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カレント・トピックス No.16-21
平成28年6月2日
16-21号
カレント・トピックス
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構
ベトナム・Nui Phao タングステン鉱山の現状と取り組み
<調査部金属資源調査課 新井 裕実子
ジャカルタ事務所
山本 耕次 報告>
はじめに
タングステン価格が高騰してからの 10 年間、各国は原料調達リスク低減の観点から資源の開発やリ
サイクルを進めてきた。しかし依然として、その供給の中国依存度は大きく、中国外鉱山のプロジェ
クトにも中国資本が影響を及ぼす例も多い。そうした状況の中、ベトナム企業が主体となって国産タ
ングステンを生産している Nui Phao 鉱山は、世界的にみても注目される開発成功例であり、貴重な中
国外ソースであるといえる。この度、同鉱山を視察する機会を得たことから、その取り組みについて
紹介する。
1. Nui Phao 鉱山概要
(1)位置
本鉱山は、ベトナムの首都ハノイの北西 80 ㎞、Thai Nguyen 省 Dai Tu 地区に位置する。鉱
山全体の従業員は約 2,000 人である。
(出典)Masan Resources 社 HP
図 1 Nui Phao 鉱山位置図
(2)沿革
本鉱山は、2000 年に加・Tiberon Minerals 社によって鉱床が発見された。その後、同社はベトナ
ムの投資会社である Dragon Capital 社に買収されたが、2010 年に Masan グループが同鉱山の権益
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を獲得したことで開発が本格的に始動した。Masan グループはベトナムの大手食品会社であり、本
鉱山は初めてのベトナムの民間企業による大型鉱山開発となった。同グループは鉱山事業開始に
当たり Masan Resources 社を設立、その後、資金調達や土地収用の過程を経て EPC 契約を結び 2011
年に建設に着手、2013 年 4 月に操業を開始した。2014 年 3 月には商業操業(Commercial Operation)
が開始され、その後 2015 年 3~5 月にかけて APT プラントからの生産及び出荷が行われた。
(3)地質・鉱床
Nui Phao 鉱山は、古生界中に形成された多金属スカルン鉱床である。母岩は、オルドビス
紀~シルル紀の頁岩、砂岩、シルト岩、石灰岩からなり、花崗岩類の貫入によってスカルン
鉱化作用を蒙っている。花崗岩の貫入は 2 段階であり、初めに三畳紀の Nui Phao 花崗岩が Nui
Phao 地域南部に貫入し、磁鉄鉱、ザクロ石、輝石及び角閃石に富むスカルンを形成した後、
白亜紀の Da Lien 両雲母粗粒花崗岩が北部に貫入し、グライゼン化、磁硫鉄鉱―蛍石―曹長石
のオーバーラッピングとタングステンの鉱化を及ぼした。
Nui Phao 鉱山の鉱物資源量(概測+精測)は 73,751 千 t、鉱石埋蔵量(確定)は 41,000 千
t(Masan Resources HP より)。Nui Phao 鉱山の鉱石は主に、シーライト、磁硫鉄鉱、蛍石、
ビスマス鉱物からなり、少量の銅を含んでいる。
(4)採掘・製錬
採掘は露天掘りで行われており、ピットの大きさは直径 450m、深さは 190m。発破は 2 日お
きに実施され、破砕された鉱石は鉱山内に 3 か所ある貯鉱場にストックされる。
採掘された鉱石は、破砕、磨鉱、浮遊選鉱、比重選鉱を経て、タングステン精鉱、ビスマ
ス精鉱、銅精鉱、蛍石が選別される。これらのうち、タングステン精鉱の一部は鉱山内製錬
所にてパラタングステン酸アンモニウム(APT)に加工される。
選鉱の第一段階として、破砕・ロッドミルでの磨鉱の後、最初の浮遊選鉱で銅精鉱が選鉱され、残
りは次段の浮遊選鉱に廻される。次段では硫化物と酸化物に分けられ、硫化物としてビスマスと鉄、
酸化物としてタングステンと蛍石が選別される。硫化物はリーチングによってビスマスセメントとし
て抽出され、一方、酸化物は多段振動テーブルによる比重選鉱によってタングステン精鉱と蛍石にそ
れぞれ分離される。APT プラントでは、タングステン精鉱は APT または酸化タングステンに加工され
る。プラント建設はドイツ H.C. Starck 社が手掛け、2015 年 4 月に操業を開始したものである。
(5)生産量
本鉱山の主要生産物はタングステンであり、2015 年生産量は 5,123t(W 量)であった。こ
の他、副産物として蛍石、銅、ビスマスも生産している。本鉱山は中国を除けば世界最大の
タングステン鉱山であり、タングステンの生産に関しては世界の生産量の 6%、中国を除いた
生産量の 30%を占めている。鉱山で生産された精鉱及び加工品は、主に EU、アメリカ、カナ
ダ、日本に出荷されている。製品は鉱山内工場でフレックスコンテナ等に梱包され、鉄道、
トラック及びバージを用いてハイフォン港まで運搬し、そこから海外に輸出されている。な
お、銅精鉱はベトナム国内製錬所にのみに供給されている。
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2. Nui Phao 鉱山をめぐる状況
(1)ベトナム鉱業の状況
ベトナム国内には、銅、鉛、亜鉛、チタン、金、レアアースなど、多様な鉱物資源が賦存
しているが、大型鉱山は少なく製錬所も小規模であり、探査・開発はこの数年停滞中である。
また、技術開発に関しても、金属価格の下落により進んでいない状況である。国の鉱業政策
を定めた鉱種ごとのマスタープランについてもその多くが 2015 年に期限を迎えたが、金属鉱
物に関する分野については特段の変更なく 2020 年まで期限が延長された。
ベトナムの鉱業政策は原則として自国で鉱物資源を開発・消費し、余剰分については付加
価値を付けて輸出する、という方針である。2016 年 4 月に首相の交代があったが、資源政策
に関しては政府による規制が一層厳しくなる傾向にある。
とりわけ新規開発が進みにくい現状においては、既存鉱山からのロイヤルティ・環境税等を
徴収して国庫収入を確保する方針であり、大型鉱山かつ生産物が複数にわたる Nui Phao 鉱山
においては、高額なロイヤルティが課せられ、政府との間で交渉の余地はあるものの、交渉自
体が大きな負担になっている状況である。
(2)タングステン市況
2005 年以降、中国の超硬工具需要やインフラ整備用の特殊鋼需要が増加したことで、同国
主導による相場の高騰が発生したタングステン市況は、同国国内鉱山の閉山等によりさらに
急騰し、2010 年末には 330US$/MTU 台に突入し、2011 年 6 月には 480US$/MTU 台まで上昇した。
2014 年 8 月にレアアース、タングステンなどの輸出規制問題において中国が WTO 敗訴したこ
とで、2015 年には同国のタングステン輸出枠の撤廃や輸出税の廃止措置がとられ、これに伴
い、相場はピーク時の半分以下にまで落ち込み、2015 年末には 165US$/MTU の値を付けた。
2016 年に入ってからは、各大手鉱山の生産規制や在庫の減少、中国の国家備蓄実施に伴いや
や回復の兆しを見せている。
Nui Phao 鉱山の権益を Masan グループが獲得したのは、価格高騰直前の 2009~2010 年とい
う極めて良い時期であったといえる。2014~2015 年にかけての価格下落に伴い多くのタング
ステン鉱山が閉山に追い込まれる中で本鉱山が踏みとどまることのできた一因には、獲得時
期を受けた優位性があったことが推察される。
3. 鉱山の取り組み
(1)環境保護に関する取り組み
敷地内で使用された水は、蛍石を処理した水と硫化物を処理した水に分けて処理され、水
質は定期的に確認される。尾鉱ダムは、マインライフ終了とともに埋め立てられ、原状回復
される予定である。
水のうち、84%は工場内で再度リサイクルされ、残りは中和処理された後河川に放流する。
廃水処理プラントは 4 か月の工事の後に完成し、1 月には試運転が行われた。DONRE の視察な
どを経て、2016 年第 2 四半期中には全面操業に至る予定であり、その場合、廃水のリサイク
ル率は現在の 84%から 90%に伸びるものと見込まれる。
その他環境保護に関する取り組みとして、鉱山採掘跡への植樹活動も積極的に行っている。
2016 年 3 月には、100 名以上もの従業員が植樹活動に参加し、計 2ha の土地に木を植えた。そ
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の成果は鉱山視察時にも見て取れ、採掘が終了した場所から順次緑化が進められてきた。
(2)地域社会に対する支援
Nui Phao 鉱山では地域社会に対する支援も積極的に行っている。2015 年は 62 億 5,800 万
VND(22,000VND/US$換算で 28 万 4,455US$)をコミュニティ発展のための支出に充てており、
これによってインフラ整備や地域の能力育成プログラムの提供を行っている。
鉱山開発の影響を受ける人々に対しては、雇用機会の提供や移住先住居の建設を行ってい
る。現在会社従業員全体の 56%が鉱山周辺在住者であり、Dai Tu 地区及び Thai Nguyen 省ま
で対象を広げた場合には全体の 75%が地元からの雇用である。また移住先住居の建設につい
ても、舗装済道路や排水処理設備等の設置を含めた 3 地区の建設を完了している。
(出典)Masan Resources 社 HP より JOGMEC 作成
図 2 Nui Phao Mining プロジェクト従業員内訳
4. まとめ
ベトナムの鉱業においては、鉱山開発による利益は国や地方の取り分が多く、また外資を積極
的に誘致する制度もないため、他の国に比して投資環境が整っているとは言い難い。同鉱山も、
多岐にわたる課税に加えて低迷する市況に苦しむ状況にあり、とりわけ相場が下落を続けた 2015
年は市場にとって大変厳しい一年となったが、それにもかかわらず生産設備へのさらなる投資や
地域社会への支援を継続して行ってきた同鉱山の取り組みは評価に値するものであるといえる。
タングステンの貴重な中国外ソースの一つとして、また鉱山開発における成功事例として今後も
その取り組みと動向に注目していきたい。
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報を
お届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結に
つき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等す
る場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
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