見る/開く

第 三 部
ヤキモキする展開、
リストラ男の成長* LIFE!
“The Secret Life of Walter Mitty”
ジェイムズ・サーバー(James Thurber)の原作短篇を現代風に改め
たオリジナルストーリー映画。妄想癖の男が成り行きで出かけた旅
の途上でいつしか本当の冒険家に成長していく・・・。
美しい風景、広大な大自然。運の悪い男の悪戦苦闘。
見つけたものは・・・。
79
「LIFE !」人生を変える旅への誘い
村井 彩華
ここまで吸い寄せられるように見入った映画はあっただろうか。涙を流すほど感動したわけでも、
スリリングであったわけでもない。映画を見ながら自分の心が澄み渡り、心地よい風が一気に吹き
抜けていくような感覚。この映画を見た人は誰でも未だに味わったことのないような 爽快感 を覚え
るだろう。それはこの映画で映し出される雄大な自然とその壮大な光景にも引けを取らない音楽の融
合、そして後半に向かうにつれミティに寄り添うように動くカメラワーク。そのすべてがストーリー
を盛り上げてくれているからだ。
淡色で無味無臭な世界を生きる平凡な会社員、ウォルターミティは「こうであればな」と時々空
想をする。その極度ともいえる空想は「ヒーローものや冒険家」など自分の今の生活では考えられ
ない、全くかけ離れたものだった。また彼の扱う仕事といえば、その時代を生きた人たちを載せる
『LIFE』誌のネガ管理。真面目に仕事をしてきた彼であったが、『LIFE』誌の最終号の表紙に使う
25 番ネガを失くしたことで、その写真を撮ったショーンを探す旅が始まる。これまでネガを通して
偉人たちを眺めるだけだった彼は、この旅で多くの人々そして場所と出会い、さまざまな経験をす
る。それまで彼が思い描いていた「ネガを失くして見つからないまま『LIFE』社を後にする」とい
う青写真は塗り替えられ、ショーンと出会い最終号の表紙を飾るという大仕事をやってのけた。その
ストーリーの中でわたしは印象に残っているセリフそしてシーンがある。セリフでは、彼がショー
ンとヒマラヤで出会いショーンがユキヒョウを見て放った言葉である。“If I like a moment, I don’t
like to have the distraction of the camera. Just want to stay in it” これまでさまざまなシーンを
見て写真に収めてきたショーンが、「その瞬間はじっとして自分の目で確かに見たい」と言った言葉
だが、わたしはこれをこの映画からの一つのメッセージとして受け取った。自分で見たものこそ真実
で、自分の足を使って自分の目で見よう。この映画の主人公ミティも膨大なネガは扱ってきたもの
の、本当に彼を変えたのは自分の足を使って、自分の壁を打ち破り、自分が実際に目にしてきたもの
たちである。『LIFE』誌に載るような、写真として保存される人生を送ってきた人たちには、色濃い
世界を体感してきたという過程があり、写真はその鮮やかな色味を帯びた世界を切り取る一コマにす
ぎないということがわかるであろう。旅の後、自分の人生というものは決められたものではなく変え
ることができると悟ったミティは生き生きとしていたし、彼の周りの人もまた変わってくるのではな
いかと感じた。それを表すのがわたしの好きなシーンで、ミティが 25 番ネガを CEO に渡すところ
である。彼がネガを探し出すという信念を貫き、やり遂げた様子を見て CEO も胸を打たれたはずで
ある。からかっていた過去のミティとは違い、今目の前にいる彼から何かを学んだ、そのようなシー
ンだった。
「失敗して悩んだり、落胆しているときこそ自分を変える旅へのひとつのきっかけだ」そ
うわたしたちに語りかけてくれるし、背中を押してくれる。自分をミティに投影して、これからの人
生は、自分の手で変えてやる、そんな気持ちに心を新たにしてくれる映画だった。
81
“The Secret Life of Walter Mitty”を観て
~ウォルター・ミティが教えてくれたこと~
小池 紋乃
今回初めて“The Secret Life of Walter Mitty”を観て、ウォルター・ミティの心の美しさ、そし
てその美しい心をもったウォルター・ミティの目から見る、世界の海、山、空、すべてのものの美し
さに心を打たれた。この映画を見た後では、今までだったら見向きもしないような雲の形に目を向け
る、気にもしないような風の音に耳を傾ける、空気の味を楽しむ、といった五感を通して日常に対す
る考え方、さらに考え方に大きな影響をうけたと言っても過言ではない。
ウォルター・ミティは今まで、変な空想癖を持っている、特に誇りをもって語れる経験もない、冴
えないただの会社員であった。しかし、最後の雑誌の表紙に指定された 25 番ネガが抜け落ちている
ことに気づき、本当に少ない手がかりをもとに、国を越えて旅にでることとなった。こんなにも難易
度が高く命も懸けながら進んでいかなければならない旅は他にあるであろうか。ウォルター・ミティ
がそのような旅を全うすることができたのは、ネガ一枚一枚に懸ける情熱と、シェリル・メルホフに
良い印象を与えたいという思いからであろう。旅の途中には、ウォルター・ミティが、つい臆してし
まうような壮絶な任務もあった。しかし、一度は諦めかけながらも自前の空想癖によって自分を鼓舞
させてそのような事態も乗り越えることができた。
ウォルター・ミティが私に教えてくれたのは、一歩踏み出す勇気である。まず、カメラマン、
ショーンを探しにグリーンランドに旅立つとき、アイスランドまで行って酒に酔った男が運転する
ヘリコプターに乗るとき、職も財産も失ってしまった状態から再びショーンに会いに行くときなど、
ウォルター・ミティにも躊躇すること、恐怖を感じることがたくさんあった。それでもウォルター・
ミティはさまざまな要因に後押しされ、「頑張ってみる」と決断し、見事やり遂げることができたの
だ。一歩踏み出した先にある景色は本当に美しく、それが次のステップへの勇気になるということ
を、身をもって教えてくれた。
全体のストーリーをみても、一つ一つのシーンをみても、すべてが美しく、観終わったときにすが
すがしく、心が洗われたと感じることができる。私個人の意見としては、ウォルター・ミティと同じ
ように、今すぐにでも、自分の世界を広げるために旅に出たいと思わせられる作品であった。そし
て、ただ世界の美しさだけでなく、仕事に情熱を傾けること、家族を大切にすることの素晴らしさ、
諦めなければいい結果が待っているかもしれないということ、その他にも、生きていくうえで糧にな
ることをウォルター・ミティがたくさん教えてくれた。生きることは素晴らしい。
82
「LIFE!」キッカケは待つものじゃなくて生み出すもの。
西川 翔悟
主人公 ウォルター・ミティが踏み出した一歩
ウォルターは地味で真面目な LIFE 社の写真管理部の社員。極度の空想癖があり、この空想のシー
ンとしてアメリカンヒーローになったようなシーンが多いことから彼はヒーローになりたい、何か一
歩を踏み出したい欲を強く持っていると考えられます。そしてこの映画の中では、これまで平凡な日
常を送っていたであろうそんな彼に様々な出来事が起こります。まず一つ目はマッチングサイトで見
た女性シェリルに惹かれたこと。ここでは相手に好意を抱いているサインを表す「ウインク」を送ろ
うとするが何かエラーが起こり送れないのです。今までならここで諦めていたでしょうが、ここで彼
が踏み出した「一歩」はサイトの運営スタッフに相談すること。しかしスタッフには、体験談の部分
が空欄になっていると指摘され、自分には取り上げるほどのものが無いことに気付きます。そしてそ
こで二つ目、ライフ誌のネット移行に伴う休刊が知らされます。そして最終号の表紙に使って欲しい
と写真家ショーンが送ってきたネガの 25 番が見つからないこと。今までならば正直に上司にネガが
無いことを報告し別の写真で代用していたでしょうが、体験談の無さも彼を後押ししたのか、ウォル
ターはショーンを探しに行くことを決意します。この映画の中での彼の姿勢は、私たちに「一歩」踏
み出す勇気を持ち決断を下すことの素晴らしさを教えてくれます。
個性的な人々、大自然など映画を引き立てる様々な要素
グリーンランドなどの大自然のシーンでは、その雄大な自然のなかで今までのモヤモヤからウォル
ターが吹っ切れた様子が感じ取れます。ここが一つの転換点となっているといえるでしょう。こう
いった 冒険的要素 に加え、ネガの 25 番の所在を観客に想像させるような 推理的要素 、シェリルと
知り合って惹かれていく 恋愛要素 。そしてなんといっても各シーンで現れる 個性的な登場人物 。み
んなそれぞれが自分の人生を楽しんでまっとうに生きているように映り非常に魅力的です。そしてつ
まらない人生だと思っていたであろうウォルターも、彼らに感化され、旅を通して成長し、最終的に
は見つかったネガの 25 番から自分のしてきたことを評価してくれている人が周りにいることに気付
き、自分に自信を持つようになり、次の仕事への「一歩」が非常に力強く思えます。旅によって人生
が劇的に変わることなんてそうそうないと思いますが、この映画では冒険旅行を経た主人公のその後
の人生を示唆するラストシーンも、このくらいに留めたほうが観客に「俺の生活や人生も変えられる
のでは」と思わせてくれます。僕自身、この映画はオーストラリア留学する前に見た映画でもありす
ごく挑戦する勇気をもらいました。何か人生が物足りないなどと感じている人に是非見てもらいたい
作品です。
83
「LIFE!」~タイトルに秘められた映画の魅力に迫る~
小林 秀美
この映画の魅力は様々なシーンに散りばめられているが、私がもっとも惹かれたシーンを中心にこ
の映画の魅力に迫りたい。まず初めに全体を通して感じるのが 歌 と作品の一体感である。大自然が
映し出されるシーンでは壮大な音楽によって私たちをこの映画に惹きこんでいく。映画を観ていると
視覚効果によってだけではなく荘厳さや 自然 の偉大さを、時には無音で聴覚からも表現しているの
だ。Walter がとうとう Sean を見つけ、二人で Sean が追い求めていたユキヒョウを見つめるシーン
はとても印象的だ。音のない映像の中でただ一匹のユキヒョウが美しい毛を揺らしながらこちらを見
つめ、通り過ぎていく姿は息をのむ美しさであった。そこで Sean はあれほど追い求めていたにもか
かわらずシャッタ ーを切らなかったのだ。私にはそれがもったいないと感じられたが、Sean の「本
当に美しいものはレンズを通してではなく自分の目で見つめることによって記憶に残る」という言葉
が胸に響く。
そしてこの作品は始まりの部分からは想像のつかない アクション が盛り込まれ、観ている私たち
を飽きさせない展開が続く。この作品で私が着目したのは Walter の最初と最後のシーンを比較し
ての変化である。顔つきや姿勢の変化、人に対して積極的になった姿は、Ben Stiller 演じる Walter
Mitty という人間をより魅力的に感じさせた。Cheryl に対する純粋で一途な想い、家族思いで時に
は自分を犠牲にしてまで家族の幸せを願う彼の姿は、平凡さを感じさせつつも心惹かれた。LIFE 誌
最終刊の表紙の 25 番ネガは自分であったこと、そこに書かれていた感動的な見出しの言葉が思わず
涙を誘う。すべてがハッピーエンドというわけではないのがある意味リアルでこの映画の魅力だと感
じさせる。
この映画のタイトルは、原題は「The Secret Life of Walter Mitty」であるが日本では「LIFE!」
と称されている。タイトルからわかるとおり、Walter の Life(人生・生き方)を描いているが、私
はこの「LIFE!」に強いメッセージ性を感じる。妄想の中ではいつも Walter はヒーローとして愛す
る人を守り、悪者を倒す自分を創り上げていた。それは自分の仕事にやりがいを感じつつもどこか自
分の人生に満足できていなかった現実の自分にギ ャップを感じ、おそらく苦しんでいたからだと思
う。しかしこれはこの映画の主人公に限 ったことなのだろうか。それは私たちの多くが抱える気持
ちなのではないだろうか。失敗を恐れて前に踏み出せないもどかしさ、安定を求めて冒険できない現
状、常に先のことばかり考えて積もるばかりの不安、それらはきっと私たちの誰もが持っているので
はないだろうか。この映画が多くの人の共感を得たのは誰もが心の奥底でこの想いを抱えているから
なのではないかと思う。2013 年に公開されたこの作品は現代人の抱える問題を浮き彫りにしていた
ように感じる。Walter という一人の人間を映し出したこの映画は私たちに感動を与えてくれるだけ
でなく、生きることの難しさを伝えたうえで諦めない強さや踏み出す勇気、乗り越える力を持つこと
の素晴らしさを私たちの胸にまっすぐに届けてくれるのだ。
84
あなたの LIFE !
ちかこ
三宅 周子
毎日同じ生活を繰り返し、特に仕事で大きな成功・失敗をしたこともない、これといって取り柄も
なく自分に自信がない、そしてぼんやり空想する癖を持つ、そんな主人公ウォルターは自身が勤める
『LIFE』誌の最後の表紙をかざる行方不明の 25 番ネガを探すべく旅に出ます。私が一番印象に残っ
たのは写真の中のショーン(写真家、25 番ネガを持っていると思われる)がウォルターに手招きし
た場面です。この場面はウォルターが冒険することを決意したまさに象徴的な場面です。私が一番惹
かれたのはこの場面ですが、映画全体を通してウォルターが変化していく様子に共感し、勇気をもら
うことができました。
私は映画を見ているうちにいつの間にかウォルターと自分とを重ねて見ていました。それは私が今
まで生きてきた 20 年間を振り返った時、可もなく不可もなく適当に生きてきたからだと思います。
あと2年後には就職という大きな転機を迎えようとし、自分は何になりたいのか、今何をすべきかが
分からず不安であるからというのもあると思います。映画の中では何度か“何かをやり遂げたことは
あるか”というフレーズがでてきます。私だけでなく多くの人が“何かをやり遂げたい”という願望
を持ちながらも実現できず、結局平凡な毎日を送っているのではないかと思います。
そして今までの自分を振り切り、ショーンを追いかける旅に出たあとのウォルターにも波乱万丈な
出来事が待ち受けます。様々な国をまたげどもショーンは見つからず、挙句の果てにやっとのことで
出会えたショーンからは「25 番ネガはウォルターが捨ててしまった財布の中にある」と言われてし
まいます。ショックを受けるウォルターですがその表情はすがすがしくも見えました。「旅に出る」
と決意したこと、普段の生活では経験できないことだらけの旅先での出来事を通して自分の可能性を
追求し広げることができ、全体を通してウォルターの心が「やってみよう」という方向に傾いたのが
表情の変化に現われたのだと思います。
ぼんやり空想の中でありもしないことを考える癖を持つウォルターが成長できたのは、旅先でかつ
てなら空想していたにすぎないような出来事を実際に体験することによって、空想の中の自分を抜け
出し、知らない自分に出会い、自分でもできるのだという自信がついたからです。そして自身の価値
観・考え方を変え、自分が変わることが出来ました。私は、「本当にやりたいことやなりたいものは
じっと待っているだけでは得られるものではない」と気づかされました。決意し行動に移し進み始め
ても、その過程は厳しいものであるかもしれません。しかし紆余曲折を経るからこそ、本物の経験
をしたり、新しい自分に出会えたりするものだと考えさせられました。また、この映画の中でずっと
ウォルターが憧れている女性、シェリルもウォルターに影響を与える重要な人物です。しばしばウォ
ルターの空想の中に登場し、時にはウォルターが諦めかけた時、迷う彼の背中を押して、冒険の後押
しをします。このシェリルという女性と、結局 25 番ネガは捨ててしまった財布の中にあるというこ
とから、大事なものは意外にも見えていない近くのものに潜んでいるのではないかと思いました。そ
して、すべてのきっかけである 25 番ネガはいつも通りに出勤していた会社での出来事であり、人生
を変えるきっかけはもしかしたら自分の普段の生活の中に転がっている、些細なものなのかもしれな
いと思います。この映画を見たことのない人にも是非一度ご覧になって自分の人生を振り返り、これ
からの本当の人生・生き方と本物の経験について考えてほしいと思います。
85
「LIFE!」――空想の旅、現実の冒険
西山 真由
映画「LIFE!」の主役ウォルター・ミティは、激しい妄想癖はあれど、真面目で平凡で恋愛にも奥
手な、雑誌編集部に務める会社員であった。しかし彼は、雑誌の最終刊で表紙に使うはずのフィルム
が見つからなかったことをきっかけとして、その写真を撮ったカメラマンであるショーンの足跡を辿
り、ニューヨークを飛び出してグリーンランド、アイスランド、アフガニスタン、ついにはヒマラヤ
まで行くことになる。
私がこの映画を見て最も心惹かれたシーンは、ウォルターがアイスランドの火山をスケボーで駆け
抜けるところだった。なぜこのシーンかというと、理由のひとつは雄大な自然と、それを魅力的に映
し出すカメラワークである。しかしこれが全てではない。私が惹きつけられた大きな理由は、美しい
風景の中で過酷な旅をするウォルターがとても楽しそうで、輝いて見えたことである。ニューヨーク
のオフィス街で凡庸な暮らしをしていた男性が、滅多に体験できないような冒険を繰り広げているこ
とに、心が躍ったからである。
映画の前半、ウォルターは様々な空想に耽ってばかりいた。例えば、炎上するビルから颯爽と子犬
を助け出したり、上司との取っ組み合いの末窓を割ってビルから落下し、そのまま車が行き交う道路
で闘いを繰り広げたり、などだ。しかし、実際に旅に出た後は、空想はほとんど登場しなくなる。こ
れは何故なのかと考えてみたところ、ウォルターの現実の冒険は、それまで空想していたものよりも
ずっと激しく、非現実的であったからではないか、と思い至った。夢のような出来事に身を投じてい
るのだから、わざわざ空想に耽る必要がない、ということではないだろうか。
私も現在、映画冒頭のウォルターのように、平凡な人生を送っている。毎日の生活は授業・サーク
ル活動・アルバイトで完結し、そのことに明確な不満はないが変わり映えもしない。さらに、もしか
すると大学を卒業して社会人になっても同様の生活になってしまうのではないか、という恐れがあ
る。そして、このような生活が変わればいいのに、とも思っている。
しかしながら、変化を求めるのなら自ら行動しなければならない、周囲から与えられた変化では意
味がない、と「LIFE!」を見て気が付いた。この映画の予告編の最後は、「この映画の主人公は、あ
なたです」という言葉で締め括られる。誰もが自分の人生の主役であり、自分の意志次第でいくらで
も、その脚本を変えることが出来る。私もウォルターのように、空想の中でばかり旅に出るのではな
く、現実でも様々な冒険を繰り広げられるよう、勇気を出して新たな一歩を踏み出せる人間になりた
いと思う。
86
映画「LIFE!」を観て
~『LIFE』誌のスローガンから学ぶ人生観~
奥山 真帆
私は、
『LIFE』誌のスローガン(「世界を見よう、危険でも立ち向かおう、壁の裏側を覗こう、もっ
と近づこう、もっとお互いを知ろう、そして感じよう、それが人生の目的だから」)こそ人生の在り
方であり、それを Mitty の人生、つまり作品全体を通して、私たちに教えてくれていると感じまし
た。
Mitty の大きな特徴が空想癖です。空想癖は心理学的観点から見ると、心を安定させる為の防衛機
能であるということがあります。この空想癖の表れる頻度が Mitty の変化を象徴する 1 つであると
考えました。グリーンランドやアイスランドなど世界へ出ていくようになると、空想の世界へワープ
してしまうことは次第になくなっていきます。また、Mitty は世界に出ただけでなく、そこで多くの
困難を乗り越えてきました。まさに「危険でも立ち向かおう」のスローガンの通りです。つまり、未
知の世界へ飛び込んだことと、危険に立ち向かう時の決断力や、そこからアクションを起こす力が自
分自身を解放するきっかけとなり、空想癖が消えていったのではないかと思います。そして空想癖が
なくなったということは、Mitty がありのままの心で生きていけるようになった証ではないかと思い
ますし、それは「世界を見」て、「危険でも立ち向か」ったことが引き起こしたものだと言えると思
います。
また 演出 にも気になるところがありました。それは、Mitty がグリーンランドへ向かうシーン
で、飛行機の中や空港など、景色の一部に『LIFE』誌のスローガンが組み込まれているところです。
Mitty がネガ騒動の中、初めて自身で行動を起こして外の世界へ向かう、映画の中でも大きなポイン
トとなるシーンです。そんなシーンでセリフもなく、ただスローガンだけを組み込み、そこに視聴者
の注意をひくというのは、この『LIFE』誌のスローガンこそがこの映画で一番強調したいことなの
ではないかと思います。
これらのことから、この映画の伝えたいことは『LIFE』誌のスローガンに詰まっていると考えま
す。学生である私にとって、新しい世界は社会です。その中で失敗を重ねてステップアップしていく
ことが、危険に立ち向かうことに匹敵すると思います。社会に出て、未知の世界に近づき、未知の人
や考えに触れ、そして感じ、自分が進化していけることを考えるとわくわくします。そんな将来への
期待と希望を与えてくれたこの映画は、まさに LIFE =人生について考えさせてくれる映画でした。
87
一歩踏み出す時
平川 佳美
人が、普段とは違う何かをしようとした時、少なからず不安を抱き、自分に自信が持てずにぐずぐ
ず踏みとどまってしまうことが多いだろう。今後のリスクを考え、しんどそうだから … 今のまま平
和でいたいから・・・など言い訳をして、今より素敵なことに巡り合える可能性をつぶしてしまって
いる。私もそのうちの一人だし、さらに言えば人一倍ぐずぐずしてしまうタイプの人間である。そん
な私に喝を入れるだけでなく、挑戦することは人生にスパイスを効かせてくれて、一生の宝物になる
ということを改めて気づかせてくれた作品である。
そんな私が心打たれたシーンは、ウォルター・ミティがすべてを振り切り、後ろを振り返らずに、
前に進んでいくシーンである。ただ単なる成長のシーンではなく、あらゆる効果を使って、メリハリ
の効いたシーンになっている。
まずはウォルターの表情である。いつもは冴えなくて眠たそうな表情をしているが、ここ一番とい
う時は目がギラギラして、心なしか男前に見えた。何かに夢中になっている人はキラキラしてかっこ
いいというのは、このことかと納得するくらいに表情がよかった。
そして、ウォルターが飛行機に乗って旅立つときの背景についてである。LIFE 誌のスローガン
である、「To see the world, Things dangerous to come to, To see behind walls, To draw closer, To
find each other and To feel. That is the purpose of life.」が少しずつ、ウォルターの背景に出てくる。
これはウォルターに変化が訪れ、今まさに一歩踏み出そうという時に、ウォルターの背中を強く押し
てくれる存在である。きっとウォルターも不安だらけで、本当にこの行動が正解なのか未だに自信が
持てずにいるのだろうが、それを振り切る勇気をくれる標語だと思った。見ている私もドキドキハラ
ハラしていたのだが、スローガンを見た瞬間に、視界が開けて、前に進むことが楽しみになる感覚に
なった。実際の私の経験で言うと、知らない道を歩く時や新しいことに挑戦する時には、最初は不安
を感じるのだが、次の瞬間には吹っ切れて、その状態を楽しんでいるということが多いような気がす
る。ウォルターもそうだったが、旅の途中から笑顔が多くなり、このたびを楽しんでやるぞという気
持ちが全面的に表れていた。その表情には、他の事など一切気にせず、自分の人生を楽しんでいると
いう自信があり、見ている側にはっきりと伝わってきた。そして私も自然と笑顔になり、ウォルター
同様イキイキとした表情をしていたに違いない。
そして大事な要素がもうひとつ。音楽である。ウォルターが踏み出す時に、今にも走り出したくな
るような、わくわくした音楽がかかる。それ!行ってこい!と言わんばかりの軽快で、アップテンポ
な音楽に魅了されない人はいないだろう。そして見ている側も、頑張れ!と応援する気持ちにさせて
くれる。
映画を観終わった後に、自分が経験したことではないのに、あたかも自分の経験であったような錯
覚になった。自分の生活を見直そうと思ったし、もっとアクティブに毎日を過ごしていこうと思っ
た。
89
自由の扉を開いて
―『塔の上のラプンツェル』を見て―
としえ
田中 利枝
「自由」これは『塔の上のラプンツェル』にとって一番大きなキーワードであると思う。ラプン
ツェルは 18 年間偽の母親に騙されてずっと塔の上で暮らしてきた。年に一度、自分の誕生日にだけ
空に浮かぶたくさんの光をこの目で見たいラプンツェルは、たまたま塔を発見してしまったユージー
ンと出会った。そしてラプンツェルは乗り気でないユージーンに取引を持ち掛けその光を見に行くた
め 18 年間一度も出たことのない外の世界に出ていくことを決めた。
これがラプンツェルとユージーンの出会いである。お互いに取引の相手としか思っていなかった
が、物語が進むにつれお互いの存在を認めていき最後には恋に発展するというよくディズニー映画に
ある展開である。しかしその中でとびきり美しく、素敵なシーンがある。ラプンツェルがずっと自分
の目で見たいと思っていたもの。光の正体である。ラプンツェルは一国のプリンセスであり、王、王
妃また国中の人々がラプンツェルを想い、誕生日にたくさんのランタンを飛ばしていたのだ。ラプン
ツェルはユージーンの先導の下、船に乗ってランタンを見つめる。今まで塔の中という閉ざされた空
間でしか見たことのなかった光。実際に目の前で灯されているランタンを目にしたラプンツェルは感
極まる。それを見ているユージーンは用意していたランタンを二人で飛ばす。二人はこの時にはお互
いを想いあっていたがラプンツェルはユージーンが取引が済んだら離れてしまうのではないかと思い
伝えられずにいた。この時のランタンの映像がとても美しい。今までは遠くから見ていたので小さく
描写されていたのだが、夜空いっぱいに広がるランタン、またそれを移す水面。辺り一面がランタン
に灯され、夢にまでみた景色を実際に目にしたラプンツェルの気持ちをこれでもかといわんばかり
にランタンが美しさで後押しする。この時、まさにラプンツェルは何事にもとらわれない、まさし
く「自由」であった。このシーンは私の中でも『塔の上のラプンツェル』の中で最も印象に残ってい
るシーンの一つである。私の中でこのシーンと、『美女と野獣』のビーストがベルに大量の本をプレ
ゼントするシーンが、ディズニー映画で気持ちが高まったシーンとして印象に残っている。実際に自
分がその場にいることを想像してみるとそれだけで涙が出そうである。まして一緒にみている人が自
分の大事な人というこれほどまで素晴らしいシチュエーションが他にあるだろうか。そのあとに偽の
母親と一悶着あり、ユージーンは一時死の危機に瀕するが、ラプンツェルの力で一命を取り留めた。
悪役の偽母も倒すことができて、その後本当の家族と再会し、ラプンツェルは本当の「自由」を手に
して物語はハッピーエンドで終わることができた。こういったストーリーは最後のシーンなどが印象
に残りがちではあると思うが、その概念を覆すほど、ランタンのシーンは魅力的で見る者の感動を誘
う。私が『塔の上のラプンツェル』を好きな理由の一つはここにある。
90