米国ハイイールド債:低コスト戦略の真のコスト(PDF/537KB)

米国ハイイールド債:低コスト戦略の真のコスト
2016年 5月23日
ゼーン・ E ・ブラウン
パートナー、債券ストラテジスト
ハイイールド債上場投資信託(ETF)では手数料の低さが魅力的である一方で、ベンチマー
ク指標を忠実に追う ETF の手法には不利益もあります。
要旨

米国 ETF のような低コスト投資を選択することは、低利回り環境において純ベースリター
ンを高める魅力的な手法だと言えます。

とはいえ、ハイイールド債投資家はもう一度よく考えてみた方が良いかもしれません。多
くのハイイールド ETF が低コストを提供しているように見えるものの、ここ数年ベンチマ
ーク指標のリターンには達していません。

問題は柔軟性の欠如にあると見られます。なぜなら ETF は各指標の構成内容を正確に
反映する傾向があり、その結果として市場で低迷するセクターに対してもベンチマーク指
標と同様の配分を行うことになるからです。こうした特性から、例えば石油や鉱物セクタ
ーが下落するなかで、ETF のリターンは損なわれる形となっています。

鍵となる論旨 — アクティブ運用型の米国ハイイールド債ポートフォリオもまたベンチマー
ク指標を下回ってはいますが、これらのファンドは柔軟性がより高いことから、ファンドマ
ネージャーは割高なセクターや困難な情勢に直面するセクターを避けることができます。
投資家は今年も世界経済の低成長と低金利環境に直面しており、投資家の懸念は新たな市場
変動の可能性によって増幅されています。こうした要因が投資リターンにどう影響するかに関して
投資家のできることはほとんどありませんが、容易に操作できる変動要因が一つ存在します。そ
れはコストです。実際、米国 ETF のような低コスト投資対象への投資家の関心の高まりは、現在
の低利回り環境において純ベースリターンを高め得る魅力的な戦略だと考えられます。
とはいえ、コストばかりに重点を置くことには、それ自体のコストがあるかもしれません。単純化し
た解決策を望む気持ちは理解できるとはいえ、簡単な費用対効果分析でさえも、コストばかりに
重点を置くことは投資家にとって最善の利益ではないこと、そして投資目標と相反してしまう恐れ
があることを示しています。代表的な米国ハイイールド債 ETF のここ最近のパフォーマンスを検
証してみると、純リターン目標を目指すにあたって、コスト削減よりも費用対効果分析の方が重要
であることが示されます。
マイナス金利すら出現する低金利環境のもと、インカム収入を他分野で得ることができない投資
家にとって、ハイイールド債は興味深い投資対象であると言っていいでしょう。ハイイールド債投
資を考える投資家にとっては、各国中央銀行による成長下支え金融政策が安心材料となってい
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るはずです。欧州中央銀行(ECB)と日銀、そして今では米連邦準備理事会もここに加わりました。
中国人民銀行はこのところ、中国経済の「ハードランディング」阻止に向けて、減税、金利引き下
げ、インフラ支出、銀行の不良債権削減プログラムなどの政策を打ち出してきました。これもまた
投資家の意思決定の支えとなるでしょう。ここ最近のハイイールド債のスプレッドが過去の平均よ
り拡大しているという事実(JP モルガンによる)も、10 年物米国債利回りがインフレ率を下回って
いるなか、ハイイールド債投資を拡大しようとの意思決定を下支えすることになると考えられます。
原価計算
ハイイールド債が投資家にとって適切な資産クラスだとするならば、鍵となる考察は、どのような
方法でポートフォリオにそれを含めるかという点に集中します。ハイイールド ETF は、多くのオー
プンエンド型ハイイールド債ミューチュアルファンドと同様にポジションの集中(これがサード・アベ
ニュー・フォーカスト・クレジット・ファンドの清算につながりました)を回避します。一方で、クローズ
ドエンド型ファンドと同様のレバレッジを採用しており、これは一部投資家にとって不適切かもしれ
ません。ハイイールド ETF の低コストの方向性は魅力的に見えますが、それが本当に投資家の
利益につながると言えるのでしょうか?パフォーマンス(手数料を除いた)を検証してみることは、
パフォーマンスの如何にかかわらず手数料に重点を置く姿勢よりも優れた考察となるはずです。
ETF をサポートする根本的な前提条件は、低コストでインデックスと同等のパフォーマンスを得ら
れるという点にあります。こうした前提は一部の大型株 ETF には当てはまる一方で、主要なハイ
イールド ETF では、コストは低いもののインデックスリターンを下回る状態が度々起きています。
最も規模の大きいハイイールド ETF のうちの 2 つを表 1 に示します。それぞれの最も直近の純
ベースパフォーマンスと、今年これまで、1 年、3 年、5 年間の特定のベンチマーク指標パフォー
マンスとの比較を示しています。
表 1. 2 大ハイイールド ETF と特定のベンチマーク指標のリターン比較
出典:ブルームバーグ及びリッパー。
特定されたベンチマーク指標は各 ETF の目論見書に記載されています。インデックスは非マネージド型であり、
手数料及び費用控除は反映されておらず、また直接に投資することはできません。過去のデータは提示を目的と
したものに過ぎず、ロードアベットが運用する特定のポートフォリオあるいは特定の投資パフォーマンスを示して
いるものではなく、また将来の成果を予想あるいは示唆することを意図したものではありません。投資家はこれと
は異なった投資結果を経験する可能性があります。
過去のパフォーマンスは将来の成果を一切保証するものではありません。他の期間のパフォーマンスは異なる
可能性があります。市場変動によって、市場は将来これと同様のパフォーマンスを示さない可能性があります。
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保有期間にかかわらず、ETF のパフォーマンスはそれぞれのケースでの目標ベンチマーク指標
を下回っています。アクティブ運用型の A 株ハイイールドミューチュアルファンドの平均的なコスト
割合が 1.06%(リッパーのカテゴリーデータについてのロードアベット分析に基づく)であるのに対
し、両 ETF の手数料は 0.4₋0.5%に抑えられていますが、これまで一貫して標準以下のパフォーマ
ンスを示していることを考えればリターン目標を達成できると捉えることは難しいでしょう。
次に、アクティブ運用型米国ハイイールド債ファンドでしばしば利用される広範なカテゴリー別ベ
ンチマーク指標との比較を見てみましょう。BofA メリル・リンチ米国ハイイールドマスターII コンス
トレインドインデックスに対する ETF のパフォーマンスは一段と低くなっています。
表 2.
2 大ハイイールド ETF とカテゴリー別ベンチマーク指標のリターン比較
出典:ブルームバーグ。
カテゴリー別ベンチマーク指標はハイイールドミューチュアルファンドのリターンを比較するために広く利用されて
いる指標です。これらのインデックスは非マネージド型であり、手数料及び費用控除は反映されておらず、また直
接に投資することはできません。 過去のデータは提示を目的としたものに過ぎず、ロードアベットが運用する特定
のポートフォリオあるいは特定の投資のパフォーマンスを示しているものではなく、将来の成果を予想あるいは示
唆することを意図したものではありません。投資家はこれとは異なった投資結果を経験する可能性があります。
このように市場平均以下のパフォーマンスが続いていることから、手数料が相対的に低いとはい
え、ETF を目標リターン達成のための効果的な投資手段として利用することを正当化することは
難しくなっています。
ベンチマーク指標を乗り越えて
ETF 低迷の背景は何でしょうか? 重要な問題は、ETF が各ベンチマークの構成に忠実でなけれ
ばならない点にあると見られます。つまり、低迷するエネルギー・鉱業セクターを ETF が保有して
いるのは、各ベンチマークの構成内容をそっくり映し出しているためなのです。ETF はこうした柔
軟性の欠如のために、経営状態が比較的順調あるいは改善しつつある企業の債務をオーバー
ウェイトにすることができないのです。
アクティブ運用型ファンドもまた多くのケースでベンチマークを下回っているということが分かりま
す。一方で、過去の歴史は、ベンチマークと ETF 双方のパフォーマンスを定期的に上回っている
マネージャーが存在していることを示唆しています。アクティブ手法が与えてくれる柔軟性のおか
げで、マネージャーは割高なセクターや困難な状況に直面するセクターを避けることが可能です。
またそうした柔軟性によって、マネージャーはファンダメンタルズの改善が見られるセクターやバ
リュエーションが魅力的なセクターの比重を上げるようポートフォリオを変更することが可能となり
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ます。加えて、アクティブ運用型のマネージャーのリサーチ能力によって、彼らは投資判断の基
盤を発行体の財務状況や信用状況の慎重な評価に置くことができるのです。
インデックスに含まれる債券でもパフォーマンスの悪いものがあれば、アクティブ運用型ポートフ
ォリオはそれを保有する必要はないという事実は、この先もアクティブ運用型ハイイールドファン
ドマネージャーがインデックスマネージャーより有利な立場にあり続けることを示唆しています。そ
うしたマネージャーを見出すには努力が必要でしょう。しかしそれは投資家にとって最善の利益
であることに間違いはなく、またそれは他のアドバイザーやコストだけに重点を置いた解決策から
の差別化を図るためにアドバイザーが提供し得る価値あるサービスでもあります。
総括
投資家が減速経済と低利回り環境への解決策を模索するなか、コストなど投資の一側面のみに
重点を置く方策には単純化された魅力があるかもしれません。しかし、トータルリターン目標の達
成に向けた最終的な最善策とはならないでしょう。もちろん、投資コストは投資判断の一要因とし
て慎重に考察されるべきです。しかし、投資コストとポートフォリオマネージャーの手腕双方を考
慮に入れる、より総合的なアプローチが、好ましい成果達成に向け投資家により良い機会をもた
らすものと考えられます。
リスクについての注記:債券の投資価値は金利変動によってまた市場動向に応じて変化します。一般
に、金利上昇時には債券価格は下落し、逆に金利低下時には債券価格は上昇します。ジャンク債と
時に称される高利回り債ではより高い価格変動リスク、流動性の低さ、適時の元利払い不履行リスク
を伴います。債券はまた期限前償還リスク、信用リスク、流動性リスク、金利リスク、そして全般的な市
場リスクといった他のリスクも伴う可能性があります。通常では、より期間の長い債券は金利変動に対
してより敏感に反応します。つまり償還日までの期間が長いほど、金利変動が債券価格にもたらす影
響度は高くなります。低格付け債は高格付け債に比べて高いリスクにさらされる可能性があります。
いかなる投資戦略もすべての市場変動を克服することはできず、また将来の投資成果を保証すること
はできません。さらにはローン保証に利用される特定の担保価値が下落する可能性や流動性が低く
なる恐れがあり、ローン価値にマイナスの影響を及ぼす恐れがあります。株式証券の投資価値は全
般的な経済情勢や特定の企業・セクター見通しの変化に応じて変動します。低格付け債券は高格付
け社債より高いリスクを伴います。海外投資は一般に国内投資より高いリスクを伴い、それらには価
格変動や高い取引コストが含まれます。海外投資には本来、通貨変動や海外事由、政治・経済事由
に関連するリスクを含む特有のリスクが存在します。全ての市場変動を乗り越え、将来の成果を保証
する投資戦略は存在しません。株式の投資価値は全般的な経済情勢や特定の企業・セクター見通し
における変化に応じて変動します。
米国債は米国政府が発行する債券であり、政府の十分な信頼と信用によって担保されています。米
国債からの所得は州、地方税が免除されています。米国債の元利金は保証されていますが、市場価
格については保証されておらず市場動向に応じて変動します。
見通しや予想は現在の市場情勢を基にしたものであり予告なく変更されることがあります。予想を保
証ととらえるべきではありません。
市場が将来同様の状況下で同じようなパフォーマンスを示す保証は一切ありません。
1 ベーシスポイントは 1 パーセントの 100 分の 1 です。
ベンチマーク指標は投資家に対して、ポートフォリオのパフォーマンスを評価するための参考値を提
供しています。
上場投資信託(ETF)はインデックス、コモディティー(商品)、あるいはインデックスファンドのような資
産バスケットのパフォーマンスを示す証券であり、上場株式のように証券取引所で取引されます。ETF
は 1 日を通じて売買が行われ、価格が変化します。
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バークレイズ・ハイイールド・ベリー・リキッド・インデックスに含まれるのは、米ドル建て非投資適格固
定利付課税公募社債です。それらの債券は、オプショナリティに関わらず、償還日までの残存期間が
1 年以上で、ムーディーズ、S&P、フィッチの中間格付け(2005 年 7 月 1 日以前についてはムーディー
ズと S&P の低い方)によってハイイールド(Ba1/BB+/BB+ 以下)に格付けされており、発行残高額面
が 6 億ドル以上です。
BofA メリルリンチ米国ハイイールドマスターII インデックスは米国内市場で発行された投資適格未満
の米ドル建て公募債のパフォーマンスを示しています。対象となる証券は投資適格を下回る(ムーディ
ーズ、S&P、フィッチの平均による)債券でなければならず、発行時点での最終償還日までの期間が最
低 18 カ月、リバランス時点での最終償還日までの期間が最低 1 年なければならず、また固定の利払
い日を有し最小発行残高が 1 億ドルなければなりません。
マークイット iBoxx リキッド・ハイイールド・インデックスは米国で販売される流動性の高い米ドル建て
ハイイールド社債で構成される規定主義指数です。同指数は流動性の高い米ドル建てハイイールド
社債市場における広範な参照値を提供するために設定されています。同指数に含まれる債券発行数
の制限はありません。
指数は非運用型であり手数料や費用控除を反映しておらず、また直接投資することはできません。
前述の経済レポートで示された見解は発表日現在のものであり、今後その内容が変更となる可能性
があります。また弊社の見解を表明するものではありません。本資料は特定の投資または一般的な
市場に関する予測、リサーチ、投資アドバイスとしての利用を目的として作成されておらず、また法的・
税務上の助言を提供するものでもありません。本資料は当社が信頼できると思われる情報に基づい
て作成されておりますが、当社はその正確性および完全性について保証するものではありません。
本資料は、情報提供を目的とした参考資料であり、有価証券の取得の申込み・取得の申込みの勧
誘・売付けの申込み・買付けの申込みの勧誘、有価証券に関する投資助言をするものではなく、以上
のいずれの行為に関しても一切用いることができません。また、本資料は金融商品取引法に基づく開
示書類ではありません。
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