論文紹介

論文紹介
8Kスーパーハイビジョン信号の100ギガビットイーサネット伝送における
クロック再生制御法の提案
電子情報通信学会論文誌B,Vol.J98-B,No.10,pp.1127-1136 (2015)
川本潤一郎,中戸川剛,小山田公之
放送局の番組制作においては,劣化の無い映像素材信号を低遅延で伝送することが要求されるため,カメラ,モニターなどの放送機器間の接続に
は非圧縮信号が用いられる。一方,IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers:米国電気電子学会)において100ギガビットイーサネッ
トの標準規格化が完了したことで,イーサネット技術を用いたさらなる高速伝送の実用化が始まりつつあり,普及に伴う通信デバイスの低廉化が期
待されている。そこで,放送局において非圧縮の8Kスーパーハイビジョン(8K)映像信号を共有するために,イーサネット技術を用いた伝送システム
の研究を進めている。本論文では,受信側で再生映像クロックを制御する方法を提案し,提案手法を実装した非圧縮8K信号の100ギガビットイーサ
ネット伝送装置の構成について述べる。実験の結果,伝送遅延時間が459μsで,再生映像クロックは周波数偏差が±1ppm以下かつジッター規格値
を満足することを確認した。本提案手法により,非圧縮8K映像信号を,狭いイーサネット伝送帯域で効率的に,低遅延かつ安定して伝送可能となり,
経済的な局内放送設備の構築への応用が期待できる。
21GHz帯放送衛星搭載アンテナ用アレー給電部の試作
映像情報メディア学会誌,Vol.69,No.12,pp.J338~ J343 (2015)
中澤 進,長坂正史,亀井 雅,田中祥次,斉藤知弘
スーパーハイビジョンや立体映像などの将来の放送コンテンツは,データ量が増大することが予想されるため,大量のデータから成る信号を放送する
ための伝送路として,当所では,21GHz帯を用いた放送衛星の研究開発を進めている。21GHz帯を用いた放送衛星は,アレー状に並べた給電素子
にそれぞれ増幅器を接続し,各素子の出力を空間で合成することにより,広帯域で高出力とすることができる。このような中継器構成とすることによ
り,データ量が大きな放送信号を伝送することが可能となる。さらに,限られた衛星電力を有効に利用して降雨減衰を補償するために,衛星からの
放射パターンを制御し,降雨地域を通常より強い電力で照射することができるアレー給電反射鏡アンテナを提案している。本論文では,21GHz帯放
送衛星搭載アンテナ用として試作したアレー給電部の電気性能を評価し,励振位相を制御することで所望の放射パターンを形成した例を示す。また,
給電部の制御誤差が放射パターンに与える影響についての評価結果を示す。
超解像技術を用いた実時間超高精細映像符号化システムの開発
映像情報メディア学会誌,Vol.70,No.1,pp.J22-J28 (2016)
松尾康孝,岩村俊輔,井口和久,境田慎一
膨大な情報量を持つ8Kスーパーハイビジョン映像や4K映像を超高圧縮符号化するために,従来の映像符号化方式に超解像技術を組み合せた超解
像復元型映像符号化方式を開発し,本方式を装置に実装して実時間映像符号化実験を行った。本方式の送信側では,ブロック歪(ひずみ)などの符
号化劣化を抑制するために,入力画像を縮小して符号化する。受信側では,鮮鋭な出力画像を得るために,復号画像を元のサイズに超解像復元する。
さらに受信側の超解像復元を高精度かつ高確度に行うために,送信側で局部復号画像を元のサイズに超解像復元した後,入力画像を基準に最適な
超解像パラメーターを選択し,これを受信側に超解像補助情報として送信して復号画像の超解像復元に使用する。本論文では,空間方向および時
空間方向の超解像復元型映像符号化技術を開発して装置に実装し,AVC(Advanced Video Coding)/ H.264およびHEVC(High Efficiency
Video Coding)/ H.265コーデックと組み合わせて超高精細映像の実時間超高圧縮伝送を実施した結果について述べる。
A 1.7-in, 33-Mpixel, 120-frames/s CMOS Image Sensor with Depletion-Mode
MOS Capacitor-Based 14-b Two-Stage Cyclic A/D Converters
IEEE Transactions on Electron Devices,Vol.63,No.1,pp.153-161 (2016)
安江俊夫,北村和也,渡部俊久,島本 洋,小杉智彦※1,渡辺恭志※1 ※3,青山 聡※1,物井 誠※2,Zhiheng Wei※3,川人祥二※1 ※3
※1(株)ブルックマン テクノロジ,※2(株)東芝,※3 静岡大学
8Kスーパーハイビジョンカメラの高 画 質化を目標として, 画 素 数3,300万, フレーム周 波 数120HzのCMOS(Complementary Metal Oxide
Semiconductor:相補型金属酸化膜半導体)イメージセンサーの研究を進めている。今回,高品質な映像表現を可能とする,イメージセンサーの高
感度化と,AD(Analog to Digital)変換階調の14ビット化を達成した。微細な製造プロセスを使用することにより,フォトダイオード(光検出部)へ
の光の集光率を改善するとともに,光によって発生する電荷の電圧への変換倍率を向上させ,単位面積,単位照度当たりの感度を従来の2.5倍に向
上させた。AD変換回路は面積の拡大を抑えながら14ビットの変換を可能とするために,単位面積当たりの容量の大きなMOS(金属酸化膜)キャパ
シターを新たに使用した。MOSキャパシターは入力電圧に依存して容量が変動することから,AD変換の精度を悪化させるおそれがあるが,AD変
換回路中に容量分割型のアナログ電圧生成部を用いることによりDNL(Differential Non-Linearity:微分非直線性)の悪化を防ぎ,14ビットの精度
を実現した。
NHK技研 R&D ■ No.157 2016.5
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