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自由応募分科会 4
報告 3
「インド洋をめぐる 21 世紀の国際政治」
溜 和敏(高知県立大学)
インド太平洋概念の広まりと日印関係への示唆
「インド太平洋(the Indo-Pacific)」とは、2011 年ごろからアジア太平洋地域の外交安
全保障の文脈で頻繁に用いられるようになった新しい概念である。西太平洋からインド洋
まで広がる海域あるいは空間を意味するものであるが、通常この概念が用いられるのは、
インド洋と太平洋の境に位置する海域、すなわち南シナ海からマラッカ海峡周辺に至る海
域に関心が向けられる場合であった。中国による海洋進出の強化とそれに警戒心を抱く
国々の取組みを背景として、案出(あるいは発見)され、近年注目を集めてきた。
報告者は昨年発表した論文(注)において、主に 2013 年までの動向をふまえて、インド
太平洋概念が普及した過程とその背景を分析した。今報告では、それ以降の動向をふまえ
て、インド太平洋から観念される地理の東西両端に位置する日本とインドの関係において、
この概念が重要性を高めていることを指摘する。
インドの前政権では、当時の外交政策を司っていた国家安全保障顧問がインド太平洋と
いう概念の有効性を否定する発言を行うなど、一部の例外を除いてこの概念の使用には消
極的であった。しかし現政権(2014 年 5 月~)の下で、政府による公な利用が行われるよ
うになっている。特筆すべき点は、インド政府によるインド太平洋への言及が、これまで
のところ、日本との関係の文脈のみで行われていることであろう。
日本では、安倍晋三首相が第 1 次政権時代からインド洋と太平洋の「交わり」を論じて
きたが(2007 年 8 月)
、インド太平洋という言葉の使用は、第 2 次安倍政権に始まってい
る。日本政府による文書でも、その多くが日印関係の文脈で登場している。
以上のような動向を整理したのち、インド太平洋をめぐる言説に内在する論理を分析し
て、日印関係の文脈ではその論理に新たな傾向が見られることを論じる。
(注)溜和敏「
『インド太平洋』概念の普及過程」
『国際安全保障』第 43 巻第 1 号(2015
年 6 月)