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法学教室 429 号
演習・問題文
憲法
井上武史(九州大学准教授)
X1(18 歳)と X2(16 歳)はともに有名俳優 A の息子であり,彼ら自身も俳優およびタ
レントとして活動している。X1 と X2 は子ども向け映画に出演したことから有名になり,
それ以来,若者の間で絶大な人気がある。その後も,X1 と X2 は兄弟ユニットとして歌手
活動をするなどの芸能活動を行っており,その知名度の高さやイメージの良さを買われて
多数のテレビコマーシャルにも出演している。さらに近年では,若者の貧困や環境保護な
どの社会問題についてメディアで積極的に発言するなど,若年層のオピニオンリーダーと
しても活躍している。特に 18 歳選挙権を認める法律改正が行われて以降,X1 は新たに有
権者になる若者の代表格として,選挙の意義や投票の重要性をテレビなどでたびたび訴え
かけており,また,総務省の 18 歳選挙権の啓発活動でのイメージキャラクターとして,同
省のホームページでメッセージを伝えたり,ポスターに登場したりしていた。
2015 年 10 月の深夜,X1 は,ハロウィンの仮装パレードの帰りに数名の友人らと東京都
内で,自転車を蹴飛ばす,道路標識に落書きをする,公衆電話から受話器を引きはがすな
どの悪ふざけをしたために,駆けつけた警察官によって器物損壊容疑で事情聴取された。
事件は家庭裁判所に送致されたが,事案が軽微であり保護処分に付す必要がないと認めら
れたため,X1 には不処分決定が言い渡された。一方,X1 に同行し,悪ふざけの場面にも
居合わせていた X2 は,深夜はいかいを行ったという理由で補導された。
全国紙を発行する Y 新聞社は上記の事実を知り,「警察が A の息子らを連行」という見
出しの下,実名と顔写真入りで X1 と X2 の悪ふざけについての記事を同社が発行する日刊
紙のウェブ版に掲載した。同記事では,「若手俳優・歌手である A の息子 X1 は,東京都
内でハロウィン・パレードの帰りに公衆電話から受話器を引きはがすなどの器物損壊行為
を行い,警察官に連行された」と記載され,X2 については補導された事実が伝えられた。
事件当時未成年者あった X1 と X2 は,Y の報道が少年事件の推知報道を禁止する少年法
61 条に違反するものであり,また,報道によって名誉権が侵害されたとして,Y に対して
損害賠償を求める訴えの提起を考えている。X1 と X2 から相談を求められたとき,あなた
はどのような主張が可能であるとアドヴァイスするか。また,それに対して,Y はどのよ
うな反論を行うと考えられるか。
法学教室 429 号
演習・問題文
行政法
下山憲治(名古屋大学教授)
A は外国人であり,長崎市(Y)内に居住していた際,原子爆弾の投下により被爆した。
A は,昭和 55 年に Y 市長から原子爆弾被爆者の医療等に関する法律に基づき被爆者健康
手帳の交付を受けた。なお,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「法」)附
則 4 条 2 項により,前記被爆者健康手帳は法により交付されたものとみなされる。
その後,体調を崩した A は,居住地を母国に移した後,平成 16 年 7 月に死亡した。A
の死亡は原子爆弾による傷害作用の影響であることは,A の死亡時に居住地で発行された
死亡診断書に記載されている。そこで A の配偶者である X は,翌月,法 32 条に基づき葬
祭料の支給を申請したが,Y は,A が死亡した際の居住地が同市内ではないことを理由に
申請を却下した(以下「本件却下処分」)。なお,法 49 条によれば,同法の規定中,「都
道府県知事」または「都道府県」とあるのは,Y については同市長または同市と読み替え
られる。
法 32 条は,「都道府県知事は,被爆者が死亡したときは,葬祭を行う者に対し,政令で
定めるところにより,葬祭料を支給する。ただし,その死亡が原子爆弾の傷害作用の影響
によるものでないことが明らかである場合は,この限りでない。」と定めている。また,
関係法令の規定は次のようになっている。なお,法 52 条では,「この法律の実施のための
手続その他その執行について必要な細則は,厚生労働省令で定める」と規定している。
まず,被爆者とは,原子爆弾が投下された際,当時の広島市若しくは長崎市の区域内等
に在った者等であって,被爆者健康手帳の交付を受けたものをいう(法 1 条)。被爆者健
康手帳の交付を受けようとする者は「その居住地……の都道府県知事」に申請しなければ
ならず(法 2 条 1 項),「都道府県知事」は申請に基づいて審査し,申請者が法 1 条各号
のいずれかに該当すると認めるときは,被爆者健康手帳を交付する旨定めている(同条 2
項)。
法 32 条に規定する政令である法施行令(以下「令」)は「葬祭料は,被爆者の死亡の際
における居住地の都道府県知事が支給する」(19 条)と定め,法施行規則(以下「規則」)
では「葬祭料の支給を受けようとする者は,葬祭料支給申請書……に,死亡診断書又は死
体検案書を添えて,これを被爆者の死亡の際における居住地の都道府県知事に提出しなけ
ればならない」と定める(71 条)。
このように居住地に関する定めを置いた理由として,Y は,ア法 2 条 2 項の「都道府県
知事」が申請を受けた「その居住地……の都道府県知事」であることから法 32 条も同様に
解すべきこと,イ外国で作成された外国語の死亡診断書の信用性のほか,「葬儀を行う者」
かどうかを判断するための会葬礼状記載の喪主や葬儀代金領収証の宛名の記載に関する信
用性を判断することが困難で,不正受給防止のためにしっかりした審査ができなくなるこ
とを挙げている。
(1) 令 19 条および規則 71 条が違法となるのはどのような場合か,その判断基準を検討
しなさい。
(2) 法 32 条に規定する「都道府県知事」を「被爆者の死亡の際における居住地の都道
府県知事」と限定することは妥当か,本件却下処分の違法を主張しようとする X の立場で
検討しなさい。
なお,本設問では,本件却下処分時の法令で検討すること。
法学教室 429 号
演習・問題文
民法
三枝健治(早稲田大学教授)
(1) ①A は愛人関係を継続するため,B に甲不動産を贈与した。関係の破綻後,A は 90
条違反の契約と認め,B に対して,引渡し済みの甲不動産を不当利得として返還するよう
求めることができるか。②A から B への甲不動産の引渡しが贈与でなく,期間の定めのな
い使用貸借としてなされた場合,結論は変わるか。
(2) ③A は愛人関係を継続するため,B に 500 万円を贈与した。関係の破綻後,A は 90
条違反の契約と認め,B に対して,交付済みの 500 万円を不当利得として返還するよう求
めることができるか。④A から B への 500 万円の交付が贈与でなく,期間の定めのない消
費貸借としてなされた場合,結論は変わるか。
(3) A は,⑤賭博資金として 500 万円を B に貸し付けるとともに,⑥賭博場として甲不
動産を B に賃貸した。A は 90 条違反の契約と認め,高額の利息と賃料の請求を断念し,B
に対して,交付済みの元金 500 万円と甲不動産を不当利得として返還するよう求めること
ができるか。
(4) ⑦A は年利 500%,期間 1 年で 500 万円を B に貸し付けた。A は利息制限法違反の
契約と認め,B に対して,元金と利息制限法所定の利息の支払を求めることができるか。
⑧500 万円の貸付けが年利 50%,期間 1 年の条件の場合,結論は変わるか。
法学教室 429 号
演習・問題文
商法
福島洋尚(早稲田大学教授)
次の事実を前提に,後記の(1)(2)について,それぞれ独立の問題として解答しなさい。
甲社は不動産の販売・リゾート開発等を目的とする株式会社であり,種類株式発行会社
ではなく,公開会社ではあるが上場会社ではない。甲社の発行済株式総数は,1 万株であ
り,資本金の額は 5 億円であり,単元株制度は利用していない。甲社においては,創業時
の筆頭株主であった A が代表取締役を務め,またその友人でリゾート開発業に精通する B
が常務取締役であったが,経営難が続いた時期に,乙社が甲社の第三者割当増資による株
式を引き受け,甲社の筆頭株主となるとともに,乙社の代表取締役 C に加え,乙社から D,
E を甲社の取締役として派遣している。乙社の出資がなされて以降,甲社においては,リ
ゾート開発の方向性をめぐっての意見の食い違いがあり,取締役会内部では,創業時から
の経営者である A,B(以下,「A ら」という)と,乙社から派遣された取締役 C,D,E
との間に深刻な対立が見られるようになった。
甲社では,平成 28 年 6 月 24 日に予定されている定時株主総会(以下,「本件総会」と
いう)を開催するため,取締役会が招集・開催されたところ,同取締役会では,A が代表
取締役から解職されるとともに,C を代表取締役に選定した後,甲社の株式について,平
成 28 年 7 月 19 日を効力発生日として,2000 株を 1 株の割合で併合する株式の併合を本件
総会の議題・議案(以下,「本件議案」という)とすることを決議した。
本件総会の招集当時,乙社は,甲社の株式を 6000 株保有し,A は 1500 株,B は 1000
株を保有していた。また甲社の創業時からの株主であって,かつては甲社の取締役であっ
た F が 800 株を保有しているほか,その他の甲社株式は取引先が保有している。乙社は F
から 800 株を譲り受けることを予定していたが,F が病床に伏してしまったため本件総会
の招集時までに譲り受けることができず,C は F に無断で本件総会での議決権代理行使に
かかる乙社への委任状を偽造した。
本件総会では,F 以外の株主全員が出席し,乙社以外の株主が反対する中,乙社が F の
議決権をも行使することにより本件議案を原案通り承認する決議をした(以下,「本件総
会決議」という)。その後,A らが F と面会することにより,委任状の偽造が発覚した。
(1) 本件総会決議が成立し,株式の併合の効力が発生することにより,A らが会社法上
どのように取り扱われるのか検討しなさい。
(2) A らが取り得る会社法上の措置を検討しなさい。
法学教室 429 号
演習・問題文
民事訴訟法
伊東俊明(岡山大学教授)
以下の各問における訴えの適法性について,最大判昭和 56・12・16 民集 35 巻 10 号 1369
頁(民訴法百選〔第 5 版〕22 事件)(以下,「昭和 56 年最判」という)が示した考え方
を前提として,検討しなさい。
(問 1) 賃貸借契約継続中に提起された敷金返還を求める訴え。
(問 2) 土地の不法占有者に対する明渡義務の完了までの賃料相当額の損害金の支払
を求める訴え。
法学教室 429 号
演習・問題文
刑法
星
周一郎(首都大学東京教授)
2K のアパートの一室に,娘 A(10 歳)と 2 人で暮らしていた母親 X は,自らの将来を
悲観して,A を殺害して自分も自殺しようと考えた。そして,A が就寝中の 6 月 20 日午前
3 時ころ,普段から A と自分とが就寝する部屋の窓ガラスや間仕切りに目張りをするなど
して,室内にあったガスコンロを開放して,都市ガス(天然ガス)を室内に充満させて,
ガス中毒により自殺しようとした。この天然ガスは,実際には一酸化炭素が含まれていな
いため,これを吸引しても人が中毒死することはなかったが,X は,ガス中毒死できると
考えていた。
ところが,午前 3 時 40 分ころ,部屋に充満したガスで息苦しくなった X は,このまま
ではガスの臭いで A が目を覚ますのではないかと考えた。そこで,A を包丁で刺して殺し
てから,あらためてガス自殺をしようと考え,隣室から刃渡り約 15cm の出刃包丁を持っ
てきた。そして,就寝中の A の左胸部を 1 回突き刺した。そして,X 自身もその出刃包丁
で,自らの左胸部や右頸部を切って自殺を図り,A の足もとで倒れ,失神した。
X は,しばらく意識を失っていたが,さらに充満したガスで息苦しくなり,目を覚まし
た。そうすると,同じころに,目を覚ましていた A が,息苦しそうに「お母さん,助けて」
と言ったことから,急に A のことがかわいそうになり,ガス中毒死する前に A を助け出そ
うという気持ちになった。そこで X は,A を玄関から室外に引きずり出し,アパートの通
路から道路に面したところまで A を引きずって行ったが,X 自らがけがをしていることも
あり,その場で意識を失って A と共に倒れ込んだ。
X らが倒れ込んだアパートの入り口付近の道路は,夜間の人通りのほとんどない住宅街
に位置していたが,午前 3 時 55 分ころ,付近を偶然通りかかった通行人 B が X と A を発
見して 110 番通報したことから,A は近隣の総合病院に収容され,緊急手術を受けた。A
の胸部の刺創は致命傷となりうるものであったが,心臓や大動脈からわずか数 mm ずれて
いたため,A は一命をとりとめた。
X の罪責について述べなさい(放火罪等の点は除く)。
法学教室 429 号
演習・問題文
刑事訴訟法
加藤克佳(名城大学教授)
6 月 1 日午後 11 時ころ,居酒屋 S 店の店主甲から 110 番通報が入った。その内容は,店
内で客同士が口論の末に暴力沙汰となり,店の備品等を損壊しているというものであった。
警察本部からの指令を受け,最寄りの警察署から警察官 K らが出動し,午後 11 時 10 分こ
ろ S に到着した。この時,店内には,甲,従業員乙のほかに客 V らがおり,椅子が倒れグ
ラス等が床に散乱していた。また,V は,顔面から出血し意識朦朧としてソファに横たわ
っていた。K らが,甲,乙から事情を聞いたところ,別の客が V と口論になり,V の顔面
を手拳で殴打したうえ,店の備品等を壊して店外へ走り去ったとのことであった。
その客が店外へ出てさほど経っていないということだったので,K らは,接客した乙を
伴って,付近でその客を捜すこととした。午後 11 時 30 分ころ,S 店から約 300m 離れた
場所に設置された自動販売機で飲料水を購入しようとしている男 A を発見した。乙が,
「あ
の男が V を殴って逃げた客かもしれません」と言ったので,K は,職務質問のため A を呼
び止めた。K は,A から若干の酒臭を感じたが,手拳の傷跡や着衣の乱れ等は認められな
かった。K が A に「先ほどまで,S 店にいたのではないですか」と尋ねたところ,A は,
「いや,そんな店は知らないな」と答えた。K が,乙に「この人が犯人に間違いないです
か」と確認すると,乙は,「絶対とは言えませんが,間違いないように思います」と答え
た。そこで,K は,A に警察署への同行を求めた。しかし,A がこれを拒否しその場から
立ち去ろうとしたため,K は,傷害,器物損壊の被疑事実で A を無令状で逮捕した。警察
署での取調べに対し,A は,傷害等の事実を認めた。K は所定の時間内に事件を検察官 P
に送致し,P は A の勾留を裁判官 J に請求した。
K による逮捕の適法性について論ぜよ。