慈恵ICU勉強会 2016/5/24 麻酔科レジデント 安藤 恭子 1 今日の流れ Ø背景 ØSearchstrategy Ø重症くも膜下出血(SAH)の管理 1.初期治療 2.遅発性脳虚血(DCI) 3.全身合併症 Øまとめ 2 背景 ØSAHの致死率は、治療の進歩によりここ30年で17% 低下した一方、30日死亡率が35%,退院前死亡率が 15%と依然として高い。 ØSAHは、出血を引き金としてEarly Brain Injury(EBI)や Delayed CerebralIschemia(DCI)へ発展し、また全身性 の合併症をひきおこす。 3 EarlyBrainInjury(EBI) 動脈瘤からの出血は高圧にくも膜下腔や脳実質内、脳室内にまで波及し、頭蓋内圧の 急激な上昇をもたらす。結果、脳灌流の減少や一過性の広範囲な脳虚血を引き起こす。 さらに、出血や脳浮腫による機械的な脳への障害も加わり、ミクロのレベルでは微小循 環系の収縮や血栓形成、血液脳関門の破壊、細胞の浮腫や細胞死などが起こる。 4 DCIの定義付け ClinicaldeteriorationcausedbyDCI 限局性神経障害 (hemiparesis,aphasia,apraxia,orneglect), あるいは、 Glasgowcomascaleの少なくとも2ポイント減 (eitheronthetotalscoreorononeofthecomponents) (1)少なくとも1時間継続 (2)動脈瘤閉鎖後すぐに明らかになることでない (3)CT、MRIや採血結果の評価によって、他の要因ではないこと Stroke.2010;41:2391-5 2012年12月18日勉強会スライド 5 DelayedCerebralInfarction DCIは、最初の出血後3~14日後におこる限局性の神経障害や 6 認知障害またはその両者がおこる臨床的な症候群 背景 Ø最初の出血の重症度と出血後2週間以内の合併症により SAHの予後は完全な復活から重度の後遺症や死亡まで 大きく変わってくる。 Lancet2009;8:635-42 Ø早期予後予測因子のなかでも意識レベルは最も重要と 考えられ、意識障害を伴うSAH患者は、意識障害のない SAH患者と比較して予後が悪い。 Stroke2010;41:e519-36 意識障害を伴うSAHは重症SAHと定義されてきた 7 このReviewの目的 意識障害を伴うSAHは特別な管理方法が必要? 重症SAH 重症SAHの管理について、 EarlyBrainInjury(EBI) DelayedCerebralInfarction(DCI) についても交えながら検討する。 8 具体的にはGCS13点以下が重症SAHにあたる。 1 2 3 4 5 無症状もしくは軽度の頭痛(70%) 中等度から強度の頭痛、項部硬直をみるが、脳神経麻痺以外の神経症状はなし 錯乱状態、傾眠傾向、もしくは軽度の局所神経症状を示すもの 昏迷状態で、片麻痺があることもある 昏迷状態で、除脳硬直を示すこともある(10%) Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ GCS15点で運動障害が全くない GCS13〜14点で運動障害が全くない GCS13〜14点で運動障害がある GCS7〜12点 GCS3〜6点 2011年10月11日 勉強会スライド改変 9 機能的予後の評価方法 ModifiedRankinScale (mRS) 0. 障害が存在しない 1. 明らかな障害は存在しない。通常の動作を補助無しで行う ことが出来る。 2. 軽度の困難,いくつかの日常動作を行うことが出来ない。 しかし多くの介助なくても自分の身の回りのことが出来る。 3. 中等度の困難。ある程度の介助を必要とするが,助け無し で歩くことが出来る。 4. 中等度~重度の困難。介助無しでは歩いたり身体の位置 を好きなように動かすことが出来ない。 5. 重度の困難。ベッド臥床,失禁,持続的な看護と監視が必 要とされる。 10 Searchstrategy 2015年5月にまでに出版された論文のなかから SubarachnoidHemorrhage poorgradeorhighgrade PubMedで検索 236文献がヒット 最近のガイドライン 筆者の個人的なデータ 11 重症SAHの管理 1.初期治療 ①再出血の予防 ②頭蓋内圧の管理 ③HighVolumeCenters 2.遅発性脳虚血(DCI) 3.全身合併症 12 SAHの再出血 ØSAHの早期合併症で最も重篤なのは再出血である。 Ø24時間以内の再出血率は15%であり、致死率は約7割 と言われているが、重症SAHではさらにリスクが高い。 JNeurol.2014;261:1425-31 Ø再出血の予防のためには、出血後早期の動脈瘤治療が 最も重要であるが、その至適時期・治療方法については 結論がでていない。 13 治療の時期 ØSAH患者の大部分は実行可能な範囲でなるべく早期に 開頭クリッピング術や血管内コイリング術を行うべきである。 ASA/AHAguideline Ø動脈瘤の治療はなるべく早期に治療されるべきであり、 できるならSAHの最初の症状が出現してから72時間以内の 実行を目指すのが望ましい。 European StrokeOrganizationGuideline ØSAH発症後超早期(24h以内)と早期(24-72h)に治療を行った 場合の2か月後の機能的予後を検討した最近の後ろ向き 研究では、両群に有意差を認めなかった。 14 Neurocrit Care.2014;21:4-13 治療方法(クリッピングVSコイリング) Ø動脈瘤の治療手段の選択は複雑であり、各分野の エキスパートを含めたチームでの検討を要する。 Øどちらの手術も可能な動脈瘤では、血管内治療の方が 長期予後が良いことが報告されてきたが、対象のSAH 患者に重症は少なく、重症SAH患者にも結果が当ては まるかは疑問である。 Lancet.2002;360:1267-74 Lancet.2015;385:691-7 15 Setting:multicenter, randomized Patients/Methods: ISATコホート研究 のうち英国で登録された1644人(コ イル群809例、クリッピング群835例) の10~18.5年後の機能的予後につい て評価した。 ←患者背景では、重症は全体の10% 未満であった。 10年後の死亡率、機能的予後不良率はクリッピング群で有意に高かった。16 その他の再出血予防法 Ø早期に短期間の抗線溶療法(トラネキサム酸など)を 行うことは発症後の再出血の低下に関与する一方で、 長期的な予後には寄与しないという報告があり議論が 続いている。 JNeurosurg. 2002;97:771-8 Ø極度の高血圧を避けるためのガイドラインの推奨 ・mBP≦110mmHg orsBP ≦160mmHg ASA/AHAguideline ・sBP≦180mmHg European StrokeOrganizationGuideline 17 頭蓋内圧(ICP)亢進 ØICP亢進(≧20mmHg)は重症SAHの一般的合併症である。 ØICP亢進には複数の要素(脳浮腫、脳実質内血腫、急性 脳水腫、脳室内出血、動脈瘤再破裂、治療関連合併症、 JNeurosurg 2004;101:408-16 EBI,DCI)が寄与している。 Ø治療抵抗性の高度頭蓋内圧亢進は神経学的予後の 悪化や死亡率の上昇の独立した予測因子である。 JNeurosurg 2009;111:94-101 18 ICP管理 ØICP亢進に対する初期対応は、頭部挙上(30~40度)、 適正換気、鎮静・麻酔薬の使用であるが、管理の柱と なるのは脳脊髄液のドレナージである。 Ø特にSAH患者では急性水頭症を認めることが多く、 意識レベルの低下を伴う場合は、脳脊髄液ドレナージと ICPモニタリング目的で脳室ドレーン(Externalventricular drain:EVD)を挿入するべきである。 19 対象98人の重症SAH患者のうち、脳室拡大または従命不可を 認めた92人にEVDを施行。 ↑ 術前に施行した59例のうち19例が神経学的所見 の改善を認め(responders)、nonrespondersと比 較して12か月後の機能的予後の改善を認めた。 ↑nonrespondersはrespondersより 20 より重症の傾向。 EVD以外の方法 Øマンニトールや高張生理食塩水の効果は確立されて いない。 Øバルビツレート療法や低体温療法は、重症SAH患者の 機能的予後の改善や死亡率の減少と関連しなかったと いう報告がある。 Neurosurgery. 2009;64:86-92 Ø開頭減圧術の推奨は多くの文献で限定的であり、重症 SAH患者では結局のところMCA由来の大きな出血など の場合に予防的に考慮される。 Neurosurgery. 2002;51:117-24 21 HighVolumeCenters Ø急性脳障害の長期的予後は、neurologic/neurosurgical ICUでの管理で飛躍的に改善する。特にSAHの予後は、 症例数に影響され、病床数の多い病院の方が予後が 良いという結果がある。 Stroke.2013;44:647-52 Ø初期の重症度に関わらず、SAH患者を大規模病院に 転送することは安全性も医療経済的な面でも推奨される。 22 Mortalityratesaftersubarachnoidhemorrhage :variationsaccordingtohospitalcasevolumein18states JNeurosurg2003;99: 810-7 Methods/Patients アメリカ18州非連邦急性期病院データベースからretrospectiveに抽出 SAH患者16,399人 症例数で病院を分類,予後を比較 1st:0-9,2nd:10-18,3rd:19-35,4th:36-158(件/年) Results 入院死亡率 1st :38.7%, 2nd :34.7%,3rd :30.8%,4th :27.0%(p<0.0001) 症例数が多いほど入院死亡率が下がる Discussion High volumecenter > 60 件/年 Lowvolume center < 20 件/年 Recommendation SAHの患者はhigh volumecenterで治療を行うべき (ModerateQualityEvidence; StrongRecommendation) High volumecenterでは適切な専門家(NeuroICU,Neurointensivist,Vascular neurosurgeons,interventional neuroradiologist)がいることが必須要素である (ModerateQualityEvidence; StrongRecommendation) 23 2012年5月15日勉強会スライド 重症SAHの管理 1.初期治療 2.遅発性脳虚血(DCI) ①総論 ②診断 ③薬物学的予防 ④血行動態管理 3.全身合併症 24 DCIの総論 ØSAHの最初の出血後に生存している患者のうち 30%でDCIが発症する。 ØDCIは突然の限局性神経障害や意識レベル低下として 出現する。適切かつ積極的な治療でそれらの症状は 戻るが、一方でDCIは脳梗塞へと移行しやすく、高い確 率で障害や死亡につながる。 Ø従来DCIは脳血管攣縮と関係していると考えられて きたが、近年それ以外の様々な機序の関与が報告 されている。 BrJAnaesth.2012;109:315-29 25 Noveltheories regardingDCIpathogenesis Ø Earlybraininjury 最初の出血から72時間 Fig1MechanismsofearlybraininjuryafterSAH. DCI発症の前の段階であるが、このあと起こりうる虚血性合併症に 直接影響を与える可能性があるかもしれない。 26 2012年12月18日 勉強会スライド ØCorticalspreadingdepressionandDCI CSD:SAHの出血直後から生じる大脳皮質への各種刺激による神 経細胞やグリア細胞の脱分極が引き金となり、グルタミン酸の拡散 により灰白質を2-5mm/minで伝播する神経脱分極波が生じる。 障害を受けた脳では、CSDが連続して起こり、微小循環障害や 二次的脳障害の原因となるため、組織虚血につながる。 CSD Fig2Normalandpathologicalresponse tocorticalspreading depression (CSD)in patientswithaneurysmalsubarachnoid hemorrhage (aSAH). 27 2012年12月18日 勉強会スライド改変 Ø Microthrombosis 動脈瘤破裂後の血管内皮細胞障害および それに続く脳虚血の結果として最も考えら れる原因。 Fig3Potentialmechanismsofmicrothrombosis formationafterSAH.TF,tissuefactor. 28 Adapted, withpermission, fromSteinandcolleagues. 2012年12月18日 勉強会スライド VonWill-ebrand factor ØSAH患者でvWFの早期の上昇と予後不良、虚血、 DCIの発症の関与関連が報告されている。vWFの 早期上昇が脳循環内の微小血栓形成を反映する という仮説がある。 JCereb BloodFlowMetab.2015;35:724-33 Øまた、解剖学的にはDCIから脳梗塞を発症した患者で は、再出血や急性水頭症で死亡した患者と比較して, 微小血栓を明らかに多く認めると示されている。 Neurosurgery. 2006;59:781-8 29 ハプトグロブリン Øハプトグロブリンのα2-α2型でSAH発症3-14日後の 血管攣縮を高率に認めることが以前より指摘され Neurology.2006;66:634-40 ていた。 Ø193人SAH患者を対象としたコホート研究で、SAH 発症後3か月後の機能的予後についてハプトグロ ブリンのα2-α2型はα1-α1型と比較して悪かった。 JNeurosurg. 2014;120:386-90 Ø遺伝子学的な要素がSAHに与える影響について、 今後さらに研究がのぞまれる。 30 DCIの診断 ØDCIのスピーディーな診断には、早期に積極的かつ システム化されたアプローチが必要である。 Øしかし、重症SAH患者は神経学的診察の限界と 様々な全身合併症がDCIの診断を難しくしていて しばしばDCIは除外診断となる。 Ø一時鎮静を中断しwakeuptestを行うことで神経症状を 見つけることができるかもしれないが、重症SAH患者で 神経所見からDCIを同定する感度は低い。 31 DCIの診断 Ø神経学的所見の有用性は限られている。 Ø様々な神経モニタリングの併用が推奨されている。 Neurocrit Care2011;15:211-40 TCD(経頭蓋超音波ドプラ波) cEEG(持続脳波モニタリング) PtiO2(脳組織酸素分圧) CMD(脳内微小分析) マルチモニタリング 32 Trigger ØTCD(経頭蓋超音波ドプラ波) ・平均中大脳動脈血流速度(meanFVMCA)が24時間 を超えて50cm/sより高い ・meanFVMCA>200cm/s ・FVMCA/FVICA>6 ØCTperfusion ・脳血流量(CBF)<25ml/100g/m ・平均通過時間(MMT)>6.5s 33 Trigger ØDSA/CTA 重度の血管攣縮(基準値より70%以上) ØEEGα波の減衰 ØPtiO2(脳組織酸素分圧) <20mmHg ØCMD(脳内微小分析) LPR(乳酸/ピルビン酸比) >40 グルタミン酸 >40 34 マルチモニタリング Ø理論的にはTCD、CTAなどの血管径の評価より、 CT perfusionや脳組織酸素飽和度カテーテル、 脳微小分析など血流、代謝、酸素化を評価するモニタ リングの方が優れている。 Ø急性の神経所見悪化を認めた重症SAH患者では CTA/DSAで重度の血管攣縮を認める場合 →追加検査を行わずに治療を開始 スクリーニングCTperfusionで血流途絶を認めた場合 →脳梗塞兆候がなくても治療を開始 35 2012年5月15日勉強会参照 ICP/CCPモニタリング Ø頭蓋内圧(ICP)と脳灌流圧(CCP)モニタリングは昏睡状態の 急性脳障害患者の重要な指標であり、 CPP<70mmHg →SAH後の梗塞 CPP<60mmHg →ICP亢進や脳代謝の異常 と関連していると考えられてきた。 Øしかし最近のデータでは、重症SAH患者の場合ICP/CCPが 正常範囲内でも脳代謝の異常が起こりうるため、必ずしも 脳代謝を反映しないことが示唆されている。 Neurosurgery. 2011;69:53-63 36 Neurosurgery.2011;69:53-63 Methods:重症SAH患者19人の脳細胞外液 サンプル2394本と持続的計測したICP/CCPを 比較。 Results: ←ICP/CCPが正常なときでもPtiO2やLPRが危 険値を示すことがある。 PbtO2<20 ICP<20 CPP>60 ↓ PtiO2低下・ LPR上昇をICP/CCP上昇から 検出できる確率は最大でも21.2%だった。 LPR>40 ICP<20 CPP>60 37 ICP/CCPモニタリング Ø出血から24時間以内という早期に脳組織の低酸素 をきたすことは重症SAHではよく見られる。 Øよって、ICP・CCPモニタリングだけでなくマルチモニタ リングを実施することで、早期の回復可能な時期に 脳の低酸素やエネルギー障害を評価することが可能 になると考えれる。 Neurocrit Care2011;15:318-23 38 cEEG(持続脳波モニタリング) ØcEEGの所見と血管攣縮・DCI、および機能的予後に 相関関係があると複数の文献で示されてきた。 Ø血管攣縮やDCIを予測する所見 α波の減衰、α波/δ波の低下 Ø重症SAH患者の予後を予測する脳波所見 periodiclateralizedepileptiformdischarge(PLEDs) electrographicstatusepilepticus theabsenceofsleeparchitecture Neurocrit Care.2006;4:103-12 39 侵襲的モニタリング 頭蓋内圧 脳組織酸素分圧 脳内微小分析 頭蓋内に特殊なカテーテルを留置 PtiO2(脳組織酸素分圧) CMD(脳内微小分析) Miller‘sAnesthesia,7thedition Chapter94Neurocritical Care PtiO2(脳組織酸素分圧) Ø持続的に脳局所の酸素分圧(PtiO2)を監視することにより、 虚血に先立つ早期の変化を見つけられるかもしれない。 Ø脳組織酸素分圧は梗塞イベント、血管攣縮、予後に直接 関与している。 PtiO2<20mmHg注意が必要 PtiO2<15mmHgすぐに介入が必要 Acta Neurochir Suppl.2002;81:307-9 41 CMD(脳内微小分析) • Glucoseの低値と予後 • Lactate/pyruvate(LPR)と代謝障害 • Glycerolの低値:細胞膜の障害や リン脂質の低下 • Glutamateは後期傷害と関連 2015年10月13日勉強会スライド Ø乳酸/ピルビン酸比(LPR)の上昇は嫌気性脳代謝の最も 一般的な指標、つまり脳梗塞の予測因子である。 Neurocrit Care.2011;15:318-23 ØPtiO2とCMDの結果をあわせて、細胞障害の原因が低 酸素によるものどうかの鑑別に役立つ。 42 Neurosurgery. 2011;69:53-63 DCIの薬物学的予防 ニモジピン スタチン マグネシウム クラゾセンタン ファシジル ダントロレン 髄内血栓溶解薬 抗血小板薬 選択的トロンボキサン合成酵素阻害薬 エリスロポエチン シロスタゾール DCIの予防効果について調査された上記の薬物のうち、 SAH後の予後を改善すると証明されている薬物は、各種 ガイドラインでニモジピンだけである。 CochraneDatabaseSyst Rev.2007;3:CD000277 43 Nimodipine Ø 脳血管攣縮に対する予防効果が認められているCa拮抗薬に はnimodipine がある。 Ø 脳梗塞や外傷性脳障害では有効性は証明されておらず、ク モ膜下出血に特有 Stroke2001;32:570-6. CochraneDatabaseSyst Rev2003 Ø ニモジピンの組織虚血後のカルシウム流入阻害作用による神 経保護効果の存在 Stroke 1998;29:196-201. Ø ニモジピンは、繊維素溶解活性が有意に増加し、微小血栓 の出現を減らしている可能性がある。 JCereb Blood FlowMetab 2006;27:1293-308 Ø ニモジピンはDCIの病態生理において、皮質拡散虚血(Cortical spreadingdepression)に拮抗することが示されており、皮質拡散 抑制に対して重要な役目を果たしているかもしれない。 Neurosurgery 2002;51:1457-65 44 2012年12月18日勉強会スライド改変 Methods/Patients:重症SAH患者188人をニモジピン経口投与(90mg/dayを発症後 21日間内服)群とプラセボ群にランダム割り付けし、血管攣縮の発症率、DID発症率、 3か月後の機能的予後を前向きに調査した。 Setting: multicenter Results: 発症5日後の血管攣縮の発症率は有意差なし。 血管攣縮由来のDID発症率はニモジピン群で有意に低かった。 (6.9%vs26.8%)45 Results:ニモジピン投与群72人とプラセボ群82人で 比較。3か月後の機能的予後はニモジピン群で良い 割合が高かった。(29.2%vs9.8%) 一方、Grade5のサブグループ解析では両群に 有意差を認めず、死亡率が両群とも高かった。 ← この研究ではGrade3以下を 重症SAHとして扱っている。 Grade5 46 マグネシウム Patients/Methods: SAH発症4日以内の患者を マグネシウム投与群とプラセボ群にランダム 割り付けした (n=1204) Setting:multicenter Results:マグネシウム群(n=604)とプラセボ群 (n=596)で6か月後の予後不良、DCIや脳梗塞 の発症率に有意差を認めなかった。 →これまでのrandomized trialsと同様に、マグ ネシウムの有用性は見出されなかった。 pooroutcome 47 ← 患者背景に有意差なし。 ただし、両群ともWFNS分 類Ⅳ・Ⅴは少なめ。 Setting:international, multicenter, randomized, double-blind Patients/Methods: 発症後96時間以内のSAH患者803人をス タチン投与(シンバスタチン40mg/day)群(n=391)とプラセボ群 48 (n=412)に割り付けし、6か月後の機能的予後を評価した。 スタチン favorableoutcome mortality Results:死亡率およびfavorableoutocomeは両群で有意差を認めなかった ØNO合成酵素の増加や血管内皮機能の向上から、抗炎症・抗酸化・ 抗血栓作用、さらに神経保護作用などが期待されたが、最近の報告 ではスタチンの有用性は証明されていない。 Øガイドライン上でも、スタチン内服を推奨するのはもともと内服して いた場合に限定している。 Neurocrit Care.2011;15:298-301 49 DCIの血行動態管理 Øいわゆるtriple-H療法(hypervolemia,hypertension, andhaemodilution)は機能的予後を改善する エビデンスが乏しく、現在は推奨されていない。 ØDCIへの最初の手段として、CBF増加のため生理食 塩水の急速投与が考慮されるが、hypervolemiaや haemodilutionはむしろ心不全肺水腫など合併症の リスクをあげるため、正常血管内容量を目指す。 50 DCIの血行動態管理 Ø輸液負荷に反応がなかった場合、極端な高血圧や 心機能に問題を認めなければ血圧は高めに管理する。 Ø血圧を上昇させるにはノルアドレナリンなどの昇圧剤を 使い少しずつ調整する。また、血圧をあげるごとに神経 所見を確認する。 Ø血圧を高く保っても神経症状が残存する場合は、救援 治療として血管形成術や血管拡張薬の動注の効果が あるかもしれない。 51 重症SAHの管理 1.初期治療 2.遅発性脳虚血(DCI) 3.全身合併症 ・総論 ・循環器合併症 ・呼吸器合併症 ・その他の合併症 52 SAHの合併症 ØSAH後の合併症は生存率と機能的予後に多大な 影響を与え、二次的な脳障害のリスクを増やすと 言われており、発症率は80%にものぼる。 Ø重症SAH患者は循環器・呼吸器系の合併症を発症 するリスクが比較的高い。また、脱水や肺水腫を認める ことが多く、それらはDCIのリスクにもなる。 Ø重症SAH患者は先進的な血行動態モニタリングにより 利益を受けるだろう。 53 Stroke.2013;442155-61 Setting:prospectiveCohort Study, multicenter Patients/Methods: SAH患者138人(そのうち52人が DCIを発症)を連続心拍出量評価装置(PiCCO)を使い 発症後14日間モニタリングし,重症群やDCI発症群の 各種パラメータの変化を観察した。 患者背景は、症候性の脳血管攣縮、Fisher分類 → 肺水腫の割合で差を認めるほかは有意差なし。 ELVI PVPI ↑肺血管外水分係数(ELVI)、肺血管透過性係数(PVPI)が重症群で高かった。(day2)54 SVRI CI 体血管抵抗係数(SVRI)は重症群で高く(day2)心係数(CI)は重症群・そうでない群 ともに正常範囲内にあった。→heartfailurelikeafterloadmismutchが考えられた。 GEDI DCIを発症した群は心臓拡張末期容量係数(GEDI)が有意に低かった。 55 多変量解析の結果、day3-6のGEDI,SVRI,CIがDCI発症に関連していると考えられた。 循環器合併症 Ø良性の心電図異常からIABPを必要とする心原性 ショックまで程度は様々である。 Øほとんどのケースは対症療法のみで2週間以内に 軽快する一時的な病態である。 Øしかし、重篤な左室機能不全やDCIの場合は、脳 血流量をあげるため心拍出量の適正化目的で循環 作動薬やさらにはIABPなどの介入が必要となる。 56 呼吸器合併症 Ø院内肺炎、神経原性肺水腫、誤嚥性肺炎、肺塞栓 などの合併症がSAH後30%の患者に起こる。それら の27%はARDSで、独立した予後不良因子である。 Ø呼吸器合併症の予防のためにOvervolumeを避ける べきだが、脱水が引き起こす脳虚血のリスクも回避 するべきである。 57 その他の管理 Ø低Na血症はSAH後に最もよく見られる電解質異常で、 中枢性塩類喪失(CSW)とSIADHの2つの機序が考えられ るが、しばしば鑑別は困難である。どちらにせよ、管理 はhypovolemiaの回避と慎重な水とNaの補充である。 Ø重症SAH患者では非感染性の発熱がよく見られるが、 頻回の体温測定と想定しうる感染症のアセスメントが 重要である。脳血管攣縮期には、シバリングに注意しな がら解熱薬やクーリングにより解熱するのが望ましい。 58 その他の管理 Ø血糖は200mg/dl以下に維持し、低血糖を起こさない。 Ø貧血は輸血により容易に補正が可能であるが、輸血と SAH後の予後不良の関連が示唆されている。SAH患者 の輸血の閾値は一般的なICU患者とは異なっていると 思われるが、明確に定まっていない。 Ø重症SAH患者は静脈血栓症のリスクが高いので、動脈 瘤の治療前から機械による間欠的圧迫を開始する。 術後12-24時間後からは薬物による血栓予防も安全に 行えるだろう。 59 まとめ ØSAHは最初の出血を乗り越えた後も病態が悪化しうる ため、様々な分野で特別なケアが可能である大規模 病院で管理するべきである。 Ø特に最初の出血後2週間以内は、複雑な病態により DCIを発症するリスクが高く注意が必要である。 Ø重症SAH患者ではDCIの診断が難しく、様々なモニタリング を駆使して早期に介入することが大切である。 Ø死亡率や後遺症の割合は近年著しく減ったものの、 いまだに重篤な障害やQOLの低下の問題が残っており、 さらなる研究が望まれる。 60
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