遂行機能障害を呈した症例に対する職業復帰への取り組み ~傾聴により

遂行機能障害を呈した症例に対する職業復帰への取り組み
~傾聴により作業活動の自己決定が意欲的な行動変化をもたらした一例~
富山県高志リハビリテーション病院
富山県高次脳機能支援センター
右近真澄、砂原伸行、野村忠雄、浦田彰夫、糸川知加子、堀田啓
【はじめに】
今回、遂行機能障害によりリハビリテーションへの不適応を示した症例に対し、傾聴により復職
に必要な作業活動を自己決定することが出来た。そして、その課題遂行の完了をさせる中で、意欲
的な行動や発言が認められるようになった。これらの一連のアプローチの経過を報告する。
【症例】
77歳男性。司法書士。復職希望。平成23年 X 月 Y 日に脳梗塞発症。右前頭葉から頭頂側頭葉
領域に梗塞巣を認めた(図 1、図 2)。発症2か月後に当院転院。転院時著明な麻痺は無く、ADL
では食事、整容動作は自立、排泄、更衣、入浴は見守りを要し、
(FIMは87/126点であった)
(表 1)。スケジュールに執着し時間を何度も尋ねたり、家族との電話が気になり作業活動途中の離
席を認めた。遂行機能障害症候群の評価(以下BADS)は13/24点であり、遂行機能障害を
認めた。
【経過】
本例は、復職への気持ちが強く、入院時は意欲的に取り組もうとしていた。作業療法の開始当初
は、本人の希望によりパソコンでの書類作成を実施した。しかし、書類を読むことに執着し、文字
の誤りの訂正や打ち込みなど次の作業に着手しないことや、作業活動の途中で席を立ち去ろうとす
るなどの遂行機能障害を起因とした行動が多くみられた。さらに、病棟生活では、離院や自殺企図
を繰り返し、リハビリテーションに消極的な態度をとるようになった。そのため、復職に必要な作
業活動を選択できるように傾聴し、遂行を完了できるものを選択した(表 2)。本例は司法書士とい
う仕事上、経済情報の検索や、新聞を読む事が日課となっていることから、具体的には新聞記事の
文字拾いを実施した(表 3)。また、効率的に遂行するための計画も相談した。さらに、本例は病前
に手工芸を趣味としていたため、箱を組み立てて和紙を貼り完成させるティッシュケース作りも行
った。その結果、本例自らによる作業手順の計画立案も可能となった。また、離院、自殺企図は消
失し、
「書類を作ってみたい」といった意欲的な発言が多くなった。最終的には、複数の作業活動を、
時間内に遂行完了するために、遂行における優先順位を決定し、実施することが可能となり、
「仕事
が早くしたい」、「進め方がイメージできた」という発言も見られるようになった。退院時のBAD
Sは18/24点と改善した(表 4)。
【考察】
復職に向けて本例は、作業療法に対して積極的に取り組もうとされるものの、遂行機能障害の影
響から優先すべき作業活動の選択に混乱をきたした結果、離院や自殺企図が引き起こされたと考え
る。作業活動を選択する際に、仕事内容を傾聴して目標の設定や計画の立案を行ったことで、復職
に必要とする適切な作業活動が選択できた。遂行機能には①目標の設定、②計画の立案、③目標に
向け計画を実際に行うこと、④効果的に行動を行うことの4つのコンポーネントがある。それをも
とにプログラムを進めたことや傾聴や作業進行の計画についての教示は、これらの過程を明確化し、
結果として遂行能力の向上につながり、また作業を自己決定する機会をもたらしたと思われる。こ
れらの要因が意欲的な行動変化をもたらしたものと考えられる。
図2
図1
表1
表3
表2
表4