法学教室 414 号 演習・問題文 憲法 君塚正臣(横浜国立大学教授) 自由と平等と議会制民主主義は鼎立できるか。例を挙げて考えなさい。 法学教室 414 号 演習・問題文 行政法 野口貴公美(中央大学教授) 出入国管理及び難民認定法(以下「法」)には,退去強制という仕組みが定められてい る。退去強制とは,退去強制事由(法 24 条各号)に該当する外国人を強制的に日本から退 去させる措置である。退去強制事由該当性は,①入国審査官の認定(法 47 条),②特別審 理官の判定(法 48 条),③法務大臣(または,法務大臣から権限の委任を受けた入国管理 局長,以下「法務大臣等」)の裁決(法 49 条)という 3 段階の行為を経て決定される。な お,法には,法務大臣等が裁決をするに当たって,異議の申出に理由がないと認める場合 でも,当該外国人について「その他法務大臣が特別に在留を許可すべき事情があると認め るとき」はその在留を特別に許可することができるとの規定がある(法 50 条,「在留特別 許可」)。この在留特別許可処分は,法務大臣等が恩恵的処置として日本に在留すること を特別に許可するものであるから,在留特別許可処分を求める権利(申請権)は外国人に は与えられていないとするのが(大多数の)裁判例である。 X は,入国審査官から法 24 条 1 号(不法入国)に該当する旨の認定を受け,特別審理官 の判定を受けた。さらに,異議の申出に対し,法務大臣から異議の申出に理由はない旨の 裁決を受け,その後入管主任審査官から退去強制令書発付処分を受けた。X は,日本に在 留し続けたいと考え,裁判上の救済を求めることを検討している。 1 X は,「裁決の際に,法務大臣は X に対し在留特別許可処分をすべきであったのに その判断をしなかったことは違法」と考えている。この場合,X にはどのような訴えの提 起(抗告訴訟に限る)が考えられるか。その際の留意点も含めて検討しなさい(「在留特 別許可処分に法定申請権はない」との理解を前提とすること)。 2 上記 1 の訴えについては請求を棄却するとの判決が確定した。X は今度は,「上記裁 決後に新たな事情が生じた」ことを理由として,なお,裁判上の救済を求めることはでき ないかと考えている(法律上,法務大臣等による後発的事情変更の考慮等に関する規定は 置かれていない)。この場合,X にはどのような訴えの提起(抗告訴訟に限る)が考えら れるか,検討しなさい。 法学教室 414 号 演習・問題文 民法 小山泰史(上智大学教授) A(個人)は,マンション 2 棟(甲・乙)の建築を計画してその設計を Y に依頼し,建 築請負契約を B と締結した。建物の設計および建築請負契約締結にあたって,A・B・Y は,2 棟とも違法な建物の建築を合意し,建築確認申請用の図面(確認図面)のほかに, 違法建物の建築工事の施工用の図面(実施図面)を用意した上で,確認図面に基づき建築 確認申請をして確認済証の交付を受け,いったんは建築基準法等の法令の規定に適合した 建物を建築して検査済証の交付も受けた後に,実施図面に従って違法建物の建築工事を施 工することを計画した(以下,本件「本工事」という)。なお,資金調達の都合から,ま ず甲棟から建築に着手し,これを 1 棟丸ごと売却して得た資金を元手に,乙棟の建設を行 うことが予定されていた(以下,甲・乙棟の建築請負契約を「本件請負契約」という)。 B は甲棟を違法建築と知りながら建設して完成させ,A は同建物を投資用物件として土 地付きで X に販売した。甲棟の X への売却後,その売却代金を原資として乙棟の建設が従 前の合意の通り進められた。しかし,その建設途上で建設中の乙棟について違法建築であ ることが周辺住民と地元市役所の知るところとなった。確認図面と異なる内容の工事の施 工につき,市役所の指示を受けて是正計画書が作成され,これに従い,B は建設済みの違 法建築部分を是正する工事をせざるを得なくなった。また,周辺住民からの苦情にも対応 することとなった。結果として,B は,是正計画書に従った是正工事を含む追加変更工事 (以下,本件「追加変更工事」という)を施工し,検査済証の交付を受けた上,乙棟を A に引き渡した。A は,B に対し,甲・乙棟の工事代金として合計 7000 万円を支払ったが, その余の支払いをしていない。B は,A に対して,本件請負契約に基づく甲・乙棟の本工 事,および特に乙棟に関する追加変更工事の残代金 2500 万円余の支払いを求めた。B の A に対するこれらの請求は認められるか。 法学教室 414 号 演習・問題文 商法 高田晴仁(慶應義塾大学教授) 証券取引所に株式を上場する甲株式会社(取締役会設置会社であるが,委員会設置会社 ではなく,種類株式発行会社ではない)の株式について投資ファンドの乙株式会社が公開 買付を行い,甲社の発行済株式総数の 70%を取得した。乙社が甲社の株式を 100%取得す る方法としてどのようなものが考えられるか。乙社が甲社の株式を 90%以上取得できた場 合はどうか。 古くから甲社の発行済株式の 0.1%を保有する丙は,乙社のとる各株式取得方法に対し てどのような手段をとりうるか。 法学教室 414 号 演習・問題文 民事訴訟法 酒井 一(名古屋大学教授) X は,昨年の 2 月ころ,その名誉や信用を毀損するインターネット上の書込みを発見し, それが大学の同級生 Y の仕業だと突き止めた。Y の書込みによって,3 年前に始めた通信 販売事業にも多大な影響を受けた。X は,Y に連絡をし,書込みの削除を含めた対応と謝 罪および最低限の補償を求めた。最初のうちは,申し訳なさそうな事を言っていた Y であ ったが,誠意ある対応に出ることはなかった。X は,よほど嫌われていたのであろうと思 い,失われた信用を頑張って取り戻すほかないと諦めることにした。ところが,先日,裁 判所から X の自宅を差し押さえるとの書類が届いた。驚いた X が事情を調査したところ, 次のような事実が判明した。 Y は,昨年の 11 月に,通信販売事業に窮した X が,妻に対する言い訳のため,Y によ る書込みによって売上げが減少したと Y に言いがかりをつけ,また,妻と別れるために愛 人に関する書込みを自作自演し,あげくに Y に対して,謝罪や損害賠償と称して不当な金 銭請求をしたとして,X を被告として,損害賠償債務の不存在確認と不法行為に基づく損 害賠償を求める訴えを提起した。訴状は,X の自宅に隣接する X の事務所で働いていた Z が受領していた。Z が訴状を X に渡さなかったので,X は,Y の提訴の事実すら知らず, いわゆる欠席判決で敗訴してしまった。先月,その判決が確定したとして,強制執行が開 始されたようである。Z が訴状を X に渡さなかったのは,X が Z の解雇を考えていると Y に騙されたことが理由のようである。Y は,X の事業の成功や X の妻の美貌を妬んで,大 学で学んだ法律の知識を悪用したらしい。 X は,自宅の差押えを放置するわけにもいかない。 (1) X は,ただちに請求異議訴訟を提起することはできるか。また,不当訴訟であるとし て,Y に対して,損害賠償を求めることは可能か。 X が再審訴訟を提起した。再審の開始が決定され,実質的な審理が始まった。 (2) Y は,再審訴訟が提起された直後に,インターネットへの書込みをしたことを認め, X 方に赴いて謝罪をし,Y の母親から借り入れた 200 万円を和解金として支払い,X に は損害賠償債権を放棄してもらったと主張した。裁判所は,この主張を取り上げること はできるか。 (3) X・Y 間で和解が成立しそうである。裁判所は,どのように手続を処理することにな るか。 法学教室 414 号 演習・問題文 刑法 照沼亮介(上智大学教授) 弁護士 X は,犬猿の仲である弁護士 A が X の自宅兼事務所を襲い,X を負傷させよう としていることを事前に察知し,襲撃に備えて金属バットなどを準備しておいたところ, 予想通り A が来襲し,近くにいた X の部下である事務員 Y に対して持参した金属バット で殴りかかってきた。Y は事情を知らなかったため驚いたが,X が Y に対し,近くに立て かけてあった金属バットを指差して「あれを使うといい」と告げたところ,Y は素早くバ ットを手にし,自身と X を守るため,A の上腕部や背部などを殴りつけ,傷害を負わせて 退散させた。 X は翌日,Y に対し「やられた時は八つ当たり……じゃなくて 100 倍返しだ。奴を殺し てしまおう」と指示し,上記バットを持たせて A の自宅を襲撃させた。前日傷害を負った ため満足に動けない A に対し,Y は未必的な殺意をもってバットで殴りつけ,さらに傷害 を負わせた。進退窮まった A を見て,Y はスマートフォンで自宅にいる X に電話をかけ, 状況を報告したところ,X は Y に対して「とどめを刺せ」と指示した。しかし,A が苦し い息の下,土下座し,「命だけは助けてくれ」と懇願するのを見た Y は,A を哀れに思い, もう中止するよう電話で X の説得を試みた。しかし X が納得しなかったため,Y は通話を 打ち切り,119 番通報し,A に止血等の措置を施して,臨場した救急隊員にこれまでの事 情を説明した上で A を引き渡し,治療を受けさせた。このため A の生命に別条はなかった。 法学教室 414 号 演習・問題文 刑事訴訟法 池田公博(神戸大学教授) X は,覚醒剤の不法な使用を理由に起訴された。事件は公判前整理手続に付され,同手 続には X の弁護人 D が出席した。 同手続において担当検察官 P は,.X に覚醒剤を売ったという Y が検察官の面前でした供 述を録取した書面(以下,Y の供述録取書という),および,.X の自宅から押収された X の日記帳の取調べを請求し,D に対して,Y の供述録取書,および日記帳にかかる差押調 書を開示した(前者は刑訴法 316 条の 14 第 1 号に基づくものであるのに対し,後者は任意 開示である)。 これに対して D は,検察官請求証拠に対する意見の表明(刑訴 316 条の 16 第 1 項)の 段階に至り,上記 2 通の書証について刑訴法 326 条の同意を行うか否かについて,以下の ように考えている。 (1) Y の供述録取書によれば,その供述のところどころに,真実と虚偽を巧みに織り交 ぜて X に不当に責任を転嫁しているとみられるものがある。そのため不同意とすることも 考えられるが,その場合に Y の証人尋問をすることとなると,反対尋問が奏功して書面と は異なる供述を引き出した場合に,刑訴法 321 条 1 項 2 号後段により供述録取書が取り調 べられてしまい,かえって裁判官に悪い印象が残るおそれがある。それよりも,同意して 供述録取書を取り調べたのちに Y を証人として尋問し,Y の信用性のなさを強調するのが 得策だろう。そこで,同意した上でその後に反対尋問を行う機会を留保したい。 (2) X の日記帳には X にとって有利な事情も不利な事情も書かれている。不同意として も,不利な事情は任意性に疑いがないとして証拠能力が認められるだろうから,有利な事 情を公判廷に顕出させるためには同意しておくのが簡便だろう。ただ,X の日記帳を押収 した手続には問題があり,そのことを理由に証拠能力を否定すべきと主張する可能性につ いては留保したい。 以上を踏まえ,D が上記 2 通の書証を証拠とすることに同意しつつ,Y について証人尋 問を行う機会を得ること,また X の日記帳の獲得手続の違法を理由とする証拠排除の主張 を留保することについて,それぞれの可否を検討しなさい。なお,D は同意するに当たり, X の意思を確かめているものとする。
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