国立大学法人熊本大学 平成28年5月24日 報道機関 各位 熊本大学 【お 酒に 弱 い 人は 脂肪 肝 に 注意 !】 遺伝的に活性アルデヒドを分解する酵素の働きが低い人は 飲酒習慣がなくても脂肪肝を発症しやすいことを証明 熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)薬物治療学分野の鬼木健太郎助 教、守田和憲氏(博士課程3年)、猿渡淳二准教授らは、同(医学系)消化 器内科学分野・渡邊丈久助教、佐々木裕教授、日本赤十字社熊本健康管理セ ンター・大竹宏治医師、緒方康博所長らとの共同研究により、遺伝的に活性 ア ル デ ヒ ド を 分 解 す る 酵 素 の 働 き が 低 い 人 ( お 酒 に 弱 い 人 ) は 、 飲 酒 習 慣 *1 がなくても脂肪肝の発症リスクが高いことを、人間ドック受診者を対象とし た臨床研究により初めて明らかにしました。 アルコールの多飲(習慣的飲酒)は脂肪肝を引き起こすことがよく知られ ていますが、それ以外にも食べ過ぎや運動不足等が原因で肝臓に中性脂肪が 溜 ま り 肝 機 能 障 害 を 引 き 起 こ す “ 非 ア ル コ ー ル 性 脂 肪 性 肝 疾 患 *2” が 、 近 年 の食の欧米化に伴い日本で増加傾向にあります。非アルコール性脂肪性肝疾 患は自覚症状が少ないため見過ごされやすく、進行した状態(肝硬変等)で 発見されることも多いことから、早期発見・予防が重要です。 ア ル デ ヒ ド 脱 水 素 酵 素 2 (ALDH2:aldehyde dehydrogenase 2)は 、 ア ル コ ー ル を 分 解 す る 際 に 生 成 さ れ る ア セ ト ア ル デ ヒ ド *3を は じ め 、 肝 障 害 の 原 因 と なる種々の活性アルデヒドを分解する酵素です。この酵素の活性(働き)が 遺伝的に低い人は、飲酒に伴う顔面紅潮や気分不良を引き起こしやすく、飲 酒 量 は 減 少 し ま す 。一 方 、ALDH2の 活 性 が 遺 伝 的 に 高 い 人( お 酒 に 強 い 人 )は 、 多量飲酒によるアルコール性の脂肪肝といった飲酒関連疾患のリスクが高い とされてきました。近年のマウスを用いた研究では、アルコール摂取の有無 に 関 わ ら ず ALDH2の 働 き を 活 性 化 さ せ る と 肝 臓 へ の 中 性 脂 肪 の 蓄 積 が 抑 え ら れることがわかり、飲酒が関係しない非アルコール性脂肪性肝疾患の発症と ALDH2遺 伝 子 型 の 間 に 関 連 性 が あ る と 考 え ら れ ま す 。し か し な が ら 、こ れ ま で このような報告はありませんでした。 本 研 究 で は 、ALDH2の 低 活 性 遺 伝 子 型 の 人( お 酒 に 弱 い 人 、日 本 人 の 約 半 数 ) は、たとえお酒を飲まなくても、食生活の乱れや運動不足等により脂肪肝を 発 症 し や す く 、さ ら に 、肝 機 能 検 査 値 γ( ガ ン マ )-グ ル タ ミ ル ト ラ ン ス フ ェ ラ ー ゼ( γ -GTも し く は γ -GTPと 表 記 さ れ る ) * 4 が そ れ ほ ど 高 く な く て も 、脂 肪 肝 の 発 症 リ ス ク が 高 く な る こ と を 示 し ま し た 。以 上 よ り 、ALDH2の 低 活 性 遺 伝 子 型 の 人 に 対 す る 脂 肪 肝 予 防 の た め の γ -GTPの 継 続 的 な チ ェ ッ ク や 、 生 活 改善等の積極的介入が望まれます。 本 研 究 の 成 果 は 2016年 5月 23日 に 英 国 科 学 誌 「 Nutrition & Diabetes」 に 発 表されました。 <論文名> The longitudinal effect of the aldehyde dehydrogenase 2 *2 allele on the risk for non-alcoholic fatty liver disease <掲載雑誌> Nutrition & Diabetes (2016) 6, e210 <著者名・所属> 鬼 木 健 太 郎 1 * 、守 田 和 憲 1 * 、渡 邊 丈 久 2 、梶 原 彩 文 1 、大 竹 宏 治 3 、中 川 和 子 1 , 4 、 佐 々 木 裕 2、 緒 方 康 博 3、 猿 渡 淳 二 1,4† 1 熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)薬物治療学分野 2 熊本大学大学院生命科学研究部(医学系)消化器内科学分野 3 日本赤十字社熊本健康管理センター 4 熊本大学薬学部附属育薬フロンティアセンター * 論 文 の 筆 頭 著 者 ( equally contributor) † 論文の責任著者 <研究の背景> 非アルコール性脂肪性肝疾患は肝臓に中性脂肪が溜まった状態であり、進 行すると非アルコール性脂肪肝炎、肝硬変、肝がんを発症するだけでなく、 糖尿病や心血管疾患等にも関与するため、早期発見・予防が重要とされてい ます。アルデヒド脱水素酵素2は、肝障害の原因となる種々の活性アルデヒ ド を 分 解 す る 酵 素 で す 。 ALDH2 は 、 飲 酒 後 に 体 内 で ア ル コ ー ル を 分 解 す る 際 に生成されるアセトアルデヒドの分解にも関与するため、アセトアルデヒド 分 解 能 力 の 強 弱 に 関 係 す る ALDH2 の 遺 伝 子 型 は 、 そ の 人 が 飲 酒 可 能 な 量 を 決 め る( 制 限 す る )要 因 と さ れ て い ま す 。日 本 人 を 含 む 東 ア ジ ア 人 で は 、ALDH2 の 低 活 性 遺 伝 子 型 の 人 の 割 合 が 特 に 高 く 、 事 実 、 日 本 人 で は ALDH2 の 働 き が 低 い 人( お 酒 に 弱 い 人 )が 40% 、働 き が 全 く な い 人( お 酒 を 全 く 飲 め な い 人 ) が 10% 存 在 し ま す 。こ れ ま で 、ア ル コ ー ル 性 肝 障 害 を は じ め と す る 飲 酒 関 連 疾 患 に つ い て は 、 ALDH2 の 活 性 遺 伝 子 型 の 人 ( お 酒 に 強 く 飲 酒 量 が 増 え や す い 人 ) で リ ス ク が 高 い と さ れ て き ま し た 。 そ の 一 方 、 ALDH2 の 低 活 性 遺 伝 子 型が心血管疾患のリスク因子となることが東アジア人を対象とした研究で報 告 さ れ た 他 、 マ ウ ス を 用 い た 研 究 で は 、 ALDH2 を 活 性 化 さ せ る と 肝 臓 へ の 脂 肪 の 蓄 積 や 動 脈 硬 化 が 改 善 す る こ と が 示 さ れ ま し た 。 し か し な が ら 、 ALDH2 の低活性遺伝子型と非アルコール性脂肪性肝疾患の関連性は明らかではな く、日本人における非アルコール性脂肪性肝疾患の予防・治療戦略を立てる 上で重要な情報が欠けていました。 <研究の内容> 上 記 の 背 景 を 踏 ま え て 、本 研 究 で は 、ALDH2遺 伝 子 型 が 非 ア ル コ ー ル 性 脂 肪 性肝疾患発症に及ぼす影響について、日本赤十字社熊本健康管理センターの 人 間 ド ッ ク 受 診 者 の う ち 、飲 酒 習 慣 の あ る 者 を 除 外 し た 341名 を 対 象 に 検 討 を おこないました。 そ の 結 果 、ALDH2の 低 活 性 遺 伝 子 型 の 人 で は 、活 性 遺 伝 子 型 の 人 に 比 べ て 非 ア ル コ ー ル 性 脂 肪 性 肝 疾 患 の 罹 患 率 が 約 2 倍 高 い こ と が わ か り ま し た 。ま た 、 肝 障 害 の 指 標 と し て 日 常 診 療 に 用 い ら れ て い る γ -GTPを 調 べ た と こ ろ 、 25.5IU/L が 非 ア ル コ ー ル 性 脂 肪 性 肝 疾 患 の 発 症 と 非 発 症 を 予 測 す る 際 の 分 岐 と な る 値 で あ っ た こ と か ら 、 ALDH2の 低 活 性 遺 伝 子 型 と γ -GTP 25.5IU/L以 上の組み合わせが非アルコール性脂肪性肝疾患発症に及ぼす影響を検討しま し た 。 そ の 結 果 、 「 ALDH2低 活 性 遺 伝 子 型 か つ γ -GTP が 25.5IU/L以 上 の 人 」 で は 、 「 活 性 遺 伝 子 型 か つ γ -GTPが 25.5IU/L未 満 の 人 」 と 比 べ て 、 非 ア ル コ ール性脂肪性肝疾患の発症リスクが約4倍高いことがわかりました。したが っ て 、ALDH2の 低 活 性 遺 伝 子 型 の 人 は 、γ -GTPが 25.5IU/Lと い う そ れ ほ ど 高 く ない値であっても、非アルコール性脂肪性肝疾患の発症に注意が必要である と考えられます。 以上の結果より、お酒に弱い人は、非アルコール性脂肪性肝疾患発症に注 意 が 必 要 で あ り 、 γ -GTPの 継 続 的 な チ ェ ッ ク や 生 活 改 善 に よ っ て 非 ア ル コ ー ル 性 脂 肪 性 肝 疾 患 を 予 防 す る こ と が 望 ま れ ま す 。今 後 、本 研 究 結 果 に 加 え て 、 非アルコール性脂肪性肝疾患の発症・進展に関わる他の遺伝子型やその他の 因子の影響を明らかにできれば、その早期予測が可能になり、リスクが高い 人の早期抽出と積極的な生活改善指導・治療によって、効率的な予防・治療 と医療費の削減が期待できます。 *1 飲 酒 習 慣 一 日 の 平 均 ア ル コ ー ル 摂 取 量 が 男 性 30g 以 上 、 女 性 20g 以 上 ア ル コ ー ル 30g は 日 本 酒 1 合 又 は ビ ー ル 大 瓶 1 本 に 相 当 す る *2 非 ア ル コ ー ル 性 脂 肪 性 肝 疾 患 ( NAFLD: non-alcoholic fatty liver disease) 肝臓に中性脂肪が沈着して肝障害をきたす疾患の総称であり、飲酒に よって引き起こされる肝障害や、ウイルス性、自己免疫性の肝疾患は除外 される *3 ア セ ト ア ル デ ヒ ド 活性アルデヒド(有害物質)の一種であり、飲酒後に体内のアルコールを 分解する際に生成される顔面紅潮や気分不良の原因物質 *4 γ ( ガ ン マ ) -グ ル タ ミ ル ト ラ ン ス フ ェ ラ ー ゼ ( γ -GT:γ -glutamyltransferase 又 は γ -GTP:γ -glutamyltranspeptidase) 肝障害や飲酒量の指標として日常診療に用いられている検査値であり、そ の 基 準 値 は 施 設 に よ っ て 異 な る も の の 、 一 般 的 に 70 IU/L 以 下 と さ れ る 【お問い合わせ先】 熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系) 薬物治療学分野 担当:鬼木 健太郎(オニキ ケンタロウ) 電 話 : 096-371-4512 e-mail: [email protected](鬼 木 ) 助教
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