スポーツ生命科学系

スポーツ生命科学系
よ
たに
けん
ご
氏 名
與
谷 謙 吾 講師
主な研究テーマ
□運動誘発電位潜時に関する競技経験、並びに性差の検討
平成26年度の研究内容とその成果
非競技者群(F-C)が10名の合計40名で
近年、医療だけでなくスポーツ科学にお
あり、全ての被験者は、椅子座位にて安静
いても幅広く利用されている経頭蓋磁気刺
時に左M1へ磁気刺激を与え、右第一背側
激装置は、痛みを伴わずに頭頂から脳へ刺
骨間筋よりMEP潜時を計測しました。加
激を与えることができ、それにより非侵襲
えて、被験者の体格指標として、身長、並
的に神経系の活動領域やそのレベル(興奮
びに体重を計測しました。
性)の状態を評価することが可能になって
その結果、まず体格指標として、身長
います。その際、より一般的に記録される
は各群間(競技経験×性差)で有意差は
評価指標に運動誘発電位(Motor evoked
みられませんでしたが、体重では女性群
potential: MEP)が挙げられ、その潜時(刺
(F-AとF-C)よりも男性群(M-
激から電位発生までの時間)は、一次運動
AとM-C)が有意に高い値を示しまし
野(M1)から目的の骨格筋に至るまでの
た(P<0.01)。また、MEP潜時につい
下行性の伝導時間を反映します。この指標
ては各群間で有意差はみられませんでし
は、加齢や神経疾患等の影響を受けること
た(図1)。次に、MEP潜時と体格指標と
が明らかにされていますが、その一方で、
の関連性について検討したところ、MEP
長期的なトレーニングに対する影響を考慮
潜時は各群ともに身長(r=0.63-0.72,
した知見は明らかではありません。そこで
P<0.05)との間でのみ有意な正の相関関
本研究は、健常な若年者を対象に、MEP
係を示しました(表1)。以上の結果より、
潜時における競技経験の有無や性差の影響
健常な若年者において、MEP潜時は、競
を検討しました。
技経験の有無や性差ではなく体格の長さに
方法として、被験者は男性の競技者群(M
影響を受けることが示唆されました。
-A)が10名(競技歴:13年以上)と非競
技者群(M-C)が10名、女性の競技者群
(F-A)が10名(競技歴:13年以上)と
表1 各被験者群におけるMEP潜時と体格指標間の相関係数、男性競技者(M-A)群、 男性非
競技者(M-C)群、女性競技者(F-A)群、女性非競技者(F-C)群
身長
MEP潜時
体重
M-A群;r=0.67,P<0.05
M-A群;r=0.42,n .s.
F-A群;r=0.63,P<0.05
F-A群;r=-0.23,n. s.
M-C群;r=0.72,P<0.05
M-C群;r=0.41,n. s.
F-C群;r=0.68,P<0.05
F-C群;r=-0.01,n. s.
30
25
FC
MC
10
FA
15
MA
MEP
20
5
0
図1 各被験者群におけるMEP潜時の比較。男性競技者(M-A)群、男性非競技者(M-C)群、
女性競技者(F-A)群、女性非競技者(F-C)群。
これからの研究の展望
今回得られた時間指標は、身体の反応パ
フォーマンス(反応時間)にも影響するも
のです。一般的に、反応時間は、非競技者
よりも競技者の方が短いことが明らかに
なっています。そのため、上記の結果を含
めて考慮すると、競技者がトレーニングに
よって得られる反応時間の短縮効果は、よ
り上位中枢に対して影響するのでしょう。
今後、更にデータを蓄積し、反応パフォー
マンス向上について考えたいと思います。
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