安全な石油陸上輸送と荷卸しについて

安全な石油陸上輸送と荷卸しについて
昭和シェル石油株式会社・流通業務部
副部長兼業務センター所長
北
陸運課長
豊
崎
和
実
茂
信
影響を及ぼす危険がある点、今回改めて確認し
.はじめに
「HSSE(Health ・ Safety ・ Security ・
たい。
Environment)とコンプライアンスは、全てに
お客様ならびに当社グループ関係者が、不幸
優先する」が、過去から一貫とした昭和シェル
な状況に陥ることを未然に防止することが、
「石
グループの基本方針である。
油陸上輸送と荷卸しに係る安全活動」における
他業界での事例からも分かる様に、重大事故
最大の目的と考える。
が発生した場合、被害者側は言うまでもなく、
加害者側にも、非常に大きな代償が求められる。
.昭和シェル「流通業務部ビジョン」
ルール違反を犯した結果として重大事故を発生
「製油所で生産した製品を、ローリーを用い
させた場合、会社存続の危機にまで至っている
て、サービスステーション(以後、SS)等に陸
ケースも数多い。「安全活動に際しては、業界
上輸送し、その SS 地下タンクに荷卸しする」
慣習等に伴うルール違反・リスク軽視は、一切
業務を、当社流通業務部では一貫して担ってい
許されない」こと、常日頃から肝に銘じている。
る。流通業務部内の各課で連携することでの一
また当社グループが実施している石油製品の
貫業務の強みを活かし、
「安全」
・
「効率」
・
「サー
陸上輸送と荷卸し業務においては、万が一、漏
ビス」の
油・混油等の重大事故が発生した場合、その被
において業界最高レベルを実現することを目標
害範囲および社会的インパクトは大きい。石油
に、
「流通業務部ビジョン(資料
業界の社会的な使命である「安定供給」にまで
種活動に取り組んでいる。
資料
項目をバランスを取り、かつ各項目
流通業務部ビジョン
Safety & Tomorrow No.167 (2016.5) 20
)
」を掲げ各
「安全」を最優先させる一方で、相反する要素
の協力が必要であるし、定期調査等のスタッフ
がある「効率」・「サービス」を如何に向上させ
部門による管理業務も重要な活動の一つであ
るかが、重要な課題である。
る。
そのため、安全活動において活動項目の優先
.安全活動の成果
順位を設定することは、本来困難であると考え
昭和シェルグループが、過去継続し実行して
るが、その中でも、当社として特に重視し実践
来た「安全活動」は、着実に成果を挙げている
している活動について以下記述する。
状態である。
①安全機器の導入推進
具体例として、シェルグループ全世界共通の
石油製品の陸上輸送と荷卸しの安全活動にお
安全性指標である「荷卸し 万回あたりの事故
いて、
「安全機器の導入促進」の必要性は、年々
発生件数」において、当社は継続的な低減に成
増大している。少子高齢化の進行に伴い、他業
功しており、2015年度には、 年前に比べて60%
界同様、ローリー乗務員の人材・人員確保は今
以上という大幅な改善に成功している。なお当
後更に困難になるものと予測している。そのた
社の2015年度の数値は、シェルグループ全体の
め、
優秀なローリー乗務員確保を図ると同時に、
平均値と比較しても、約 / という突出したも
安全機器の導入推進により、ローリー乗務員の
のであり、当社のみならず日本の石油業界全体
身体的および心理的な作業負担を、極力減らす
の安全性の高さを示す証左と考える。また、当
ことが重要である。
今回、
「陸上輸送」と「荷卸し作業」に分けて、
社では2015年度、石油陸上輸送と荷卸し業務に
おいて、数か月間連続での「無事故状態」とい
近年、大きな成果を挙げている安全機器の導入
う、非常に高い成果を挙げることにも成功した。
事例を紹介する。
(「陸上輸送」における安全機器)
安全活動における着実な成果は、特約店・運
送会社をはじめとする関係者との共同活動の賜
「陸上輸送」とは、ローリーによる、製油所等
物であり、この場をお借りして、改めて厚く感
から SS 等への輸送業務を指す。ローリー乗務
謝申し上げるものである。
員は運転が上手い方が多く、道路上での事故発
生件数は、実際には少ない状態である一方で、
.安全活動の内容
可燃物が積荷であり、ひとたび事故発生した場
改めて言うまでもないことだが、
「安全活動」
合、重大事故につながる危険性があるので、事
における成果とは、過去からの数多くの関係者
故防止には、慢心することなく細心の注意を払
の努力が結集されたものである。
う必要がある。特に当社を含めて石油元売り会
石油陸上輸送と荷卸し業務において、「製油
社は、石油ローリーに企業名・企業マークを記
所等での積込作業」
・
「陸上輸送」および「SS 地
載しているケースが多いことからも、陸上輸送
下タンクへの荷卸し作業」を、日々実践頂くの
における安全活動は重要である。
陸上輸送の安全活動において、近年、特に高
は、運送会社のローリー乗務員である。また、
い効果を発揮している機器が「ドライブレコー
「SS 地下タンクへの荷卸し」に際しては、SS ス
ダー」
(写真 )である。
タッフの荷卸し立合いが法令で定められている
「ドライブレコーダー(以後、ドラレコ)
」は、
(
「単独荷卸し」の場合を除く)
。
上記の様な日々の業務以外にも、車両および
ローリー乗務員の運転内容をモニターし記録す
地下タンク設備等の定期点検には、専門の方々
る機器である。多くの運送会社において、ドラ
21
Safety & Tomorrow No.167 (2016.5)
る効果は、予想以上に大きい。
(
「荷卸し作業」における安全機器)
石油製品輸送においては、
「荷卸し作業」
(写
真 )が、最もトラブル発生件数が多い分野で
ある。
特に、
「荷卸し作業」におけるトラブルは、
「コ
ンタミ(混油)」や「オーバーフロー(過剰荷卸
写真
ドライブレコーダー(例)
しによる漏油)
」という重大事故に直結する可
能性が高いため、細心の事故防止策構築が必要
レコ導入に伴い、事故発生率の大幅低減に成功
である。当社の場合、作業マニュアル順守等の
している。これは何より、ドラレコを通して常
人的防護と、安全機器による機械的防護を組み
に運転内容を第三者にモニターされることで、
合わせた「複合的防護」とともに、何重にも
ローリー乗務員の安全運転への意識が向上して
チェック関門を設置した「重層的防護」を実践
いることが、大きな効果をあげているものと分
することで、
トラブル自体の発生防止とともに、
析する。また、ローリー乗務員研修等において、
トラブルが事故に直結しない仕組みを構築して
ドラレコで記録した運転内容・事故事例等を紹
いる。
介することで、ノウハウ共有化が出来ることも、
ドラレコ導入効果の一つである。
当社では、過去からの活動成果により、特に、
荷卸し作業時における
「乗務員のうっかりミス」
SS 内でのローリー移動の際の器物接触事故
的なヒューマンエラーを大幅に削減することに
防 止 も、重 要 な 課 題 で あ る。そ の た め 近 年、
成功している。現在導入している主要な安全機
「バックモニター」や「サイドモニター」を設置
器を、以下紹介する。
するローリーを増加させている。ご存知の様
に、ローリーは大型になればなるほど、死角が
大幅に増加するので、モニター設置による効果
は大きい。
ドラレコやモニター以外にも、事故多発交差
点にローリーが接近した際に警告を発する
「カーナビ」等、新しい安全機器が続々と登場し
ており、中でも、IOT(= Internet Of Things)
を活用した安全機器は今後の注目になることは
確実であろう。当社では、今後とも陸上輸送に
おける新機能の安全機器の更なる導入推進で、
安全性向上を図っている。
安全機器の導入推進の一方で、「ローリー乗
務員に、出来るだけ、同一車両を継続して運転
頂く」様な工夫を実施している運送会社も多い。
ローリー乗務員が、車両へ愛着を持って頂くこ
とで、安全運転や車両故障の未然防止につなが
Safety & Tomorrow No.167 (2016.5) 22
写真
荷卸し作業(単独荷卸し方式)
ルが原因の事故の防止」が見逃されがちになる
傾向がある点には、十分注意を払う必要がある。
機器トラブルの未然防止の為には、適切な部
位を、適切なタイミング・頻度にて、
「日常点検」
および「定期点検」することが、最も重要であ
る。直近では、
「経年劣化」
・
「物理的な破損(走
行中の石片接触等が原因)
」等に伴い、過去発生
したことがない様な個所の機器トラブルも発生
写真
しており、他社事例も含めて、常に最新情報を
車載コンピューター
把握しておく必要性が増している。それに付け
加え、新しい安全機器の登場に伴い、日常点検・
定期点検の対象箇所・手法等は、日々変化して
いることも重々認識しておく必要がある。
当社では運送会社と共同で、定期的にロー
リー勉強会(写真
)等を開催し、車両や機器
について、常に最新知識を取得する様に努めて
いる。
③ローリー乗務員への教育活動
どれだけ安全機器を充実させても、最終的な
写真
油種キー
判断・作業を実施する「人間」の重要性は、今
後も変わりがない。
機器故障トラブルに伴う事故発生を防止する
●「コンタミ(混油)防止装置」
ためには、日常点検・定期点検の強化とともに、
ローリー設置「車載コンピューター(写真
)
」と地下タンク設置
「油種キー
(写真 )」
「機械的防護」と「人的防護」を組み合わせるこ
により、正しい組み合わせの油種の場合の
とで、
「複合的防護」体制を構築することが必要
み、荷卸しを可能とする装置。ローリー乗
不可欠である。
当社の作業マニュアルでは「荷卸し前」と「荷
務員のヒューマンエラーによる混油事故を
防止する。
●「オーバーフロー(過剰注入による漏油)
防止装置」
地下タンクにセンサーを設置し、荷卸し業
務開始後、設定上限値に地下タンクの油面
が到達した場合、それ以上の荷卸しは不可
能とする装置(異なる方式あり)
。ローリー
乗務員のヒューマンエラーによる漏油事故
を防止する。
②安全機器等の日常点検・定期点検の徹底
写真
安全機器の導入に注力する余り、
「機器トラブ
23
ローリー勉強会
Safety & Tomorrow No.167 (2016.5)
卸し後」のそれぞれのタイミングで、ローリー
後の適切な対応策」について協議することも重
乗務員が「安全機器側での想定タンク容量」と、
要であると信じる。ローリー乗務員研修等で
「SS 設置メーター側での実タンク容量」を比較
は、参加者と一緒に、
「万が一、事例の様な事故
するプロセスを組み込んでいる。同プロセスに
が発生した場合には、どのように対応するべき
より、安全機器の故障が発生した場合にも、
ロー
か?」とのシミュレーションを行っておくこと
リー乗務員が、すみやかに機器故障を発見し事
で、実際に事故が発生した際に、適切な対応が
故を防止することが可能になる。過去実際に、
とれる可能性が高まる。
ローリー乗務員が機器故障に気が付いたこと
ローリー乗務員研修等では、より具体的な事
で、事故を未然に防止出来た事例が報告されて
例・数値を紹介することでその効果が高まる。
いる。
当社研修の「指差し呼称研修」
(写真
)では、
事故の未然防止とともに、
「人間」の力がもっ
参加者が「指定された数字ボタンを間違えずに
とも重要になるのが、事故発生した場合におけ
押す」テストを、
「指差し呼称しない場合」と「指
る対応である。事故発生時には、早急に事態を
差し呼称した場合」に分けて実施し、それぞれ
把握し適切な対応をとることで、事故範囲を最
の場合での「失敗確率」を数値化し紹介してい
小限に抑えることが、非常に重要である。過去
る。過去のテストでは、「指差し呼称しない場
発生した重大事故を分析すると、事故発生後の
合」
の失敗確率が約
対応を誤ったことが原因で、被害が拡大した
差し呼称した場合」のそれは約
ケースが非常に多いことに気付く。
に失敗防止出来ていることが分かる。同数値を
/40であるのに対して、
「指
/240と、大幅
過去の事故事例の分析に際しては、「事故原
実際に確認頂くことで、参加者から、
「指差し呼
因」と「その防止策」にのみ議論が集中する傾
称する理由が、良く理解出来た」との感想を多
向が強いと考えるが、それとともに、
「事故発生
数頂いている状態である。
写真
指差し呼称研修
Safety & Tomorrow No.167 (2016.5) 24
写真
Lorry News
フのご協力が重要である」旨を、継続して案内
④ SS スタッフの理解・協力の促進
SS 地下タンクへ荷卸しの際には、ローリー
している。また、
「Lorry News」では、「SS ス
乗務員とともに、SS スタッフが立ち会うこと
タッフのご協力」をお願いすると共に、「ロー
が法令で定められている。
(
「単独荷卸し」の場
リーの死角になるポイント」や「ローリー乗務
合を除く)
員が困っている事例」等もご案内することで、
理解を深めて頂く様に努めている。
SS スタッフが、荷卸し立ち合いの際、ロー
リー乗務員と共同で荷卸し内容を確認頂くこと
SS は、スタッフの入れ替わりが頻繁に発生
で、混油・漏油等の重大事故の発生確率を非常
する傾向が強いので、SS スタッフへのご案内
に小さいものに抑えることが可能になる。
は、継続的に何回も実施することが必要である
点も、改めて確認したい。
荷卸し作業以外にも、SS 敷地内でのローリー
⑤関係者間の情報共有化
移動の際に、SS スタッフに誘導頂くことで、
前述したが、
「安全」とは関係者一同の努力が
ローリーの SS 器具等への接触事故は大幅に削
結集した賜物である。そのため、
関係者間では、
減出来る。
定期的かつ頻繁に、活動内容について共有化す
お客様への給油作業等で忙しい SS スタッフ
ることが重要である。
に、荷卸し作業等への協力を得るためには、何
当社では、各種協議会を開催することで、関
よりローリー作業内容を理解頂くことが肝要で
ある。当社では、
「Lorry News」
(写真 )を定
係者間の情報共有化を行っている。
期的に刊行し、特約店および SS スタッフに対
定期的な会合の中で主要なものが、
以下である。
して、
「ローリー安全活動において、SS スタッ
●「事故評価委員会」および「安全会議」
(各
25
Safety & Tomorrow No.167 (2016.5)
地域で月
機器・教育等の一定基準を満たし関係省庁
回開催)
運送会社経営幹部と当社関係者が参集し、
の認可を受けた場合、
ローリー乗務員の
「単
「事故評価委員会」(写真 )および「安全
独荷卸し」が可能になる。単独荷卸しを実
会議」を開催し、安全活動について協議を
施頂いている運送会社経営幹部と当社関係
実施している。
者が参集し、安全活動について協議してい
●「単独荷卸し安全協議会」
(各地域で月
回
る。
●「全国運送会社会議」
(本社で年
開催)
「全国運送会社会議」
(写真
回開催)
)では、全国
の運送会社経営幹部に参集頂き、
「昭和シェ
ルグループ全体の安全活動戦略」
および
「各
地域での成功事例」等について協議してい
る。同会議では、めざましい活動を実践さ
れている運送会社への表彰も行っている。
当社では昨年度より、流通業務部「マスコッ
トキャラクター(あんこうクン)
」(写真10)を
導入し、関係者間のコミュニケート強化を実施
写真
事故評価委員会
写真
写真10
全国運送会社会議
マスコットキャラクター(あんこうクン)
Safety & Tomorrow No.167 (2016.5) 26
した。マスコットキャラクターを用いてのキャ
体で、毎年特定の
ラクターグッズの中でも、「塩飴(熱中症予防
その
用)」や「ぬいぐるみ」等は、特に評判が良かっ
生
日を Safety Day と設定し、
日間は、全世界のグループ会社で事故発
件を目指す」という活動を実施している。
た。安全活動というとどうしても固い印象にな
「ゴールゼロ」という目標を掲げて以降、シェ
りがちな中、多くの方に興味を持って頂く上で、
ルグループでは、継続して事故の大幅な低減に
マスコットキャラクターの果たしている役割は
成功している。改めて、「目指すべき具体的な
大きい。
目標を設定し、その目標に向かって活動する」
ことが重要であることを感じている。
「夢見たことは実現出来る」とは、ジュール・
.終わりに
シ ェ ル グ ル ー プでは、安全活動において、
「ゴールゼロ(=事故発生
件)達成」という、
ヴェルヌの有名な言葉であるが、今後とも、特
約店・運送会社および昭和シェルグループ関係
究極の目標を掲げ、全世界で各種活動を展開し
者一同で、「ゴールゼロ」という究極目標に向
ている。同活動例として、「シェルグループ全
かって、
更なる安全活動に邁進する所存である。
27
Safety & Tomorrow No.167 (2016.5)