欧州に見るマイナス金利が銀行に及ぼす影響

2016 年 5 月 27 日
経済レポート
欧州に見るマイナス金利が銀行に及ぼす影響
調査部 主席研究員 廉 了
○ マイナス金利導入後、EU圏全体の貸出金利は、住宅ローン、大・中堅企業向け、中小企業向けともに低下してい
る。国別に見ると、中小企業向け貸出において、イタリア、スペイン、ポルトガルといった南欧諸国の金利が大幅に
低下しているのに対し、ドイツ、フランスでは、マイナス金利導入後も貸出金利は横ばいに止まる。一方、預金金利
については、法人・個人預金ともに低下している。
○ 欧銀はマイナス金利導入により、貸出金利が低下したものの、預金金利も低下しているため、預貸利鞘は縮小して
いない。一方、邦銀の場合、貸出金利、預貸利鞘は、欧銀と比べ著しく低い水準にあることに加え、邦銀の預金金
利水準はゼロ近辺まで低下し下げ余地がないことから、マイナス金利による金利低下分は、貸出金利・預貸利鞘の
低下に直結し、収益力が低下することとなる。マイナス金利導入は、欧銀より邦銀のほうが経営に与える影響は大
きい。
○ 貸出残高については、国別にみると、スペイン・ポルトガルについては、依然前年比マイナス状態が続いている。貸
出金利の低下は、貸出残高の増加にはあまり結びついていない。
○ 通貨別に運用・調達状況を見ると、運用面では貸出・債券ともにユーロ建てのシェア低下・ドル建てのシェア上昇が
目立つ。また、調達面では、ドル運用が増加する中、低利安定調達手段であるドル預金調達は容易ではないため、
債券による調達でカバーしていることを伺わせる。運用調達バランス(運用/調達)については、ドル建てで上昇が
目立ち、欧銀がスワップ市場への依存度を高めていることを伺わせる。しかし、欧銀のスワップでのドル調達コスト
は上昇し、欧銀によるドル資産運用の採算は悪化している。
○ 貸出期間別状況を見ると、長期貸出のウェイトが高まっている。これは、日本と異なり、EU圏における量的緩和政
策の開始は 2015 年 3 月と最近になってからであり、10年債の利回りがプラスとなるなど、イールドカーブがスティ
ープ化したままであるため、金融機関は貸出や運用の長期化により収益を確保する余地があったことも影響してい
ると思われる。
○ マイナス金利導入による貸出金利低下は、欧銀よりも邦銀において収益の悪化につながりやすい。また、イールド
カーブのフラット化が進み貸出・運用の長期化の余地があまりないため、海外投資にシフトすることも考えられる
が、足元、邦銀の外貨スワップ調達コストは欧銀以上に上昇し、海外投資の採算を確保することも難しい。
○ 日本についても時間が経てば経つほど、金融システムへの悪影響が増幅する可能性がある。日本の金融システム
安定のため、少なくともマイナス金利の拡大に対しては慎重に対応が求められると思われる。
○ また、これまで、日銀の量的緩和政策は、邦銀の日銀預け金の増加が支えてきたが、今後、現金の大幅増加は引
き続き容易ではなく、邦銀の、日銀預け金についても大幅に増やすことは難しい。従って、マネタリーベースの拡大
を持続することは今後難しくなると思われ、量的緩和は早晩限界を迎えよう。従って、量的緩和の縮小が今後課題
となってこよう。
ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
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TEL:03-6733-1070
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1.はじめに
2014 年 6 月にECB、2016 年 1 月に日本銀行がマイナス金利を導入して以降、マイナス金利政策の是非に関
する議論が活発化している。現在までに世界で 6 カ国がマイナス金利政策を導入しており、既に“異例”ではな
くなりつつある。マイナス金利政策を導入した目的は、①インフレ率上昇(日本、EU圏、スウェーデン、ハン
ガリー)と、②自国通貨高圧力の緩和(スイス、デンマーク)の 2 つに分かれるが、マイナス金利政策の効果に
ついては、依然はっきりしない(図表1)
。
そこで本稿では、今後の日本の銀行への影響を考察するため、マイナス金利導入時期が早かったことや、経済
規模レベル、金融システムの類似性、マイナス金利導入の目的の類似性を勘案し、EU圏の銀行に焦点を当て、
マイナス金利政策の効果を検証した。
図表1.各国マイナス金利政策比較
日本
EU圏
スウェーデン
デンマーク
スイス
ハンガリ ー
導入決定時期
2016年1月
2014年6月
2015年2月
2012年7月
2014年9月
2014年12月
2016年3月
付利の対象と
なる中銀負債
と適用金利
(2016年3月)
基礎残高:0.1%
所要準備:0%
マクロ加算残高:0%
政策金利残高 :▲0.1%
中銀発行証書オペ:▲0.5%
ファインチューニングオペ
:▲0.6%
預金ファイシリティ:▲1.25%
基準額以下:0%
基準額超 :▲0.65%
(基準額超部分は中
銀CDに振り替え)
基準額以下:0%
基準額超 :▲0.75%
翌日物預入:▲0.05%
翌日物担保貸出:1.45%
(所要準備は1.2%付利)
10年債利回り
(2016年4月末)
▲0.082%
0.62%
0.51%
▲0.259%
3.325%
マイナス金利
が適用される
残高(2016年1
月)
約10兆円
2,360億クローネ
(3.2兆円)
・中銀発行証書オペ
:1,770億
・ファインチューニングオペ、
預金ファイシリティ:600億
970億クローネ
(1.6兆円)
1,700億スイスフラン
(20兆円)
1,470億フォリント
(591億円)
インフレ期待の低下継続リス
クを削減し、インフレ率が速
やかにターゲットに向けて上
昇することを企図
欧州債務危機に伴う
通貨高圧力を下げる
ため(一旦2014年4
月終了)。ECBがマ
イナス金利を導入し
たのに伴い再び導
入(通貨はユーロ
ペッグ)
マイナス金利
導入の要因・
背景
物価上昇率2%達成を
目的に、量的・質的金融
緩和を継続しつつ実行
(イールドカーブ全体を
引き下げのため)
所要準備:0.00%
預金ファシリティ
:▲0.4%
0.97%
(各国国債利回り平均)
6,400億ユーロ
(81兆円)
インフレ率がインフレ
目標を下回る水準に
長期にわたり留まる
可能性を考慮
スイスフラン高圧力
を緩和するため
原油安や通貨高で物価
が中銀の目標である3%
を下回る水準で推移して
いるため
(出所)日銀資料、各国中銀資料。Bloomberg 等より作成
2.マイナス金利導入後の欧州の預金・貸出金利
(1)貸出金利
EU圏全体で見ると、マイナス金利導入後の貸出金利は、住宅ローン、1 百万ユーロ超の企業向け貸出(主に
大・中堅企業向け)
、1 百万ユーロ以下の企業向け貸出(主に中小企業向け)ともに低下している。ただし、国別
に見ると状況にばらつきがある。
住宅ローン金利については、ギリシャを除いて、各国押し並べて、マイナス金利導入後低下基調である(図表
2)。一方、企業向けについては、イタリア、スペイン、ポルトガルといった南欧諸国で金利が低下しているの
に対し、もともと金利水準の低いドイツ、フランスの金利は、マイナス金利導入後も金利の低下は限定的である。
特に中小企業向け貸出金利においては、南欧諸国の金利低下幅が大幅である一方、ドイツ、フランスの金利はほ
ぼ横ばいで推移しており(図表3)
、南欧諸国とドイツ、フランスの貸出金利の収れんが顕著である。
このように、EU圏での企業向け貸出金利は、南欧諸国の金利を中心に低下している。欧州債務危機以降、南
欧諸国においては、債務圧縮のための緊縮財政措置を実行したため、マクロ経済が低迷し、特に中小企業におい
てクレジット・クランチが発生し、貸出が大幅に落ち込むとともに、貸出金利も高止まりしていた。こうした南
欧諸国においてはマイナス金利の導入の影響は大きかったと言える。しかし、ドイツ、フランスについては貸出
金利はあまり下がらず、個人・法人に恩恵があったとは言い難い。
ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
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図表2.EU圏各国の住宅ローン新規貸出金利(変動)
(%)
5.0
ECBマイナス
金利導入
4.5
4.0
3.5
3.0
2.5
2.0
1.5
2010
2011
2012
2013
2014
ギリシャ
ポルトガル
スペイン
ユーロ圏
ドイツ
フランス
2015
2016
イタリア
(出所)ECB
図表3.EU圏各国の貸出規模別の企業向け新規短期貸出金利
(%)
(%)
1百万ユーロ以下(主に中小企業向け貸出)
8
ECBマイナス
金利導入
7
1百万ユーロ超(主に大・中堅企業向け貸出)
7
ECBマイナス
金利導入
6
6
5
5
4
4
3
3
2
2
1
1
2010
2011
2012
2013
2014
ギリシャ
ポルトガル
スペイン
ユーロ圏
ドイツ
フランス
2015
2016
2010
イタリア
2011
2012
2013
2014
ギリシャ
ポルトガル
スペイン
ユーロ圏
ドイツ
フランス
2015
2016
イタリア
(出所)ECB
(出所)ECB
(2)預金金利
預金金利については、個人預金・法人預金ともに大幅に低下している。
日本において、事実上のゼロ金利政策と言われる無担保コール翌日物金利を 0.15%に誘導する政策を決定した
のが 1999 年 2 月であるのに対し、EU圏では、政策金利である預金ファシリティ金利(金融機関の短期的な余
剰資金を、一晩欧州中央銀行に預け入れた場合に付く利子率)をゼロとしたのが 2012 年 7 月と、日本と比べる
と最近のことである。従って、ゼロ金利の期間が長い日本については、預金金利の下げ余地は乏しいが、ゼロ金
利期間の短いEU圏においては、比較的預金の引き下げ余地があったと言える。
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特に、南欧諸国の預金金利は、ドイツの銀行のレベル近辺まで低下している。これは、マイナス金利の影響に
加えて、銀行同盟と呼ばれるEU各国の監督制度の一元化、単一銀行破綻処理制度などが稼働し始めEU圏の金
融システムが安定し、欧州債務危機発生時、預金流出に苦しんでいた南欧諸国の銀行の預金流出が止まったこと
も寄与していると思われる。
図表4.EU圏各国の預金金利(ストック、2年以下)比較
(%)
(%)
個人預金金利
法人預金金利
5.0
5.0
ECBマイナス
金利導入
4.5
4.0
4.0
3.5
3.5
3.0
3.0
2.5
2.5
2.0
2.0
1.5
1.5
1.0
1.0
0.5
0.5
0.0
2010
2011
2012
2013
2014
ギリシャ
ポルトガル
スペイン
ユーロ圏
ドイツ
フランス
2015
ECBマイナス
金利導入
4.5
2016
0.0
2010
イタリア
2011
2012
2013
2014
ギリシャ
ポルトガル
スペイン
ユーロ圏
ドイツ
フランス
2015
2016
イタリア
(出所)ECB
(出所)ECB
(3)預貸利鞘
図表5:欧銀・邦銀の預貸利鞘比較
欧銀はマイナス金利導入により、貸出金利も
低下したものの、預金金利も低下しているた
4.5%
め、預貸利鞘は縮小していない(2013-2015 年
4.0%
2013 預金金利
3.5%
2013 預貸利鞘
の預貸利鞘縮小幅は 0.04%、図表5)
。つまり、
欧銀の預貸金市場においては、マイナス金利導
入・マイナス金利幅拡大は貸出・預金金利の低
3.0%
下という、平常時の金融政策と同じ影響を銀行
2.5%
に及ぼしている。
2.0%
一方、邦銀の場合、貸出金利、預貸利鞘は、
欧銀と比べ著しく低い水準にある。また、邦銀
2013 貸出金利
2015 貸出金利
2015 預金金利
2015 預貸利鞘
1.5%
の預金金利水準はゼロ近辺まで低下して下げ
1.0%
余地がないことから、マイナス金利による金利
0.5%
低下分は、そのまま、貸出金利の低下、預貸利
0.0%
邦銀
鞘の縮小に直結し、収益力が低下することとな
る。つまりマイナス金利導入は、欧銀より邦銀
のほうが影響は大きい。
注)邦銀:3 メガ平均、欧銀:EU圏内に本店を置くG−SIBs9 行平均
※G−SIBs・・・グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs:Global
Systemically Important Banks)のことで、金融機関ごとにシステム上の重
要性を評価し、リスク・アセット対比で一定水準の追加的な資本の積立てを
求められる金融機関。現在、全世界 31 行が指定されている。
(出所)各行有価証券報告書・年次報告書を基に作成
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欧銀
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3.欧州の預金・貸出残高状況
マイナス金利の導入によって、預金・貸出金利は大幅に低下したが、貸出金利低下効果は、貸出残高の増加に
は結びついていない。個人向け貸出がやや増加しているものの、企業向け貸出は下げ止まった程度で顕著な緩和
効果が見られない(図表6)。国別にみると、スペイン・ポルトガルについては、依然前年比マイナス状態が続
いている。
図表6.EU圏の預金・貸出動向
EU圏全体の個人・法人別預金・貸出残高(前年比、金融は含まず)
16%
企業貸出
14%
個人貸出
12%
ECBマイナス
金利導入
法人預金
10%
個人預金
8%
6%
4%
2%
0%
-2%
-4%
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
-6%
欧州主要各国の貸出残高(前年比、個人+事業法人ベース、金融を除く)
12%
ECBマイナス
金利導入
10%
8%
6%
4%
2%
0%
-2%
-4%
フランス
-6%
ドイツ
-8%
EU
イタリア
-10%
スペイン
-12%
ポルトガル
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
-14%
欧州主要各国の預金残高(前年比、個人+事業法人ベーズ、金融を除く)
10%
ECBマイナス
金利導入
8%
6%
4%
2%
0%
フランス
-2%
ドイツ
EU
-4%
イタリア
-6%
スペイン
ポルトガル
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2016
2015
2014
2013
2012
2011
(出所)ECB
2010
-8%
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4.欧銀の通貨別運用調達状況
(1)運用状況(貸出、債券)
欧銀の運用残高は、貸出・債券ともにマイナス金利導入後も、横ばいから減少傾向で推移している。運用通貨
別に見ると、貸出・債券ともにユーロ建てのシェアが低下し、ドル建てのシェアが上昇している。これは、マイ
ナス金利導入によりユーロ建て市場の運用利回りが低下したことが影響している。同時に、FRBの引き締め(量
的金融緩和の縮小、利上げ)やドル高に伴い、欧銀がドル建て運用を増加させたことに加え、ECBが 2015 年 1
月に量的緩和実施を決定(実行は 2015 年 3 月)し、欧銀が買い取り対象であるユーロ建て債券をECBに売却
しユーロ建て債券が減少したことも影響していると思われる。
図表7.EU圏の銀行の運用状況
貸出
残高
シェア
(10億ユーロ)
100%
25,000
98%
96%
20,000
94%
92%
15,000
90%
88%
10,000
86%
84%
5,000
他通貨
米ドル
円
他通貨
米ドル
円
英ポンド
スイスフラン
ユーロ
英ポンド
スイスフラン
ユーロ
2015Q4
2015Q1
2014Q2
2013Q3
2012Q4
2012Q1
2011Q2
2010Q3
2009Q4
2009Q1
2008Q2
2007Q3
2006Q4
2006Q1
2005Q2
2004Q3
2003Q4
2003Q1
2002Q2
2001Q3
2000Q4
80%
2000Q1
2000Q4
2001Q3
2002Q2
2003Q1
2003Q4
2004Q3
2005Q2
2006Q1
2006Q4
2007Q3
2008Q2
2009Q1
2009Q4
2010Q3
2011Q2
2012Q1
2012Q4
2013Q3
2014Q2
2015Q1
2015Q4
0
2000Q1
82%
債券
残高
シェア
(10億ユーロ)
100%
7,000
98%
6,000
96%
5,000
94%
92%
4,000
90%
3,000
88%
86%
2,000
84%
1,000
82%
他通貨
米ドル
円
他通貨
米ドル
円
英ポンド
スイスフラン
ユーロ
英ポンド
スイスフラン
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2015Q4
2015Q1
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2013Q3
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2012Q1
2011Q2
2010Q3
2009Q4
2009Q1
2008Q2
2007Q3
2006Q4
2006Q1
2005Q2
2004Q3
2003Q4
2003Q1
2002Q2
2001Q3
2000Q4
2000Q1
2000Q4
2001Q3
2002Q2
2003Q1
2003Q4
2004Q3
2005Q2
2006Q1
2006Q4
2007Q3
2008Q2
2009Q1
2009Q4
2010Q3
2011Q2
2012Q1
2012Q4
2013Q3
2014Q2
2015Q1
2015Q4
(出所)ECB
2000Q1
80%
0
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(2)調達状況(預金、債券)
欧銀による調達は、預金が横ばいで推移する中、債券による調達が 2012 年以降減少している(図表8)
。これ
は、欧州債務危機発生により、欧銀の債券による資金調達においてプレミアムが拡大し調達コストが高まったこ
とや、リーマンショック後の国際金融規制強化の中で、預金調達が重視され、市場調達である債券調達に対する
規制が強化されたことが影響していると思われる。
また、ドル運用が増加する中、低利安定調達手段であるドル預金による資金の調達は容易ではないため、預金
におけるドルのシェアが低下する一方、それを債券での調達でカバーした結果、債券調達におけるドルのシェア
が拡大している。
図表8.EU圏の銀行の調達状況
預金
残高
シェア
(10億ユーロ)
100%
25,000
98%
96%
20,000
94%
92%
15,000
90%
88%
10,000
86%
84%
5,000
80%
2000Q1
2000Q4
2001Q3
2002Q2
2003Q1
2003Q4
2004Q3
2005Q2
2006Q1
2006Q4
2007Q3
2008Q2
2009Q1
2009Q4
2010Q3
2011Q2
2012Q1
2012Q4
2013Q3
2014Q2
2015Q1
2015Q4
0
2000Q1
2000Q4
2001Q3
2002Q2
2003Q1
2003Q4
2004Q3
2005Q2
2006Q1
2006Q4
2007Q3
2008Q2
2009Q1
2009Q4
2010Q3
2011Q2
2012Q1
2012Q4
2013Q3
2014Q2
2015Q1
2015Q4
82%
他通貨
米ドル
円
他通貨
米ドル
円
英ポンド
スイスフラン
ユーロ
英ポンド
スイスフラン
ユーロ
債券
残高
シェア
(出所)ECB
他通貨
米ドル
円
他通貨
米ドル
円
英ポンド
スイスフラン
ユーロ
英ポンド
スイスフラン
ユーロ
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2015Q4
2015Q1
2014Q2
2013Q3
2012Q4
2012Q1
2011Q2
2010Q3
2009Q4
2009Q1
2008Q2
2007Q3
2006Q4
2006Q1
2005Q2
2004Q3
2003Q4
2003Q1
2002Q2
2001Q3
2000Q4
2015Q4
2015Q1
2014Q2
2013Q3
2012Q4
2012Q1
2011Q2
2010Q3
2009Q4
2009Q1
70%
2008Q2
0
2007Q3
75%
2006Q4
1,000
2006Q1
80%
2005Q2
2,000
2004Q3
85%
2003Q4
3,000
2003Q1
90%
2002Q2
4,000
2001Q3
95%
2000Q4
5,000
2000Q1
100%
2000Q1
(10億ユーロ)
6,000
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(3)運用調達バランス
以上見てきた運用と調達のバランスを通貨別にみると、ユーロ建てについては、運用調達バランス(運用/調
達)が徐々に低下する一方、スイス建て、ポンド建て、ドル建てでバランスの上昇が目立つ(図表9)。特に、
ドル建ては他の通貨より運用調達規模が大きいが、バランスは 100%を超えている。つまり、欧銀が 100%を上
回る分について、スワップ市場に依存し、その依存度を高めていることを伺わせる。
マイナス金利導入後、運用利回りが低下したユーロ建て資産に代わり、欧銀がポートフォリオをドル建てにシ
フトしているが、低利安定調達手段であるドル建て預金が確保できず、債券やスワップといった市場調達への依
存度を高める結果となっている。
その結果、欧銀のスワップでのドル調達コストは上昇している(欧銀がスワップ市場でドル調達時に支払う上
乗せ分がマイナス金利導入以降上昇、図表10)
。つまり、欧銀のドル資産運用の採算は悪化することとなる。
図表9:欧銀の通貨別の運用調達バランス(運用/調達)の推移
220%
200%
180%
160%
140%
120%
100%
80%
60%
スイスフラン
英ポンド
他通貨
ユーロ
米ドル
円
2015Q4
2015Q1
2014Q2
2013Q3
2012Q4
2012Q1
2011Q2
2010Q3
2009Q4
2009Q1
2008Q2
2007Q3
2006Q4
2006Q1
2005Q2
2004Q3
2003Q4
2003Q1
2002Q2
2001Q3
2000Q4
2000Q1
40%
(出所)ECB
図表10:ドルユーロベーシススワップの推移
(ベーシスポイント)
0
-10
-20
-30
-40
-50
3年
-60
5年
-70
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
-80
注)数値のマイナスが拡大すればするほど、ドル調達時の上乗せ分が拡大していることを示している。
(出所)Bloomberg
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4.欧銀の期間別貸出状況
欧銀による貸出期間別の状況を見ると、長期貸出のウェイトが長期間に渡り徐々に高まっていることが分かる
(図表11)
。これは、特にリーマンショック以降、欧銀がデレバレッジの姿勢を強める中で、期間の短い貸出
債権の圧縮を中心にデレバレッジを進めたためと思われる。
日本の場合、2001 年以降長期間に渡り現在まで量的緩和政策が続いた結果、イールドカーブのフラット化が進
み、マイナス金利導入により 10 年債までもがマイナス利回りとなった。これに対して、EU圏については、マ
イナス金利導入は日本より早いものの、量的緩和政策は 2015 年 3 月と最近になってからであるため、イールド
カーブがスティープ化したままでフラット化はそれほど進んでおらず、10 年債の利回りはプラスとなっている
(図表12)
。従って、金融機関は貸出や運用の長期化により収益を確保する余地があったことが、貸出を長期
シフトさせる方向に働いたと思われる。
図表11:期間別貸出残高(EU 圏内企業向け)
残高
シェア
(10億ユーロ)
100%
6,000
90%
5,000
80%
70%
4,000
60%
50%
3,000
40%
2,000
30%
20%
1,000
10%
2000Q1
2000Q4
2001Q3
2002Q2
2003Q1
2003Q4
2004Q3
2005Q2
2006Q1
2006Q4
2007Q3
2008Q2
2009Q1
2009Q4
2010Q3
2011Q2
2012Q1
2012Q4
2013Q3
2014Q2
2015Q1
2015Q4
5年超
(出所)ECB
1年超5年以内
2000Q1
2000Q4
2001Q3
2002Q2
2003Q1
2003Q4
2004Q3
2005Q2
2006Q1
2006Q4
2007Q3
2008Q2
2009Q1
2009Q4
2010Q3
2011Q2
2012Q1
2012Q4
2013Q3
2014Q2
2015Q1
2015Q4
0%
0
1年以内
5年超
1年超5年以内
1年以内
図表12:マイナス金利諸国の国債のイールドカーブ比較(2016 年 4 月末)
(%)
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
スペイン
イタリア
EU
スウェーデン
デンマーク
ドイツ
日本
スイス
-0.2
-0.4
-0.6
-0.8
-1.0
(出所)Bloomberg
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5.欧銀の格付け別与信状況
各行の与信の格付別構成(内部格付)の変化を見ると、マイナス金利導入の前後で変化は見られない(図表1
3)。少なくとも、欧銀においては、マイナス金利導入により貸出行動やリスクの取り方に変化が生じることな
く、信用ポートフォリオを大きく変化させていないと思われる。
図表13:欧銀の与信残高の格付け別構成(EU圏G−SIBs9 行)
100%
4.0
90%
3.8
80%
3.6
70%
3.4
60%
3.2
50%
3.0
40%
2.8
30%
2.6
20%
2.4
10%
2.2
0%
2013年
2015年
CCC以下
B
BB
BBB
A
AAA、AA
平均格付け(右目盛)
2.0
(注)平均格付けは、点数が低いほど信用状況良好
(出所)各行年次報告書を基に作成
6.マイナス金利が欧銀に与える影響(まとめ)
EU圏において、ECBがマイナス金利を導入した後、住宅ローンや南欧諸国を中心に貸出・預金金利の低下
は見られるものの、ドイツやフランスの企業向け貸出金利の低下は見られない。また、貸出金利が低下した南欧
諸国での貸出の増加は見られない。むしろ、独仏銀は、
マイナス金利導入以降、南欧諸国向け与信を圧縮して
図表14:独仏銀のスペイン・イタリア向け与信状況
(10億ドル)
いる(図表14)
。南欧諸国の貸出金利が低下し、リス
1,400
クプレミアムの確保が難しくなったことが、資産圧縮
1,200
を促した可能性もある。
また、欧銀のポートフォリオ構成の大幅変化は見ら
スペイン向け 独銀
1,000
れないが、マイナス金利導入により、ユーロ建て資産
の利回りが低下したため、欧銀のポートフォリオがド
600
ストも上昇しているため、欧銀の収益性向上にはそれ
ほど結びついていないと思われる。ECBがマイナス
400
200
金利を 0.3%⇒0.4%に拡大したにも関わらず、直後に、
0
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
ECBがマイナス金利政策の限界を認める異例の声明
を発表しているが。こうした状況も踏まえているかも
イタリア向け 独銀
イタリア向け 仏銀
800
ル建てへシフトしている。しかし、同時に外貨調達コ
スペイン向け 仏銀
(出所)BIS
しれない。
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7.日本への示唆
(1)慎重な対応が求められるマイナス金利の拡大
前にも述べたように、マイナス金利導入による貸出金
図表15:ドル円ベーシススワップの推移
利の低下は、欧銀よりも邦銀において収益の悪化につな
がりやすい。また、マイナス金利導入による貸出増加効
(ベーシスポイント)
-10
-20
-30
-40
化する余地があまりないため、海外投資にシフトするこ
-50
とも考えられるが、足元、邦銀の外貨スワップ調達コス
-70
-60
トは欧銀以上に著しく上昇し、プレミアムが 100 ベーシ
-80
スポイント近辺に達している(図表15)
。こうしたプレ
-100
5年
のリスクをとった投資が必要となる。リスク管理を厳格
2016
2015
2014
2013
2012
-110
2009
ミアムをカバーするためには、為替リスクに加え、相応
3年
-90
2011
イールドカーブのフラット化が進み貸出・運用を長期
2010
果は不動産関連等一部に限られよう。
(出所)Bloomberg
化することは当然としても、海外投資の採算を確保するこ
とも難しいであろう。
EU圏各国の中銀間の資金決済システムであるTARGET2を見ると、マイナス金利導入以降、ドイツの債
権拡大、南欧諸国の債務拡大が見られるなど、南欧諸国の銀行の資金調達におけるECB依存度が高まっている
(図表16)
。マイナス金利導入により欧州の金融システムが必ずしも安定してはいないと思われる。EU圏の
金融システムは欧州債務危機後、一旦安定したものの、マイナス金利政策導入により、やや不安定化する懸念が
あるかもしれない。
日本についても時間が経てば経つほど、金融システムへの悪影響がますます増幅する可能性がある。日本の金
融システム安定のため、少なくともマイナス金利の拡大に対しては慎重な対応が求められると思われる。
図表16:EU圏主要国のTARGET2収支の推移
(10億ユーロ)
1,000
オランダ
800
600
ルクセンブルク
400
ドイツ
200
フランス
0
ポルトガル
-200
スペイン
-400
イタリア
-800
ギリシャ
-1,000
(出所)ECB
2008May
2008Aug
2008Nov
2009Feb
2009May
2009Aug
2009Nov
2010Feb
2010May
2010Aug
2010Nov
2011Feb
2011May
2011Aug
2011Nov
2012Feb
2012May
2012Aug
2012Nov
2013Feb
2013May
2013Aug
2013Nov
2014Feb
2014May
2014Aug
2014Nov
2015Feb
2015May
2015Aug
2015Nov
2016Feb
-600
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
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2015
2016
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(2)限界を迎えつつある量的緩和政策
これまで、日銀の量的緩和政策は、邦銀の日銀預け金の増加が支えてきた(マネタリーベース 386 兆円(2016
年 4 月末)のうち、現金(貨幣・日銀券)102 兆円、日銀預け金 284 兆円)
。しかし、今後については、現金の大
幅増加(=タンス預金増ないしは国民の財布の中身の増加)は引き続き容易ではなく、邦銀の日銀預け金も、下
記の要因から、大幅に増やすことは難しい。従って、マネタリーベースの拡大を持続するのは難しくなっている。
① 邦銀が国債の日銀への債券売却(=日銀預け金増)を進めてきた結果、売却可能な国債が少ないこと。
② これまで日銀への超過準備預金には 0.1%の付利があったが、今後拡大する超過準備預金についてゼロ金
利ないしはマイナス金利が適用されるため、マイナス金利によって債券価格が上昇しても、日銀への債券
売却インセンティブが乏しいこと。
③ 邦銀の日銀預け金がバランスシートに占める割合が、欧米諸国と比べ多く、
“低収益資産”である日銀預け
金が銀行の収益性の下押し要因となること(図表17)
。
④ 収益性改善のための日銀預け金圧縮が困難である(日銀預け金は、日銀が売りオペをしない限り、銀行全
体として日銀預け金圧縮は困難)
図表17:日米欧銀の中銀預け金・ソブリン保有構成(対総資産比)比較
35%
中銀預け金
30%
政府・地公体向け貸出
25%
政府関係機関債
20%
国債・地方債
15%
10%
5%
0%
2011末
2013末
2014末
2015末
EU
2011末
2013末
2014末
2015末
日本
2011末
2013末
2014末
2015末
米国
(出所)日銀、ECB、FDIC資料より作成
足元、マイナス金利政策と同時に従来の量的緩和政策も同時に進めているが、年間 80 兆円のマネタリーベー
ス増加を進めた結果、今や日銀の総資産(対GDP比)で見てもスイス中銀と並ぶ規模である(図表18)。ま
た、日銀は、今や日本国債の最大の投資家で、他国と比較しても突出して高い(図表19)
。マネタリーベース
拡大が難しくなることも勘案すると、量的緩和は早晩限界を迎えよう。従って、今後量的緩和の縮小が課題とし
て浮上してこよう。
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図表18:各国中銀の総資産(対GDP比)の推移
見込み
110%
スイス中銀
100%
90%
日銀
80%
ECB
70%
FRB
60%
BOE
50%
40%
30%
20%
10%
2017
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
0%
(出所)各国中銀資料より作成
図表19:日・米・欧国債の保有者構成比較(2015 年末)
米国
日本
個人・非営利団体
2%
政府・地公体
5%
中銀
16%
海外
11%
法人
0.5%
海外
40%
中銀
32%
証券・投信・ノン バン ク等
4%
銀行
4%
保険・年金
17%
保険・年金
23%
銀行
23%
個人・非営利団体
9%
英国
EU圏
中銀
24%
海外
28%
政府・地公体
4%
海外
24%
個人・非営利団体
証券・投信・ノン
バンク等
10%
法人
0.2%
中銀
6%
銀行
25%
4%
銀行
9%
個人・非営利団体
4%
法人
0%
政府・地公体
2%
保険・年金
27%
法人
1%
証券・投信・
ノンバンク等
21%
保険・年金
17%
証券・投信・ノンバン
ク等
8%
注)EUは民間債含む
(出所)日本銀行、FRB、DMO、ECB
以上
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