神経病原性マウス肝炎ウイルス 感染後の bystander effects

神経病原性マウス肝炎ウイルス
感染後の bystander effects による
病変形成機構の解析
2016 年 3 月
柿崎 正敏
目次
1. 緒論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1~5
2. 実験材料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6~10
2-1 ウイルス株と細胞
2-2 動物実験
2-3 免疫組織化学
2-3-1 酵素抗体法
2-3-2 蛍光抗体法
2-4 Terminal deoxynucleotidyl transferase-mediated dUTP nick-end labeling
(TUNEL) 染色
2-5 神経病理学的解析
2-6 サイトカインの定量
2-7 腹腔滲出細胞
2-8 フローサイトメトリー
2-9 抗体
3. 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11~17
3-1 Mu-3 感染による海馬病変の誘導
3-1-1 病原性とウイルス増殖
3-1-2 病理組織および免疫組織学的所見
3-1-3 ウイルス抗原の分布とアポトーシス陽性細胞の分布
3-2 bystander effect によるアポトーシス誘導
3-2-1 ウイルス感染後の各種サイトカインの発現
3-2-2 ウイルス感染後の Fut9-/- マウスにおける海馬病変
3-2-3 PECs の細胞集団
3-2-4 ウイルス感染後の LeX 発現
4. 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18~21
5. 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22~27
6. 図と表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28~52
7. 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
1. 緒論
コロナウイルスはエンベロープを有するプラス鎖の一本鎖 RNA ウイルスで、直径 75-
160nm の多形性の粒子形態を示す。ウイルス核酸は分子量 27-33kb で、RNA ウイルス
中最大のゲノムサイズを示す。コロナウイルス粒子は、ゲノム RNA と結合し、リボ核タ
ンパク(RNP)として粒子内部に存在している nucleocapsid (N) タンパク、エンベロープ
に存在する membrane (M) タンパク、spike (S) タンパク、hemagglutinin-esterasse (HE)
タンパクから構成されている。
N タンパクはウイルスゲノム RNA の複製や mRNA の合成、
翻訳に関与する。M タンパクは RNP との結合性が強いことから、ウイルス粒子は粗面小
胞体やゴルジ体に存在する M タンパクに RNP が結合して出芽に至ると考えられている。
コロナウイルス粒子の形態学的特徴は“王冠(コロナ)様”スパイクを持つことである。ス
パイクは最外部が球状で、その下の棒状部位がエンベロープに埋め込まれている。スパイ
クはウイルスの受容体結合及び細胞内侵入を司り、一本のスパイクは 3 分子の S タンパク
から構成されている。HE タンパクは一部のコロナウイルスで認められており、ウイルス
エンベロープから粒子外に突出した第二のスパイクを形成している。コロナウイルスは、
ヒトを含む多くの動物に感染し種々の疾患を引き起こす。現在、血清学的な分類や塩基配
列の解析などから 3 つのサブグループに分類されている。ヒトのコロナウイルスは組織培
養系におけるウイルス増殖が困難なことにより、不明な点が多く残っている。しかし、近
年では、ヒトに感染する SARS コロナウイルス(Sever acute respiratory syndrome
coronavirus : SARS-CoV)や MERS コロナウイルス (Middle East respiratory syndrome
coronavirus : MERS-CoV) の研究も進んでいる。コロナウイルスに関する研究は、主に動
物由来のウイルス、とくに株化細胞で容易に増殖するマウス肝炎ウイルス(Mouse
hepatitis virus : MHV)が用いられヒトの疾患モデルとして研究が進んでいる。
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MHV の感染は S タンパクが感受性細胞表面のレセプターに結合することによって始ま
る。S タンパクは分子量約 180kDa の糖タンパクであり、細胞由来のプロテアーゼによっ
て壊裂され、N 末端 S1 と C 末端 S2 サブユニットになる。S1 サブユニットは、レセプタ
ーへの結合部位を含んでおり、スパイクの先端部で球状の構造をとると考えられている。
また、レセプター結合領域の C 末端側には、このウイルス株間でもっとも大きなアミノ酸
配列の違いがみられる超可変領域がある。一方、S2 サブユニットは、エンベロープに埋め
込まれ、スパイクの棒状構造を形成しており、エンベロープと宿主細胞膜との膜融合に関
与していると考えられている。
MHV の主要なレセプターは Carcinoembryonic Antigen Cell Adhesion Molecule1
(CEACAM1)と呼ばれる免疫グロブリンスーパーファミリーに属するタンパクである。
CEACAM1 は、上皮細胞、血管内皮細胞、顆粒球、単球、マクロファージ、T 細胞、B 細
胞、NK 細胞など様々な細胞で発現が確認されている (Greicius et al. 2003; Kammerer et
al. 2001; Moller et al. 1996; Odin et al. 1988)。また、脳内ではミクログリアにのみ発現し
ており、MHV 受容体として機能することがわかっている (Ramakrishna et al. 2004)。
MHV はマウスの消化器系、神経系などの組織に親和性を示す多くの株が存在し、急性
で致死的な疾病から、慢性で持続的な疾病まで様々な病気を引き起こす。そのうち JHM
株は神経系組織への親和性が高く、中でも特に野生株である JHM‐cl-2 株(cl-2)は急性
の脳脊髄炎を起こし、感染後 2-3 日でマウスを死にいたらしめる (Taguchi et al. 1985)。
JHM 株で神経病原性が極めて高いウイルスは CEACAM1 を認識して標的細胞へ感染し、
感染細胞からは CEACAM1 を持たない細胞へと細胞融合が起こり、感染拡大する (受容体
非依存性感染)ことが報告されている(Gallagher et al. 1992)。
一方、cl-2 株由来の変異株である可溶性レセプター抵抗性ウイルス変異株 7(soluble
receptor resistant 7 : srr7)はエンベロープと細胞膜との融合性が低く、レセプター依存
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的に増殖し、cl2 に比べ感染性が低いことが分かっている。srr7 は受容体非依存性細胞融
合活性を示すことはなく、親株の cl-2 と比べ、S2 の 1114 番目のアミノ酸に Leu → Phe
という点変異がある。JHM の S タンパクを CEACAM1 非発現 Baby Hamster Kidney
(BHK) 細胞で発現すると細胞融合が観察される一方で、srr7 の S 蛋白を発現させると融
合活性を示さないことが報告されており (Taguchi et al. 2002)、このことから srr7 の S2
での点変異が受容体非依存性感染活性に何らかの影響を及ぼしていることが考えられてい
る。
近年、我々は srr7 を 10 年以上継代するなかで、いくつかの変異株を分離した (Nomura
et al. 2011)。分離された変異株の一つである Mu-3 は、マウスに接種後、5 日以内に海馬
内の特定領域 (CA2、CA3 領域) において神経細胞の脱落を誘導した。
海馬の CA 領域に生じる神経細胞の脱落は、アルツハイマー病 (Mattson et al. 2004)、
脳虚血 (Jellinger et al. 2007)、エイズ脳症 (Mattson et al. 2005) などの疾患で認められ
る現象である。この現象の誘導機構の解明のため、様々な実験モデルを用いた研究がおこ
なわれてきた。ヒト疾患においても、動物実験モデルにおいても、海馬内の病変部位は、
原因によって異なった分布を示す。海馬領域内の、ある特定部位に神経細胞の脱落が生じ
て、ほかの部位の神経細胞が比較的よく保たれている現象の誘導機構は解明されていない。
しかも、病変を引き起こす起因物質・因子が、神経細胞に直接作用を及ぼして細胞死を引
き起こすのか、または起因物質・因子が、仲介する物質を誘導して、間接的に神経細胞死
を引き起こしているのかについてさえ、議論の余地を残している。これは、起因物質・因
子と病変部位の分布の詳細な検索が行われていないことが原因である (Mattson, M. P., et
al. 2005)。これまでのところ、海馬で神経細胞死が誘導されることには、間接的な要因
(Bystander effects) が関与していることが状況証拠から推定されており、間接的に神経細
胞死を引き起こす仲介役の物質として注目されているのが、炎症性サイトカイン、とりわ
3
け、 Tumor Necrosis Factor α (TNFα) や interleukin-1β (IL-1β) である。これらの物質
は、海馬での神経細胞脱落を引き起こす、ほぼすべての疾患や実験動物の海馬で上昇して
いることが報告されている。しかし、多くの場合、組織全体や髄液を用いた定量的検索の
結果であり、病変が生じている特定領域での動態は不明である。しかも、空間的な分布だ
けではなく、時間的な経過、とりわけ、神経細胞が脱落する直前でのこれらの物質の動態
も不明である。
近 年 、 糖 鎖 構 造 の 一 つ で あ る Lewis X (LeX: galactose [Gal]β1-4[Fucose {Fuc}
α1-3]N-acetylglucosamine [GlcNAc]) 構 造 が 、 dendritic cell-specific intercellular
adhesion molecule-3-grabbing non-integrin (DC-SIGN) などの C-type lectin receptors
(CLRs) を介して、病原体感染後のサイトカイン産生に重要な役割を果たしていることが
報告されている (Gringhuis et al. 2009)。また、我々は、LeX を合成する α1,3 フコシルト
ランスフェラーゼ 9 (FUT9) をコードする遺伝子をノックアウトした (Fut9-/-) マウスを
用いた研究で、srr7 感染による病変形成は bystander effects によって誘導され、この
bystander effects に LeX 構造が関与していることを報告した (Kashiwazaki et al. 2014) 。
さらに、srr7 感染後の野生型マウスの脳では炎症反応が抑えられ、免疫反応の顕著な抑制
が生じたが、Fut9 ノックアウトマウスでは srr7 感染後の免疫抑制から免れていた
(Kashiwazaki et al. 2014)。また、感染野生型マウス由来のリンパ球を Toll Like Receptor
(TLR) に対するリガンドで刺激すると、炎症性サイトカインの発現が著しく減少した。し
かし、Fut9-/- マウス由来のリンパ球では炎症性サイトカインの減少は見られなかった
(Kashiwazaki et al. 2014) 。以上のことから、srr7 感染後の野生型マウスの脳では LeX
の発現が増加している可能性が考えられたが、srr7 感染後の野生型マウスの脳を含む各臓
器において LeX を検出することができなかった。
そのために、Mu-3 感染実験モデル、腹腔内滲出細胞 (peritoneal exudate cells : PECs)
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を用いて、Bystander effects に関与していると考えられる、炎症性・抗炎症性サイトカイ
ンと LeX 構造のウイルス感染後の動態を明らかにすることにした。その結果、ウイルス感
染後に LeX 構造を発現する実験系の開発に成功した。
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2. 材料と方法
2-1 ウイルス株と細胞
本研究では、cl-2、srr7、Mu-3 の 3 つの JHM 株を使用した。Mu-3 は、srr7 に対して、
S タンパクの S1 サブユニットの 596 番目のアミノ酸に Asn→Lys の変異が確認されてい
る。ウイルスの継代、タイトレーションアッセイには DBT 細胞を用いた。DBT 細胞は、
5% ウシ胎児血清 (FBS ; Sigma) 添加 Dullbecco’s modified minimal essential medium
(DMEM; GIBCO)で、37℃、5%CO2 インキュベーターで培養した。
2-2 動物実験
specific-pathogen-free (SPF) BALB/c マウスを日本チャールズリバー社より購入、また、
Fut9-/- BALB/c マウスを産業総合技術研究所より譲り受けた。マウスは、本学動物実験
規定に基づいて、動物舎で飼育した。6-7 週齢のマウスを biosafty level 3 実験室に移し、
エーテル (昭和エーテル) 麻酔下で、右前頭葉に cl-2、srr7、Mu-3 のいずれかのウイルス
を 1 x 102 plaque forming unit (PFU) / 50µl 接種した。コントロールとして、ウイルス希
釈に用いる DMEM を 50µl 接種した。経時的に、エーテル麻酔下で、感染マウスの心臓か
ら全採血し安楽死させ、脳と肝臓の一部を摘出し-80℃で保存した。ホモジナイザーを用い
て、これらの臓器をリン酸緩衝生理食塩水 (PBS) 中でホモジナイズし、5000rpm で 5 分
間遠心した。上清のウイルス力価を DBT 細胞を用いたプラークアッセイ法により測定し
た (Matsuyama et al. 2001)。
2-3 免疫組織化学
2-3-1 酵素抗体法
6
経時的に、エーテル麻酔下で感染マウスの心臓から全採血し安楽死させ、脳の一部を摘
出し、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液 (PFA) で固定した。その後、アルコール
で段階的に脱水し、パラフィン包埋した。冠状断で厚さ 4µm に連続切断し、シランコート
スライドガラス上にのせた。連続切片の一部について、ヘマトキシリン・エオジン (HE) 染
色、酵素抗体法染色でウイルス抗原を染色し、ウイルス感染後に誘導される海馬病変の病
理学的検索を行った。一次抗体として、ウサギポリクローナル抗体 (SP-4) (Matsuyama et
al. 2001) (表 1)、二次・三次抗体として、ビオチン標識ロバ抗ウサギ IgG 抗体、ペルオキ
シダーゼ標識アビジン (Molecular Probe) (表 1)を用いた。
パラフィン切片をキシレンで脱パラフィンし、100%エタノールに浸漬し、段階的にエタ
ノール濃度を下げ、水になじませた。PBS (-) で 3 回洗浄した後、50% 正常ウマ血清
(Invitrogen) を含む PBS で、室温で 40 分間ブロッキングを行った。PBS (-) で 1 回洗浄
後、一次抗体を添加し、室温で一晩静置した。PBS (-) で 3 回洗浄後、0.3% H2O2 を含む
メタノールに 20 分間浸漬し、内因性ペルオキシダーゼ活性を阻害した。PBS (-) で 3 回洗
浄した後、二次抗体を添加し、室温で 90 分間静置した。PBS (-) で 3 回洗浄した後、三次
抗体を添加し、室温で 90 分間静置した。PBS (-) で 3 回洗浄した後、0.2mg/ml ジアミノ
ベンジジンを含む 0.1M トリス塩酸緩衝液 (pH 7.6)に 20 分間浸漬し、その後、0.01% H2O2、
0.2mg/ml ジアミノベンジジンを含む 0.1M トリス塩酸緩衝液 (pH 7.6)に 15 分間浸漬し、
発色させ光学顕微鏡で観察した。
2-3-2 蛍光抗体法
経時的に、エーテル麻酔下で感染マウスの心臓から全採血し安楽死させ、脳の一部を摘
出し、O.C.T compound (Sakura) に包埋し、ドライアイス上で急速に凍結させた。クライ
オスタットを用いて、冠状断で厚さ 10µm の凍結切片を作製し、シランコートスライドガ
7
ラスに貼付けた。室温で、切片を 10 分間風乾し、アセトンで 10 分間固定した後、染色を
行うまで-20℃で保存した。0.05% Tween 20 (Sigma)、5 % 正常ウマ血清 (Invitrogen)、
1% 牛血清アルブミン (BSA ; Invitrogen)、0.1% アジ化ナトリウム (Sigma)、ニワトリ抗
マウス IgG (1 : 1000) を含む PBS (-)を用いて、室温で 30 分間ブロッキングを行った。
PBS
(-) で 3 回洗浄した後、一次抗体を添加し、室温で 60 分間静置した。同様にして、二次抗
体、三次抗体反応させた。その後、Hoechst 33342 (Invitrogen)を用いて核染色を行った。
Gold antifade reagent (Invitrogen)を用いて封入し、蛍光顕微鏡 (KEYENCE) または共
焦点レーザー顕微鏡 (Leica Microsystems)で観察した。
2-4 Terminal deoxynucleotidyl transferase-mediated dUTP nick-end
labeling (TUNEL) 染色
脱パラフィン後、組織切片を 0.1M クエン酸緩衝液 (pH6.0) に浸漬し、1 分間マイクロ
波処理を行った。PBS (-) で 1 回洗浄後、3%BSA と 20%FBS を含む 0.1M トリス塩酸緩
衝液 (pH7.5) を用いて、室温で、30 分間ブロッキングを行った。PBS (-)で 3 回洗浄後、
TUNEL reaction mixture (Roche) を室温で、1 時間反応させ、断片化 DNA を蛍光標識し
た。その後、蛍光顕微鏡 (KEYENCE) で観察した。
2-5 神経病理学的解析
冠状断で海馬を含む面のパラフィン切片を HE 染色し、海馬の CA1、CA2、CA3 の各領
域の神経細胞層における神経細胞の脱落の程度を次のように分類した。Score 0、脱落した
細胞無し (図 2A) ; score 1、脱落した細胞が 10%以下 (図 2B); socre 2、脱落した細胞が
20-30% (図 2C); score 3、脱落した細胞が 60%以上 (図 2D,E); score 4、脱落した細胞が 90%
以上 (図 2F)。また、海馬両側で score 4 が見られた場合を score 5 とした。
8
2-6 サイトカインの定量
経時的に、感染マウスから全脳を摘出後、実体顕微鏡下で海馬領域を分離し、急速凍結
し-80℃で保存した。SK-100 mill (Tokken Inc) を用いて凍結組織を破砕し、protease
inhibitors
(leupeptin,
pepstain,
and
chymostain;
Sigma)
を
含
む
Radio-Immunoprecipitation Assay Buffer (Wako) で凍結組織からタンパク質を抽出した。
その後、4℃、14,000 rpm で 30 分間遠心し上清を回収し-80℃で保存した。Affimetrix 社
からサイトカイン測定用キットを購入し、Luminex microbead-dased multiplexed assay
(Luminex Corp) を用いてサイトカインを定量した。
2-7 腹腔滲出細胞
Difco Laboratories 社から販売されていた、Dehydrated Brewer thioglycollate medium
と 同 様 の 組 成 (Li et al. 1997) の thioglycollate medium (TM) を 得 る た め に 、 BD
Diagnostics 社より購入した Brewer thioglycollate medium 20g に、10g のプロテオース
ペプトン (BD Diagnostics)、2.38g の塩化ナトリウム (Wako)、0.945g のリン酸水素二カ
リウム (Wako) を添加し、1000ml のミリ Q 水に溶解させた。その後、121℃、15Ibs で
20 分間オートクレーブ滅菌し、遮光し室温で保存した。TM 2ml をマウスの腹腔内に接種
し、4 日後に PBS(-)で腹腔内を洗い、腹腔滲出細胞 (peritoneal exudate cells : PECs) を
回収した。PECs を 8 well glass bottom chamber slides に 2.0 x 105/well の濃度で播種し
10% FBS 添加 RPMI 1640 Medium (GIBCO) で 24 時間培養した。その後、1.3 x 103
PFU/well の濃度で srr7 を感染させ経時的に固定後、免疫蛍光染色を行った。また、PECs
へのウイルス感染前後に抗 LeX 抗体を投与し、LeX 阻害実験を行った。ネガティブコント
ロールとして、抗 Sialyl-LeX (SLeX) 抗体を用いた。
9
2-8 フローサイトメトリー
2-7 で示した方法で回収した PECs に、1.3 × 105 PFU の srr7 を感染させ 24 時間浮遊
培養した。その後、Fluorescence activated cell sorting (FACS) 緩衝液 (1% BSA、0.1% ア
ジ化ナトリウム / PBS) で 2 回洗浄し、1 x 106 cells / ml に調整した。5 µg / ml の Fc block
(BD Biosciences) を含む FACS 緩衝液で、4℃で 20 分間ブロッキングを行った。FACS
緩衝液で 3 回洗浄後、一次抗体を加え 4℃、30 分間暗所で静置した。FACS 緩衝液で 3 回
洗浄後、0.5% PFA で細胞を固定した。解析は FACSCalibur (BD Biosciences)と FlowJo
ソフトウェア (Tree Star) を用いた。
2-9 抗体
酵素抗体法、蛍光抗体法、フローサイトメトリーで使用した全ての抗体は、表 1 に記載
した。
10
3. 結果
3-1
Mu-3 感染による海馬病変の誘導
3-1-1 病原性とウイルス増殖
Mu-3 感染マウスでは、感染後 5 日以内の死亡率は 80%以上であった。この死亡率は srr7
感染マウスより高く、cl-2 感染マウスより低かった (図 1A)。cl-2 感染マウスでは、感染後
3 日目で死亡率が 80%、感染後 4 日目で死亡率が 100 % となった。Mu-3 感染マウスでは、
感染後 3 日目までは臨床症状は見られず死亡率も 0 % であったが、感染 4 日後になると運
動不全の症状が見られるようになった (図 1A)。経時的に感染マウスより摘出した脳と肝
臓におけるウイルスタイターを図 1B に示した。srr7 感染と Mu-3 感染では、脳・肝臓に
おけるウイルスタイターには有意差は見られなかった。また、cl-2 感染と比較すると、srr7
感染・Mu-3 感染は脳でのウイルスタイターには有意差は見られなかったが、感染後 48 時
間の肝臓のウイルスタイターは cl-2 感染よりも低かった (図 1B)。
3-1-2 病理組織および免疫組織学的所見
Mu-3 感染後の脳で見られる病理像は、srr7 感染で見られる病理像と cl-2 感染で見られ
る病理像が混合したものであった。srr7 感染脳と同様に (Matsuyama et al. 2001;
Takatsuki et al. 2010)、Mu-3 感染 3 日後の脳組織において、顕著な壊死性病変は見られ
なかった。また、海馬領域は正常に保たれており、アポトーシス・ネクローシス・顕著な
細胞浸潤は見られなかった (図 2A)。さらに、Mu-3 感染 3 日後では、海馬領域ではほとん
どウイルス抗原は確認できなかったが、白質である脳梁でウイルス抗原が見られた (図3
A)。一方、cl-2 感染 3 日後の脳組織では、灰白質において広範な壊死性病変が見られた
(Matsuyama et al. 2001; Takatsuki et al. 2010)。cl-2 感染で見られるのと同様に、Mu-3
11
感染後 3 日目では、すでに灰白質である大脳皮質の神経細胞でウイルス抗原が認められた
(図 3B) 。Mu-3 感染 4 日後になると、海馬領域の神経細胞層、特に CA2、CA3 領域 (図
3C,4A) でウイルス抗原が確認できた。また、神経細胞層と神経細胞層の外側の領域 (上昇
層) で、神経細胞以外の細胞、特に CD11b 陽性 (CD11b+) 細胞でウイルスの感染が見ら
れた (図 4B, C)。cl-2 感染では、海馬の CA1 領域の神経細胞層だけでなく、上昇層でもウ
イルス抗原が確認できた (図 3D) 。
HE 染色によって観察される、Mu-3 感染後の病理学的変化は、海馬領域の神経細胞層に
おける神経細胞の脱落、または、変性であった。これらの変化には、アポトーシスの形態
的特徴である、核濃縮や核の断片化が伴っていた (図 2)。神経細胞の脱落の程度が socre 3
以上を示す個体の割合は、Mu-3 感染 4 日後では 80%、Mu-3 感染 5 日後では 100%であっ
た (図 5)。一方、cl-2 感染では、score 3 以上の値を示す個体の割合は 20%以下であった (図
5)。HE 染色で見られた核濃縮や核の断片化が、アポトーシスによるものであることを確
かめるため、蛍光抗体法で caspase-3 (図 6A-D) を、TUNEL 法染色で断片化 DNA を染色
した(図 E-G)。その結果、Mu-3 感染では、CA2、CA3 領域でアポトーシスを起こしてい
る細胞が多数認められ (図 2F, 6F)、cl-2 感染では、CA1 領域でアポトーシスを起こして
いる細胞が多数認められた (図 2D, 6G)。アポトーシスを起こしている細胞は、神経細胞
(図 6A) と CD11b+細胞 (図 6B) であった。また、髄膜に浸潤していた CD11b+細胞の中
にもアポトーシスを起こしているものが見られた (図 6C) 。さらに、caspase3 とウイルス
抗原の免疫二重染色の結果から、海馬領域の神経細胞層でアポトーシスを起こしている細
胞の大部分はウイルスに感染していないことがわかった (図 6D)。
3-1-3 ウイルス抗原分布とアポトーシス陽性細胞の分布
Mu-3 感染脳のパラフィン切片上で観察された、海馬領域におけるウイルス抗原の分布
12
とアポトーシスの分布は相関していた (図 2, 3C)。免疫染色と TUNEL 法染色を用いた定
量解析の結果もこの相関を支持していた (図 7)。Mu-3 感染 3 日後では、ウイルス抗原は
ほとんど見られず (図 7A)、アポトーシスは見られなかった (図 7B)。さらに、cl-2 感染
後 3 日後では DG・CA3 領域に比べ、CA1・CA2 領域で多数のウイルス抗原が確認でき、
有意差が認められた (図 7A)。また、DG・CA3 領域に比べ、CA1・CA2 領域の神経細胞
で多数のアポトーシスが確認でき、有意差が認められた (図 7B)。Mu-3 感染 4 日後にな
ると、CA3 領域の神経細胞で多数のウイルス抗原とアポトーシスが認められた。しかしな
がら、cl-2 感染と Mu-3 感染で、CA3 領域におけるアポトーシス陽性細胞数を比較すると
有意差が認められた (図 7B) にもかかわらず、同様の領域でウイルス抗原陽性 (V+) 細胞
数を比較すると有位差は認められなかった (図 7A)。そこで、上昇層を含む領域 (Total) で
V+細胞数を定量した。上昇層でのアポトーシス陽性細胞数は、神経細胞層でのアポトーシ
ス陽性細胞数の 5% 以下であったので、アポトーシス陽性細胞数のデータは、神経細胞層
におけるもののみを示している。Mu-3 感染での Total CA3 における V+細胞数は、cl-2 感
染での V+細胞数より多く有意差も認められた (図 7A)。cl-2 感染では、Total CA3 と CA3
の神経細胞層における V+細胞数はほとんど同じであった。このことから、cl-2 感染では
CA3 の神経細胞層の外側の領域ではウイルスに感染している細胞はほとんどなく、Mu-3
感染では CA3 の神経細胞層の外側の領域では CA3 の神経細胞層と同数の細胞がウイルス
に感染していることがわかった (図 7A)。
以上の結果から、海馬領域の神経細胞層でのアポトーシス誘導には、神経細胞層での感
染よりも神経細胞層の外側の領域での感染が重要である可能性が示唆された。また、海馬
領域の神経細胞層でアポトーシスを起こしている細胞の大部分はウイルスに感染していな
い (図 6D) ことが上記の可能性を支持している。さらに、Mu-3 感染後に CA2・CA3 領
域で確認されるアポトーシス陽性細胞数は、V+細胞数よりも多かった (図 7C)。しかし、
13
cl-2 感染後では CA1・CA2・CA3 の全領域で V+細胞数の方がアポトーシス陽性細胞数よ
りも多かった (図 7C)。
TUNEL 法染色はアポトーシスの過程で DNA 断片が存在する過程しか同定できず、そ
の前後の過程にあるときは同定できない。これより、TUNEL 法染色によって測定したア
ポトーシス陽性細胞数は、HE 染色で確認できるものを完全に反映していない。そこで、
核の数に対するアポトーシス陽性細胞数の割合を計測し (図 7B2)、Mu-3、または、cl-2
感染の海馬領域でアポトーシスが誘導される領域の傾向を示した。
3-2 Bystander effect によるアポトーシス誘導
3-2-1 ウイルス感染後の各種サイトカインの発現
間接的に神経細胞死を引き起こす仲介役の物質として考えられているのが、炎症性サイ
トカインである。そこで、Luminex microbead-based multiplexed assay を用いて、アポ
トーシスが誘導される直前の Mu-3 感染 3 日後における海馬領域で、interleukin (IL)-1β、
tumor necrosis factor (TNF)-α、monocyte chemoattractant protein 1 (MCP-1) の 3 種類
の炎症性サイトカインの発現を検索した。その結果、検索した全てのサイトカインの発現
が確認できた。しかし、Mu-3 感染 3 日後における炎症性サイトカインの発現量は、非感
染とメディウム接種 3 日後のものと比較して有意差は見られなかった (図 8)。海馬領域に
おけるサイトカイン発現量を定量するだけでは、局所での発現分布はわからない。そこで、
海馬の各領域でのサイトカイン発現分布を検索するために、Mu-3 感染後 3 日目の凍結切
片を用いて免疫染色を行った。IL-1β は、CA1・CA2 領域で発現が認められたが、アポト
ーシスが誘導される CA3 領域では発現がほとんど認められなかった (図 9A)。TNF-α は、
CA2 領域で発現が認められたが、CA1・CA3 領域では発現がほとんど認められなかった (図
9B)。MCP-1 は、CA1・CA2・CA3 全ての領域で発現が認められた (図 9C)。以上の結果
14
から、検索した 3 種類の炎症性サイトカインの発現分布は、病変の分布とは一致しなかっ
た。
次に、抗炎症性サイトカインである、transforming growth factor (TGF)- β と IL-10 の
発現を同様に検索した。TGF- β は、CA1・CA2・CA3 全ての領域で発現が認められた (図
10A)。IL-10 は、CA2・CA3 領域で発現が認められ、CA1 領域では発現が認められなかっ
た (図 10B)。これより、IL-10 の発現分布は、Mu-3 感染で誘導される病変の分布と一致
した (図 2)。このことから、間接的に神経細胞死を引き起こす仲介役の物質の候補として、
IL-10 が考えられた。
3-2-2 ウイルス感染後の Fut9 -/- マウスにおける海馬病変
Bystander Effect による病変形成に LeX 構造が関与している (Kashiwazaki et al.
2014) 。さらに、LeX は DC-SIGN などのレクチンレセプターを介して、サイトカイン産
生に重要な役割を果たしている (Gringhuis et al. 2009) ことから、LeX を発現しない
Fut9-/- マウスではウイルス感染後に誘導される海馬領域の病変が、野生型とは異なる可能
性が考えられた。そこで、Fut9-/- マウスに Mu-3 を感染させ、野生型マウスの海馬領域で
誘導される病変と比較した。感染 5 日後の野生型マウスでは CA2 から CA3 にかけて神経
細胞の顕著な脱落が見られる (図 2F, 11A) が、Fut9-/-マウスでは、CA3 領域で神経細胞
の脱落がほとんど見られなかった (図 11B)。近年の我々の研究から、MHV 感染後の野生
型マウスは免疫反応の著明な抑制が生じているが、Fut9-/- マウスではこの MHV 感染後の
免疫抑制から免れていることが分かっている (Kashiwazaki et al. 2014) 。このことから、
Fut9-/-マウスでは、感染後 IL-10 の産生が抑制され、これが原因で CA3 領域で神経細胞の
脱落がほとんど起こらない可能性が考えられる。しかし、これまでの検索から LeX は野生
型マウスで単球系細胞・中枢神経系で検出されていない。そこで、単球系の細胞での LeX の
15
発現を検出するための実験系を開発することにした。
3-2-3 PECs の細胞集団
TM 接種後に回収される PECs には様々な細胞集団が混在している (Cook et al. 2003;
Misharin et al. 2012)。そこで、回収した PECs を浮遊培養後、CD11b、F4/80、Gr-1 の
3 種類の細胞表面マーカーで染色し、フローサイトメトリーで解析した。その結果、PECs
中、CD11b+ 細胞が約 70%、F4/80+ 細胞が約 50%、Gr-1+ 細胞が 15%以下であった (図
12A) 。ウイルス感染後の PECs の細胞集団も、非感染のものとほとんど同じであった (図
12A) 。しかし、ウイルス感染後に CD11b+かつ Gr-1+陽性の小集団が出現した (図 12A 中
の点線円) 。次に、8 well glass bottom chamber slides で接着培養した PECs でも同様に、
CD11b、F4/80、Gr-1 の 3 種類のマーカーで染色した結果、CD11b+ 細胞が約 70%、F4/80+
細胞が約 40%、Gr-1+ 細胞が約 20%であった (図 12B)。接着培養した PECs にウイルス
を感染させた後の細胞集団も、非感染のものと差は見られなかった (図 12B)。また、接着
培養 PECs で経時的にウイルス感染細胞の割合を検索した結果、感染後 12 時間から 24 時
間にかけて急激に感染細胞数の割合が増加した (図 12C)。
3-2-4 ウイルス感染後の Le X 発現
感染後に形成されたシンシチウムの大部分は Gr-1 と CD11b を発現していた (図
13A,B)。また、シンシチウムを形成していない、単核の V+CD11b+ 細胞と V-CD11b+ 細
胞が見られた (図 13A)。さらに、V-CD11b+ 細胞の中に、V+ 細胞に対して長い突起を伸
ばしているものが認められた (図 13A 中の白矢印)。Gr-1+ 細胞の中には、このような V+
細胞に突起を伸ばしている細胞は見られなかった (図 13B)。
ウイルス感染 24 時間後の PECs では LeX の発現が確認されたが (図 13C)、非感染 PECs
16
では LeX の発現は見られなかった (図 13D)。さらに、LeX の大部分はシンシチウムで発現
していた (図 13C)。また、シンシチウムの周囲に存在している単核の非感染細胞の中に、
LeX を発現している細胞も確認できた (図 13C 中の白矢印)。LeX を発現している単核細胞、
または、シンシチウムは、CD11b+ (図 14A)、または、Gr-1+ (図 14B) 細胞であった。ま
た、LeX 発現細胞でも、突起を伸ばしている細胞が確認できた (図 14A 中の白矢印)。感染
後 24 時間において、LeX を合成する酵素である FUT9 の発現は、LeX の発現と同様の様式
であった (図 14C,D)。しかし、感染後 12 時間では、LeX の発現は確認できなかったが (図
14E)、FUT9 の発現は確認できた (図 14F)。
シンシチウムの形成に LeX が関与しているかどうかを検索するために、培養中の PECs
に抗 LeX 抗体を加えた。コントロールとして、抗 SLeX 抗体 (CSLEX1) を用いた。この
抗体は、ヒトの SLeX には反応するが、マウスの SLeX には反応しない (Matsumura et al.
2015)。感染後 0-24 時間の間、抗 LeX 抗体を含むメディウムで培養した時、形成されるシ
ンシチウム数が減少した (図 15A)。しかし、ウイルスを感染させる前に抗 LeX 抗体を含む
メディウムで培養し、ウイルス感染後は抗 LeX 抗体を含まないメディウムで培養した時、
形成されるシンシチウム数は減少しなかった (図 15A)。抗体処理後に形成されるシンシチ
ウム数の減少は、最初にウイルスに感染する細胞の数が減少したことを意味するのではな
く、顕微鏡で検出可能な大きさになったシンシチウム数の減少を意味している。このこと
は、感染後 12 時間では、抗 LeX 抗体処理した時と抗 SLeX 抗体処理した時の感染細胞数
には有意差は見られなかった (図 15B)、という結果からも明らかである。また、感染後
24 時間になると、抗 LeX 抗体処理したもので感染細胞数が減少した (図 15B)。以上の結
果から、抗 LeX 抗体はシンシチウム形成を阻害するだけではなく、cell-to-cell 感染も阻害
していることが考えられる。
17
4. 考察
Mu-3 感染後 Bystander effect によって誘導される海馬病変
MHV は変異を起こす割合が高く (Butler et al. 2008) 様々な変異株が存在している。
我々も、以前に srr7 から分離された 3 つの変異株 (Nomura et al. 2011) に加えて、新た
に Mu-3 を分離した。これらの変異株を用いて、変異に依存する病変形成部位のばらつき
を詳細に解析することは、SARS や MERS などを引き起こす高い病原性を有する新規コ
ロナウイルスの出現のメカニズム解明に対する重要な手がかりになる可能性が考えられる。
これらの変異株の中で Mu-3 は、感染後全個体において海馬領域、特に CA2・CA3 領域、
の神経細胞層でアポトーシスを誘導するという特徴的な病変を示した。海馬に生じる神経
細胞の脱落は、様々な疾患で認められているが、海馬領域内で神経細胞の脱落が生じる部
位は原因によって異なっている。アルツハイマー病や脳虚血では CA1 領域の神経細胞でア
ポトーシスが確認される (Matton et al. 2004)。ピコルナウイルスの一種である、タイラ
ーマウス脳脊髄炎ウイルス (Theiler's murine encephalomyelitis virus: TMEV) (Buenz
et al. 2009: Libbey et al. 2008) や脳心筋炎ウイルス (encephalomyocarditis virus) (Shafi
et al. 1993; Yayou et al. 1993) は CA1 領域の神経細胞をターゲットとしている。ボルナ
病ウイルス (Borna disease virus) は、INF-γ ノックアウトマウスでのみ CA1 領域に病変
を形成する (Richter et al. 2009)。神経向性麻疹ウイルスは、CA1・CA3 領域で主に病変
が形成される
(Andersson et al. 1993) 。 ヒ ト 免 疫 不 全 ウ イ ル ス
(Human
Immunodeficiency Virus: HIV)のタンパク質である gp120 と Tat は CA1・CA3 領域の神
経細胞に毒性をもつ (Matton et al. 2005)。コクサッキーウイルス B3 (Coxsackievirus B3:
CVB3) は、新生仔マウスの DG・CA2・CA3 の神経細胞にアポトーシスを誘導する (Feuer
et al. 2003; Ruller et al. 2012)。しかしながら、原因によって神経細胞の脱落が生じる部
18
位が異なる理由は分かっていない。CA1 領域の神経細胞は最も傷つきやすいとの報告があ
る (Matton MP. 2004) が、これでは、Mu-3 感染において CA1 領域の神経細胞が保たれ、
CA3 で多数のアポトーシスが誘導されることを説明できない。 また、単純ヘルペスウイ
ルス (Herpes simplex virus: HSV) (Kopp et al. 2009)、CVB (Feuer et al. 2003)、BDV
(Richter et al. 2009) 感染によって海馬領域に誘導された領域特異的なアポトーシスは、
ウイルスが直接感染することに起因すると報告されている。しかし、これらの報告での統
計解析はウイルス抗原の分布とアポトーシス陽性細胞の分布の相関を明らかにしていない。
TMEV 感染マウスでは、bystander effect によって海馬病変が形成されることが報告され
ており、感染後誘導される病変部位に好中球が観察されることから、好中球が神経細胞死
を引き起こす仲介役として示唆されている (Buenz et al. 2009)。また別の研究では、病変
部位に transforming growth factor (TGF)-β の発現が観察されることから TGF-β が間接
的に神経細胞死を引き起こす仲介役として示唆されている (Libbey et al. 2008)。しかし、
これらの報告では、病変形成後においてのみ仲介役の物質の検索をしており、病変が形成
される直前の動態については議論されていない。
我々の解析結果は、cl-2 感染、Mu-3 感染ともに、神経細胞層での感染細胞数に比べ、上
昇層での感染細胞数の方が、神経細胞層でのアポトーシス陽性細胞数と相関を示している
(図 7)。このことは、海馬領域の神経細胞のアポトーシスはウイルスが直接感染することに
よって生じるのではなく、ウイルス感染の間接的な要因で生じることを示している。
Mu-3 感染において、CA3 領域の神経細胞層の外側の領域上における感染細胞数は、cl-2
感染の 10 倍以上であった (図 7)。同様に、cl-2 感染での CA1 領域の細胞層の外側の領域
における感染細胞数は、Mu-3 感染の 4 倍以上であった。以上のことから、神経細胞層の
外側の領域にウイルスが感染することが引き金になり、神経細胞層でアポトーシスが誘導
されると考えられる。また、神経細胞層でアポトーシスを起こしている細胞の多くはウイ
19
ルスに感染していないという結果 (図 6D) もこれを支持している。さらに、Mu-3 感染で
は、CA2・CA3 領域において、感染細胞数に対するアポトーシス陽性細胞の割合が約 2 倍
となっていた (図 7C)。
TMEV 感染マウスでは、海馬領域の神経細胞死に好中球 (Buenz et al. 2009) や TGF-β
(Libbey et al. 2008) が関与していることが示唆されているが、以前の我々の実験結果では、
cl-2、または、Mu-3 感染脳の海馬領域において、好中球の細胞表面マーカーである Gr-1
を発現している細胞はほとんど存在していなかった。加えて、TGF-β は海馬領域で発現が
認められたが、病変形成部位とは一致しなかった (図 10A)。また、炎症性サイトカインで
ある IL-1β、TNF-α、MCP-1 も海馬領域で発現が見られたが、これらの発現分布も病変形
成部位とは一致しなかった (図 9)。しかし、抗炎症性サイトカインの一つである、IL-10
は海馬領域で発現が認められ、この発現分布は病変形成部位と一致していた (図 10B)。こ
のことから、間接的に神経細胞死を引き起こす仲介役の物質の候補として、IL-10 が示唆
された。
また、我々は、Fut9-/- マウスを用いた研究で、srr7 感染による病変形成は bystander
effect によって誘導され、この bystander effect に LeX 構造が関与していることを報告し
た (Kashiwazaki et al. 2014) 。病原体感染後の免疫反応には LeX が関与しており、LeX
が scavenger receptor with C-type lectin (SRCL) や DC-SIGN を含む CLRs と結合した
後にダイナミックな免疫反応が誘導される (Gringhuis et al. 2009)。この CLRs を介する
シグナリングは、糖鎖構造、もしくは、免疫反応を引き起こす物質に依存して、炎症性・
抗炎症性サイトカインの発現パターンを調節している (Johnson et al. 2013; Kawauchi et
al. 2015)。DC-SIGN に LeX が結合することで、TLR を介するカスケードを調節し、炎症
性サイトカインである IL-6 の産生を抑制し、抗炎症性サイトカインである IL-10 の産生を
促進することが報告されている (Gringhuis et al. 2009)。また、我々の以前の研究で、MHV
20
に感染した野生型マウスは免疫反応の著明な抑制が生じており、しかも、LeX を発現しな
い Fut9-/- マウスではこの MHV 感染後の免疫抑制から免れていることを報告した
(Kashiwazaki et al. 2014)。さらに、Mu-3 を感染させた Fut9-/- マウスでは海馬の CA3
領域でアポトーシスが誘導されなかった (図 11B)。以上のことから、LeX が DC-SIGN な
どの CLRs を介して (Gringhuis et al. 2009) ウイルス感染後の免疫抑制に関与して、Mu-3
を含む高病原性ウイルスの病変形成、生体内感染拡大に寄与している可能性が考えられた。 また、ウイルス抗原も LeX 抗原も Gr-1+ および CD11b+ 細胞に検出され (図 13)、さら
に、ウイルス感染後の浮遊培養 PECs において Gr-1+ かつ CD11b+ の小集団が出現した
(図 12A)。Gr-1+ CD11b+ 細胞は、免疫抑制に働く myeloid-derived suppressor cell
(MDSC) の集団を形成する (Ribechini et al. 2010) ことが知られており、ウイルス感染後
の浮遊培養 PECs において出現した Gr-1+ かつ CD11b+の細胞集団は MDSC の候補とな
る可能性が考えられた。
21
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27
6. 図と表
A
100
cl-2 (n=19)
srr7 (n=30)
Mu-3 (n=9)
80
Survival %
60
40
20
0
1
3
5
7
9
11
dpi
B
Liver
Brain
7
6
Log(PFU)/g tissue
7
cl-2
srr7
Mu-3
6
5
5
4
4
3
3
2
2
1
1
0
0
12
24
cl-2
srr7
Mu-3
48
12
図1 病原性とウイルスタイター
28
24
*
48
hpi
(A) cl-2、srr7、Mu-3 のいずれかのウイルスを 1 × 102 PFU / 50µl 接種した後の、マウ
スのカプランマイヤー生存曲線を示した。ログランク検定を用いて判定した結果、各曲線
に間に有意差が見られた。カッコ内の数値は、感染させたマウスの数を示している。(B) 感
染後経時的に、脳と肝臓でのウイルスタイターを測定した。有意差は Student’s t-test によ
り判定した。*P < 0.05. (n=3)。
29
Mu-3, 3 dpi
cl-2, 3 dpi
A: Score 0
B: Score 1
cl-2, 3 dpi
cl-2, 3 dpi
C: Score 2
D: Score 3
Mu-3, 5 dpi
Mu-3, 5 dpi
E: Score 3
F: Score 4
図2 cl-2、Mu-3 感染脳の海馬領域切片の HE 染色
cl-2 感染後 3 日目、Mu-3 感染後 3 日目・5 日目の脳で作成したパラフィン切片を用いた。
海馬の神経細胞層における神経細胞の脱落の程度を、score 0-4 で示している。歯状回
(dentate gyrus: DG) の細胞層を黒三角、CA1 領域の細胞層を白三角、CA2 領域の細胞層
を白矢印、CA3 領域の細胞層を白矢頭でそれぞれ示している。白線、二重白線のスケール
30
バーはそれぞれ、250µm、50µm を示す。
31
Mu3, 3 dpi
Mu3, 3 dpi
s.o.
c.c
s.o.
A1
A2
Mu3, 3 dpi
Mu3, 4 dpi
s.o.
B
C
cl-2, 3 dpi
cl-2, 3 dpi
c.c
s.o.
c.c
s.o.
D1
D2
図 3 海馬領域におけるウイルス抗原の分布
Mu-3 感染 3 日後・5 日後、cl-2 感染 3 日後のマウスの海馬 (A, C, D)・大脳皮質 (B) で
パラフィン切片を作成し、免疫染色法を用いてウイルス抗原を染色した。脳梁を c.c.
(corpus callosum)、上昇層を s.o. (stratum oriens)と表記した。A2、D2 はそれぞれ、A1、
32
D1 の白点線枠を拡大したものである。
白線、二重白線のスケールバーはそれぞれ、
250µm、
50µm を表す。
33
M u-3 , 4 d pi
in CA 3
A1
M u-3 , 4d pi
in CA 3
C1
M erge
w ith Ho e/b
A3
A2
V
B1
M u-3 , 4d pi
in s.o.
Ne
V
C D1 1 b
M erge
B3
B2
V
C D1 1 b
M erge
C3
C2
図 4 海馬領域でのウイルス感染細胞
Mu-3 感染 4 日後のマウスの海馬領域で凍結切片を作成し、免疫蛍光染色法を用いてウ
イルス抗原 (V) 、神経細胞 (Ne) 、CD11b を染色しウイルス感染細胞を同定した。核は、
Hoechst33324 (Hoe) を用いて染色した。脳梁を c.c. (corpus callosum)、上昇層を s.o.
(stratum oriens)と表記した。(A) 白矢印はウイルスに感染した神経細胞を示している。(B)
白矢印はウイルスに感染した CD11b 陽性細胞を示している。白線、二重白線スケールバ
ーはそれぞれ、50µm、20µm を示す。
34
(9)
(7)
( 11 )
(7)
( 26 )
( 12 )
(5)
srr7
cl-2
Mu-3
図5 海馬領域で神経細胞の脱落が生じる割合
srr7, cl-2, Mu-3 それぞれのウイルス感染後に、海馬領域の各CA領域における神経細胞層
で60 %以上の神経細胞が脱落 (score 3以上) したマウスの割合を示した。カッコ内の数値
は検索に用いたマウス数を示している。
35
M u-3 , 4d pi
in CA 3
C as
A1
M u-3 , 4d pi
in CA 3
A2
M u-3 , 4d pi
in Me ninx
D1
M e, 4 dp i
M erge
with Ho e/b
C D1 1 b
B3
B2
C as
C1
M u-3 , 4d pi
in CA 3
A3
C as
B1
M erge
w ith Ho e/b
Ne
M erge
C D1 1 b
C2
C3
C as
V
M erge
D3
D2
D f/g, Ho e/b M u-3 , 4 dp i
cl-2 , 3 d pi
E1
E2
G
F
図 6 海馬領域でのアポトーシス陽性細胞
Mu-3 感染 4 日後のマウスの海馬領域で凍結切片を作成し、免疫蛍光染色法を用いて
36
Caspase-3 (Cas)、神経細胞 (Ne)、CD11b、ウイルス抗原 (V)を染色し、アポトーシス陽
性細胞を同定した。また、メディウム (Me) 接種 4 日後、cl-2 感染 3 日後、Mu-3 感染 4
日後のマウスの海馬領域でパラフィン切片を作成し、TUNEL 法染色を用いて DNA 断片
(Df) を染色し、アポトーシスが誘導される領域を検索した。核は、Hoechst33324 (Hoe) を
用いて染色した。/g は緑を、/b は青色を示す。(A) 白矢印は、アポトーシスを起こしてい
る神経細胞を示している。(D) 白矢印は、ウイルスに感染していない、アポトーシス陽性
細胞を示している。(E-G) DG の細胞層を黒三角、CA1 領域の細胞層を白三角、CA3 領域
の細胞層を白矢印で示している。白線、二重白線のスケールバーはそれぞれ、50µm、20µm
を示す。
37
+
A1) V 細胞数
A2) V+ 細胞の割合
*
160
*
*
140
*
100
Mu-3 3dpi
Mu-3 4dpi
cl-2 3dpi
20
*
15
80
*
*
*
*
*
%
細胞数
120
25
10
60
*
40
5
20
0
25
20
80
60
*
*
DG CA3 CA2 CA1
CL
To
ta l
CL
To
ta l
Mu-3 4 dpi
cl-2 3 dpi
3
*
*
*
2.5
2
*
10
1.5
1
0.5
0
0
0
CL
CL
3.5
5
20
C) アポトーシス 陽性細胞数
/ V+ 細胞数
DG CA3 CA2 CA1
CA3
CL
40
%
細胞数
15
Mu-3 3dpi
Mu-3 4dpi
cl-2 3dpi
CA1
38
CA2
CA1
To
ta l
CL
*
*
To
ta l
B2) アポトーシス陽性細胞
の割合
CA2
To
ta l
100
CA3
To
ta l
CL
120
CL
CL
B1) アポトーシス陽性細胞数
DG
CA1
To
ta l
CA2
To
ta l
CL
CA3
To
ta l
CL
To
ta l
DG
To
ta l
0
図 7 海馬領域内でのウイルス抗原陽性細胞とアポトーシス陽性細胞の分布
cl-2 感染 3 日後、Mu-3 感染 3 日後・4 日後のマウスの海馬領域でパラフィン切片を作成
し、酵素抗体法を用いてウイルス抗原を、TUNEL 法染色を用いてアポトーシスを起こし
ている細胞を染色した。また、Hoechst 33324 を用いて核を染色した。V+ 細胞、アポト
ーシス陽性細胞、核は、BZ-analyzer (Keyence) を用いて定量し、細胞数は各領域の細胞
層 (Cell Layers: CL) と CL とその外側を含む領域 (Total) でそれぞれ定量した。 (A) 海
馬の各領域における V+ 細胞数 (A1)、全体の細胞数に対す V+ 細胞数の割合 (A2) を示し
た。(B) 海馬の各領域におけるアポトーシス陽性細胞数 (B1)、全体の細胞数に対するアポ
トーシス陽性細胞数の割合 (B2) を示した。(C) 海馬の各領域におけるアポトーシス陽性
細胞数と V+ 細胞数の割合を示した。有意差は Student’s t-test により判定した。*P < 0.05.
(n=3)。
39
IL-1β
TNF-α
MCP-1
35.00
30.00
pg / 100mg
25.00
20.00
15.00
10.00
5.00
0.00
unifected
Med 3dpi
Mu-3 3dpi
図 8 Mu-3 感染 3 日後の海馬領域における炎症性サイトカインの発現量
非感染マウス、ウイルス希釈時に用いるメディウム (Med) を接種して 3 日後、Mu-3 感
染 3 日後の海馬領域において、3 種類の炎症性サイトカイン、IL-1β、TNF-α、MCP-1 の
発現量を、Luminex microbead-based multiplexed assay を用いて定量した。
40
M u-3 ,
3
i 1
indpCA
IL -1 β
A1
M u-3 ,
3
i 1
indpCA
TN F-α
B1
M u-3 ,
3 dpi
in
CA 1
C1
M CP -1
in CA 2
in CA 3
A2
A3
in CA 2
in CA 3
B2
B3
in CA 2
in CA 3
C2
C3
図 9 海馬の各領域における炎症性サイトカインの発現分布
Mu-3 感染 3 日後のマウスの海馬領域で凍結切片を作成し、免疫蛍光染色法を用いて炎
症性サイトカインである、IL-1β、TNF-α、MCP-1 を染色した。写真は、左から、CA1、
CA2、CA3 のそれぞれの領域を示している。白線のスケールバーは 50µm を示す。
41
M u-3 ,
in
3 dpCA
i 1
TG F- β
A1
M u-3 ,
in
3 dpCA
i 1
B1
IL -1 0
in CA 2
in CA 3
A2
A3
in CA 2
in CA 3
B2
B3
図 10 海馬の各領域における抗炎症性サイトカインの発現分布
Mu-3 感染 3 日後のマウスの海馬領域で凍結切片を作成し、免疫蛍光染色法を用いて抗
炎症性サイトカインである、TGF-β、IL-10 を染色した。写真は、左から、CA1、CA2、
CA3 のそれぞれの領域を示している。白線のスケールバーは 50µm を示す。
42
Wild type
Mu-3, 5 dpi
Fut9-/-
Mu-3, 5 dpi
B
A
図 11 Mu-3 感染 5 日後の Wild type マウスと Fut9 -/- マウスの海馬病変
Mu-3 感染 5 日後の Wild type マウスと Fut9-/- マウスの海馬領域でパラフィン切片を作
成し、HE 染色した。(A, B) 海馬の CA3 領域を示している。白線のスケールバーは 50µm
を示す。
43
A) 浮遊培養における細胞集団
非感染
F4/80
4.24%
Gr-1
CD11b
9.64%
Gr-1
F4/80
24hpi
CD11b
5.66%
9.65%
F4/80
CD11b
4.37%
Gr-1
Gr-1
F4/80
C) 接着培養における感染細胞の割合
B) 接着培養における細胞集団
100
80
CD11b
30
Uninfected
24hpi
25
20
60
%
%
15
40
10
20
5
0
0
Gr-1
CD11b
0
F4/80
4
6
8
12
24 hpi
図 12 PECs の細胞集団
CD11b 陽性、
Gr-1 陽性、F4/80 陽性の細胞集団を、浮遊培養で 24 時間培養した PECs (A)
と接着培養で 24 時間培養した PECs (B) において、非感染時と srr7 感染時のそれぞれで
44
検索した。浮遊細胞では、ウイルス感染後に CD11b 陽性かつ Gr-1 陽性の小集団が出現し
た。浮遊細胞ではフローサイトメトリーを、接着細胞では免疫蛍光染色法で染色した後、
BZ-analyzer (Keyence) を用いて解析を行った。(C) 接着培養において、経時的に感染細
胞の割合を示した。
45
srr7 24h
A1
srr7 24h
A2
Uninfected
D1
Gr-1
B2
Merge
with Hoe/b
B3
LeX
C1
Merge
with Hoe/b
A3
V
B1
srr7 24h
CD11b
V
V
C2
Merge
with Hoe/b
C3
V
LeX
D2
Merge
with Hoe/b
D3
図 13 感染 PECs における抗原発現
46
PECs を 24 時間接着培養した後、srr7 を感染させた。感染 24 時間後、免疫蛍光染色法
を用いて、ウイルス抗原 (V)、CD11b、Gr-1、LeX を染色した。また、核は、Hoechst33324
(Hoe) を用いて染色した。/b は青色を示す。(A) 白矢印は、単核の非感染細胞が感染細胞
に伸ばしている突起を示している。(C) 白矢印は、ウイルスに感染していない LeX 発現細
胞を示している。白線のスケールバーは 50µm を示す。
47
srr7 24h
LeX
A1
srr7 24h
A2
LeX
B1
srr7 24h
srr7 12h
E
Gr-1
FUT9
Merge
with Hoe/b
CD11b
FUT9
C3
Gr-1
D2
LeX/g, V/r,
Hoe/b
Merge
with Hoe/b
B3
C2
D1
Merge
with Hoe/b
A3
B2
C1
srr7 24h
CD11b
srr7 12h
Merge
with Hoe/b
D3
FUT9/g, V/r, Hoe/b
FUT9
F1
F2
48
図 14 Le X 、FUT9 発現細胞
PECs を 24 時間接着培養した後、srr7 を感染させた。感染 12 時間後と 24 時間後にお
いて、免疫蛍光染色法を用いて、ウイルス抗原 (V)、CD11b、Gr-1、LeX、FUT9 を染色
した。また、核は、Hoechst33324 (Hoe) を用いて染色した。/r は赤色、/g は緑色、/b は
青色を示す。(A) 白矢印は、LeX 発現細胞が伸ばしている突起を示している。(F) 白矢印
は、FUT9 発現細胞を示している。白線のスケールバーは 50µm を示す。
49
B) 感染細胞数
A) シンシチウム数
1600
1400
1200
anti-LeX-/anti-SLeX+/+
anti-LeX+/anti-LeX+/+
*
*
10000
anti-LeX-/anti-SLeX+/+
anti-LeX+/anti-LeX+/+
8000
1000
6000
800
4000
600
400
2000
200
0
8hpi
12hpi
0
24hpi
8hpi
12hpi
24hpi
図 15 抗 Le X 抗体の影響
ウイルス感染前 (+/)、または、ウイルス感染後 (/+) に抗 LeX 抗体、または、抗 SLeX 抗
体を含むメディウムで PECs を接着培養した。各抗体を含まないメディウムで培養したも
のは、-/、/- とそれぞれ表記した。(A,B) ウイルス感染後、経時的に、免疫蛍光染色を用い
てウイルス抗原を染色した。染色後、BZ-analyzer (Keyence) を用いて、シンシチウム数
と感染細胞数を定量した。また、直径 50µm 以上で核を 3 つ以上含む Vi+ 細胞をシンシチ
ウムとした。有意差は Student’s t-test により判定した。*P < 0.05. (n=3)。
50
Target
Species
Clone
or
Conjugate
Dilution
Source
Purified
1:200
Matsuyama et al. 2001
Biotin
1:10
CHEMICON
designation
一次抗体 (免疫染色)
JHMV (SP-4)
Rabbit
Polyclonal
NeuN
Mouse
Gr-1
Rat
RB6-8C5
Biotin
1:100
BioLegend
CD11b
Rat
M1/70
Biotin
1:50
BD Pharmingen
F4/80
Rat
BM8
Purified
1:100
eBioscience
Caspase-3
Rabbit
Purified
1:20
Millipore
LeX
mouse
Purified
1:200
Developmental Studies
MC480
Hybridoma Bank
FUT9
mouse
monoclonal
Purified
1:1
Nishihara et al. 2003
Sialyl-LeX
mouse
CSLEX1
Purified
1:200
BD Biosciences
一次抗体 (フローサイトメトリ―)
Gr-1
Rat
RB6-8C5
FITC
1:100
eBioscience
CD11b
Rat
M1/70
PE
1:100
eBioscience
F4/80
Rat
BM8
APC
1:100
eBioscience
Rabbit IgG
Sheept
Polyclonal
FITC
1:100
Abcam
Rabbit IgG
Donkey
Polyclonal
Biotin
1:250
Amersham
Rat IgG
Donkey
Polyclonal
Alexa568
1:100
Abcam
Mouse IgG
Goat
Polyclonal
Alexa488
1:100
Molecular Probe
Mouse IgG
Donkey
Polyclonal
Biotin
1:500
Rockland
1:200
Molecular Probe
二次抗体、三次抗体
Avidin-Peroxidase
Streptavidin
Alexa488
1:200
Invitrogen
Streptavidin
Alexa568
1:200
Invitrogen
1:1000
Invitrogen
核染色
Hoechst33342
表 1 使用抗体
NeuN: neural nuclei
Gr-1: granulocyte-differentiation antigen-1
FITC: fluorescein isothiocyanate
51
PE: phycoerythrin
APC: allophycocyanin
52
7. 謝辞
本研究の遂行並びに本論文の執筆にあたり、温かくも厳しくご指導してくださり、さら
に、学問・研究に取り組む姿勢を打ち込んでくださった、指導教官である創価大学大学院
工学研究科生命情報工学専攻の渡辺里仁教授に心から感謝申し上げます。また、副査とし
て学位論文の査読、そして、今後研究を進める上での助言をして頂きました創価大学大学
院工学研究科生命情報工学専攻の高瀬明教授と木暮信一教授に御礼申し上げます。さらに、
本研究に対して助言をしていただき、かつ、Lewis X 発現の解析を行うにあたり、多大な
るご協力を頂きました産業総合技術研究所の栂谷内晶博士に心より御礼申し上げます。ま
た、大学院進学を快く受け入れていただき、これまでの学生生活を支えて頂いた母と祖母
に深く御礼申し上げます。最後に、創価大学で学ぶ機会を与えてくださり、日々激励し続
けてくださった、創立者であり人生の師匠である池田大作先生に深く感謝の意を表します。
53