COP21 パリ協定の概要と分析・評価

電力中央研究所報告
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環
境
COP21 パリ協定の概要と分析・評価
キーワード:地球温暖化,パリ協定,2020年以降の温暖化枠組み,
ハイブリッドアプローチ,COP21
背
報告書番号:Y15017
景
気候変動枠組条約第 21 回締約国会議(COP21)では、2020 年以降の温暖化対策の国際
枠組みとして、パリ協定(Paris Agreement)が採択された。また、同時採択された COP 決
定では、協定実施に必要な事項や今後の検討事項等を定めた。
目
的
パリ協定と COP 決定の概要を解説した上で、協定の実効性や協定への米国参加の可能
性などを分析・評価する。その上で協定採択後の日本の課題を論じる。
主な成果
1. パリ協定と COP 決定の概要
①5 年サイクルでの目標提出-国別の排出目標である 「自国で定める貢献(NDC)」を
2020 年から 5 年毎に、タイミングを揃えて提出することを各国の義務とした。また、
2018 年から 5 年毎に、締約国間で地球規模での取り組み状況の総括(グローバルストッ
クテイク)を行い、各国はその結果を踏まえて、NDC を検討して提出する。
②実施段階の透明性確保-各国が NDC 達成に向けた国内措置を追求し、排出量と吸収量
の実績を示す目録や NDC の達成状況を隔年以上の頻度で報告することを義務付けた。ま
た、報告に対して、専門家によるレビューと多国間での検討が行われ、これにより透明
性を高める。さらに、NDC の実施や報告義務等の遵守に課題がある場合は、今後新たに
作られる委員会で取り組みを促す。ただし罰則は設けられていない。
③協定の特徴-上記の方式は、2020 年までのカンクン合意におけるボトムアップアプロ
ーチと、京都議定書第 1 約束期間におけるトップダウンアプローチを組み合わせた「ハ
イブリッドアプローチ」と特徴づけられる(図)
。パリ協定は、排出削減以外にも、温暖
化影響への適応、途上国支援等を扱い、各国で共通する規定、先進国と途上国で差異化
する規定、別の方法で差異化する規定を分野ごとに使い分け、さらに法的拘束力の有無
を調整した(表)
。
2. 分析と評価
①協定の実効性-パリ協定は NDC の達成を義務付けていない。しかし、NDC 策定時に
は提出時期を 5 年毎に世界全体でそろえることで国際的な関心を高め、NDC 実施時には
各国の達成状況の隔年レビューにより透明性を高めることで、国内外での様々な検証に
晒されるようにした。つまり、目標の義務化ではなく、透明性の強化で実効性を担保し
ようとしている。各国がそれにより行動を変えるかが実効性を左右し、また圧力に反応
しやすい国に負担がかかりやすい構造とも言える。
②協定への米国参加の可能性-これから各国ではパリ協定の締結手続きが行われる。そ
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©CRIEPI
の際、米国は議会に諮らない「単独行政協定」という形式で、2016 年の早い時期にパリ
協定を締結する可能性が高い。しかし、2016 年 11 月に行われる大統領選挙で共和党候補
が当選すれば、協定からの離脱、あるいは協定に残ったまま削減目標を大幅緩和する可
能性もある。一方、民主党候補が当選すれば、オバマ大統領が進めた政策を継承・強化
し、それに基づき 2020 年に提出する 2030 年目標を検討するだろう。
3. 日本の課題
日本は、2020 年に 2030 年目標を再提出することになる。2016 年の大統領選の結果次第
で、2020 年は 2015 年と同等、あるいはそれ以上に、温暖化対策への国際的な関心が高ま
るかもしれない。そうした可能性も念頭に置き、2020 年への備えを進める必要がある。
パリ協定
(ハイブリッドアプローチ)
京都議定書第1約束期間
(トップダウンアプローチ)
(1) 世界全体の取組状況の総括
(グローバルストックテイク)
(1)全体の削減量の目安作成
カンクン合意
(ボトムアップアプローチ)
トップダウン
アプローチの要素を
部分的に取り込み
(1)目標・取組の自国決定
(2)各国の削減義務の国際交渉
(2) 総括を踏まえた
自国決定貢献(NDC)の提出
(3)各国の削減義務の合意
(2)取組状況の隔年報告
(3)取組状況の隔年報告
(4)国家登録簿による排出枠管理
(3)事後レビュー
(4)事後レビュー・実施遵守促進
(5)遵守・不遵守の判定と罰則
骨格はボトムアップアプローチ
図 パリ協定とカンクン合意・京都議定書の対比
表 パリ協定における分野別の共通化・差異化と法的拘束力の有無の使い分け
太字は法的拘束⼒あり
全ての国に共通
排出削減
5年ごとのNDC提出
NDC達成を狙った国内措置の追求
資⾦
透明性
各国はインベントリーと
NDCの進捗捕捉に必要な情報を
定期提供
専門家レビューと多国間検討を受ける
グローバル
ストック
テイク
グローバルストックテイクの成果は、
各国が自らの決定で⾏動と支援を更
新・強化する際に、締約国に対して情
報を与える
各分野に
共通
⼆分論(先進国と途上国の区別)
による差異化
⼆分論以外の差異化
先進国は総量削減継続、
途上国には経済全体の排出抑制・削減へ
の漸次移⾏を奨励
NDCの内容を自国決定
(自⼰差異化)
先進国はUNFCCC下での途上国への
資⾦提供の義務を継続
先進国は気候資⾦動員を継続リード、先
進国は既存目標(2020年に年間1000億ド
ルを動員)を2025年まで継続
他国に対して、自主的な支援提供を奨励
レビューでは、途上国の個別の能⼒・事
情に特に注意を払う
能⼒に照らして必要な場合には
途上国に対して柔軟性
先進国は提供した資⾦・技術・能⼒構築
支援についての情報を提供
支援を提供する他国も支援提供の情報を
提示
途上国による実施への支援提供
左において、支援提供主体を明示せず
研究担当者
上野 貴弘(社会経済研究所 エネルギーシステム分析領域)
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問い合わせ先
電力中央研究所 社会経済研究所 研究管理担当スタッフ
Tel. 03-3201-6601(代) E-mail:[email protected]
報告書の本冊(PDF 版)は電中研ホームページ http://criepi.denken.or.jp/ よりダウンロード可能です。
[非売品・無断転載を禁じる] © 2016 CRIEPI 平成28年5月発行
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