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カレント・トピックス No.16-19
平成28年5月26日
16-19号
カレント・トピックス
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構
インドネシア鉱石輸出禁止後のニッケル供給構造変化と、
“New Normal”を迎えた中国の一次ニッケル生産・消費
― 2016 年春季国際ニッケル研究会(INSG)報告(2)―
<金属企画部企画課 堀 琢磨 報告>
ニッケルの需給構造は大きく変化した。中国の一次ニッケル消費が世界の半分を超え、供給面で
はインドネシアにおける未加工鉱石輸出禁止措置が価格低迷期に重なり、鉱石市場のみならず一次
ニッケルにかかる各国の生産体制や貿易に大きな変化をもたらしている。2016 年 4 月 25~26 日、ポ
ルトガル・リスボンにおいて、国際ニッケル研究会(INSG)の春季定期会合が開催された。
本稿では、供給構造と消費構造の両方が変化したニッケルについて、各国関係者のプレゼンテー
ションや意見交換をもとに、世界各国の動向について報告する。具体的には、①鉱石禁輸を境に変
化するインドネシアの動向(輸出動向及び製錬所の建設計画)、②供給地の役割を発揮するフィリ
ピンの生産・輸出動向、③世界消費の半分を占める中国の生産・消費動向、④ステンレス鋼スクラ
ップ供給国である米国の貿易動向、⑤欧州における新たな鉱山開発について、報告する。
1.インドネシア(エネルギー・鉱物資源省の講演)
1)輸出品の変化
鉱石の禁輸措置により、2015 年に鉱石の輸出はゼロとなり、変わって、ニッケル銑鉄の輸出
が増えつつある。
(出典)エネルギー・鉱物資源省講演資料より JOGMEC 作成
図 1 インドネシアの輸出動向(グロス量)
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2)製錬所の建設計画
インドネシアの既存製錬所は次の通りである。
表 1 インドネシアにおける既存の製錬所
企業名
地域
PT. Sulawesi Mining Investment
主要生産物
スラウェシ島 Morowali
フェロニッケル
生産能力(グロス量)
年産 300 千 t
PT. Aneka Tambang (Antam)
スラウェシ島 Pomalaa
フェロニッケル
年産 180 千 t
PT. Vale Indonesia
スラウェシ島 Sorowako
ニッケルマット
年産 80 千 t
PT. Cahaya Modern Metal Industri
スラウェシ島 Konawe
ニッケル銑鉄
年産 9 千 t
PT.Bintang Timur Steel
ジャワ島西部 Serang
ニッケル銑鉄
日産 120t
PT.Indoferro
ジャワ島西部 Cllegon
ニッケル銑鉄
年産 250 千 t
2014 年の鉱石禁輸実施後に、製錬所の建設が進んでいる。エネルギー・鉱物資源省では、各設備
の進捗率を 5 段階に分類しており、各段階における件数は次の通りである。各企業における財政上の
課題に加え、ニッケル価格低下による採算性の悪化により、建設はやや遅れ気味である。
ステージ 5(進捗率 81-100%、生産・試運転):9 件。上記 6 製錬所の他、PT.Gebe Industry Nike(ジャワ島
東部)、PT.Macika Mineral Industri(スラウェシ島)、PT.Fajar Bhakti Lintas Nusantara(マルーク諸島)。
ステージ 4(進捗率 51-80%、建設終期):4 件、内訳は、①PT.Megah Surya Pertiwi(マルーク諸島)、
②COR Industry Indonesia、③PT.Integra Mining Nusantara、④PT.Karyatama Konawe Utara(以上スラウェシ
島)
ステージ 3(進捗率 31-50%、建設中期):8 件、内訳は、①PT.Wanatiara Persada dan Rimba Kurnia Alam
(ジャワ島東部)、②PT.Kembar Emas Sultra、③PT.Pernick Sultra、④PT.Konawe Nickel Nusantara dan
PT.Ellt Kharisma、⑤PT.Bhineka Sekarsa Adidaya、⑥PAM Metalindo、⑦PT.Sambas Mineral Mining、
⑧PT.Cipta Djaya Surya(以上スラウェシ島)。
*ステージ 2(進捗率 11-30%、建設初期・整地)及びステージ 1(進捗率 6-10%、環境影響評価)は省略。
3)今後の生産予測
以上のように、インドネシア国内において製錬所が相次いで立ち上がることから、今後、ニ
ッケル銑鉄の生産は急増し、フェロニッケルの生産量も増加する。
(出典)エネルギー・鉱物資源省講演資料より JOGMEC 作成
図 2 インドネシアにおける生産予測(グロス量)
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2. フィリピン(Nickel Asia 社の講演)
1)中国への輸出
フィリピンから中国への供給は、2012 年 38.2 百万 t(グロス) → 2013 年 40.8 百万 t →
2014 年 50.5 百万 t → 2015 年 45.4 百万 t のように、インドネシアの鉱石禁輸措置が実行され
た 2014 年から高水準に推移している。ハイグレード(以下 HG)ニッケルは、2014 年以降、Tawi
Tawi 州にある Tumbagaan 島の鉱山からの輸出が増加した。Zambales は環境問題等のため増産は
延期され、Palawan は生産能力に限界がある。ミドルグレード(以下 MG)ニッケルについては、
インドネシアにおける鉱石禁輸措置の実施を境に、需要が拡大して、Surigao や NAC 所有鉱山か
らの輸出が増加した。ローグレード(LG)ニッケルについては、2013 年までは中国への主要輸
出品であり、NPI のうちローグレード品の原料に使用されていた。しかし、炭素鋼の需要減退や
鉄鉱石価格の低下とともに、需要は減退している。
2)今後の動向
ニッケル価格によって 3 つのケースが想定される。①9,000US$/t では多くの鉱山で生産をカ
ットする。②11,000US$/t では Surigao 鉱山及び Dinagat 鉱山がフル稼働となり、③13,000US$/t
になった場合はこれらに加えて、Zambales 鉱山がフル稼働になる。速やかに 13,000US$/t に上
がれば、フィリピンの 2017 年の供給能力は 300-350 千 t(純分)となり、将来的に、フィリピ
ンは最大 410-460 千 t(純分)に達する。
(出典)Nickel Asia 社講演資料から JOGMEC 作成
図 3 フィリピン産鉱石・対中国供給推移(グロス量)
3)Nickel Asia 社について
Nickel Asia 社は、フィリピン最大の鉱山企業であり、1977 年以降ラテライト鉱を扱ってきた。
Rio Tuba 鉱山(権益 65%)、Taganito 鉱山(65%)、Cagdianao 鉱山(100%)、Taganaan 鉱山
(100%)に加え、HPAL 方式のプラントを持つ Taganito HPAL 社(10%)及び Coral Bay Nickel 社
(22.5%)を所有する。インドネシア鉱石の禁輸措置を補うように、鉱石生産を進めている。
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3. 中国(1~3. 安泰科の講演、4. AME の講演)
1)生産・消費
中国の一次ニッケル消費量は、2013 年 899 千 t(以下 3.の単位は純分 t)(対前年比 17%増)
→ 2014 年 957 千 t(6%増) → 2015 年 980 千 t(2%増)となり、2016 年は 1,020 千 t(4%
増)になる。消費の伸びは鈍化し、対前年比 3~5%増になるものの、今後も拡大を続ける。
一方、一次ニッケル生産量は、2013 年をピークに減少し、2015 年 600 千 t、16 年に 560 千 t
となる。2016 年の内訳は、ニッケル銑鉄(NPI)330 千 t、カソード 175 千 t、添加用ショット
(ユーテリティー)30 千 t、ニッケル塩 25 千 t である。また、2016 年 3 月、上海取引所 132 千
t(ほとんどは露メーカーブランド)、保税倉庫 70 千 t の在庫が存在する。
ステンレス用途に関して、種類別には、ニッケル銑鉄のシェア減少と、カソード及びフェロ
ニッケルのシェア拡大に特徴づけられる。バッテリー等に使用されるミックスサルファイドの
生産は、2010 年に 80 千 t(総重量)を超え、2015 年 136 千 t となった。
(出典)安泰科講演資料より JOGMEC 作成
図 4 中国ステンレス生産において使用されるニッケル原料
2)インドネシアにおける現地生産
中国は、主に、インドネシア及びフィリピンから鉱石を輸入し、中国国内で加工していた。う
ち、インドネシアについては、鉱石禁輸措置を背景に、「インドネシア産鉱石の輸入 → 中国国内
におけるニッケル銑鉄生産」のフローが、「インドネシア産鉱石の現地製錬(中国との合弁企業等)
→ 中国の輸入」に流れが変わってきている。
3)ニッケル銑鉄の国内生産
ニッケル銑鉄の生産量は 2015 年 385 千 t から、2016 年 330 千 t に減るものの、2020 年には
390 千 t に回復する。2015 年のグレード別構成は、81%はハイグレード(ニッケル品位 10%)、
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16.3%はローグレード(ニッケル品位 1~2%)である。
地域別には、江蘇省が生産量の 1/4 を占め、福建省、山東省、内モンゴル自治区、遼寧省が
これに続く。昨今の状況から生産者数は減少傾向にある。40 以上の担い手が、ニッケル銑鉄を
生産しており、需要及び価格低迷を背景に、生産者数は近年、減少傾向にある。生産量上位 10
工場(大規模の Tsingshan group, Jiangsu delong nickel, Shandong xinhai technology 等)
のシェアは、2015 年 57%(220 千 t)から、2020 年 66%(260 千 t)に拡大する。
4)ニッケル銑鉄工場の競争力
ニッケル銑鉄プラントの稼働率は、2015 年 6 月の 47%から、最近は 30%まで落ちている。
2015 年に比して 2016 年の生産は軒並みマイナスの中で、海岸部の山東省及び江蘇省における
RKEF(ロータリーキルン/電炉)の稼働率は、2015 年より 2016 年の方が良くなっている。もし、
インドネシアの各製錬所が立ち上がれば、これに競争できるのは中国沿岸部の RKEF である。他
方、インドネシアの製錬所建設の多くは、全般的に予定より遅れている。
4. 米国(スクラップ・リサイクル工業研究所の講演)
1)米国の需要
米国内におけるニッケルの用途は、ステンレス鋼及び合金鋼 45%、非鉄合金及びスーパーア
ロイ 43%、電気メッキ 7%、その他 5%である。2015 年、200 千 t(以下グロス)のステンレス
鋼スクラップ、800 千 t 以上のステンレス鋼を輸入している。
2)スクラップの輸出
ISRI のスクラップ・インデックスは、2011 年 1 月から下降を続け、2016 年 3 月に、底を打っ
た。輸出量は、徐々に減少して、2015 年は 520 千 t である。2015 年(括弧内は 2006 年)の輸出
は、国別に、中国 151 千 t(184 千 t)、台湾 122 千 t(94 千 t)、インド 57 千 t(48 千 t)、
パキスタン 54 千 t(2 千 t)、韓国 30 千 t(815 千 t)である。
ピッツバーグにおけるステンレス鋼スクラップ価格(304 scrap solids)は、2014 年 6 月
1977.5US$/t から 2016 年 3 月 984.50US$/t まで、半値に落ち込んだ。輸出は、中国経済のスロ
ーダウン等を背景に海外のスクラップ需要は弱含みで、ドル高により輸出競争力は低下してい
る(筆者注:INSG 統計によれば、世界におけるスクラップ(HS72.04.21)の主な流れは、①米
国から、中国、台湾、インド、パキスタンへの輸出、②EU27 から、インド、韓国への輸出、③
最大の輸入国インドによる、米国、タイ、マレーシア、オランダ(EU スクラップの積出港)か
らの調達である)。
5. 欧州(Terrafame 社の講演)
Sotkamo 鉱山は、欧州最大級のニッケル硫化物鉱床であり、2015 年 8 月に所有権が移り、操業を
開始した。バイオ・ヒープリーチング技術を駆使して、貴液から、ニッケル及び亜鉛、副産物とし
てコバルト及び銅を生産する。リーチングには長期間かかる一方、電気代等のコスト・メリットが
ある。また、エネルギー使用量を抑制できることから、地球温暖化防止に貢献する手法である。
2018 年にフル稼働になる見込みであり、ニッケル 30 千 t、亜鉛 64.5 千 t を生産する。
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6. まとめ
世界動向のポイントは次の通りである。また、各国の位置づけは図 5 のようになる。
ニッケルを取り巻く世界動向
10 年前
①指標:LME 価格と LME 在庫の相関関係。
②INSG 統計(以下純分換算)
2005 年 鉱石生産 1,387 千 t、一次ニッケル生産 1,271 千 t、一次ニッケル消費 1,249 千 t
③需要:
中国は、2005 年に最大の消費国(当時世界消費の 15%)となり、以降輸入ポジションを強め、鉱
石の輸入を拡大。低品位のラテライト鉱を原料にニッケル銑鉄(主に 200 系用)の生産を拡大。
用途は、ステンレス鋼及びその他合金鋼(フェロニッケル、酸化ニッケル、電気ニッケル等)、
砂型やロストワックスによるニッケル基合金鋳造品、電気メッキ及びバッテリー(水酸化ニッケ
ル等)。ステンレス鋼に関して、ニッケル銑鉄等を材料とする中国、スクラップを大量に使用す
るインド等、国ごとに原料調達のスタイルは様々。
④供給:採鉱対象鉱床の低品位化・深部化・奥地化。鉱山開発コストの上昇。
鉱石生産の 7 割がアジア太平洋地域。ラテライト鉱石(酸化鉱)は、インドネシア、フィリピ
ン、豪州、ニューカレドニア、キューバ等における地表表層の風化帯から採鉱。マグマ性硫化物
鉱床からの硫化鉱は、カナダ、ロシア、南アフリカ、豪州等に分布。2009 年、ラテライト鉱の
生産量が、硫化鉱の生産量を抜く。
現在
① 指標:LME 価格と LME 在庫の相関関係。
2007 年平均 37,230US$/t(在庫 48 千 t)
2016 年 2 月平均 8,310US$/t(在庫 440 千 t)
。
②資金流入・流出の影響:価格と在庫は相関関係を持つものの、近年、価格の振れ幅は非常に大き
く、史上最高値 54,200US$(2007 年 5 月 16 日)から、2016 年 5 月現在の 9,000US$を下回る水準
まで、大きく変化している。
③INSG 統計
2015 年 鉱石生産 2,183 千 t、一次ニッケル生産 1,983 千 t、一次ニッケル消費 1,890 千 t
需給バランスは均衡状態。2015 年実績 93 千 t。
*(シェール革命後に供給構造が変化した石油・天然ガス、中国消費が半分を占めて消費構造が
変化した銅及び亜鉛に対し)ニッケルは消費構造と供給構造の両方が変化。
④需要:中国消費量は世界消費量の 52%。中国消費の伸びは鈍化したものの、依然として消費は拡
大傾向。
⑤供給:世界鉱石生産シェア 1/3~1/4(2011-2013 年)のインドネシアが、2014 年に鉱石の輸出禁止
措置を実施。鉱石生産 2013 年 834 千 t → 2015 年 130 千 t、一次ニッケル生産 2013 年 22 千 t →
2015 年 46 千 t。他方、大消費地の中国では、買い置きした鉱石ストックの利用が進むとともに、
各企業は各国から鉱石やフェロニッケルを調達。インドネシアにおける中国・インドネシア合弁企
業等において、現地生産が進行。中国ニッケル銑鉄は、需要減、鉱石入手、コークス高、環境面等
を背景に減産。中国内において、立地条件、企業形態(ステンレス鋼までの一貫生産)、所有設
備、品位によって稼働率に差が出てきている。
10 年後
①指標:一次ニッケルで取引が生じる産業構造を持つ、消費地の取引所に注目。
②需給:2020 年までに供給不足の感等、見方は様々。
2016 年 鉱石生産 2,093 千 t、一次ニッケル生産 1,913 千 t、一次ニッケル消費 1,962 千 t、需給
バランス▲49 千 t。2016 年は地金の供給不足に転じる見込み。
・地金在庫は一定水準あり、直ちに不足感は出ないものの、一次ニッケル需給はタイト化の方向が
明瞭になっている。単年の地金需給バランスは、2013 年 170 千 t → 2014 年 114 千 t → 2015
年 93 千 t → 2016 年▲49 千 t。
・鉱石市場からのインドネシアの離脱により、鉱石の市場はタイト化へ(禁輸実施の 2015 年のイ
ンドネシア鉱石生産は大幅減)
。
・供給構造と消費構造の変化に鑑みると、中長期的な需給バランスは要注視。
③需要:中国は、内需増の緩やかな伸び+世界需要や為替相場等に左右される輸出。
④供給:鉱石品位の更なる低下、新規開発の遅れを懸念。インドネシアでは、35 の製錬設備が建
設される見込み。供給構造についても、貿易取引される商品(鉱石、中間製品、地金)がさらに
変化。
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(出典)INSG 資料をもとに JOGMEC 作成
図 5 ニッケル市場における各国の位置づけ(概念図)
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報を
お届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結に
つき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等す
る場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
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