新日独租税条約と欧州グループ再編

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新日独租税条約と欧州グループ再編
Issue 89, May 2016
In brief
親子間配当にかかる源泉税の免税措置等を含む新日独租税条約は 2017 年 1 月 1 日から適用開始となる
見込みです。新条約の適用を視野に入れると、欧州におけるグループ資本関係を再考し、既存の欧州中間
持株会社を清算、さらには、ドイツを新たな欧州中間持株会社の立地国とすることも検討対象となりえます。
そのようなグループ内再編を行う場合、欧州現地では、資本参加免税等の適用により、子会社株式の譲渡益
に対する現地法人税の課税がなされない、または、少額の課税で済むことも想定されますが、その場合、日
本のタックスヘイブン対策税制の観点からの慎重な検討が必要となります。
In detail
1.
配当源泉税にかかる日独租税条約の改正内容
現行の日独租税条約の内容を大幅に改定することとなる新日独租税条約は、2015 年 12 月 17 日に調印さ
れ、その後、両国において条約発効のための国会審議等のプロセスが進められているところです(日本にお
いては、衆議院に続き、2016 年 5 月 25 日に参議院で承認)。順調に手続が進んだ場合には、承認手続が
2016 年中に完了し、新条約の適用開始は 2017 年 1 月 1 日になるものと見込まれます。
現行の日独租税条約の問題点として、ドイツから日本への配当にかかる条約上の軽減税率が 15%と比較的
高い税率が規定されていたことが指摘されていました。他の欧州諸国と日本との間では、現地国の国内法上
または日本との間の租税条約上の取り扱いにより、親子会社間配当にかかる源泉税は免税となる国も多く(例
えば、オランダから日本への親子間配当にかかる源泉税は日蘭租税条約上、一定の条件のもと免税となる)、
その比較からも、15%の配当源泉税は日本からドイツへの直接投資のデメリットとされてきました。
新日独租税条約においては、配当源泉税にかかる軽減税率および免税措置が次の通り定められました(い
わゆる特典制限条項の要件を満たすことが前提となります)。

免税が適用される場合: 当該配当を支払う法人の議決権の 25%以上を 18 カ月以上保有している
法人株主の場合

5%が適用される場合: 当該配当を支払う法人の議決権の 10%以上を 6 カ月以上保有している法
人株主の場合

15%が適用される場合: 上記以外の場合
新条約の適用後は、ドイツ子会社の持分を日本親会社が直接保有するストラクチャーにおけるドイツ配当源
泉税という税務上のデメリットは、解消されるものと期待されます。
2.
欧州中間持株会社とドイツの「アンチ トリーティー ショッピング条項」
既存の欧州におけるグループ資本関係としては、英国やオランダ等に中間持株会社を置き、ドイツその他の
欧州の子会社株式を当該中間持株会社が保有するというストラクチャーを採用する企業も見られます。
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この場合、例えばドイツ子会社がオランダの中間持株会社に保有されているケースでは、ドイツからオランダ
への配当は、「EU 親子指令(EU Parent-Subsidiary Directive)」のドイツ国内法上の取り込みにより、一定の
条件のもと、ドイツ源泉税が免税とされます。
ただし、ドイツにおいて EU 親子指令に基づく免税措置の適用を受けるためには、中間持株会社がオランダ
に十分な事業実体を有していることの証明が求められます(「アンチ トリーティー ショッピング条項」、ドイツ所
得税法第 50d 条 3 項)。当該中間持株会社の事業活動が、株式保有および子会社へのマネジメントサービ
スに限られるようなケースでは、「十分な事業実体」をドイツ税務当局に対して証明することができず、免税適
用証明書の発行を受けることができないこととなります。
3.
欧州においてグループ内再編を行う上での留意点(日本のタックスヘイブン対策税制)
以上のような背景から、(事業実体が十分でない)中間持株会社はコスト削減の観点から清算する、さらに、
欧州における実際のオペレーションの中心がドイツにあるような場合には、ドイツ法人を中間持株会社として、
その下に他の欧州の子会社を孫会社として保有させるストラクチャーも考えられるようになります。
既存の欧州中間持株会社を清算し、既存のドイツ孫会社を(新)欧州中間持株会社とするための再編取引と
しては、いくつかの方法が考えられますが、大きくは、①既存欧州中間持株会社を清算してドイツ子会社に他
の欧州子会社株式を譲渡する方法、②既存欧州中間持株会社を既存ドイツ孫会社に国境を越えて合併さ
せる方法(クロスボーダー合併)が考えられます。クロスボーダー合併は、ある EU 加盟国の法人と他の EU 加
盟国の法人を合併する再編手法ですが、法的手続は比較的複雑であるものの、イギリス、オランダ、ドイツ等
の主要国を中心に、実例も多くなっているようです。
上述①②いずれの再編方法をとる場合でも、中間持株会社が従来保有していた各子会社株式を他に移転
することとなりますが、中間持株会社がオランダ等の場合、「資本参加免税」等の適用により株式譲渡益に対
する課税が生じないケースが想定されます。
しかし、そのような現地で株式譲渡益が免税となる再編手法が行われる場合、かつ、譲渡益(子会社株式の
含み益)が大きい場合には、既存の中間持株会社について、日本のタックスヘイブン対策税制の観点からの
慎重な検討が必要となります。オランダ等の中間持株会社が、タックスヘイブン対策税制上の適用除外基準
を満たさない場合には、子会社株式譲渡益は日本の親会社レベルで合算課税される可能性があります。特
に、クロスボーダー合併のケースでは、日本税務の観点からこれをどのように取り扱うべきかについて明確に
なっていない部分もあり、実際にこのようなケースに該当する取引を実行する際には、慎重な対応が必要にな
るものと考えます。
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