構 阿刀田技術参与兼主任研究専門員、姫路
工業大学服部教授、内海助教授にコメントをいただいた上で本稿を作成しました。お礼申し上げます。