東京電力福島第一原子力発電所事故における 水産物の安全性

東京電力福島第一原子力発電所事故における
水産物の安全性と汚染水対策について
平成28年4月
水産庁
水産物の放射性物質調査の流れについて
○ 調査にあたっては、主要生産品目及び前年度に50 Bq/kg超(セシウム134及び
137)となった品目を調査。また、表層、中層、底層といった生息域、漁期、近
隣県の調査結果等を考慮。
○ 基準値に近い値が出た時や近隣県で高い値が出た時には、調査を強化。
○ 基準値を超過した場合、各自治体の要請による自粛や原子力災害対策本部長によ
る出荷制限の措置を実施。
自治体が中心となって調査計画策定
調査区域
 主要生産物
 50 Bq/kg超と
なったことのあ
る品目
>100 Bq/kg
調査頻度
 原則週1回
 漁期前の検査(カ
ツオ、サンマ等)
・1地点のみで基準値超
えとなった場合は各自治
体の要請による自粛。
・複数の地点で基準値超
えとなった場合は国によ
る出荷制限。
調査実施
 県域を区分
 各区域ごとの主要
水揚げ港で検体採
取
調査対象魚種
≦100 Bq/kg
出荷
基準値に近い値となった
場合、出荷を自粛する自
治体・漁業団体もある。
調査強化
近隣県の
調査結果
自粛
出荷制限指示
基準値に近い値
8
【出荷制限等の実効性確保】
・対象魚種の水揚げは行わない(調査用検体を除く)。
・水揚げ港において市場関係者がこれを確認。
福島県における海産物の調査結果
平成28年4月26日現在
○ 福島県においては、平成23年4-6月期には基準値を超える割合が57.7%と
なっていたが、事故後1年間でその割合は半減。平成24年4月以降は、事故後
に50Bq/kg以上が検出された魚種に調査の重点を移して継続したが、それでも
基準値を超える割合は低下を続け、平成27年10-12月期以降は0%まで低
下。
○ なお、試験操業を除き、沿岸漁業・底びき網漁業を自粛中。
総検体数:35,087検体
100Bq/kg超の検体数:
2,097検体
100Bq/kg以下の検体数 :32,990検体
福島県の海産物調査結果
(検体)
(超過率)
3,000
100%
100Bq/kg超
100Bq/kg以下
超過率
2,500
2,000
25
84
57.1%
30
34
10
33
9
0
0
4
0
0
135
1,500
41.0%
36.9%
0
154
50%
2,370 2,153 2,031 2,243 2,214 2,142 2,151 1,921 2,005 1,987 2,044 25.1%
1,753 380
21.6%1,302 1,458 1,627 1,000
500
202
299
120 430 649 90 278 300
13.4%9.6%
7.7%
4.6%
828 1,092 1.5% 1.7% 1.6% 1.0% 0.5% 0.4% 0.2% 0%
0%
0%
0
500 0% 0.0%
H23 H23 H23 H24 H24 H24 H24 H25 H25 H25 H25 H26 H26 H26 H26 H27 H27 H27 H27 H28 H28
4‐6 7‐9 10‐12 1‐3 4‐6 7‐9 10‐12 1‐3 4‐6 7‐9 10‐12 1‐3 4‐6 7‐9 10‐12 1‐3 4‐6 7‐9 10‐12 1‐3
4
0%
福島県以外における海産物の調査結果
平成28年4月26日現在
○ 福島県以外においても、100Bq/kg超の検体の割合は徐々に低下し、平成26年
10-12月期以降は0%まで低下。
○ なお、基準値を超えている魚種は、国からの出荷制限指示等が出されているた
め、いずれも市場に流通しないよう措置済み。
総検体数:41,122検体
100Bq/kg超の検体数:
177検体
100Bq/kg以下の検体数:40,945検体
福島県以外の海産物調査結果
(検体)
(超過率)
9
3,000
6
27
100Bq/kg超
2,500
100%
12
100Bq/kg以下
3
超過率
2,000
2
3
1
0
1
0
0
1
45
0
0
0
34
1,500
50%
2,880 1,000
22
2,260 2,539 1,727 11 1,498 2,669 2,341 2,238 2,303 2,060 1,934 2,122 2
,334 2
,087 2,280 2,268 2,187 1,619 500
4.7% 1.9% 2.2% 2.5%
1.1% 0.5% 0.3% 0.1% 0.2% 0.1% 0.1%0.04%0.04%0.05% 0%
0
0%
0%
0%
0%
0%
0
575 0.0%
449 575 H23 H23 H23 H24 H24 H24 H24 H25 H25 H25 H25 H26 H26 H26 H26 H27 H27 H27 H27 H28 H28
3‐6
7‐9 10‐12 1‐3
4‐6
7‐9 10‐12 1‐3
4‐6
7‐9 10‐12 1‐3
4‐6
7‐9 10‐12 1‐3
4‐6
7‐9 10‐12 1‐3
4
0%
水産物の調査実績
○ 現在では、シラスやコウナゴ等の表層の魚、カツオ・マグロ類、シロザケ、サ
ンマといった回遊魚、イカ・タコ類、エビ・カニ類、貝類や海藻類等について
は、福島県も含め、全ての都道府県で基準値以下。
平成24年度4月1日以降に、全ての都道府県で基準値以下が確認されている代表的な海産物
海藻類
貝類
イカ・タコ類
エビ・カニ類
表層魚
中層魚
底層魚
哺乳類
全種
全種
全種
全種
イワシ類
サバ類
ブリ
シイラ
アカムツ
キンメダイ
ミギガレイ
クジラ類
サンマ
カジキ類
アオザメ
シシャモ
アジ類
キチジ
イカナゴ
カツオ類
ヨシキリザメ
チダイ
アオメエソ
トラフグ
シラス
マグロ類
カンパチ
ヒラマサ
イシダイ
ニシン
カマス類
ギンザケ
コノシロ
トビウオ
シロザケ
サワラ
イトヒキダラ
マハゼ
ウマヅラハギ
マフグ
福島県及び福島県近隣県で出荷制限されている(流通することはない)海産物(平成28年4月30日現在)
魚種
クロダイ
スズキ
(注2)
(注1)
岩手県の一部
×
宮城県
×
(注3)
福島県
×
×
注 :1) 表中の×は出荷制限表示の対象となっている海域・魚種を表示
2) 岩手県・宮城県の陸域の県境の正東線以南の海域
3) 福島県海域においては、本表に示した2種の他に26種の海産物について出荷制限が指示されている。
福島県から出荷される水産物の安全性の確保について
福島県沖の現状
○ 震災以降、県内の漁業協同組合が全ての沿岸漁業及び底びき網漁業の操業自粛を継続。
○ 福島県が福島県沖で毎週150検体程度の水産物を検査。
○ 水産物の放射性物質検査の結果を踏まえ、出荷制限が指示されていない魚種のうち、
放射性物質の値の低い海域・種のみを対象として、平成24年6月から試験操業・販売
を実施。
汚染水問題との関係
○ 平成25年7月の汚染水漏洩報道の後、試験操業を一時中断。その間に福島県が海水
を検査した結果、放射性セシウム濃度及び全β放射能について、東京電力福島第一原
子力発電所の事故発生前の値と同程度であることを確認。また、水産物についても、
汚染水漏洩報道の前後で検査結果に差がないことを福島県が確認。
○ 福島県による上記確認をうけて、平成25年9月25日から試験操業を再開。
今後の取組
○ 引き続き検査により水産物の安全を確認しつつ試験操業・販売の海域・種の拡大を検討。
(参考)福島県における試験操業・販売の状況
試験操業の対象種(平成28年4月30日現在:計73種)
【魚類 47種】 アオメエソ、アカガレイ、アカムツ、アコウダイ、イシカワシラウオ、ウマヅラハギ、オオクチイシナギ、カ
ガミダイ、カナガシラ、カンパチ、キアンコウ、キチジ、コウナゴ(イカナゴの稚魚)、ゴマサバ、コモンフグ、サメガレ
イ、サヨリ、サワラ、ショウサイフグ、シラウオ、シラス(カタクチイワシの稚魚)、シロザケ、スケトウダラ、ソウハチ、
タチウオ、チダイ、トラフグ、ナガレメイタガレイ、ヒガンフグ、ヒレグロ、ブリ、ホウボウ、ホシザメ、マアジ、マイワ
シ、マガレイ、マサバ、マダイ、マダラ、マトウダイ、マフグ、ミギガレイ、ムシガレイ、メイタガレイ、メダイ、ヤナギム
シガレイ及びユメカサゴ
【甲殻類 8種】 ガザミ、ケガニ、ズワイガニ、ヒゴロモエビ、ヒラツメガニ、ベニズワイガニ、ボタンエビ及びホッコクア
カエビ
【イカ・タコ類 7種】 ケンサキイカ、ジンドウイカ、スルメイカ、マダコ、ミズダコ、ヤナギダコ及びヤリイカ
【貝類 9種】 アサリ、アワビ、エゾボラモドキ、シライトマキバイ、チヂミエゾボラ、ナガバイ、ヒメエゾボラ、ホッキガイ
及びモスソガイ
【その他 2種】 オキナマコ、キタムラサキウニ
●底びき網漁業、刺網漁業、流し網漁業、沖合たこかご漁業、沿岸かご漁業、はえ縄漁業、船びき網漁業、潜水
漁業及び貝桁網漁業 上記72種類
●船びき網漁業 上記のうちイシカワシラウオ、シラウオ、コウナゴ(イカナゴの稚魚) 、シラス(カタクチイワシの稚
魚)及びサヨリ(5種類)
●潜水漁業 上記のうちアワビ、キタムラサキウニ(2種類)
●貝桁網漁業 上記のうちホッキガイ(1種類)
●養殖漁業 上記のうちアサリ(1種類)
※ 対象種追加の経緯は福島県漁連のHP参照 http://www.jf-net.ne.jp/fsgyoren/siso/sisotop.html
試験操業海域(平成28年4月30日現在)
試験販売時の放射性物質検査の概要
加工品を検査
消費者
加工業者
流通業者
http://www.jf-net.ne.jp/fsgyoren/siso/sisotop.html
漁獲物を
検査
○検査結果は福島県漁連のHPにて随時公開。
漁獲物の流れ ・ 漁連が中心になって、放射性物質
の検査、販売物の管理等を実施。
漁船
○ 平成24年6月~28年4月の試験販売の際、
生の状態及び加工した状態のものについて計
6,965回、放射性物質の簡易検査を実施。
ストロンチウム90について
 ストロンチウム90については、食品の放射性物質の基準値を設定する際に、
その影響を十分に考慮し、安全を見込んで基準値を設定しています。
 放射性セシウムの濃度が基準値を下回っていれば、ストロンチウム90によ
る影響も心配する必要はありません。
放射性物質の基準値の考え方
○ 放射性セシウム以外の放射性物質(ストロンチウム90、プルトニウム、ルテニウム106)は測定に時間がかかるため、
食品中の放射性物質に関する基準値は、放射性セシウム及びそれ以外の放射性物質の両方からの影響を考慮したものと
なっています(参考:厚生労働省HP)。
○ 放射性セシウム以外の放射性物質による線量は、食品全体に含まれる線量の約12%になると仮定されており、これを含
めて、食品から受ける年間線量が0.9mSv以下となるように基準値が定められています。
1 ミリシーベルト(コーデックス委員会※で設定されている1人当たりの年間線量の指標値と同じ)
飲料水
約0.1mSv
食品
約0.9mSv
0.9mSvの約88%をセシウム、残り約12%分
をセシウム以外の放射性物質の影響と考慮
(※コーデックス委員会:http://www.maff.go.jp/j/syouan/kijun/codex/)
水産物中のストロンチウム90
○ このうち、水産物に関しては、安全側の評価となるよう放射性セシウム以外の放射性物質からの線量が、放射性セシウム
からの線量と同量で存在すると仮定されています。
○ これまでの水産物の調査では、ストロンチウム90は、実効線量係数を用いて線量換算すると、放射性セシウムの約500分
の1から約50分の1程度の割合となっており、上記の仮定が十分に安全を見込んだものであることが示されています。
ストロンチウム90とトリチウムについて
ストロンチウム90(半減期28.8年)
○ ストロンチウム90の実効線量係数(体内に取り込んだ放射性物質の量(単位:ベクレル)から人体に与
える影響(単位:シーベルト)を算出する場合に用いる係数)は、セシウム137の約2.2倍です(ICRP
Publication 72、成人の例)。
○ 水生生物への濃縮係数(海水の放射性物質濃度に比べ、生物の放射性物質濃度がどの程度高まるかを表す係数。具体
的には、(生物の放射性物質濃度÷海水の放射性物質濃度)で算出)は、放射性セシウムに比べて低くなっていま
す。これは、環境中から生物の体内に入っても、そのほとんどが吸収されずにそのまま排出されること
を意味しています。
トリチウム(半減期12.3年)
○ トリチウムは、食品中において考慮しなければならないほどの線量となるとは考えられないことから、
食品の基準値で考慮される対象には含まれていません(参考:厚生労働省HP)。
○ トリチムの実効線量係数は、セシウム137の約700分の1です(ICRP Publication 72、成人の例)。
○ トリチウムは自然界では主に水として存在しているため、人体や魚介類等の生物に摂取されても、ほと
んど濃縮されず、速やかに排出されます。このため濃縮係数は、ほぼ1です。
水産物の濃縮係数 (出典:IAEA TRS422; 山県(編) 生物濃縮)
魚類
軟体類
海藻類
セシウム
5 〜 100
10 〜 60
10 〜 50
ストロンチウム
1〜3
1 〜 10
10
トリチウム
1
1
1
福島第一原発専用港湾内への汚染水漏洩による影響について
○ 平成25年5月、1,2号機取水口間護岸地下水から高濃度のトリチウムが検出されたことを受け、東京電力が当該護岸に滞
留する地下汚染水の調査を実施。平成25年7月末、当該護岸から汚染水が港湾へ流出していることを確認。
○ 港湾内の海水からは放射性物質が若干検出されるものの、外側の海水ではほとんどが検出限界未満であり、影響は限定的。
○ 東京電力は、平成25年2月以降、港湾口に魚類移動防止用網を設置するとともに、港湾内に生息する魚類等の駆除を実施
中(参考:東京電力HP)。
港湾口
1~4号機取水口内北側
(東波除堤北側)
検出限界値未満(ND)となった測定に対しては、検出限界値を
プロットした。
南放水口付近
2011年4月の汚染水漏洩と、東京電力が試算した2011年5月以降の汚染水漏洩における、放射性物質
漏洩量の比較
2011年4月の漏洩量
放射性核種
漏洩期間
漏洩量
(単位:ベクレル)
セシウム134+137
6日間
1,800兆
セシウム137
6日間
940兆
東京電力の試算による
2011年5月以降の漏洩量
漏洩期間
漏洩量
(単位:ベクレル)
-
約800日間
約1兆~約20兆
ストロンチウム90
-
約800日間
約7,000億~約10兆
トリチウム
-
約800日間
約20兆~約40兆
(注)ストロンチウム90については、1~4号機取水口内北側(東波除堤北側)で220 Bq/L(2013/8/19採取)、港湾
口で49 Bq/L(2013/8/19採取)、南放水口付近で0.29 Bq/L(2013/6/26採取)検出。
(東京電力(株)作成資料を元に水産庁で編集)
汚染水対策の概要
○ 事故で溶けた燃料を冷やした水と地下水が混ざり、1日約300トンの汚染水が発生。
○
3つの基本方針に基づいて重層的な対策を実施することで、汚染水が海洋に流出するリスクを最小化し、港湾内の水質を更に改善。
3つの基本方針
1.汚染源を「取り除く」
① 多核種除去設備による汚染水浄化
② トレ ンチ(配管などが入った地下トンネル)内汚
染水の除去
2.汚染源に水を「近づけない」
③ 地下水バイパスによる地下水の汲み上げ
④ 建屋近傍の井戸(サブドレン・地下水ド
レン)での汲み上げ
3.汚染水を「漏らさない」
⑤ 凍土方式の陸側遮水壁の設置
⑥ 雨水の土壌浸透を抑える敷地舗装
⑦ 水ガラスによる地盤改良
⑧ 海側遮水壁の設置
⑨ タンクの増設(溶接型タンクへのリプレイス等)
等
(東京電力(株)作成資料を元に水産庁で編集)