第16 回自然科学懇談会(3/19)報告 庭先のミツバチたち (彼女らの魅力的な行動,そしてしのびよる危機) 尼川大作(神戸大学名誉教授) 3月19日午後1時30分から京大楽友会館で開催された.話題提供は尼川大作さん(神戸大 名誉教授)で,テーマは「庭先のミツバチたち(彼女らの魅力的な行動,そしてしのびよ る危機)」であった.出席は12名.尼川さん自身自宅の庭に巣箱を置き,その経験をも交 えてミツバチの生態が紹介された.日本には2種類のミツバチが生息している.一つは二 ホンミツバチで奈良時代から確認されている.もう一つのセイヨウミツバチは明治になっ て導入され,蜂蜜採取に使われている.一つの巣に5千から5万匹の大家族.女王蜂と少数 のオス以外はすべてメスというアマゾネスの世界.このメスの働き蜂が巣の掃除,巣板作 り,蜜集めなどの外勤採餌,子育て,女王の世話,巣内のパトロールなど,生殖以外のす べての活動を担う.そのきわめて高度な社会性,分業には驚かされる.この大集団を「超 個体」と呼ぶ所以である.例えば天敵スズメバチとの闘い方は二ホンミツバチとセイヨウ ミツバチで大きく異なる.セイヨウミツバチは真正面から向かっていき,かみ殺されるが, 二ホンミツバチは集団でスズメバチを取り囲み体を振動させ,40数度に発熱して熱に弱い スズメバチを殺す.これを「布団蒸し」という.また例えば獲物を見つけた蜂は,ダンス でその位置を知らせる.方角は目線と太陽光の角度で,距離はからだを震わせる振動数で 表し,それが驚くほど正確に他の蜂に伝達されるが,最近の研究の技術的な発展には目を 見張るものがあり,膨大な数の個々の蜂をマーキングしてこうしたふるまいを詳細に記録 するようになっているという.講演の後半ではミツバチの大量死と農薬の関係が述べられ た.2007年春までに北半球のミツバチの4分の1が消滅した.原因として,世界的に使用 されているネオニコチノイドが挙がっている.神経伝達物質アセチルコリンの受容体に作 用して昆虫を殺すが,ミツバチ大量死への深刻な影響が心配されている.我が国でもイネ の害虫カメムシを対象に大量に投与されているが,日本の規制は他国と比べても甘いとい う.ミツバチにとどまらずヒトの脳への影響も懸念される問題であり,その規制を急がね ばならないようだ. (文責:和田 明)
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