健康を守るための 強靭で持続可能なシステムの構築に

© The Global Fund / Philippines / John Rae
F o c u s
O n
健康を守るための
強靭で持続可能なシステムの構築に向けて
西アフリカでのエボラ出血熱による危機は、2014〜2015年に
最近の報告では、低中所得国における2000年から2011年ま
かけて世界中に警鐘を鳴らしました。西アフリカ一帯にエボラ
での所得増加の24%は、健康状態の向上によることが示されま
出血熱が広がったことによって、私たちは、脆弱な保健システム
した。エイズ・結核・マラリアは、
もともと困窮を極めてきた発展
は世界的な危機になりうるのだと、思い知らされたのです。
しか
途上国の保健システムに、さらなる負担を強いてきました。エ
し同時に、エボラ危機は建設的な教訓も残してくれました。
ナイ
イズの流行のピーク時には、サハラ以南アフリカの多くの場所
ジェリア、セネガル、マリといった国々では、エボラの流行が早々
で、HIVが入院患者の90%を占めていました。
アフリカのマラリ
に抑えられました。警戒を高めていたため、症例をいち早く発見
ア流行国では、入院ケースの20-45%がマラリア感染によるもの
し、迅速に対策が取れたのです。
これは、健康を守るための強靭
との報告もあります。
しかしながら、三大感染症の広がりを抑え
で持続可能なシステムとして説得力のある例といえるでしょう。
られるようになってくると、病院では他の疾病に手が回るように
エイズ、結核、マラリアの流行を終わらせるというグローバル
ファンドの使命は、健康を守るための強固なシステムがなけれ
ば達成できません。
これには、保健システムが強化される(施
設、ヘルスケア、保健従事者の育成、情報管理、アクセスなどの
改善)
とともに、地域レベルでのコミュニティ・システムも確固た
るものでなければなりません。三大感染症の治療と予防に対す
るグローバルファンドの資金援助は、疾病対策を改善するとと
もに、
ケアの質や情報、サービスを向上することで保健システム
全体を改善しています。
また同時に、市民を中心に据えることを
重視するグローバルファンドの投資は、
コミュニティの対策を促
進・強化し、国の意思決定プロセスにコミュニティを巻き込んで
いるのです。
このように、疾病対策と健康のためのシステム改善の双方を支
援し、相乗効果を出せるのがグローバルファンドの特徴です。現
在、
グローバルファンドの支援の40%は健康を守るためのシス
テムの改善に充てられ(次ページ参照)、2014年以降の疾病横
断的な支援は以前に比べて2倍に増えました。
グローバルファンド:乗数効果をもたらすもの
三大感染症と保健システム強化を支援することは、人々の健康
状態のみならず、国家全体にも大きな乗数効果をもたらします。
なり、保健システムは活気を取り戻し始めました。例えば、抗レト
ロウイルス治療に資金を投資することで、HIV陽性の人々の入
院が減少し、マラリア対策が進んだ地域では、外来患者が激減
しました。
タンザニアのザンジバル島では、蚊帳の使用、室内へ
の殺虫剤散布、
アルテミシニン誘導体併用抗マラリア療法が増
加したことで、入院患者が78%も減少しました。
ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ
グローバルファンドは、各国の保健戦略や疾病の国家計画を支
援することで、各国政府の優先事項と整合性をもった形で健康
のためのシステム構築に取り組んでいます。すべての人々が保
健サービスにアクセスできるようになることは、三大感染症の流
行を終わらせるというグローバルファンドの使命の根幹をなす
ものです。多くの国で、
「お金を払えない」
「保健医療施設から遠
く離れたところに住んでいる」
「差別や偏見のために受診を拒
否される」
といったことのために保健サービスや検査、治療を受
けられない人々がいます。
グローバルファンドとそのパートナー
は、保健財政をより持続可能にすることで、保健サービスを利
用しやすく、
アクセスを改善し、
また、各国がユニバーサル・ヘル
ス・カバレッジを実現するのを支援することで、
これらの障壁を
打ち破ろうとしています。
© The Global Fund / Ethiopia / John Rae
エチオピアでは
グローバルファンドの支援を通じて
3万8000人の健康普及員
が養成されました。
ルワンダでは、
グローバルファンドの支援でコミュニティを基盤
んでいます。
また、
グローバルファンドは自身の調達システム改
とした健康保険制度を広げ、エイズ、結核、マラリアの治療とケ
善にも尽力しています。共同調達メカニズムの一端として、
グ
アに適用される、成果に基づく支払方法を支援しています。セネ
ローバルファンドがサプライヤーと長期契約を結ぶことで、医薬
ガルとケニアは、
グローバルファンドと協力して、健康保険と保
品などの価格を下げ、安定性を高め、
より効果的に計画を立て
健サービスの効率を向上させ保健システムのカバレッジや持続
られるようになりました。過去2年間で約5億ドルを節約し、予定
可能性を高めています。
グローバルファンドはまた民間セクター
通りに物資が配送された割合は、2013年に37%だったのに対
とも協働することで、事業実施機関の財務管理やリスク管理を
し、2015年半ばには81%まで改善されました。
健康普及員の働きによって、
57%の妊婦が健診を
質の高い情報を収集し、
活用する
受けることができました。
改善しています。
データは、強靭な保健システムには不可欠であり、感染症と闘う
ために非常に重要です。
グローバルファンドは、
よりよい情報シ
またコミュニティにおいて
ステムを構築するための支援も行っています。例えば、高い感染
発生したマラリア件数が
リスクにさらされている集団や、適切な保健サービスの対象外
全国で70%も低下しました。
となっていたり、
人権侵害にあっている集団に関する情報など、
地域レベルの重要なデータを、パートナーと協働して収集して
います。
これは、村の診療所から携帯電話で届けられる診察・治
療・医薬品配送の情報である国もあれば、高度な検査データを
意味する国もあります。各種のデータ収集システムを一つの国
保健人材を育成し、定着させる
保健人材の育成は、強靭な保健システムを構築する上で重要
な鍵となります。
ジンバブエでは、2008〜2009年の経済悪化
のため保健医療従事者の海外流出が急増する危機が起こりま
した。そのため、
グローバルファンドは緊急雇用維持計画を支
援し、2009〜2014年の間に2万人近い保健人材の雇用を支
援し、看護師と医師の定着率を改善させ、保健サービスのカバ
レッジを大幅に向上させました。
グローバルファンドによる資金供与の40%が健康を守るための
強靭で持続可能なシステムの構築に役立っています
家保健情報管理システムに統合してより良い意思決定をするた
めに、
グローバルファンドが支援するプログラムから頻繁に資
金が充当されています。
エチオピアでは、
グローバルファンドの支援を通じて保健情報
管理システムが統合され、
これまでに93%の病院と80%の保健
施設に導入されました。
グローバルファンドは、計画立案と意思
決定に情報をさらに活用できるよう、情報システムのソフトウェ
アに関する追加支援を行っています。
サプライチェーンを改善する
28%
エイズ、結核、マラリア対策への支援
であるが、同時に保健システムの改
善・強化につながる支援
12%
財 務 管 理 、情 報 管 理システム、保
健 従 事 者 の 育 成、調 達・サプライ
チェーン、政策・ガバナンス、サービ
ス・デリバリー等システムの構築・強
化に特化した支援
40
%
グローバルファンドの支援のうち、かなりの割合が医薬品や保
健資材・医療機器に使われています。効果を最大限に高め、投
資リスクを管理するためには、国内のサプライチェーンや医薬
品の管理を改善することが非常に重要です。
ガーナやナイジェ
リアなどの国々では、
グローバルファンドは政府やパートナー
団体と協働して、医療品の計画作りや、ロジスティックス管理、
倉庫管理、情報追跡といったサプライチェーンの改善に取り組
© The Global Fund / Ethiopia / Guy Stubbs
健康普及員の働きによって、
57%の妊婦が健診を
受けることができました。
またコミュニティにおいて
発生したマラリア件数が
全国で70%も低下しました。
グローバルファンドの支援では、
コミュニティで幅広いサービス
を提供する既存(あるいは新規)の保健施設を活用して、エイ
ズ、結核、マラリアの予防・治療を提供することが増えてきてい
ます。
これらの施設では、エイズ、結核、マラリアに限らず様々な
保健サービスが提供されています。総合的に健康状態を改善
し、
より費用対効果が高く効率的なアプローチを取ることで、人
生の異なる段階の様々な保健ニーズに応えることが目的です。
例えばケニアで、
グローバルファンドは、政府の提供する妊産婦
健診に結核のスクリーニングを組み込みました。
この妊産婦健
診には、HIVの母子感染予防も含まれています。
この取り組みに
よって、妊産婦健診時に結核のスクリーニング検査を受けた妊
産婦数が43%増加したほか、保健サービスとコミュニティによる
対応の連携が強化されました。西アフリカでのエボラ出血熱の
流行で最初に対応したのはコミュニティだったように、HIVの流
行でもコミュニティが最前線となりました。
コミュニティは、効果
的な対応を計画したり、保健サービスを実施・評価したり、保健
サービスにアクセスできない人々――特に、最も脆弱な、
あるい
財務管理とリスク管理の強化
グローバルファンドは、
アフリカに広く展開する金
融機関のエコ・バンクとともに、
ナイジェリア、セネ
ガル、南スーダンのパートナー団体の財務管理能
力の強化に取り組んでいます。
また、世界的な保
険会社のミュンヘン再保険と連携して、
コミュニテ
ィに対して、生命保険や重度疾患保険、生存給付
金付き保険商品、ユニバーサル・ヘルス・カバレッ
ジの達成と保健アクセスの改善を提供する取り組
みを行っています。
さらに、
ビジネスソフトウェア
市場をリードするSAP社とともに、
グローバルファ
ンドが支援するプログラムのマネジメント改善を
支援するために開発されたデジタル管理ツール
を、6カ国で試験的に開始しました。
は社会の隅に追いやられているような人々――にもサービスを
届けるなど様々な役割を担っており、
グローバルファンドは、
こう
したコミュニティの役割を支援しています。
各国の状況に応じた投資
三大感染症の流行を終わらせるためには、現時点で集まってい
る額以上の資金が必要です。限られた資金で大きな成果を上げ
るためには、データに基づいたアプローチをとり、最も感染のリ
スクにさらされやすい集団を対象としたプログラムに焦点を当
てる必要があります。
これは「配分効率」
とも呼ばれ、
グローバル
ファンドの資金供与プロセスにも組み込まれています。各国は、
申請書を提出する前に、疾病の流行の傾向やデータギャップを
特定するべく、疫学分析を完了しなければなりません。
これは、
よりよい支援システムを構築し、支援を必要とする場所で支援
を必要とする集団に資金を集中させるためです。その取り組み
を促進するため、
グローバルファンドはまた、各国がキーポピュ
レーション(感染リスクにさらされやすい集団)
を同定し、その規
模を推定するための支援も行っています。現在、25カ国が全国
© The Global Fund / Myanmar / John Rae
病気ではなく、人を見る
© The Global Fund / South Sudan / John Rae
で少なくとも二つのキーポピュレーションを的確に推定してい
の影響を受ける国々を先頭に、
グローバルヘルスにおけるすべ
ます。
てのパートナーと共に、
グローバルファンドはさらに歩みを加速
革新的な解決策 E-マーケット・プレイス
グローバルファンドは、支援対象国の事業実施団体やその他の
保健サービス提供者がアクセスできるような、オープンソース
でクラウド技術を用いた革新的なオンライン調達プラットフォ
ームである
「E-マーケット・プレイス」を試験導入しています。
こ
のE-マーケット・プレイスを用いることで、事業実施者はより安
価で利用しやすく、質の高い医薬品や医療用品が手に入り、大
幅な経費節減にもつながります。長期的には、外部の資金援助
から脱却した国も、
このE-マーケット・プレイスを使って、簡素で
持続可能な調達方法を導入し、透明性を向上させコストを減ら
し、質を確保することができるようになるでしょう。E-マーケット・
プレイスによる効率向上で、2020年までにさらに年間1億ドル
が節約できると見込まれています。大きな規模で見れば、
アクセ
させることができるでしょう。
グローバルファンドについて
グローバルファンドは、エイズ・結核・マラリアの世界的流
行を終わらせるために設立された21世紀型の国際機関
です。政府、市民社会、民間セクター、エイズ・結核・マラリ
アによる影響を受けている人々が連携するグローバルフ
ァンドは、年間約40億ドルの資金を集め、100カ国以上で
現地の専門家が運営するプログラムに供与しています。
グ
ローバルファンドの運営コストは供与資金のわずか2.3%
で、
これは優れた効率性を反映しています。あらゆるパー
トナーとともに、障壁に立ち向かい、革新的な手法を取り
入れながら、
グローバルファンドは三大感染症の影響を
スと透明性が向上することで、医薬品や医療用品を扱うすべて
受けている人々の支援に尽力しています。
の売り手と買い手が恩恵を受けることになるでしょう。
グローバルファンドを通じた賢明で効果的な投資によっ
責任を分かち合う
て、
これまでに1700万人の命が救われ、世界中の家庭と
コミュニティにおける機会拡大と、公平な社会の実現にも
21世紀型のパートナーシップとしてグローバルファンドは、政
役立っています。必須医薬品のより迅速な配送方法から、
府、市民社会、民間セクター、エイズ・結核・マラリアによる影響
助けが最も必要な人にサービスを届けるより効果的な
を受けている人々、それぞれの強みを合わせ、活かしています。
方法まで――科学の進歩や革新的なアイデア、民間セク
各国の主体性と、支援プログラムの持続可能性を高めるため
ターの知見は、疾病の予防・治療・ケアを向上させる鍵と
に、
グローバルファンドは見返り資金供与という方法を導入し、
なります。
しかし、依然として多くの命がリスクにさらされ
国内で調達される三大感染症と保健セクターへの資金が増加
ています。エイズ・結核・マラリアの流行を終わらせるため
するよう努めています。
この取り組みによって、保健分野に対す
には、
この機運をつかみ、大志を抱き、
もっと速く前に進ん
る国内投資が大幅に増額されています。三大感染症対策に必
でいかなければなりません。
要な資金の大部分が国内から賄われるようになった今、感染症
2015年12月
theglobalfund.org
日本語版翻訳協力
(公財)
日本国際交流センター/グローバルファンド日本委員会