2015年の中国 イノベーション,構造改革と社会統制の強化 え とう な お こ てい か 江 藤 名 保 子・丁 可 概 況 ₂₀₁₅年に国内政治については,広範な汚職摘発が継続された。だが中央での大 物幹部に対する摘発はなく,地方政府レベルや海外に逃亡した汚職官僚の摘発に 力が入れられた。その一方で, 「国家安全法」が制定されるなど社会統制に関わ る法や組織の拡充が図られ,統一戦線工作などの共産党の伝統的統制手法も強化 された。また人民解放軍に関して,₃₀万人削減方針の発表や統合作戦指揮機関の 設立など新たな動きが始まった。 国内経済は,GDP 成長率が₂₅年ぶりに ₇ %を切り6.9%にとどまった。製造業 では生産能力過剰の問題が顕在化する一方,ハイテク製造業は躍進した。「大衆 による創業,万人によるイノベーション」といったスローガンや政府の「中国製 造₂₀₂₅」計画などで,イノベーションと産業高度化の気運が盛り上がった。非効 率な国有企業や金融市場が足かせとなっていたため,第₁₃次 ₅ カ年計画とサプラ イサイドの構造改革では,イノベーションの重要性が強調される一方,ゾンビ企 業の淘汰や過剰な不動産在庫の除去を目指すことになった。対外的には,人民元 はついに IMF の特別引き出し権 (SDR)の構成通貨に採用され,アジアインフラ 投資銀行(AIIB)も正式に発足した。 対外関係は南シナ海問題をめぐる緊張が高まり,アメリカが南沙(スプラト リー)諸島周辺に駆逐艦を航行させるなど米中間に緊張も見られたが,対話も進 められている。日中関係は歴史認識問題や東シナ海問題などの課題が残るものの, 少しずつ改善が進んでいる。これらに比してロシアと中国の蜜月関係が際立った。 126
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