東京港外貿埠頭における予防保全型維持管理について

特集 社会資本の戦略的な維持管理 ─メンテナンス時代の到来を見据えて─
東京港外貿埠頭における予防保全型維持管理について
東京港埠頭株式会社 技術部 土木課*
東京港埠頭株式会社では、大井コンテナ埠頭の再整備事業(平成8〜15年度)を通じて得られた技術や
知見を基に、広大な施設にかかる維持管理コストの抑制や平準化に取り組むため、従来の事後対応的な管
理方法を見直し、予防保全を積極的に取り入れた効率的な維持管理に転換を図った。今回はそのうち、劣
化予測及びライフサイクルコスト算出のための基礎的な情報となる点検について紹介する。
1.はじめに
用を適切に配分して、効果的かつ効率的に維持管理
東京港を取り巻く現況は、国際的な港間競争が激
を行うために、「使用不可能になった場合の供用に
しくなる中で、サービス水準の維持・向上を図るた
及ぼす影響」、「維持管理の難易度」、「劣化の進行が
めには、今後の維持管理にかかるコストの縮減を図
維持管理コストの上昇に及ぼす影響」を考慮して維
る必要があった。しかし、限られた予算のなかで施
持管理の優先度を設定している。
設の所要の機能を継続的に発揮させていくには、従
また、重要度の異なる複数の施設に対して効果的
来の事後対応的な維持管理では、将来の補修需要に
な維持管理を行うためには、優先度に応じた点検頻
対応することができないと考え、従来の事後対応的
度や点検項目を設定し、その結果を評価・判定する
であった維持管理方法を見直し、予防保全を積極的
ことが重要である。弊社の管理する土木施設に対し
に取り入れて合理的で効率的が可能となる予防保全
ては、図−1に示す手順に従って維持管理を行う。
型維持管理へと転換を図った。
⑴ 維持管理に優先順位の設定
点検や補修などにかかる費用を適切に配分し、効
2.予防保全型維持管理の目的
今後も増大するであろう補修に対応していくには、
「予防保全を取り入れたライフサイクルコスト(以
率的な維持管理を行うために必要な維持管理の優先
度の設定は、次のとおりである。
①優先度:高(構造本体に係わる桟橋上部工、桟
下、
「LCC」という)の最小化」を目的とした効率
橋下部工、鋼矢板岸壁・護岸)
的な維持管理を行うことが不可欠であると考え、点
補修が難しく、劣化が進行すると補修/補強な
検、劣化予測、LCCの算出等の実施による予防保全
どのために荷役を休止させる必要があるもの。
型維持管理を行っている。
今回は、予防保全を行ううえで劣化予測やLCC算
出のための基本的な情報を収集するものである施設
点検について、桟橋上部工を例に考え方や点検内容
について紹介する。
②優先度:中(ヤード(舗装等)、泊地)
補修作業自体は容易だが、補修を行うための時
間的な制約を受けるもの。
③優先度:低(付帯施設)
補修は取替えが主体であり、比較的容易に対応
できるもの
3.具体的な取組み
土木施設においては、点検や補修などにかかる費
⑵ 点検の種類
LCCを考慮した経済的で効果的な維持管理のため
*03-3599-7397
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には、
設定した維持管理の優先度に基づいて「点検」
ついて比較検討し、最小となるシナリオを採用する
を体系的に行い、その評価・判定の結果によって維
ことによってコストの縮減を図ることを目的とする。
持管理修繕計画を策定しなければならない。
弊社が管理する土木施設においては考えられる対
点検の種類は、目視を中心とした一次点検と、劣
応(判定)としては、次のとおりとなる。
化が確認された場合に足場を架設して試料採取など
①補修不要(供用を継続、経過観察)
を行う二次点検によって構成される。一次点検とし
②計画的な補修
て日常点検、定期点検(目視調査及び詳細調査(一
③緊急的な補修
次)
)
、
臨時点検を行い、二次点検として詳細調査(二
④点検頻度の見直し
次)を行う。
「②計画的な補修」については、劣化予測やLCC
⑶ 評価・判定
算定の結果によっては、現状において健全であって
構造物に対しては、点検結果をもとにして、劣化
も予防的な補修を行う場合を含むものである。また、
予測及びLCC算定を評価し、補修の要否や点検頻度
「③緊急的な補修」に関して、荷役作業に対して安
の見直しの必要性について判定する。
全上の問題が生じた場合などでは、緊急的な補修を
施設のLCCの算出は、複数の維持管理シナリオに
行うまでの期間は供用制限が必要となる。さらに、
維持管理の優先度の設定
優先度:高
桟橋
上部工
桟橋
下部工
優先度:中
鋼矢板岸
壁・護岸
ヤード
(舗装等)
泊地
優先度:低
付帯施設
点検
一次点検
二次点検(詳細調査)
台風・地震などで
異常が想定される場合
日常点検:ユーザーヒアリング→目視点検
臨時点検
(管理者) (1回/月)
桟橋上部工
1.コンクリートの点検
2.床版打替部の点検
3.表面塗装部の点検
4.断面修復部の点検
5.電気防食部の点検
(管理者)
定期点検
目視調査
(管理者等)
船上より各施設同時に実施
(1回/2年)
判定:
劣化が
確認
された
場合
施設毎に実施
(1回/1年)
詳細調査
鋼矢板岸壁・護岸
1.法線変位量の点検
2.矢板の傾きの点検
3.矢板
L.W.L.以上の点検
L.W.L.以下の点検
4.タイロッド・控え工
の点検
(専門技術者)
桟橋下部工
(L.W.L.以下)
1.肉厚測定
(1回/5年)
2.電位測定
(2回/1年)
3.陽極調査
(2回/寿命期間)
桟橋上部工
1.塩化物イオン
2.かぶり
3.鉄筋の
腐食状態
(いずれも
1回/5年)
桟橋下部工
1.L.W.L.以上の点検
2.L.W.L.以下の点検
泊地
1.深浅測量
(1回/5年)
ヤードの点検
評価・判定
劣化予測
桟橋上部工
・コンクリート部
→塩分浸透予測(1回/5年)
・補修部
→寿命予測(データ集積時)
桟橋下部工
・塗覆装部
→寿命予測(データ集積時)
・電気防食部
→肉厚減少の予測(1回/5年)
ヤード
泊地
付帯施設
→寿命予測
(データ集積時)
LCCの算出
LCC比較による
工法選定/見直し
補修間隔の
見直し
LCCの計算/集計
維持修繕計画(5年毎に見直し)
図−1 維持管理の手順
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社会情勢
・デフレータ
・社会的割引率
予
定
供
用
期
間
100
年
「④点検頻度の見直し」は、それまでの点検結果か
ら劣化進行速度が速くなってきている(または非常
に遅い)ことが確認された場合などでは、部材単位
で①〜③の補修の要否に係わらず、点検の頻度を多
くする(少なくする)ように頻度の見直しを検討す
るものである。
劣化予測については、管理する施設ごとに判定方
法があるため、一次点検の点検方法を桟橋上部工を
例に後の項で詳細な説明を行う。
写真−1 目視調査
4.桟橋上部の維持管理
具体的な取組みについて、桟橋上部工を例に説明
する。
桟橋上部工の維持管理すべき性能とは具体的に次
のとおりである。
①安全性能(船舶が着岸でき荷役できる)
②
使用性能(荷役作業がスムーズにでき床版の「抜
落ち」がない)
③
耐久性能(予定供用期間において塩害等が原因
写真−2 詳細調査
となって安全性能や使用性能が低下し埠頭機能
が停止しない)
これらの性能を確保するため、桟橋上部工では次
いため、干潮時を狙って実施しても日当たりの作業
の一次点検を実施している。
時間は長くて4〜5時間と短く、時期によっては夜
◦桟橋上部工の点検内容
間作業を行うことも多くなる。
桟橋上部工の点検は、劣化予測及びLCC算定のた
めの基本情報を収集する重要な取組みである。
5.おわりに
一次点検のうち定期点検は、構造物の健全性や劣
これらの取組みは財務の健全性とカスタマーサー
化進行速度などを確認するため定期的に実施する点
ビス向上を図るための根幹をなすものである。弊社
検である。点検項目は、目視点検を2年に1回(現
では、今後とも管理を徹底することで予防保全型維
在の実施は1年に1回)
、詳細点検を5年に1回の
持管理を推進し施設の長寿命化に挑んでいきたい。
頻度で実施している。
目視点検は、桟橋下面を徒歩や船外機船などを利
用し桟橋上部工に顕在化したコンクリート劣化現象
を目視により把握するものである。
詳細点検は、構造物の健全性や劣化進行速度など
を確認するため定期的に実施する点検であり、点検
項目は、塩害による劣化進行の主要因である塩化物
イオン量と鉄筋かぶり、さらに鉄筋の腐食状態を確
認するものである。これらの点検については、桟橋
下に設けた足場上で行うが、潮位の影響を受けやす
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