ハイ・パフォーマンス・コンピューティング

油層シミュレーションの並列処理に活用する
ハイ・パフォーマンス・コンピューティング
この記事では、Red Hat® Linux® オペレーティング・システムを稼動するインテル® XeonTM プロセッ
サ・ベースのDellTM PowerEdgeTM サーバ・クラスタ上で、演算処理が集中的に発生するベンチマー
クを実施したときのテスト結果をご報告します。各種の要因が標準ベースのハイ・パフォーマンス・コンピ
ューティング(HPC)クラスタに及ぼす影響を調べるため、ネットワーク・インターコネクトの種類、テスト・
ケースのサイズ、構成を様々に変えながらパラレル油層シミュレータのスケーラビリティを検証しました。プ
ロセッサ構成の違いについても比較するため、各テストとも、シングル・プロセッサ・ノードとデュアル・プロ
セッサ・ノードを対象に計2回ずつ実施しています。
作成:KAMY SEPEHRNOORI, PH.D.、BARIS GULER、TAU LENG, PH.D.、VICTOR MASHAYEKHI, PH.D.、
REZA ROOHOLAMINI, PH.D
油層シミュレーションには、詳細な地質モデルや物理モデルが必
要となり、多大な演算処理が発生します。かつて、この種の演算
処理は、スーパーコンピュータ、メインフレーム、または強力なワーク
ステーション上で実行されていました。現在は、クラスタと呼ばれる
疎結合のパラレル・システムが油層シミュレーションの実行に活用
され、研究が進められています。これが可能になったのも、標準化
されたプロセッサ、メモリ、I/Oサブシステム、ストレージ、ネットワー
ク・インターコネクトなど、昨今のハードウェア設計が飛躍的な進歩
®
を遂げたためです。ソフトウェア開発者は、Linux オペレーティング
システム(OS)、新しいコンパイラおよび演算ライブラリ、MPI
(Message Passing Interface)ミドルウェア仕様などの導入を
急速に進めており、これもクラスタの活用範囲を広げるのに一役
買っています。このように各方面における技術の進歩によって、標
準ベースのクラスタは、メーカー独自仕様のハイ・パフォーマンス・コ
ンピューティング(HPC)に代わる油層シミュレーション用のシステム
として浮上してきました。
この記事は、テキサス大学オースチン校附属の石油地質システ
ム工学研究所と、デルのスケーラブル・システム・グループが取り組
んでいる共同研究について、前回のご報告に引き続き、最新の情
1
報をお伝えするものです 。前回の調査を踏まえ、小規模なシミュ
レーション・ケースと大規模なシミュレーション・ケースを開発し、各
種のネットワーク・インターコネクトで構成した各種のクラスタをベン
チマークしました。本報告書の目的は、演算問題のサイズがシミュ
レータの性能に及ぼす影響を調べ、各シミュレーション・ケースにお
いて最適と思われるネットワーク接続を判断することにあります。ま
た、対称型マルチプロセッシング(SMP)クラスタの性能を分析する
ため、これらのシミュレーション・テストはシングル・プロセッサ・ノード
と、デュアル・プロセッサ・ノードの両方で実施しました。
油層シミュレーションのご紹介
様々な石油事業において、採油量を予測することは、油層管理
上、非常に重要です。二酸化炭素、窒素、界面活性剤、高分
子化合物などの添加剤を注入して石油の回収量を増やすこと
1
テキサス大学オースチン校附属の石油地質システム工学研究所とデルの共著、「Parallel Simulation of Petroleum Reservoirs on HighPerformance Clusters」をご参照ください。2001年第2号の『Dell Power Solutions』誌に掲載されています。
www.dell.com/powersolutions
Power Solutions 1
HIGH-PERFORMANCE COMPUTING
を、IOR(Improved Oil Recovery、採油増進法)と呼びます。研究
者は、様々なIORプロセスに取り組む一連の油層シミュレーションを行う
ことにより、実際の採掘現場で機材を構築する前に、各工程に関わる
リスクを評価し、最適と思われる採油手段を決定することができます。
油層シミュレータは、油層内で発生する物理プロセスを表した連立
非線形偏微分方程式と、補助方程式から成ります。支配方程式とし
て使用される偏微分方程式は、いくつかの数値解析法を用いて解か
れます。シミュレータとして最も一般的に使用されるのは、黒油シミュレ
ータと組成シミュレータです。黒油シミュレータは、水、石油、ガスの各フ
ェーズを使用して、油層の流量をモデル化します。一方、組成シミュレー
タは、油層内で発生する物理プロセスをモデル化するため、様々な化
学種を用いたフェーズを使用します。組成シミュレータは、特性がまったく
異なる液体を添加するケースや、または、液体の混合によって別の石
油製品を得るケースをシミュレーションするのに必要です。一般に、組成
シミュレータの方が複雑で、多大なメモリ量とCPUの処理能力を必要と
するため、黒油シミュレータの方が、組成シミュレータより頻繁に使われ
てきました。
しかし、この10年間に、メモリとCPUのテクノロジが飛躍的な進化を
遂げたので、組成シミュレーションを実施する研究者も増えてきました。
測定方法も進化しており、油層の特性を知るのに、より多くのデータが
利用できるようになっています。現在のシミュレーションは、数十万ものセ
ルや数百万もの未知数が必要ですが、今後、シミュレーションが高度に
なるにつれ、将来は数百万ものセルとそれ以上の未知数が必要になる
はずです。
パラレル油層シミュレータは、これまで以上に大規模で現実的な問
題を解く潜在能力があります。テキサス大学オースチン校の研究者達
は、浸透媒体への流量について、精密で詳細なシミュレーションが高速
かつ効率的に実施できるパラレル・コンピュータ用に、新世代のプログラ
ムを開発してきました。このような研究分野には、並列処理環境で、複
雑な物理化学モデルと正確な数値解析法を新規に開発することも含
まれます。
シミュレータの内容
この新規開発された陰解法を用いるパラレル組成シミュレータは、
GPAS(General Purpose Adaptive Simulator)と呼ばれ、浸透媒
体内の流量をモデル化する支配方程式が記述されています。この支配
方程式(偏微分方程式)は、連続する領域を小さな複数のセルに分
割する、差分法と呼ばれる解析法で解きます。セル数を増やせば、より
精度の高い結果が得られますが、処理時間も増えてしまいます。また、
完全陰解法は、非線形の連立方程式で組み立てられており、これら
は、ニュートン法を使用して解きます。非線形方程式の数値解析に
様々な
石油事業において、
採油量を
予測することは、
は、大規模なスパース(疎)線形連立
方程式が必要です。このような線形連
立方程式は、PETSc(Portable
Extensible Toolkit for Scientific
Computation)から提供されるソルバー
2
を使用して解析します 。
テキサス大学オースチン校の研究者
達は、パラレル・プロセッシングに関する
複雑なタスクを処理するため、IPARS
非常に重要です。
(Integrated Parallel Accurate
Reservoir Simulator)と呼ばれるフレ
ームワークを開発しました3。その目的は、物理モデルの開発工程をパラ
レル・プロセッシングから切り離すことにあります。このシミュレータ・フレー
ムワークと物理モデル間の通信は、IPARS内で提供される複数のフック
を介して行われます。これらのフックは、FORTRANのサブルーチン・コー
ルで構成されており、物理モデルを処理する際、プロセッサ間で取り交
わされるすべての通信は、これらのルーチン内で実行されます。物理モ
デルの開発者は、これらのコールをプログラムに組み込む込むことで、関
連するタスクが実行されるようにします。IPARSは、入出力、メモリ管
理、ドメイン分割を制御するほか、プロセッサ間のメッセージ転送も実行
してオーバーラップした領域を更新します。
油層管理上、
コンピューティング環境の構築
今回の調査では、64台のDell PowerEdge 2650サーバでクラスタを
形成し、インターコネクトにそれぞれFast Ethernet、Gigabit
Ethernet、Myricom Myrinetを使ってコンピューティング環境を構築し
®
ました。各PowerEdge 2650には、2基のインテル Xeonプロセッサ
2.4 GHz、512 KBの2次(L2)キャッシュ、2 GBのDDR(Double
Data Rate)RAM、稼動速度400 MHzのフロントサイド・バスを搭載し
ています。
PowerEdge 2650は、PCI-X(Peripheral Component
Interconnect Extended)スロットを搭載しており、Myrinetネットワー
ク・インタフェース・カード(NIC)で発生する最大のネットワーク・トラフィッ
ク量をサポートすることができます。クラスタにインストールしたオペレーティ
®
ング・システムは、Red Hat Linux 7.3です(カーネル・バージョン:
®
2.4.18-4smp)。GPASは、PGI CDK™(Cluster Development
Kit)から提供されるC/C++コンパイラおよびFORTRAN 77/90コンパイ
ラと、PETScライブラリを使ってコンパイルしました。図1は、今回採用し
たコンピューティング環境のアーキテクチャ階層を示しています。
シミュレーション・ケース
同じクラスタ上で異なるインターコネクトを対象にGPASのスケーラビリテ
ィを評価するため、2つのシミュレーション・ケースを開発しました。1つ目
2
1997年Birkhauser Boston社刊、『Modern Software Tools for Scientific Computing』(E. Arge、A.M. Bruaset、H.P. Langtangen監修)の163∼202
ページ、「Efficient management of parallelism in object-oriented numerical software libraries」(S. Balay、W.D. Gropp、L.C. McInnes、B.F. Smith
著)
3
1997年6月にテキサス州サンアントニオで開催されたシンポジウム、「1997 SPE Reservoir Simulation Symposium」での発表資料、『A new generation
EOS compositional reservoir simulation: Part I. Formulation and discretization(文書番号:SPE 37979)』(P. Wang、I. Yotov、M. Wheeler、T.
Arbogast、C. Dawson、M. Parashar、K. Sepehrnoori著)、および、1999年2月にテキサス州ヒューストンで開催されたシンポジウム、「1999 SPE Reservoir
Simulation Symposium」での発表資料、『A fully implicit parallel EOS compositional simulator for large-scale reservoir simulation(文書番号:SPE
51885)』(P. Wang、S. Balay、K. Sepehrnoori、J. Wheeler、J. Abate、B. Smith、G.A. Pope著)
4
®
この表記は、Gigabit Ethernetの規格を定めたIEEE 802.3ab標準に準拠していることを示すのであって、実際に1Gbpsで稼動することを保証するものではありま
せん。高速伝送を実現するには、Gigabit Ethernet対応のサーバとネットワーク・インフラストラクチャに接続する必要があります。
2
Power Solutions
2003 年 11 月
HIGH-PERFORMANCE COMPUTING
ミドルウェア
OS
プロトコル
インターコネクト
プラットフォーム
PGI CDKコンパイラ
MPICH-TCP、MPICH-GM(v1.2.4)、PETSc(2.0∼22)
Red Hat Linux 7.3(カーネルバージョン:2.4.18-4smp)
性能のスピードアップ
コンパイラ
テキサス大学が開発したGPAS
実行時間(秒)
アプリケーション
TCP/IP(Ethernet用)、GM(Myrinet用)
Fast Ethernet、Gigabit Ethernet、Myrinet 2000
64ノードのDell PowerEdge 2650クラスタ
プロセッサ数
図2. シングル・プロセッサ・ノード上で小規模なケース(16x224x8)をテストした
ときの、シミュレータの実行時間とスピードアップ
図1. テスト環境のアーキテクチャ階層
は、小規模なシミュレーション・ケースで、16×224×8という3次元のグ
リッドを採用しており、約350 MBのメモリを使用します。このケースは、
28,672個のグリッド・ブロックから形成され、プロセス中、それぞれのタイ
ム・ステップごとに、229,376個の未知数を解く必要があります。合計で
10個のタイム・ステップを実施し、1つのタイム・ステップ(0.1∼20日の範
囲)につき、2∼5回のニュートン反復を実行します。最初のケースは、
100日間のガス注入(1つの注入用油田と1つの生産用油田)をシミュ
レーションしました。この油層は、浸透率と空隙率が均一な場所を想定
しています。
2つ目のシミュレーション・ケースは、1つ目のケースを基に、油層の規
模を大きくし、浸透率や空隙率を様々に変え、注入用油田と生産用
油田の数を増やしているため、複雑なケースとなっています。この大規
模な油層シミュレーションは、197,120個(77×256X10)のグリッド・ブ
ロックに分割し、各タイム・ステップで同時に150万個の未知数を解く必
要があります。このケースを実行するには、GPASに約1.7 GBのメモリ
が必要です。
性能の評価基準
パラレル・アプリケーションの処理効
率は、通常、「スピードアップ」と呼
ばれる指標で評価されます。本調
査の場合、N基のプロセッサを搭
載したクラスタのスピードアップは、
「スピードアップ = t1 / tN 」という式
で表されます。このとき、t1 は1基の
プロセッサを使ったときの実行時
間、tN はN 基のプロセッサを使った
ときの実行時間です。N 基のプロ
セッサでパラレル・シミュレーションを
実施する場合、最適なスピードア
ップは、Nとなります。つまり、N 基
のプロセッサを搭載したときは、N
倍高速にプログラムが実行できる
www.dell.com/powersolutions
今回の調査では、64台の
Dell PowerEdge 2650
サーバでクラスタを形成し、
インターコネクトにそれぞれ
Fast Ethernet、
Gigabit Ethernet、
Myricom Myrinetを
使って
コンピューティング環境を
構築しました。
状態が理想的です。しかし通常は、プロセッサ数が増えるにつれ、N 倍
からスピードアップが遠ざかっていきます。このように性能が伸び悩むの
は、プロセッサ間通信(メモリ競合とも呼びます)が増えたのが原因か、ま
たは、SMPマシンをノードに採用したクラスタでネットワーク競合が生じた
ことが原因で、時には、この両方が発生します。使用するプロセッサ数が
1基だけの場合、このようなオーバーヘッドは発生しません。場合によって
は、配慮に欠けるプログラムのせいで、アプリケーションが均一に分割さ
れず、性能が低下することもあります。
インターコネクト・テストの結果分析
今回の調査では、Fast Ethernet、Gigabit Ethernet、Myrinetという
3種類のインターコネクトをテストしました。テストは、2つのシミュレーショ
ン・ケース、すなわち小規模なケース(16×224×8)と大規模なケース
(77×256×10)の両方を実行し、異なるインターコネクトを採用したク
ラスタの性能をそれぞれ分析しました。最初のテストでは、コンピュート・
ノードあたり1基のプロセッサのみを搭載して実施しています。図2は、小
規模なケースを対象に、1ノードから32ノードに増やしたときの実行時間
(棒グラフ)とスピードアップ(折れ線グラフ)を示したものです。図中、左
側のY軸(縦)は実行時間(単位:秒)を、右側のY軸はシミュレータの
スピードアップ性能を示しています。図2からわかるとおり、このシミュレー
タは、レイテンシが低くバンド幅の広いMyrinetクラスタを使用したとき
に、最高の性能とスケーラビリティを達成しました。実際、Myrinetクラス
タは、シミュレーションのサイズに関わらず、ノード数を1台から32台に増
やしたとき、その台数に比例して性能を伸ばすことができています。これ
は、1台のノードより、利用できるキャッシュおよびメモリの合計量が増え
るからです。
クラスタに接続するノード数が少ない場合、レイテンシが大きくなりが
ちなFast EthernetやGigabit Ethernetインターコネクトでも、Myrinet
を採用したクラスタとほぼ同程度の性能が達成できました。しかし、ノー
ド数が増えるにつれ、プロセス間で交わされる通信量も増えるため、そ
の分、各ノードで実行される演算処理数が減ってきます。4ノード以
降、ノード数が増えるに従って、インターコネクトの種類による性能の差
が開いていきます。図2からわかるように、最も効率的なGigabit
Power Solutions 3
HIGH-PERFORMANCE COMPUTING
図3では大規模なシミュレーショ
ン・ケースの結果を示しています
が、この場合も同様の傾向が見ら
れます。しかし、性能の差は、小
規模なシミュレーション・ケースの場
合、4ノード以降で顕著になりまし
たが、この場合は16ノード以降で
開いてきます。これは、大規模なケ
ースの場合、演算処理に対する
通信処理の割合が小規模なケー
クラスタに接続する
ノード数が少ない場合、
レイテンシが大きくなりがちな
Fast Ethernetや
Gigabit Ethernet
インターコネクトでも、
Myrinetを採用したクラスタと
ほぼ同程度の性能が
達成できています。
スに比べて低いからです。シミュレータは、全インターコネクトとも、小規
模なケースより良好なスケーラビリティが発揮できています。Myrinetは、
64ノード構成で最高性能を達成しており、ノード数に比例してスピード
アップが直線的に伸びています。さらに、Fast EthernetとGigabit
Ethernetの両クラスタでも、32ノード以降、効率的に性能を向上させ
る余地があります。このように、油層シミュレーションの場合、インターコネ
クトが及ぼす影響は、状況によってその都度変わることがわかります。た
とえばシミュレーションの規模が大きければ、Fast Ethernetでも有効な
ソリューションとして採用できる場合があります。
実行時間(秒)
性能のスピードアップ
シングル・プロセッサおよびデュアル・プロセッサ・ノードの性能
今回の調査では、シミュレータの性能を、2つの異なる問題サイズと3種
類のインターコネクトでテストしただけでなく、ノードあたり1基のプロセッサ
を搭載した場合と、2基のプロセッサを搭載した場合とで、比較も行って
います。1台のノード上で2基のプロセッサを稼動させると、メモリやI/Oな
どのリソースをプロセッサ間で取り合います。特に、両方のプロセッサがメ
モリに同時にアクセスすると、共有メモリ・バス上で性能のボトルネックが
プロセッサ数
図3. シングル・プロセッサ・ノード上で大規模なケース(77x256x10)をテストし
たときの、シミュレータの実行時間とスピードアップ
4
Power Solutions
発生します。また、2つのプロセスから生成される通信トラフィックも、PCI
バスやNICなどのI/Oリソース上で、別途ボトルネックを発生させる可能
性があります。
大規模なシミュレーション・ケースの各セクションで測定されたデュア
ル・プロセッサ・ノードのデータと、シングル・プロセッサ・ノードのデータを使
用することで、デュアル・プロセッサの実行時間がシングル・プロセッサの
何倍に相当するか計算することができます。このテストは、Myrinetクラ
スタを使用して実施しました。図4は、この相対的な実行時間をグラフ
にしたものです。値が1.0を超えるものは、SMPの性質として何らかの競
合が起きていることを示しています。たとえば、このシミュレーション内には
「Update viscosity and relperm」や「Update dependent
variables」という名前のセクションがありますが、これらは大量の演算と
データ操作が発生するセクションのため、共有メモリ・アーキテクチャの弱
点をまともに受けてしまいます。
「Total linear solver time」を除くすべてのセクションで、プロセッサ数
の増加と共にデータが小さくなっていくのがわかります。これは、より多くの
プロセッサを使用することで、メモリの競合が減少することを示していま
す。その理由は、プロセッサ数が増えるにつれ、プロセッサあたりの扱うデ
ータ量が減り、データの取得時に発生し得る競合の可能性が低くなる
からです。これとは逆に、プロセス間通信が増えると、NIC上でネットワー
ク競合が発生します。図4が示すとおり、通信が集中的に発生する
「Total linear solver time」のようなセクションでは、値が顕著に大きく
なっており、1.2倍を超えてしまっています。その後も、プロセッサ数の増
加に伴ない、この値が増えていきます。
図5と6は、性能のスピードアップを折れ線グラフにしたものです。この
テストでは、デュアル・プロセッサ・ノードを使用し、各インターコネクトを対
象に小規模および大規模なシミュレーション・ケースを実行しました。シ
ングル・プロセッサ構成の性能は(図2と3を参照)、全体的にデュアル・
プロセッサ構成を凌いでおり、その差は2%から最大27%にもなります。
両方のMyrinetテストでわかるとおり、たとえ合計のキャッシュ容量とメモ
リ容量が増えても、この利点はメモリ競合とネットワーク競合の発生で
相殺されてしまいます。このような性能低下が発生する理由は、2基の
プロセッサに対する通信トラフィックが1枚のNICを経由しなければならな
相対的な実行時間
Ethernetクラスタの構成は、16基
のプロセッサを稼動させたときです。
このインターコネクトは、プロセッサ
数が16基を超えてしまうと、それに
合わせて処理能力を伸ばすことが
できません。
プロセッサ数
図4. Myrinetクラスタで、大規模なシミュレーション・ケース(77×256×10)のセ
クションごとに実行時間を測定した後、シングル・プロセッサ・ノードの測定値を1
として、デュアル・プロセッサの相対的な実行時間を計算したグラフ
2003 年 11 月
性能のスピードアップ
性能のスピードアップ
HIGH-PERFORMANCE COMPUTING
プロセッサ数
プロセッサ数
図5. デュアル・プロセッサ・ノード上で小規模なケース(16x224x8)をテストした
ときの、シミュレータのスピードアップ
いからです。Myrinetクラスタ
の場合、性能は小規模なケ
ースで18%、大規模なケース
で27%低下しています。
SMPをコンピュート・ノードとし
て使用する場合、最も影響
を受けにくいのがGigabit
Ethernetクラスタでした。性
能の低下は、小規模なケー
スで9%、大規模なケースで
2%に抑えられています。実
際、Gigabit Ethernetクラス
タは、64基のプロセッサを使
用したとき、49.8というスピー
ドアップ値を達成しており、
Myrinetクラスタを若干凌ぐ
結果となりました。Fast
Ethernetクラスタの場合、小
は、全シミュレーションで最高性能を達成しました。
油層シミュレーションの場合、
インターコネクトが
及ぼす影響は、
•
プロセッサあたりの演算件数が比較的少なくなる小規模なシミュ
レーション・ケースでは、レイテンシの低いインターコネクトが、スケー
ラビリティの向上に貢献します。
•
問題のサイズが大きくなるに従い、広いバンド幅を提供するインタ
ーコネクトの方が、レイテンシを抑えたインターコネクトより、一貫し
たスケーラビリティを保つのに有効となります。
•
キャッシュとメモリの合計容量が大きければ、演算性能が向上し
ます。
•
SMPクラスタの場合、I/Oリソースの競合が発生して、通信のオー
バーヘッドにさらなる負荷をかけることがあります。
•
SMPノードで発生し得るメモリ競合が、全体の性能に悪影響を
与えることもあります。デュアル・プロセッサ・ノードは、シングル・プロ
セッサ・ノードと比べて2%から27%の性能低下が見られました。
•
MyrinetとGigabit Ethernetクラスタは、32台のデュアル・プロセッ
サ・ノード(64プロセッサ)の使用時において、ほぼ匹敵する性能を
発揮しています。
状況によってその都度
変わることがわかります。
たとえばシミュレーションの
規模が大きければ、
Fast Ethernetでも
有効なソリューションとして
採用できる場合があります。
規模なケースでも大規模なケースでも、SMPの影響を同じように受け
ており、13%の性能低下が見られます。
標準ベースのクラスタで最適なスケーラビリティを
引き出す構成
Fast Ethernet、Gigabit Ethernet、Myrinetクラスタを対象に実施し
た小規模および大規模なシミュレーション・ケースから、シミュレータのス
ケーラビリティについて、次のような結論が導き出せました。また、シング
ル・プロセッサ・ノードとデュアル・プロセッサ・ノードのクラスタ性能を比較し
た結果、明らかになった点も加えています。
•
図6. デュアル・プロセッサ・ノード上で大規模なケース(77x256x10)をテストし
たときの、シミュレータのスピードアップ
システム管理者は、今回やその他同様の調査結果を参考にすること
で、インフラストラクチャの選択に適切な判断を下すことができます。シス
テム管理者が実際に使用する演算問題セットに応じて、最適なネット
ワーク・インターコネクトとノードあたりのプロセッサ数が決定できれば、
Dell PowerEdgeサーバとLinuxで構築するクラスタのスケーラビリティを
向上することができます。その結果、安価な標準ベースのHPCクラスタ
を、独自仕様のスーパーコンピュータ、メインフレーム、ワークステーション
に代わる経済的なシステムとして、様々な演算処理に活用することが
できます。
レイテンシが低く、広いバンド幅を誇るMyrinetインターコネクト
www.dell.com/powersolutions
Power Solutions 5
HIGH-PERFORMANCE COMPUTING
謝辞
本報告書の執筆に際しては、合衆国エネルギー省に一部ご協力をい
ただき、また、Dell Inc.とテキサス大学オースチン校附属石油地質シス
テム工学研究所の油層シミュレーション向け業界共同研究プロジェクト
からご支援を承りました。厚く御礼申し上げます。
参考文献
1997年Birkhauser Boston社刊、『Modern Software Tools for
Scientific Computing』(E. Arge、A.M. Bruaset、H.P.
Langtangen監修)の163∼202ページ、「Efficient management of
parallelism in object-oriented numerical software libraries」(S.
Balay、W.D. Gropp、L.C. McInnes、B.F. Smith著)
1987年2月にテキサス州サンアントニオで開催されたシンポジウム、第9
回「SPE Symposium on Reservoir Simulation」での発表資料、
『Fifth comparative simulation project: Evaluation of miscible
flood simulators.(文書番号:SPE 16000)』(J.E. Killough、C.A.
Kossack著)
2002年7月にフロリダ州オーランドで開催されたカンファレンス、「World
Multi-Conference on Systemics, Cybernetics, and
Informatics」での発表資料、『Parallel Reservoir Simulation on
High Performance Clusters』(T. Uetani、B. Guler、K.
Sepehrnoori著)
1997年6月にテキサス州サンアントニオで開催されたシンポジウム
「1997 SPE Reservoir Simulation Symposium」での発表資料、
『A new generation EOS compositional reservoir simulation:
Part I. Formulation and discretization(文書番号:SPE 37979)』
(P. Wang、I. Yotov、M. Wheeler、T. Arbogast、C. Dawson、M.
Parashar、K. Sepehrnoori著)
1999年2月にテキサス州ヒューストンで開催されたシンポジウム「1999
SPE Reservoir Simulation Symposium」での発表資料、『A fully
implicit parallel EOS compositional simulator for large-scale
reservoir simulation(文書番号:SPE 51885)』(P. Wang、S.
Balay、K. Sepehrnoori、J. Wheeler、J. Abate、B. Smith、G.A.
Pope著)
Kamy Sepehrnoori, Ph.D.は、テキサス大学オースチン校石油地
質システム工学科に所属するバンク・オブ・アメリカ・センチネル・プロフェ
ッサーです。研究分野は、演算法、油層シミュレーション、パラレル・コン
ピューティング、応用数学、採油増進法モデリングなどです。テキサス大
学オースチン校で機械工学の学士号、航空宇宙工学の修士号、そし
て、油層工学の博士号を取得しています。
6
Power Solutions
Baris Gulerは、デルのスケーラブル・システム・グループに所属するシス
テム・エンジニア&アドバイザです。現在の調査対象は、パラレル・プロセ
ッシング、ディスクレスHPCクラスタ、性能ベンチマーク、油層エンジニアリ
ングおよびシミュレーション、数値解析法です。トルコの中東工科大学
で石油天然ガス資源工学(PNGE)の学士号を取得した後、ペンシル
バニア州立大学でPNGEの修士号を取得しています。現在、テキサス
大学オースチン校で、石油地質システム工学の博士号取得を目指し
ています。
Tau Leng, Ph.D.は、デルのスケーラブル・システム・グループに所属す
るエンジニアリング・マネージャで、現在担当している研究分野は、パラ
レル・プロセッシング、分散型コンピューティング・システム、コンパイラの最
適化、性能ベンチマークです。台湾のフ・ジェン・カトリック大学数学科で
学士号を取得した後、ユタ州立大学でコンピュータ科学の修士号を取
得し、ヒューストン大学ではコンピュータ科学の博士号を取得していま
す。
Victor Mashayekhi,Ph.D.は、デルのスケーラブル・システム・グルー
プに所属するシニア・テクニカル・マネージャです。デルの製品開発に責
任を負っており、これには、デルが提供するすべてのクラスタ製品も含ま
れます。現在の研究分野は、分散システム、データベース管理システ
ム、コンピュータ支援の共同作業、並列ソフトウェア・エンジニアリング、マ
ルチメディア・システム、クラスタリング、インターコネクト技術です。ミネソ
タ大学でコンピュータ科学の学士号、修士号、博士号を取得していま
す。
Reza Rooholamini, Ph.D. は、デルのエンタープライズ・ソリューショ
ン・エンジニアリング・ディレクタで、Linuxとクラスタ製品の開発に従事し
ています。イリノイ大学アラバマ校で電気工学の学士号、ウィスコンシン
大学で電気工学とコンピュータ科学の修士号、ミネソタ大学でコンピュ
ータ科学/工学の博士号を取得しています。分散システム、マルチメディ
ア・システム、HPCコンピューティング、ストレージ・システム、高可用性ク
ラスタリング、インターコネクトなどの多彩な研究分野で30件を超す論
文を発表しています。
詳細情報の入手先
テキサス州オースチン校附属石油地質システム工学研究所:
Myricom Myrinet製品:
Dell HPCC製品:
2003 年 11 月