仲間との信頼感の中で学び合い “引き出し”を増やす小論文の

と発言が次々に出てくる。講習
は対話を重ねるように進んだ。
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生徒たちが望み
誕生した有志の会
有できるように補足するときだ
けだ。
生徒たちの講評が終わり、作
者 の 生 徒 の 名 前 が 明 か さ れ た。
一人の男子生徒が恥ずかしそう
に立ち上がり、松澤先生から「初
めて一位になったね」と言われ
る と、「 皆 の 話 を 聞 い て い て と
ても照れたけれど、すごくうれ
し い 」 と 心 境 を 語 る。「 工 夫 し
た と こ ろ は?」 と 問 わ れ る と、
実体験をもとに書いたことを明
かし、どんな考えでこの小論文
「現代文・小論文秘密クラブ」は休日に図書室で開かれる。1年に5
回ほど開催。
れる。この回では、内容の理解
ない。先生が書いたと分からな
を 確 か め る 問 題 が 7 問、 1 0
いようにして生徒の作品の中に
0字の要約問題が一つ、そして
紛 れ 込 ま せ る。「 筆 跡 を 変 え た
400字の小論文の問題が一つ
り、ときには自分の娘に代筆さ
出された。
せます」と、その手口は巧妙だ。
課題文や問題は、市販の問題
「私が生徒のふりをするのは、
集を活用する。ただし、最後の
横の関係で気付いて欲しいから
小論文の問題はオリジナルだ。
です。それと、生徒の立場から
「小論文の問題を作るときは、 すれば、作文の書き方について
課題文の中にあるキーワードを
ア ド バ イ ス だ け を も ら っ て も、
小論文の中に入れるように指示
具体的にどうすればいいのか分
します。課題文の理解を踏まえ
か ら な い。 だ か ら、『 例 え ば こ
させ、生徒たちに『課題文が読
んな風に書くと伝わるんじゃな
めていれば書けるんだ』という
いか』という感じで、具体例を
実感を与えるためです。目指す
示したいんですね」
は、 読 解 力 を 前 提 に し た ア ク
最後まで聞くという
ティブな小論文の授業です」
安心感が生徒を変える
生徒たちは、自宅で読解の問
題を解き小論文を書いて、2週
授業後、生徒たちに話を聞く
と、この講習会には「自分をさ
間後ぐらいに提出。それらを松
澤先生が文集の形にして印刷し、 らけ出せる」独特でアットホー
ムな雰囲気があるという。生徒
約 日前に担任を通して配布す
の講評は良かった点にフォーカ
る。生徒たちは、全作品に目を
スするので甘口が多いが、とき
通し、ベスト作品を選び、1分
には「こうすればもっと良かっ
で講評できるように考えをまと
た 」 と い う 辛 め の 助 言 も 出 る。
めておく。
生徒の中には、わざわざ講評の
この課題作文集には、松澤先
生 が 書 い た 小 論 文 も 掲 載 す る。 内容を文章に書いて来て発表す
る者もいた。この生徒は、当の
しかし、模範解答としては示さ
読んでおき、自分以外
競い合って学び合う
の作品の中で一番良い
対話のような授業
と思ったものを選んで
いた。
2月 日、休日の朝、生徒た
ちが一人また一人と図書室に集
すぐに集計してラン
まってくる。広いスペースに並
キングを発表。複数の
ぶ学習机に着き、事前に配布さ
票を集めた作品は二つ
れたプリントをカバンから取り
で、4票を集めた作品
出して目を通したり、友達に話
が一つ、3票を集めた
し か け た り し て、「 現 代 文・ 小
作品が一つだった。
論文秘密クラブ」が始まるのを
「 そ れ で は、 一 番 多
待つ。午前8時 分。開始時刻
くの票を集めた作者J
になると、松澤美奈子先生(国
さんを推した方は起立。
語科)が皆の前に立つ。
どこが良かったのかを
話してください」と松
この日、自作の小論文を講評
し 合 う 講 習 会 に 参 加 し た の は、 澤先生。4人の生徒が
人(登録者は 人)。「それで
立ち上がって、一人ずつ講評を
はいつものように、まず家で読
始 め る。「 構 成 が し っ か り し て
んできた小論文の中でベスト1
いて、論旨が一貫している」「自
を投票してください」と松澤先
分の考えがきちんと書いてあ
生 が 言 う と、 生 徒 た ち は ア ル
る 」「 最 初 の 段 落 で 自 分 の 意 見
ファベットを書いた付箋紙を渡
をきちんと言っている」などと
していく。
いう客観的な意見がある一方で、
生徒の手元には、全生徒の小 「第二段落がかっこいい」「共感
論文が載っている「課題作文集」 した」「読んでいて、『そうそう、
がある。作者の生徒の名前は伏
よく分かる』と思った」などの
せてあり、名前の欄にはAやB
主観的な感想も目立った。だが、
などのアルファベットだけが書
松澤先生は何も言わない。口を
いてある。生徒たちは、事前に
挟むのは、生徒の説明が皆に共
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2016 / 5 学研・進学情報 -14-
-15- 2016 / 5 学研・進学情報
仲間との信頼感の中で学び合い
“引き出し”を増やす小論文の授業
東京都立町田高校「現代文・小論文秘密クラブ」
を生み出したか説明していく。
生徒の話が終わると、今度は
松澤先生が講評。課題文の作者
がキーワードに出した言葉をき
ちんと理解して盛り込めていた
点や、自分の主張を明確にでき
た点を評価したが、言葉の選び
方に間違いがあったことや誤解
されやすい表現が結論部分に
あったことを指摘。読者や採点
官に誤解されないように伝える
た め に は、
「他者の目になって
推敲する」ことや、「自分の“美
学”を捨てて、相手にきちんと
伝わる文章にする」という点が
重要だと強調した。
その後も同じように、生徒た
ちの講評→作者の生徒の説明→
松澤先生の講評というパターン
で進行。生徒たちは、聞いてい
るだけではなく、
「先生、それっ
てこういうことですか?」など
東京都立町田高校
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町田高校では、毎週土曜日に
希望者対象の「土曜講習」を開
い て い る。「 現 代 文・ 小 論 文 秘
密クラブ」は、この土曜講習か
ら派生した特別な講習会で、日
曜日や祝日などに不定期で開か
れる。対象は2年生。彼らが1
年生のとき、土曜講習で松澤先
生が小論文の指導をしたところ、
「2年生になってもやってほし
い」という要望が生徒たちから
出て、有志の会として誕生。
講習会は、二部構成になって
いる。第一部は、生徒同士で小
論文を講評し合う「小論文コン
ペ」
。 第 二 部 は、 入 試 問 題 を 初
見 で 解 く「 初 見 で ド ン!」。 時
間の配分は、第一部が約2時間
で、第二部が約1時間だった。
また、この講習会では、事前
の準備でも多くの時間を費やす。
松 澤 先 生 が 開 会 日 を 決 め る と、
約1カ月前に担任を通して参加
者たちに課題プリントが配布さ
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生徒たちが学び合いながら小論文の力を身に付けていく。そんな授業が、東京
都立町田高校で試みられている。知識やノウハウを教えるだけでは体得できない、
自分の主張や具体例などの“引き出し”を、生徒たちは対話の中で増やしていく。
松澤美奈子 先生
特 別 レ ポ ー ト
●特別レポート 東京都立町田高校「現代文・小論文秘密クラブ」
●特別レポート 東京都立町田高校「現代文・小論文秘密クラブ」
一 講習当日までに、全ての作文に目を通すこと。
二 講習当日もこの作文集を必ず持参すること。
三 最も優れていると思う作品を自分の作品以外で
四 選んだ作品のどういった点が優れているか、理
一つ選ぶこと。(作品は全て匿名になっている。)
由を一分程度で説明できるようにしておくこと。
この講習会は、生徒たちが主
体 的 に 学 び 合 う、 ア ク テ ィ ブ ラ ー
ニングのようですね。
この小論文講習会は、どのよ
松 澤 昨 年 度 か ら 始 め た の で、
進学との関係がまだ分かりませ
ん。この講習会に参加している
生徒たちが、この学年の牽引者
になってくれているとしたら嬉
しいですね。
また、この学年には、小論文
の模試(学研「アンカー小論文」)
を 生 徒 全 員 に 受 け さ せ ま し た。
戻ってきた評価を見ると、辛め
でしたね。A評価の生徒は一人
もいなかった。最高でB。この
講習会のメンバーでも、Bの生
徒は数人でした。ただ、DやE
を出してしまった生徒が学年で
うな効果をもたらしていますか?
く生徒がほかの生徒のために活
躍できる機会を多くするように
しています。だから、板書もし
ません。私の話だけでなく、ほ
かの生徒の横槍も含めて、よく
聞いて自分で必要なことを取捨
選択しながらメモして吸収して
いくということを主体的にやら
せるようにしています。横槍こ
そ、自分にとって一番大切な源
の よ う な も の が あ る。 そ れ を
知って欲しい。
松澤先生の工夫の一つは、生
徒との対話の中で小論文の大切
生徒の発言を受け止め続
この講習会で目指すところは
松 澤 「 引 き 出 し 」 を 増 や す こ
と で す。「 引 き 出 し 」 と は、 具
体例の豊富さのことです。具体
例は主張を補強するためにある
も の で す よ ね。 そ の 具 体 例 を、
何でしょうか?
松澤 誠実にやり取りをす
る。そのことだけを心がけ
ています。ただ、オールア
ドリブなので、実際は毎回
ドキドキですね。生徒たち
からどんな話が出てくるか分か
りませんから。話を少しでも聞
き 漏 ら す と 突 っ 込 め な い の で、
いつも頭の中はフル回転。常に
生徒たちが見落としている大切
なことはないかと考え、手探り
で授業を進めています。
したね。
中で助言を巧みに入れていま
せ ず、 生 徒 た ち の 話 の 流 れ の
も、 途 中 で 遮 る よ う な こ と を
し た。 議 論 の 筋 が 多 少 離 れ て
ける松澤先生の姿が印象的で
は多い中、この会の生徒の
多くはCだったので、悪く
はなかったと思っています。
この「主張の壁」をクリアす
るためのマニュアルはなく、何
な ぜ、 小 論 文 の 講 習 を 始 め よ
(取材・構成/宇津木聡史)
一人で考えることには限界があ
りますが、多人数で学び合うこ
とで一気に「引き出し」が増え
るメリットを、この講座での一
番の効果と考えております。生
徒の言葉ではそれを「ネタ」と
言うようです。生徒が横のつな
がりで得る「ネタ」が豊富であ
るというのは大事なことですよ
ね。小論文は比較的、個人添削
になりがちですが、集団で学ぶ
利点はここにあると思っていま
す。
うと思ったのですか?
作者よりも深く読み込み、ほか
なポイントを伝えていくことだ。 かのきっかけを自ら掴んで乗り
最後まで受け止めようとする姿
の生徒たちは「自分以上に分析
例えば、自分の主張ができな
だった。最後まで聞いてもらえ
越えるしかない。ただ、そのきっ
していて驚く」と喜んでいる。
い生徒がいれば、「小論文とエッ
る と い う 安 心 感 が、「 ツ ッ コ ミ
かけを得る方法として、ほかの
また、作者の生徒が自分の小
セイは違う」と教えて、どうす
やすい」環境を生んでいるよう
人がその壁を乗り越えるところ
論文を説明するときも、素直に
れば自分の意見が作れたのかを
に思えた。生徒の声の中にも「ほ
を見て自分なりに試すというや
自分の思いや考えを出す光景が
説明していく。ある一人の生徒
かの人からツッコミをもらえる
り方がある。そんな気付きの機
しばしば見られた。ほかの生徒
は、うまく書けなかった自分の
の が う れ し い 」「 も み く ち ゃ に
会が、この講習会には多く見受
か ら 横 槍 が 入 る こ と も 多 い が、 されて自分を磨きたい」などと
小論文について、どのように悩
けられた。
それは話している生徒の論点を
んで書いたのかを語ると、小論
いう意見が多かった。このツッ
第二部の「初見でドン!」は、
明確にする愛の
「ツッコミ」
だっ
文に書かなかったその考えの中
コミ合うスタイルについては
センター試験(現代文)の過去
たりする。
に、主張できるものがあったと
「間違ったことを書いてはいけ
問のうち、枝問を一つ取り上げ
な い と い う 責 任 感 が 出 て く る 」 指摘。課題文を正しく理解して
て、選択肢を見ないで制限字数
印象的だったのは、先生も生
徒たちも、ほかの生徒が発表し 「 私 は 主 観 的 に 読 ん だ り 書 い て
いれば、その考えを自分の主張
内で自分で記述解答を作るとい
て い る と き は、 決 し て 遮 ら ず、 しまうところがあるので、友達
に変えることができ、具体的に
う講座。その上で、選択肢を見
どう展開すれば良かったのか例
に率直なコメントをもらえるの
て正解を選び、答え合わせを聞
示した。
がありがたい」と前向きな評価
く。生徒たちは、答えるべき内
小 論 文 の 指 導 で 難 し い の は、 容 の 道 筋 が 捉 え ら れ て い れ ば、
が 目 立 っ た。 ま た、「 説 得 力 の
生徒一人ひとりが自分の経験や
ある文章には良い具体例が必要
選択肢も間違わないことを実感
見聞を土台に独自の主張を作り
だと気付かされた」と言う生徒
していく。作ってみた記述解答
上 げ な く て は な ら な い こ と だ。 は、 近 隣 の 生 徒 と 見 せ 合 っ て、
もいた。松澤先生は、生徒がほ
この講習会でも、うまく自分の
かの生徒との交流の中で、主張
考え方の方向性が合っているか、
主 張 が で き ず、 エ ッ セ イ に 終
を 補 強 す る 具 体 例 の“ 引 き 出
表現の仕方が適しているかなど、
し”
、
生徒の言うところの「ネタ」 わ っ て し ま う 生 徒 が 少 な く な
互いに一言コメントで評価する。
を増やしてほしいと願っている。 かった。生徒への取材でも、「結
これが自分へのフィードバック
論 を 出 す の に 苦 労 す る 」「 い つ
にもなる。
助言は話の流れで
も最後の5行前で鉛筆が止ま
必要となるときだけ
る」などという声が聞かれた。 【松澤先生インタビュー】
項が書かれている。
松澤 入学してくる生徒の日本
語能力に、とても不安を感じた
からです。都立高校の場合、推
薦入試だと小論文を書き、一般
入試なら国語で200字程度の
文章を書くのですが、その採点
をしていて、書くという能力に
ついて非常に問題があると思っ
たんです。対策が急務だと思い
ました。
し か し、 書 く と い う 能 力 は、
一朝一夕には身につかないもの
ですよね。普段の授業でも、話
す・書くというアウトプットの
機会が少ない。それなら、
話す・
書くことを厚めにする授業はで
きないかと考えたんです。
た だ、 む や み に 書 か せ る と、
好き勝手な落書きのような文章
になってしまいますよね。それ
で、大学入試を意識した内容に
しようと、小論文の講習会とい
う形を考えたんです。
事前に配布される「課題作文集」には次の留意事
松澤 そうですね。私は極力話
さないようにします。生徒たち
が学び合うような機会、なるべ
2016 / 5 学研・進学情報 -16-
-17- 2016 / 5 学研・進学情報
生徒同士で対話しながら、“ネタの引き出し”を増やしていく。
■生徒の留意事項