Title ルソオに於ける人間の誕生( Abstract_要旨 )

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ルソオに於ける人間の誕生( Abstract_要旨 )
太田, 祐周
Kyoto University (京都大学)
1965-09-28
http://hdl.handle.net/2433/211645
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
none
Kyoto University
【10 】
氏)
太
田
祐
おお
た
ゆう
周
しゅ う
学 位 の 種 類
教
学 位 記 番 号
教
学位授与の 日付
昭 和 40 年 9 月 28 日
学位授与の要件
学 位 規 則 第 5 条 第 1 項 該 当
研 究 科 ・専 攻
教 育 学 研 究 科 教 育 学 専 攻
学位論文題目
ル ソオに於 け る人 間の誕 生
論 文 調 査 委員
教 授 下 程 勇 吉
(主
育
学
博
博
第
士
2 号
査)
論
文
内
教 授 篠 原 陽 二
容
の
要
教 授 前 田
博
旨
ル ソオの思想の解釈 には, 二つの対立す る立場が ある。 - は 「 エ ミ- ル」 等 に見 られ る自然説 をル ソオ
の思想の核 心 と見て, 社会契約説をむ しろその爽雑物 と解す る立場 で, 多 くの浪漫主義者の とるところで
ある。 他は, 社会契約説を重視 し, 自然説 は既成 の不平等社会を否定 して平等の契約社会 に道を開 く媒介
にす ぎない と見 る立場である。 か く対立す る解釈 は, 本論文の筆者 によれば, もともと感情 と理性, 愛情
と友情, 感覚主義 と精神主義, 個人主義 と共和主義, 自然 と契約等 々の 「 両極 の矛盾対立 に住す る」 ル ソ
オの立場その ものか ら生 まれたものである。
生地 ジュネ- ブの美 しい 自然 に包 まれ, たえず愛情を求めて育 ったル ソオは, 巴里のサ ロン文化 に反擬
し, 既成学 問 ・ 恩想 ・ 教育 を否定 し, 人間本来 の生命 ・ 感情 に即 して, 自然 にかえ り, そ こにおいて 「何
よ りも先ず第一 に人間である」 権利をかち とろ うとしたのであった。 ここに, ル ソオは人間本来 の生命 ・
感情 において 「 自然」 を誕生せ しめたのである。 かか る立場 において, 子 どもを 自然その ものに即 して育
成す る教育 を説 いた 「 エ ミール」 は 「子 どものための人権宣言」 にはかな らない。
自然 にかえ り 「 自己の本質 に従 って生 きる」 人間は,
「 自己との一致」 に生 きる個人で あるが, かか る
人間は本来 的 には 自由に して平等 な共和主義 的市民で ある。 もともとジュネーブの共和主義的理念 に洗礼
されて育 ったル ソオにとっては, 現実の社会がいたるところ不平等 の悪徳 によ って汚染 されてい ることほ
ど, たえが たい ことはなか ったので ある。 ここに 「 自由平等 の共和主義的社会 は如何 に して誕生す るので
あるか」 と問われ るゆえんが ある。 かか る社会が誕生す るのは, 万人をひ としく包 む一般意志 に各人が 自
己の 自由を 自発的に譲渡す ることによ り, 各人が従前 に劣 らぬ 自由を平等 にかち得 る社会契約の場 におい
てである。 社会契約説 は本質 的には社会誕生論 で ある。 か くしてル ソオは, 生命 ・ 感情 において 「 自然」
を誕生せ しめ, 精神 ・ 契約 において 「社会」 を誕生せ しめたので あ った。
たえず愛情を求 めてや まぬ情緒 的性格で あ ったル ソオは, また同時 に自己確立 の徳 に生 きん とした精神
で あったが, とか く感情 に流 され るままに, 彼 は しば しば 自己確立 をめざす精神の道 において挫折 したの
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で あった。 かか る事態を反映す るかの どと く, ル ソオにおいては, 感情 と精神, さらには自然 と社会 との
二元的な両極 は相反 しつつ も結合 し, その危 い平 衡において, 相互 に本来 の在 り方か ら疎外す る危 険にさ
らされてい る。 それ とともに, またかか る危機 において, 両者 は, 相互 に相反 しつつ結合す ることによ っ
て, その源泉 にかえ り, それ本来 の純粋性を新 しくし, 相互 に 「誕生」 せ しめ合 うので ある。 すなわち,
感性 ・ 自然の否定 は精神 ・ 社会 の誕生で あ り, またその逆で ある。 かか る自然 と社会 との相互否定的誕生
において, 人間は人間である限 りの 自由 と平等 を創造的に享け得 るのである。 実 にル ソオの思想全体 は,
「 自然 と契約 とい う両理念」 を両極 として,
「人 間を人間 として誕生せ しめる人 間権利の宣言」 で あった
と筆者 は結論す る。
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
本論文は, ル ソオの主要著作 な らびに関係文献を精読 し, ル ソオの思想の成立 の由来をその社会的歴史
的背景 ・ 彼 の生活 ・ 遍歴 ・ 性格等 との関連 において究明 しよ うとす るものである。 本論文の筆者 は, ル ソ
オを終始貫 いてい る二律背反, すなわち肉体 と精神, 感情 と理性, 個人主義 と共和主義, 自由と平等, 自
然 と契約等の対立 の問題 に注 目 し, なかんず く, 自己充足的な本来 の人間であるために帰入すべ き母胎 と
しての 自然 と人 々が 自由平等 の人格 とな る」易と しての社会契約 との関係をル ソオ研究 における根本問題 と
して とらえ, その探究 に力をそそぎ, その間 に, 道徳否定の道徳, 思想否定の思想, 宗教否定の宗教, 敬
育否定の教育, 社会否定の社会 といわれ るどとき逆説性 において, ル ソオの近代的人 間が誕生 したゆえん
を明かに し, ル ソオの思想全体が, 人間を人間 と して誕生せ しめ る人間の権利宣言で あると結論す るので
あ る。 本論文 は, 時 として用語妥 当を欠 き, 行論 また必ず しも明快 でない点が あるが, 筆者 はル ソオの思
想の発展をその生活 との緊密な連関 において追求 し, その間 にル ソオ研究 の根本問題 を精力的 に探 求 し,
ことに 「 エ ミール」 の全体構造 の把握 において特色 ある見解を展開 してい る。
本論文 は, 教育学博士の学位論文 として じゅうぶん価値 あるもの と認め られ る。
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