油価低迷によるアブダビ首長国のエネルギー政策の変化

IEEJ:2016 年 6 月掲載
禁無断転載
油価低迷によるアブダビ首長国のエネルギー政策の変化
戦略研究ユニット
国際情勢分析第1グループ
研究主幹
松本
卓
サマリー
3 年前の 2013 年 6 月に、当時の油価が$100/bbl を上回る水準で推移している時代におけ
るアブダビ首長国のエネルギー政策を調査したことがある。その頃は、巨額な石油収入に
物を言わせて巨額の投資を伴うプロジェクトが目白押しであった。
しかし現在では、長引く低油価により石油収入が急減し、全ての投資について見直しが
行われたり、補助金の削減や廃止といった国民に負担を求める経済政策も実施されはじめ
たりしている。
そこで今回の調査では、油価低迷下においてアブダビ首長国がエネルギー政策を遂行す
るために何を模索しようとしているのかを見ることとした。
同国のエネルギー政策は、石油政策、天然ガス政策、電力・水政策、資源・エネルギー
安全保障政策に大別できると考えられるが、どれかひとつでも欠けると国家の根幹を揺る
がす問題に発展する。これらを一元的に取り扱うべく、アブダビ首長国では経済・エネル
ギー関連の人事異動が発せられたり、これまで手を付けたことが無かった電気・水道・燃
料油に対する補助金の削減や廃止が実行されたり、また将来的には新たな税制度を導入す
ることによる歳入の確保が図られようともしている。
それとともに、国有会社であろうとも経費の節減に努めたり、不採算部門を抱える組織
の見直しも進められたりしており、同国の経済・エネルギー関連の諸課題に対して抜本的
な対策が講じられようとしているほか、国際的に注目されているクリーンエネルギーへの
取り組みも新たな組織の設立を通して進めようとしている。
エネルギー開発に関しては、油価低迷の長期化によって国際石油資本が撤退したり開発
投資規模を縮小・延期したりしており、アブダビ首長国にとっても油田の利権更改や天然
ガス開発計画の見直しが余儀なくされている。特に天然ガス開発の遅延は発電分野に大き
な影響を与えることになり、その打開策としても再生可能エネルギーの導入促進や電源の
分散化を促しつつあるとともに、省エネ政策の導入に必要性が再認識されつつある。
このような環境下で、わが国も独自に持つソフトパワーを使って産油国を支援したり、
独自の経験に基づいて産油国に提案したりすることが重要になってこよう。
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